大泥棒一味が鎮守府に着任しました。   作:隠岐彼方

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1.大泥棒一味が鎮守府に着任しました。

「はわわわっ、どっ、どうすればいいんでしょう?」

 

麗らかな日和の中、波止場で男が三人寝ていた。

その目の前で、どこからどう見ても小中学生といった少女が困惑していた。

 

その片手には写真付きの書類がある。

その写真と三人を見比べると、一人の短髪の男の肩を揺らす。

 

「なんだよ~次元…眠いんだから寝かせてくれよ…。」

「あ、あの…こんなところで寝たら風邪を引くのです…じゃなくてっ!

司令官さん、寝るなら鎮守府に行ってからでお願いしますのです!!」

 

「なんだよ、うるせぇなぁ…。」

 

少女の声に反応したのか、三人の男が身を起こす。

 

一人は青いジャケットに赤のネクタイの痩身の男。

もう一人は紺のジャケットにハットを深くかぶった同じく痩身の男。

もう一人は着流し姿の絵に描いたような侍の男だった。

 

「あん?俺たちは…次元、隠れ家で飲んでたよな?」

「そうでござるな…すき焼きを食って、日本酒とワインとと…うぅ、頭が痛い。」

 

二日酔いなのか、三人とも軽く顔色が悪い。

が、さわやかな海風と穏やかな日差しが若干ましにしてくれているようで、時折深呼吸する。

 

「で、お嬢ちゃん。…コイツ、ルパンを【司令官】って呼んでたが…人違いじゃねぇのか?」

「い、いえ!間違いないのです、この通り大本営の指示があったのです!」

 

差し出された書類をルパンと呼ばれた男が手に取ると、残りの二人が覗き込む。

 

「おいおい、写真古いってか…大学時代のじゃねぇか!!」

「…誰だ、この『浦賀丈二中将』ってのは。」

「…ウラガ?…ジョージ!ジョージかぁ!?」

 

書類をめくる最中に、指令を出した男の名を見て声を上げる。

 

「司令官、お知り合いなのです?」

「大学時代のな…。ひっさびさで忘れてたぜ…しかし、中将?」

「それは『鎮守府階級』なのです。正式には大佐なのです。」

「…『鎮守府階級』?…とりあえず、説明をしてもらいたいものだな。」

 

じっと黙って聞いていた侍は傍らにあった木鞘の刀らしいものを片手に持ってぼそりと呟くように言う。

それにしぶしぶといった様子で男たちは立ち上がり、少女の案内ですぐそばのレンガ作りの建物へと入っていくのであった。

 

 

 

 

「いよぉ、久しぶりだな、ジョージ。卒業以来か?」

『そうだな、ルパン。どうしてるかと思いきや、手配書を見た時は爆笑したぜ。』

「で、いきなり招集ってどういうこった?俺様に役人になれなんて、こっちが爆笑しちまうぜ。しかも拉致までしちゃってどったの?」

『拉致?…妖精さん達のことだからな…どんな状況なんだ?こっちは深海棲艦が出現してから海外のネタも正直わからん。』

 

電と名乗った少女に案内された建物の奥の部屋で、ルパンは電話機越しに男と話す。

プライベート用の特別回線らしく、傍受の心配はない、とのことらしい。

 

「【妖精さん】?【深海棲艦】?なんだそりゃ?変なクスリでも手を出したのかよ?」

『…まさか、お前、知らないのか?』

 

双方ともに会話に食い違いが起こる。

ルパンとともに案内された二人の男もスピーカー越しに聞いて顔を見合わせるが、二人とも首を横に振る。

 

『そこからか。…深海棲艦ってのはな、数年前に突如発生した謎の生物だ。

まるで戦艦を模したようで、砲撃などをする人間大の生物。

一部の例外を除き、意思の疎通は不可能、かつ、人類を恨んで一方的に攻撃を仕掛けてくる。』

「おいおい、いつロードショーされるんだ?」

『ジョークじゃない、事実だ。バカげた現実だって認めるがな。

これによりシーレーンは破壊され、いくつもの国は崩壊した。

偶然かは知らないが、環境汚染の激しい地域・国家ほど攻撃が激しかったせいか、『地球の意思を反映する人類の天敵』なんていう説もある。』

 

ルパンも残りの二人も何とも言えない顔をしている。

それを受けてか、電という少女が分厚いファイルをルパンの前の机に置く。

そのファイルには【イ級】・【ヲ級】などといった分類された資料が載っていた。

 

「…ジョーク、じゃなさそうだな。っても、なんで海軍はみすみすやられたんだ?

いくら人間大のサイズでも今の兵器で何とかならなかったのか?」

『ジョークであってほしいがな。

深海棲艦にはな、近代兵器が効かないんだ。特に人やその類を介さずに運用する兵器は、な。』

「人やその類を介さない、兵器?」

『例えば、ミサイルやバルカン砲などだ。

細かく実証はできていないが…例えばバルカン砲や小銃などでも人間が手に持って撃てばそれなりの効果はある。

しかし、近代戦艦などのプログラムを介して撃っても一切効果はない。』

「そりゃまた…都合のいいこって。」

『鈍器などといったものも有効だった、という報告もあるが…な。

その深海棲艦が多数、一気に世界中に溢れた結果、世界の海軍をはじめとしてシーレンは崩壊したわけだ。

最初の数か月は人類はパニックに陥ったが…その中で光明が現れた。

それが【艦娘】と【妖精さん】だ。お前のすぐそばに一人いるだろう、【電】が。』

 

その言葉に三人の男の視線が電に集まる。

恥ずかしいのか、すぐそばにあったファイルで顔を隠してしまう。

 

「この、お嬢ちゃんが?」

『そう、彼女たち【艦娘】は第二次世界大戦の頃の戦艦の魂を持った、少女の形をした戦艦だ。

【電】は駆逐艦だが…まぁ戦艦(いくさぶね)ととらえてくれ。

彼女たちは海を駆けることができる、艤装という装備を身に着けて砲撃などができる。

それによって【深海棲艦】と戦えて、今では日本近海ならそれなりに安全になった。』

「なるほど、ね。」

「あ、あの…コーヒー、なのです。」

 

噂の電は恥ずかしくなったのか、案内された部屋に隣接した違う部屋からコーヒーを三人に差し出して、またその部屋へと逃げるように移動した。

それを片手を上げて礼を言いつつ、ルパンは煙草に火をつける。

 

「で、なんで俺なのさ。」

『まだ続きはあるのさ。【艦娘】は【司令官】・【提督】を求める。』

「【司令官】!?」

『【提督】で統一させてもらうが…誰でもいいわけじゃない、一部の人間が【提督】として【艦娘】に認められる。

何をもって認められるのかは不明だが、選ばれるんだ。本人の中身には関わらず、な。』

「へぇ…そりゃ頭の痛い問題だな。」

『それなりに候補には余裕があるから、あからさまな危険分子は事前に排除はしているがね。』

 

丈二の言葉の裏にある意図に気付いて、三人はそれぞれの反応を見せる。

三人ともそれなりでは済まないレベルでの裏家業の人間だ。

人間の汚い欲望など、嫌というほど見てきたのだから。

 

『そして、立場を利用してよからぬことをする輩も出てくるわけだ。

俺は今、そういう輩を排除する役目を負っている。』

「っても、いくら選んだとはいえ、その【艦娘】がどうかすりゃいいんじゃないのか?

人間じゃ相手にならない【深海棲艦】と対等に渡り合う【艦娘】なんだろ?」

『そうはいかないのさ。鎮守府っていう単位で【提督】は【艦娘】を支配する。

例えば下種な欲望を直接命令しても、【艦娘】は本人の意思で拒否も出来るし、大本営に密告もできる。

しかし…』

「みなまで言うなよ、ジョージ。普段の支配の中で、その辺りはどうとでもできる、ってわけだな。」

 

ここまで聞いていた中で、侍の男の顔が険しいものとなり、手に持っていた刀を強く握りしめる。

それを苦笑して諫めるもう一人の男も、少し渋い顔つきであった。

 

「おいおい、先生。そういきり立つなって…ま、気分のいい話じゃねぇのは、確かだがな。」

「次元!貴様はどうも思わんのか!あのような可憐な、いたいけな少女を…!」

「気に食わねぇよ、だが…世界のどこかで常にある話じゃねぇか。

そりゃ、目の前で起こってりゃそんな阿呆に鉛玉をたっぷり食わせてやりたくなるかもしれんがな。」

 

いきり立った先生、こと五右衛門の言葉にヨレヨレの煙草を灰皿に揉み消しながら次元は言う。

ルパン一家と呼ばれる三人の男は似た者同士である。

 

後ろ暗い闇家業をやってはいるが、心根は真っすぐなのだ。

下種とはほど遠い男たちなのだ。

 

 

『ふふ、いい友人たちのようだな。』

「よせやい、腐れ縁さ。で、それと俺たちがどう関係するんだ?」

『そういう【提督】の摘発をしているんだが、手が足りない。

誰が裏で何をやってるのかわからん…そこで【妖精さん】たちにどうにかならないか相談したのさ。

俺がこの地位にいるのも【妖精さん】とそれなりに意思疎通できるから、だからな。』

「ちょっち待った。そういえば俺たちがここにいるのも【妖精さん】のせい、なんだよな。

その【妖精さん】ってのは何なんだ?」

『伝承に残る、【妖精】そのもの、というかな。

はっきり説明するのは難しいが…艦娘の装備である艤装を整備したり、運用したり。

または艦娘自体を作ったりもすれば、シーレーンが崩壊した後に原油や鉄などの資材を作ったりもする…謎の生物さ。』

 

丈二のあまりといえばあまりの説明にルパンは渋面にならざるを得ない。

 

『気持ちはわかるが、そうとしか言えないんだ。

サイズは10cmちょっとでそれぞれ特技が違う。

例えば戦闘機や砲塔を司るのもいれば、生産を司るのもいる。

幅広過ぎて、一言でまとめきれない、というのが事実だな。』

「ちょっと待て…頭がおかしくなりそうだ。

【艦娘】が艤装とやらを扱って【深海棲艦】を倒すんじゃないのか?」

『あくまで【艦娘】は船、なんだ。砲塔を装備しなきゃただの鉄の船が人型になったものにすぎない。

ゲーム的に説明するとだな、【艦娘】はキャラクターで艦種によって色んな戦い方がある。

しかし、武器は持ってない。その武器に相当するのが砲塔などの装備、そしてそれを運用するのが【妖精さん】だ。

ある意味船の乗員、みたいなものだな。こればかりは慣れてもらうしかない。』

 

【艦娘】・【深海棲艦】だけでも十分に理解の外だが、【妖精】までくれば三人には理解しきれない。

それを仕方ないと電話越しの声が苦笑する。

 

『話を戻すぞ。俺は先日、【妖精さん】にそういう悪徳【提督】や【ブラック鎮守府】を識別する装備か何かできないか、という意味で『何とかできないか』と相談したんだ。

そうしたら【妖精さん】にお前のいる地域に新たに鎮守府を建てろ、そしてこの時間にお前が着任する、って指示されたんだ。』

「よくわかんねぇのも確かだが…まぁ、わかった。

で、ジョージ。お前は俺にどうしてほしいんだ?」

『さて、な。俺もお前を選んだわけじゃないし、何故お前が選ばれたのかもわからん。

ただ確かなのは【妖精さん】は【艦娘】の味方で、【妖精さん】がお前を選んだんだ。

むしろ、今まで説明してきたことを知らないことが俺にはわからん。

さすがに悪徳【提督】などは機密扱いだから知らなくてもおかしくはないが。』

 

丈二の疑問にルパンは鋭く目を二人に投げかける。

それに二人はただ頷くだけだった。

 

「あのよぉ、ジョージ。俺たちは昨日の晩、イタリアでの一件を片付けて祝杯をあげたんだよ。

昨日まで俺たちは世界の海を股にかけてた、【深海棲艦】なんて一言も聞いたことはない。

さらに言えば、シーレーン破壊どころか普通に旅客船が運航してたくらいだぜ?」

『は?……どういう、ことだ?』

「そのまんま、さ。俺たちァ、そんな人類の滅亡の危機、なんてもんは世界渡り歩いてたが、そんなに出会ったことはないぜ?

当然、ニュースや新聞は目を通してるし、普通に世の中歩き回ってたがね。」

 

ルパンの代わりに次元が冗談めかした軽い口調で言う。

電話越しにはしばらく無言が続くが、重い口調で丈二の声が届く。

 

『…SFじみてて、アレだがな。もしかして、異世界とやらから来たみたいだな。

異世界、で悪いならパラレルワールド。』

「なんてこった…ま、俺たちからしてみりゃ【艦娘】に【深海棲艦】に【妖精さん】だ。

いまさらって感じだがね…色んな曰くつきのお宝を狙って手に入れてきたが…ここまで荒唐無稽なのは久々だな。」

『なるほどな…とりあえず俺はお前たちが来た理由も方法もわからん。

イタリアかフランスに、俺の知ってるルパンが同時にいるのかもしれないが…。

平和な時にお前が全世界に指名手配されたのや犯行をニュースで見て、その後【深海棲艦】の件があってから…数年以上お前の噂は聞いていないな。』

「いずれにせよ、俺はどうしたもんか…ね。」

 

大きな執務机の椅子に身を預けながらルパンは天井を見上げる。

天井に上る煙草の煙を眺めながら思考を巡らせる。

 

(この様子じゃ日本の拠点はあてになんねぇな…ルパンシンジケートもどうなってるか。

さっさと逃げ出して、怪盗続けるのが妥当だろうが…今は戦時中みたいなもんか。

しかも敵は【深海棲艦】とかいうバケモンと、悪徳【提督】…ね。)

 

「一つ、聞かせろ。俺をこの鎮守府とやらに押し込めてどうしたいんだ?」

『誤解があるようだな。俺は押し込めるつもりはない、ただ拠点を提供したと思ってもらえばいい。

逆に今までの説明でお前がやりたいことはなんだ?』

「おいおい、質問に質問で返すなよ。」

『正直に言えば、俺の仕事を手伝って悪徳【提督】どもをふんづかまえる事に協力してほしい。

が、【妖精さん】はお前を【提督】にしろと言っている。

だからお前は鎮守府で最低限の仕事をしてくれれば後は何も言わんし、バックアップもしよう。

例えば、胸糞悪い悪徳【提督】の貯め込んだお宝の情報、とかな。』

 

そこまで言われればただでさえ頭脳明晰なルパンである。

丈二の狙いは否応なくわかる。

 

要は悪徳【提督】を捕まえる手伝いが欲しくてたまらないのだ。

その証拠を、お宝を手に入れるついでに手に入れてくれ、というわけだ。

 

「俺は命令されるのが嫌いでね。お前の言う通り動くかわかんねぇぞ?」

『ああ、それで構わない。俺が勝手に情報を投げるだけさ。

動かないなら普通の【提督】として、穏やかな日常を過ごしてくれればいい。

ちなみに今の社会はシーレーンのせいで、経済も停滞気味でな。

羽振りがいいのは一部の人間だけさ…。』

「ヘッ、大学時代の好だ。ありがたく乗っかってやるよ。」

『持つべきものは友人だな。…本来なら先ほどの電だけしか初期の鎮守府には配属されないんだが…。

ブラック鎮守府を潰した際に、一部の【艦娘】を保護してな。

その一部の【艦娘】を送った。鎮守府運営にも知識のある娘たちだから、手伝ってもらえばいい。』

「へいへい、そりゃありがたいこって。」

『お前は俺の知ってるルパンと姿かたちの似た別人なのかもしれないがな…いつか平和になったら酒でも酌み交わしたいもんだ。』

 

急な丈二の言葉に渋面を作るが、ほんの少し時間の後に軽くルパンは笑う。

 

「なんつーのか、俺の知ってるお前らしいや。

いいぜ、俺も正直言って右も左もわかんねぇんだ、利用させてもらうぜ。」

『それでいい。また何かあったら連絡してくれ。』

 

軽く苦笑しながら長い電話を切ると、目の前の応接ソファーに腰を掛けた五右衛門がちらっと横目でルパンを見ながら言う。

 

「いいのか、ルパン。」

「しょーがねーだろ、右も左もわかんねぇのは事実なんだしよ。

それに手を出す気はねぇけど、あんな小さい子供放り出して逃げるってのもな。」

「ヘッ、相変わらず甘ちゃんだな…が、悪くないコーヒーを淹れやがる。」

 

五右衛門の向かいのソファで脚を組んで座った次元がコーヒーを啜って仕方ないといった態度で言う。

それにルパンがニヤッと笑って二人を見る。

 

「いいじゃねぇの、悪者提督さんが貯めたお宝を救い出し、可憐な少女たちを救い出す。

そして、最後には平和な海を深海棲艦から盗み返す。

…怪盗の仕事としちゃ上出来じゃねぇか。」

「フッ…これもまた、修行、か。」

「ホント、いい趣味してやがんぜ、相棒。」

 

 

こうして、人類と深海棲艦の戦いの一つの大きな転換期が始まったのだった。




イタリア編が面白くてついカッとなって書いた。

続きは色々考えてはいますが、中身が書く時間ができるかどうか不明。
あてにせずにいていただければ幸いです。

ざっくり言えば『居酒屋鳳翔と五右衛門』とか『ルパンと鈴谷』とか面白そうかな、とか妄想が膨らんでいます。
次元は…誰と組み合わせれば…清霜とか面白そうな。

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