色々考えることなどがあって手が止まるや否や、
・病気により入院
↓
・仮退院
↓
・ドジかまして、自爆大けが(横幅5cmほどザックリ顔を斬る羽目に)
↓
・その治療&経過が微妙で再入院
というわけのわからない不運続き。
寝てばかりで身体もなまって、体力無くなるわ、集中力も欠けるわと散々です。
皆様も暑いですが、お体にはお気をつけて。
行進は相変わらず亀ですが、お許しくださいませ。
設備などを見渡しながらも、ルパンはどこかおどけた態度で青葉の要求に応えてポーズをとる。
その後ろを歩く次元や五右衛門は迷惑、とまではいかないが、仕方なく撮られているといった様子を崩さない。
「むぅ…もうちょっと何とかしてくださいよー」
「悪ィな、お嬢ちゃん。あまり写真は好きじゃねぇんだ」
愚痴めいた言葉に次元はそっぽを向きながらも低い声でいなす。
そのままいったん屋外に出ると、ランニングをしている一団と出くわす。
金城提督はルパンをおいて、その一団の先頭を走っていた比叡と苦笑交じりに話しているのを静かに眺める。
(…仕込みかどうかはさておき、艦娘との仲は良好、か…)
「走り込み、ねぇ……随分と古臭いトレーニングじゃないの?」
「古臭かろうが有効な物は使うさ」
金城の言葉に少しルパンは考え込む。
勿論、非力であることは問題だが、艦娘に脚力とはどこまで必要なのか、と。
恐らく金城提督なりの軍隊・軍人というものへのイメージや理想があってのことなのだろうと推測すれば、自然と艦娘を『兵隊』としてもとらえているのが想像できた。
「そうかい…ま、すぐヘバるようじゃ、困るしな」
そうとだけ言って、ただ頷いておいた。
ルパンの艦娘へのイメージは少し違い、パワーボートで追いかけた際に見ていたが海上移動の際に脚力を使っているという印象を受けなかった。
そのため、走り込みで総合的な体力をつけるということの有用性は認めつつも、脚力をつけるということはあまり必要とは思っていない。
それは、ルパンたちの瞬発力や咄嗟の判断力を求められる、泥棒稼業というものからの考えもあってだろうが。
ルパンたちの想像だが、金城提督は軍事行動をラグビー・アメフトのような陣取りゲームのように認識しているのだろう。
それは王道中の王道であり、何も間違っていない。
しかし、ルパンは泥棒であり、トリックスターである。
ルールの裏をかき、一手で局面をひっくり返してしまう。
その一手のためのトレーニングを優先してしまう、思考の癖がそこには存在した。
「ま、とりあえず視察を続けようじゃないか?ルパン提督」
その言葉に頷いて、目玉と金城が自信を持って言った工廠に着くと、その大きさに全員が目を見開く。
「随分とデケぇな?」
次元がしみじみと言えば、金城がそうだろうとばかりに頷く。
「本館の時にも説明したが、ここは元々艦娘の量産化の為の実験施設でな。その名残だよ」
ちなみに軍においては基本的な工廠など、あらゆる施設の面積や規模は定められている。
その中で申請を出すことで増設などを決められた基準値の幅で許されるが…ルパンは『ただの倉庫』などと偽って、別の倉庫を隣接させて航空機などの改造を行っている。
その『倉庫』を含めたとしても、この金城提督の工廠は大きかった。
「あぁ、提督!お疲れ様です!」
「よっ、随分熱心に弄ってるな?」
「そりゃそうですよ!今朝方技研から届いた試作品艤装のフィッティングですから……あ、もしかして見せちゃマズい感じでした?」
工廠の奥からやって来た明石と金城提督が穏やかに話し合う。
その明石の顔は油で汚れていた…恐らくは、つい先ほどまで何かの機械を弄っていたのだろう。
(…試作品艤装?)
思わぬ単語にルパンは眉をほんの少しだけ動かす。
それに気付いてか、それとも己の失言に気付いてか明石が表情を硬くする。
「別に今更だろ~?そこまでお前がベラベラ喋ったら。機密もクソもねぇだろが」
「で、ですよねぇ~……アハハ」
金城提督はその様子に苦笑しつつも、大したことではないとうそぶく。
本心からかはともかく、実際に艤装などを見て、弄るルパンからすればその背後にある艤装は従来品のとは違うものだということは確認できた。
「どもども初めましてお嬢さん、俺はルパン三世って最近提督になったモンなんだけっども。さっき弄くり回してたのは艦娘の艤装かな~?」
「え、えぇまぁ。ただ、特殊な試作品でして……」
軽く前屈みになって角度を変えて、明石の背後の艤装を横目で見ながら明石に近づく。
同じ明石の姿をしているが、顔つきやメイク、肌の手入れ具合などをよく見ればルパン鎮守府の明石とは違うことがわかり、どこかおかしくなる。
ちなみに、ルパン鎮守府の明石は勿論このような機械弄りも大好きなのだが、美容にもうるさいのである。
明石・大淀がタッグを組んで、酒保の美容用品のラインナップが充実させまくっているのは鎮守府では周知の事実だったりする。
「もしよろしければ見学します?」
「是非是非!」
おずおずと勧めてくる明石にニッカリと無邪気に笑って近寄るルパンだったが。
「…お触りは、禁止されてますよ~。特に、よそ様の艦娘ですもんね~?」
ルパンのすぐ後ろに立った龍田に釘を刺されてしまう。
ルパンの背中に押し当てられた金属のような、硬い棒状のものが何かと問いかけるほどルパンも愚鈍ではない。
「…ふぁ~い…」
ただ大人しく、両手を肩の上に挙げて、明石とほんの少し距離を取るのだった。
「どうぞこちらへ。今朝方届いたばかりなんですが、『技研』からのデータ取りを頼まれた試作品の艤装です」
「ハイハイ先生質問~!」
先導する明石の説明にわざとおどけて、冗談めかして手を挙げる。
ルパンの処世術、というか、誘導話術の一つである。
情報を引き出すには中途半端に知ったかぶりするよりも、相手に油断させるように愚鈍に振る舞う。
人は格下相手には警戒しないものである、という心理的な隙を狙ったものである。
しかし、その様子を見慣れてしまい、その腹黒さを知ってる次元や五右衛門からは若干冷たい視線が飛んでいるが。
「な、何でしょうか?ルパン提督」
「さっきから言ってる『技研』って何の事ですか~?俺っち新米だから知らないのよ~!」
「『技研』ってのはラバウルにある『艦娘技術研究所』の事でな。通称『ラバウル技研』……ウチでは長いんで、略して技研と呼んでる」
金城提督が明石の代わりに説明をしてくれる。
当然ながら、それくらいはルパンも浦賀経由で情報は得ている。
ラバウル技研は、本来は主流派から外れた技術者の飛ばされる左遷先、だった。
名目上は『最前線の一つであるラバウル』で、『戦場で必要とされる艦娘に関する技術を研究』するため。
しかし、人間三人集まれば派閥が出来る、という格言があるように軍内でも当然派閥はある。
親艦娘派、なども大きな派閥の括りではあるが、それ以外の人や職務などによる括りもある。
簡単に言えば、個人的には艦娘を嫌っている(もしくは、気味悪く思う)ものの、仕事などで世話になる上司(要は派閥の上の人間)が親艦娘派なので、人道的に扱っている提督・軍人などもいるのである。
詳細はこの場では割愛するとして、この派閥は技術者にもある。
そして、予算は有限である。
その結果、ラバウル技研を初めとした地方の技研の多くは『本土の技研の派閥から漏れた技術者の左遷先』である。
が、技術者の中にはそんなことをおかまいなしで喜ぶ人間もいる。
要は『本土じゃ出来ない、やりたい研究が好きにできる!!』と考えるタイプであった。
各地方によって特色は違うが、一つだけはっきりしているのは『本土の技研は既存技術を少し弄って、堅実に、無難な改良を目指す』事である。
これは研究費を出す、軍部の人間の意向である。
『既にあるものを少し改良して、運用方法からどういう研究をするかもわかりやすい研究者』と。
『今までなかった、出来るかどうかもわからない、突拍子もない研究を、よくわからない理論を語ってやりたがる研究者』。
このどちらに、素人とは言わないものの、研究者でもない人間がより多くの、有限の資金を預けたいか。
その結果であったりする。
どちらが上だ下だ、というのはないが、ルパンは後者の方が好きである。
理由は面白いから、と、実用化できた場合、人の虚をつけるから。
「お前さんらの鎮守府での装備の『魔改造』についての話は調べが着いてる……だがな、あそこの連中のいかれ具合はそれ以上だ。
あそこの連中はほとんど『既存の装備』を弄らない。妖精さんとの共同開発で、新機軸の武装の開発をやってる。
その中でも大きな功績が艦娘の改二艤装の開発だ」
金城提督の説明に、内心ルパンは情報収集にも余念がない、と判断する。
しかし、その能力はどこまでかはまだ判断はつかない。
当然ルパンも素人ではないので、『表に出す情報』と『表に出さないようにしているように見えるが、漏らす情報』と『絶対に漏らさない情報』がある。
そのどのレベルまで達しているのか。
それを伺いつつ、感心したように工廠にいる村雨を興味深そうに見えるように、見る。
「へぇ……それで、この村雨ちゃんが付けてるのがそこの研究所の試作品、と」
「なんでも、『現代化改修』という開発段階の技術らしくて。海上自衛隊等に引き継がれた名前の娘限定ですが、その後継ぎの艦の装備を使えるようにする……らしいです」
ざっと見た感じだが、近代武装、特にレーダーやミサイル系の強化を意識した艤装に見える。
(…ま、実用は無理かもな。出来たとして、短時間運用や極地運用が限界だろうさ)
内心、ルパンはそうつぶやくが、決してこの研究や艤装をバカにするつもりはない。
使えるならルパンも活用したい。
が、今のルパンの艦娘に関する情報を分析した結果、艦娘はただの少女でもなければ機械でもない。
上手く言えないが、『神霊』に似た何か、というイメージを持っている。
だから、まだ深海棲艦の戦いで沈んで間もない旧自衛隊の護衛艦たちの艦娘もいないのではないかと思っている。
『付喪神絵巻』曰く、「器物百年を経て、化して精霊を得て…」とある。
過ごした年月や、想いという精神的なナニカが影響して産まれたのが艦娘ではないか、というのがルパンたちの結論である。
五右衛門は斬鉄剣を見て複雑な顔をして…
「この斬鉄剣もいつかあのような少女になるのか?」
「美少年かもな」
などと次元がからかっていたが、その手は懐のコンバットマグナムに伸びていたため、似たような気持ちなのかもしれない。
「成る程……どうだ村雨、着けた感じは?」
「うーん……実際動かした訳じゃないから解らないけど、多分馬力とかはこっちの方が上かな?それに、固定の武装もどんなのか解んないし」
「そうか。まぁテストだから無理はするなよ?怪我でもされたら敵わんしな」
金城提督が村雨に優しく確認をしつつ頭を撫でるが、その後ろの金剛の目つきが若干ヤバい。
金城提督は金剛とケッコンカッコカリをした、という情報を得ているルパンは内心溜息をつく。
ルパンの目から見ると、金城提督からの村雨への視線には男女というよりも、親子といった様子が窺える。
(…ま、愛がひっくり返って殺意になるってよくあるしな…刺されねぇように祈っとくかね)
『情が
だからといって、他人の恋路というか、家庭にくちばしを突っ込むつもりはないが。
「でもぉ、こんな凄い装備が回って来るなんて……どんな取り引きをしてるのかしら~?」
あえてつっこまなかった部分を龍田が口にする。
(…龍田ちゃん、減点一。聞いたところで正直に言ってくれるわけもないしねぇ)
素知らぬ顔で上着の懐を漁って煙草に触れる。
しかし、当然火薬・油などの危険物がある工廠内で吸えるはずもなく、懐の中の箱に触れるだけに留める。
「何の事ぁねぇ、そこの研究員の一人に知り合いが居てな。その伝でウチが頼まれる事が多い……それだけよ」
「……けれど、それだと他の鎮守府では不満に感じるのではないかしら?」
それに白とも黒ともつかない回答をする金城提督。
さらに追い打ちをかけるのは加賀だったが、それに関してもルパンは口を出さない。
「なぁに、簡単よ。『他の鎮守府』はやりたがらねぇのさ、何せ試作品だからよ……何が起こるか危なっかしいてんで、ほとんど技研の内部でテストしてるんだがな?」
その言葉にほんの少しだけ帽子の鍔から目を覘かせたのは次元だった。
技研という言葉で純粋な研究所と思い込んでいたが、テスト場と艦娘の両方が揃っているらしい。
二人の詮索に対する金城提督の回答は至極無難なものだった。
(その研究者とどう仲がいいのか…金などで抱き込んだお抱えに近いのか、それとも純粋なギブアンドテイクなのか…
抱き込んでいるなら、その矢先に何を見ている?)
次元は軽く顎の髭に手をやりながら少しだけ考え込む。
後者ならまだいい、研究者が主導で手伝わされて、その恩恵を受けているならどのような装備が目の前の男に渡るかは運次第。
しかし、前者だったら、もしくは『研究者が一人ではなく、全員』だったら。
目の前の男は火種になりかねない。
(…だとしても、遠く離れたこのブルネイで何かをしても、すぐには俺たちには影響はねぇだろうが…な)
「それでも手が足りない時にはたま~に、な。試作品のデータの採取と譲渡の条件で、ウチに期限付きで回してもらってるのよ」
「はぁ~……随分とぶっ飛んだ事を考える奴も居たもんだ」
そんな事を考えていた次元の目の前で、ルパンがしげしげと、しかし演技で、村雨を見つめる。
それが気恥ずかしいのか、照れた様子を見せる村雨に小さく苦笑を漏らす次元だった。
「さて、と。そろそろ見学もいいだろう?会食に移りたいと思うんだが……どうかな?」
「いいねぇ、俺様達も歩き回って程よく腹も減ってきた。そろそろ飯にしようじゃないの」
そんな金城提督の言葉と、ルパンの軽いノリに次元は軽く頷きながら、懐から煙草を一本取り出して咥える。
どんなマナーの会食かは知らないが、その前にでも喫煙所にでも寄らせてもらえるだろうと考えての事だった。
無意識のうちに、喫煙マナーを刷り込まれた次元とルパンであった。
ごませんさんの原稿と、私の原稿の差異がますます開いていく。
キャラクターというか、筆者の性格の差が出ますね。
自分で読み返しても…なんというか。(苦笑