アクセル・ワールド 22番目の金属   作:傍から観る者

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第7話 無制限フィールドへ

 

 8月中旬。夏休みもそろそろ終盤に差し掛かっている。今日は渋谷のカフェで加速することになった。

 

『今日のノルマをクリアすれば、ついにレベル4だな』

 

『やっとだよ…』

 

 氷だらけのカフェオレを飲みながら、秋次はため息をついた。初めての戦いから、3週間。毎日最低50ポイントを稼がなければならなかったので、3週間とはとても思えない密度だった。

 今の秋次のレベルは3。同レベル以下の戦いの勝率は高いが、遠距離タイプとの戦いは勝率が低い。チタニウムというカラーのこともあり実弾にはかなりの耐性があるが、いかんせんレーザーだのプラズマだを打たれると今の秋次では対処しきれていない。

 

『ま、勝率的には8割ちょっとだからいいじゃねえか。ていうかあれだぜ? 夏休みとはいえこの短期間でレベル4ていうのはすげえハイペースだからな?』

 

『うん。割ととんでもない。秋次が負けてるのはほとんど遠距離系だから、近距離戦で同レベル以下ならほぼ勝率10割だしね』

 

『そうなんだ……。いや、そう言うことじゃなくてさ……スパルタだよ……』

 

 集中力を使うから、一戦だけでかなり疲れるのだ。通常のフルダイブゲームとは疲労感が違う。しかし、敦司と空は秋次の恨みがましい目線をものともしなかった。

 

『まあまあ、今日で終わるからよ。もう、レベル4になるポイントはたまってるし、安全マージン……ようするに念のためさ。じゃ、準備はいいか?』

 

『……はぁ。まぁ、やるよ』

 

 なんだかんだ過保護な敦司に一言返し、小声でコマンドを唱える。バースト・リンク。

 

 すべてが碧く凍っている世界で、対戦相手を探し始める。できる限りレベルが上の相手がいいのだが、いかんせんレベル1や2が多い。レベルが下の相手に勝っても、バーストポイント的においしくない。かといって、レベル5や6相手だと、さすがに厳しい。連戦で勝てるほど甘い相手ではないということをこの3週間で学んだ。

 

「おっ」

 

 マッチングリストを下にずらすと、ちょうどいい相手を見つけた。レベル4、名前はシアン・パイル。色的にも青系で、オルトロスで戦いやすい相手だろう。相手に選び、デュエルを選択する。

 

 デュエル開始の文字は無視し、すぐに周囲を確認する。回りの建物は崩れ落ち、どころどころに穴の空いたドラム缶が転がっている。世紀末ステージだろう。

 敵の位置を表示する矢印の方向に進み、時折転がっているドラム缶を蹴飛ばし必殺技ゲージをためていく。

 すると、前に青い姿が見えた。シアン・パイルだ。青系にはありがちだが、全体的にごつごつとした印象を受ける。何より印象的なのは、右手の部分。ひじのあたりから、パイプのようなものが接続されている。パイルというからには、間違いなく杭だろう。あの武器には注意しなければならない。

 

 オルトロスが敵の観察を終えるころに、パイルとの距離は5メートルを切った。いつものように空手もどきの構えをした直後、パイルがいきなり右手の杭を構えた。とっさに足に力を入れる。

 ガシュン! という重厚音が響き、オルトロスに向って杭が伸びる。左に飛んでよけるが、オルトロスが予想していたより杭は速く右肩をかすめた。ジッという音とともに体力ゲージが削られる。かすっただけだが、体力ゲージは大幅に削られた。しかし、今のダメージでオルトロスの必殺技ゲージもマックスだ。

 

「スラッシュ!」

 

 左にとんだ直後、まだ右手の杭を戻し切れていないパイルに飛び掛かりスラッシュを叩き込む。

 

「ぐあっ!」

 

 首に直撃し、パイルのHPゲージが4割減った。そのまま立て直す暇を与えまいと、首狙いのラッシュを続ける。しかし、パイルも右手の杭を盾のように扱い思うように攻めきれない。オルトロスがラッシュを止めた直後、パイルが叫ぶ。

 

「スプラッシュ・スティンガー!」

 

 パイルの胸元がパカリと開き、そこから何本もの小さな杭が放たれた。至近距離にいるオルトロスは躱すことができず、両手をクロスし防御態勢をとる。

 

「ぐっ……」

 

 表現しがたい音が響き、オルトロスの両腕がへこんでいく。オルトロスが体勢を崩した瞬間。

 

「終わりだ! ライトニング・シアンーー」

 

 シアン・パイルが右手の杭を一直線に構え、右手の杭がまばゆく光りはじめる。

オルトロスは、その杭が輝いていく様子がなぜかスローに見えた。杭から、薄赤い透明のラインが頭部へ伸び、左耳から声が聞こえた。ーーしゃがめ。

 どこからか何かがささやき、オルトロスは聞こえた声に逆らわずスローに見える世界で前傾体制をとった。

 

「ーースパイク!!」

 

 パイルが必殺技の名前を叫び、稲妻のような速さで杭が放たれた。しかし、その杭は高速でしゃがんだオルトロスのわずか上を通った。

 

「何!?」

 

 至近距離からの必殺技を避けられたことに驚いた様子のパイル。必殺技の硬直が解ける前に、オルトロスは右手の指をまっすぐ伸ばし前へ突き出した。

 

「ピアッシング・クロウ!!」

 

 オルトロスのレベル3必殺技。まっすぐ揃えられた右手の五指が、剣のように勢いよく伸び、動けないパイルの首を貫通した。

 パイルを倒し勢いに乗ったオルトロスは、その後立て続けに勝負を挑み続けた。現実時間で30秒後、保有ポイントが1000を超えたところで、レベル4の最後のノルマを達成した。

 

 

「長かった……」

 

 次の日の正午、秋次のリビングで、麦茶の氷をかみ砕きながらぼやく秋字。

 

「お疲れさん。しかしまぁ、よくやるぜ」

 

「何がよくやるぜだよ。やらせたのは敦司じゃないか」

 

「いやいや、連戦の話じゃなくてだ。必殺技をよくあんなによけられるなと思ってさ。普通至近距離で遠距離系必殺技とかよけられねえからな」

 

「ああ、なるほど」

 

 敦司の言う通り、秋次ーーオルトロスは必殺技をよけることがとても多い。もともとVR格闘ゲームなどは得意だが、確かに至近距離で高速の必殺技をよけることができるのは中々なのかもしれない。遠距離攻撃は普通に喰らっているが。

 

「いや、なんていうかさ。この頃目の前で必殺技出されると時間が止まってるように感じるんだよね」

 

 レベル3になってから、時間が止まっているどころが幻聴すら聞こえ始めている。さすがにそれについては伝えなかったが。

 

「なんだそりゃ、無敵じゃねえかそれ。なら遠距離攻撃もよけられるんじゃね?」

 

「目の前って言ったじゃん。知らないところから攻撃されても反応できないよ」

 

「そこは気合と勘で。空ならできるぜ?」

 

「無茶言わないでよ。ていうか空さんすごいな」

 

「……まあ、レベル7とか8とかになるとなんとなくわかるようになるよ。さて、あとは遠距離攻撃に対する作戦があればとりあえずは大丈夫そうかな」

 

「そうなんだよね。結局さっきの戦いでも遠距離系にはほとんど勝てなかったし」

 

「ま、近距離戦ならほぼ負けなしだからいいんじゃね? それにレベル4のボーナスで対遠距離用の何かがあるかもしれないしな「

 

「何かってなんだ?」

 

「んー、例えば強化外装とかだ。レベル2と3のレベルアップボーナスにはなかっただろ?」

 

「そうだけど」

 

「なんせオルトロスってアバター名なのに、尻尾は初期装備じゃないからな。もしかしたら強化外装で選べたりするかもな」

 

 笑いながら敦司はいった。確かに、獣型アバターには尻尾がよくついている。オルトロスには獣型アバターのわりに珍しくついていないが……。

 

「いやでも、尻尾付けたところで何か変わるかなあ」

 

「……一応、尻尾を主武器で使うデュエルアバターも知ってる」

 

「ほんと?」

 

「マジか空」

 

「うん、マジ。でも、使いこなすには相当の時間が必要だと思う」

 

 空は苦笑しながら話した。

 

「まあ、そうだろうね」

 

 秋次も苦笑しながら返した。尻尾を武器にして弾丸やミサイル相手に戦うところは想像しにくい。

 

「ま、まずはレベル4になってから考えようぜ。そもそも強化外装がボーナスにあるかもわからないしな。そら、はじめてくれ。俺もそろそろ暴れたい」

 

「わかった、わかった。バーストリンク」

 

 ウズウズした様子の敦司にせかされつつ加速する。ブレイン・バーストのメニューを動かし、ポイント画面に移動すると、画面の上部中央に【1008】と数字が表示された。ポイント使用ボタンからレベルアップのボタンを押す。600ポイントを使用しレベルを上げてよいかという意味の英語メッセージが表示され、イエスボタンを押すと、レベルアップ時に流れる音楽とレベルが4に上がったことを告げるメッセージが表示された。選択可能なレベルアップボーナスが表示されるが、とりあえず無視して加速を終える。

 

「終わったよ」

 

「やったな! ついに秋次もレベル4か。これでやっと無制限フィールドに行けるな! いやー、夏休みに間に合ってよかったよかった」

 

「おめでとう」

 

「おかげでこっちはくたくただけどね」

 

「さぁて、それじゃあさっそくいきますか」

 

 敦司はにやりと笑った。

 

「コマンドは確かアンリミテッド・バーストだったよね」

 

 秋次は 無制限フィールドへ行くためのコマンドを確かめる。

 

「そうだ。できる限り揃えてコマンドを言うぞ。じゃないと待ち時間が増えるからな」

 

「あ、そうか。一秒ずれるだけで15分以上ずれることになるね。確かエネミーも湧くんだっけ?」

 

「そういうこと。あと、念のため自動切断の準備はいいか?」

 

「無限エネミーキル防止だよね、ええと……。うん、オーケー」

 

 準備を終え、ニューロランカーを首に装着する。

 

「空さんは大丈夫?」

 

「私も大丈夫」

 

「よし、それじゃいくぞ! 3、2、1」

 

「「「アンリミテッド・バースト!!」」」

 

 

 コマンドを唱え、周囲が暗闇に包まれるのと同時に秋字はオルトロスの姿になった。その直後、暗闇に虹色の光がかかる。光がかかった場所は、現実世界の姿から加速世界の姿へ変わっていく。自宅のリビングだった場所は、なにもかも純白に染まり、正八面体のクリスタルがところどころに浮かんでいる。上を見上げてみると、天井は消えており、空一面が乳白色だ。

 風景を眺めていると、ほどなく近くに濃紺のアバターと茶色のアバターが出現した。

 

「ここが、無制限フィールドかあ……」

 

 オルトロスの呟きに、濃紺のアバター、ネイビー・リベンジャーが返事を返す。

 

「おお。しっかし、みたことない属性だな。ダーティーは知ってるか?」

 

 リベンジャーに問われた、茶色のアバター、ブラウン・ダーティーが返事を返す。

 

「うん。……霊域だね。かなり珍しい」

 

「霊域って言うんだ。ダーティーさん、このフィールドってどんな特徴があるの?」

 

「周囲に浮かんでるクリスタルがあるけど、アレを壊すと必殺技ゲージがかなり溜まるよ。あと、アイテムカードが出ることがある」

 

「マジでか! よっしゃ、早速壊そうぜ!」

 

 ワクワクした様子でクリスタルを壊しまくるリベンジャー。小さくダーティーが「ごく稀に」とボソッと呟いたが、リベンジャーには聞こえなかったようだ。

 

「あ、そういえばリベンジャー。体力は大丈夫なのか? ほおっておいたらやばいんじゃ」

 

「ああ、それは平気だ。必殺技ゲージが多ければ、体力の減る速度はかなり遅くなるからな。とはいえ、早めに手頃なエネミーを一匹倒したいが」

 クリスタルをこわしまくりながら、そう答えるリベンジャー。

 

「エネミーを倒せば、体力ゲージの減少が止まるんだっけか」

 

「おお。あと、ダメージを与える度に武器の威力が増すぜ」

 

「やっぱいいな、リベンジャーの武器。俺もほしいな」

 

 オルトロスも強力なアイテムカードドロップを狙いクリスタルを割り始める。

 

「お前は必殺技の威力がすげぇからおあいこさ」

 

「うんうん。二人とも私から見たら十分すごい」

 

 しゃべりながら、自宅周辺にあったクリスタルを割り終える。

 

「全然アイテムでねぇな」

 

「確かに。もう必殺技ゲージマックスだよ」

 

「加速世界のアイテムは、そう間単にドロップしない。まぁ、必殺技ゲージがマックスなら、近くでエネミー探しを始めよ」

 

「ま、そうすっか。よーし、オルトロス! 初のエネミー狩りだ。気合い入れていくぞ!」

 

 現実世界では駅があるに方へ向かう途中、右手の長剣を振り回しながらリベンジャーがいった。

 

「ああ。でも、エネミーってめちゃくちゃ強いんだろ?」

 

「まぁな」

 

「前にも話したけど、今回狙うのは小獣級のエネミー。強いけど、あなたたち二人がかりなら勝てなくはないと思う」

 

「無制限フィールドでは一番弱いエネミーなんだよね」

 

「ああ、つっても、なめてかかったら即死ぬが。て言うか死んだ」

 

「なるほど、実体験か」

 

 説得力があるなと思いつつ、エネミーの種類を思い出す。弱い順に小獣級、野獣級、巨獣級、神獣級。この中でも、野獣級以上に出会ったら、まず逃げることをダーティーとリベンジャーに指示されている。

 

「まぁ、本当に危なくなったら私も出るから、死ぬことはないと思う」

 

「頼もしいな」

 

 リベンジャーは肩をすくめた。そのとき。

 

「……ん?」

 

 不意に、オルトロスに声が届いた。

 

「どうした?」

 

 急に足を止めたオルトロスに怪訝な声をかけるリベンジャー。

 

「いや、何か、鳴き声が聞こえたような……」

 

「鳴き声? なぁダーティー。聞こえたか?」

 

「ううん、聞こえなかった。……でも」

 

「でも?」

「……周囲をサーチしてみたけど、エネミーの動きが何かおかしい。気を抜かないで」

 

 ダーティーはアビリティを使用し、警戒した様子だ。それを見たリベンジャーも、長剣をいつでも振るえるように身構える。オルトロスも、声は気になるが構えをとる。

 音の出どころは、すぐに判明した。

 

「キャウン!」

 

「! なんだ!?」

 

「高架橋の下から……犬の、鳴き声?」

 

「この鳴き声……、さっき聞こえたのと同じ……」

 

 三人は鳴き声が聞こえた高架橋へ向かう。そこにはーー。

 

「なんだありゃ!?」

 

「エネミーが、エネミーをおそっている!?」

 

 そこには、子犬型のエネミーを襲う、恐竜型エネミーがいた。

 

 

 

 

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