大泥棒一味が鎮守府に着任しました。   作:隠岐彼方

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呉鎮守府、挙動が完全にアウトです。

何とかデイリーはクリアしましたが、猫るので出撃は控えました。
皆様は頑張ってくださいね~。


14-3.ルパンたちは遊びに出掛けるそうです。(後)

時間は僅かに遡って、ルパンはバカラの台にやって来たばかりの頃。

 

ルパンは1シューターのゲームが終わったのを見計らって、テーブルに座った。

龍田と武蔵は他の客の目もあるため、護衛さながらに背後で静かに立っていた。

 

1シューターとは8セットのカード(トランプ)を全てシャッフルして、一枚ずつ出すためのケースに収納する。

そのシューターを使い切るまでのゲームの流れ全てを終えるまでが一連のゲームになる。

なお、シューターに収納されたカード全てを使い切るわけではなく、その中の途中までで終わりにするように適当なところに終わりを示すプラスチックカードを差し込む。

そのプラスチックカードのところまでくれば、ゲームは終了である。

 

「ま、バカラってのはな。

プレイヤーサイドとバンカーサイドという二つの場所にカードが伏せたまま、二枚ずつ配られる。

そして、1~9まではそれぞれの数字。

10と絵札は0として捉えて、足した数の総和が大きい方が勝ち。

ただ、10の位は数えない。つまり最強が9ってわけだ。

そのどちらが勝つかを張って当てるゲームだ。」

 

ルパンは数百万のチップを小張りにして、少額の勝ち負けを繰り返しながら興味深そうに見ている二人に説明する。

テーブル内では数名の他の客もいて、それぞれが思う方に賭けている。

 

説明を補足すれば、プレイヤーサイドが勝てば賭けた額の倍返し。

バンカーサイドが勝てば賭けた額の1.95倍返し。

 

バンカーサイドが1.95倍なのはバンカー側の方が僅かに勝率が高いのと、コミッションといってカジノサイドへの手数料(ゲーム代)を含んでいるからである。

細かい条件によって最初に配られた二枚では勝負がつかずに三枚目を引くこともある。

それは今回は省こうと思う。

 

そして、プレイヤーとバンカーのカードの数字が同じ(タイ)だった場合はいずれかに賭けていても全額返還。

しかし、タイに賭けていれば賭けた額の8倍&賭けた額の返還が行われる。

 

「ある意味、丁半博打みてぇなもんだ。」

 

つまらなそうに現金を交換したコインを右手で弄び、左手でコーヒーカップを口に運ぶ。

 

「おや、提督は飲まないのか?」

 

他の客はルパンたちのような提督らしき男女や、それなりの立場の人間なのかルパンのような正装をした男がいた。

少しふてくされたような顔つきで、コインをバンカーサイドに賭ける場に少額置いてから背後を睨む。

 

「どうせ次元は飲んでるし、お前ら運転出来ねぇだろ?

あの車を代行に任せるなんて怖いマネしたくねぇよ。」

 

そう言いながらもつまんねぇと唇を尖らせる。

そして淡々とルパンは勝っても負けてもゲームを続けるが、不意に薄く笑えばそのまま手元に積んでいたコインを掴む。

 

「さーて、楽しくなってきやがった。…って、次元じゃあるめぇし。」

 

そう言ってクックックと笑うと、目を鋭くさせて周囲の客を一瞥してからコインを置き始める。

すると、ベット額が跳ね上がると同時に明らかに勝率が変わってくる。

 

「凄いな…。このチップ一枚で約一万円だろう?」

 

「ちょっと豪勢な焼酎でも一升買えるなぁ。」

 

ルパンの手元にあるコインの中でも少額のものを一つ選んでみると、『100$』と書かれている。

それを見て感心というか、複雑な心境を伺わせながら武蔵が言えば、大したことはないとばかりにルパンが言う。

実際、目の前のテーブルではそのコインやおろかその一つ上の桁のコインですらほんの一分で数十枚が行き来している。

 

そして、退屈そうにルパンはあくびをすれば欠伸をして、コインを弄びながら言う。

 

「まったく、簡単すぎてつまんねぇなぁ。

こんなもんで負けれるってのは、ある意味才能だぜ?」

 

「あらあら~そんなこと言ったらいけないのよ~?」

 

頬杖をついたルパンの肩にそっと背後から身を摺り寄せながら龍田が言う。

その視線の先を見たうえで武蔵も龍田と同様にその豊満な身体を寄せ、笑う。

 

「提督よ。できない者からすれば、できる者が理解できないのと同様に、できる者にこそ理解の及ばぬ世界もあるのだぞ?」

 

その視線の先には一人の軍服の若い男がいた。

その男と同じテーブルの全員がわかっていた、その負けがこんでいる男にあてつけで言っていることを。

 

「お客様、ゲームの妨げになる私語はおつつしみ下さい。」

 

「おっと、悪ィなぁ。

酒が飲めないせいで、口が滑っちまう。」

 

ディーラーからの注意に頬杖をといていつもの人懐っこい笑みを浮かべれば、同じテーブルの客にもわずかな苦笑が浮かぶ。

そして、淡々とゲームを続けていく内に一貫したルパンの賭け方が見て取れた。

 

先ほどの男が賭けると、その逆側に常にそれより大きな額を賭け続ける。

その戦略が全勝とはいかないものの、三回に二回、よもすれば四回に三回はルパンが勝つのだ。

 

たまに勝って男がどうだとばかりに憎しみのこもった視線でルパンや他の客を睨むが、ルパンをはじめとした逆側に賭けた客は動じない。

さも子供をいなすように平然と次のゲームへと意識を移すだけだった。

それがまた若い男の頭に血を上らせる。

 

そうすると、そう時間も経たない内に男の手元のチップは尽きる。

持ってきた現金を入れていたらしい鞄からも現金の束が出てこなくなる。

 

「お客様…いかがなさいましょう?」

 

コインがなくなったのを見計らって、黒服の一人が若い男へとそう静かに問いかける。

ギリッと歯噛みした後に、軽く血走った眼で背後の黒服に低い声で告げる。

 

「酒匂とオイゲン、大鯨だ。

早くコインを持ってこい!!」

 

「お客様、他のお客様もいらっしゃいます。」

 

怒りに我を忘れたらしい男の声に黒服がガッと素早くその肩を抑える。

すると、自分でも失言だと思ったのか男は目を逸らす。

 

「…すまない。」

 

「では、コインをお持ちいたします。」

 

先ほどの発言を受けてかはわからないものの、黒服は男が落ち着いたのを見計らって頷くと襟元のマイクに何やら小声で言うと、別の黒服が盆の上に乗ったコインを運んでくる。

ルパンは先ほどの発言を聞いても反応をしないが、龍田と武蔵は目を交わす。

それを諫めるように、背もたれに肘を乗せるようなフリをして武蔵の腹を軽く肘で打つ。

 

「では、お楽しみくださいませ。」

 

若い男を諫めた黒服がテーブルの客全員へと頭を下げると、そのままフロアへと戻っていく。

当の男は目の前に運ばれてきた十万$前後のコインとディーラーの操るカードへと集中してしまい、特に何も気にしてはいなかった。

 

 

 

「さーて、そろそろエンジンをかけるかね。」

 

資金を追加された男はさすがに借金ということもあって、賭ける勢いは落ちた。

それでも負けは嵩み、慎重に少額を賭ければ勝ち、勢いに乗ろうと多額を賭ければ負けるという負の連鎖に飲まれてコインはみるみる内に減っていく。

ルパンは逆に男とは逆の賭け方でコインをテーブルに着く前から倍はおろか十倍近くまで増やし始めていた。

 

シューターも終盤にさしかかった頃、ルパンがニヤリと笑う。

そうして首を傾けて、コキコキと鳴らしてからよく様子を窺っていた若い男から視線を外す。

 

ルパンがやっていたことはシンプルである。

一言で言えば「負け犬を棒で叩いて河に沈める」。

 

カジノのゲームの多くは、店側のディーラー対他のプレイヤー(客)である。

しかし、その中でも勝つ者がいれば、負ける者もいる。

 

ルパンが他の多くのゲームの中でバカラを選んだのも、先ほどの若い男がいたからだ。

ルパンが様々なゲームのテーブルを見渡している間、他にも負けている客はいたが特に顕著だったのがその男だったからだ。

 

人によっては「死相が浮かんでいる」、「背中が煤けている」などと評するのだろう。

不思議なもので、何をやってもダメな時期というものはある。

そこで足掻こうとする、負けを取り返そうとすればなおさら負けが嵩むというのはよくある話である。

そういう時の対処法はたった二つ。

 

無理矢理『力で』負けをひっくり返すか。

それとも、負けを認めて手を引くか。

 

そのどちらも出来なかった男と同じテーブルにルパンは座り、その負ける男とは常に逆側に賭け続けた結果が増えたコインである。

しかし、その最中にルパンはディーラーに集中し始めた。

 

人さし指でテーブルをトントンとリズミカルに叩きながらじっと見つめる。

そして、先ほどの男と逆側に賭けながらも何かを図っていた。

 

「…そろそろか、ね。」

 

そう言うと、男と逆側のプレイヤーサイドに賭けれるだけ賭けるとともに、タイ(tie)(引き分け)に初めて限界まで賭けたのだった。

 

バカラは店にもよるが、基本的にテーブルバランスといって、プレイヤーサイドとバンカーサイドの全員の賭け額の差額の制限を毎ゲーム決められている。

どちらかに偏り過ぎると、額が制限されるのだ。

また、タイ(tie)に賭けれる額も自分がプレイヤーサイドとバンカーサイドのいずれかに賭けた額の何分の一まで、と制限もある。

 

ルパンの狙いはタイ(tie)狙いであることは明白だった。

それがわかった他の客は面白いとわざとルパンと逆側に賭けて、ルパンの賭けれる額を増やせるように協力する。

それに応じてルパンはどんどん賭け額を上げていく。

 

面白くないのはあてつけるだけあてつけられた上に、もはや眼中にないという態度を取られた若手提督である。

怒りに顔を紅潮させ、握りしめた拳からコインがこぼれる。

そのままありったけのコインを元々賭けていたバンカーサイドへと積み重ねる。

 

その様子に顔を青くさせているのが龍田と武蔵だ。

何故ならテーブル上には全員で数十万$、ルパンだけでも十万$以上賭けている。

ディーラーもあまりの白熱ぶりに中々ベットを打ち切れずに唾を飲む。

しかし、既にカードはテーブル上に伏せて配られ、あとは確認するばかりである。

 

「て、提督よ…タイが来なくとも傷は浅いが…バンカーがきたらどうするのだ!?」

 

「そ、そうよ~?賭けた額があれば何か月鎮守府が運営できると思ってるの~!?」

 

武蔵と龍田の言葉には偽りはない。

まともな思考ならばもう切り上げるだろう。

途中で抜けるのが問題になるならば、無難に減らないように少額を賭け続けてシューターが終わってから止めればいいだけだ。

既に持ってきた額の倍以上にルパンだけでなっているのだから。

 

しかし、ルパンは煙草に火をつけて不敵に笑った。

 

「俺はな、落ちてるお宝は根こそぎいただく主義なんだよ。」

 

その発言とともにディーラーは手元のベルを鳴らしてベットの打ち切りを宣言する。

あまりのテーブル上に積まれたコインの山に周辺の客はテーブルを遠巻きに眺める。

 

そして、各サイドの最高額をベットしたルパンと若手提督の下に、テーブル上に置かれていた各サイドに二枚のカードが滑るようにして渡される。

若手提督はその二枚のカードをギリギリと全力をもって、専門用語で言う『絞り』という方法でカードを徐々に徐々にめくる。

 

「一枚は…足つき!!…スリーサイド!!

もう一枚は…ッ!!ピクっ!!」

 

専門用語が男の口からほとばしるが、ルパンはカードに触れもしない。

解説は細かくなるので省くは、男は『一枚は6~8のいずれか、もう一枚は絵札(0)』だと言っているのである。

 

それを聞いてどよめく観客と裏腹に、ルパンは平然と『絞り』もせずに一枚を裏返す。

そのカードには『6』と描かれていた。

 

「いいからさっさとめくれよ。」

 

ルパンは必死な若手提督を鼻で笑って言う。

 

「ふざけやがって…ッ!!ナチュラルエイトぉっ!!」

 

カードに執念を刻むかのように、折り曲げるようにして『絞って』男はカードを場にめくって叩き付ける。

男がめくったもう一枚の札は『8』。

 

9には劣るものの、普通ならば勝ちがほぼ確定する数字である。

それを聞いて、ルールを把握していた龍田と武蔵の顔色は悪くなる。

 

しかし、ルパンはだろうなとばかりに静かに頷いてから手元のもう一枚のカードを人差し指で弾くようにしてひっくり返す。

そのカードは『2』。

 

「プレイヤー、バンカーともにナチュラルエイト!!

条件決まり、タイ(tie)!!」

 

ディーラーの震わせながらも、勝敗の結果を告げる声が響くとともに歓声が沸き上がる。

必死になっていた若手提督はまるで負けたかのように椅子に崩れ落ち、呆然と自分の賭けたコインがそのまま戻ってくるのを見る。

ルパンの手元にはプレイヤーサイドに賭けたコインそのものと、タイ(tie)に賭けたコインの8倍の配当金、そしてタイ(tie)に賭けたコインが返ってくる。

 

「よかったじゃねぇか、負けなくてよ。」

 

ルパンの冷やかしにももう男は怒りも出来ずに、打ちひしがれていた。

 

 

 

そして、シューターが終わるとルパンの手元のコインは山のようになっていた。

ちなみに先ほどの若手提督は一気に委縮してしまい、中々賭けることを決めれずに結果的に(ケン)へと回れば、さほどしない内に途中でゲームを切り上げた。

その時に残っていたコインは黒服へと全て渡し、何やら話していたので彼がカジノから借りた額はその後に話し合われるのだろう。

 

シューターに入れられていた残りのカードは念入りに破られて、ディーラーの足元のゴミ箱へと放り込まれる。

そして、新たな8セットのカードがテーブル上に並べられ、ルパンや残った客の手によってかきまぜられている時に一人の高級そうなスーツを着た男が現れた。

 

ちなみに今ルパンは一人だった。

あまりの激しい賭けに胃が持たないと、龍田と武蔵は次元の様子を見に行ったのだ。

実際、カジノにおいては一万円という額は金ではない。

ただのゲームのチップであり、下手すれば一回のプレイ代にも満たない。

 

そんな狂った世界の出来事だった。

 

 

そしてやって来た男はにこやかにルパンに話しかけてきた。

 

「楽しまれていらっしゃるようで何よりですな。」

 

「おっと、これはこれは…。

黒沼中将殿、お初にお目にかかります。」

 

カードをかき混ぜる手を止めて振り返れば、ルパンは芝居がかった振舞いで胸元に手を当てて頭を軽く下げる。

黒沼と呼ばれた壮年の男は温和そうな顔つきでありながら、僅かに目を細ませて微笑する。

 

「ハッハッハ、先進的な提督として名を馳せる君に来ていただけるとは驚いたよ。

近いうちに招待状を出そうかと思っていたが、誰かの紹介かな?」

 

「ええ、黒沼中将殿が社交場を開かれているとの噂を聞きましてね…ちょいと同行させていただいたわけで。

しっかし、中々ご盛況なようで?」

 

にこやかに話しながらもお互いの目は笑ってはいない。

黒沼はどうやってここに来たのかを探り、ルパンは誤魔化しては荒稼ぎしているなとジャブを打つ。

その際に椅子を回して黒沼に向き直りながらも、脚を組んで手の指を組み合わせて見据える。

 

「いやいや、私は伝手を知人に紹介しただけでね。

知人が経営していて、私はただの客の一人さ。

最初のうちから来ているせいか、そう勘違いしている方々も多いようだがね?」

 

笑って大きく肩を竦め、ルパンのジャブを軽くかわす。

それもルパンの予測通りなのか、ルパンも笑ってコーヒーカップを口元に運ぶ。

 

「なるほど、俺の知人もそう勘違いしていたようで、てっきりね。

考えれば、将来は大将か元帥かと言われる黒沼中将殿がこんな副業をしている、ってのは悪い冗談ですな。」

 

「将来の出世は上層部の判断だから何とも言えないがね。

確かに、そんな悪い噂は勘弁してもらいたいな。」

 

二人はにこやかに談笑をするが、お互いに目は笑っていない。

そしてルパンはカップをテーブルに戻すと、黒沼は笑っていない目のまま問いかける。

 

「どうだろう、ルパン君。

もしよかったら私と一勝負してもらえないかな?」

 

「とは言いましてもね…ちと、もう夜も遅いでしょう?

今晩のお楽しみがこれから待ってるもので、ね?」

 

黒沼からの誘いに腕時計を見ると、好色そうにニッヒヒヒと笑って避ける。

その言葉になるほどと小さく頷くと、薄く笑う。

 

「そういえば、君は先ほど武蔵と龍田を連れていたね。

…なるほど、そういうことかね?」

 

「まぁな。ほら、どうせ相手してもらうなら積極的にサービスしてもらいたいもんでね?」

 

龍田がこの場にいれば平手打ちどころか、切り落とされそうな事を肩を竦めて言う。

その発言になるほどと笑いながら黒沼が言う。

 

「なら短い勝負はどうだい?

1シューター付き合えとは言わないよ、短い勝負を台を借りてやるのはどうだ?」

 

「ま、それならいいでしょう。

適当な空いてる台でやりますかね…ツレがそろそろ来そうだしよ。」

 

次元のいるはずのルーレットのテーブルの方を見れば人だかりが出来ている。

それを黒沼も見ると、なるほどなと小さく頷いてから近くの黒服を呼び止めた。

 

 

そして、数分後には二人は空いていたブラックジャックの台にそれぞれ間の席を開けて座っていた。

 

「今回は変則ルールで、君と私の勝負をさせてもらおうと思ってね。

構わないかな?」

 

「ここまでお膳立てして構うも構わないもないだろうよ。

ただ、カードは新品の箱から出したうえで、お互いのチェックの上でお願いするぜ?」

 

強引なルールを突き付ける黒沼にルパンはバカ言ってんじゃないと鼻で笑いながらも受け入れる。

単なる常連客と言っておきながらも、実際はこんな無理が通る時点でそんなもんじゃないズブズブの仲だということは知れている。

 

その黒沼に目をつけられたルパンとの直接対決だ。

最初は特別室へと言われたものの、ルパンがのらりくらりとかわしてこのフロアのテーブルでの対決となった。

 

「要はお互いがプレイヤーでディーラーサイドだ。

ヒットもスタンドもお互いの思うまま、ただ負けた側がディーラー同様に支払うということだよ。」

 

「おお、怖ェ…さーて、時間もねぇこったし、手っ取り早くいきましょうや。」

 

「そうだね。あちらはどうなったかはわからないが、決着がついたようだ。」

 

不意に次元の台の方から歓声が上がり、そちらを一瞥してお互い頷く。

ディーラーはカードを新品の箱から出してすべてのカードがきっちりとあることを二人に確認させたあとで伏せてかき混ぜる。

その上でお互いが交互に自分で伏せられたカードをテーブル上でかきまぜて念入りにシャッフルをする。

 

当然ディーラーは黒沼側だろう。

その辺りをわきまえているルパンはディーラーから目を離さない。

 

そして、カードはシューターに収められた。

 

「あっちも終わってるみたいだし、これ一回限りにしようぜ。

俺は義理堅くてね、ツレ待たせてダラダラやるなんてのはいただけないんでな。」

 

「おやおや、カードを配る前にそんなことを言ってもいいのかい?」

 

「どんなカードが配られてもそうするつもりなんでね。

カードがどうとかじゃなくて、時間が問題だからよ。」

 

「なるほどね。一回限りなら全て君のベットにコールしようか。

折角の一回限りのゲームだ、フォールド(=降参)なんてつまらないからな。」

 

二人とも椅子に深く腰掛けながら堂々と宣言し合う。

 

それと同時にお互いに交互に表になったカードが配られる。

奇しくもスートの違いはあれども、『絵札』だった。

 

「おやおや、私はスペードのキングか。」

 

「俺はスペードのジャックだな…歳の差のせいかね?」

 

ルパンの軽口に周囲は何も言えない。

このような場にお互いいるとはいえ、黒沼は現役の海軍将校なのだ。

しかし、言ったルパンも黒沼も言及しない。

 

「面白いものだ、お互いが軍属であり、剣を示すスペードを引く。

そしてキングが私で、ジャックが君か。」

 

「組織としちゃ、あんまりキングが天辺(てっぺん)に踏ん反り返ったままってのもよろしくないだろうがね。」

 

また、ルパンが際どい発言をする。

このキングが黒沼を指すのか。

それとも現役の元帥などの上層部のトップのことを指すのか。

 

どちらともルパンは言わずににこやかにディーラーの手元を見る。

すると、自然に、何も出来ずに上から一枚を伏せたまま黒沼の方へカードを滑らせる。

そして、ルパンにも。

 

「さて、ベット額はどうするかね?

あまり興醒めなことはしないでくれたまえよ?」

 

大きな身振りで黒沼はギャラリーへ肩を竦める。

わかってると、苦笑するとルパンはテーブルの端に肘をついて軽く前のめりになる。

 

「言われなくてもわかってらぁ。

オールインに決まってるだろう、俺の持ち金全部だ。」

 

数十万$以上の額を一度に賭ける、ときっぱりと言い放つ。

 

「いいのかい、私が引いたのがエースだったらそれ以上を払わねばならないのだよ?」

 

「それくらいわかってて言ってるに決まってんだろうがよ。

それこそ、興醒めじゃねぇか?中将殿。」

 

丁寧な言葉で釘を刺す黒沼を一蹴するように、切り返す。

黒沼は一瞬目を細めたが、笑顔を崩さずに頷いた。

 

「いいだろう。では、勝負と行こうか。」

 

そう言って、黒沼も前のめりになってカードに指をかける。

 

 

 

その瞬間。

 

「提督よっ!?なんという額を賭けているのだっ!?」

 

「うわあああああ!?ご主人様まで壊れてるぅぅぅっ!!!」

 

「あら~…あらら~……。」

 

「こりゃまた、面白れェ勝負してやがンな?」

 

ちょうどギャラリーを掻き分けて最前列にやってきた次元たちが目にしたコインの山を見て、武蔵と漣の裏返った声の悲鳴が響き渡る。

その声にギャラリーも、黒沼もが一瞬視線をそちらにやった。

 

ただ、一人を除いて。

 

ゆっくりとルパンは振り返って、五人を見る。

次元の押してきた台車に乗ったアタッシュケースを見て笑う。

 

「よぉ、次元。だいぶ今日はツイてたみてぇだな。」

 

「ああ、たまたまな…そろそろ帰る時間だろうが。」

 

「これがラストゲームさ。」

 

そう言ってテーブルに振り返る。

 

「……改めて、勝負と行こうか。」

 

黒沼はスタンドもヒットも言わずに、ただ手にしていたカードを返すと、そこにはダイヤの『A』があった。

 

「スペードのキングを持つ私が、金を示唆するダイヤのエースを手に入れた。

君には申し訳ないが、私が勝つことはカードが知っていたようだ。」

 

周囲のギャラリーは興奮も示せずに、ただそのカードから目が離せなかった。

 

「…ブラックジャックね。

出来過ぎな気もしねぇでもないが、そこまで上り詰めるだけの運は持っていたってことか。」

 

フッとルパンは伏せられたカードに指を乗せたまま動かさずにいた。

完敗の宣言ともとれる言葉に観客はようやくざわめき始める。

そして黒沼の笑顔は勝利を確信した、勝ち誇ったものとなっていた。

 

「だが、俺も運には自信があってね。

実力は当然だが、運もなけりゃ何回死んでるかわからねぇや。」

 

そう言ってひっくり返すとカードには『スペードのエース』が描かれていた。

 

「…ッ!?…ナチュラル、ブラックジャック…!!」

 

黒沼は喉の奥から絞り出すような声でそう呟くことしか出来なかった。

そのまま、睨むように黒沼はディーラーを見るが、ディーラーはインカムで何やら話しかけて確認してから激しく首を横に振る。

 

そしてルパンはそのまま立ち上がって、先ほどの黒沼の勝ち誇った笑みのお返しとばかりに笑って見下ろす。

 

「通常ルールなら15倍付け、そうだろうディーラー君よ。

黒沼中将殿からの回収はどうするかは知らねぇが、カジノ側が支払うんだろう?

ツレが待ってるんだ、早くしてくんねぇか?」

 

上着の皺を伸ばすように胸元で上着を引きながら、ディーラーに言うと観念したのか黒沼の頷きとともに黒服がアタッシュケースをいくつも運んでくる。

そして、黒沼にニヤリと笑って背を向ける。

 

「楽しかったぜ、黒沼中将殿。」

 

 

 

そして、帰り道の車中にて。

 

「…よく勝てたわね~…あの中将殿のブラックジャックを見たとき、借金の返済方法を必死で考えたわ~。」

 

「あのね、龍田ちゃん…俺も勝算が無きゃ、あそこまで賭けねぇよ。」

 

助手席の龍田が万感の思いを込めてため息をつく。

決して艶めいた万感の思いではないのがネックではあるが。

 

それをルパンは苦笑しながらSSKを走らせる。

 

「…え?」

 

「バカラで勝ったのは、カウンティングって言ってシューターの中にあるカードの残数と残ってるカードを全て数えて確率で攻めただけ。

まぁ、負け犬の逆を張ったってのも大きいけど。

最後のブラックジャックはバカラの台の新品のカードから一枚失敬してきたんだよ。」

 

当然とばかりに鼻で笑って、煙草をルパンが吹かす。

それを目が点とばかりに龍田は呆然と見つめるしかなかった。

 

「…な、なら~…あの黒沼中将が、スペードのエースを引いたら?」

 

「その時は表向きはディーラーのイカサマを指摘しつつも、裏で黒沼のせいにしたな。

俺とあのディーラーは当然だが、カジノにとって俺と組むはずがねぇのはギャラリーは皆知ってるだろ。

ごり押しでいけるならナチュラルブラックジャックで俺の勝ち。

押し通せなければ引き分けでなかったことにしてトンズラだな。」

 

さらりと言ってのけるルパンに、龍田は脱力してシートに身を預けきる。

 

「……提督には勝てる気がしないわ~。」

 

「こちとら天下の、神出鬼没の大泥棒、ルパン三世様だ。

龍田ちゃんみてぇな若いお嬢さんにそうそう負けてやれないのよ、これが。」

 

けらけらと愉快そうに笑うルパンの肩を、軽く叩くくらいしか龍田には出来なかった。

 

 

 

「なんと…しかし、カジノ側もイカサマ対策はしているんじゃないのか?」

 

「ま、してたみてぇだけどな…本場でも通じるルパンのイカサマだ。

あんな程度の防犯設備じゃ見抜けねぇだろ…ちょうど、お前たちの絶叫で周囲の人間の目も引けたしな。」

 

次元の車の中でも種明かしがされていた。

ちなみに次元は後部座席でアタッシュケースを背に寝転んで煙草をふかしている。

トランクにも積んではいるが、積み切れずに後部座席の上にアタッシュケースを敷いているのだ。

 

「…アレはそんなつもりはないぞ。」

 

「だろうな、だから諫められなかったんだよ。」

 

助手席の武蔵が身体をねじって次元を見ながら、言うが次元は動じない。

すっかり慣れてしまった携帯灰皿に灰を入れながら帽子で目線を隠す。

 

「じゃ、次元ご主人様はなんであそこまでルーレットを当てれたんですか?」

 

「単純に、目だ。」

 

「「目?」」

 

シンプルに答えた次元の言葉に、二人は声を揃えて聞き返す。

 

「投げ方は練習したみたいだったがな、ディーラー全員同じ投げ方でしか投げ入れないから勢いで大体の着地点が読めるんだよ。

本場なら同じように投げ入れても細かい回転とかで変化をつけるんだが…そこまではできなかったみたいだな。」

 

「な、なら最後の『00』は!?」

 

「簡単さ…あの最後のディーラーは明らかにこっちを見下してただろ。

しかもあんなに露骨にこっちをむしろうとして来やがった上に、レートアップ。

賭けなかった時も投げ入れる場所を練習するようにしてやがったからな…。

あんなに高レートにいきなりなったなら、赤か黒に賭けるのが大半だろう?」

 

お前たちならどうだ、と次元が顎で二人を示して問いかける。

 

「そ、そりゃ…千$単位でいきなりってなると…。」

 

「そこで、出鼻をくじくために狙うとなりゃ、赤でも黒でもない0か00だろ。」

 

当然の結果、と言わんばかりの次元に薄く笑って武蔵は天井を仰ぐ。

 

「参ったな…。」

 

「とはいえ、きっちり球の投げ入れた勢いとかも目でも確認した上で、だったけどよ。」

 

気を取り直してか、漣が少し引きつった頬で笑いながらバックミラーを見ながら言う。

 

「で、でも無事に帰れてよかったですね~。

下手すれば、怖い人たちが出てきて…とも考えましたが!」

 

「そりゃ、逆にねぇんだよ。

ああいうオープンな場ではそういうことは一切できねぇんだ。

堂々とそんな無法を通して見ろ、『あのカジノじゃ勝ったら暴力で奪われる』って一気に評判になるぜ?」

 

「…全て、計算の上、ですか~。」

 

もう何も言えない、とばかりに肩を落として漣もそうとして言わなくなる。

むしろ逆に次元の方がほろ酔い気分のまま、軽く帽子の鍔を上げる。

 

「ま、それすらもわからず力づくでくりゃお前らも素手でもイケるだろうし、俺のマグナムが黙っちゃいねぇ、って寸法さ。」

 

それを聞いて漣と武蔵は顔を一瞬見合わせて、やれやれと前を向く。

夜道を走る中、武蔵はポツリと、しかし楽しそうに呟くのだった。

 

「…やれやれ、こうなっては私たちも決めるしかないようだ。」




というわけで、長くなりましたがカジノ編完了です。

E1でグラーフが落ちるとか言いだした奴は許さない。
(現在の情報によると、どうやらガセのようですが定かではありません)
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