《ぐーたら男と終焉の剣》~拾ってみたら日常生活でめっちゃ使えましたw~ 作:どるふべるぐ
A、作者にセンスを求めないで(自嘲)
――それは、俺がかつて見たどの赤よりも、熱く、猛々しく、そして美しい
『――
天から墜ち、地に突き刺さった謎の剣。
その姿は美しく、そして独特だ。鉄や鋼のような金属ではなく、黒光りする溶岩石のような刀身。一般的な刀剣のような鍔は無く、先端に向かって幅が広くなる刀身が緩やかな曲線を描く、溶岩石をそのまま剣の形に削り出したかのような異形の両刃剣である。
『運命の……いや、我が父上の悪戯にも参ったものじゃが、まあよい。それが父の望みとあらば付き合うのもまた一興よ』
そして何よりも目を引くのは、漆黒の刀身に走る無数の亀裂だ。模様にも血管のようにも見えるそれから漏れるのは、煮え立つマグマのような赤熱の輝き。それがまるで鼓動の如く、時に激しく、時に穏やかに、穴の底の闇を照らす。
荒々しいまでに武骨。神々しいほどに凄烈。その刀身が発するは――火山のごとき熱気と圧倒的な存在感!
『ならば終焉の炎たる我は、地を焼き、天を焦がし――我が炎光でミッドガルドの天地総てを照らしてくれよう!』
……なんて、傍らでためつすがめつレビューしているのも飽きたので、そろそろ実際に触ってみるか。ほれ指でつんつ~んと。
『うひゃぁ!? な、何じゃいきなり――って人間じゃと!?』
「おぉ、意外と表面はザラザラしてるなぁ。……大根とかよく擦れそうだ」
擦りおろし大根を塩コショウで味付けした焼レバーに……じゅるり。
『な、なんじゃこの人間は……。なぜ我を見て舌なめずりしているのじゃ?』
なんか引き気味に呟かれた。失礼な。
一緒に心なしか刀身の光が困惑するように弱まったが、直ぐに気を取り直したのか、なにやら爛々と輝きを増す。
『ふっふっふ……だが僥倖。いかに最強の力を宿そうと我は武器……己自身を使う事は出来ぬ。じゃがこの人間を使えば我は存分に力を振るえるぞ!』
いきなり歓声を上げた剣はピッカピッカ瞬いて、正直言って超眩しい。
『何、この我の力を一度でも振るえば人間ごときたちまち虜になるじゃろ。それにしてもいきなり都合のいいカモと出逢うとは流石は我、持ってる!』
ついにはフハハハハーと自画自賛し始めた。それはもうとんでもなく楽しそうで、我が世の春を絶賛謳歌中のようだ……が、傍目から見たら引くわー。
お……おう……。澄んだ声は高貴でお嬢様っぽいんだけど、どうやら勝気でプライドの高い自惚れ屋っぽい模様。
結論→うん。関わり合いになっちゃアカン奴だ。
『さあ人間よ! 我を取り世界をも焼き尽くす力をその手にせよ! ――って何処へ行くのじゃ!?』
背を向けて穴の淵まで戻ろうとしたら、案の定呼び止められた。けどやだなぁーめんどいなぁー。関わるのとか勘弁してほしいなぁー。
『待て! 止まれ! ええい戻ってこんかー! くうぅっ口惜しい。いくら叫べど人間如きに我の声が聞こえるはずもないか……ッ』
悔し気に臍を噛む顔が目に浮かぶようだが、よく考えれば剣だから顔なんて無いか。俺は構わず、えいやっあらよっ……と穴の斜面を上り続ける。その間も、遂に自棄になったらしい剣の悲痛な叫びが響いていた。
『バカー! アホー! 我を置いて行くのか薄情者めー!』
はいはいどうせ薄情者だよ。ついでにぐーたら大学生だ文句は聞かない。
『あ、あれじゃぞっ……我はすごいぞ強いぞ無敵じゃぞっ。神も巨人も我にかかれば一刀両断じゃぞっ!』
興味ねー。神に喧嘩売る予定無いし巨人って何さ?
『岩だって砕けるぞっ。というか溶かせるぞっ。世界樹ユグドラシルだって我が焼く予定だしっ……えーと……えーっとぉ……と、とにかく我に焼けぬものは無いのじゃ! お肉だってこんがり焼けるんだぞーー!』
――――――。
『……て、何を言っているのじゃろうな…我は……』
………………。
『……所詮、終焉の剣とはいっても……我はただの武器。……使い手がいなければ何も出来ぬか……』
………………。
『はは……無様な物じゃの……すまぬ父上、我は――』
「ねえさっきのマジ?」
『うにゃぁあああああああ!?』
うるせっ!? 鼻がくっつくぐらいの至近距離で声かけたらびっくり仰天された。おまけに驚きのあまりか刀身から閃光が弾けて、目が潰れかけたが構うものか。
何やらブツブツ言ってた剣の下に舞い戻った俺は、我ながら生まれてから三回目くらいに使う
「ねえマジなの?」
『へっ!? ……ふぇっ? お、お主いつの間に近づいて――って我に向かって話しかけておるのか!?』
「他に誰がいるんだよ?」
見るからに――とはいっても顔なんて無いが――テンパッた剣が問い返してきた。
『我の声が聞こえるじゃとッ!? に、人間ごときに!?』
「ごときで悪かったな。ちなみにさっきから言ってる失礼発言も全部聞いてたよ」
『そんなまさか……信じられん。神や巨人でもない人間が契約も無しに……じゃが、現にこのように会話ができるとは……うぅむ』
とまあ半信半疑に唸っている。が、こっちとしてはそんな事に構ってはいられん。どうしても聞いておかなければならん事があるのだ。
「で、マジなの?」
『へ? マジ……とは、何がじゃ?』
無い首を傾げて問い返す剣に、俺は更に顏をずずいっと近づける。あ、額がちょっと刀身に着いた。地味に熱いけどここは我慢だ。
「さっき何でも焼けるって言ってたけど――マジなの?」
『――!! あ、ああそうじゃとも! 我は終焉の剣、ラグナロクにて総てを焼き尽くすスルトの炎剣じゃ! 我が炎に焼けぬ物などありはしないぞ!』
ほんのり髪の焦げる臭いがしてきても構わず三度問い掛けると、剣は首があったら間違いなく何度も頷いていただろうハイテンションで答えた。
『人も獣も巨人も神も何でもござれじゃ! お主が望むのなら天の星だろうと焼き墜としてみせようぞ!』
「いや別に焼いてほしいのは一つだけなんだけど……」
『ふむそうか。まあそれが何にせよ我にかかれはちょちょいのちょいじゃ!』
さっきまでのしょげた感じはどこへやら、自信たっぷり得意げに語る剣は、だがそこで一旦言葉を切った後、なにやら勿体ぶるように口(もちろん例えだ)を開く。
『……じゃが、それは全て我の使い手となった者へのみじゃ。故にここで――契約の義を執り行おう』
それは静かに、重々しく、どこが荘厳さすら伴ってかけられた――契約の問い。
『人間よ。汝は我と契約し、我が力を手にすることを望むか?』
瞬間――世界が張りつめた。
流れる風が止んだ。そよぐ木々が動きを止めた。獣達の声が途絶えた。街灯に群がる羽虫ですら逃げるように闇に隠れ、完全なる沈黙が世界に満ちる。それはまるで、この世界そのものが息をのんだかのような――静寂。
その中でただ一つ、眼前で意思を問う剣の輝きだけは衰えず、むしろ更なる荒々しさと神々しさを放ち全てを赤く染め上げていく。
もはやそれを止める事は、誰にもできなかった。
×××
その様を、どことも知れぬ場所、遥かな高みから観賞する瞳が在った。
風が、木々が、鳥も獣も精霊すらも、天地総てが戦慄する中、その瞳だけはひどく楽しげに、一人の青年と己が鋳造した創造物である炎剣の姿を見つめている。
解き放たれんとする災厄。世界を滅ぼす事を運命づけられた剣を見つめるその瞳は、どこまでも残酷で禍々しく――そして純粋。さながらそれは蟻を潰す時、あるいは蝶の羽をむしる時、それを無邪気に楽しむ子供の瞳だった。
「ああ、私の愛しい子。終焉の娘よ。お前も遊びたくて堪らないのだね」
語りかける声は、慈しみに溢れ。
「遊べよ遊べ。誰も彼もを焼き尽くし――使い手すらも燃やすまで!」
歌う響きは、邪悪に満ちていた。
悪神は観賞する。笑い、嗤い、嗤いながら。
己が悪戯から幕を開けた、狂騒劇の始まりを。
×××
『最強と成る事を求めるか? 総てを思うがままに焼き尽くす権利を欲するか?』
瞳を焼く炎光と噴きつける威圧感の中、本能的な何かが感じていた。
これは、きっと俺の人生を左右する問いだ。
ここが運命の分岐点。きっとこの問いにどう答えるかで、俺の――いや、何かもっと途轍もない物の運命が決まるのだと。
『世界の総てを敵に回す運命を! その総てを討ち果たす力を!』
剣が問う。俺の答えを。運命を決める――選択を!
『さあ答えよ! 終焉の剣たる我と共に、神々の黄昏を駆け抜ける覚悟がお主に――』
「特に無いけど便利そうだから契約するわ(ずぼっ☆)」
『っておおおおおおおおおおおおををををい!?』
という訳で、俺は剣をあらよっと引っこ抜いたった。お、意外と軽くて持ちやすいな。持ち上げたり掲げたりしつつ、これリュックに入るかなーなんて考える。
一方、さっきまで何やら壮大な物語が始まりそうな雰囲気で話していた剣は、泡を食ったようにわめき出した。
『ちょっ、お主何あっさり我を引っこ抜いてるのじゃ!? 契約の問いの途中だったのじゃぞ!?』
「うんごめんな。話長くなりそうだったから抜いちゃった」
『抜いちゃった☆……って普通抜くか!? 抜いてしまうのか!? 世の中何でも契約内容をよく確認しないと碌な事にならんのじゃぞ!!』
えー。といってもマジめんどくさいんで。俺ゲームの説明書ですら読まないタチなんだよ。
『こ、このうつけ者めーー!!』
「マジすまん。反省してるけど後悔はしない。あとお前なんか光が強くなってない?」
『ふえ? ちょ、えっ……これは契約完了の光じゃと!?』
何やら慌てだした剣の刀身が放つ光は徐々に増し、燃えるような赤の粒子が溢れ出た。それはマグマのような炎光の流れとなって、巨大にうねりながら俺の体に吸い込まれていく。
『まさか今の受け答えで、意思が示されたと契約の術式が判断したのか!?』
感じる。俺を内側から満たしていく――熱く煮え滾るような熱を。
熱い。血も、肉も、俺の総てが沸騰し灼熱するようだ。
『待て! やめろ! こんなアホな流れで契約しては我の威厳が……ッアーー!?』
必死で止めようとする半泣きの声も虚しく、やがて全ての粒子は俺の中へと吸い込まれた。それと同時に、俺はこいつと
目には見えなくとも確かに感じるのだ。体の……あるいは魂の奥の深い場所で、熱く流れる《力》の奔流が。
『契約……完了じゃ……』
そして光は治まり、がっくりと呟く剣の声が虚しく響いた。
どうやらこれで、契約の儀式とやらが完了したらしい。
「おつかれー。……ってなんか声が元気ないな? 大丈夫か?」
『誰のせいじゃと思っておるかーーバカーーーー!』
心配して声をかけたら涙声で思いっきり怒鳴られました。理不尽な。
その後、剣はしばらくグスグス言いながら「くそぅ……本当ならば格好いい契約の儀が何でこのような事に……ぐすっ」と運命を呪っていたが、やがてひとしきり嘆いて落ち着いたのか、最後に大きく鼻をすする音を出して(どっからだろう?)口を開いた(もちろん文法的例えだ)。
『ふん……(ずずっ)。まあよいわ……もはや契約が結ばれてしまった以上、嘆いていても意味は無い。我らのこれからの活躍で、この失態を打ち消すほどの伝説を創ればよい!!』
「うん頑張れ。俺は頑張らないけど」
『お主も頑張るんじゃよ!?』
エールを送ったはずなのにまた怒鳴り返された。可哀想に、きっとまだショックを引きずって情緒が不安定なんだろうな。一刻も早い回復を祈る。女を慰めるのは意外と手間がかかるからな。
プンスカ怒る剣を生暖かい目で見ていると、遠くから人のざわめきとパトカーのサイレンが聞こえてきた。それはどうやら、徐々に近づいてくるようだ。
『ふむ、何じゃ?』
「あ~……けっこうな音と光だったからな~。野次馬だの警察が集まってきてるんだろ」
ほら耳を澄ますまでもなく段々と聞こえてくるぞ。騒めきに交じる「おいこっちだぜ爆発したのは!!」「隕石か?」「爆弾かも」「えっもしかしてテロ!?」という声が。
……あれ? これって俺が重要参考人として警察に連行される流れかな? やばいどうしよう。このままじゃ俺、留置所の堅いベッドで一夜を過ごすことになっちゃうよ。
「…………ここから家まで歩くの面倒だしそれでいいや」
『いいわけあるかバカーー!!』
「また閃光!?」「一体何が起きてるんだ!?」うちの剣がキレてるんです。
『我の使い手たる者が官憲に捕まるなど断じて許さん。だいたい我らの武勇伝にそんな格好悪いエピソードなどあってたまるか! 逃げろ! 今すぐ脱兎のごとく逃げるのじゃ!』
「えーめんど――」
『いいから逃げろーー!!』
かくして、俺は本格的にブチギレた剣の怒声と閃光にせっつかれつつ、この場を去る事にしたのだった。
……光る異形の剣を所持した大学生が深夜の街を徘徊しても職質一つ受けなかったのは我ながらラッキーだったと思う。
それにしても……今この時も感じる、剣を握る掌から伝わる荒れ狂う灼熱の力。
まるで巨大な火山を握りしめているかのような感覚。溢れ出る無尽蔵の力が、噴火の時を待っているかのようだ。
それを手中にした俺は、ふと思った。
「ああうん。……なるほど。たしかにこれなら……」
――世界すら、焼き尽くせるのかもな。
もちろんしないけどね。
×××
そしてボロアパートへ帰宅後……。
案の定、俺は夜遅く帰ったことを抱き枕に盛大に怒られた。それはもう長く、延々と続いた説教は、最後には何故か「一体何のよこの女は!?」と剣についての愚痴になった。何故だ。ひたすら平謝りに謝って何とか許してもらったが、その頃には帰宅するまでの肉体的疲労と精神的な疲労のダブルパンチで壮絶に腹が減ってしまったよ。
な・の・で
「さっそくお前には焼いて欲しいものがあります」
『ふはははははは! ついにこの時が来たか。――さあ我が主。我が伝説の紡ぎ手よ。我を使い望む総てを焼き尽くすがよい!』
「んじゃ遠慮なく」
ぐーたらクッキング☆はっじまるよー。
まず用意するのはサラダ油。剣の刀身にたっぷり垂らします。
『おいこら人間。貴様なぜ我に油を塗っている?』
「……ん? だってそろそろ夕飯の時間だろ?」
むしろ延び延びになってもはや夜食です。なので文句は気にせずテキパキいきましょう。
『いやそれは分かっておる。が、それと我の刀身に油を塗るのには何の関係あるのじゃ?』
「いや決まってるだろ? レバニラ炒めを作るのにレバーを焦がしたら台無しだからな」
美味しい料理は手際の良い調理から。油を敷くのにも手を抜きません。
『いやいや待て。そんな『え、当たり前じゃん?』という顔をされても意味が分からんぞ。……ってなんだその肉は? なぜ我をちゃぶ台の上に横たえるのか!?』
「いいから黙って大人しくしてろよ。天井の染みでも数えてればすぐに終わるから」
料理は女を抱く様に、時に優しく、時に繊細に、そして時には強引な荒々しさも必要なのです。
『んなっ!? き、貴様我を辱める気か!? 我こそはいずれ世界総てを焼き尽くす終焉の――っておいこらやめっ肉を乗せるなああああ!?』
そして主役のレバーを御・投・入! 嗚呼魅惑のお肉その名はLIVER。これがなくては話になりません。鉄板代わりの剣が泣いても喚いても乗せましょう。
「おージュウジュウいってんのにちっとも焦げ付かない。やっぱりお前めっちゃよく肉焼けるなぁ♪」
『焼くなぁ! くうぅ……我は伝説の武器なのにッ。終焉の剣なのにぃッ。こんな使い方は間違っておるのじゃああああああ!!』
そうしてニラと一緒に炒めれば、これにてレバニラ炒めの完ー成ー❤
さてそのお味は……。
「(ぱくっ……もぐもぐゴックン)……ッ!! うめええええええええええ!?」
炭火とも直火とも違うこの繊細かつ豪快な焼き加減ッ。世界すら焼き尽くせるならレバーもいけるんじゃねと思い契約したものの、まさかこれほどとは……ッ!?。
しっかり火が通りつつも肉の柔らかさを損なわない、口の中で爆発するようなこの美味さは――まさに神の御業か!!
「すごすぎる……ッ。これが……お前の力なのか!!」
『こんなんで褒められても嬉しくないわああああああ(泣)!!』
舌も蕩けるレバーの味に感動する俺の声と、世にも哀れな終焉の剣の悲鳴が、春の夜に盛大に響き渡った。
――こうして、ぐーたら男な俺と終焉の剣のこいつの日常が始まったのだった。
「俺、お前を拾って本当によかったよ!」
『我、お主に拾われて本当に最悪じゃよ!』
そんなこんなで第三話。思ったよりも早く届けられました。作者がんぱったよ。
あさて、基本この物語に登場する武器の数々は伝承になるべく忠実に描くことを(キャラ付けは別として)心がけていますが、メインヒロインである終焉の剣こと《スルトの炎剣》だけは、ちょっとロキによって鋳造されたというオリジナル設定を入れておきました。これは後に出る■■■■■■との因縁を強くするために加えたもので、詳しくは次回に書きます。
でもその次回はしばらくというかいつ出るかもわからないのです。なぜならばいい加減他の作品も書かなくてはいけないから! というわけで次回は拙作の『極悪少女は縛れない』を更新してからとなります。一応この物語と世界観は繋がってるよ。これは宣伝だ!
……言っちゃったよ……ハハ……これはマヂに書かにゃシャレにならんな……(泣)