《ぐーたら男と終焉の剣》~拾ってみたら日常生活でめっちゃ使えましたw~   作:どるふべるぐ

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Q,話が進んでなくね?
A,長くなったから二話に分けたんです。動くのは次回から!


混沌たる理想のバイト先

 俺、九十九洋吾(つくもようご)が暮らす神原市の駅前には『キラキラ商店街』なるアーケード街が在る。

 駅からすぐ近くの立地というと、いかにも若者向けのオシャレな店がありそうだが、どっこいここは呉服屋や乾物屋に駄菓子屋など昭和の香りがする商店が軒を連ねる昔ながらの商店街だ。

 当然利用客も中高年の爺様婆様が中心で、心地良い小春日和となればアーケードの中は老若男女ならぬ老男女でごった返している。

 俺は今、そんな御長寿ジジババパラダイスの中をのんびり歩きながらバイト先へと向かっていた。

 

『で、お主のバイト先とはいったいどのような所なのじゃ?』

 

 すると背中に風呂敷で括りつけた剣が、ふと無い口を開いてこんなことを聞いてきた。

 

『いや、お主の様な勤労意欲が欠片も無さそうなぐーたら男を雇おうという奇特な職場が、どうにも我には想像できなくての』

「おぉう失礼だな否定はしないけど。でも言っておくが俺のバイト先はウルトラホワイトの優良零細企業だぞ」

『ほうほう具体的には?』

「滅多に客が来なくて仕事は少なくでも給料はキッチリもらえます」

『なんじゃその駄目人間の理想郷は!?』

「ついでに従業員は俺と店長だけだから、人間関係に煩わされる事も無い無気力系コミュ障には優しい職場です」

『のう主よ。自分で言っていて悲しくならないのか……?』

「だって事実だし」

 

 知り合いや友人ならともかく、見ず知らずの他『人』とコミュニケーションするのはめんどいしかったるい。それをしなくていいというのも、そのバイトを選んだ最大の理由の一つだ。コミュ障ですが何か?

 堂々と言うと、背中から返って来たのは呆れ交じりの溜息でした。

 

『で、一体なんなのじゃ? そのお主に随分と都合のいいバイトとやらは?』

「それは……まあ見てのお楽しみという事で」

『お主単に説明が面倒くさくなったな……』

 

 ジト目を向けられた気がするけど剣に目なんて無いから気のせいです。

 

「……でもまあ、不満な所もあるっちゃあるな」

『ほうどんなじゃ?』

「人はいないけど騒がしい」

『?』

 

 疑問符を浮かべる剣を背合いつつ、俺はアーケードの中を進んでゆく。

 奥へ、奥へ、やがて辿り着くのは古びたスナックと小さな映画館の間の細い道。二つの建物との間にぽっかりと空いた空間は影に覆われて、まるで日の当たる世界から隔絶されているかのようだ。

 そんな薄暗い路地裏へと入り、進むことしばらく。

 

 ――その奇妙な建物は、現れた。

 

 それは古びた、まるで物語の中から抜け出したような店だった。

 こんな日本の地方都市よりも、古い映画で見た19世紀の倫敦(ロンドン)に在りそうなレトロな外観。洒落ていながら、どこか怪しげ。玄関先に吊るされた年代物のランプの仄かな明かりが、ビルとビルの狭間の暗がりの中、妖しき鬼火(ウィル・オー・ウィスプ)のように揺らめき来店者を待っている。

 そこは骨董品や古美術など、古今東西のお宝を売る路地裏の骨董店だ。

 

『ここが、お主のバイト先か?』

「ああ。ようこそ我がバイト先へだ」

 

 ちょいと気取って言いつつ、木目の美しい玄関扉のドアノブを握った、瞬間――

 

「ふッざけないでちょうだいな!!」

 

 ヒステリックな怒声がドアの向こうで爆発した。

 まるで生理中のイベリコ豚の絶叫を思わせるおばさんの声に、思わず顔と柄を見合わせる俺と剣。

 はて変わった客がよく来る店だとは思っていたが、ついに牝豚まで来店したのかしらん?

 

「このワタクシに商品を売ることが出来ないなんてどういう事よッ!? ワ・タ・ク・シ・はねえそこらの貧乏人とは違うの! お金ならいくらでも払うって言ってるでしょッ! さあ分かったのならさっさとそのダイヤの首飾りをよ・こ・し・な・さーーーいッッッ!!!!」

 

 怒りを滲ませた甲高い声のあまりの大きさに、ドアが軋んで罪も無い窓ガラスが震え『いやー壊れるー!?』と悲鳴を上げた。だがなおも喚き散らすモンスターお客さんに、いっそ今日はバイトをサボろうかなぁと考え始めた時、

 

「――生憎ですが、いくら大金を積まれたとて貴女には売りたくないのですよマダム」

 

 穏やかな声が、それを止めた。

 その声は老いてはいるが、深い知性を感じさせるバリトンで

 

「貴女には、この首飾りの価値がお分かりになりますかな?」

 

 何かを試すように、問いかける。

 

「価値って……ええもちろん分かっているわよ。こんな500個以上のダイヤが使われた首飾りなんて見た事無いわ。きっと価値にして億以上の――」

「正確には大小合わせて540個。フランスで作られた当時の値段は160万リーブル。金塊にして約一トンほどですね」

「まあそんなに……っ!?」

 

 値段を聞いたおばさんの声が、驚きと喜色に弾む。

 

「いいわ買ってあげる! そんなに高価な物ならきっとこのワタクシに相応しいわ!」

 

 傲慢な欲望を滲ませ要求するその言葉を

 

「――ですがそんな事はどうでもよろしい」

 

 叩き潰すかのように、老いた声は告げた。

 

「な、んですってぇ……?」

「宝の価値を金銭で計ろうとは無粋極まる。それが分かっていない者ほど、金銭的価値で語りたがるものです」

「何が、言いたいのかしらぁ……ッ」

 

 肥大したプライドを傷つけられ声を震わせるおばさんを、嘆くように、憤るように、弾劾するように、朗々と語る声が否定していく。

 

「宝とは、相応しい持ち主の下でこそ最も輝くもの。いくら美しい首飾りでも、その真の価値も分からぬ豚が身に着ければ本来の輝きを失ってしまう。全ての宝を愛する者として、そんな悲劇を許すことは出来ません」

 

 そして最後に、断固たる決意を持つ、確固たる信念の言葉で

 

「ここは今だ持ち主の現れぬ宝が、相応しい相手へと出逢うための場所。――お帰り下さい。ここに貴女(ブタ)にやる(しんじゅ)は無い」

「~~~~~~ッッッッ!!!!」

 

 一片の容赦無く、拒絶した。

 瞬間、ブチッと何かが切れた音が聞こえて

 

「ふッッッざけんじゃないわよ馬鹿にしてッ!! 名品のある骨董店って噂を聞いてたけどまさかこんな失礼な店だとは思わなかったわ!! こんな店むしろこっちから願い下げよ! 帰らせてもらうわ!」

 

 ブチ切れた金切り声が大爆発。

 そしてこんな所にはもういられるかと言わんばかりの怒れる足音がドアへとドカドカ近づいてくる。そしてドアノブがガチャッと音を鳴らし

 

「ちょっ、全然回らないわよこのドアノブ!? 玄関までワタクシを馬鹿にするの!?」

 

 あ、そういや俺ドアノブを握ったままだった。

 これは失礼。はいはい今開けますよっと。

 謝罪の気持ちも込めて勢いよくドアを引いて開ければ、反対側のドアノブを握っていたおばさん(やっぱり)が悲鳴を上げて飛び出してきた。

 

「ぶきゃあああああああふべっ!?」

 

 どうやら握ったドアノブに引っ張られてしまったらしい。

 けばけばしい化粧に成金臭のする派手な毛皮のコート姿。正直、脂肪の塊にしか見えないデラックスな体形のおばさんはゴロゴロ転がり地面に激突。でもって東北は会津名物《おきあがり小法師》よろしくコロンとおき上がるのかと思いきやそんな事は無かった。

 

『おおなんと!? ミッドガルドにもオークがいるのか!』

「こらお客さんに失礼言うな。見た目は限りなく豚だけどDNA鑑定すればちゃんと人間だから。……たぶん」

 

 ごめんねお客さん断言できないや。

 さて、とはいえここはバイト店員として一言言っておかねばなるまいや。

 

「えーと、またのご利用をお待ちしてます」

「二度と来ないわよこんな店ええええええええええ!!」

 

 声をかけるも案の定、おばさんはガバッと起き上がると呪いの言葉を吐いて去っていった。肩を怒らせ路地の向こうへと去る姿は猪のよう。でもって普段はクールな窓ガラスは『二度と来んなブタがあ!!』と罵ってました。よっぽど迷惑だったんだな。

 その後ろ姿を一人と一個で眺めていると、開かれたドアの向こう、薄暗い店内に佇む人物に声をかけられた。

 

「いい所に来ましたね洋吾君。早速ですか玄関に塩をまいてはもらえませんか」

「あいにく塩を切らしてるんで砂糖でいいすか?」

「豚の代わりに蟻が来るのでやめておきましょう」

 

 なんて俺と和やかな会話を交わす人物――好々爺然としたドイツ人の老紳士こそ、この骨董店の店長だ。

 

 鋭い嘴を思わせる鷲鼻が特徴的な、老いて皺だらけの顔。口元を覆う豊かな白髭は腰まで垂れて、まるでファンタジーの魔法使いのよう。七十はゆうに超えているだろうその老体に、だが弱弱しい印象は無い。むしろ真っ直ぐに伸びた背筋と、長い眉毛の奥の瞳に宿る深い知性が、この老練の人物がただ者でない事を見る者に――なんて回りくどい表現をつらつら並べるのも飽きてきたので一言で済まそう。

 

 第一印象・偽ガンダ●フ――以上。

 

『最悪の例え方じゃの!?』

「ふむ。なにやら失礼な事を考えていませんか?」

「気のせいすよ店長」

『いや考えうる限り最悪じゃろ!』

「気のせいかどこかで誰かがツッコんでいるような気も……」

「人間年を取れば聞こえないはずの声の一つや二つ聞こえるもんです」

「こう見えてもまだボケてはいないはずですが……。まあよろしいでしょう」

 

 さして気にする様子も無く納得してくれるあたり、大人の心の広さを感じる。いつか俺もこんな大人になれたらいいなあ。

 そんな店長は、玄関先に立つ俺に穏やかな――だがどこか底の知れぬ瞳を向けて

 

「では、今日もお仕事を頑張りましょうね。洋吾君」

 

 本日のアルバイト開始を告げたのだった。

 

「――ああそれと……」

 

 促され、店の中に入ろうとした時、

 

「その背中にある物を見せてはもらえませんか? ――なにやら珍しい、宝の臭いがするので……」

 

 そう語る店長の笑みが、俺には獲物を見つけた鷲のように見えた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ドアの向こうの側は、まさに異空間だった。

 天井からは蜘蛛の巣のようなドリームキャッチャーや煌びやかなネックレスなど、無数の飾り物が釣り下がり、壁一面には美しい絵画や奇怪な仮面が掛けられ、空洞の瞳を虚空に向けている。そして床や棚には、彫像や陶器、装飾品から書物に果ては玩具まで様々な物が所狭しと並べられていた。

 

 ここは遥かな太古から現代まで西の端から東の果ての、あらゆる物のあらゆる色が混ざり合い、訪れる者にここをどの時代のどの国にも属さぬ異空間であるかのように思わせる。

 そんな混沌の店内に入った俺はまずさっそくお仕事――の前に、ある頼みごとをすべく店長に声をかけた。

 

「すんません店長。実は折り入って頼みがあるんですが」

「生憎ですが給料をレバーで払えというのは無しですよ」

「いいえ違います。でも給料の件はぜひとも再考して下さい。――とりあえずこれをご覧くださいな」

 

 そう言って俺は背負った剣を外し風呂敷から出して、近くのアンティークのテーブル(お値段100万円也)の上に置く。

 

『な、何じゃいきなり? 主よ一体……――はっ! もしや我を売り払いレバー代に変える気か!?』

「いやそんな訳ないだろ。お前がいなけりゃ何でレバーを焼けばいいんだ。――あ、テーブルさんやちょいと置かせてもらうよー」

『ああ良いよー――って熱ッ!?』

 

 剣が発する熱にテーブルが悲鳴を上げたが大丈夫。彼は耐火性だ。きっとこれくらいへっちゃらさ。

 一方、俺が背負っている物が気になって仕方がなかったらしい店長は、プレゼントを開ける子供のような瞳で風呂敷の中身が現れるのを待っていたが――一目見た瞬間、息を呑み、その瞳を見開いた。

 

「これは……」

 

 わなわなと震える唇そして声。幾多の宝を見、そして鑑定してきた瞳はテーブルの上の剣を捉えて離さず、無数の亀裂から洩れる赤き光に彩られた漆黒の刀身、溶岩石をそのまま剣の形に削り出したかのような異形のフォルム、その総てを抑えきれぬ興奮と精密なる観察眼を以て見つめ続けていた。

 

「まさか……いや、そんな……ッ…だがこの威容。これ程の物は他に無い……ッ」

 

 上ずる声は驚愕と高揚を孕み、畏怖を込めてその名を紡ぐ。

 

「……終末の炎……灼熱の災厄……――終焉の剣!!」

 

 店長は高らかに叫んだ。

 新たな宝との出会いを喝采するように、満ち満ちた感動が室内に轟き大気を揺らす。

 え、ていうかいきなりなに? どしたの店長? 高齢者がそんな興奮すると召されちゃうよ。

 感動をありがとう状態のテンションにちょっぴり引く俺に、店長は

 

「……洋吾君。君はこれが何であるか分かっているのですか?」

「え? 小二病こじらせた調理器具っすよね」

『ちゃうわバカーー! よいか我は――』

 

 

 

「――これは、世界を終わらせる剣です」

 

 

 

「へ?」

 

 いきなり何言ってんのこの高齢者?――とは、言えなかった。

 そう語る店長の瞳に、一切の偽りも冗談も無かったから。

 え? あれ? 確かに凄い力があるし初めて会った時「世界をも焼き尽くす力を」って言ってたけど、あれって小二病拗らせた戯言じゃ……

 

「…………マジで?」

「はいマジです」

 

 答える店長の瞳には、やっぱり真実しかありませんでした。

 




投稿完了やったね。ここまで読んでいただきありがとうございます。
主人公のバイト先は骨董店でした。これは作者の独断と偏見の下に、ぐーたら人間でもできる暇そうなバイトを考えたらこうなりました。だって近所の骨董店とか客が入ってるのをほとんど見たこと無いもの。

前書きで言った通り、今回は長くなった話を二つに分けた形なので物語が動くのは次回からです。どうかしばしお待ちください。


スペースが寂しいので、おまけのモブキャラ紹介コーナー。

《首飾り》

革命前のフランスで作られたダイヤの首飾り。
当時としては技術・価値共に最高峰と言って良い代物だったが、色々あって詐欺に利用されたあげくバラバラに分解されてしまう。それを後にお宝フリークの店長が部品であるダイヤを世界中から探し出し、かき集めたそれらを主人公が夜鍋して繋ぎ合わせ復元した。
元は女王のために作られたからかプライドが高く高飛車だが、かなりの不幸体質。自虐スイッチが入ったら「どうせ私なんて……」ととことん落ち込む。
基本誰に対しても上から目線で接するが、自分を復元してくれた主人公に対しては思う所があるのか、多少態度が軟化するようだ。
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