大泥棒一味が鎮守府に着任しました。   作:隠岐彼方

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というわけで、前回の生々しい話の答え合わせ(ただしすべての答えを言うとは言っていない)編です。

7月までリアル都合によって更新が本当に遅れます。
読者の皆様とごませんさんにはご迷惑をおかけして申し訳ございません。


EX3-3.ルパンは生々しい話をするようです

 

「じゃ、よっぽど大本営上層部か深海棲艦がバカやらない限り、未来永劫この戦争が終わらない、ってのもわかってるよな?

……いや、大半の大本営の人間の望みは『現状維持』だって言うべきか?」

 

背後に歩いていた次元と五右衛門、そしてルパン鎮守府の三人の足が止まる。

しかし、あえて何も言わずにルパンの後ろで脚を止めるに留める。

 

そしてルパンは金城を冷静に見つめていた。

金城はその視線を受けて僅かに身を固くする。

 

(さぁて、どう出る?どちら寄りなのか、ただの昼行燈か、それともキレる男なのか…)

 

ルパンの意図に気付いたのか、下手な回答が命取りではないが信用すら得られなくなることを理解したようだ。

そのままほんの僅かに思考を巡らせた後に、金城は口を開く。

 

「まぁ、戦争ってのは形はどうあれ巨大消費だ。

そこら辺の利益を貪ってる連中はこの戦争を終わらせる気はねぇんだろうさ」

 

「提督、それは……!」

 

金城の回答に目を見開く大淀。

中にいるからこそ、言ってはならない言葉がある。

軍人が、己の正当性を否定したらそれはもう己が殺人に加担する者でしかないという宣言になるから。

しかし、その回答はルパンに満足は与えず、淡々と次を促した。

 

「ほぅ?それで?」

 

「戦争を起こすにも続けるにも、莫大な金が掛かる。

兵器を作る為の資源を買い付ける予算、戦線を支える為の兵站、それらを輸送するコスト、新兵器の研究・開発費……数えていけば儲かる種はキリがねぇ。

当然、それを提供する企業と消費する側の軍部は利権やら賄賂やらでズブズブ。両者丸儲け、ってワケだ」

 

指折り数えて語る金城の言葉に静かにルパンは頷いた。

悪くはない、といったレベルである。

 

(惜しいねぇ…そりゃ、『普通の』戦争の場合だ。

今回の戦争の実質は艦娘と深海棲艦という人外同士の争いだってことを失念しかけてる。

が、言ってることは間違っちゃいねぇが、そこを指摘出来てないのは減点だな)

 

金城の言った通り、戦争とは『巨大消費』、即ち『盛大な無駄遣い』である。

ルパンの言う『普通の戦争』において言うなら、戦場に人や弾丸・爆薬などといった消耗品を大量に持ち込んで、大量に消費する。

その消耗品には『人命』というものも含む。

 

『無駄遣い』をケチれば、負けるし、奪われる。

しかし、戦場以外を見れば『いくらでも消耗品を作れば際限なく売れる』のである。

最高の好景気の形をもたらす上に、それで儲けてもケチをつけられない。

『お国のために』という大義名分があるのだから。

 

しかも、銃だけでなく戦車や戦闘機、軍艦などとなれば莫大な金が動く。

アメリカの原子力空母、ジェラルド・R・フォード級の現在建造中の艦があるが、研究開発費で50億ドル、さらに建造費は30億ドルと言われている。

(その前のニミッツ級9番艦ロナルド・レーガンだと建造費が45億ドルと言われているので、さらに建造費はかかると思われる)

原子力空母一隻で約1兆円。

利益が1%だとしても100億円の利益である。

 

こんなものを受注できるなら、生産できる企業は血眼になり、接待も裏金も横行するだろう。

 

 

さらに規模の大きい、世界的な『死の商人』・『闇の商人』と言われる武器商人たちはさらに上を行く。

ルパンもそういう連中と多々やりあったが、ルパンが嫌っているから、だけではない。

それだけ儲けているからだ。

 

世界的な規模になれば、関係のないA国とB国の戦争に間接的に介入が出来る。

不利なA国に最新鋭の武器を『キッチリ利益を取って』多く売り渡す。

そしてA国が有利になればB国に最新鋭の武器を『キッチリ利益を取って』多く売り渡す。

 

その結果、負けないためにと自国民から税を搾り取って、残ったのは両国ともボロボロになった勝者と敗者が残るだけ。

勝てばまだいいが、実質的には双方ともに敗者の可能性もある。

勝者は死の商人たちだけ。

 

罵られようとも、それだけ利益の上がる商売であり、それに関われる間は続けたいのが本音だろう。

しかも、大本営の連中は安全な日本の司令部で踏ん反り返って、裏金を受け取って政治ゲームに腐心するだけでいいのだから。

 

 

「成る程。……で、アンタはどうなんだ?」

 

後ろで黙っていた次元が口を開く。

次元も色々な戦場を渡り歩いたこともある男だから、艦娘達に感情移入もしているのかもしれないし、傭兵でバカな上に苦汁を舐めさせられた苦い思い出が口を開かせたのかもしれない。

次元だって、金城の指摘していないことに気付いていないはずがないのだから。

 

「俺も人間だからな、ある程度の報酬は貰わねぇと生活にならねぇ。そういう点では、俺もある意味同類さ。

……まぁ、こんな下らねぇ戦争続けたいとも思わねぇがな」

 

金城の言葉に黙って次元は顎をさする。

 

(なるほど、ね。現実や歴史をきっちり直視した上で、相応に人情味のある男、ってところか…)

 

仮に終戦後の事を考えれば、今回は人間ではない艦娘が戦場に赴いている事からそこまで強くはないかもしれないが厭戦ムードが高まるだろう。

そして、軍というものは古来金食い虫である。

そのため、その厭戦ムードを政治家は利用して軍縮方向へ行くだろう。

 

それを見越してのこの『傭兵稼業』なのかもしれない。

深海棲艦が一切消えて、艦娘が残ったとしても世界にはいまだに海賊がはびこっている。

その対策の護衛艦としての運用へと方向転換すれば、艦娘及びこの金城の身の振りようはいくらでも可能だろう。

独自の会社を立ち上げてもいいし、専用の会社などに配下の艦娘とともに入ってしまえばいいのだから。

そして、現在進行形でこの男はそのノウハウを蓄積している。

 

恐らく本心から現状の上層部を苦々しく思っているらしい金城に優しく宥める。

 

「悪いな、胸糞悪い話をさせて」

 

「いいさ、『水清ければ魚棲まず』ってな。世界は綺麗事だけじゃ成り立たねぇ。

どこかで泥を被る連中がいないと行けねぇのもまた事実だ」

 

そう言って、再び金城は先を歩きはじめる。

その後ろにつきながら、ルパンはどこかで聞いた言葉を思い出していた。

 

(…『泥なんてなんだい』か。ま、信用はできそうだな…)

 

 

 

そうしてやってきたのは道場だった。

一応ルパン鎮守府にも道場はあるが、意外に五右衛門はあまり使っていない。

 

五右衛門は常在戦場と口にしているわけではないが、『剣術家』である。

そのため、どんな悪条件でも切り抜けれることを優先する。

そういう事から条件の整った道場稽古を重視していない。

 

「こちらは剣術や柔術、弓術といった戦闘に関する艦娘の鍛錬の場となっております。

……あぁ、今ちょうど何名かが利用してますね」

 

視線の先には霧島と日向が木刀で打ちあっていた。

最低限の防具はしているものの、竹刀ではないことにルパンは目を見開く。

 

「……斯様な鍛錬は必要でござるか?」

 

「まぁ、艦娘は今更ながら人の形してるからな。何が起こるか解らねぇからこそ、その為の備えさ」

 

なるほどな、と次元は頷く。

あえて口にするほどではないが、ルパンも次元もそれなりに徒手空拳での格闘もこなす。

泥棒だから、ではないが、人間は裸で生まれてくるものであるからこそ、その裸の技から練るべきではないかと思っていた。

一流のガンマンであっても、走って少しでもいい条件での撃ちあいに持ち込む必要があるからだ。

むしろ安定した環境下ではこなして当然、その先をこなすからこそ超一流のガンマンであり、怪盗なのだ。

 

一方目を移せば、柔道をしている神通と那珂が目に入る。

 

「よぅ神通、精が出るな。」

 

「あぁ、提督でしたか。お疲れ様です。……そちらの方々が例の?」

 

「あぁ、本土から視察に来たルパン提督とその補佐官と護衛の艦娘達だ」

 

しかし、ルパン達は神通よりも投げ飛ばされて、極められている那珂から目を外せない。

完全に極まっているからだ。

 

「お初にお目にかかります、軽巡洋艦・神通です。このような格好ですいません。」

 

「そう思うなら早く離してよ神通ちゃ~ん!肩、肩外れちゃうって!」

 

「……ほどほどにしとけよ?」

 

流石に金城もそれ以外何も言えずにいた。

 

不意に五右衛門が口を開いた。

 

「拙者たちの那珂なら組ませんな…あの組み方なら、組まれる前に無力化するだろう」

 

「…え?」

 

五右衛門の何気ない囁きにルパンが脚を止めて振り返る。

それに次元が眉を顰めつつも頷く。

 

「…柔道とか寝技って耳潰れるじゃねぇか?

那珂が『耳の潰れたアイドルなんてアイドルじゃない!』とか言い出して…空手始めてな。

アレ、もう空手じゃねぇぞ。アレはカラテだ…」

 

「え、なにそれ、怖い」

 

ルパンはそうとしか言えない。

 

「この前は巻き藁ではなく、畳に貫手やっていました」

 

「鉄砂掌とやらにも興味を持って調べていたぞ」

 

外の弓道場が多少気になったのか、そちらを見ながら当然のように加賀が漏らす。

それに関して龍田は天井を見上げてこう漏らした。

 

「ウチの川内型は……どこへ行こうとしてるのかしら~?

川内ちゃんはサスケ伝とかマスクザレッドとか超人プロレスとか言い出すし、風林火山とかいう木刀は探し出すわ…」

 

そんな内輪話は聞こえなかったのか、穏やかな時を過ごす金城鎮守府の姉妹。

 

「大丈夫です、私の妹ですからヤワな鍛え方はしてませんよ」

 

「それでも痛いのは痛いってば~!」

 

神通が笑っているから、穏やかなのだ。きっと。

 

 

 

 

そうして移動先の弓道場の隅では、ライフル射撃も行われていた。

これまでの流れを考えれば不思議ではないが、それでもやはり違和感はあった。

 

実際ライフルも銃でしかなく、艦娘に目と指があれば撃つことは可能だ。

なのでおかしくはないが、砲を撃つ者というイメージから違和感を覚えさせられるのだろう。

 

「おいおい、ライフル射撃なんてやってていいのか?」

 

「こんなご時世だ、鎮守府に攻め込んで来るのは深海棲艦だけとは限らねぇからな。

備えすぎて困るって事はねぇだろうさ」

 

実際問題、対人を考えればライフルは実に悪くない選択肢である。

一説によると人間の戦争の歴史はいかに『手を伸ばすか』の歴史であったともいえる。

 

相手が攻撃できない間合いから、一方的に、もしくは有効な攻撃を与えるか。

素手から剣へ、剣から槍(矛)・弓へ、そして銃、大砲と進化してきた。

 

ライフルというものは、多数を殺傷するものではなく、一人を対象にしたものであり。

だからこそ、指揮系統を崩壊させるために指揮官を超長距離から射抜く道具。

指揮官でなくとも、相手の設備の無力化(19世紀などの古い戦争では大砲手の狙撃など)といった用途で用いられた。

今では特殊部隊などでも重要視されている職種である。

 

それをあえて訓練していることから、相応の対策を練っているのだろうとも判断をルパンは下す。

次元も同様で、冗談交じりに指摘しただけで、あえてそれ以上は言わずに済ませるが、加賀は食い入るように様々な場所をチェックしていた。

 

「さぁ、次は工廠に向かいます。遅れないでついてきて下さいね」

 

大淀はあまりここで語ることはないのか、そのまま通り過ぎていく。

それを加賀が名残惜しそうにチラチラと振り返りつつ、ついていくのだった。

 

「……俺なんか撮っちゃってどうすんの?」

 

「そりゃもう明日の一面ですから!!」

 

パシャパシャと飽きることなくカメラを向けて様々な角度から撮ってくる青葉にルパンは苦笑する。

その向けるカメラも相応の一眼レフカメラである。

 

ここまで堂々と撮って来て、満面の笑みで言われれば何も言えずにピースなどを向けてやるのだった。




あ、iQOS始めました。

イベは春風と甲攻略のみとなりました。

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