時期的には春・夏のイベと思っていただければ。
ごませんさんとのコラボのEX.3は挿入話として更新します。
コラボ話が最新話として更新履歴に上がるのかは不明ですが、文末にでも更新履歴を挙げる事にします。
春めいてきたある日の海軍施設内。
その会議室、というよりも、大学の講義室といった様相の部屋に多くの提督が集まっていた。
前半は新人の提督達への訓示を込めた、講習。
後半は通称『イベント』に向けた講習だった。
これは海軍公式のものではなく、あくまでとある提督が『国土防衛』のために、周辺の提督と連携して深海棲艦に対抗するための会議、となっている。
ただし、隣り合っていても呼ばれていない提督もいれば、似たような思想を持つ提督ばかりが集まったのも偶然である。
「…以上が、今回の『イベント』こと大侵攻計画の予想進路である。
諸提督方に至っては、普段よりも慎重を期し、資材の準備を心がけていただきたい」
司会役の少将と名乗った男が手元の資料を見ながら、プロジェクターで資料を壁面に映しながら解説する。
「全海域の制覇は必須ではないが、海軍内での評価はそれに準じる事を胸に刻んでいただきたい。
また、特定の集団に侮られぬよう、我々が一致団結し、我々の力こそが海軍の力であると内にも外にも知らしめる必要性も同様に。
…なお、今回の資料は流出は禁止である。破った者には相応の報いがあることも理解いただきたい」
陰気な男が淡々と言うとともに全員が起立して敬礼を返す。
それによって、男は壇上から去っていった。
「いや~参りましたね…資材を貯めろと言われてもどうしていいものか…」
新人らしい髭を蓄えた軍人がすぐ隣に着席したベテランらしい軍人に苦笑気味に漏らす。
そのベテランらしい男は、太った身体を揺らして鼻で笑う。
「貴様、新人か?その頭は軍帽を飾るための飾りでなければ使ってみせんか」
「あははは、これは手厳しい。よろしければ先達の知恵を授けてやっていただけませんか?」
新人提督はわかりやすい嘲笑も気に留めずにへりくだる。
それに気分を良くしたらしいベテラン提督はわかりやすい見下した笑みを浮かべる。
「ないなら持って来ればいいではないか」
「遠征ですか?それでも結構厳しいし、あと一か月もせずに始まるという予想ではないですか。
まだ大本営からの支給を受ける程度の備蓄しかないため、間に合わないんですよねぇ…」
大本営は、資材不足による各鎮守府の機能停止を恐れてか、基準数値以下の資材しかない場合は資材を補給している。
新人の内はその補給を受けつつ、艦隊を拡充するとともに効率のいい遠征などを導いて自活していく、というのが各鎮守府の成長の流れである。
目の前の髭の新人提督はそこまではまだ至っていないと苦笑して言う。
「それ以外にも現金で購入すればいい」
そのまっとうな考えを鼻で笑うベテラン提督。
「…大本営からのですか?買うと高いんですよね…薄給、とは言えないですが、身銭を切るには…」
新人提督は軍帽ごと頭を片手で抑えて溜息を漏らす。
弾薬にしろ、重油(燃料)にしろ軍用とはいえ、お安くはない。
安くはないが、購入する事は可能なのである。
「…ふぅ…仕方のないヤツだ。このような場では言えぬが、色々なルートがある。
気になるならば、こちらに連絡して来い…融通できる方法を教えてやろう」
困ったとばかりに溜息を漏らす新人提督を見て、ベテラン提督は渋々といった口調でありながら、ニヤリとそのだぶついた頬を歪ませて言う。
すると懐から名刺を取り出せば、そこには携帯の番号が書かれていた。
取り出す様子や、周囲を伺って口に運ぶ様子から手慣れた手筈のようだった。
「…その、ルート、とは?」
「まぁ、仲間内で互助的な事をするわけだ…ここにいる以上、貴様もあのような気色悪い兵器を上手く使って身を立てよう、というわけだろう?」
ニィと笑みを深くさせながら、怪訝そうな新人提督にベテラン提督は顔を近づけ、声を潜めながら言う。
「なに、公的には鎮守府間の融通は禁止されてるがな…つまらんことは言うな。
我らが海軍の主流派になり、あの中将殿が頂点に立てばそのような些事など言われん」
「…なるほど…あくまで、互助、というわけですな?」
髭の新人提督が悟ったようにニヤリと笑い返せば、ベテラン提督もそれでよしとばかりに笑い返す。
「勿論、呼ぶならば『相応の場』に呼ぶようにな」
そうとだけ言うと、渡した名刺をそのままにその場を去っていく。
新人提督はその背中を敬礼で見送り、解散になったはずの会議室を見渡せば、先ほどまでの自分同様に新人らしい提督が他の提督から何かを言われているのを幾組も見つけれる。
それを見て、少し鼻で笑うとともに軍帽を深くかぶって目を隠して海軍を後にする。
携帯を取り出すと、電話帳から一件選んで鳴らす。
「おう、終わったぜ。車を回してくれ」
出口から少し離れた路上で、会議室で渡された資料をめくりながら待てば、一台のセダン車が目の前に止まる。
軍人の運転する車に新人提督が乗り込むと、車が走り出す。
「で、連中の会議とやらはどうだった?」
軍服を窮屈そうに着ている貝木が車を運転しながら、相変わらずの陰気そうな声で問う。
しかし、どこか面白がっている声音でもあった。
「ま、青田刈り、というかカモの奪い合いの現場だったな。
しかも、言外に接待しろとも言われたぜ」
ルパン特製の変装セットを使っているらしく、顔に手をつけると提督の顔がベリベリと剥がれて普段の次元の顔が現れる。
トレードマークの髭は隠したくなかったらしく、顔から剥がす際に髭が引っ張られて痛いらしく、「いてててて」と声を軽く漏らす。
そして、先ほどのベテラン提督から受け取った名刺を誰もいない助手席に投げる。
「ま、あくまで携帯番号だしな…プリペイド携帯、切り捨てれる番号だろうが、な。
とっつあんにでも教えてやってくれや」
「安くはないぞ…」
「よく言うぜ、とっつあんとは言わなくても、浦賀からも金を取ってるんだろうが」
後部座席で姿勢を崩しながら資料をめくり、貝木の言葉を鼻で笑う。
それが図星なのか、次元ほどは長くない髭面を歪めて笑う。
「フン…で、その資料には面白い事は書いてるか?」
「面白いも何もな…尤もらしい推察をいくつも並べ立てているが、説明の口調からすると相手の出方はわかってる、って感じだな」
それを聞いてなおさらに面白そうに貝木は笑みを深くする。
「ならば、細工は十分に効いてきている、ということか?」
「そうだな、アイツらの手足は少しずつ切り落としていってる。
このまま座していたら胴体だけ、下手すら胴体すら切り落とされるって焦りが出始めたのかもな」
次元はニヤリとして言う。
ルパンが着任してから数か月以上経っている。
ルパンも鎮守府運営だけに関わってきたわけではなく、資金確保のためもあって、悪徳提督の鎮守府に盗みに入っては悪事の証拠を盗んで浦賀経由で銭形をはじめとする憲兵隊に引き渡してきた。
その結果、艦娘だけではない、人身売買。
ギンバエと言っていいか微妙だが鎮守府資材の横流し。
艦隊の私用運用。(副業など)
様々な悪事が芋蔓式に発覚して多くの悪徳提督の検挙に繋がったが、どう見ても末端でしかない、というのが銭形の言だった。
「ま、連中は数が多いってのが面倒だが、言ってみりゃ数さえ削ればそこまで怖くないってことだ。
さらに主流派だから乗ってるって連中もいるだろうしな、風向きが怪しくなりゃ逃げ出す連中もいるだろ」
「お前さんたちのような連中がそうゴロゴロいてたまるか、ってのは正直な感想だがな」
貝木の言葉に苦笑しながら次元は煙草を咥え、火をつける。
「五右衛門じゃねぇがな…『石川や浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ』とはよく言ったもんだが…。
泥棒ならまだマシじゃねぇかって、つくづく思うぜ」
「フン…銭形から色々聞いてるがな、そりゃまぁ捕まった連中はひどいもんらしいな。
こんなはずじゃなかっただの、開き直りだの…つくづく悪事を為してる自覚のない悪党程救われないものはないな」
次元は貝木の言葉にフッと鼻で笑う。
「お前さんもそう思うかい、詐欺師さんよ」
「そっちもそう思うか、殺し屋さん」
お互いの出自を揶揄し合うような言葉を返せば次元は紫煙を窓の外に吐き出す。
「ま、この資料はあとでコピーを回す。うまいこと活用してくれ」
「それは俺の仕事じゃないな…が、伝えておこう」
運転しながらバックミラーなどで貝木はつけられていないかを確認して、様々な回り道を使いながらルパン鎮守府へと車を走らせる。
次元は携帯灰皿に灰を落としながら、見慣れた道になってきたのを確認する。
「さぁて、今頃五右衛門は泣き言言ってる頃かね?」
「ん…なんだ、ルパンはいないのか?」
不意に漏らした次元の言葉に眉を軽くあげて、バックミラー越しに次元を見ながら問う。
「ああ、何だか用事があるってな。詳しいことはわかんねぇな…付き合いは長いが、そんな仲良しこよしのお友達やってるわけじゃねぇしよ」
「少々興味深いが、まぁいいだろう…」
あのルパンがただの息抜きに出かけたというのもありえるが、何かを秘密裏に行うために出かけたというのも十分にありうる。
しかし、それは次元にもわからないのか黙っているのか判断がつかない貝木は肩を竦めるだけにしておいた。
そのまま鎮守府の入り口で警備兵のチェックを受けてから、車はルパン鎮守府へと入っていく。
途中で、鎮守府所属の艦娘たちがセダン車の中にいる次元に手を振って来たのに、次元は軽く手を挙げて返す。
鎮守府本棟の前に車を止めると、次元は車から降りながら背中越しに貝木に告げる。
「ルパンはこの国には、いや、世界には荒療治が必要かもしれねぇって言ってたぜ…どう動くかは、よく考えるこったな」
それは警告か、忠告か。
それに言葉を返せぬ間に次元は車からカモフラージュ用の買い物の袋を抱えて本棟に入っていくのだった。
「……ふん…沈む船にしがみつけば、どうなるか…か」
やれやれと首を横に振ってから、車を走らせて鎮守府を出る。
不意に以前、浦賀と秘密裏の話をした時の事を思い出す。
貝木と浦賀が様々な商談を兼ねた話をした時。
ルパンたちの話になった。
「浦賀大佐殿にとって、ルパンとはどういう存在なのでしょう」
丁寧な言葉遣いをしていても、やはりどこか不吉で胡散臭さを感じるのは貝木故だろうか。
向き合ったソファーに座り、浦賀の秘書艦の矢矧の淹れたコーヒーを片手に貝木が純粋な疑問から問いかける。
特にこれといった理由はなく、ただ気になったから聞いたのだが、不意に浦賀は天を仰ぐ。
「…どういう……そう、英雄……いや、ヒーローなのかもしれないな」
迷いを見せた上で、浦賀はそう答えを出した。
貝木はその言葉に少々戸惑いを隠せない。
「…ヒーロー…」
「純粋に憧れるような純粋さも忘れたし、いざという時には切り捨てるだけのものも背負ったが…それでもあのような自由かつ奔放な生き方は、男として憧れるね」
浦賀の言葉になるほどと貝木は小さく頷く。
ルパン三世という男、そしてその仲間はどこまでも自由だ。
あらゆる障害を乗り越え、打ち砕き、好きに振る舞う。
確かに英雄と言っていいかもしれない。
さしてさらに浦賀はコーヒーで口を湿らせてから言葉を続ける。
「最近思ったんだがね。かの英雄、曹操孟徳が『治世の能臣、乱世の奸雄』であったとするならば…ルパンは『治世の奸雄、乱世の能臣』と言えるのではないかと」
「あの男が…能臣、ですか?」
貝木が怪訝そうに言う。
どうしてもルパンと能臣という事が結びつかなかったからだ。
「あの男を上手く使える上がいたら、という前提だがね。
ルパンはいわばジョーカーのようなもので、何でもできるし、何にでもなれる。
そういう意味では曹操と似通ったところがあると思うが…さらに言えばある程度周囲が荒れた中でスリルを楽しみ、その波に乗る男とも言えるかな。」
浦賀の言葉になるほどと貝木は頷く。
確かに芸術などにも治世にも軍事にも才を示した曹操と、多才ぶりでは似通っている。
それに確かに鎮守府の立て直しに関しては抜群の成果を上げている事も改めて思い至る。
「方向性は違うものの、あの男ならやりかねない…いや、既に鎮守府運営で手腕は示している、か」
「あと一つ、重要な共通点がある」
真面目な顔で浦賀は貝木の言葉をさえぎって断言する。
「あの男と敵対すれば、滅ぶ」
あまりにはっきりとした、断言に貝木は何も言えず、ただ温くなってきたコーヒーを口に運ぶことしかできなかった。
その時の事を思い出しながら貝木は車を走らせる。
「フン…敵対できないなら、味方になるか、逃げるか…それとも…」
ハンドルを持つ手の指でトントンとハンドルを叩きながら独り言を漏らし、考えを巡らせるのだった。
その頃。
海軍の機密部にあたる最深部。
そこに女が一人歩いていた。
通い慣れているのか、慣れた様子でキャリアウーマンといった服装の女は奥から出口へと向かって歩く。
そして、懐からスマホを取り出して何やら確認したところで、物陰から現れたルパンが女の肩に手を添えて笑いながら言う。
「動くな…こ~んにちは、不二子ちゃん」
「キャッ!?…ルパン…もうこんなところまで来ちゃったの?」
女、不二子が振り返って目を見開く。
「随分なお言葉じゃない…結構探したんだから。
…その様子じゃ俺たちより、色々知ってるみたいだな?」
「あら、探してたのは私の事よりも艦娘の
クスッと笑いながらからかう不二子にわざとらしくルパンは肩を竦める。
「あらぁ…知ってたの?」
「そりゃ、私がこちらに来たのは貴方よりも先だし、色々な情報と接するもの。
…教えてあげてもいいけど、私の仕事の邪魔しない?」
どこかでやったことのあるやり取りにクククと喉の奥で笑いながら、ルパンは頷く。
「ヌフフフフ…しないしない。したこともない」
「…全く調子がいいわね?ランチくらいおごりなさいよ?」
ルパンの言葉に肩を竦める不二子は交換条件とばかりに軽く笑って言う。
「それに、近いうちにそっちにお邪魔しようと思ってたくらいだし…随分と動いてるみたいだし、ね?」
「さぁて、何のことだか?」
お互い含みのある笑みを浮かべ合いながら、化かし合いの前哨戦が始まるのだった。
というわけで、不二子ちゃん登場&色々と知っているようです。