流石にビッグタイトル二つの合わせ技。
おんぶに抱っこにならないようにいい文章を創り出さねばいけませんね…。
お飾りを掘りつつ執筆…。
ルパンたち三人が電話を終えて少しして。
ルパンは鎮守府の執務室の机にファイルを何冊も重ねていた。
「まったく、お役所仕事ってのかね…マニュアルだらけで嫌になるね。」
「で、でも!そういうルールなのです!!」
「ま。頑張ってくれや、【司令官】様。」
「た、煙草は身体によくないのですぅっ!!」
電は執務室を忙しそうに駆け回っている。
一人の提督に、秘書艦が一人である。
なのに、執務室には司令官が三人もいる。
その全員の世話で忙しかった。
とはいえ、一人は黙ってソファーの上に座って刀の手入れをしているので楽ではあったが。
「言っとくが、俺はそんなガラじゃねぇ。
ルパンの手伝いならまだしも、俺はそんな仕事やらねぇからな。」
提督か否かは艦娘が一目見ればわかるものらしい。
その判別は絶対で、多数決などで分かれるものではない、とのことである。
ルパン一味、全員が提督になる素養を電に保証されたのだが、次元は一言で切り捨てた。
ガンマンなのに。
当然、といっていいかどうかはさておき、五右衛門もである。
その結果、丈二とも話し合ってルパンが提督。
次元と五右衛門はその補佐官という形で落ち着いた。
丈二としても五右衛門と次元を別々の鎮守府に散らしたくなかった、というのもある。
すぐ近くに鎮守府を置いても、その距離が近いと別々の鎮守府の意味がない。
広い海を領地とする深海棲艦を相手取るためにはやはり鎮守府は散らしたいのが本音。
ブラック鎮守府を相手にするためにはやはり一味揃って力を借りたい。
なのに、バラバラの場所にいられては集まったり、様々な協力をするのに都合も良くないという裏事情もあった。
丈二は三人を利用する、と言ってはばからないが、汚れ仕事と言えば汚れ仕事だ。
それを任せるにあたって当然見返りをしなくてはならないとも考えている。
しかし、それを表だってはできるはずもなく、誤魔化しながらの優遇処置を考えている以上、一か所にまとめて一気にやってしまいたいのだった。
提督となったせいでルパンは本来軍学校ともいうべき専門の教育課程を経て着任すべきところを、詰め込み式で様々な知識を頭に叩き込んでいた。
とはいえ、IQ300とも言われているルパン三世である。
凄まじい速度で知識を手に入れていった。
「なぁ、電ちゃんよ。ちょいと気になるんだけど…他の鎮守府の情報見てるとさ、同じ艦娘の名前見るんだけど、どういうこと?」
「あ、それはですね。厳密にいえばこの長門さんだったら『長門タイプ』と言うべきなのです。
ほぼ一緒の姿、艤装の艦娘は複数いるのです。
ただ、元になった記憶は同じ『戦艦長門』の記憶を持ってますけど、それぞれ個性は違うのです。
この私、『駆逐艦電』でも、もっと強気の電もいれば、弱気だったり、腹黒いのもいるらしいのです。」
どこか自慢げに胸に手を当てて、誇らしげに語る電を見てルパンは困った顔をする。
「腹黒い?…想像できねぇけど、まぁそっくりさんがいっぱいいるってことね。
で、ドロップとかで重複することはあるのかい?」
「それは妖精さんが調整してるのかわからないのですが、その鎮守府に既にいる艦娘が出た場合は、艤装のみが出てくるのです。
多分、司令官さんは解体のことも気にしているのだと思うのですけど…それはあくまで艤装の話なのです。」
「そりゃ助かるわ。牧場とか書かれてて、ちょっと気になってね。
…ちなみにその鎮守府に電ちゃんなら電ちゃんの艤装が一個もなくなったら?」
「それは私たちの意思次第なのです。
もう生きてるのが嫌になった、とかでしたらたぶん艤装と一緒にいなくなるのです。
艤装がなくても鎮守府のために働きたい、と思えば生身のまま鎮守府にいるのです。」
ルパンたちからしてみると、電はせいぜい小学生高学年はいっているだろうが高校生というにはどうだろう、といった体つきである。
そんな子供に働く、と言われても何とも言えない三人であったが、その辺りは慣れているのか電は笑って言う。
「司令官さんたちからするとピンとこないかもしれないのですが、こう見えて普通の人よりも力持ちなのです。
艤装がなくなったら砲撃とか海上を移動することはできないのですが、例えば警備や荷物運び、お掃除など何でもお任せなのです!」
「なる、ほどね。まぁそういうならそうなんだろうさ。
で、大きな問題…というか、任務があるんだけど。」
ルパンが見た資料にも艦娘の特性は書かれていた。
通常の人間よりも艤装をまとえば防御力は圧倒的に強く、砲撃にも耐えうる。
また艦種に左右されるものの、砲や艤装を扱う関係で駆逐艦でも一般男性よりもはるかに力が強いとあったのだ。
それを知らない次元と五右衛門は電が警備だの力仕事をすると言われても訝し気な顔ではあるが。
ルパンから任務と聞かされると電は嬉しそうに顔を輝かせて、軍艦らしく敬礼を返す。
「はい、なのです!!駆逐艦電にお任せなのです!」
「…腹減ったんだけどさ。俺たち、二日酔いだから胃に優しい食事が欲しいんだけど…そのへんどうなってんの?」
電は食堂の厨房で唇を尖らせていた。
電からすれば乙女の純情を返せ、と言いたい。
かの戦争での無念を抱え、今生こそはお国のために、司令官のために粉骨砕身で頑張るつもりだったのである。
助けれる命を助けたい。
これは第一命題ではない。
中にはこれを第一命題に掲げる電も多いらしいが、戦いがそんなに甘くないのをこの電は知っている。
戦わずに済むのなら戦いたくない。
戦いの後で要救助者がいるなら助けたい。
しかし、降りかかる火の粉を払うことは仕方ない。
それくらいには割り切っているのである。
「甘ちゃんじゃないのです。」
思わずうどんを茹でる鍋に愚痴をこぼしてしまった。
初期艦として配属はされたものの、電は違う鎮守府を経験したベテランでもあった。
電がかつていた鎮守府はブラックではない、ホワイト鎮守府だった。
白すぎて、艦娘が暇なくらい。
白すぎた結果が、提督の消失だった。
文字通り消失。
時折、提督は消失する。
深海棲艦に食われた、などという説もあるが、消失なのである。
失踪でもない。
ある日を境に司令官が消え失せてしまう。
大本営でも謎とされる現象であり、頭の痛い話でもある。
そういう場合は所属艦娘が大本営に報告して、鎮守府を初期化するのである。
その鎮守府によって処理は違うが、多くの場合は所属艦娘は様々な違う鎮守府や大本営へと異動となるのである。
電は一度大本営へ異動した経験を持つ艦娘だった。
そして新たな鎮守府へ提督の初期艦としての着任。
心機一転、といった気構えと今度こそはという乾坤一擲の決意が電の胸には燃えていたのだ。
そして初任務は。
電を含む4人の昼食の支度だった。
愚痴の一つも言いたくなってもおかしくはない。
その愚痴をぶつけたい的であるルパンは食堂の管理を司っている食堂妖精さんを囲んでいた。
「マジで…妖精さん、だな。」
「面妖な…。」
「いや、しかし…愛嬌があっていいんじゃねぇの?」
正式名称は【戦闘糧食妖精】ではあるが、食堂の管理もやっているのである。
電からすれば「間宮さんが小さくなった妖精」といった感じだが。
電は鍋を火から上げると、流しで湯を切って器に盛る。
妖精さんたちが用意してくれた汁を上にかけて、おあげなど具材を乗せれば出来上がりである。
「司令官さん!次元さん、五右衛門さん!取りに来てほしいのです!!」
妖精さんを見て遊ぶ三人を呼ぶ声が少し尖ったものになってしまった電を責めるのは酷だろう。
「いやーほっとするね。やっぱ出汁の優しい味ってほっとするぜぇ…。」
「うむ…いい味だ。きっと電殿はいい嫁になれるでござるな。」
次元は口を開かないが、無心にうどんを啜っている以上気に入った様子だった。
「まだ専門の間宮さんがいらっしゃってないのですが、今日中に着任するはずなのです。」
「間宮…ってぇと…確か、最中や羊羹で有名だった、あの間宮か?」
意外なことに電の言葉に反応したのが次元だった。
「ご存じなのです?」
「昔、テレビで見たんだよ。大量の食糧を運ぶための後方支援の船。
しかし、士気高揚のためにって菓子職人を高給で雇うようになると、中で羊羹を作って大好評だった、ってな。」
「へぇ…そんな船もいるんだな。」
「そうなのです。間宮さんはあくまで後方支援なので艦娘として海上には出ないのですが、間宮さんと伊良湖ちゃんの甘味が嫌いな艦娘なんていないのです!!」
手に持っていた箸ごと拳を握りしめて語る様子にルパンは苦笑しかなく。
「そりゃ艦娘って言ってもお年頃の女の子だしなぁ。甘いものは別腹、だよなぁ。」
「私たちは甘味が有名ではありますが、通常の食事もできますのでご安心下さい。」
不意に知らない声がして全員が声のした方を向けば、揃いの割烹着の女性二人が入り口に立っていた。
「申し遅れました、先ほどお話に出ました糧食艦間宮です。」
「あ、あのっ、私…伊良湖です!ケーキやパンなど、洋風料理や菓子が得意です!」
二人が食堂の長テーブルに座っている四人の前に立つと深々と頭を下げる。
テレビで「糧食艦間宮」を見た、次元は深い溜息を漏らして帽子を深くかぶりなおす。
「いや、すまねぇな。アンタからしたら言いがかりに近いかもしれねぇが、つい最近テレビで鉄の船のアンタを見ちまったせいでな。
これまでの説明で同じ存在、というか…そういうもんだってわかるんだが、なんか違和感がな。」
「いえ、お気になさらず。そうですね…一種の成長期だと思ってください。
ほら、久しぶりに見た小さかった子がこんなに大きくなった、とでも。」
「どんな成長期だよ、まったく…見かけによらずいい性格みたいだな。
俺がココの提督の『ルパン三世』だ。かの怪盗アルセーヌ・ルパンの孫だ。
何の因果か着任しちまったようでな、これから世話になる。よろしく頼むぜ。」
次元の言葉にニコニコとした朗らかな笑みを浮かべて言えば、苦笑しながらルパンが手を差し出す。
その手を優しく柔らかい二つの手が握り返す。
「そちらのお二人は…?」
「俺たちァルパンの長年連れ添った相棒でな。ま、補佐ってヤツさ。
よろしくな、美味いメシ、期待してるぜ。」
「うむ…世話になる。」
司令官適正のある二人が補佐、というのが驚きなのか二人は顔を見合わせるが、何とか納得してくれたのか挨拶を済ませればふと間宮が思い出したかのように言う。
「あ、そう言えば提督。異動してきた中から代表の子達が司令室に向かうそうですが…。」
「っと、そりゃいけねぇや。おい、次元、五右衛門。
片付けて急いで…」
「あっ!皆さん、置いておいて結構ですよ。私が、片付けておきますから。」
意外なことに、大人しそうな伊良湖が自分から言い出したことに電も間宮もつい伊良湖を見てしまった。
「あの、そのっ…待つの、不安でしょうし。」
「そっか、そりゃそうだな。…悪ィな、伊良湖ちゃん。
このお礼は必ずするからよ。」
「…すまねぇ。」
「かたじけない。」
「ありがとう、です。」
四人で間宮伊良湖の隣を頭を下げながら執務室へと移動していく。
初対面が大事だというのはルパンたちもよくわかっている。
いくら相手が事前に時間を伝えてきていないとしても、待たされていい気分になる人間はいない。
ルパンだけでなく次元や五右衛門も媚びを売る気などはないが、わざわざ嫌われる気もないのである。
そのまま小走りで鎮守府を移動すれば、ふと五右衛門が脚を止める。
「おい、どったの?」
「…ちょっと待て。何やら、多数の気配が…。」
五右衛門の言葉に男三人が周囲に気を配れば、確かに微かながら声が聞こえる。
どうやら隣接した大きな建物の方から聞こえる。
「あの、多分応援の艦娘の子たち、なのです。」
「へ?そんなにいんの?」
「…言ってなかったのです。ファイルにあったと思いますが、『消失』した鎮守府の話は読まれましたか?」
「あぁ。提督がーってヤツね。」
「はい、それで私をはじめ、鎮守府がまるまる異動したのです。」
あまりの規模といえばあまりの規模の異動に三人とも目を見開く。
「はぁっ!?…それって…何人くらい?」
「はわっ!?…80人ちょっと、ですが?」
「「「はっ、80人ッ!?」」」
あまりの数に三人の男の声が廊下に響き渡る。
「は、はい…ほら、建造したりとか掘ったりとか大変でしょうし…。
浦賀中将曰く……大本営でも余っちゃって大変らしいのです…。」
「…優遇って言えば優遇なんだろうよ、提督様。
最初から設備やら人材やら万全なんだから、よ。」
「確かに…拙者たちと電殿一人だけでやるのは、ちと厳しいだろう。」
「あっちの事情は目をつぶるしかねぇな…わざわざやってきて、帰れとも言えねぇしなぁ…。」
電のつい漏らした実情に三人は顔をまたも見合わせるが、実際ルパンたち側にも利はあるのだ。
浦賀、そして大本営側にも多少なりとも利はあるのだが。
三人はしょうがないと肩を竦めて執務室へと戻るのであった。
「…以上、87名。ルパン三世提督の指揮下に入りました。
以後、よろしくお願いいたしますね。」
「…可憐だ…。」
そして、執務室には約10名の見目麗しい少女で満たされていた。
執務室は報告を受けるための場所でもあるためか、普通の部屋よりは広い。
応接間のように使うためかソファーすらあるくらいである。
しかし、それでも10名以上、ルパン達も含めれば約20名の人間で満たされていれば息苦しいくらいだった。
それでも不快そうな態度すら伺わせず、背筋を伸ばして整列している艦娘たちにルパンもつい背筋を伸ばしてしまう。
先ほどのように我関せずといった態度を次元も五右衛門もとるわけにはいかず、執務机の前に立ったルパンの一歩斜め後ろで待機するしかなかった。
そんな中、代表として赤城と名乗った朱袴の弓道着をアレンジしたような和服の女性が司会のような形で、各艦種の代表の艦娘たちの紹介をし終えたのである。
しかし、ルパンも天下の大泥棒である。
「確かに。…さぁて、堅苦しいのはここまでだ。」
引き締めていた顔をニィと崩すと、肩を普段のなで肩に戻す。
「俺ァ、確かに『提督』って仕事を引き受けたがな、元は天下の怪盗、大泥棒さ。
だから今みたいにしゃちほこばって話す相手じゃねぇ。しかしな、俺はやると決めたことはきっちりやるのさ。
お前さん方、『艦娘』はやることやって、通すべきケジメさえきっちり通してりゃガチャガチャ言う気はねぇ。
ま、楽しくいこうぜ。」
あまりの落差に艦娘達は顔を見合わせる。
その中で一人の艦娘が手を挙げた。
「えーっと、軽空母の隼鷹、だったよな。どした?」
「提督、それじゃまるで自由時間は好きにしろ、って言ってるように聞こえるんだけど?」
「あぁ、そう言ったつもりだからな。ただ、共同生活らしいから隣人とかの迷惑にならない程度に、仕事に支障をきたさない程度に、っていう制約は課すけどよ。」
冗談なのか、揚げ足取りのつもりだったのか、隼鷹がニヤニヤしながら問いかけた内容をあっさりルパンが頷く。
補足を付けたものの、それでも予想外だったのか隼鷹は笑いを引きつらせる。
するとその傍にいた黒髪のロングの大人しそうな艦娘が手を挙げる。
「あの、訓練は所定の時間以外ではしてはならないのでしょうか…?」
「うんにゃ。だから『自由時間』なんだよ。
まだ細かく決めてねぇけど、要は完全な非番と準非番と当番の艦娘決めて、非番は完全に自由。
酒が飲みたきゃ飲めばいいし、外出したけりゃ申請してすりゃいい。特訓したけりゃすりゃいいさ。
ただ、やることはやれ。やりたいことをやれ。」
ルパンは言わずと知れた天下御免・神出鬼没の大泥棒だ。
そのルパンたちが愛するものは何か。
「自由」、そして「冒険」だ。
人間誰しも毎日を胸躍らせ、自分のやりたいことをやって生きていきたい。
しかし、多くの人間が社会のしがらみを振りほどけずに、社会の枠の中で生きていく。
これが悪というわけではない。
多くの人間が生きていけるためのシステムなのだから。
だが、ルパン一味にはそのしがらみはただの檻でしかない。
社会の枠を飛び出して、痛快に生きていけるだけの能力があるのだから。
そんなルパンたちだからこそ艦娘を縛るつもりはない。
ルパンの能力や生きざまはまだ艦娘たちにはわからないが、その姿勢だけは艦娘たちには通じた。
「…だが、なんでもやっていいわけじゃねぇ。
何かあったら相談しろ、コイツが何とかしてくれるだろうさ。」
「おいおい、次元ちゃ~ん。俺に丸投げかよ?」
「それが仕事だろ?」
流石に誤解されてはマズいと思ったのか、ずっと無言だった次元がおもむろに口を開いて釘を刺す。
その次元のわき腹を肘でつつきながらルパンが茶化すが、それを肩を竦めつつも軽く笑って次元が答える。
それを見た赤城か少し笑いながらも改めて敬礼する。
「了解しました、提督。これからよろしくお願いします。」
こうして、軍服を着ない提督の鎮守府が始まったのだった。