Scribed a bullet hole   作:byとろ

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Normal day?

現在、一夏と弾は寮内の廊下を歩いていた。IS学園は全寮制なので、これから三年間、ここで生活していくことになる。

一夏はⅠ025室。弾はその隣だ。

寮は一部屋二人なのだが、なぜか一夏と弾はわけられている。元々、一夏と弾は一週間ほど自宅から通う手筈だったが、事情も事情なので急遽部屋を割り振った為、変な部屋割になったらしい。真耶がそう言っていた。

その時に一悶着あり、一夏にホモ疑惑がかかったのだが、それは割愛する。

 

「おっ、ここだな」

 

しばらく歩いて、一夏が自分の部屋をみつけた。

弾はその奥なのでここで別れ、一夏はドアに鍵をさす。すると、ドアがもう開いていることに気づいた。

特に気にせず、そのまま部屋に入る。まず目についたのは大きなベッド。ビジネスホテルのものよりも確実に良いものだろう。それが二つ並んでいる。

 

「これはすげぇな。流石国立」

 

ベッドを触りながら呟いた。ざっと見渡しても、質の良いものがいろいろ揃えられている。

 

「誰かいるのか?」

 

ベッドの柔らかさにはしゃいでいると、突然部屋の奥の方から声が聞こえた。声に曇りがあるので、ドアごしだということがわかる。

真耶が、全室にシャワーが付いていると言っていたことを思い出した。

 

「ああ、同室になった者か。これからよろしく頼むぞ」

 

聞き覚えがある、なんてレべルの声じゃない。それは間違いなく、今日再会したばかりの幼馴染みのものだ。

 

「こんな格好ですまないな。シャワーを使っていた。私は篠ノ之――」

「箒」

 

どうやら相手が女子だと思っていたらしく(それはそうだ)、シャワーを使っていたままの、体にバスタオル一枚巻いただけの姿である。白いバスタオルの面積はいろいろな意味でギリギリで、その端から下はみずみずしい太ももが露出していた。健康的な白い肌を、水滴が脚線に沿って滑り落ちる。

 

「…………」

 

一夏の行動は迅速だった。呆然としている箒のもとからすぐさま離脱、背をむける。

弾とつるんでいれば、このぐらいはできないと生き残れない。過酷な中学生活に初めて感謝した。

 

「ひ、ヒャウっ!?」

 

ようやく箒の思考が正常作動したようだ。慌てて体を隠して後ずさったのが音でわかる。

一夏はというと、幼馴染みの(どことは言わないが)成長した姿を見て緊張していた。

箒は意外と着痩せするタイプのようで、本来制服に隠されている綺麗な肢体が、わざとではなくても脳裏に焼き付いて離れない。

 

「な、なぜお前がここにいる?」

「い、いや、俺もこの部屋なんだけど」

 

瞬間、一夏は身の危険を感じて横に跳んだ。

直後、ドスッと鈍い音が部屋を貫ける。恐る恐る振り向くと、一夏の体が在った場所に木刀が振り下ろされていた。

 

「ほ、箒サン?それは一体どこから!?」

「そんなことはどうでもいい!男女七歳にして同衾せず。常識だ!」

 

そのまま箒は一夏の制止の声も聞かずに切っ先をかえす。上段から繰り出される打突を避けて、飛ぶように廊下に出た。

 

「助かった――」

 

鬼神と化した幼馴染みより逃れ、安堵したその瞬間、

ドスンッ!

もたれ掛かっていたドアを貫き、顔面のすぐそばに木刀が出現した。

数秒制止した後、ゆっくりと切っ先が部屋の中に沈んでいき、

ズドンッ!

 

「って、危な!?死ぬ!これ当たったら死ぬッ!」

 

「さっきからうるせぇな。何してんだよ、一夏」

 

 

かったるそうに、弾が隣の部屋から出てきた。小指で耳の中をかいて、ついたカスをふっと吹く。

 

 

「だ、弾。丁度良かった。ちょっと、そっちに匿ってくれ!」

 

「あァ……?」

 

 

懇願する一夏を、弾は黙ったままじっと見つめた。いや、見つめたというより、品定めか状況を読もうとしているようだ。

 

その間に、騒ぎを聞きつけた女子たちがわらわらと集まってくる。

 

 

「……なになに?」

 

「あっ、織斑君と五反田君だ!」

 

「えーっ、あそこって二人の部屋なんだ!いい情報ゲット!」

 

 

きゃいきゃいと騒ぐ女子は全員がラフなルームウェアで、男の目など気にしていない恰好だった。すらりと覗く生足や、大胆に開いた胸元を意識しない男などいないだろう。当然、一夏もそんな奴の一人だ。

 

 

「頼む、弾!早くしてくれ!」

 

「ふぅん……大体理解したぜ。つまりは、お前がヤっちまったってわけだな?」

 

「ヤってねぇよ!?てか、お前わかってんだろ!?」

 

「俺、ちょっと用事思い出したわ。……ガチャガチャと。よし、戸締りオッケー」

 

「わざわざ擬音語を言ってるのがむかつく!てか、え?本当にいっちゃうの?俺は?ねぇ、俺は!?」

 

「さーて、群馬はどっちだったけなぁ?」

 

「お前どこ行く気だぁぁぁ!弾、弾!弾ぁぁぁぁぁぁんんんんんんッ!」

 

 

 

>>1

 

 

 

あれから翌日、一年生寮の食堂で、一夏と箒は同じテーブルについているにもかかわらず会話もなく朝食を口に運んでいた。

 

別に一人でもないのに会話のない朝食は、意外とつらい。

 

昨夜、弾が一夏を見捨てた後、徐々に増えていく人ごみに耐えきれなくなった一夏は箒に懇願して部屋に入ることができた。しかし色々あって口論になり、発展して暴力へ。結局、一夏が木刀を頭に食らうという形でけりがつく。

 

それ自体は思うところがないわけではないが、おおむね一夏の失態なので甘んじて受けた。問題は、さらにその後、というか今現在まで続くガン無視である。

 

 

「なあ……」

 

「…………」

 

「なあって、いつまで怒ってるんだ?」

 

「……怒ってなどいない」

 

「顔が不機嫌そうじゃん」

 

「生まれつきだ」

 

 

といった感じだ。にべもない。

 

ちなみに一夏の朝食は和食セット。ご飯に納豆、鮭の切り身と味噌汁。それと浅漬け。箒も同じ和食セットだ。

 

 

「箒、これうまいな」

 

「…………」

 

 

やはり無視された。

 

昨日からずっとこんなもんだから、気が休まらない。

 

そしてこんなものといえば、女子の視線も変わらない。現に今も、

 

 

「ねえねえ、彼が噂の男子だって」

 

「なんでも千冬様の弟らしいわよ」

 

「なにそれすごい」

 

「もう一人は?」

 

「今はいないみたいね……」

 

 

とこんな感じである。

 

 

「なあ、箒――」

 

「な、名前で呼ぶなっ」

 

「篠ノ之さん」

 

「……」

 

 

言われたとおり、名前で呼ばなかったのに無視された。しかも今度はあからさまに不機嫌顔だ。この苗字はいろいろと因縁があるから仕方ないのかもしれないが。

 

 

「お、織斑君、隣いいかな?」

 

「へ?」

 

 

みれば、朝食のトレーを持った女子三人がいた。一夏の返事をそわそわしながら待っている。

 

特に断る必要もないので承諾すると、三人が三人とも喜んでいた。周囲はそれを見てなぜか悔しがっている。

 

 

「あれ、五反田君は?」

 

「ああ、弾か。あいつは朝弱いんだよ」

 

「え!意外……」

 

 

本当に意外。初めて知ったときは一夏も驚いたものだ。なにせ、無理やり起こされて不機嫌な弾にぶん殴られたのだから。それ以降、一夏は弾の眠りを極力妨げないようにしている。

 

ちなみにそれは朝だけの限定条件だ。朝以外なら大丈夫なのだが、それが不思議で仕方ない。

 

 

「っと、やっときたか」

 

 

弾がゆっくりとした足取りで食堂に入ってきた。ぼさぼさの髪、肩まではだけた『ブルジョワジー』とかかれたT-シャツ。短パンがずり落ちそうになっているあの姿は、五反田弾に違いない。

 

 

「うわぁ、なんかすごい」

 

「同感だ」

 

 

バイキングの料理を根こそぎとってくる弾を見て、皆が息をのんだ。食べる場所を探している最中でこちらに気づいたらしい弾が、のろのろとやってくる。

 

 

「よぉ、おはよう。朝はだらしないな」

 

「……ああ、おはぁ」

 

 

半ばおはようとあくびが一緒になってしまっていた。もさもさとサラダを食べ始めるその口も、微妙に開いている。

 

 

「……織斑、私は先に行く」

 

「ん。またあとでな」

 

 

箒が学食から出ていった。後姿がもうサムライのような感じで、昔からかわっていない。

 

それから三人組とちょっとした会話を楽しんでいると、千冬が来て時間が押していることを告げた。どうやら、千冬は一年寮の寮長もやっているらしい。

 

そのころには弾もようやく覚醒して、朝食をぱっと済ませてしまった。

 

だから食堂を出るとき、一夏は弾だけに聞こえるように言ってやる。

 

 

「弾。今日はばれなかったが、食堂にパンツで来るのはやめろ」

 

「ん?あ、本当だ。これ短パンじゃなくてパンツじゃん」

 

「気づいてなかったんかい!」

 

 

 

>>2

 

 

 

二日目の授業、ついていけません。

 

二時限目が終わった時点でもうグロッキーだった。

 

ISはうんたらかんたら、パートナーとみることでなんとか。意味が分からない。馬の耳に念仏のような状態だ。

 

キーンコーンカーンコーン、という授業の終了を知らせるチャイムがものすごくうれしかった。

 

 

「あっ。えっと、次の時間では空中におけるIS基本制動をやりますからね」

 

 

真耶がそれだけ言って授業が終わる。真耶と千冬が教室から出て行ったのを見計らって、女子たちが押し寄せてきた。

 

 

「はいはいはい!質問質問!」

 

「お昼ヒマ?放課後ヒマ?夜ヒマ?」

 

「いや、一度に訊かれても――」

 

 

矢継ぎ早に飛んでくる質問に四苦八苦していると、こちらをにらんでくる視線に気が付いた。箒だ。

 

相変わらず怒ったような、不機嫌な顔をしている。

 

 

「放っておいていいのか、一夏?」

 

「うーん、ISのことを聞こうと思ってたんだけど、これじゃあな」

 

「お前は……」

 

 

弾は顔に手を当ててため息をついた。

 

ダメだこいつは、という顔だ。むかつく。

 

 

「休み時間は終わりだ。散れ」

 

 

千冬が教室に入ってきたことで、蜘蛛の子を散らすように女子は自分の席に帰っていった。まるでモーゼだ。

 

 

「ああ、そうだ。織斑、五反田。おまえらのISだが、準備に時間がかかる」

 

「……?」

 

「予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」

 

「???」

 

 

一夏と弾がちんぷんかんぷんでいると、教室がざわついた。

 

 

「せ、専用機!?一年の、この時期に!?」

 

「つまりそれって、政府から支援が出てるってことで……」

 

「なにそれすごい」

 

 

何がすごいのかよくわからないでぼけっとしていると、千冬が呆れたようにつぶやく。

 

 

「教科書六ページ。音読しろ」

 

「え?えーと、『現在、幅広く国家・企業に(中略)状況下で禁止されています』」

 

「つまり、そういうことだ。本来ならIS専用機は国家、あるいは企業に所属している人間にしか与えられない。が、お前らは特殊だからな。特別、データ採取の為に専用機が贈られるわけだ。まぁ、本当はどちらか一人だったんだが、馬鹿が介入してな。二人ともに授与されるから、そのつもりで」

 

「馬鹿って……」

 

「それはどうでもいいんだ。さて、授業を始めるぞ」

 

 

千冬は早々に切り上げてしまうが、一夏は『馬鹿』がだれだか簡単に想像できた。

 

篠ノ之束。ISを作った張本人であり、現在行方をくらましている篠ノ之箒の実姉。

 

ちらと箒を見れば、変わらず不機嫌顔だった。ただし、さっきとは違いどこか棘を感じさせる、そんな顔だった。

 

 

 

>>3

 

 

 

「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

 

 

休み時間、あのセシリア・オルコットが一夏と弾の前に来ていた。腰に手を当てていて、相変わらずの高貴(笑)具合である。

 

 

「まあ?一応勝負は見えていますけど?さすがにフェアではありませんものね」

 

「?なんで?」

 

「ばっか、一夏。こいつはイギリスの国家代表候補生で、専用機は国家、あるいは企業に所属する人間に与えられるんだぜ」

 

「ああ、なるほど。つまり、専用機を持っているわけだ」

 

「そうですわ!さっきの授業でやっていた通り、ISは467機だけ。その中で専用機を持つ者は、全人類のなかでもエリートというわけですわ!」

 

 

ほへぇ、と一夏が感心していると、セシリアの話にまったく興味のない弾が箒のもとへ歩いていっていた。

 

どうやら、飯を食いに行こうと誘っているようだ。

 

 

「って、あなた!聞いてますの!?」

 

「――いいじゃねぇか、行こうぜ?あいつと二人になれるぜ」

 

「な、なんでここであいつの名が出てくるのだ」

 

「聞いてませんわね?聞いてませんわね!?」

 

 

セシリアが騒ぐのにも構わず、弾と箒は楽しそうに(?)喋っている。箒が弾に何か言われて顔を赤くしているのが見て取れた。

 

 

「くっ……そこのあなた!」

 

「ん?……どうした」

 

「あなた、篠ノ之博士の妹なんですってね?」

 

「妹というだけだ。私はあの人じゃない」

 

 

箒の目が鋭く光る。その威圧に気圧されたセシリアはうっとひるんで、三下の雑魚がいうようなセリフを残してどっかいってしまった。

 

 

「それじゃ、飯食いに行くか。な?箒」

 

「……いや、一夏。私は……」

 

 

飯に行こうと誘ってもなかなか乗り気にならない箒に、弾は呆れたように肩をすくめて、一夏に何とか連れ出すように頼んだ。まかせとけ、と頼もしく頷いたので、一夏は強引にでも連れて行くだろう。それからは二人で仲良く学食デートしていればいいと思う。

 

邪魔してもあれなので、弾は密かに教室を出た。

 

 

 

>>4

 

 

 

放課後、剣道場。昼に箒を学食へ連れ出すことに成功した一夏は、ついでにISの操縦を見てくれるように箒に頼んだわけだが、なぜか打ち合うことになっていた。まあ、実力を確認するという意味ではいいのかもしれない。中学に入ってから剣道をやめてしまったので、かれこれ三年ぶりだ。錆を落とすためにも、本気でかかろうと思う。

 

ギャラリーがめっちゃいるけども。

 

剣道場は結構広めなのだが、周りにびっしりとギャラリーがいるせいで狭く見えていた。どれだけ興味があるのだろうか。

 

気にしても仕方ないので、目の前の箒に集中する。

 

 

「始めっ!」

 

 

踏み出したのは同時。しかし性別による身体能力の差か、一夏の方がわずかに早い。そのまま竹刀を振りかぶった。

 

 

「面ッ!」

 

 

振り下ろす。まっすぐに落とされた竹刀は、しかし箒によって横から払われてしまった。

 

 

「っ……!」

 

 

即座に後退、反撃を警戒しながら構えなおす。

 

お互いに硬直。ゆっくりと間合いを計りながら、相手の行動を読むことに腐心する。

 

先に仕掛けたのは箒だった。

 

突然の強襲。おそらくまだ読み合いが続くだろうと思っていた一夏は意表を突かれた。どうやら、読み合いでは向こうが上らしい。

 

一歩で詰められ、竹刀が上から――来ない。

 

 

「胴ッ!」

 

 

フェイントを入れ、それに反応して竹刀を上にあげている一夏のがら空きになった胴に竹刀が襲いかかった。

 

瞬間、一夏は後ろに跳びながら自身の竹刀で箒の一撃をはたき落す。間一髪間に合い、箒の竹刀は空を切った。

 

今度は一夏が仕掛ける。後退の為に下げた足に力を入れ、飛び出すように攻める。竹刀同士がぶつかって鍔ぜり合いになるが、腕力で勝る一夏が強引にこじ開けた。

 

そして、振り下ろす。

 

 

「め――!」

 

「籠手ッ!」

 

 

こじ開けられたと同時に重心をずらし、反撃の体勢を整えていた箒が一夏の籠手を打った。一本先取なので、これで終了だ。

 

静まり返っていたギャラリーが、ざわざわと騒ぎ始める。

 

 

「負けちゃったね、織斑君」

 

「でもすごかったよ!」

 

「さすがは千冬様の弟ね」

 

 

そんな声を聞きながら、一夏は防具を脱いだ。

 

 

「ふぅ……。やっぱきつい」

 

「ふんっ。弱くなったんじゃないのかお前。昔は負けなかっただろう」

 

「昔は昔だろ。箒が強くなったんだよ。それに、こっちは三年もブランクがあるんだ」

 

「ブランク?一夏お前、中学校では何部に入っていた?」

 

「帰宅部。三年連続皆勤賞だ」

 

「帰宅部で、今の動きか?そっちの方が信じられん」

 

「あぁ……、まぁ、普通じゃなかったからな。弾とつるんでれば、必然的に体が鍛えられるんだよ」

 

「またあいつか……。一体、どれくらい強いんだ……?」

 

「実際に見てみれば?ほれ、噂をすればなんとやらってやつだ」

 

 

一夏が剣道場の入り口を見ると、ひとりの男が立っていた。Y-シャツに黒のズボンという普通の格好をしたそいつは、もちろん弾だ。手に何か長いものを持っている。

 

 

「ほらよ。取ってきてやったぜ」

 

「悪いな、弾」

 

 

ぽいっと投げられる長いもの――二振りの木刀を見て、箒が顔つきを変えた。なにせ、木刀自体に傷が縦横無尽に走っているのだ。それも、何かに打ち付けたりされた外部によってつけられた傷だから、余計に目を引く。

 

 

「一夏、これは……」

 

「俺の愛刀。二刀流なんだよ、俺」

 

 

木刀が手に馴染むかどうか確認しながら答えた。ちなみに、公式の剣道でも二刀流は認められているが、さっき一夏が使わなかったのはそれが完全に我流だからだ。型も何も関係ない、もっとも戦いやすいやり方を追求した結果、あそこに落ち着いた。

 

 

「んじゃあ、久しぶりに組手するか」

 

「おう。ルールは?」

 

「いつも通り。無制限一本勝負、今回は腕一」

 

「了、解――!」

 

 

始めの合図も無しに一夏は駆けだした。一夏と弾の模擬戦に無粋な制限など何もない。ただ、強くなれるようにと始めたのがこれなのだ。

 

まずは一閃。弾はそれを上体をそらすことでかわした。

 

続けて突きを放つ。容赦なく顔面を狙った一撃を、弾はこともなげに顔を動かしただけで回避する。

 

さらに、さらに、さらにさらにさらにさらに。

 

息をつかせることなく打ち込んでいく。だが、弾はそれらすべてをその場から一歩も動かずにかわしてしまう。

 

 

「おぉッ!」

 

 

一夏が咆えた。不意を突いて体を回転。勢いのまま遠心力を取り入れた一撃が弾を襲う。

 

そこでやっと弾が回避以外の方法、右腕で竹刀を掴むことで攻撃を凌いだ。ルールの『腕一』とは、腕一本だけの使用ということ。セシリアと戦う時と同じ条件であるが、弾はまだ本気も全力も出していない。弾にしてみれば今のこれも遊びに他ならないのだろう。

 

それが悔しくて、一夏は止まれない。止まらない。掴まれたのなら、掴ませておけばいい。木刀を掴むために伸ばした腕は、格好の餌食だ。

 

 

「はぁッ!」

 

 

腕をめがけて木刀を振り下ろして、そこで気づく。自分が空中に投げ飛ばされているということに。

 

いつの間に飛ばされたのかすら認識できなかったが、いるのは弾のほぼ真上。好都合だ。

 

空中で一回転して、天井に足をつける。天井を蹴るなんて馬鹿げたやり方で落下、脳天に木刀を叩き込んだ。

 

しかし、それも腕で防がれる。防がれたままにしておくほどのんきしている一夏ではなく、さっと身を引いて構えなおした。

 

 

「はっ。そろそろ終わりにするか、一夏」

 

「……そうだな」

 

 

短く答え、意識を集中する。残されたのは後一撃。それに全てをかける。

 

 

「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

 

咆哮と共に駆け出し、弾から唯一教えてもらった技を使う。胸の前で二刀を交差し、突き出すように振りぬくその技は、速さにして時速1200キロメートル。

 

音速に迫ろうかというその一撃をかわす術など、どこにもない。

 

 

「――瞬剣ッッ」

 

 

気合一閃。腕がかすむように見えるほどの速度で斬りつける。

 

だが、

 

 

「――瞬拳」

 

 

それよりも速い一撃によって淘汰された。拳の衝撃波が木刀を吹き飛ばし、刀身に罅が入ったのが分かる。弾の持ってきたあの木刀は特殊樹脂と特殊合金、その他もろもろで作られた『世界一壊れない』木刀のはずだが、二、三回使ったら取り替えなければならない。驚愕するべきは、弾の力だろう。

 

胸を打つ衝撃に意識を暗転させながら一夏が最後に見たのは、力加減を間違えて「やっちまった」という感じにこちらを見ている弾の姿だった。

 

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