大泥棒一味が鎮守府に着任しました。   作:隠岐彼方

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夏イベお疲れ様でした。

アクィラで60周あまりさせられましたが、E3ラストダンスで伊26が落ちるというホームランにより、無事に隠岐鎮守府の夏イベは開始一週間余りで終わりました。
100周行かずに済んで何よりです。

しかも、全員手動キラ付け(遠征も含む)のせいか、E4甲ラストダンスは1回で終了しましたし。
皆さんの夏イベはいかがでしたか?


EX3-6.加賀は苦悶するようです

ルパンと次元がやいのやいのといつものやり取りをしている間、五右衛門は静かに黙ってカウンターの中を観察していた。

 

五右衛門とルパン鎮守府の加賀は実は似た者同士である。

普段は冷静沈着でありながら、ひょんなことで怒りに火が付いたりもする点も然り。

(加賀の場合、大抵その怒りに火をつけるのは某ツインテールだったりするが)

 

食事に対する並々ならぬ執着、も同様である。

 

加賀とセットで語られるのは赤城であるが、赤城はどちらかというと総合点を評価することが多い。

赤城は大和型ほどではないが、健啖家であることもあり、『一定基準以上の味』であれば問題ないというスタンスである。

そして、食べるのが異様に早い。

例えるなら運動部の男子高校生か、というくらいに。

カレーはおろか、丼物すら飲み物とか言いかねない勢いで食べる。

さらに、ほとんど全てをご飯に乗せて一緒に口に入れる。

どこの巨漢タレントだ。

 

一方、加賀も相応には食べれるのであるが、食べるのが遅い。

それには事情があるのだが、とりあえずよく噛んで食べるし、しっかり味わって食べる。

そのため、食べている間に瞑目して舌に集中している事すらある。

 

よく噛んでゆっくり食べる間に満腹中枢が満たされて、赤城ほど食べることは稀である。

そのためか、質を求める傾向にある。

 

たまに昼休みの食堂でメニューを選ぶために真剣に数分以上メニューの前で悩んでいる事もある。

そこに大抵ちょっかいをかけて、アームロックを喰らう某妹もよくある光景でもある。

当然、加賀の脳は何を頼むかでフルに使われているので、某ツインテールが悲鳴を上げようが気にも留めない。

 

そんな些事に気をかける脳の余裕はないのだ。

いかに満足できるランチタイムを迎えるかの方が大事である。

ナニかが折れるか折れないかの加減は身体が自然と覚えているから意識などする必要はない。

まさに生かさず殺さず。

 

どこか幸せそうな表情を浮かべているのは見なかったことにしておいた方がいいのだろう。

 

 

質を求めるのは五右衛門も同様だが、どこぞの食通のように『女将を呼べ!!』とかはないのである。

秋月型などに代表されるが、戦況が苦しくなった時の記憶のある艦娘をはじめとして食に感謝を捧げる艦娘が多い。

実際『腹いっぱい食べれる』ということは幸福な事である。

それは全ての艦娘も共通して思っている事である。

 

五右衛門もその信念には感謝し、よほどの事がないと出されたものは全て感謝して食べる。

ただ、あまりに好みに合わない場合は二度とその店で食べないだけである。

料理も男の手料理程度でしか出来ず、食べさせてもらえるだけでもありがたい、というスタンスである。

 

当然、二人とも食通ではないのでどんな工夫が、食材がと語られても『そうですか』で終わりである。

肝心なのは【己が美味いと感じるかどうか】であり、料理人泣かせとも言える。

 

 

酒に関しても同様である。

加賀も五右衛門も酒は強い方で、詳しくもない。

 

知識も素材も歴史もそこまで気にしない。

ただ、口に合うか否かしかなく、大抵のものは美味しくいただけてしまうのだった。

 

 

 

ゆえに。

 

(満足できる酒に出会え、それと合う食事を出してくれればそれで十分なのだがな…)

 

五右衛門の心境はその程度でしかない。

何やら目の前の金城提督が張り切っているのに水を差すのもどうかと思って黙ってはいるが。

 

加賀も同様で、出てくる料理に関しては多少の注文はある。

しかし、美味ければそれでいい。

 

(あまり熱すぎる料理と、濃すぎる料理は遠慮願いたいものね…

その時はビールでも追加で頼みましょうか)

 

料理を作る金城提督を横目で見つつも、気になるのは隣のルパンと龍田であった。

先ほどの次元との喧嘩の時に僅かに席を寄せたのを加賀は見逃していなかった。

 

(確かに艦娘として生を受けてからの人生経験や事務処理の腕には差があることは認めましょう。

ですが、この一航戦として、提督の刃となってお役に立ってみせましょう)

 

意外と口にしないだけで加賀は饒舌なのである。

口は開かないが。

 

 

「お待ち、『鮭のルイベ』だ。今回は伝統的なアイヌ料理風に仕上げてある。塩は振ってあるから、好みで山葵を付けてな」

 

そうこうしている間に五右衛門に皿が出される。

その皿の上にはぱっと見は鮭の刺身に見えるが、半分凍っている。

 

ルイベとは、アイヌ語で凍った食べ物を意味する。

自然の知恵で、魚を凍らせて保存をすると同時に寄生虫が死ぬことを知ったことから広まったものである。

これは北海道だけでなく、中国やロシアの一部地域に似た食べ方は存在している。

有名なのは鮭だが、マス、ニジマスやイカなどでも作られる。

 

とはいえ、これは家庭ではお勧めされない。

サナダムシやアニサキスなどの寄生虫が死ぬのは-20度以下であり、家庭用冷蔵庫だとせいぜい-10度。

家庭用冷蔵庫では寄生虫は死なず、長期間保存すると水分も抜け、味も落ちるし、危険性も高まる。

そのため、家庭で楽しむ場合は業務用で専用の処理をされたものを購入し、即座に食べることをお勧めする。

 

なお、市販のスーパーなどで肉類などを保存する場合も同じで、せいぜいもって一か月程度で、それ以上保存すると品質の低下と食中毒などの可能性もあるので気を付けていただきたい。

 

 

閑話休題。

 

出されたルイベに手をつける前に金城提督から美しいカットの刻まれた江戸切子のグラスに入った『冷や』を差し出される。

それだけで五右衛門はほんのすこしだけ目を細める。

 

最近の飲み屋で冷やを頼むと氷などを入れた『雪冷え』を出されることがある。

本来、日本酒の『冷や』とは常温を指す。

 

日本酒は温度によって表情を変えるものであり、冷蔵庫などで冷やせば美味い、というものではなく、その違いも楽しみ方・合わせ方の一つなのである。

勿論雪冷えを否定するわけではないが、冷やを頼んで雪冷えが出てくると、『エスプレッソ』を頼んだのに『アメリカン』が出てきたような気分になるのは筆者だけだろうか。

 

 

(…このような基本を守っているという事はよほどこの男、酒が好きなのだな)

 

執務室にバーを作った男に対する感想として今更過ぎるが、改めてそう思うのだった。

 

そのまま無言でルイベを一切れ箸で摘まみ、わさび醤油をほんのちょっと。

それを口に運んで噛みしめると、通常の鮭とは違い、脂が通常よりも少しだけ落ちて脂ののった白身魚のような口当たりと、凍った部分と生の部分の絶妙な歯ごたえ。

刺身醤油ではなく、通常の醤油の旨味とわさびの刺激が口から鼻へと抜ける。

 

そして、切子を傾けて喉を湿らせる程度に日本酒を注ぐ。

すると口内のルイベの旨味と脂、醤油とわさびの香りがそっと流されると同時に日本酒の辛味と香り。

 

日本酒は、日本酒だけで嗜むものではなく、料理と嗜むもの。

それがつまみであったり、塩であったりもするが。

 

そんなことを考えると唇がほんの少し綻ぶ。

 

「…………うむ…」

 

先ほど見た瓶の銘柄をちらりと確認して、また二口目のルイベへと五右衛門は挑むのだった。

 

ちなみにルパンも次元もそれを見ても手を出そうとはしない。

別に傍らの斬鉄剣が怖い、などではなく、箸が五右衛門の手の中の一膳しかないからである。

さすがに人前で手づかみで刺身は食べれない。

 

ましてや醤油をつけた刺身をドタバタ奪い合いなんかした日には、スーツかYシャツか着物かわからないがどれかに被害が出るだろう。

それがとある女性の衣服となれば……切り落とされかねない。

何が、かはわからないが。

 

 

五右衛門が饒舌な、会話を楽しむタイプではないことを理解しているのかそれ以上は金城提督は何も言わず次の料理に取り掛かる。

次はルパンなのだろうな、と誰しも思っていた。

 

そして漂うのは香ばしい香り。

リズミカルにまな板を叩く包丁の音と、かき混ぜる菜箸とボウルの音。

ごま油ににんにく、しょうがの火の通る香ばしい香りが漂う。

 

鰻ではないが、香りが時には暴力となる。

実際に小腹の空いたルパンや加賀は軽く前のめりになってしまっている。

 

そして中華鍋が振るわれてふんわりとした卵が器に乗る。

冷めぬ間にということであろうか、再び手早く中華鍋を振るって作られた餡が卵の上にかけられる。

 

(次元提督、五右衛門提督、とくれば、ルパン提督でしょう。

幸い、と言ってもいいかもしれませんが…あとで少し分けていただきたいものね)

 

加賀はつい唾を飲み込みかけるのを耐え、そうひとりごちる。

 

彼女は先ほども述べたが、猫舌なのである。

どうも口内の粘膜が弱いのか、皮膚が剥けるわ、ヒリヒリするわで大変なのである。

 

そのため、かに玉が大きい事には気づきながらもルパンに饗されるなら、むしろ余ったほどよく冷めた分を分けてもらおうと思っていた。

 

しかし。

 

「はいお待たせ、『かに玉』だよ。お酒は今注ぐから待っててな」

 

金城提督の差し出した皿は加賀の前に置かれるのだった。

 

(えっ、順番的にルパン提督じゃないのでしょうか?

というか、湯気がはっきり出てますよね?熱いですよね?)

 

加賀の心の内での疑問符だらけの絶叫に誰も気づくことなく、金城提督はグラスと一升瓶を取り出す。

加賀は目の前のかに玉から目を離せず、凝視するしかなかった。

 

(食べれなくはないわけではありません。

実際に香りやふんわりとした卵の火の通し加減を見る限り、絶対美味しいでしょう

むしろ食べたい料理です。しかし、食べた後の惨劇を考えると…)

 

そのような葛藤をよそに金城は気の良い笑みを浮かべてロックグラスを差し出してくる。

 

「ハイよ、『森の菊川 本醸造辛口原酒』のオンザロックだ」

 

そして、彼女は覚悟を決めた。

 

「ありがとうございます。では頂きます」

 

そうとだけ言って、合掌。

 

蓮華でふんわりとした卵を切り取って、餡と一緒に乗せる。

餡を乗せすぎたら熱くて食べれないし、後で足りなくなるが、少ないと物足りない。

まさに匙加減。

 

サイドテールが零れ落ちないように軽く手で抑えながら、少し頭を下げて蓮華の上の卵を軽く吹く。

そして、意を決して口に含む。

 

(熱っ!…でもっ、香ばしくて…美味しいっ!!)

 

口内に広がる甘酸っぱい餡の旨味と、ごま油の香り。

そして噛むと広がる卵の柔らかい甘さ。

ハフハフと熱を吐息で漏らしながら咀嚼するものの、熱くてままならず飲み込む。

すると熱が喉を通り、食道が焼けるような錯覚を覚える。

 

そこでロックグラスを手に取って半分ほど冷え切った日本酒を口に運ぶ。

 

するとよく冷えた日本酒が熱を帯びた口内を冷ますとともに、キリッとした辛口の日本酒の旨味が刺す。

そして飲み干すと熱くて堪らなかった食道を冷ますとともに喉からスッと抜ける爽快な香り。

 

そこでやっと加賀は一息つく。

 

(つまみとしては程よい味の濃さに、爽やかな味わい。

これはいい組み合わせかもしれませんが…)

 

手にしたグラスを見下ろす。

勢いでつい半分も飲んでしまったため、残りは半分程度。

 

そして、ふと隣の席のルパンを見る。

ルパンはかに玉を凝視していて、分けてくれと言わんばかりである。

 

「私は少々熱い物が苦手ですが……この組み合わせはとても良いと思います」

 

そのまま真っすぐカウンターの中の金城提督を見据えてそう評じる。

しかし。

 

「…申し訳ありませんが、チェイサーでビールを」

 

(これを数杯開けたところでどうということはありませんが…どう見えるかは別問題ですし。

あまり飲兵衛だと思われても、女の身としてはよろしくないかもしれません)

 

などと自分の選択に自信があるのか、軽くドヤ顔気味になっている。

 

 

 

 

しかし、その横顔を見るウィスキー片手の次元がジト目を送っていた。

 

(かに玉と日本酒に、チェイサーでビールってどうなんだよ…)

 

 

ルパン鎮守府の面々はどこかしらズレているようである。

 

次元の味のバランスへの不満にも気付かずに、再度加賀は蓮華を片手にかに玉に挑むのであった。




しかし、プリンツ・オイゲンは落ちなかったッ!!(血涙)

あ、二人目ですよ?


今日明日は台風が襲来するらしいですね。
…大丈夫かな。

これからやってくる方、もしくは襲来中の方はお気を付けて。

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