「そう、報告ご苦労様。」
艦隊の充足率は徐々に戻ってきたらしい。多くの艦娘たちが訓練を終えて配属されている。
「このまま、次回の任務から通常の業務に戻れる感じだと聞きました。」
今回の不祥事では、失ったものも多かった。しかし、得られたものがなかったわけではない。代償は法外に大きかったわけだが得られたものは0じゃない。
「大変なのね。」
腕利きの艦娘が所属する大本営直属の艦隊。輸送任務や護衛任務を主にする艦隊だって例外ではない。新型から旧型まで幅広い艦娘が経験豊かな艦娘が所属している。
「そろそろ、到着する頃です。」
目の前にいる彼女は淀殿ではない。大本営所属の大淀の一人だ。教官時代からの付き合いで今でも親交がある。あだ名は小淀。
「陸軍の艦娘。神州丸かぁ。」
あきつ丸と同じ揚陸艦の艦娘だ。きっと憲兵との繋がりを持った艦娘だろう。
「はい、彼女については事前に連絡が来ていると思います。…勲章の1つも用意できなかったのは本当に申し訳なく思っています。」
「わかってるし、貴女が謝ることじゃないよ。」
今回のことは表沙汰にはしないことになっている。だから勲章や表彰なんて目立つことはできない。それに私は別に勲章や表彰といったものには興味がない。誉められたくって仕事をしている訳じゃないし、出世欲があるわけでもない。
「でも、我々が助かったことは事実です。本当にありがとうございました。」
「それで、それだけじゃないんでしょ?」
それだけなら人払いをする必要はない。わざわざ二人になる必要なんてない。
「…研究所が動いてます。」
研究所?友鶴ちゃんを艦娘にした研究所のこと?
「何だって今さら?」
「まだ、完全にはつかめていません。でも、動いていることは確かです。」
…なるほど。だから陸軍の艦娘さんなのか。憲兵との繋がりがあって陸戦を知っている艦娘。例えそれが事実でなかろうと相手は警戒せずにはいられない。
「ありがとう。」
それに万が一の事態が起こらないように警戒する必要も出てくる。海軍だけなら身内のトラブルで片付くけれど、陸軍の艦娘や憲兵を巻き込んだとなれば話は別だ。
「私にできる手伝いはこのくらいです。」
小淀の人選なら安心できる。
「これが神州丸達のデータです。」
メガネに仕込まれたメモリーカードを受けとる。
「一応、査察が終わった直後なので適当な理由をつけておきました。」
…ティーカップから立ち上がっていた湯気はいつのまにか消え失せていた。
「もう、こんな時間ですか。」
ミニ羊羮を口に運びながら一言。
「今日は、ありがとう。」
「いえいえ、とんでもない。それでは、私もそろそろ戻ります。まだまだ青い娘の集まりですから。」
相変わらず厳しいようだ。
「まるで引率の先生ね。」
扉の外には朝潮型の艦娘が五人。私達のお茶会が終わるのを待っていたのだろう。
「茶化さないでください。」
少し照れたような顔で言う。
「相変わらず、素直じゃないなぁ。」
ミニ羊羮は5つ減っていた。