大泥棒一味が鎮守府に着任しました。   作:隠岐彼方

24 / 35
前回の流れからの投稿になります。

ある意味、我々提督の日常回、と言ってもいいでしょう。
ちょっとした、伏線の回収回とも言えますが。


16-1.ルパン鎮守府は練度を上げるようです

さて、先日の打ち上げである意味落ち込んだ艦娘一同であったが。

生き死にと常に隣り合わせている彼女たちはタフだった。

 

『今の私たちの力が足りないなら、もっと強くなればいいじゃない』

 

実にシンプルな結論へと至ったのだった。

 

 

 

「はーい、では来週までのスケジュールを配布するので確認してねー?」

 

執務室詰めの筆頭である龍田が、食堂の先頭に立って書類を配っていた。

食堂には現在鎮守府にいる艦娘が全員揃ってテーブルにつき、それぞれが筆記具とノートや手帳を開いていた。

 

その筆記具や手帳も千差万別だった。

可愛らしいキャラものや、逆に無骨な実用性重視のビジネスモデルなど。

 

それぞれがそれぞれで龍田から配られた表を見て、手帳に直に書き込んでいる。

 

龍田が配ったのは、これから一週間の鎮守府の出撃及び遠征のタイムスケジュールである。

 

基本的に遠征は『遠征組』とそのままのネーミングで遠征専門の艦娘と、特に所属を決めていない艦娘で賄われる。

その逆に『出撃組』と言われる艦娘は特に大型艦(正規空母・戦艦)といった、遠征をしない艦娘達である。

 

改二実装された駆逐艦などは『出撃組』に基本的に属する。

しかし、改二実装されていなくとも希望すれば『出撃組』にも属するし、あまり戦闘を好まない艦娘達は『遠征組』にも所属できる。

 

あくまで、個人の意思に任せているのがルパン鎮守府のやり方だった。

 

 

「先週の希望書を見て配分は決めたわー。また来週出撃、遠征に多めに入りたい子は希望書を執務室へ提出してねー」

 

龍田は差配に問題ないかをチェックさせながらも全員に確かめるように言う。

ルパン鎮守府は出撃なども希望制を優先させている。

『希望書』とは大まかにどれくらい出撃、遠征に出たいか、もしくは出たくないかの希望を提出させるのである。

 

 

 

 

これの始まりは球磨だった。

 

春前のある昼下がり、唐突に球磨が執務室にやって来たのだった。

 

「提督、ちょっとお願いがあるクマ」

 

「ァン?どったの?」

 

呑気な、とも、無防備なとも言える、穏やかな様子でいきなりやって来たことに、ルパンは怪訝そうな顔をする。

それをスルーしつつも、少し申し訳なさそうに口を開く。

 

「出来れば、来週は球磨と多摩と木曾は出来るだけ出撃とかはさせないで欲しいクマー」

 

「…体調とか、悪いのか?」

 

ルパンの脳裏を走ったのは、女性特有の一定周期による体調不良のアレである。

流石に『お前ら、あるの?』とは聞けないので、ボカした言い方であるし、突っ込んで聞くにも聞けない。

 

だが、球磨は首を横に振る。

 

「健康そのものクマ。大規模作戦の間、畑の手入れがあまりできなくて雑草で酷いことになってたクマ。

だから手入れをする時間が欲しいけど、一人じゃ大変だし、飽きるクマ」

 

「あー…だから姉妹で一緒にーってことか?」

 

ルパンの言葉にこっくりと首を縦に振る。

 

ルパンは煙草に火をつけ、椅子の背もたれに深く体重をかけて天井を睨む。

 

 

(どうしたもんかねぇ…給料の兼ね合いもあるしなぁ…)

 

 

最近の懸念案にも絡むことであった。

 

大規模作戦時はいいのだが、普段の出撃で大和型・長門型の使いどころには困る。

低速戦艦でもあり、また消費資材も多い。

つまりイベントやEX海域でもないと使いづらい。

 

だからといって給料を出さないのは可哀想である。

幸いなことに彼女たちは鎮守府の警備や艦娘達の指導等にも当たってくれているので、働いていないわけではない。

 

だが、やはり命の危険のある出撃や、安全なルートを通るとはいえ同じように外海に出ている遠征組と同等に扱うのはいかがだろうか。

 

これがルパン達の懸念だった。

 

そこに、執務室詰め専門ではないが、経理を主に扱っている高雄から声がかかった。

 

「あの、提督。ちょっとよろしいでしょうか?」

 

「ああ、何かいい案でもある?」

 

「細かい事は…こちらの提案書をご覧下さい」

 

そう言って差し出されたのは『艦娘給与案』とタイトルを打たれた複数枚の書類であった。

その表紙には、龍田を初めとした複数人の執務室詰めの艦娘の承認印が捺されてあった。

さらには、次元と五右衛門の印鑑まである。

 

「…色々ツッコミ所はあるけど、まぁいいや…」

 

全てについて報告をしろとまで言うつもりはないが、ここまで周到な根回しをされていると苦笑しか出ない。

そのまま書類に目を通して少しだけ考え込んだ。

 

内容的には大まかにまとめると…。

 

『最低限の基本給を設定するが、現状の給与と比べて半額程度』

『出撃・遠征・鎮守府運営に伴う業務に携わった毎に手当を発生させる』

『平均的な業務をこなす艦娘で従来の給与よりも増える計算』

『休みたい艦娘は希望を提出することで完全休養日を設定できる』

『また、半休なども設定可能』

 

というシステムである。

 

数十秒程度の思考の後に、ルパンは球磨の隣に立っている高雄に頷く。

 

「いいんじゃねぇの?これを周知させた上で、運営上の問題点が出たら報告。

そして改善案とかがそっちで準備できるならそれも挙げてちょーだいなっと」

 

そう軽く言うと、ルパンの承認印を表紙の紙に捺してから渡す。

不安があったのか、高雄は嬉しそうに顔を綻ばせて書類を受け取る。

 

その様子を窺っていた他の執務室詰めの艦娘は喜びを必死に噛み殺そうとするが、それでも漏れていた。

利根に至っては立ち上がった上でのコロンビア状態だった。

 

「あーそっか、お前らも圧倒的に給与アップ見込めるよなぁ。

朝から晩まで執務室で働いてるし」

 

その原因に思い当たってルパンは苦笑する。

 

「じゃ、球磨。

早速だが、妹たちと一緒に休みの希望書を提出してくれりゃいいや。

ただ人手の関係とかで無理な時は融通してくれ」

 

「了解クマー!!」

 

話の流れ的に認められそうとはいえ、それでも不安そうだった球磨はピコンッ!とアホ毛を真っすぐ天に伸ばしながら喜色満面で執務室を後にするのだった。

そこに苦笑気味にやって来たのが筑摩だった。

 

「私たちは確かに給与アップも嬉しいんですが…。

一番嬉しいのが、自分達の給与評価の基準が出来た事なんですよ?」

 

「あん?」

 

「私たち執務室詰めの給与査定、って自分で自分の給料を決めるわけで…。

他の業務と比べた場合、不満とかも出ないとは限らないじゃないですか?」

 

筑摩の言葉に少し首を傾げながらもなるほどねとルパンは頷く。

 

「そうか、自分達に甘いんじゃないか、って言われないように今回の明確な基準の査定、ってわけか」

 

「今は給与額に関しては言われてないけど~…楽そう、って思われてそうなのよね~」

 

ルパンの隣の席の龍田が苦笑する。

 

誰しもだろうが、やはり『不公平』というものには反感を抱くものである。

それの是正措置を事前に打てた、ということなのだろう。

 

その龍田の方を見て、ニヤリとルパンは笑う。

 

「…で、周りの反応はどんな感じ?」

 

「あら~?なんで私に聞くのかしら~?」

 

何を言っているのかわからないとばかりに小首を傾げる龍田。

しかし、ルパンも龍田も笑っていた。

 

「承認印まで押して俺に回させたんだ。

反応や財源の確保から、全部根回ししてんだろうな?」

 

「うふふ~そこまで見込まれちゃ仕方ないわね~。

ちゃんと確認済み~混乱無く受け入れられると思うし、むしろ休みがとりやすくて喜ばれると思うわ~」

 

「財源は?」

 

「海産物加工業の方はスムーズな走り出し、特に余り気味な鉄鋼も上手く流してるし、コントロール出来てるから大丈夫よ~」

 

そのおっとりした口調での報告に満足したのか、小さく頷いてから新たな書類へと顔を向けるのだった。

 

 

 

 

さて、食堂に戻る。

その食堂で多くは喜色で溢れていたが、一部の艦娘が死にそうな顔をしていた。

 

「oh……また、ガッツリ詰まってるネー…」

 

「お姉様、榛名は…榛名は大丈夫ですから、キツい時は代わります…」

 

「ヒエー…ひえぇぇぇぇ…」

 

「戦況分析的には…仕方ない、デスネ…」

 

金剛型である。

 

大和型・長門型とは違い、ルパン鎮守府の金剛型は海域でルパン鎮守府の艦娘が見つけてきた『ドロップ』した艦娘である。

そのため。

 

当然ながら練度(レベル)は1であり、実際に動きもまだまだ劣っている。

 

しかし、近日に近づいた通称『春イベ』こと大規模作戦での出撃が予想される高速戦艦の金剛型は緊急での育成が必要とされた。

大和・長門・鳳翔の間で。

 

そして、同様に死にそうな顔なのは金剛型だけでない。

 

「お姉ェ…もう、ゴールしてもいいかな…?」

 

「瑞鶴……私が先にゴールしたいわ…」

 

「多門丸ぅ…助けて、多門丸ゥ…」

 

「やだぁ……色々と、はみ出そう………疲労とか、魂とか…」

 

一つの長机に座っていた真っ白な灰に燃え尽きかけている五航戦姉妹、そして二航戦姉妹である。

この四人も練度1での『ドロップ』艦。

それを鼻で笑うのが、一航戦である。

 

「皆さん。苦しいかもしれませんが、皆のため、そして我々の未来の力のため頑張りましょう?」

 

赤城は流石に疲労の色は見せながらも、普段通りと言ってもいい状態だった。

以前のホワイトすぎる逃亡提督の時代にある程度の練度を積んでいたせいか、まだ何とか余力はあるようである。

 

しかし、コンビニで買いこんだらしいチョコなどを口に運び、カロリーを摂取しつつである。

結構追い込まれているのかもしれない。

 

「…それでも私たちの後の一航戦の名を継いだの?

だらしがないわね?」

 

辛辣な、冷たい言葉を吐くのは赤城の相棒でもある加賀。

他の正規空母たちと違って、一航戦の矜持と気迫で耐えているのかもしれない。

 

「……そんな机に突っ伏しながら言われてもね…」

 

配られたスケジュールを見て、加賀は書き写す余裕もなく、ただ机に突っ伏していた。

一航戦の威厳もへったくれもなかった。

心なしか、彼女のサイドテールも萎れてしまっている。

 

しかし、その場に居合わせたグラーフは何も言っていない。

心が折れた声も漏らしていないので、のろのろとその場にいた五人が隣のテーブルのグラーフが顔を強張らせていた。

 

そのグラーフの隣には鬼……否、鳳翔と龍驤がいた。

 

「ほほぉ、キミら…そんなヌルいことでこれからやってけるん?」

 

「まさか、これくらいの『鍛錬』で泣き言は言いませんよね?」

 

元祖一航戦と言われれば、有名なのは赤城と加賀だが、厳密には鳳翔と遅れて竣工に伴って龍驤が編入されている。

その中で艦娘になって一番練度が高かったのは、鳳翔。

それに次ぐのが龍驤だった。

 

「ウチらもなぁ…アンタらほど艦載機が詰めるんやったらバリバリ喜んで出撃するんやけどなぁ…」

 

「我々は所詮は軽空母。

大規模作戦などの決戦戦力としては不足です…貴女達が制空権を取らずして誰が取ると言うのですか?」

 

どこかしんみりとした口調にくたびれた様子の正規空母達が顔を上げる。

その二人の顔には何とも言えない悔しさがにじみ出ていた。

 

「…お二人、とも…」

 

「わかり、ました!やります、二航戦の力、見せてやります!!」

 

その悔しさに感化されたのか、飛龍が拳を握って力強く宣言する。

すると、鳳翔は穏やかな微笑を向けるとともに懐から何枚もある紙を取り出した。

 

「なら、皆さんのこの休暇の『希望書』は破り捨てますね?」

 

「「「「「「アアアアアアアアアア!!」」」」」」

 

「チョロいなぁ、ホンマ、チョロいなぁ…」

 

黒い笑みを浮かべる、軽空母の二人であった。

 

 

また、同じようにくたびれ果てた顔をしていたのが、改二実装済みの駆逐艦だった。

例外で雪風も入っていたが。

 

「またドラム缶ガン積みっぽい~」

 

「…信じよう、改二になったら、解放されるって…」

 

「で、でもっ!かなりお給料が凄いことになってるよ?

先月の倍以上、下手すれば三倍に行くって!」

 

しかし吹雪の言葉に目をギラリと輝かせるのだった。

 

「ほ、本当なのかい!?」

 

「あの、伝説の羽毛布団も買えちゃうにゃしぃ!?」

 

「ペ、ペンタブも余裕すぎぃっ!?」

 

駆逐艦がざわめく。

リアルすぎる動機である。

 

故に燃えていた。

 

 

駆逐艦と正規空母、高速戦艦勢の違いは『対象数の多寡』と『仕事の重さ』である。

 

察しのいい提督達はルパン鎮守府のレベリングの方法はわかっただろう。

『東京急行』、別名『5-4レベリング』である。

 

駆逐艦たちは戦力として数えられず、ただ極力被弾を避けつつ、ドラム缶三つ積むだけである。

正規空母は必死で敵の航空機を落とし、爆撃で沈める。

高速戦艦はその速度で突っ走りながら、相手の戦艦などを殴り沈める。

 

なんだかんだ言ってノリノリで『1・2(ワン・ツー)』で殴り沈める高速戦艦もいるし、やりがいはあるのだが。

いかんせん、頻度がシャレにならない。

 

現在、鎮守府にいる正規空母は七艦(一航戦・二航戦・五航戦・グラーフ)、高速戦艦は金剛型の四艦しかいない。

ローテーションで回るとしても、特に金剛型は過労の極みだった。

 

なんせ、金剛が。

 

「紅茶なんか飲んでももうどうしようもないネー!!

栄養ドリンクとレッド●ルとライ●ンとサム●イ、モンス●ー、ロッ●スター買い占めて持って来いネー!!!」

 

とか言い出す始末。

龍田は笑顔で経費で落として、実際に差し入れて出撃させたが。

 

おかげで、四姉妹ともに改二が目前であった。

 

 

そんなこんなで各艦娘の強化は突き進められていた。

ルパンや次元の関与しないところで。

 

なんと言っても各艦娘の共通の次回大規模作戦の課題は。

 

『提督達に出撃させない』

 

という涙ぐましいものであるから。

 

 

 

その頃、ルパンは二人の男と顔を合わせていた。

 

ルパンだけではなく、次元、五右衛門、そして龍田の四人と二人の男。

二人はどうにもチグハグな二人組だった。

 

一人の男はスーツにオールバックのような髪型だが、雰囲気が異様過ぎた。

どうにも、不吉な男だった。

 

「今回の件の報酬です」

 

龍田がコーヒーやお茶を全員に出した後、すっと薄い封筒を男に差し出す。

その中身は小切手で、その金額を見て男は訝し気に目を細める。

 

「随分と…額が多いようだが?」

 

「ま、気にすんなよ。思ったよりも盛況でこっちにも予想以上の収入があったもんでねぇ。

その分を上乗せしといただけさ」

 

ルパンが笑いながら肩を竦めるが、男は警戒を解くことはなかった。

しかし、封筒を懐へと収めた。

 

「俺の教訓でな…人を見たら詐欺師と思え、と言うのがあってなぁ」

 

「そりゃ自分を見ての感想だろう」

 

「かもしれないなぁ」

 

次元が皮肉を言ってニヤリと笑うが、男は低いトーンで言う。

それが気に食わないのか、斬鉄剣を抱いて目を閉じていた五右衛門が片目を開いて男を睨む。

 

「随分と元気が…いや、怖いねえ。何かいいことでもあったのかい?」

 

スーツの男の隣の軽そうな男が肩を竦めて言った。

それをルパンが面白そうに笑う。

 

「ああ、あったさ。

一癖も二癖もありそうな詐欺師が胡散臭い正体不明の男を連れて、警備をかいくぐってアポを取って来た。

こりゃ、何か面白そうな何かがありそうじゃねぇか?」

 

軽そうな男を一瞥する。

サイケデリックなアロハシャツに、大きな十字架のネックレスにピアス。

手には指開きのグローブ、煙草を咥えた軽薄そうな金髪の中年男。

 

スーツでも着たら逆に胡散臭さが増しそうな、そんな男だった。

ルパンも次元も五右衛門も警戒を解いていない。

 

それを見かねてか、ルパンの斜め後ろに立って控えていた龍田がスーツ男に問いかけた。

 

「貝木さん…お隣のお客様はどちら様でしょうか~?

お連れ様がいらっしゃるとはお聞きしましたが~」

 

「改めて、自己紹介もしておこうか。

そちらの二人とは初対面だからなぁ…俺は貝木、貝塚の貝に枯れ木の木だ」

 

この貝木がルパン鎮守府にやってきたのは先日の事だった。

その貝木がルパンと龍田に面談を申し入れて、提案したのが一連の艦娘とのコラボ企画を打ち上げたのだった。

 

それを聞いたルパンと龍田はその場で快諾。

しっかりと貝木はルパン鎮守府にデメリットのない企画を練り上げていた。

 

そして、貝木は企画を外の企業にも出して、仲介役を果たしたのだった。

 

「そして、こっちが忍野メメだ。

俺が詐欺師としたら、コイツは心霊とでも言うかな…『怪異』というものの専門家だ」

 

「その心は、どちらも胡散臭い、な」

 

五右衛門がその説明に鼻で笑う。

どうも五右衛門は貝木が気に食わないのか、警戒を解きはしない。

 

「ま、仕方ないなあ…この世界じゃ、『怪異』はあまりないからねぇ…」

 

「その『怪異』ってのはなんなんだ?」

 

苦笑する忍野にルパンが気にせずに問いかける。

 

「ま、僕の友達の言葉を借りれば、『世界そのもの』かなぁ…。

例えば、吸血鬼、化け猫とかのように、人の信仰・畏怖・噂などから生まれる存在さ」

 

「へぇ…俺も心当たりがなくはないな」

 

ルパンの数多くの経験から納得したように静かに頷く。

 

「で、その専門家様が何のご用だい?」

 

「実はね、僕らやルパン提督達がココにいるのが一種の怪異だから、かな」

 

ギシッと音を立てて、仕立てのいいソファーに身を預けながら静かに忍野が語る。

それにピクッと反応を示して次元が忍野を見る。

 

「そんなに警戒しないでくれないかな?早撃ち0.3秒のガンマンさん」

 

「ほぉ、俺の事を知ってるのか?」

 

「ああ、よく知ってるさ…ずっと見てたからね、アニメで」

 

苦笑気味に忍野が言うが、その瞳は興味深そうに輝いていた。

その輝きに気圧されたのか、発言に気圧されたのかはわからないが、次元は少し身を起こす。

 

「そうだ、俺たちはお前たち、ルパン一味をアニメで見たことがある。

虚構の人物、としてな」

 

「そして、他にもこの世界にやってきた『虚構の作品の人物』と面識があるのさ」

 

あまりにも突拍子もない言葉に目をパチクリとさせる、ルパン。

しかし、その頭脳はフル回転していた。

 

「…つまり、俺たちは虚構の世界からこの世界に呼び寄せられた、ってことか?」

 

「それは、わからないな。それこそ神の視点で全てを見透かせるわけじゃないからな」

 

貝木は首を横に振って否定する。

 

「僕らももしかしたら虚構の世界の登場人物として扱われているのかもしれない。

だが、僕らは二つの記憶があるんだ。

この世界で生きてきた、一般人の記憶。

そして、『怪異』の色濃く存在する世界で生きていた記憶。

それが混ざり合ったのが、深海棲艦の襲撃によって命を失いかけたとき」

 

「…他にもそういう事例はあるみたいだな、多くの提督達に。

で、どう結論付けたんだ?」

 

忍野の言葉に頷ける要素があるのか、ある程度の同意を示すがその先を促す。

 

「誰も空を見上げない時代には、空に穴が開く時がある。

何故なら空も自分を見てほしいからだ。

自分を見てもらうために、とりあえず世直しから始めるのだ」

 

急な忍野の言葉に怪訝そうにするルパン鎮守府の四人。

しかし、忍野は気にも留めずに言葉を紡ぐ。

 

「これは、古い、どこにでもある、そんな伝承さ。

しかし、これもまた言い伝えられた真実を含んだものだと、僕は思っているんだ。

『世界』には意思がある、とね」

 

「…チッ、頭がおかしくなりそうな、イカれた話だな」

 

次元は付き合っていられないとばかりに首を横に振って、コーヒーに口をつける。

貝木は口を開かずに次元同様にコーヒーを口に運んで、忍野に任せる様子を見せた。

 

「深海棲艦に対する艦娘を生み出すように、『世界』はどちらか一方にだけ力を貸すような事はしないみたいでね。

多分、何かに対抗するために、僕らのような存在を外から呼んだんじゃないかというのが僕の結論さ」

 

そこまで聞いてルパンはおかしくてたまらないとばかりに肩を震わせて笑う。

 

「おいおい、俺たちが世界を救う『ヒーロー』だってのか?

そんなタマじゃねぇぞ?」

 

「それは俺たちも、だな。

俺はその『世界』にとって、ある意味『箱庭』みたいなものじゃないか、と睨んでいる」

 

その笑いに対して、静かに頷いた貝木が同意しつつ、違う見解を述べる。

反応を待たずに、貝木は言葉を続ける。

 

「ある意味、『世界』、『神』と言い換えてもいいかもしれないが…ほどほどに双方に肩入れしつつ、観察をしてるんじゃないかと思っている」

 

「つまり?」

 

「なんの強制も依頼もない、ただ俺たちはこの世界で生きている。

だから、俺なりに生きていくだけ、ということだ。

あくまで、この男の推察が正しいとしても、な」

 

「そう、人は一人で勝手に助かるだけさ。

それは世界も一緒さ…ただ、僕のやりたいようにやるさ」

 

二人の言葉を聞いて納得したのか、ルパンは小さく数回頷く。

 

「その推察が正しかろうと間違っていようと俺たちのやることは変わらねぇな」

 

「だろうね、それでいいと思うよ。

ただね、僕は僕の信念で艦娘に力を貸そうと思うんだ」

 

「俺はな、この世は金が全てだと思っている。

儲かるためには、どうすればいいか。

実に、簡単だ…勝ち馬に乗ればいい、だから、協力をしよう。

当然、うまみがあるなら、な」

 

忍野は軽薄そうな薄い笑みを浮かべながら煙草に火をつけ、それを一瞥して眉をひそめながら貝木も不吉な、胡散臭い笑みとともに宣言する。

それを聞いたルパンは苦笑する。

 

「忍野とやらはさておき、何をもって勝ち馬と判断したのかはわからんが貝木はわかりやすいな。

ただ、裏切る時は、覚悟しておけよ?」

 

「そりゃあ、怖いな…俺はお前たちと違って闘う力などないからなぁ。

ま、お前の敵より金を出せば俺は裏切らないさ、金が全てだからなぁ…」

 

ルパンの脅しにどこか思うところがあるような苦笑を浮かべると、静かに頷いた。

 

「で、お前らはどういう協力をしてくれるわけ?」

 

「僕はね、色んな情報を集めるさ。

民間人だから警戒されずに外から色々な情報が手に入るからねぇ」

 

「俺は、商売だなあ…色々、外の第三者の企業を噛ました方がいい事なんて、いくらでもあるだろう?」

 

「ふ~ん…なら、私とのお付き合いが長くなるかもね~」

 

そのやりとりに頷くと、ルパンは立ち上がって手を差し出した。

 

「完全にはまだ信用はできねぇが、お互い上手くやっていこうじゃねぇの」

 

「よろしく」

 

「あぁ、美味い話をよろしく頼むぞ」

 

そうして、アンバランスな二人組は静かに応接室を後にした。

そのまま軍施設の警備をかいくぐって、誰にもバレることなく消えていった。

 

「で、どこまで信じる?」

 

「参考意見程度、って感じかね」

 

ルパンは外を見ながら煙草に火をつける。

その背中に五右衛門が問いかけて、安心したように頷く。

 

「あのような与太話、本気で信じたかと思ったぞ」

 

「だが、一応それなりには筋が通ったストーリーで、思い当たる節もある」

 

次元は忍野達の話に相応の説得力を感じたのか、一概に否定は出来ないと口にする。

しかし、ルパンは厳しい表情のまま、三人に向き合う。

 

「それにいくらでもこんな与太話めいた(こた)ァいくらでもあったしな。

ただ、何をしてもいいっていうならこっちの勝手にするさ」

 

「つまりこれまでと変わらぬ、ということだな」

 

「ま、そーなるわな…ただ、アイツらが持ち込む情報や利益はきっちり目を通して判断する必要がありそうだが、な。

軽く鳳翔の所で飲んで寝るかー、お前らもどう?」

 

紫煙を空に吐き出した後、煙草を灰皿に揉み消すとその場で伸びをしてから三人を誘う。

しかし、次元と五右衛門は顔を見合わせてから首を横に振った。

 

(おら)ァ、明日が早いんで寝るぜ」

 

「同じく…馬に蹴られたくはないものでな」

 

そうとだけ言うと、二人はそそくさと応接室を後にする。

それに困惑するのはルパンだった。

 

「っ、おいおい…付き合い(わり)ィなぁ…」

 

「私はお付き合いするわよ~?」

 

そう笑顔で言うと、そっとルパンの腕を取って抱える。

 

「い、いやぁ、流石に二人っきりってのもどうかと思っちゃうんだけど?」

 

「…私じゃ…ダメ?」

 

鳳翔の店となると、どうしても他の艦娘の目があることを考えてルパンはそれとなく避けようとするが。

腕を抱えられ、見上げての言葉にはルパンは勝てなかった。

 

「いやいやいや!!全然ダメなんかじゃねぇさ!」

 

「じゃ~行きましょうね~?」

 

そう言って、ルパンの腕を抱えたまま引いて行く。

ルパンは一度承諾してしまった以上、諦めて引きずられるままに鳳翔の小料理屋へと向かうのだった。

 

 

「あの…龍田ちゃん、なんだか腕に柔らかいものが当たってるんだけど?」

 

「…うふふ~当ててるのよ?」

 

歩きながらの遠回しなルパンの言葉に、密着した龍田はそう、艶然と微笑して言うのだった。

耳まで赤いのはご愛敬。

 

 

二人が夜戦に突入したかどうかは定かではない。

ましてや、小料理屋でどのような女同士の戦いが繰り広げられたのかも定かではない。

 

定かではない。




というわけでスペシャルゲストのお二人&久々の龍田ちゃんの活躍でした。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。