《ぐーたら男と終焉の剣》~拾ってみたら日常生活でめっちゃ使えましたw~   作:どるふべるぐ

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Q,下手したら作者ファンタジーファンに殺されるんじゃね?
A,このアンチ・ヘイトタグが目に入らぬか!これさえ付けとけばきっと許してもらえる……はず!

※ 本エピソードには過激なアンチ・ヘイト要素があります。ガチのファンタジーファンは広い心でご覧ください。無理ならブラウザバックして間違っても作者に石を投げないで。


間違えてないか? 我はスルトの炎剣じゃぞ。レーヴァテインではない。

「――我が祖国、北欧の神話において、世界の終わりには《神々の黄昏(ラグナロク)》という大戦争が起こります。そして、その戦いの最後に神々と巨人ごと世界総てを焼き尽くすのが、この剣なのです」

 

 怪しげな雰囲気漂う店内に朗々と語られるのは、畏怖と、そして称賛を込めて語られる終焉の神話。それが、この剣の物語らしい。

 その時、テーブルに置かれた剣。その刀身の亀裂から洩れる輝きが、僅かに増した。

 

「北欧神話とは、すなわち戦いの神話。あらゆる英雄と無数の武器が登場する中で、しかしこの剣を超える物は一つとしてありません。これは人を殺すための物でも魔を討つ物でもなく、また神を滅ぼすための物ですらない。これは《世界》そのものを終わらせるべく創造された唯一無二の破界兵器! 北欧どころかあらゆる神話体系においてすら類を見ぬ――まさに全ての武器の頂点に立つ至宝なのですよ!」

 

 高まる声と共に、剣の輝きもまた増していく。

 徐々に、激しく、そして遂には太陽の如き輝きとなって周囲を眩く照らし――って眩し過ぎるんですけど!?

 

「ちょっ!? いきなり何してんのさ光抑えて!」

『ふ、ふふふふ……』

 

 堪らず叫ぶも返ってきたのは不気味な笑い。

 徐々に高くなっていくそれに、なんだか嫌な予感がした時――

 

『ふはーーっはっはっはーーーーーーー!!』

 

 高笑いが爆発し、赤き閃光が炸裂した。

 何もかもが赤く染まった視界の中で、剣の歓喜の声が響き渡る。

 

『然り! 然り然りその通り! 我こそ至高! 我こそ頂点! 我こそが最強無敵の終焉の剣なり!』

 

 おおぅ喜んでらっしゃる。もしや感情の高まりが赤光となって溢れ出ているのか、剣はそれはもう煽てられた小学生ばりのハイテンションかつ上機嫌で

 

『よくぞ言ったそこの老人よ。ふっふっふ……。まあこの我ほどの物ともならば~(↗)、ちょっとやそっと褒められたくらいでは心動かされるはずもないのだが~(↗)。まあ今日はたまたまちょ~っと気分が良くなったから褒めてやるぞ~(↗)。ふ~っははは~♪』

 

 いや思いっきり語尾がアゲアゲじゃないですか超ご機嫌でしょ君。

 という心の中でのツッコミなど届くはずも無く。褒められて気を良くした剣はますます調子に乗って

 

『ふふん。どうじゃ主よ。これでお主にも我の偉大さがよく分かったであろう? 今までの無礼を後悔しておるじゃろう? じゃが我は寛大じゃ。誠心誠意土下座して謝罪するのならば許してやらんでもないぞ~(↗)』

 

 うわどうしようコイツ殴りたい。

 物は大事にしろと母さんから教わったけど今だけは殴っていいかなママン?

 殴るべきか殴らざるべきか、そこが問題だ。なんて古典文学チックに悩む俺をよそになおも調子に乗りまくる剣。一方、そもそもの原因である店長の解説は今まさにクライマックスを迎えていた。

 

「世界すらも焼き尽くし、総てを終わらせる炎の剣……」

 

 今や刀身の光は痛い程に輝いて、網膜すらも焼かれるよう。あまりに強烈なそれに、店中の人ならざる『物』達ですら悲鳴を上げる。

 

『眩しいにゃーー!?』

 

 まず招き猫が小判片手に半泣きすれば

 

『ちょっ、馬鹿野郎光を反射させんじゃねえYО!? 』

 

 隣のDJ ターンテーブルが天井のミラーボールに文句を言い

 

『無茶言わんでください体質的に仕方ないんです!』

 

 そのミラーボールに反射した光が更に拡散したあげく

 

『目がああああああ!? 』

 

 某特務の青二才フィギュアの目を直撃(バルス)した。

 

 店内は今や阿鼻叫喚のパニック状態。かくいう俺もかなりヤバイ。

 赤光はもはや直視すらできず、これ以上強くなろうものなら本気で目が潰れかねないのだ。

 だからやめて店長それ以上調子付かせないでお目目とさよならしちゃうから!!

 

「その名はッ――」

 

『『『やめてええええええええ!!!!!』』』

 

『さあ高らかに叫ぶがよい。我が――御名を!』

 

 そして赤き世界に、世界を終わらせる名が叫ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《傷つけし魔の杖(レーヴァテイン)》!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――――――』

 

 その瞬間、赤光が――かき消えた。

 一瞬で。それこそ燃え上がる蝋燭の火が吹き消されるかのように。

 消沈……した。

 

「?」

 

 あれ? なぜにいきなりのテンションダウン?

 予想だにしなかった反応に、強い光を見すぎてしばしばする目でキョトンと剣を見る俺と店長。

 すると、剣がいきなりわなわなと震えだし(どうやってるんだろ?)……そして――

 

 

 

 

『レーヴァテインちゃうわああああああああああああ!!!!』

 

 

 

 

 ブチ切れた!!!!

 

『我は《スルトの炎剣》じゃ! 断じてレーヴァテインなどではない!』

 

 そして叫ぶ! むしろ怒鳴る!

 

『大体あ奴火なんて出せないし! 万年箱入りヒッキーじゃし! いくら同じロキ(ちち)に鍛えられた武器だとしても何でどいつもこいつも誰も彼もが我をあの愚妹と一緒にするのじゃああああああああああああ!!!!!』

 

 それは長年の不満と屈辱とストレスが纏めて火を噴いたかのような怒りの大爆発。

 どれほどの地雷を踏みぬいたのか、ブチ切れスイッチが入ったらしい剣の刀身から再び赤光が――じゃなくて今度は火が出てきた!?

 

『ぬがああああああああああああああ!!』

 

  怒りの炎は轟轟と音を立て、熱と光を撒き散らす!

 

『ぎゃああああああ火の粉が!? 火の粉が当たるベアー!? (by木彫りの熊)』

『心頭滅却すれば火もまた涼し――くなるはずないし熱ちーー!? (byかき氷機)』

『ソドムとゴモラを焼いた神の火だよ。ラーマヤーナにはインドラの矢と――(by特務の青二才フィギュア)』

『黙れ小僧!(by山犬の剥製)』

 

 降り注ぐ火の粉と噴き上がる炎。

 あな恐ろしや。気が付けば店内は更なる混沌。憤怒の灼熱地獄絵図に。

 耐火テーブルが奇跡的に耐えているお陰で炎自体は今だテーブル上に留まっているが、このままではどこかに引火するのは時間の問題だ。

 

「店長大変。俺の職場が存亡の危機です」

「ふむ……もしかして私は何か失礼をしてしまったのですか? それはいけません。怒らせてしまったのなら謝らなければ。……しかし、私には『物』の声が聞こえない。洋吾君、なぜ彼は怒っているのですか?」

「それがどうやら人違いならぬ剣違いだったようでして。あとこいつ人格的には女です」

「剣違い……? まさか、あれはレーヴァテインではなかったと……!」

「そのようっすね。どうやらパチモンだったようです」

 

 でも落ち込まないで店長。誰にだって間違いはあるさ。

 心の中で優しく慰めた瞬間、炎が異議を唱える様に燃え上がった。

 

『パチモン言うにゃああああ!! むしろ我のパチモンがレーヴァテインの方! 我こそが真に世界を滅ぼす剣なのじゃあああ!』

「今度は何となく分かります。洋吾君が怒らせましたね」

「悪意無きすれ違いによる悲劇です悲しいけれど仕方がない。それよりも店長。どうやら本人曰く、レーヴァテインではないけど世界を滅ぼす剣らしいですよ」

 

 それを聞いた店長は顎に手を当てしばし黙考した後

 

「レーヴァテインではないが世界を……――なるほど。謎は全て解けました」

 

 探偵ドラマのような台詞を呟いた。

 俺は空気を読んでとりあえず近くにあった鹿打帽とチューリップハットと黒縁メガネを差し出す。ちょっと迷ってから黒縁メガネの方をかけた店長は、たった一つの真実見抜く少年探偵よろしく鋭い声とキメ顔で

 

 

 

「スルトの炎剣は、レーヴァテインではないのですよ!」

 

 

 

『だからそう言ってるじゃろがああああああああ!!』

「いや怒鳴るなよ。年寄りの物忘れくらい笑って許せないと高齢化社会じゃやってけないぞ」

 

 まったく失礼な奴だ。ほら見ろ店長も穏やかな表情を保ちつつも額に青筋が浮かんでるぞ。声は聞こえなくとも失礼オーラを感じたんだろうな。でも笑ってない瞳が俺を見てるのは何故かしらん。

 

「……洋吾君には後で上司への礼節にたいする社員教育が必要ですね。ともあれ、今は先ず私の推理を説明しましょう。――洋吾君。君はレーヴァテインについてどれほど知っていますか?」

「あー……なんかファンタジー系のゲームとかでそんな武器が出てきたような……あ、たしか火とか出してた気がする」

『出せんわ愚妹は燃えないゴミじゃ!』

 

 まあ俺ゲーム自体ほとんどやらないから記憶が曖昧だけど……。

 

「そう。確かに数多くのファンタジーにおいて、レーヴァテインは炎の剣として描かれています。――ですが、その原典たる北欧神話において、レーヴァテインは一度たりとて燃えません」

「え? どゆこと?」

 

 でもゲイム業界じゃボーボー燃えてたよ。漫画界隈でもラノベ関係でも火属性最強武器の代名詞じゃん。

 

「――神話に曰く、レーヴァテインは悪神ロキが死者の国ニヴルヘイムにて魔法文字(ルーン)を刻み鍛えた武器。その身は大箱《レーギャルン》に収められ、九つの錠前で厳重に封じられている。だが一度解き放たれれば、宇宙よりも巨大な世界樹ユグドラシルの最も高き場所にいる雄鶏すらも殺害できる。それがレーヴァテインという武器……らしいです」

「らしい……って随分曖昧すね」

「それは仕方がありません。そもそも――神話には名前でしか登場していないのですから」

「へ?」

「レーヴァテインが描かれるのはエッダ詩の一つ『フィヨルヴィズの歌』において、登場人物の会話にたった二度のみ。それ以外は使用どころか言及すらされません」

「なにそれモブキャラですらないじゃん」

『ププーーww 出オチならぬ出ないオチとか何たるピエロじゃww』

 

 とんだ拍子抜け感に思わず呟くと、今まで怒鳴り散らしていた剣が一転、心底愉快そうにディスってきた。

 機嫌の回復と共に、噴き出る炎の勢いも僅かに和らいで……、あれひょっとしてこれ良い流れ? よしじゃあ俺も流れに乗っていっちょディスるか。流されるままに生きる無気力な現代っ子の真髄見せてやる。

 

「えぇと……それじゃ何でその拍子抜け武器が巷じゃ火を噴く剣って事になってんすか?」

『拍子抜け武器っ! ププっプーーww 全くもってその通り!』

 

 よし勢いが更に減った。いける。これはいけるぞ……!。

 

「箱に封じられたレーヴァテインは、炎の国ムスペルヘイムの女巨人シンモラが番をしています。そしてその夫はムスペルヘイムの王スルト。彼が振るい、世界を焼き尽くす恐るべき剣こそが――今私達の目の前に在る《スルトの炎剣》なのです」

「すげーレーヴァテインなんかより100倍は活躍してるじゃないですかー」

『然り! 我は偉大じゃ凄いんじゃぞ!』

「キャーカッコイー。どっかの不燃物とは比べ物にならないなー」

『うんうんそうじゃろうそうじゃろう!』

「いよっ北欧一。お前こそ真のラグナロク無双だー」

『ふ~はははは~~~♪』

 

 これぞ大学生の必須スキル『心にも無き誉め殺し』!

 合コンで女子を口説いたり講師に胡麻擦る際に欠かせないスキルだ。使ったの初めてだけど。

 だがこうかはばつぐんだ。炎がぐんぐん小さくなっていくぞ鎮火まであと一歩。

 

「彼女が仰っていた通りならこの二つの剣は全くの別物です。ですが推測するに、時が流れ神話が人から人へ伝えられていくうちに、いつしか二つの剣は同一の物と思われるようになったのでしょう」

 

 そして店長は培った知識を元に知性を駆使し謎を解き、老いた声で二つの剣の真実を解き明かしていく。

 

「ついぞ箱から出なかったレーヴァテインは銘と来歴以外その外見すら一切謎に包まれ、逆にスルトの炎剣は『太陽よりも明るく輝く』という外見以外、銘が出ずその来歴が描かれなかった。それぞれに曖昧な部分があった事もまた、多くの者から同一視される要因だったのでしょうね……。まあ、かく言う私もその一人ですが」

 

 悔いるように、恥じるように呟いたのち、店長はテーブル上の剣に向き直ると深々と地に伏し、土下座した。

 

「お恥ずかしい限りです。宝を愛する者でありながら、貴女ほどの至高の名器を今日という日まで誤解していた。……まことに、申し訳ありませんでした」

 

 それは心の底からの、嘘偽り無き誠実な謝罪。

 言い訳する事無く、誤魔化す事無く、ただ全身全霊を以て地に伏すその姿に、炎剣は何を感じるのか。

 流れる、言葉無き沈黙。やがて、その刀身より漏れていた炎が――ゆっくりと消えた。

 

『……もうよい。面を上げよ』

 

 静かな声音には、もう怒りの色は無い。

 

『お主に悪気が無いのは分かった。もう怒ってはおらぬよ』

 

 店長の誠意ある謝罪と俺の大学生スキルによって、怒りの炎はようやく鎮まったのだ。

 

「店長。もう怒ってないようですよ」

「よかった……。その寛大な御心に感謝を。怒りを鎮めて下さり、感謝の言葉もありません」

 

 いやそれはこっちのセリフですよ。ありがとう店長。キレた若者には大人の対応が一番なんですね。覚えておきます。

 

『そう畏まるな。何もお主が悪いのではない。誤解のそもそもの原因は……レーヴァテイン。あ奴のせいじゃッ』

 

 と思いきやほっとしたのもつかの間、再びその声音が怒気を孕む。

 どうにか表面上は落ち着いたものの、まだ内心の怒りは燻ったままのようだ。

 ギリギリという歯軋りの音と共に、地獄の底から響くような不満と嫉妬と怨念の呟きが漏れて

 

『あの不燃物が我を騙っておるせいで、我の偉業も逸話も何もかもがあ奴の物になってしまった……ッ。くぅぅぅぅ我なのに……世界を滅ぼすのは我なのにぃぃ……ッッッ』

 

 うわぁどんだけ根に持ってるのこいつ。歯が無いのに歯軋りしてるよう。

 でもなるほど……。だからこいつ、あんなに伝説だのバトルだのにこだわってたのか……。

 

『かくなる上は主よ!』

 

 え? 俺?

 

『我と共に新たなる偉業を成し遂げ、我が《スルトの炎剣》の名を天地万民に知らしめようぞ! さすればもう誰も我と愚妹を一緒にはするまい! 我は我だけの伝説となるのじゃ!』

 

 突然のご指名にキョトンとする俺をよそに、消沈していた剣の声は徐々に高まり、覇気を纏う。

 抱くは決意。己の誇りを取り戻さんとする、熱き意思を燃やして

 

『さあ主よ! 我と共に征こうぞ! 我が名が天地全てに轟くまで!』

 

 共に覇道を征こうと告げる。

 その言葉に、俺は――

 

「や、遠慮します」

『なんじゃと!?』

 

 きっぱり断った。俺はNOと言える日本人です。

 

「朝も言ったけど俺のような真性ぐーたら男にバトルとか無理なんで、できればバトル方面以外でお願いします」

『な・な・な・何を言っとるかー!』

 

 そしたら怒られた。NOと言えば何とかなるほど世の中甘くないらしい。

 

『我は武器ぞ! 戦いのみが存在意義! そも敵を焼かずに何を焼けと言うのじゃ!』

「とりあえずレバー焼いたら?」

『それはもう嫌じゃあああああああああ!!』

「そんなこと言うなよ。俺はお前で焼いたレバーの味が忘れられないんだ……」

 

 俺は悲しい。あれは今までの人生で食べてきた108種類のレバー料理の中で最も美味かった。なのにそれを生み出したこいつがそんなことを言うなんて。……はっ!!

 その時、俺の脳裏にたぶんレバーの神様あたりからの天啓がひらめいた。

 

「……そうだ。どうせなら屋台であれを売って金を稼ごう。それなら俺の肉代とお前の名声が一緒にゲット出来て一石二鳥。店名はもちろん『焼きレバー屋《スルトの炎剣》』だ!」

 

 やばい俺天才かもしれない。

 ありがとうレバーの神様。これならきっと剣も喜んで――

 

 

 

『こんのバカ主がああああああああああああああああああ!!』

 

 

 

 めちゃんこ怒られました。何でだろ?

 再び刀身から噴き出した閃光と熱風を浴びながら、俺は首を傾げるのだった。

 

 

 ×××

 

 

 それからしばらく経ち――。

 俺は、一連の大騒ぎでしっちゃかめっちゃかになった店内を掃除していた。

 幸いどこにも引火こそしなかったが、そこら中がすっかり煤まみれ。おまけに吹き荒れた熱風で棚から落ちたり倒れたりした商品で、店内はもはや嵐が過ぎ去った後のような有様だ。まさにカオス……なのは元からか。

 

『うぅ……髭が少し焦げたメェ……』

「後で直してやるから元気出せ」

 

 そんな中、俺はベソをかくヤギの頭の剥製を慰めつつ壁に掛け直し

 

『私の煌めく肌が煤だらけよ……』

「磨けばすぐにまた輝くさ」

 

 ダイヤの首飾りについた煤をキュッキュと拭き取り

 

「こわ…か…っ…た……」

「じゃあ俺の手を握ってろ。落ち着くまで傍にいてやるから」

 

 怯えてしまった人形の手を握り宥めてやったり、とにもかくにも八面六臂の大活躍をしていた。

 心はぐーたらでも筋力はそこそこある。力仕事は得意なんです。でも凄いぞ俺。たぶん今普段の三倍くらい仕事してる。これは特別手当をもらってもばちは当たらないんじゃないかなあ……チラ。

 さりげなく期待の眼差しを送るも、店長は剣を観賞するのに夢中でこっちを見てすらいなかった。チッ。

 

『――そういえば、この老人は何故一目で我が終焉の剣だと分かったのじゃ?』

 

 耐熱グローブを嵌めて剣を手に持ち――熱くて持てないらしいけどそこまで熱いかな?――瞳を輝かせながら様々な角度から眺める店長に、剣がふと呟く。その事を伝えると店長はニヤリと笑って

 

「骨董屋というのは、不可思議な物に縁のある職業なのですよ……」

 

 うん確かに。実際、中世あたりの品々には曰く付きの物が数多い。もちろん『オマケ』憑きなのも数多く、ラップ現象やポルターガイストなんかは割と日常茶飯事だ。前なんか霊感のあるお客さんが店内を見た瞬間、悲鳴を上げて逃げてった事があったなあ。俺は霊感とか無いから分からないけど何が『見えた』のかしら? 以上、骨董店あるあるでした。

 

「故に魔術や神秘への知識・技術は必須でして、かくいう私も以前の職場で同僚から少しばかり隠秘(オカルト)学や魔術学の手ほどきを受けました」

 

 ポルターガイストもラップ音も、発生源に店長のお手製護符を着ければぴたりと鎮まります。でも除霊は出来ない。憑いてる商品が好きなお客さんもいるからだ。骨董は売る方も買う方も変わり者が多いんです。

 

「こう見えても私、業界ではそこそこ名が知れてまして。壇ノ浦の海底から引き上げられた神器の鑑定を、時の日本政府から依頼された事もあるのですよ」

 

 そう誇らしげに話す店長は、剣の表面を愛でる様に撫でて

 

「そのようなわけで、超常の品に触れるのは慣れているのですよ。故に、貴女の事も一目で分かりました。――これほどの力を持つ炎の剣は、世界を焼く終焉の剣しかないと」

『ほ、ほ~う……ふふん♪ ま~あそうじゃろうな。我ほどの神剣は他に無く、考えてみれば一目で分かるのも当然か~(↗)』

 

 あ、また調子に乗り出した。

 店長真性のお宝フリークだからすぐ名品を褒め称えちゃうんだよなあ。まあ時にはそれが行き過ぎて――

 

「特にこの刃のラインの美しさや…はぁ……武骨ながらも原始的な美を感じさせるフォルムなどは……はぁはぁ…」

『そうじゃろうそうじゃろう……て、おいちょっと撫で過ぎじゃ――』

「この黒く艶やかな表面……ッ。火山岩の如きザラザラとした肌触りなどもう……もうッ!」

『ひっ!? な、なんじゃいきなり息を荒くして……なっ撫でまわすにゃーー!?』

 

 あ、やばい店長スイッチ入っちゃった。

 

「くんかくんかぁぁ……臭いもまた素晴らしく…ッ…すぅぅはぁぁぁすぅぅはぁぁぁ……遥かなる神代の香りが鼻の奥までえぇぇッ!」

『ひいいいいい!? あ、主よ助けてくれーー!!』

「うんごめんそれは無理。給料と雇用を握られてる一社員風情に雇用主は止められないから。まあ満足すれば落ち着くからそれまでガンバ☆」

『ガンバ☆ じゃないわ! 我らは主従の契約で結ばれた間柄じゃろうならば互いに助け合いってうにゃあああああああ!?』

「かわいいですねええええええええ!」

 

 溢れるまくるお宝愛が理性を上回り、バーサークムツゴ●ウ状態となった店長に揉みくちゃにされる剣の哀れな悲鳴が店内に響く。

 俺はそれを、ただ見ている事しかできず……

 

「いや見てる時間あるんだったら掃除をした方が建設的か」

 

 もとい見てる時間がもったいないので掃除に戻ることにした。

 

『薄情者めええええええええええ!!』

 

 合理的と言ってくださいな。

 それにしても……。

 

「お宝萌えーーーーーー❤」

 

 これさえ無ければ、本っ当に良い人なんだけどなぁ……。

 知的で思慮深く礼節を重んじる、キの付くお宝フリークの老紳士。それが俺のバイト先の店長です。

 

 

 ×××

 

 

『うぅ……ひどい目にあったのじゃあ……』

 

 そして仕事終わりの帰り道。

 今日一日の労働が終わって、心地良い疲労感を感じつつ歩く夜の路地裏に世にも哀れな剣の呟きが流れた。

 その声音は度重なる精神的疲労とショックで憔悴しきっている。

 

「うん大変だったなぁ」

『誰のせいじゃ誰の!』

 

 夜闇を裂く怒声と閃光。路地裏でうたた寝していた野良猫もびっくりして逃げていく。

 

『まったく思い出すもおぞましい時間じゃった。……うぅ……夢に見そうじゃ。ただでさえ悪夢を見るというのに……』

「悪夢は大抵ストレスが原因らしいぞ。なんかあったのか?」

『誰のせいじゃ誰の!』

「あれデジャブ?」

 

 いつの間にやらタイムリープか死に戻りか永劫回帰でもしたかしらん?

 

『デジャブじゃ――』

 

 首を傾げる俺に、剣が更に文句を言おうとした。その時――

 

『――っ! 待て主よ!』

「――! あれ、今……?」

 

 俺達は、『それ』を感じた。

 小さく、微かな、だが確かに感じ取ったそれは……。

 

『お主も気づいたのか主よ』

「ああ。一瞬だったが確かに感じた」

 

 囁き合いつつ、周囲に目をやる。

 壁の如く聳え立つ建物に挟まれたほの暗い路地裏。

 街灯の光が届かず、在るのは薄ぼんやりとした月明かりのみ。それとて全てを照らすことは出来ず、ゴミ箱の裏に、脇道の向こうに、べっとりとした昏い闇が在る。闇と光が曖昧に混ざり合うここは、まるであの世とこの世の境目のようだ。

 その闇の奥に、月明かりの向こう側に、俺達は目的の物を探して目を凝らす。

 だが、そこには何者の姿も無かった。ただ光とも闇ともつかぬ薄ぼんやりとした空間があるだけ。

 

「……見つからないな」

『じゃが、確かに感じたのだ』

「ああ、そうだな……」

 

 そう、感じた。

 俺達は共に感じたのだ。この闇の奥から放たれた物、すなわち――

 

 

 

「声を」『視線を』

 

 

 

 ……んん?

 ハモったはずなのにハモってないぞ?

 不可思議な事態に、思わず顔と柄を見合わせる俺達。

 

「いや声だろ?」

『何を言っておる視線じゃろう?』

 

 んんんんぅ?

 

「……ちなみに、さっき俺は何処からか小さな声が聞こえたんだ」

『ならば我は何処からか我らを見る視線を感じたのじゃ』

 

 ……………………………。

 

「いやいや声だって」

『何を言う視線じゃ』

「声だよ」

『視線じゃ』

「声」

『視線!』

「こ」

『しっ!』

 

 互いに一歩も譲らず、俺達は平行線上で睨み合い。そして―――

 

「……やめよう。きっと俺達は疲れてるんだ」

『……そうじゃな。今日は色々あった。疲労が重なれば在りもしない物を感じてしまうものじゃ……』

 

 お互い気のせいという事にした。

 無益な争いは疲労しか生まない。かの水木しげる大先生も戦争は腹が減るだけと仰っていたしな。

 今はお互い一刻も早く家に帰って休みたい。疲労の一番の特効薬は良い食事と安らかな睡眠なのだ。

 そうして再び薄闇の道を歩きだす。すると、前方に地面に転がる二つの人影が見えた。

 

「……? なんだ?」

 

 近づいてみると、それは学ランを着た高校生だった。

 太ったパンチパーマの少年とモヒカンのチビ少年。

 二人はピクリとも動かず、うつ伏せでコンクリートの上に横たわっている。

 

「……誰?」

『いや会ったじゃろう昼間に』

 

 え……あーそういえば会ったような気もするような……しないような……。

 他人にあんま興味無いからよく覚えてないや。

 

「しかし何でこんな所で寝てるんだ? ……あ、そうか家に帰るのが面倒になったから野宿してるのか」

『そんなぐーたら男はお主だけじゃ……。それにこ奴らは眠っておるのではなく、気を失っておるのじゃ。――分からぬか? 夜気に交じるこの香りが』

 

 そう語る剣の雰囲気が、変質する。澄んで威厳があるが何処か馬鹿っぽさ漂うものから、刃の如き鋭さを帯びたものへと。まるで、鞘から剣を引き抜くように。

 その言葉に促され、鼻から臭いを嗅いだ俺はその香りに気付く。

 生々しく、鉄っぽく、鼻の奥にこびりつくようなこれは……

 

「レバー臭……!」

『血の香りじゃ!』

 

 試しに二人を仰向けにひっくり返すと、その胸に穿たれたモノが見えた。

 薄ぼんやりとした月明かりの中で赤黒く染まり、虚ろに穿たれた――刃物で刺されたような傷跡が。

 日常にはありえない光景に、僅かに息を呑む。

 だが偽物ではない。幻覚でもない。目の前に在るそれは生々しく、確かな質感を持った――惨劇(げんじつ)だ。

 

「え、なにこ――――

 

 

 

 

 

 

 

『 逃 げ て !!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 ――――ッッッッ!!!!」

 

 夜気を裂く誰かの澄んだ声が耳に届いた、瞬間――感じる凄まじい『気配』!

 鋭く、肌に突き刺さる冷たさを纏うこれは刀剣の気配だ。それが真上から、俺を狙い凄まじい速度で迫ってくる!

 考えている暇はない。たぶん考えてる間に俺は死ぬッ。

 戦慄と共に地を蹴り、俺はその場から飛び退く。

 刹那、俺が居た空間を鋭い刃が貫いた。

 

「ほぅ……今のを避けおるか……」

 

 地面に転がり、すぐさま体勢を立て直した俺は見た。

 ――地面に突き立つ、その刃の輝きを。

 

「気配は確かに消しておったのだが……。お若いの、ただ者ではないな」

 

 薄闇に響く、老いてしわがれた声。

 学ランを着たリーゼントの見知らぬ少年がそこにいた。

 そいつは幽鬼の如く暗がりに佇み、昏い情念を燃やす鬼火めいた瞳を向けている。

 だが俺の目を奪っているのは。それではない。

 俺が見つめ、言葉を無くしているのは――その手に握る刀だ。

 それは妖しき輝きを放つ日本刀だった。

 暗がりの中、地に切っ先を沈めた刃は紫の燐光を纏い闇に浮かび上がっている。

 息ができない。目が離せない。なんだこれ。なんなんだよあれ。

 その吸い込まれるような澄んだ刃が、俺の心を捕らえて離さないのだ。

 

「ただの辻斬りのつもりだったが……面白い。征くぞぉ……お若いのぉ」

 

 少年の院隠滅滅とした声に血生臭い喜色が混じり、地から刃が引き抜かれる。

 現れたその切っ先に、俺が吐いたのは悲鳴でも命乞いでもなく――溜息だった。

 

「うわぁ……」

 

 

 

 ――だってその刀は、余りにも美しかったから。

 

 

 

「辻斬りゆえ名乗りはせぬが……。代わりに我が刀の銘を……聞いて逝けぃ」

 

 刀が来る。

 昏い闇の向こうから、奇怪なる紫光を放ち。

 怖気立つほどの美しさを纏って。

 

「妖刀《村正(むらまさ)》――参る」

 

 妖しき刀が――来る!

 

 




作品史上最大文字数のエピソードをお読みくださりマジでありがとうございます!

書いてる内に色々膨れ上がった結果この文字数になりました。長ければいいって物ではないと分かってはいてもこうなってしまうあたり、自分の未熟を恥じるばかりです。

あさて、本エピソードにおいて言及したレーヴァテイン=スルトの炎剣説ですが、実際の所は何でそう言われ出したのかがよく分かっていないそうです。一説にはその昔、偉い学者先生が自分の著書の中で「もしかしたらスルトの剣がレーヴァテイン『かも』ね(実際は勿論もっと硬い文章ですよ)」と書いたのが壮絶に一人歩きしたとか……。
ともあれスルトの炎剣はご存知レーヴァテインに取って代わられ、その上現在では別物説のほうが諸説扱いされているという不遇すぎる立場です(笑)
なぜこうなったのか……作者は一つの新説を唱えます。
たぶん昔のファンタジー書いてた人が、作品でスルトの剣を出そうとしたときに銘が無いから、超カッコいい名前の《レーヴァテイン》から銘を拝借したのでしょう。だって世界を滅ぼす最強武器が名無しとか格好が付かないですし(笑)

はたしてそんな不遇すぎる炎剣がこの先どう活躍していくのか。そして知名度をupできるのか。それはこの先の物語で……。
長くなりましたが次回もどうかお楽しみに。でわ
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