アクセル・ワールド 22番目の金属   作:傍から観る者

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第5話 乱入

 7月21日、土曜日。今日から待望の夏休み。とはいっても待ち合わせがあるため、秋地はいつもと大して変わらない時間に起床した。違うところは制服ではなく私服を着ているところか。リビングで焼いたパンにバターを塗っていると、家に来客を知らせるベルが鳴り響いた。敦司だろうとあたりをつけつつ、玄関に向かう。一応ドアスコープを覗いてみると、秋地の予想が当たっていた。鍵を開けてドアを開ける。

 

「よお、おはよう」

 

「おはよう。思ったより早かったな。もう少し後に来ると思ってたから、まだ準備できてないよ」

 

「別に慌てなくていいぜ。待ってる間お前の部屋にある漫画でも読んどくから」

 

「あれ、俺のじゃなくて親のだけどな。読んだら元の位置に戻せよ」

 

「わかってるって」

 

 敦司を迎え入れて、リビングに戻りバターを塗ったパンを食べ終わる。着替えと歯磨きを終えて、時間を確認すると9時20分を過ぎていた。敦司に声をかけ、ともに家を出る。

 

「暑いな、まったく。せっかく秋地の家で涼んだのに、また汗かいちまう」

 

 敦司はそういい額の汗をぬぐった。

 

「まぁ夏だしな。しょうがないよ」

 

 何とはなしに周りを見渡す。夏休みなので、桜新町商店街にも平日より人通りが多い。その構成の大半が小中高生だ。

 

「人多いなー」

 

 そんな光景を見つつそう敦司に言う。

 

「今から向かうところはこの10倍以上いるけどな。はぁ、想像するだけで暑苦しい」

 

 敦司は顔をしかめた。

 

「敦司って人混みが苦手なのか?」

 

「そういうわけじゃねえけど、純粋に暑苦しいのが嫌なんだよ」

 

「ふーん、なるほどね」

 

 桜新町駅につき、天井の素晴らしさを敦司とともに語っていると、電車が来た。

 

 

 南新宿駅で電車から降り、外の暑さに顔を2人でしかめながら、駅を出る。

 

「それで、待ち合わせ場所はどこだっけ」

 

「駅のすぐそばにある喫茶店だ。名前はニュー・イン」

 

「ニュー・インね。……ああ、ここか」

 

 確かに近かった。駅から歩いてまだ3分もたっていない。ドアを開け、店員に待ち合わせの意を伝えると、すぐ席を案内してくれた。

 

「あ、来た」

 

 案内されたテーブル席には空さんがいた。椅子に座り、一人で黙々と手を空中で動かしている。秋地と敦司も椅子に座る。

 

「おいおい、もう夏休みの宿題に取り掛かってんのか」

 

 敦司が苦笑気味に空に問いかけた。

 

「うん。もう3割は終わった」

 

「え、今日から夏休みなのに、もう3割終わってるんだ。……なぁ、敦司。後で3人で一緒に宿題しないか」

 

 秋地は小学生のころ、夏休みの宿題は毎回8月の終わりまで残っていた。しかし、竹沢中学校の宿題の量は小学生のそれをはるかに超えていて、まず今まで通りだと間違いなく終わらない。とりあえず2人の力を借りようと思っている。

 

「まぁ、いいぜ。今週中には終わらせて、対戦三昧と行きたいしな」

 

「よかった」

 

 これなら何とかなりそうだと思い、一人息を吐く秋地。

 

「ああ、空。「まだ」大丈夫なんだな」

 

「……うん。じゃなかったら待ち合わせ場所にしない」

 

「ん? 何の話?」

 

 2人が何の話をしているが気になり、つい秋地は問いかけた。

 

「んー、後で話すわ」

 

「先に注文しよう。何にする?」

 

 敦司がしゃべり終わると同時に、空が待ちきれないとばかりに口を出した。

 

「おっとそうだな。つっても朝飯食ったばっかだからな。……んー、じゃ、アーモンドケーキで」

 

「敦司はナッツ系が好きだな。僕はバームクーヘンで」

 

 店員に注文を済ませ、少しすると頼んだメニューが運ばれてきた。3人でだべりながら食べ終わる。

 

「さて、戦の準備は万全だな」

 

 敦司がニヤリとしながらそういった。

 

「まあ、そうだな」

 

「そんじゃ、心の準備ができたらグローバル接続をつなげて加速していいぜ。4勝したらタッグ戦を1回だな。今日は初日だから、そんぐらいにしとこう」

 

 つまり、今日は5勝するまで帰れないということか。そう考えながらグローバルネットに接続する。その瞬間にコマンドを唱えた。

 

「バーストリンク」

 

 周囲が青く染まる。マッチングリストを開くと、ネームリストが表示される。そこにあるネームの量はかなりのものだった。とりあえず下のほうにあった名前をタッチする。レベルは2、名前は「ブルーグリーン・ガードマン」。

 タッチした直後、さらに周囲の風景が変わり、目の前に【Fight】の炎文字が躍った。

 

 ニュー・インだった建物から外に出る。対戦が始まったら、まず相手の位置と周囲の地形を確認しろと敦司からアドバイスを受けているので、まずその通りに周りを見る。すると、少し離れたところに敦史のアバターであるネイビー・リベンジャーと、空のアバターであるブラウン・ダーティーがいた。昨日いっていた観戦者モードだろう。その他にもちらほらデュエルアバターがいる。彼らも観戦者だろう。

 

 しかし、あたりに敵のアバターが見当たらない。まだ近くにはいないのだろう。次に地形を確認する。空は赤く濁っており、建物や地面から何やら血液がしみだしている。ここはどんなステージなのだろうか。

 

「いいイメージはわかないな」

 

 秋地は独り言をつぶやきながら、ガイドカーソルが示している場所へ向かう。その途中、両手のかぎ爪で外灯のオブジェクトを破壊し、必殺技ゲージをためることを忘れない。敵のゲージを見ると、どうやら同じことをしているらしく、必殺技ゲージをためている。と、必殺技ゲージが半分程度たまったところで敵の姿が微かに見えた。いつでもスラッシュを打てるように体勢を整える。

 

 彼我の距離が10メートルを切った瞬間、秋地ーーチタニウム・オルトロスは走る速度をあげた。ブルーグリーン・ガードマンが左手に持つ大盾を構える。その盾を掬い上げるように下から上にスラッシュを放つ。オルトロスの思い通り、盾は大きく上に弾かれた。間髪入れずに左のかぎ爪で首を切り裂く。

 

「ぐっ!」

 

 クリーンヒットし、ガードマンの体力が一気に7割に減った。そのダメージで得た必殺技ゲージをすぐに使い、腹にスラッシュ。必殺技を使わせる前にもう一度首を狙うーーと見せかけ、腹にスラッシュ。

 

「そんな……」

 

 ガードマンは爆散。結果的に一撃も食らわずに敵を倒した秋地。だが、どこか違和感があった。体力ゲージを見ると、攻撃を受けていないのに残り半分になっているのだ。敵のアビリティなのかどうかわからなかったが、まぁ勝ったので良しとしたオルトロス。

 

 オルトロスのレベル1必殺技「スラッシュ」は秋地が思っていた以上に強力で、レベル1程度の差なら構わず装甲を切り裂ける。それに気づいたオルトロスは、この後の2戦目から4戦目までスラッシュをけん制に使いあっさりと勝利した。

 

「ふぅ……」

 

 4戦目を終え、バースト・アウトする。秋地が息を吐き出していると隣の敦史が話しかけてきた。

 

「お疲れさん。やっぱ強力だなその技」

 

「うん。やっぱりレベル1の必殺技の威力じゃない」

 

 敦史の意見に空が続いた。

 

「ぶっちゃけこれがなかったらもっと苦戦してるよ。多分、レベルが上のスナイパーがいたらいじめられるな僕」

 

「まぁ、レベル1だしそんなもんさ。そんじゃ、タッグ戦をしようか。ほとんどパーフェクトだったし、あと1戦ぐらいならいけるだろ?」

 

 うなずき、コンソールを開きネイビー・リベンジャーをパートナーに登録する。少しして、目の前に乱入を伝える炎の文字が現れた。

 

 

 本日5回目の加速世界。ステージは草原。対戦相手は「グレープ・ジュース」レベル5と、「サファイア・ニードル」レベル3。そうやってしっかり相手の情報を確認しているオルトロスの隣ではリベンジャーが柔軟体操をしていた。

 

「余裕だなおい。こっちは5戦目で疲れ気味なのに」

 

 恨みがましく言うオルトロス。

 

「まぁ俺は1戦目だしな。後、余裕なのはこいつらがいきなり仕掛けてこないってわかってるからだよ」

 

「なんでわかるんだ?」

 

 断言したリベンジャーに質問する。

 

「何回か戦ったことがあるからだよ。あんまゆったりしているわけにもいかねえけどな」

 

「ああそうだったな。つーかあれか。15分以内に決着つけないとやばいわけだ」

 

「そういうことだ。俺がぶどう……グレープ・ジュースのほうを相手にするから、お前はニードルのほうを頼むわ」

 

「了解」

 

 リベンジャーと話していると、目の前から敵がゆっくりと歩いてきた。

 

「やっほー、リベンジャー。久しぶりだね」

 

 そう話しかけてきたアバターを見て、オルトロスは一瞬硬直した。原因は頭だ。手足や胴体は薄い紫色で、普通のデュエルアバターと変わらないのだが、頭部がグレープ、ぶどうそのものだったのだ。たくさんの実の中で最も大きいものに2つのアイレンズがついている。

 

「そっちこそな、ぶどう。相変わらずすげえな。サファイアが全く目立たねえ」

 

「へ?」

 

 思わず気の抜けた返事をするオルトロス。見るとジュースの隣には小柄なアバターがいた。グレープ・ジュースのせいで気づけなかったのだろう。サファイアを連想させるきれいな装甲色で、全身に針が生えている。彼女がサファイア・ニードルだろう。結構特徴的だ。彼女が目立たないというより、グレープが印象的すぎるのだろう。

 

「あはは、こんにちは」

 

 慣れているのか、特に気にした様子もないニードル。

 

「話したいことはあるけど……、あんたのアビリティのこともあるし、先に勝負と行きますか」

 

 そう言い放ち、ジュースとリベンジャーは同時に構えた。オルトロスもニードルに向き直り、戦闘態勢を取り直す。

 

 先に動いたのはオルトロスだった。今までのように急所をかぎ爪で狙っていこうとするが、なかなかもう一歩が踏み出せない。ニードルの針が原因だった。急所にも針が生えており、まるでハリセンボンのよう。下手に手を出すと腕全体に針が刺さってしまい、少なくないダメージを受けてしまう。

 

「いきますよ!」

 

 躊躇しているすきをニードルにつかれたオルトロス。右手に縫い針を大きくしたような武器を持っており、オルトロスの目や首元を狙ってくる。ニードルの戦法はオルトロスと似ていた。

 

「っ!」

 

 何とか紙一重で回避していたオルトロスだが、動きを読まれ、左肩を刺された。痛みで一瞬動きが止まってしまう。

 

「そこです! ニードル・ピアス!」

 

「ぐっ!」

 

 針の必殺技を土手っ腹にもらってしまい、後ろへ飛び退る。今の攻撃で、腹の装甲がへこんでしまっている。体力ゲージは残り5割半。しかし、オルトロスも必殺技ゲージがたまった。右足に力を籠め、いきなりトップスピードに乗る。

 

「スラッシュ!」

 

「きゃっ!」

 

 勢いを乗せた一撃。針でガードこそされたが、体勢が崩れている。チャンスだと思ったオルトロスは勝負にでる。

 

「うおおっ!」

 

 かぎ爪ではなく、握りこぶしでの連打。全身の針が厄介だが、オルトロスの装甲のもっとも固い部分である拳で叩けば針を砕ける。

 

「くっ!」

 

 ニードルも何度か攻撃を防ぐが、流れはオルトロスにある。

 

「ふっ!」

 

 拳の攻撃で上半身に意識が向いているニードルにすかさずローキックで下半身を狙う。

 

「わっ!?」

 

「スラッシュ!!」

 

 完璧なタイミングで放ったオルトロスの一撃は、首に命中。針ごと首を刈り取りニードルの体力ゲージを削りきった。

 

 

 




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