毒舌な妖怪は寂しがり屋   作:カルタネット

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古明地さとりと村紗水蜜

 

 

 

「ふあ~」

 

 

 ____欠伸。それは疲れたり、緊張したり、眠たくなったりした時に自然に口が開いて行われる深呼吸の事だ。

 ほぼ自然現象に近い事であり、私が仕事中に欠伸をしても、それは仕方のないことだと思う。

 

 

「朱ちゃんは欠伸を噛み殺すという発想はないんですか?」

 

「……あるかそんなもん」

 

「欠伸を止める方法として上唇を舌で舐めるというのがありますよ」

 

 

 もう驚かない。いつの間にか私の背後で囁いて来ても私はもう驚かないんだから。

 

 

「ふふふ、いつも素直に驚いてくれるとやってる側としては嬉しいものです」

 

「だから驚いてないつってんだろうが!」

 

「私に嘘はつけませんよ? 再現してあげましょうか? 私が現れた瞬間の朱ちゃんの反応を」

 

「やってみろ。やった瞬間右腕の骨折るからな」

 

「脅すって事は認めてるのと同じですよ。それに雇用主にそんなことを言うもんじゃないです。私じゃなかったら一発で首が飛んでましたよ」

 

 

 それは分かってる。ただ声に出ちゃうんだよなぁ。最近だと思ってることが倍以上に悪くなって声に出ちゃうし。

 

 

「それはいいことじゃないんですか。思ってもないことを言うより、思っている事を口にする方が良いでしょう?」

 

 

 それもそうかな。まあ、でもその殆どがさとりへの愚痴なんだけどね。

 

 

「そうなんです。さとり悲しい」

 

「お前が愚痴られるような事ばかりするからだろ」

 

「はて? 私は朱ちゃんに好かれるような行動しかとらないようにしているのですが」

 

「お前、ついに人の判別すら出来なくなるまで脳が腐ったか。私がその対応で喜ぶわけないだろ、阿呆が」

 

 

 もう! これじゃあ掃除が進まない! さとり! 邪魔だからあっちにいって!

 

 

「良いじゃないですか。お喋りしましょうよ」

 

 

 なら手伝ってよ……

 

 

「それは駄目です。ちゃんとお金を払ってるんですからね。その分はちゃんと働いてもらいます」

 

 

 だよねぇ。

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 私は数日前から地霊殿の空き部屋の清掃員として働いている。

 空き部屋と聞けば楽なように聞こえるけど、実際は全然違う。思ったよりも空き部屋の数が多く、そのどこもが蜘蛛の巣が張られているほど埃被っていてとても大変だ。

 そして昨日、漸く全部屋の大まかな掃除を終え、2回目の清掃を行っている。

 2回目といっても1回目に洗ったシーツとかをまた着け直すのとまた溜まった汚れを拭き取るぐらいだけどね。

 これぐらいなら今日中に空き部屋全部清掃できそうだ。

 

 

「にゃ~」

 

「……燐か。私に何の用だ」

 

 

 洗い終えたベッドのシーツを敷いているとドアの隙間からお燐が猫の姿のまま入ってきた。

 前は猫の姿しか知らなかったとき、私の素を出すことが出来ていたのに、人型の姿を見て以来(正確にはさとりのペットと知ってから)、何故かお燐が猫姿でも素が出せなくなってしまった。

 ほんと、なんでだろうね~。あ、別に恥ずかしい姿を見られるのが嫌とかそういうのじゃないよ。ほんと何故か出せなくなったの。

 

 

「あー、この姿なら大丈夫だと思ったんだけどなぁ」ボフッ

 

 

 そんな発言とともに人間の姿になるお燐。

 猫姿のままでよかったのになぁ……

 

 

「で、改めて問うが、何故私のところへきた。まさかさとりと同じく私をからかいに?」

 

「そんな勇気あたいにはないよ……」

 

 

 勇気?私をからかうのに勇気はいらないと思うけど。

 

 

「あたいはただお姉さんとお話ししに来ただけだよ」

 

 

 え?私と?私と話したって気分が悪くなるだけだよ。

 

 

「なんだお前、そんなに私に罵られたいのか?とんだマゾヒストだな。」

 

「うっ、ぐ……やるねぇ、お姉さん。あたいが猫のときの甘々な感じとは段違いに辛辣」

 

「……元からだ」

 

 

 は、恥ずかしい……そういえばあのときはまだお燐が人並みの知能を持ってるなんて夢にも思わなかったから、凄い恥ずかしい言動を連発してたんだった……

 

 

「ほらほら、この前みたいに可愛がってもいいよぉ」

 

「おい、お前さっき私をからかうのに勇気がいるって言ってただろ。今完全に自然な感じで私を弄っただろ」

 

「あ、ほんとだ!凄い!

 さとり様はいつもこんな感じでお姉さんをいじってたんだね!あたいもこれからこんな感じでお姉さんをからかうよ!」

 

「凄くないしからかうな!!」

 

 

 ペットは飼い主に似るっていうけど、私をからかうのはほんとにやめてほしい。

 だってお燐が言うの大抵恥ずかしい事だと思うもん。

 

 

「あ、そういえばこの前お姉さんと一緒にいた人とさとり様、お姉さんの事『朱ちゃん』って呼んでたよね! あたいもこれから『朱ちゃん』って呼んでいい?」

 

 

 あ、良いよ!なんだかお姉さんと呼ばれる度にむず痒かったし!

 

 

「駄目だ」

 

 

 だ、だよねぇ……

 私の口は思っている事と逆の事を吐いてしまう。これでお燐が遠慮してきたら嫌だなぁ。

 

 

「さとり様が『朱ちゃんの言う否定は肯定だから』って言ってたからね!肯定と受けとるよ!」

 

「!!」

 

 

 と、思った矢先、まさかのさとりのおかげでお燐は遠慮しなかった。ありがとうさとり!

 …………ん?ちょっと待って。私の言う否定は全て肯定と受けとるってことは、本当に嫌で言ったとしても肯定と受け取られるって事になるんだけど……

 

 

「まあとにかく、これから宜しくね!赤ちゃん!」

 

「アクセントが違う!」

 

 

 ここでもさとりと同じ弄りをしてくるとは……

 ま、まあでもお燐と仲良くなれたことは良いことだ。お燐がおおらかな性格で良かったぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■●■●■●■●■●■●■●■●■●■

 

 

 ~地霊殿(客間)~

 

 

「さて、結局ここで働かなかったミナミツをここに呼んだのは他でもありません」

 

 

 私は現在、自宅である地霊殿の応接間にいる。何故主である私が応接間にいるのかと言うと、答えは単純、客が来たからだ。

 来た、というより来させた、といった方が正しいですがね。

 そしてその客人というのが、この前ここで働く誘いをしたのに断った村紗水蜜だ。

 私は今日、村紗水蜜に聞きたいことがあって彼女をここに呼びつけた。

 

 

「も~、私だって暇じゃないんだからね。誘いを断ったのもどっちかって言うと来れない日の方が多いからってのが理由だし」

 

「そうですね。1日でも早く己にかかっている封印を解いて仲間を助けにいきたいですものね」

 

「うぐっ」

 

 

 そう、村紗水蜜は常日頃から同士とともに己にかかっている封印を解くため、奮闘している。

 まあでも、殆どが失敗に終わって最近では半ば諦めムードになりつつありますが。

 

 

「貴方達にかかっている封印はかなり強固な物で、この旧地獄自体が貴方の枷になっています。この旧地獄に災害か何かが起こらない限り解けることはありませんよ?」

 

「わかってる。わかってるんだけどさぁ……あと少しなんだよ、あと少し封印が緩めば私達の力でなんとかなるんだけど……」

 

「……」

 

 

 彼女がどうしてもここを出たいのかは心を読んでわかる。

 ____昔救って貰った恩人への恩返し。

 それは決意に綻びがでてもおかしくないほど昔のことであるというのに、全く揺るぎがない。

 朱ちゃんというかけがいのない友人を得た現在であっても。

 だから私は『ここに留まる気はないのか』等という分かりきった質問はしない。彼女は、封印が解け次第、躊躇いなくこの旧地獄を出ると言うだろうから。

 

 

「まあ、ミナミツの封印のことはどうでもいいんですよ。私が呼んだのはそんな事ではないので」

 

「ど、どうでもいいって……私にはかなり重要なことなんだよ?」

 

 

 わかってます、でも私にとっては重要ではないのですよ。実際私は村紗水蜜に興味などないのだから。

 

 

「では、本題に入りますよ」

 

「はいはい、わかってますよ。どうせさとり私のことなんて興味ないんでしょ」

 

「はい。まったく」

 

「うぐっ、真顔で言われると精神的にキツいなぁ……で、興味のない私を家に呼んだってことは、やっぱり朱ちゃん関係?」

 

「わかってるのなら話が早いです」

 

 

 そう、私が村紗水蜜を家に招き入れたのは朱ちゃんについてです。

 心を読むことができる私でも、分からない朱ちゃんに対する疑問。もしかしたら村紗水蜜が知っているかも知れない。一度朱ちゃんにその疑問を打ち明けてみたのですが、本人ですら分からないことであったらしく、わかりませんでした。だからもしかしたら村紗水蜜も分からないかもしれない。だけど朱ちゃんと親しい人物と言えば彼女しかいないため、他にわかる可能性が高い人物はおそらくいない。

 つまり半ば駄目元で聞いてみるつもりだということです。

 本人でも分からないことを他人が知っていることは殆どないのですから。

 

 

「何故、朱ちゃんは笑わないんですか?」

 

「……?」

 

 

 そして私が思っている疑問は単純かつ難解。朱ちゃんの表情についてです。彼女はいついかなる時でも笑みを見せない。たとえ心の中で笑っていたとしても。彼女が見せる表情は無表情か怒った時のみ。

 その真相を探ろうにも朱ちゃんの心はいきなり自己嫌悪モードに入ってよくわからなくなる。もしかしたら笑うことに対するトラウマがあるのかもしれません。

 

 

「笑わない、ねぇ……それについては私も疑問に思ったことはあるよ」

 

 

 と、頭を掻きながら口を開く村沙水蜜。この反応だと、おおよその予測をつけてはいるということなのでしょうか……

 

 

「そういえば昔ね。朱ちゃん、自分が笑うと皆が不幸になるって言ってたんだよね」

 

「はあ……」

 

「だからかも知れない。朱ちゃんが笑わないのは。もしかしたら自分が笑ったら相手が不幸になる呪い(能力)でもあるんじゃないかと思ってるんじゃない?」

 

 

 能力、ですか……確かにその線はあるかもしれませんね。そういえば朱ちゃんが心の中で自己嫌悪してるとき能力やらなんやらいってたような気もします。

 

 

「私はそれでも朱ちゃんの笑い顔見てみたいんだけどねぇ」

 

「不幸になってでもですか?」

 

「ん? 朱ちゃんが笑えば私は幸福で一杯になって後の不幸なんてどうでもよくなるよ」

 

「……ほう」

 

 

 心を読める私には嘘は通じない。と言ってやろうと思いましたが、どうやら本心のようです。とういうより村紗水蜜、口から出ることの殆どは本心であり、一度として嘘を言っていない。少なくても私のいる前では。

 ……少し彼女をみくびっていたようですね。

 

 

「それにしても能力、ですか……笑うと周りが不幸になる能力」

 

「難儀なもんだよね。自分がどんな妖怪なのかもわからず、笑うことも許されない」

 

「ん? 別に笑うことが出来ないわけではないんでしょう?」

 

「出来ないよ、朱ちゃんの性格上ね。……あの子は優しいから」

 

 

 と、目を細めて少し寂しそうな顔をする村紗水蜜。

 やはり、付き合いが長いのに朱ちゃんの笑った顔を一度として見てないことに落ち込んでるみたいですね。

 

 

「そうですね」コトッ

 

 

 その村紗水蜜に同意の言葉をかけつつ、湯呑を手に取り、少しぬるくなったお茶を啜る。

 

 

「やはり、私と朱ちゃんは似ていますね」

 

「そう? 確かに体型は似てるけど」

 

「昔のトラウマが枷となって感情を表に出すことが出来ない」

 

「あ、確かにさとりも殆どが無表情だよね。たまに少し笑うけど」

 

 

 私にもトラウマが無いわけではない。覚妖怪というだけで周りから忌み嫌われ、迫害を受けてきた。妹はそれに耐えきれず、覚妖怪の本分を捨てた。

 今でこそ安定しているが、昔は何度も自殺を考えるほどに私は追い詰められていた。

 多分、そのせいで私も感情を表に出せないのかもしれませんね。今はなんともなくても、心の奥底ではそのときの傷が残ったままで、その傷が痛んで、無意識のうちに昔の癖を直すことができなくなっている。

 

 そしてその傷を治すには…………

 

 

 

「あ、もうそろそろ行かなきゃ。私帰るね!」

 

「……また無駄な足掻きをするんですか?」

 

「無駄かどうかはわかんないよ?」

 

「そうですか……朱ちゃんには会わないんですか? おそらく2階の空き部屋の掃除をしていると思いますよ」

 

「いや、いいよ。朱ちゃんにあったら時間に間に合わなくなっちゃう」

 

 

 そう言って立ち上がる村紗水蜜。帰るのなら無理に引き留めることはないでしょう。

 まあでも、見送りくらいはしてあげましょうか。

 

 

「門前ぐらいまでなら見送りますよ」

 

「いいよ、気を使わなくても。どうせ面倒だけど仕方なくしてやるか、て思ってんでしょ」

 

「あら、バレましたか」

 

「……なんだか、早くもさとりの性格分かってきた気がする」

 

 

 それにしても今日、村紗水蜜を地霊殿に招いて正解でした。駄目元で聞いたのに、あっさりと私の疑問を解決へと導いてくれました。

 いや、もう少し私が朱ちゃんの心の中の自己嫌悪に耳を傾けていたらすぐに解けていた謎だったんでしたけどね。

 

 

「んじゃ、またね」

 

「はい、また機会があれば」

 

 

 そう言ってドアを開けて部屋を出ていく村紗水蜜。

 さて、真面目な話はこれぐらいにして、ちょっとからかいにいきますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~地霊殿(門前)~

 

 

「あれ? この前ここに化け猫いたのになぁ」

 

 

 と、門の柱の上を覗く村紗水蜜。

 

 

「そこにいないのなら趣味の死体集めか仕事をしてると思いますよ」

 

「そうか~、帰る前にちょっと撫でようと思ってたのにな…………ってさとり!?」

 

「こんにちは」

 

「こんにちはって……さっき別れたばかりじゃん」

 

「言ったでしょ、門前までは見送るって」

 

「あれ、本当だったんだ……ていうか全然気配が感じられなかったんだけど……」

 

「気配を殺してましたから。ついでにいうと私、ずっとミナミツの真後ろにいましたよ?」

 

「怖っ!?」

 

 

 やはり、からかうというのは楽しいですね。これまで気軽にからかう相手がいなかったから余計楽しいですね……今悪趣味だな、と誰かの心から聞こえてきたような気がしましたが聞こえなかったことにしておきましょう。

 

 

 

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