大泥棒一味が鎮守府に着任しました。   作:隠岐彼方

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日曜日中、という宣言は何だったのか。

そして、タイトルでわかると思いますが、描写とかを書いているだけでどんどん長くなってしまい、一万字に近くなっても終わらなかったため、中編となります。


14-2.ルパンたちは遊びに出掛けるそうです。(中)

ルパン達がたどり着いたのは郊外にある、とある海のそばの大型の倉庫を改造した建物だった。

 

パッと見ではただの倉庫にも見えなくはないが、妙に小ぎれいである。

そして周囲には駐車場が置かれ、周りには同じような建物はあっても距離は取られている。

 

「こりゃ、儲かってるみたいだな。」

 

車を倉庫の前に停めてから真顔でルパンが呟くように言う。

それを聞いた龍田は不審げに少し眉根を寄せる。

 

「…元は倉庫だったのを買って改造したんだろうが、普通の倉庫は利便性を考えて同じような倉庫を並べるのが普通だ。

なのに、こうして周りに駐車場があったり、他の倉庫とは距離が取られてるってことは?」

 

「周りも買い取って、わざわざ駐車場にしたってことね~?」

 

御明察とばかりにニヤリと笑って倉庫の前で車を降りれば、警備員なのか入り口の前にいた黒服の男が近寄ってくる。

その耳にはイヤホンがあり、口元を隠して何かを話している。

 

「それか、倉庫街の外れに増設したか、だけどな。」

 

「おう、兄ちゃんたち。俺達ァ、招待客だぜ?」

 

同じようにルパンのSSKの後ろにフィアットを停めて降りてきた次元が黒服たちに封筒を見せる。

すると、黒服の一人が二人の下へ歩み寄ると中を一瞥して頷く。

 

「…失礼いたしました。ここは会員制になっておりまして、無用な騒動を好まれないお客様も多々いらしゃいますのでご容赦を。」

 

「へぇ、同業の方々の懇親の場、って聞いてもいたんだが…それだけじゃなさそうだな。」

 

「皆さま、御顔が広い方も多いもので。」

 

それなりの社交性を持つのか黒服はそうルパンに答えながら、他の同僚が開いたドアの中へと促していった。

 

 

 

一方、そのころルパン鎮守府の執務室では。

 

「雷ちゃん、金庫の鍵を貸してもらえる?」

 

「あら、大淀さん。どうしたの?」

 

片手に数冊のファイルを手にした大淀が執務室にいた雷に話しかけていた。

 

「大本営からの書類が着てたのよ。

皆が来る場所だし、提督の机の上に置いていくのもどうかと思って。」

 

「そうね、次元お父さんもルパンお父さんも夜遊びに行っちゃってるし…。

帰ったら叱ってあげなきゃ!」

 

夕方過ぎに早い夕食をとったルパンたちはその足で出かけていた。

いい歳をしたルパンたちの外出を『夜遊び』と称し、『叱る』という発想が出る時点で流石の雷だと言えよう。

その言葉に苦笑しながら机から取り出した鍵を受け取った大淀は苦笑するしかない。

 

「ほどほどにしてあげてくださいね?」

 

そうとだけしか言えずに受け取った鍵でルパンの執務室の隅に鎮座する金庫の鍵を開けた。

 

ルパン鎮守府の機密は多い。

勿論ルパンの独自の鎮守府運営方法は他の鎮守府ではほとんどやっていない。

艦娘用の酒保など先進的な提督が手を付け始めたが、そのノウハウや根っ子を基本的にルパンが抑えている。

というよりも、ルパン鎮守府こそが艦娘用酒保の総元締めである。

 

そのため、それに関する書類や関わる引退艦娘達の会社の経営関連の書類、データなどが大量にルパン鎮守府では保持されている。

当然ながら総元締めだからといって暴利を貪ってはおらず、あくまでシステム全体を上手く回すための総元締めである。

 

良くも悪くも海軍は軍であり、軍は縦社会である。

軍に任せたならば階級の低い鎮守府の艦娘達が割を食わされかねない、という危惧もあってルパンと民間で調整をとるように浦賀からも頼まれたのだった。

 

それらをしまうための金庫という事で大淀よりも大きな大型の金庫を設置しているのだった。

 

閑話休題。

そして開いた金庫を前に大淀は全身を硬直させていた。

 

「あ、あ、あ…あの、雷ちゃん?」

 

「なぁに?」

 

雷は我関せずとばかりに明日の遠征部隊の割り当て表に人員を当てはめては頭を悩ませていた。

 

「…き、金庫の中の…お金が……運営費が!!」

 

「……ほへ?」

 

油の切れたゼンマイ人形のようにぎこちない動きで首を回して雷を見て、震える指で明らかに空いた空間を指さす。

そこには一枚の紙が置かれていた。

 

『ちょいと使わせてもらう。』

 

そしてその隅にはルパン三世のサインとモチーフの絵が。

 

「なっ!?何をしてるのぉぉぉぉ!?」

 

「まったくもぉ。帰ったらお灸も据えなきゃ。」

 

良くも悪くも雷の肝は据わっていた。

 

 

 

「ヘッ、ザルもいいところだな。」

 

倉庫の中は外見には似つかわしくないホールとなっていた。

まるで学校の体育館よりも大きなホール。

その中には着飾った男性や数少ない女性客、そしてその連れらしき艦娘たちが数多くひしめき合っていた。

 

場所によってスロットマシーンのブースに、ブラックジャック・バカラ・ルーレット・ポーカーのテーブル。

そして壁沿いには無料で提供されるバーカウンター。

 

そこで全員のドリンクと軽食として寿司を桶で受け取ってから隅の休憩用らしいテーブルで次元がニヤリと笑って言った。

 

「まったくだ。せいぜいここの経営にかかわった連中は日本の裏カジノ程度までの経験しかねぇみたいだな。」

 

ルパンも小声でクックックと笑って言う。

それを怪訝そうに見るのは武蔵だった。

 

「…そういうものか?どこでそう判断したのか教えてくれないか?」

 

「まず、プレイヤーに交じって何人か裏メンがいるな。

それも二流のスジモノの。」

 

スジモノ、つまりは裏家業の人間だという事だ。

それを聞いて龍田も武蔵も様々なテーブルを見回すが、人相や態度ではそれらしいものが幾人もいて絞りきれない。

 

「賭け方や目線の動きで違いがあるんだよ。

あとは防犯カメラの数や配置がザル。

さらに言えば、あからさまにスロットは内部の調整で絞られてるから手を出さねぇ方がいいな。」

 

ルパンが横目でスロットマシーンのジャックポット(大当たり)の当選者の写真と、実際の動きを見て鼻で笑う。

その様子を見ても漣だけは動じずに、寿司をパクついていた。

 

「ねぇねぇ、ご主人様達。

おかわりはどうすればいいのでしょうか?」

 

「あん?…全部タダだが、艦娘のお前らが行くと角がたつかもしれねぇから俺たちに言え。

取って来てやるからよ。」

 

「何があるかわかんねぇから離れないようにな。

さーて、俺は得意のカードにいくか。

次元は…ルーレット、か?」

 

気になることがあるのか周囲の客を見回して眉を顰めるが、それでもルパンは行動を決める。

次元は問いかけにニヤリと笑う。

 

「あぁ、あそこまでチャチな腕前じゃ…2時間でクローズさせてやるよ。」

 

「ちょっと待ってくれないかしら~なんでスロットマシーンがダメなの~?

ジャックポットが今100万ドル超えしてるわよ~?」

 

リターンを考えてか、何故ルパンがスロットを除外したのか理解できずに龍田が問いかける。

 

「あそこに写真が並んでるだろ、歴代当選者って。

全員特定しにくいように顔をそれなりには隠してるけどな…全員海軍将校様だ。

そして、ここの経営者の高木大将様とオトモダチなんだよ。」

 

「あとは、スロットの挙動というか……ボタンを押した時と止まる出目のズレが露骨にあってな。

それからすると、恐らくは中でハズレとかを操作されてるのか、完全に運の勝負しかねぇみたいだからな。」

 

苦笑しながらルパンと次元が説明してやると目を見開く。

流石にルパンの仕事の補佐をやっている龍田でも関係者の顔などは頭に入りきっていなかった。

言われてみれば、写真の顔は数多くの報告書のどこかで見たことがあるような気がしてきた。

 

しかし、そんな5人に一人の男が薄い笑みとともに近づいてきて、テーブルの一席に勝手に座った。

 

「御明察、だ。ルパン提督殿、あの浦賀の兄ちゃんが気に入るのも無理はねぇな。」

 

「…オメェ、誰だ?」

 

男の笑みはどこか粗野でありながらも、荒々しい魅力のようなものを秘めていた。

ルパンほどではないが、それなりに上質のスーツにYシャツをはだけて胸元を見せていた。

腕にはブランド品ではないが、相応の腕時計をしていた。

 

「ま、ただの博打好きさ。

今日はちぃと小遣い稼ぎをしようと思ったんだがね。

中々面白れぇ匂いのする男二人が並んでたんで興味を持ってみれば、予想通りのいい目をしてるもんで首を突っ込みたくなったのさ。」

 

ルパンの鋭い目と問いかけに笑って肩を竦めれば、通りかかった女性の黒服に頼んでレッドアイを頼む。

その様子やふてぶてしい態度からまともな勤め人だとは思えなかった。

 

「ほぉ…アンタはココに雇われたのか?」

 

「確か…艦娘の武蔵、だったかな。

残念、ココの連中みたいな面白くねぇヤツらに手を貸す気はねぇよ。」

 

武蔵はルパンたちの態度から警戒に値すると判断したのか、ニィと好戦的な笑みを浮かべて問いかける。

それを笑って肩を竦めれば、冗談じゃないと告げる。

 

「浦賀の名前が出るってことは…そういうことか?」

 

「かも、な。あくまで協力者の一人、ってことさ。

ホールを見てみな。おかしくはねぇか?」

 

ルパンの推察にニヤリと笑うとやってきたレッドアイのグラスを片手で受け取り、ホールを見渡すように顎で指す。

 

「おかしいだろ?…なんでこんなに艦娘がこんな場にいるんだろうな?」

 

言われてルパンも次元も、全員が客を目線で見渡す。

 

「…そう、ね…。艦娘がこんな場に、興味を持てる環境にあるわけないわね~…。」

 

指摘の意味するところにたどり着き始めたのか、龍田も困惑を隠せないままに言葉を漏らす。

そして艦娘達を眺めていたルパンが最悪の想像をしたのか眉をあからさまに顰める。

それをレッドアイを口に運んだ男は軽くにやけた顔を崩さずに告げる。

 

「あぁ、安心した。アンタらは悪党かもしれないが、外道じゃない。

そして、社会の闇も知っていて、頭も切れる。」

 

「どういう、ことだ?…レア艦がやけに多いように見えるが…単なる自慢に連れてきてるんじゃないのか?」

 

武蔵は連れて歩かれている艦娘を見てもそうとしか思えない。

男の言う社会の闇というものが、武蔵も龍田も、そして漣も理解できずに困惑しか出来ずにいた。

むしろ、漣は最初から理解しようということを放棄して寿司に専念していた。

 

「俺の名はシゲル。今晩は付き合わせてもらうぜ。」

 

グイとレッドアイを飲み干してからテーブルの真ん中に手を出す。

その手をルパンと次元は視線を一瞬絡めた後に、頷いてからそれぞれその傷だらけの手を取った。

 

 

 

 

「さーて、ルーレットも久々だな。

ココはアメリカンかよ…ヨーロピアンなら楽なんだけどな。」

 

「あの回る台のどこの数字に入るのか当てるのですか?」

 

次元にはシゲルと漣がついて来ていた。

次元は持ってきた鞄に詰めていた札束をコインに交換して手元に持っていた。

その札束はルパンが自分の鎮守府の金庫にあった運営資金と、先日の盗みの戦利品の合わせたものである。

当然ルパンも次元と同じだけを自分で持って、違うテーブルで賭けに使っている。

 

ちなみに次元の口にしたアメリカンとヨーロピアンの違いは、赤でも黒でもない0が一つだけか、それとも0と00の二種類あるかどうかの違いである。

なお、アメリカンが0と00、ヨーロピアンが0のみである。

 

「いや、賭け方は数種類あってな。

大まかに数字は0、00、1から36の数字がある。

賭け方は0と00は一点賭けしか当たりにならない。

1~36の当て方は数種類あって、赤か黒のどちらの数字かの賭け。

偶数か奇数かの賭け、1~18か19~36、1~12か13~24か25~36か。

そして数字4つのゾーン賭け、6つのゾーン賭け。

1・4・7…34、2・5・8…35、3・6・9…36という賭けとかな。」

 

大雑把に次元は説明する。

それを聞いて漣は深く頷く。

 

「つまりggrks!ってことですな!」

 

「…意味は分からんが、凄い自信だな。」

 

きっぱりと言い放つ漣の態度に呆れながらも、次元はルーレット台とその球を投げ入れるディーラーの手を見つめていた。

 

「ま、こんなもんかね。」

 

投げ入れる手つきと、投入されて走り出した球を見て次元は慣れた手つきで賭ける場にコインを数か所に置いていく。

そして間もなくディーラーが手元のベルを鳴らすとともにベットが打ち切られる。

 

球はルーレットの中を走って、次第に失速し、そして数字に落ちる。

落ちた数字は12だった。

 

次元が賭けたのは赤と、1stのゾーン。

それぞれ置いたコインが二倍と三倍になって帰ってくる。

 

シゲルも次元と同じところと、近い場所に散らして賭けて、トータルで勝ちに持ち込んでいた。

 

「さ、この調子で行こうかね。」

 

次元もそれなりに散らしつつ、外すことはあっても着実にコインを増やしていく。

シゲルもそれに便乗して、似た個所に賭けてどんどんと増やしていった。

 

が、予想外の活躍をしたのが漣だった。

 

「ご主人様ぁ…暇です!漣もやりたいー!!」

 

完全に子供の駄々っ子のような事を言いだしたのだった。

そこで面倒がった次元は適当に一枚のコインを漣に渡して、赤か黒かの二択で遊ばせようと思ったのだったのだが…。

 

「ふふーん、32キタコレ!!」

 

ある意味堅実で、ある意味ギャンブラーな賭け方を始めたのだった。

それは一点賭け。

0と00を含めて38個ある数字の一つのみに賭けるという荒々しい賭け方である。

 

最初に渡した100ドルコインをまず最初に当ててから、常に一枚しか賭けない。

しかし、10回から20回に一回は当てて小さな体で一喜一憂して全力で楽しんでいた。

その漣の手元には既に50枚ほどのコインが貯まっていた。

 

「うーん、難しいわね~。」

 

「そうだな…中々漣のようにはいかないな。」

 

最初のうちはルパンについていた龍田と武蔵だったが、次第に白熱してきたルパンの傍を離れたのだった。

ルパンは最初は勝って負けてを繰り返していたが、次第に勝率を挙げて勝ち続けていっていた。

その結果次第にレートが上がり、龍田や武蔵が邪魔にならないようにとこちらへと移動したのだった。

 

カードゲームの多くはテーブルごとに最低の賭け金があり、白熱したルパンのテーブルでは最低の賭け金も跳ね上がった。

そのため龍田、武蔵は当然参加など恐ろしくてできるはずもない。

また、近くでルパンのカードを見てしまうと表情に出てしまってもまずい。

 

その兼ね合いもあって、ルパンの許可を得てコインを渡された上で次元と合流したのだった。

 

なお、一番勝っているのは危ない賭けをしているはずの漣であり、その次が武蔵である。

武蔵は普段は倍率の低い代わりに多くの数字をフォローする無難な賭けをするが、時折大きく賭けたり、狭い範囲の数字に絞った倍率の高い賭け方もするというカンで勝負を仕掛けもしていた。

その結果、出たり入ったりで微妙に減ったり増えたりの繰り返しだった。

 

逆に完全に赤黒の二択のみで勝負をしているのが龍田。

しかし、二択といえども偏ることもあり、むしろ龍田は負け気味ではあった。

それでも流石龍田というべきか、熱くならずに(ケン)で賭けずに様子を見て、頭を冷ましてから賭けたりして、微減という程度に済ませていた。

 

 

そうして小一時間余りが過ぎたころ。

 

「…さて、頃合いかね。」

 

「そろそろ限界だろうよ。」

 

次元が煙を吐き出してニヤリと笑って言うと、同意とばかりにシゲルが頷く。

すると、奥から年配のディーラーが一人やって来た。

 

二人の手元には大量のコインが山となっており、周囲にはギャラリーも出来ていた。

最初のうちは次元たちと同じテーブルで賭けていたプレイヤーもいたが、張り合っていく間に負けがこんだのかテーブルを去ったり、ギャラリーに回ったものが多く、今は次元たちしかいなかった。

 

「これほどお強いお客様は久しぶりです。

もしよろしければディーラーを代わりまして、面白くするためにもレートも10倍に上げていきたいと思いますがいかがでしょうか?」

 

「ヘッ、都合のいいことばかり並べやがって。

…まぁいいだろうよ。」

 

これまで次元を相手にしていたディーラーの顔色は青を超えて白い。

それだけの損害を店に与えてしまっていたのだから。

救いは若い彼だけでなく、これまでに数人のディーラーの通算だということだろうか。

 

要は今やって来たディーラーは腕利きなのだろう。

そのディーラーと変わった上で、『これまでの分を手っ取り早く取り返したいからレートを上げる』と言ってきたのだった。

普通なら受けるはずもない提案だろうが、次元は鼻で笑いながら受け入れた。

 

シゲルは目を見開いて次元を見るが、すぐに店員に言ってコインを両替させてレートの上昇に備えた。

 

「では、ディーラー代わりまして…よろしくお願いします。」

 

その年配のディーラーと共にやって来た黒服に、これまでのディーラーは連れていかれる。

恐らくは、これまでのディーラーと同じように責任を負わされるのだろう。

 

それを次元は一瞥しても、それ以上の感慨を抱かない。

龍田や武蔵も次元を窺うように見るが、次元は平然と椅子に座ったままだった。

 

「当然だが、見に回らせてもらうぜ。

適当に賭けるほどバカじゃねぇんでな。」

 

「結構です。当然プレイヤーの権利ですしね…ただ、場をしらけさせない程度でお願いしますよ?」

 

次元も両替をしながら鼻で笑うようにディーラーに言えば、ディーラーは動じずに釘を刺した。

要は(ケン)とは賭けずに一回のゲームをパスすることである。

ディーラーは『逃げるなよ』と言ったのだ。

 

それを鼻で笑いながら、次元はコインを手で弄んで球の動きを眺める。

 

「ご主人様、コレ返しますねー。」

 

漣や武蔵、龍田がこれまで遊んでいたコインをまとめて差し出す。

 

「アン?…あぁ、最小レートが上がったしなぁ。

増えてよかったじゃねぇか、あとで帰ったら小遣いやるよ。」

 

「…あの~大丈夫なの~?」

 

周囲を視線で見渡しながら問いかける。

その意味するところは、勝てるのか、また、勝ちすぎても問題がないのかなどといったいくつもの意味を含んでいた。

不意に別のテーブルでも歓声が沸けば、つい龍田と武蔵はそちらをも見てしまう。

その様子に次元は苦笑して、二回目のディーラーの球の投入を見ながらバーボンのロックを傾ける。

 

「気になるならあっちに行ってやんな。

アイツは目立ちたがり屋だからな…見られてる方が気分がノるだろうよ。」

 

帽子を軽く下げながら笑うと、二回目の球の落ちたポケットを確認する。

そして赤と白の色合いの煙草のソフトボックスから煙草を一本取り出すと、空なのかクシャッと握りつぶして黒服を呼び止める。

 

「同じヤツを一箱くんな…チップだよ。」

 

そう言って10$チップを指で弾いて空になったバーボンのグラスに入れ、空箱とともに渡して催促をする。

その堂々とした態度が気に食わないのか、ディーラーの目つきは鋭くなる。

それを受けても次元は動じずに、不敵に足を組み直す。

 

「あと、もう一回だ。もう一回(ケン)に回ったら、賭けるよ。

そんなに怖い顔すんじゃねぇよ、なぁ?」

 

そう言って隣のシゲル、そして周囲のギャラリーに笑いながら肩を竦めてみせる。

その道化ぶった様子に頬をヒクつかせるが、ディーラーにもそれなりのプライドがあるらしくすぐに平静を装って第三投目を投じる。

 

「いやいや、怖い怖い。

大人の社交場なんだから、もっと『大人らしく』いこうじゃねぇの?」

 

シゲルも次元に乗って、肩を竦める。

ディーラーは僅かな間目を閉じて、深く静かな深呼吸をすると二人を見下ろす。

 

「では、参ります。」

 

そう言って、ディーラーはしなやかな指の動きで球を投じた。

それと同時に次元は大胆な一言を告げる。

 

「0と00に半分ずつでオールイン。」

 

それに乗ってか、少し遅れてシゲルも言う。

 

「全く同じように。」

 

「ちょっ!?おまっ!?次元さぁぁんっ!?イミフッ!イミフだよぉぉぉ!!!」

 

隣の漣は頭を完全に抱えて絶叫する。

しかし、賭けは成立したとみなされ、二人のコインはそれぞれが0と00を示す場所に全て置かれる。

オールインとはテーブル上の金を全て賭ける、という意味である。

 

次元はその漣の絶叫を手で口を塞ぐ。

周囲のギャラリーも漣と同じ意見だったかもしれないが、場慣れしているのか必死で声を潜めていた。

 

「…騒ぐんじゃねぇ、もう賭けは成立したんだ。」

 

堂々とした様子で、片手で漣の口を塞ぎながらも次元はルーレット台から目を外さない。

ディーラーもその視線に射抜かれ、何も出来ずにただ回る球を見る事しかできない。

 

カッ、カッ、カッ…カラン。

 

そして、一分どころか30秒もせずに球はポケットに落ちる。

『00』に。

 

 

それと同時に周囲のギャラリーから大きな歓声が起きる。

ちょうどそのタイミングで新しい煙草とバーボンを運んできたウェイトレスはあまりの出来事に盆をひっくり返してしまう。

次元は歓声にもグラスの割れる音にもに動じないまま、漣の口を塞いでいた手で灰皿から吸いかけの煙草を取って、咥える。

 

「ワリィが、もう一杯と一箱頼むぜ。

バーボンも煙草も好きだが、チャンポンにはしたくねぇんでな。」

 

「は、はい!!」

 

そう言うと若いウェイトレスは慌ててグラスの破片を手で拾って、小走りにバーカウンターへと走る。

そして、次元がディーラーに目をやると、ニヤリと笑った。

 

「というわけで、配当をもらえるか?…現金でもらえないと困るがね。

コインだけ増えて、払えませんじゃ話にならねぇ。」

 

「な…何故……わかった。」

 

ギシッと音を立てて、椅子から身を起こして蒼白な顔色のディーラーを見る。

 

「学生じゃねぇんだ。何でもかんでも教えてもらえると思うんじゃねぇよ。」

 

次元の言葉を受けたのか、別の黒服が服につけられたインカム(無線)のマイクで慌ただしく小声で話せば、コインを数え始める。

そして、新しくウェイトレスが持ってきたグラスを受け取れば、受け取るとともに財布から一万円札を取り出して、ウェイトレスに差し出す。

 

「続けたいなら続けてもいいがな。

この金の36倍の現金を積んでからにしてもらおうか、額が額だしなぁ。」

 

グラスを傾けると、興奮覚めやらぬ漣が硬直から解放されたのか口を開く。

 

「キーーーーターーーーーコーーーーーレーーーーーーー!!!!」

 

そして運ばれてくる、台車に何個も乗ったスーツケースを見ると両手を握りしめて高く掲げて、椅子の上に立って叫ぶ。

その頭を次元が平手で叩いて、下に降りろと抑えつける。

 

「バカヤロウ!恥ずかしいだろうが、まったく…。」

 

漣も指摘されて、周囲のギャラリーの苦笑に気付いたのか小さくなるが、次元は運ばれてきたアタッシュケースを開けて中身を確認する。

全てのアタッシュケースの中身は漣の予想通り、一万円札の束だった。

 

その中から一つの束をポンとテーブル上に投げると、ニヒルに笑って台車を押していった。

 

「アタッシュケース代と、チップだよ。

楽しかったぜ?」

 

「おっ、おいおい!ちょっと待ってくれって!」

 

それを慌ててシゲルもついていった。

シゲルは最初の資金が次元よりは少なく、途中も次元と完全に同じところに賭けたりはしていなかったこともあって、勝った額は次元よりは少なかった。

それでも束がいくつも配当として運ばれて、慌てて懐にねじこみながら次元の後をついていくのだった。

 

次元はもう一つの人だかりの方へと歩いていく。

あの相棒が地味に勝つなんて想像できない。

となると、あの龍田と武蔵が向かった先の人だかりの中心にはルパンがいるはずだ。

 

そう考えながらガラガラとカーペットの上を台車を押して歩いていくのだった。

その隣では漣が興奮が全然抜けないのか、歩きながらも身体を揺らし、セットしたはずのツインテールをぴょんぴょん跳ねさせていた。

 

「…お調子者だからなぁ…しくじってねぇといいんだが。」




ルパンが空気ェ…。

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