アクセル・ワールド 22番目の金属   作:傍から観る者

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第3話 対戦

 翌日、7月19日木曜日。なぜか目覚ましが鳴るよりも早く起きてしまった。クーラーは全開で稼働させていたのだが、体中が寝汗だらけで気持ち悪い。せっかく今日から「アクセル・ワールド」がプレイできるというのに、テンションが下がってしまう。秋地はため息をつきつつ、さっぱりするために浴室へ向かった。

 

 教室へ入り席に座ると、こちらを向いた敦司に一言いう。

 

「で、今日、説明してもらえるんだよな?」

 

「もちろん、一から説明するさ。そうだな……昼休みに食堂でどうだ」

 

「わかった」

 

 会話を終えると、机に突っ伏す。睡眠が浅かったのか、体がだるい。担任が来るまで仮眠をとることにした。

 

 昼休み、秋地は敦司と空の3人で食堂へ向かった。人は多いが、食堂もそれなりの広さがあるので、混雑しているというほどでもない。中休みに買った食券を食堂のおばちゃんに出してご飯を受け取ると、4人掛けのテーブル席に座る。敦司と空さんも同じテーブルだ。目の前にあるとんかつ定食を食べようとした瞬間、敦司から声をかけられた。

 

「待った、先に説明したほうがいいだろ?」

 

「んあ? ああ、まあな。じゃあ、昼飯が冷めないうちに頼むよ」

 

 そういって敦司から直結コードを受け取り、ニューロリンカーにつなげる。

 

「安心しろ、5秒もかからない。……昨日言ったようにコマンドを発声してくれ。小声で頼む」

 

 うなずいて、バースト・リンクと小さくつぶやく。周りの風景が、まるで凍ったかのように青く染まり、食堂にいる生徒たちの動きも止まった。目の前に座っている敦司と空さんも止まったが、すぐに学内アバターが2人の体から出て、こちらに顔を向けた。

 

「ようやくスタートラインだな。じゃ、説明を始めよう。視界に「B」のマークが追加されてるはずだから、それをタッチしたらメニュー画面が開く。まあ、メニュー画面はほかのゲームと大して変わらないから、説明はいいだろ? メニューを開いたら、マッチメイキングの項目をタッチしてくれ」

 

「わかった」

 

 そう返し、Bのアイコンをクリックする。確かに、メニュー画面は今までプレイしてきた格闘ゲームと大して変わらない。秋地はそう思いながらマッチメイキングの項目をタッチする。すると新しいウィンドウが開き、そこにネームリストが表示される。

 

 名前は「<<ブラウン・ダーティー LV.7>>」、「<<ネイビー・リベンジャー Lv.4>>」、「<<チタニウム・オルトロス Lv.1>>」と3つ表示された。

 

「それがアクセル・ワールドで使用するアバターの名前だ。デュエルアバターって呼ぶ。形や色はゲームが勝手にデザインしてる。俺がネイビー・リベンジャーで、空がブラウン・ダーティーだから、秋地はチタニウム・オルトロスになるな」

 

「デュエルアバターね。これ、変更できるのか?」

 

「いや、基本的にずっと最初のままの姿だ。ただ、レベルアップのときに選択できる強化外装とか何やらで見た目や性能が変わる場合もあるな」

 

  うなずいて、敦司に説明の続きを求める。

 

「加速するには、ポイントがいるんだ。初期で100ポイントある。バーストリンクコマンドで1ポイント使うから、今秋地のポイントは99ポイントだな。このゲームは対戦で勝ってポイントを稼いで、そのポイントを使ってレベルアップしていく」

 

「ポイントがなくなったらどうなるんだ? ゲームオーバー?」

 

「原則でポイントが0になったら、ゲームを強制的にアンインストールされる。再インストールは不可能」

 

  茶色いロボットーー空ーーがそう答えた。しかし、なかなかにルールが厳しい。

 

「レベルの上限は?」

 

「10らしいな」

 

「らしい?」

 

  敦司はこれまでと違って推測の言葉を出した。

 

「……アクセル・ワールドに存在しているプレイヤーの最高レベルは9。9まで至ったものは皆王と呼ばれている」

 

  空が言うには、このゲームのクリア条件はレベル10になるか、レベル4以上で行くことが出来る《無制限フィールド》の《帝城》を攻略するか、この二つが有力候補。

 

  また、レベル10になるためには、レベル9のプレイヤーを5人倒さなければならない。さらに、特殊ルールでレベル9同士が戦うと、倒された方は即ゲームオーバーだ。レベル10になったものはいないが、条件の厳しさからレベル10が上限だろうと考えられているらしい。

 

「厳しいゲームだなぁ。まぁ、その方が面白いか。そうなると、とりあえずレベル4を目標にしようかな」

 

「そうそう。夏休みの間にレベルを4まで上げて、早く無制限フィールドに行こうぜ。通常の対戦は30分間しか加速できないが、無制限フィールドはその名のとおり無限に加速し続けられるから、プレイし放題だしな」

 

「……一か月でレベルを3つ上げたいのなら、毎日10回は戦わないといけないと思う」

 

「秋地なら余裕だろ」

 

 敦司があっけらかんとした調子で言い切った。まぁ、格闘ゲームにはかなり自信があるし、そう簡単に負ける気はないけれど。

 

「あ、先に言っておくが、このゲーム痛覚があるから覚悟しとけ」

 

 そう秋地が思っていると、敦司から信じられない言葉を聞いた。

 

「は!? 痛覚ありってお前……違法じゃん。大丈夫かこのゲーム……」

 

 現在痛覚を感じるゲームなどは法律で禁じられている。つまり、アクセル・ワールドは少なくとも正規なゲームではない。秋地は急に不安になってきた。

 

「大丈夫だって。まぁとりあえず実際に対戦してみようぜ。この青い世界も30分間が制限時間なんだよ。対戦の後に、また詳しい話をするから」

 

 敦司の言葉を聞き、不安をいったん押し込んで【DUEL】のボタンを押した。すると、凍っていた食堂の風景にいた生徒たちが消えて、一度色彩を取り戻したかと思ったら、急に夕焼けが差し込んできた。外を見ると、コンクリートの道は消え、草原があたり一帯に広がっている。

 

「草原ステージだな」

 

 声が聞こえた方向を向くと、10メートル程度離れたところに2体のロボットが立っていた。一体は、見上げなければ頭部が見えないほどに大きな騎士型のロボット。濃紺色で、右手には青黒い短剣を持っている。

 

 もう一体は、魔法使いのようなとんがり帽子をかぶった茶色のロボット。左手に複雑な形状の杖を持っている。杖も茶色だ。こちらは濃紺色のロボットと比べると半分程度の大きさしかない。

 

 2体のロボットに秋地は近づいていく。

 

「その声、敦史か? ってことは、隣は空さん?」

 

「ああ。……ふむふむ、見た目は普通のメタルカラーって感じだな。」

 

「?」

 

「後ろに鏡あるから、見てみろよ」

 

  そういわれて、食堂にある小さな鏡を見る。そこには、夕日を反射しまぶしく光っている人型のロボットが映っていた。全身の色はピカピカに磨いた鉄の色。手足は五本あるが先端がとがっていて、武器は持っていない。頭部は犬やオオカミを連想させるような形。少し気になるところは、顔に左半分だけを覆うように白い仮面がついているところか。そのせいで、視界が狭い。

 

 秋地はデュエルアバターを確認し、次に視界に移るゲージを見た。視界上部に青色のゲージと、1760という数字がある。数字は一秒ごとに1ずつ減っているので、おそらく数字は制限時間で青色のゲージは自分の体力ゲージだろう。

 

「あれ?」

 

 とそこで、敦司の上にある体力ゲージが少しずつ減っていることに気付いた。

 

「おい敦司。お前体力ゲージ減ってないか?」

 

 秋地は疑問に思いそう質問する。

 

「ん? ああ、俺の剣の効果だよ。あんま気にすんな。それより、必殺技の確認をしたらどうだ? 基本的に、レベル1にも1つはあるはずだしな。あ、ステータス画面から確認できるぜ。あと、必殺技は発声しないと発動しないから気を付けろ」

 

  いわれたとおりにステータス画面を開くと、そこには、通常技に「スクラッチ」と「ローキック」、そして必殺技に、右手の爪で敵を切り裂く「スラッシュ」が表示された。とりあえず、表示された必殺技を繰り出してみる。スクラッチで食堂の柱を引っかくと、柱に薄い5本の線が走り、緑色のゲージが3割ほどたまった。これが必殺技ゲージだろう。左足を少し前に出し、右手を振り上げて「スラッシュ」と発声し、振り下ろす。すると、柱に深く5本の線が走った。

 

「おー、なかなかの威力だな」

 

 敦司がうきうきした様子でこちらに問いかけてきた。

 

「うん。レベル1の必殺技にしては強力」

 

「だよな。それじゃあそろそろ外に出て戦おうぜ。ちょっと体力的にまずくてな」

 

 敦司に言われて秋地は敦司の体力ゲージを見ると、すでに8割を切っていた。まだ3分もたっていないのにすさまじい減り具合だ。このペースだと、15分持たないのではないだろうか。そう秋地が思いながらうなずくと、敦司が食堂のガラスを左手でぶち割った。そこから外に出るらしい。

 

「よーし。それじゃあ、準備はいいか?」

 

 敦司に問われる。

 

「まぁな。動きも前やってた格闘ゲームの真似ができそうだし」

 

 秋地は、手と足をぐるぐる回しながら、敦司にそう返した。

 

「あー、あれか。あのゲームいっつもお前にぼこぼこにされたな。よし、今日は全力であのときの恨みを返すぜ」

 

「おいおい。手加減してくれよ。レベル4と1だろ?」

 

「大丈夫だ。秋地なら問題ない。……それじゃ、いくぜ?」

 

 敦司はそういうと、短剣を持ち直し、前傾姿勢をとった。秋地も応じて、左足を前に出し、左手を胸の前に、右手を腰の位置に構え、空手のような型を取る。一瞬の間の後、2人は同時に駆け出した。敦司が右手の短剣で秋地ののど元を狙う。秋地が左手で短剣をはじこうとすると、それを読んでいたかのように短剣を引いて左手でパンチを放った。秋地も反応したが間に合わずクリーンヒットを食らい、後ろに吹っ飛ぶ。

 

「ぐっ! これ、思ったよりやべえな……」

 

 思わず秋地は吐きそうになった。デュエルアバターに戻す機能があるかはわからないが、そう錯覚するほど、痛覚のフィードバックがすさまじい。しかも、今の一撃でいきなり体力を半分近く持っていかれた。必殺技ゲージも満タン近くたまったが、敦司も半分ほどたまっている。

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

 敦司は殴った位置から動かずにそう言ってきた。別にあおっているわけではないのだろうが、さすがに秋地もイラッと来た。

 

「ああ、大丈夫だ。次はお前の番だがな!」

 

 起き上がり、全力で敦司に攻撃を仕掛ける。正拳付き、廻し蹴り、エルボー、格闘ゲームで培ったコンボを敦司に放つ。攻撃しながら、思ったよりアバターの動きが良いことに気付いた。レベル1だが、動作の速さ自体はレベル4の敦司と変わらない。これなら、一撃は入れられる。

 

「っち!」

 

 右手のスクラッチと左足のローキックで敦司の体勢が崩れた。今だ。

 

「スラッシュ!」

 

 満タンに光り輝いていた必殺技ゲージを3割消費して、右手の鉤爪で敦司の胴体を引き裂く。クリーンヒットしたらしく、胴体に線が刻まれた。体力ゲージも今の攻撃で少し削られたらしく、すでに5割を切っていた。

 

「おーいてぇ。まさかいきなり5割切るとは」

 

 感心した様子で敦司は自身の体力ゲージを見ている。

 

「は、お返しだ。……しかし、やっぱりひどくないかお前の体力。俺が削ったのはせいぜい2割ちょっとだろ? なんでもう半分切ってるんだ」

 

「まぁ、しょうがねえんだよ。これくらいデメリットがないと。ま、5割切ったしな。ちょっと本気出すぜ?」

 

 敦司はそういうと、右手の長剣を上にかがけた。そう、()()を。

 

「リベンジモード」

 

 敦司がそうつぶやいた瞬間、剣の表面に青黒い血管のようなものが浮き出てきた。まゆをひそめ、そこで気づく。敦司の必殺技ゲージが上昇し続けているのだ。その代りか、体力ゲージの減少のペースがこれまで以上に早くなっている。と、敦司がこちらに()()を向けた、次の瞬間。敦司が秋地の目の前にいた。

 

「な!?」

 

「フォール・ディザスター!」

 

 敦司が青く光る大剣を両手で振り上げ、すさまじい勢い秋地に振り下ろした。反射的に両手をクロスさせたが、両手ごと真っ二つにされてしまった。痛みを感じる暇もなく、秋地のアバターが爆散。【YOU LOSE】と、視界に弱々しい炎の文字で表示された。

 

 

 

「あー、負けた。……なぁ、昼飯そろそろ食べない?」

 

 秋地は、とりあえず昼飯を食べたくなった。悔しい気持ちももちろんあるが、それ以上に空腹感が今の戦闘で増幅されてしまい、限界に近くなったのだ。

 

「そうだな。とりあえず、飯食って放課後にまたゲームの説明をするか。俺もお腹空いたし」

 

「同感。お腹空いたね」

 

 敦司も空も同じらしく、とりあえずバースト・アウトすることにした。

 

 

 

 




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