アクセル・ワールド 22番目の金属   作:傍から観る者

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第1話 夏休み前

「もうこんな時間か……」

 

 フルダイブゲームからログアウトして、原波秋地はそう呟いた。今日は日曜日、いやもう0時を過ぎているから月曜日か。秋次が使っている机の上の時計―父親のおさがり―は0時30分過ぎを指している。中学1年生の秋次にとっては少々夜更かし気味だ。

 

 ゲームに熱中すると時間を忘れてしまうのは、秋次の悪い癖だ。反省していても、なかなか直すことができないことも含めて。秋次はため息をついて、机の後ろにあるベッドに寝転がった。明日の時間割のことをうつらうつら考えていると、眠気が強くなってきた。布団をかぶり、目を閉じる。

 

 

 「ピピピ」と何かが耳元で鳴っている。

 

 

「うるさい……」とつぶやきながらそれを止めた。目覚ましかと一人納得しながら体を伸ばす。この動作が秋次の朝の唯一の楽しみでもある。体を伸ばすのはどうしてここまで気持ち良いのだろうと、とりとめもないことを考えながら、布団から出た。

 

 現在7時15分、昨日少し夜更かししたこともあってか、普段よりも少し遅い起床だ。7月17日火曜日、3連休明けのせいでなおさらテンションが下がった。

 

「めんどくさい」と思いつつ洗面台へ向かう。冷たい水で顔を洗うと少しだけ眠気が覚めた。リビングでパンを食べ、歯を磨き、制服に着替える。そして、「いざ学校へ行かん」とか思いながら家の玄関へ向かう。テンションを無理やりにでも上げないと、歩く気力すら失われてしまうのだ。

 

 

 家を出て15分程度で、学校が見えてきた。正門には竹沢中学校と文字が刻まれている。

 

 周りに生徒はほとんどいない。そろそろホームルームが始まる時間だからだ。家から出る時間をあと10分遅らせると遅刻確定である。少しでも家にいたいためどうしてもこの時間帯になる。まぁまだ遅刻したことはないため、別に問題はないのだが。

 

 あくびをしながら靴箱で上履きに履き替え、秋地のクラスである1年1組の教室へ向かう。教室へ入ると、校庭側の一番後ろの席に座る。ホームルームまであと5分。

 

 

「よう、アキ。いつも通りぎりぎりだな?」

 

 

「……おはよう」

 

 

 アキ――秋地のあだ名だ。原波 秋地(はらなみ あきじ)の秋からそのまま持ってきているらしい。

 

 秋次の右隣の席に座っている男子――山川 敦司(やまかわ あつし)――と、彼の前に座っている女子――海田 空(かいだ そら)――にあいさつされた。こちらも一言「おはよう」と返す。

 

 敦司はかなり大柄で、髪の毛は赤褐色。一見するといわゆるチャラい感じだが、実は成績はクラスでトップ、生活態度も悪くない。髪の色は地毛らしい。

 

 空さんのほうは、黒髪黒目で、黒縁の眼鏡をかけており、髪の毛を後ろで結んでいる。基本的に無口。こちらは外見と中身があっていて、クラスの委員長を務めている。

 

 一見すると少し不思議な組み合わせだが、実は2人はかなり仲が良い。2人に話を聞くと、なぜか気が合うとか。かくいう秋地もそうらしく、よく学校では話していることが多い。

 

 そこまで考えていると、チャイムが鳴った。ホームルームが始まる。担任の中村先生――中年男性――の声を聞き流しつつ、何を考えるでもなくただぼーっとする。まだ少し眠気が残っていた。

 

 

 

 キーンコーンカーンコーンと、授業の終わりの鐘が鳴る。昼休みに入った。敦司と空さんは食堂に行くらしい。秋次も誘われたが、今日はコンビニのパンを持ってきているため、しぶしぶ断った。食堂は原則食堂の注文をする生徒や教師のみが入れるように校則で決まっているのだ。

 

 昼食のパンを食べ終わる。手持無沙汰になったので、ニューロリンカーにダウンロードしているスカッシュゲームをプレイすることにする。ピンポン玉を無心で壁に当て続けていると、いつの間にか昼休み終了の予鈴が鳴っていた。秋次はあわててリンク・アウトし、5限目の準備を始めた。小学生のころは跳ね返ってくるピンポン玉が2つになった時点で、ほぼゲームオーバーになっていたが、中学生の今ではピンポン玉2つまでならたまに打ち返せるようになった。よくわからないほどスカッシュゲームにはまり、昼休みの間延々とスカッシュゲームをし続けることが可能になってしまったほどである。そのせいで今慌てているのだが。

 

 

 帰りのホームルームが終わる。本来なら敦司と空の2人と共に帰宅することになっている――3人とも世田谷区の桜新町の近くに住んでいる――のだが、今日は空さんのクラス委員長の仕事が残っているらしく、敦司と2人で帰ることになった。

 

 

「そういやさ。俺が言ってたこと忘れてないよな?」

 

 

 敦司から質問をされた。

 

「ああ。スカッシュゲームとかで、脳の反応速度を鍛えろって話だろ? 続けてるけど」

 

 

  2ヵ月前から言われ続けていることだ。新しいゲームをダウンロードしたらしいが、インストールの成功条件が厳しいらしく、ひたすらフルダイブゲームをし続けろ――それも出来る限り反射神経を使うゲームを――といわれたので、中学校に入ってからはお蔵入りしていたスカッシュゲームをやり続けていたのだ。そんなにプレイするまでのハードルが高いと、ゲーム会社は赤字になる気もしたが。

 

 意外にも空さんもそのゲームをプレイしているらしく、どうせなら3人でプレイしようという話になり、こうして日々ゲームという名の鍛錬――逆かも――を続けていた。

 

 

 

「よっし。なら次3人で帰るときにインストールをしようか。もう来週は夏休みだしな。その前にはインストールさせておきたいし」

 

 

 

 敦司は笑みを浮かべてそういった。特に異論はないので、秋地も分かったと一つ返事をして会話を終える。そうしていつものようにコンビニの手前で別れた。

 

 

 誰もいない一軒家に帰宅した。まだ夕方なので周りは明るいが、念のため台所の照明だけを点けることにした。我が家は現在では珍しくオート照明などの器具がないため、すべての照明は手動でつけなくてはならない。小さいころから手動なので、不便と感じたことはないが。

 

 先にお風呂の準備をすましておく。流石にお風呂は自動なので、スイッチを入れるだけで済む。お風呂の準備が終わり、夕食の支度をする。父親といとこに「せめて夜ご飯は自炊しなさい」といわれているので、料理するために冷蔵庫の中身を見る。肉野菜炒めに決定。

 

 適当に調理したが、我ながらなかなかの出来だった。そんな風に秋地は自画自賛しながら皿を片付ける。お風呂に入り終わり、時計を見ると、午後10時30分。眠るにはすこしばかり早い時間だ。インストールを確実にするために、スカッシュゲームをひたすらプレイすることにした。ただし、秋地は集中しすぎると時間を忘れてしまうタイプなので、ニューロリンカーの自動切断機能を使い、午後11時00分には電源を落とすことにする。

 

 設定も終わり、スカッシュゲームをするためにフルダイブをする。はじめは一つだったピンポン玉も、時がたつにつれ2つに増えた。それでもひたすらに打ち続けていく。流石に3、4回ほどゲームオーバーになったが、ひと月前に比べると格段に進歩している。

 

 5回目の挑戦ではコツをつかんで、うまくプレイできていたが、ついにボールが3個に増えた時点でゲームオーバーになってしまった。……2つでもぎりぎりだったのに、まさか3つめが来るとは。3つめはそもそも反応できない。2つの時点でボールは超加速しているので、脳みその判断が間に合わないのだ。もしや、このスカッシュゲームのボールは永遠に増え続けていくのだろうか。

 

 いつかは3つめもクリアしたいなと思っていると、ちょうどニューロリンカーの電源が切れたらしく、現実世界の秋地の部屋へ戻ってきた。いつの間にかそんな時間だったらしい。スカッシュゲームの疲労と、昨日の寝不足のせいですさまじい睡魔が襲ってきた。布団にもぐり、寝ることにした。

 

 




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