大泥棒一味が鎮守府に着任しました。   作:隠岐彼方

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掘り、終わりました。
某スプレッドシートにて書いていましたが…全部で300周近く掘りをしました。

まだトライ中(掘り&攻略)の皆様は頑張ってください!!
あと約9時間強!!


15-2.ルパンは2月を堪能するようです(2)

執務室を後にしたルパンはゆったりと歩いては外の日差しに目を細める。

外の空気は冷たいものの、日差しは明るく、外の海の海面がキラキラとまばゆく光っている。

 

「…今頃、遠征任務部隊が頑張ってるのかねぇ?」

 

どうしても海を見ると、今頃自分の指示を一生懸命こなそうとして努力する艦娘達が思い浮かぶ。

特に全員をまとめる天龍や長良、由良といった軽巡の娘たち。

それなりにアクの強い娘たちだが、決して悪い娘ではない。

 

「…できる限り、やってやりますか、ね。」

 

煙草の箱に手をつけようかと思って懐へ手を伸ばすが、鎮守府の廊下ということもあって手を止めた。

そんな気遣いをしている自分に気付くと、苦笑しながら廊下を歩いていくのだった。

 

 

そして、ルパンは歩きながら考える。

 

今日は仕事をするなと厳命された以上、格納庫や明石の工作室は避けるべきかもしれない。

とはいえ、エアコンなどの設備設置や空気清浄機などの製作で苦労を掛けたので、差し入れの一つや二つはしに行かねばならないだろう。

 

混みやすい酒保ではあまり時間を潰すのは向いていない。

切れかけの煙草と他に何かを買う程度で済ませるべきだ。

 

その後はどこに行ったものか、と迷いながらまずは酒保に向かった。

 

 

 

「ありがとうございましたー。」

 

酒保でルパンは目的通りに自分用の煙草のついでに、次元用の煙草も購入した。

なお、今ではルパン鎮守府の酒保ではルパン鎮守府所属艦娘は働いていない。

 

既に引退艦娘たちに引き継ぎが済んでいる。

そのためレジを打ったのは、恐らく元青葉と思われる女性だった。

酒保には、勤務時間の兼ね合いだろうがほとんど艦娘はいなかった。

今日非番らしい羽黒が偶然居合わせただけだった。

羽黒はルパンに慣れていないのかどもりながらも一生懸命挨拶をしてくれたので軽く話し、ジュースを一本奢った。

 

 

待機小屋とも言える『発艦所』へと差し入れの詰まった袋を片手に歩いていると、ふと先を歩いている少女たちが目に入った。

それは、酒保の際に世話になった朝潮型たちだった。

 

「お~い、朝s…」

 

「…今晩の予定…」

 

「…ルパン…暗殺……21時…」

 

前を歩く朝潮たちの言葉の端に、物騒な言葉がルパンの耳に入る。

その瞬間、ルパンは呼びかけかけた口を閉じるとともに、近くにあった扉へと音もたてずに忍び込んだ。

その数瞬後に朝潮たちは振り返るが、そこには誰もいなかった。

 

「…あれ?今、提督の声が聞こえなかった?」

 

「気のせいじゃない~?誰もいないわよ~??」

 

朝潮が首をかしげるが、誰もいない以上そう判断したのかすぐに小さな足音を立てて、別の方向へと去っていった。

 

 

「いよぉ、諸君これから出撃かね?」

 

それからさほど時間が経たない内に、ルパンが発艦所に顔を出した。

これから出撃なのか、扶桑・秋月・北上・大井・龍驤・隼鷹の六人が整列していた。

まさかのルパンの登場に、次元を含めた全員の目が見開かれている。

 

「…そんなに驚かなくてもいいだろ。俺だってお休みぐらいもらうぜぇ?」

 

「何か月ぶりのお休みだってんだ。

…ちょうどいいや、お前が訓示というか…喝の一つや二つ飛ばしてやんな。」

 

ルパンの言い訳じみた言葉を逆に笑いながら、次元が髭の生えた顎で六人を示す。

まさかの事態にどこか浮ついたような雰囲気を六人は持ちつつも、姿勢を正してルパンをじっと見つめる。

 

「お前、毎回やってんの?真面目っちゅーか…ま、いいか。」

 

その全員からの期待とからかいの混じった視線に苦笑して肩を竦めれば、軽く咳ばらいをする。

 

「ん~む。俺はな、滅私奉公なんて求めちゃいねぇ。

ただ、出来ることを、出来る限りやる。

それは自分たちの身を守ってのことで、命と引き換えにするもんなんかじゃねぇ。

ヤベェと思える兆候があったら報告、いざとなりゃケツ捲って逃げて来い。

お前たちで無理でも皆でなら出来るかもしれねぇからな…『帰ろう、帰ればまた来られるから』ってな。」

 

振られたものの何を話していいかと軽く首を傾げて悩みつつも、ルパンは故事を引用して淡々と言う。

そこには過度の期待も、失望も何もなく、ただ事実を確かめるように言うだけだった。

 

「今回はデイリー任務消化でしかないし、ルート固定もねぇ。

ただ行けるだけ行って、大破撤退を厳とし、帰ってこい。

『単なるお使い』に行くつもりでな?」

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

最後にニィッと笑って言うと、六人の顔には穏やかな笑みとともにほんのわずかな緊張感が漂う。

そのまま全員はルパンと次元に敬礼をした後に、発艦所を出た。

 

小屋と言っていい発艦所を出た後に六人とも艤装を一瞬で身にまとうと、そのまま海へ出る。

北上と隼鷹は海を走りながら発艦所の方へ振り返って、手を振るのだった。

 

「で、何かあったのかよ?」

 

「んー、昨日の荒稼ぎでよ。

余裕も出来たし、最近働き過ぎだから休めって鳳翔さん達に言われたのよ、これが。」

 

発艦所で見送った次元はストーブの上にあった、昔懐かしいアルミの丸っこい大型の薬缶を手に取ると、インスタントコーヒーを備え付けのマグカップ二つに作る。

その一つをルパンに差し出しながら、椅子に腰かける。

 

「…嘘つけ。なーんか、あったんだろ?」

 

「……まぁ~な…ちぃと、信じたくねぇんだけど、な。」

 

ルパンも次元の隣の椅子に腰かけながら、迷いながら口を開く。

そして、先ほど耳にした朝潮たちの言葉を伝える。

 

次元は煙草を吸いながらも、信じられないとばかりに眉を寄せる。

 

「そりゃ…間違いじゃねぇか?

よりにもよってあの朝潮たちだろ?」

 

次元の言葉に唇を尖らせつつ、ルパンはコーヒーを啜る。

 

「この耳で聞いちまったんだから仕方ねぇだろうがよ。」

 

「百歩譲って何かを不満に思っているとしてもだぜ?

いきなり暗殺とか突拍子もない反逆をするかぁ?」

 

次元の当然と言えば当然の疑問にルパンも言われてみれば、とばかりに迷う。

しかし、その瞬間。

 

「話は聞かせてもらいました。」

 

「聞き捨てならんな、その話。」

 

勢いよく発艦所のドアを開けて堂々と入って来た二人がいた。

加賀と五右衛門だった。

これが漫画などのように堂々とした態度でドアの入口で二人とも立っていた。

 

が。

 

「……お前ら、何してたの?」

 

二人の左肩には釣り竿の入ったケースに、クーラーボックス。

そしてその手には貝が溢れかえるほど詰まったバケツがあった。

 

「鳳翔さんのお店に海産物を卸せば、食事代が割り引かれるのです。」

 

「うむ、加賀殿が非番だと言うのでな。

加賀殿に電探で魚群を探してもらい、二人で早朝から釣っては貝掘りにと実に充実した休日だった。」

 

よっぽど大漁で楽しんだのか、五右衛門も加賀も普段以上に饒舌だった。

その予想外に気の合った様子にルパンも次元も何とも言えず、ただ一言しか言えなかった。

 

「…とりあえず、茶でも飲むか?」

 

 

二人に緑茶のティーバックで熱い茶を淹れてやると、寒かったのか実に美味そうに二人とも茶を啜っていた。

 

「うーむ、最近のこういったインスタント食もバカにできんな。」

 

「本当に、驚かされます。

食品は特にですが、飲み物も安く質の良い、そして手軽に食べれるものが実に多いですね。」

 

酒保でそれなりに加賀も食べ比べているのか、しみじみと言う。

そのまったりとした様子にルパンは唇を尖らせる。

 

「いや、なごんでるところに申しわけねぇんだけどもよ。

俺の暗殺計画の事はどうすんのよ。」

 

二人は話を振られて、ああと声を漏らして顔を上げる。

 

「あの娘たちは主を守る矛や盾にはなっても、主を傷つけるような不心得者ではありません。」

 

「左様、そのような裏切りをなすような連中ではないな。」

 

加賀も五右衛門も一顧だにしないという切り捨て様だった。

 

「な、なんだよそれはぁ!?」

 

「人望の差、だな。」

 

次元がたった一言で、煙草の煙とともに斬り捨てる。

当然、ルパンは気に入るはずもない。

 

「…らしくないんじゃねぇの、ルパンよぉ。

俺たちの稼業は裏切り裏切られの連続じゃねぇか。

特に不二子なんか日常茶飯事じゃすまねぇレベルだろ?」

 

ニヤニヤと実に楽しそうに次元が笑いながら、椅子で足を組み替えながらルパンを見る。

次元の言いたいことに気が付かないのか、ルパンは困惑しながら気圧されたように軽く身を引く。

しかし、五右衛門もそれに乗って薄く笑いながら片目だけ開けて、ルパンを見る。

 

「不二子に裏切られてもお前は笑うか、ちと慌ててお終いだ。

…だが、なんだその醜態は。」

 

「しゅ、醜態だぁ!?」

 

五右衛門の指摘に予想外もいいところといった様子で目を見開き、椅子から飛び上がる。

 

「醜態、たぁ言わねぇがよ。

まるで初めての彼氏の浮気現場を見かけた小娘みたいにクヨクヨしてるようにしか見えねぇンだけどよ。」

 

それに追い打ちをかけるように次元が楽しそうに笑う。

五右衛門はその例えが面白くてたまらないとばかりに顔を背けて喉で笑うのだった。

 

「…大丈夫よ、提督。」

 

次元に五右衛門といった気心知れた仲間に追い詰められたルパンに優しい声がかけられる。

その先には澄ました顔でありながらも、優しい瞳を向けた加賀がいた。

 

「そんな取り乱した提督も、嫌いじゃないわ。」

 

「う、うるへーー!!テメェらみてぇな、仲間をからかうような薄情者なんかに頼ンねぇよ、フーンだっ!!」

 

まるで子供のような癇癪を起してルパンは発艦所を飛び出し、力いっぱい扉を閉めるのであった。

その様子がおかしくてたまらないとばかり次元は腹を抱えてゲラゲラと笑えば、五右衛門は次元ほどではないがはっきりと笑う。

しかし、加賀だけが不思議そうに小さく首を傾げた。

 

「……本気だったのだけれども、気分を害してしまったかしら?」

 

「構わんさ、どうせヤツの勘違いだしな。」

 

まだおかしいのか、五右衛門は笑いを噛み殺しながら加賀に気にするなと告げる。

次元もその通りと頷きかけながら、ルパンの飲み残しの程よく温くなったコーヒーを飲んだ。

 

「ま、時間はわかってんだから今晩付き合ってやりゃ、誤解だってわかんだろ。」

 

なんだかんだと言いつつも、付き合いのいい二人だった。

 

 

 

 

「なんでぇ、まったく。

今更裏切られるなんて、当たり前じゃねぇか…。」

 

猫背になり、唇を尖らせながらルパンは波止場を歩く。

まだまだ寒いのか、寒風にルパンは身を竦ませる。

 

ルパンもわかってはいるのだ、自分らしくないと。

 

ルパン三世は伊達で小粋な悪党だ。

自分の命を狙う者がいたならば、その上をいって企みを完膚なきまでに叩き潰し、嘲笑う。

ある意味、銭形との追っかけっこもそれと似たようなものだ。

 

それが何だ。

ちょっと数か月程度の仲で裏切りを画策された。

それだけで何故自分はこうも落ち込んでいるんだ。

 

「…なっさけねぇなぁ…全くよぉ。」

 

頭が冷えたおかげか、波止場で足を止めるとビットに腰をかけて煙草に火をつける。

自分の変化がおかしいのか、苦笑をするその背中にのんびりした声がかけられた。

 

「珍しいクマ。提督が執務室以外にいるとは驚きクマ~。」

 

「なんだ、意外に優秀な球磨ちゃんじゃねぇの。」

 

誰かが近づいてきているのにはルパンも気づいていたのか、声に反応してゆっくり振り返ればそこには球磨がいた。

何故か鍬を担いで、スポーツメーカーの普通のジャージ姿だったが。

 

「…球磨は…何してたんだ?」

 

「よくぞ聞いてくれたクマ。

この前妹たちと鳳翔さんのところで夕食を食べたクマ。

でも、野菜が美味しくはなってたけど、変だったクマ。」

 

「…美味しいけど、変?」

 

球磨は神妙に頷いて、ルパンの近くのアスファルトに胡坐をかく。

 

「何というか、トマトとか胡瓜とか本当に甘くなってるクマ。

色とか鮮やかだし…でも、余計な、変な味がするクマ。」

 

「品種改良、の結果だろうなぁ。

しかし、変な味、ねぇ…?」

 

「鳳翔さんと話した結果、多分農薬とかの関係じゃないかってことになったクマ。

だから、球磨たちは本当に美味しい野菜を作るクマ!」

 

球磨の言葉に納得したのか、ルパンも納得といった様子で頷く。

その一方で球磨は本気でやりがいを感じているらしく、唇をきゅっと引き締め、やる気と決意に満ち溢れた顔で頷く。

 

「しかし、美味しくなった、ってわかるってことは昔の味とか覚えてんの?」

 

「それが球磨にも不思議クマ。

昔は『船』だったから食べれるはずもないし、味を知ってるわけがないクマ。

でも、この鎮守府にやってきて、新鮮な野菜を食べた時に『違う』って思ったクマ。」

 

ふとしたルパンの疑問点に球磨もころっと表情を変えて、困ったと言わんばかりの困惑した表情で首を傾げれば、その『アホ毛』も揺れる。

それがどことなくおかしくてルパンはふっと薄く笑うと、球磨はわからないことを笑われたと勘違いしたのかムッと唇を尖らせる。

 

「変じゃないクマ。

提督だって、なんでその煙草が美味しいと思うか説明できるクマ?」

 

急な指摘にルパンは目をキョトンとさせ、指に挟んだ吸いかけの煙草を見つめる。

 

「いや、なんつーか…習慣、っていうか、癖っていうか…。」

 

「そんなもんクマ。

球磨たちは今の野菜を『美味しくなった』と思う一方で、『こんなものじゃない』と思ったクマ。

だから、満足できるもっと美味しい野菜を作るクマ!!」

 

まさに決意表明とも言わんばかりの決意を込めた言葉にルパンは気圧される。

しかし、不意に球磨はにっかりと屈託のない笑みを浮かべる。

 

「それにこれは提督が言ったことクマ。」

 

「…へ?俺?」

 

唐突な球磨の言葉にルパンは驚かされる一方だった。

それを畳みかけるように球磨は笑みとともに言う。

 

「提督は言ったクマ…『やりたいことをやれ』って。

勿論、提督たちや仲間たちと毎日一緒にいて、楽しいのが一番クマ。

それ以外にもやりたいことが野菜作りクマ。」

 

「…そっか、球磨は…毎日、楽しいか?」

 

ほんの少しの間、呆気にとられた後に軽く笑って問いかけた。

 

「楽しいクマ!

この前、妹たちと話し合ってジャガイモとキャベツを植え付けようって決めたクマ。

それで今日非番の球磨と多摩で耕したけど、多摩は足を滑らせて尻もちをついて、新しいジャージが土塗れで半泣きだったクマ!」

 

「そうか…そりゃ、可哀想に。

今植えたらいつくらいにとれるんだ?」

 

「大体夏前らしいクマ。

取れた時は提督も招待するから美味しい野菜を食べるクマー。」

 

球磨の屈託のない笑みとのどかなお誘いにルパンの心はほぐれる。

そして、しみじみと一つ、実感した。

 

(俺は、こいつらにこういう顔をしていてほしいんだな…。)

 

それとともに、自分が艦娘たちを思っていた以上に気に入っていると。

 

 

そのまま、球磨、そして遅れてやって来た多摩とルパンは穏やかに話す。

何となくルパンは肩の力が抜け、次元や五右衛門たちといる時とはまた違う、穏やかな時間を過ごした。

 

その中で、先ほどの出来事も相談してみる。

 

「…ってなことを話してるのを聞いたんだけど、さ。

何か、聞いてねぇか?」

 

「「あ~……」」

 

球磨も多摩も二人とも、ホットのカフェオレの缶を片手に空を仰ぐ。

それなりの時間を波止場で過ごして身体が冷えたので、ルパンが酒保へ買出しを頼んだのだった。

 

「……やっぱり、そういう計画聞いてんのか?」

 

ルパンはコーヒー缶を片手に軽く肩を落とす。

しかし、困ったように眉を寄せた多摩が首を横に振る。

 

「そういうのじゃないニャ。ただニャ~…。」

 

「うーん、とりあえず…提督が心配してるような事じゃないことは確かクマ。」

 

二人の言葉に怪訝そうにするルパン。

しかし、次元たちのように単なる勘違い、と斬り捨てるのではなくルパンの言葉にも理解を示したことでルパンも素直に受け入れる。

 

「…俺が相手じゃねぇってことは…どっか他所の提督とか…内紛とかか?」

 

「いやいやいや、そんな物騒な話じゃないクマ。」

 

「いやいや、暗殺って時点で物騒だろ。」

 

球磨とルパンの二人で手のひらを顔の前で立てて、横に振る。

多摩もそれを交互に見ると、真似して三人で顔の前で手を振り続ける。

 

「…じゃなくてだな。」

 

「ぅニャ?」

 

「クマー?」

 

なんだか楽しくなってきたらしい二人をルパンが止める。

その緊張感のない様子に力が抜けたらしく、何とも言えない渋い顔になる。

 

「とりあえず、そうクマねー……それは今晩の話だから、球磨たちがその現場についていくクマ。

もし、提督が心配してるようなことがあったら、球磨たちが守るクマ。」

 

「そこまで言い切るってことは、大丈夫ってわけか?」

 

「正直、全部知ってるからニャー。」

 

少し多摩が困った顔をして頬を掻く。

 

「…実際、どうなんだよ。」

 

「言えないニャー…。」

 

ルパンが額を寄せるように身を乗り出すが、多摩は申し訳なさそうな顔で言う。

度重なる追及にも何も言わない多摩と球磨にため息をつくと、苦笑する。

 

「そこまで言うならしゃーねぇか…。

なら、今晩9時だな?」

 

「提督の部屋に迎えに行くから待ってて欲しいクマー。」

 

「その必要はねぇだろ。

もういい時間だし、食堂に行ってメシ食って…時間潰せばいい時間だろ。」

 

まさかの一緒の食事の提案に二人は輝かせる。

 

「それだったら鳳翔さんのお店に行きたいニャー!!」

 

元気よく汚れたジャージ姿の多摩が手を挙げる。

その様子にルパンは苦笑すると、ビットから腰を上げる。

 

「ったく、しょうがねぇなぁ…今日は頑張ったみてぇだし、ご褒美だ。」

 

そう言って尻を叩いて汚れを落としてからルパンは鳳翔の小料理屋へと歩き出す。

それに飛び跳ねるように立ち上がった多摩と球磨が走って追いつき、むしろ急げと言わんばかりに腕を引いていくのだった。

 

「急ぐクマー!!」

 

「早く行くニャー!!」

 

「おいおい、俺も鳳翔さんの店も逃げやしねぇよ。」

 

 

 

そして。

 

「…しっかし、話には聞いていたが…よく食うねぇ。」

 

日も暮れて、すっかりいい時間になった頃に感心しきりといった様子でルパンは言葉を漏らす。

その視線の先には武蔵、長門、大和、加賀、赤城がいた。

 

「腹が減ってはなんとやら、だからな。」

 

「…戦艦・空母の宿命と思ってください。」

 

長門と武蔵は苦笑で済ませるが、加賀は指摘が嫌なのかムッとした様子を見せる。

それに居合わせた次元と五右衛門が苦笑する。

 

当然、多摩や球磨も居合わせているが、何故他のメンバーがいるのか。

五右衛門と赤城、加賀が発艦所で言っていた通りに獲った魚の報酬で夕食を取りに来た。

そこにルパン達三人が合流したのである。

 

さらにルパンを探していた次元が武蔵、長門、大和を連れて合流してきた、という流れだった。

 

「ま、あんだけデケェ艤装背負って動き回るんだ。

そんぐらい食わなきゃ身体がもたねぇだろうさ。」

 

次元が取りなすように言えば、赤城が片方の眉を吊り上げる。

 

「へぇ…デケェ艤装を背負ってないのに、食べて申し訳ございません。」

 

赤城の嫌味に明らかにしまったという顔をする次元に、やれやれといった様子で御猪口片手に頭を振る五右衛門。

座敷のテーブルの中心には鶏の水炊きが鎮座するとともに、刺身や煮つけなどが並んでいた。

非常に和やかな夕食会、といった様子であった。

 

「…ってか、お前ら酒まで飲んでよぉ…。

俺の杞憂だってのはもうわかっちゃいるけど…なぁ…。」

 

五右衛門も次元も既に飲んでいるのだ。

武蔵や大和、長門といった面々まで。

 

流石に球磨や多摩は万が一のときの護衛という意味も一応は持っているので自粛してくれてはいるが。

 

その緊張感の無さには誤解らしいと二人の説得で渋々納得したルパンも一言は言ってやりたくもなる。

 

「付き合いの長さの違い、だな。

お主が執務室で書類とにらめっこをしていた間、拙者たちは直に付き合ってきた。

そのような計画を練る輩でもないと十分にわかっているし、見過ごすようなこともあるまいよ。」

 

軽く笑いながら五右衛門が猪口を干せば、武蔵が笑う。

 

「その通り…私も何の事かは知っているが、口止めをされているので言えないが…。

問題ない、とだけ言わせてもらうさ。」

 

「これくらいの酒量ではこの大和の砲撃は揺るぎもしませんので、ご安心ください。」

 

大和までもが仕方ないとばかりに苦笑をして宥められれば、流石のルパンもなんだかバカバカしくなってくる。

胡坐をかいたまま背後の壁にもたれかかると、鳳翔に呼びかけるのだった。

 

「鳳翔さーん!!俺にも熱燗と鶏の生レバーちょうだいな!!」

 

 

 

そして、そのままダラダラと飲んで9時を少し過ぎた頃。

全員でのそのそと食堂に向かって歩いていた。

 

「…見りゃわかるって言われても、ねぇ。」

 

すると、食堂の方から警報のベルとともにパトカーの音が聞こえてくる。

習性からか、酔っていても一瞬でルパン達の顔つきが変わるとともに、それぞれの武器に手が添えられていた。

 

「単なる、映像の音声ニャ。」

 

「心配いらないクマー。」

 

そのまま普段通りの様子で多摩や球磨が先を歩いて食堂のドアへと近づく。

すると、ルパンたちに聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

「…とっつぁん?」

 

「ルパン?」

 

「次元?」

 

何やら話し合っている声が聞こえてくるのに戸惑って、お互いが顔を見合わせる。

多摩が唇に指を当てて静かにするように促せば、三人の男たちは戸惑いながら頷く。

 

ドアの先は暗い部屋になっており、二人の言葉通りプロジェクターでアニメが流れていた。

そのまま静かに全員で入れば、ルパン達は映像を指差して困惑を隠しきれない。

しばらく映像を眺めているが、オープニングテーマが流れ出した辺りで我慢できなかったのかルパンが叫ぶ。

 

「なんで…俺たちがアニメになってんだぁ!?」

 

その声に反応して静かに座って映像を見ていた観客たちが立ち上がり、そちらに注目する。

その、一番最前列にいた龍田が少し引きつった笑みを浮かべていた。

 

「あら~…どうしましょ…?」

 

と言いながらも、正直に妖精さんが勝手に作り出しましたと言うしかなかったが。

その背後にはサブタイトルに『ルパン暗殺指令』と描かれていたのだった。

 

 

 

なお、タイトルを言われてもピンとこなかった三人ではあるが、カレン=クオリスキーが登場すると同時に次元から必死の上映中止命令が出たのは余談であり、当然ルパンから却下され、上映されたのも余談である。




というわけで、ルパン勘違いをする、の巻でした。


<今回のBGM>
昭和ライダーOP各種
水曜どうでしょう~甘いもの国盗り物語~

全然作風と関係ありません。
むしろBGMじゃねぇ。


時間がマジでない。
勉強は思うようには進まず、ペン(キーボード)も進まず…。

一日が48時間になれば…。(白目

そして2/29 0時現在約530位。(何

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