世界時計の旦那の英雄譚   作:フクブチョー

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ランク7 果たすべき責務と繋ぐべき未来

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は春、一つの生活に別れを告げ、新たな生活の始まりに備える時期、今年で16になろうという少年、新宮寺零は剣を構えていた。

新宮寺家はその名の通り大きな荘園を持つ寺院の貴族だった。その名残か、どんどん西洋化していくこの国の時代の流れに逆らうように新宮寺家の屋敷は書院造。庭も広大でいてかつ和風。零がいくら剣を振ってもなんの問題もない広さだった。

稽古着に身を包んだ汗だくの少年は一分の隙もなく木剣を構えている。対面に立つのは白い少女。

 

「はぁっ!!」

 

二振りの剣を白い少女が振るう。閃光の如き剣尖が零を襲うが零は完全に受け切った。

 

「まだ気配が消せてない。それじゃダメだぜエーデ」

 

構えを解いて笑みを浮かべながらエーデルワイスにアドバイスする。ほぼ自己流で自分を守ってきた彼女の剣技は凄まじいと同時に粗も多い。幼少から武術の鍛錬を積んできた零から見ればまだまだ隙があった。

 

「ゼロの剣は少し綺麗すぎます。貴方なら大抵の相手は一太刀で屠れるでしょうけど私クラスを相手にした時、太刀筋がすぐ読まれてしまいますよ」

 

零の剣は正道で王道の真っ当な剣。単純に強くなるならコレが一番なのだが剣の世界とはそんな単純なものではない。虚実同一。もちろん零もフェイントは使うがそれすらも彼はセオリー通りに使う。フェイントはバレては意味がない。本物に見紛う虚こそが実を生かすのだ。

 

お互いの足りない所を補い合うライバル。二人の関係は騎士として理想的と言えた。

 

二人とも一度剣を置き、休息をとる。もうかれこれ数時間戦いっぱなしだった。

 

「ゼロ」

 

掛けられた声に視線のみを返す。

 

「貴方は騎士になった後、どうするのですか?」

 

そんな質問がエーデから投げかけられる。今は騎士となる為の修行の真っ最中だが、確かにもう二人とも元服を終えている年齢だ。将来の事を考えてもいい頃だろう。

 

「んーー……俺はさ、かなり恵まれてると思う。色んな事で」

 

新宮寺零は生まれにも、体格にも、才能にも、ライバルにも、恐らくは運にさえ恵まれている。天にたっぷりと愛されて生まれてきた。幸運と言ってしまえばそれまでだし、才能に溺れず努力もしてきた。それでも自分は恵まれていると思わずにはいられなかった。

 

「騎士の選手生命はそんなに長くない。引退してからの時間の方がきっと多い。だから俺は自分が受けた恩を、才能ある不遇な騎士たちに与えられたら……そんな風に思ってるよ」

 

人から受けた恩はその人に返すだけではない。受けたバトンを次の世代に渡す。その恩を受けた人間がまた違う誰かに与えていく。そんな繋がりを作りたい。誰よりも幸運な零はそう思っていた。

 

「何がおかしいんだよ」

 

可愛らしくクスクス笑うエーデに少し不機嫌な顔をする。結構真面目に答えたのに笑われた。不快に思っても無理はない。

 

「いえ、すみません。意外とロマンチストですね」

「バッカ、ロマンがなくて騎士なんてやれるかよ」

「では将来は学園の理事にでもなりますか?」

「いや、さすがにそれはないだろ。せいぜいコーチだろうなぁ」

 

ニシシとイタズラな笑みを浮かべる。

 

「そういうお前はどうなんだよ。強くなって、それでしまいか?」

「…………そうですね。私の場合、いつも目の前のことで精一杯だという事もありますが……」

 

 

 

受け継ぐべき人間に私の剣を伝えたいーーーーそんな事を思っていますよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

純白の日本刀を突きつけながら、零は困惑していた。目の前の少女の言っている意味を理解するのに少し時間が必要だった。

 

「父様って……」

 

呆然と燃えるような赤髪の少女がつぶやく。その時、零の集中が僅かに乱れた。

その一瞬の隙をつき、零のデバイスが弾かれる。白銀の剣士が体勢を整える頃にはランと名乗った少女は充分な距離を取っていた。

 

「やはり気になりますか?母の事は」

 

二振りの純白の日本刀を構えつつ、妖しく口角を上げる。もう彼女はステラの事など眼中にない。それもそのはず。自分が目標と定めた敬愛する騎士が目の前にいるのだ。他の有象無象など少女にとって何の価値もない。

 

「言っていましたよ、近い内に会えるのを楽しみにしています、と」

「…………エーデが自分でそう言ったのか」

「ええ、しかし母の心配をしている場合ではありませんよ、父様。数年前のあの時、貴方を破った剣技が目の前にあるのです。貴方はまず自分の心配をすべきでしょう」

 

ランの言葉には挑発の意味もあったが虚言を言ったつもりはなかった。彼女はエーデルワイスの剣技を完全に継承し、そして母にはない父譲りの魔力量がある。今の自分は10年前の母より強いという自負がある。

先ほどは受けた事ない技を食らって不覚を取ったが、こうして向き合ったなら自分が勝てる自信があった。

しかしそんな考えを馬鹿にするかのように白銀の剣士は笑い捨てた。

 

「その程度の腕で俺の心配をしろだと?笑わせるなよ、俺が知っているその剣技の真の使い手に比べれば貴様の技ははっきり言ってママゴトレベルだ」

「…………言ってくれますね。では見せてもらいましょうか?そのおママゴトにどう対処するか!」

 

振るわれる剣尖。それは静と動の合一。無から百への瞬間移動。

動物は全て最高速度に到達するのに少し時間がかかる。世界最速と言われるチーターもその速度にたどり着くには一定の距離が必要だ。

その常識を超越できる存在は唯一虫類のみ。彼らのみがあらゆる物理的常識を覆す。もし彼らを人間大に変化させ、その能力をそのまま発揮できるならその数値は凄まじい事になるだろう。

人間にその偉業が成せるかと問われればそれは否だ。伐刀者といえど例外ではない。しかし技術によってそこに限りなく近づく事はできる。

その一つの集大成がこの剣技。瞬時に剣尖の速度を最高速度に到達させる事により、まさに光の速度と見まごう速さで剣を振るう事を可能にする剣技。零はこの技を『光華燐』と呼んでいた。

 

通常、この技は発動してから躱すことは不可能だ。受ける事もまず出来ない。ゆえに必殺の剣。ランのこの理解は概ね間違っていない。

 

しかし零は光華燐を難なく躱していた。

 

「えっ!?」

 

驚愕の声はステラから上がった。彼女の眼にはランの剣が誰もいない所を通ったかのようにしか見えなかった。

同様の驚愕はランにもあった。しかし動揺を顔に出さない事を母から叩き込まれていた彼女は惑う事なく両の剣を振り続けた。

 

しかしどれも全く当たらない。まるで零に当たらないように剣が誘導されているかのようだ。

 

「初動の気配が出すぎなんだよ、お前の剣は」

 

遂に初動に至る直前のランの手首を零が掴んだ。相手の動きを見切っていなければ不可能な所業だ。

 

「初動に繋がる反応速度がおそい。いくらスピードが早くても気配が丸出しなら避けるのは難しくない」

 

瞬時に声が後ろに回る。今度は抜き足ではない。紙一重でかわした事による時間的アドバンテージで背後に回り込んだのだ。

 

「人間無心で斬るなんて事は早々出来ない。攻撃には意志が宿るものだし、戦闘ってのは基本考えながらやるものだからな。無意識、無心で攻撃するなんて一つの武の極地だ。15、6のお前にたどり着ける境地じゃない」

「っーーーこの!」

 

振るわれる二振りの剣を躱し、時に受けながらその技のママゴトたる所以を突きつける。

 

「同じ武器を使おうと使い手によって結果は大きく異なる。達人が持つなら紙でさえ人が斬れるし、子供が拳銃を撃ったら殺す以前に自分が怪我するだろう。つまりお前は光華燐を使いこなせていない。その技に振り回されているに過ぎないんだよ」

 

コレは言わないがエーデは初動の気配を消す以外にも光華燐に抜き足の技術を織り交ぜる事で無意識の死角を切り裂いていた。このコンボの凶悪さは零が誰より知っている。

ついにデバイスを構える事すらやめる。腰の鞘に剣を収めてしまった。

 

「っ!?くそっ!!」

 

振るっていた右手の剣が動かなくなる。鋒を零の指が捉えていたからだ。その力は凄まじく、まるで万力に掴まれたような錯覚さえした。

 

「だから言ったろ?ママゴトだって」

 

左の剣が振るわれるより早く零の拳がランの腹部を捉えた。苦悶の声を漏らすと同時に飛び下がる。

 

「へえ、タフだな。そこそこ力入れて殴ったんだが」

「ゲホッ、ゴホッ!ハァッ、ハアーー!」

 

心肺機能を一時的に失った彼女が喀血し、大きく息を吸う。気絶していないだけ大したものだが大ダメージには変わりない。

 

零がふと上空に視線を向ける。何かが来る事を察知したからだ。その感覚は正しく、白銀の剣士の妻が上から降りてきた。中々戻ってこない上に戦闘音もかなりしていたはずだ。心配になって降りてきてもなんら不思議はない。

現状を確認した黒乃は霊同様に驚きを隠せないでいた。なんとか呼吸を整えたランは諦めたように一つ笑う。

 

「父様だけでも手にあまるのに世界時計まで加わられては……コレは少し無理そうですね」

「今更気づいたか?もう遅い。聞きたい事は山程ある。悪いが両手両足凍らせて「還りなさい『咲耶姫』」

 

辺りにまるで華が咲いたかのように白い炎がデバイスから湧き出る。その火力と魔力量はステラに勝るとも劣らない。舞い散る白の火の粉はまるで花弁のようだ。

 

「修羅雪姫!!」

 

周囲を護るように氷を展開する。この程度の炎であれば修羅雪姫で充分にカバー出来るが、ステラ達を護るとなると攻勢に打って出る事は難しい。しかもランからはまだまだ炎が湧き出ている。魔力量は明らかにAランクだ。

 

ーーーーそれでいて剣技はエーデ仕込みかよ……末恐ろしいな、オイ

 

このまま育つと彼女は魔力量は零クラス、剣技はエーデルワイスクラスという驚天動地の魔人となるだろう。

 

ーーーー雪姫を即位させるか?しかしそれでは黒乃はともかく、ヴァーミリオンが……

 

今のうちに倒すべきという本能と周囲の安全を思う理性がせめぎ合う。その間にランは退路を確保していた。

 

「今回は退かせていただきます。また会いましょう」

「待て、ラン」

 

この場で戦う事はもう諦めた。それに今はまだ彼女の時代ではない。並の現役よりははるかに強いが、それでもまだ次世代と呼べる少女だ。ならその相手は自分ではなく、次の世代がするべきだろう。幸いな事に希望(ステラ)はいる。なら大人()の出る幕ではない。

 

「エーデに伝えろ」

自分の戦うべき相手に対するべきだ。

 

 

 

「俺もお前に会いたい」

 

 

 

ランは押し黙る。何かを迷っているような様子だ。

 

「…………直接でよろしいでしょうか?」

「ああ」

「承りました。それでは父様、どうか健やかに」

 

恭しく頭を下げる。その言葉と態度には父を慕い、想う真摯な色が込められている。

 

「私に殺されるまで」

「ハッ」

 

零が嘲笑すると同時に白い炎が舞い上がる。視界が白く染まり、修羅雪姫の氷がその炎を収めた頃には白い少女の姿は見えなくなっていた。

 

「あのクラスに逃げに徹せられると、どうしようもないな」

 

デバイスを収める。一悶着あったが、今回のリベリオンのテロ活動は失敗という事でいいだろう。最低限の役割は果たした。

 

「零……」

「…………」

 

心配そうに夫を見上げる妻に沈黙とどこか悲しげな笑みを返す。

 

「…………さて、と」

「は………ぅ………」

 

酸欠と熱射で気絶しているステラを背負う。破壊的な熱量が周囲の酸素は瞬時に焼き尽くされている。なにもステラが劣っているという訳ではない。幾度も死線を越えてきた零と黒乃はともかく、幾ら零の氷で護ったとはいえこの状況で意識を保っていられる方がおかしいのだ。

 

「帰ろうぜ、黒乃」

「…………ああ」

 

少女を零が背負い、地上へと上がっていく。三人の姿はまるで家族のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ところで零」

「ん?」

「父様ってどういう事だ?」

「あ゛」

 

その辺聞くの忘れてた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後書きです。よーやく皇国編終了。長かったぁ〜。修羅場感を残して終わりとか怖っ。てゆーか最新刊で出てきたステラの母さんロリ母かよ!アニメ1話で出てきてた時は結構大きい人だったじゃん!口調とかイマイチ掴めていませんが次回からはロリにするつもりです。せっかくですのでお姉ちゃんや執事のおっさんも登場させたいですね。それでは次回、ちょっと冒頭で皇国の話と世界時計による隠し子尋問をやった後に日本へと帰還します。ちなみにランのデバイスは『かぐや姫』と神話の咲耶のもじりです。それでは励みになりますので感想、評価よろしくお願いします。フェアリーテイルとアカメが斬る!でも連載しておりますのでそちらもよろしくお願いします!
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