大泥棒一味が鎮守府に着任しました。   作:隠岐彼方

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何だか、知らないところで評価が上がっていってここ数日が本当にメダマドコー状態。

今日のメイン艦は龍田ちゃんです。



全然関係ない話ですが『提督○も忙しいX』が先日より使えなくなった(動作が停止する)のですが、同じ症状の方いらっしゃいます?


6.龍田は近づくようです。

先日の鳳翔の小料理屋の件でルパンの第一歩は完成した、とルパンは思っている。

 

人間の基本としてまずは『衣・食・住』を考えた。

 

「倉廩実ちて、則ち礼節を知り、衣食足りて、則ち栄辱を知る」

(穀物庫が満たされてはじめて礼節を知り、衣食が足りて自尊心を得る)

 

これに尽きると思っている。

 

むしろ、ルパンからすれば今までの艦娘の環境で国のために従事し続けた艦娘の気高さに軽く感動すら覚えるとともに、自分のありようとシンパシーを感じたのだった。

別にルパンは人権がどうだとか大層な御高説を掲げる気はない。

 

誇り高き勇者には栄誉を。

下種な小悪党には報いを。

これに尽きる。

 

艦娘は間違いなく国のために命を懸けて戦う勇者だ。

なら、その勇者には相応の生活をしてもらわなくてはならない。

 

その第一歩が『酒保計画』だった。

 

大量仕入れなどによって実際はそこまではいかないものの、ルパン札で艦娘全員が大まかに言って大卒の初任給程度の収入を持たせることになった。

こんなもので足りるとは思ってはいないが、まだこの鎮守府は南西諸島海域が途中までで手が止まっている。

 

「んま、焦ったってしゃーねぇやなぁ。焦る乞食はなんとやら、だ。」

「あらぁ~何を焦るのかしら~?」

 

深夜の私室のベッドで煙草を咥えて一人ニヤリと笑っていたルパンに声がかかる。

電気すらも消し、外の明かりが僅かに入った部屋でルパンは声のしたドアの方を向く。

廊下の明かりをバックにした龍田が立っていた。

 

「あ~ら、龍田ちゃん!こーんな夜更けにどったの?もしかして愛の告白かしら?」

 

いつものタンクトップの肌着に青と白のストライプのトランクスのまま龍田の方を向けば、目をハートマークにして言う。

にこりと穏やかな微笑を浮かべたまま龍田がそっと扉を閉じてからルパンのいる奥のベッドへ歩いていく。

 

外の明かりが次第に一歩進むごとに龍田の白い足首から太ももへと照らしていく。

明かりが全身を映すベッドサイドに立つと、そのまま腰を下ろした。

 

「それも面白いんだけど~?ちょ~っと、違うかなぁ~?」

「違わない、違わない!上司と部下で仲良くなれるし、いいんじゃないかなぁ~?

ほ~ら、こうしっぽりと~なんてね?」

 

ルパンが手を組み合わせて唇を突き出して顔を突き出せば、すいっと上半身を反らして龍田は避ける。

 

「お触りは禁止されています~。…そうやって、何を狙ってるのかしら~?」

 

すっと長刀型の艤装をルパンの眼前に差し出して、笑顔から一瞬で真顔になればその目はスッと細められる。

先ほどとは逆にルパンは龍田から逃れるように背を後ろにそらす。

 

「あらら~…そんな怖いもの可愛い子が出しちゃダメよ~?そんなものはナイナイしちゃいましょーねー?」

「誤魔化さないで欲しいわねー。…この鎮守府を通して貴方は何をする気?私たちをどうする気かしら?」

 

ルパンは長刀を指先で退けようとするが、龍田は刃を指に向けてそれを退ける。

おどけるルパンは降参とばかりに手を挙げて、逆らおうとせず、咥えていた煙草を灰皿に揉み消す。

 

「さぁーて、何のことだか。提督さんっていうお仕事を真~面目にやってるだけだぜぇ?」

「その真面目にやってる理由を聞いてるのよ…貴方は泥棒。何かを盗むために生きている…私たちが深海棲艦と戦うために生きているように。」

 

答えによっては斬る、と五右衛門のような光を目の奥に僅かに輝かせながら言う。

それを見たルパンは真顔に一瞬だけなった後、腹を抱え、脚をベッドの上でバタつかせて笑う。

 

「ンニィヒヒヒヒヒヒ!!!龍田ちゃんはあったま、いいねー!!

けど、お前さんは『泥棒』のことはわかっていても、『天下の大泥棒』・『怪盗アルセーヌルパンの孫』をわかっちゃいねぇ!!」

 

それは嘲笑ではない。

ただ単純に楽しくてたまらないといった笑いだった。

 

「ど…どういうことなの~?」

「俺がお前らを騙して何が楽しい?お前らから何を盗もうってんだ?」

 

ピタリと笑いと止めたルパンがギラリと鋭い視線で龍田を射抜く。

その百戦錬磨、いや万戦錬磨のルパンの眼光は龍田を怖気づかせるには十分すぎた。

 

武器を持っているはずの、身体能力で勝るはずの、艦娘龍田がベッドの上で僅かながら後退りしてしまった。

 

「俺ァな、『お宝』しか盗まねぇ…。

それが世間でたった25セントのモノでも、百万ドルのモノでも、俺が認めた『お宝』しか盗まねぇんだ。」

「…ッ…。」

「お前らはそんな『お宝』を持ってんのかい?」

 

龍田はルパンの質問には答えられなかった。

龍田も世間一般や多くの提督からの視線の冷たさは知っている。

 

人外のバケモノなのだ。

使い捨ての兵器なのだ。

 

ルパンが狙うような財宝などは思いつかない。

せいぜい艤装を纏えることや、身体能力程度だがそんなものにルパンが興味を持つわけがない。

 

「…なら…なんで?私たちで、遊んでるの?」

「『遊んでる』、イイ線まできたが…惜しいねぇ。」

 

再び龍田の目に怒りの炎が巻き起こる。

この男も前の提督と同じなのか。

 

面白半分に我々を扱い、そして飽きたら捨てるのか。

 

胸に黒い炎が巻き起こる。

 

「普段の貼りついた笑顔より、よ~っぽどいい顔してんじゃねぇか。」

「絶対に、許さないッ!」

 

龍田が手に持っていた長刀を大上段に振りかざし、ルパンの脳天に振り下ろす。

 

 

 

それよりも先に、ルパンが枕の下に隠しておいたワルサーP38を抜いて、龍田の額に突きつける方が先だった。

 

「おいおい、早合点すんじゃねぇよ。さっきも言ったじゃねぇか、俺は『泥棒』だって。

詐欺師とかと一緒にすんじゃねぇ、俺は盗んでナンボなんだよ。」

「ッ……食えない男ね~?なら、私たちから何を盗むのかしら?」

 

龍田は死は恐れない。

しかし、この状況でなら龍田の身体能力をしてもこのルパン三世を殺しきれる自信は持てなかった。

 

龍田は何よりも、天龍の、そして仲間の艦娘への悪影響を恐れる。

殺しきれなかったら、このルパン三世に仲間たちに何をされるか。

また艦娘擁護派の浦賀に艦娘が同窓生のルパン三世を殺したと発覚したらどうなるか。

 

その考えが龍田の長刀を、噂に聞く長門型よりも大和型よりも強い力で止めていた。

 

自分が人知れずにルパン一味を殺せれば問題はなかった。

そっと一部の同士と一緒に海に沈めればいい。

そうすれば深海棲艦が掃除してくれる。

 

しかし、銃を撃たれて銃声が響いた時点でもう詰む。

 

 

必死の思いで言葉を紡いだものの、龍田はこれからを考えれば身体の震えを抑えるので精一杯だった。

 

「ハッ、決まってンじゃねぇか。…お前さん達や妖精達の血肉の上で踏ん反り返ってる大バカヤロウどもの『お宝』を盗むのさ。」

「………どういう…こと?」

「調べてみりゃ軍隊の中でそれなりに悪さして貯め込んでるが、せいぜい小金程度さ。

じゃ、アイツらが一番大事なのはなんだ?」

 

もう長刀を構えていられなくなり、床に龍田は長刀を落とす。

しかし、龍田の頭脳はフル回転していた。

 

悪徳提督の大事なもの。

 

「…地位?」

「悪くねぇ答えだが、80点だな。アイツらが小金を貯めれて、踏ん反り返れるのは何故だ?」

「…提督、だから?」

「そう、ならその提督でいられるのは、何故?」

 

脱力して、若干呆然としながらルパンを見つめていた。

ルパンはまた新しい煙草に火をつけ、怪盗らしいギラギラとした目で龍田を見つめた。

 

龍田の脳裏に、回答が導き出された。

 

「艦、娘…鎮守府?」

「だ~いせ~いか~い。俺は、それらとの結びつきを全部ぶった切って、世の中の【クソ提督】どもを丸裸にしてやりたいのさ。」

 

そして、ルパンは普段の調子に戻って笑いながら手を大きく広げた。

まるで奇術師のように。

 

「本当、に…私たちを…助けてくれる、の?」

「そんな上等なこたぁ考えちゃいねぇさ。

ただな、当然のように踏ん反り返った大バカヤロウどもの慌てふためく姿、面白そうじゃねぇか。

もーしかしたら、結果として助かっちゃうかもしんねぇけど、俺ァ知らねぇよ?

…だからよ、龍田ちゃん…泣くんじゃないよ。」

 

龍田の茫然とした呟きに肩を竦めては、将来図を想像してルパンは笑う。

それは純粋で、また悪どく、また楽しそうだった。

最後に、ふと優しい笑顔になると龍田の頬を緩く握った手で拭う。

 

その手は、軽く濡れていた。

 

「助…けて…下さい、皆を…。」

「ちぃと龍田ちゃんは頭が良すぎたんだな。皆が見えずに、または仕方ないと思って見過ごしてることが見えちまった。」

 

ルパンは穏やかな、優しい口調でそう言って俯いて髪と影で見えなくなった龍田の顔を肩に抱いた。

 

「なぁに、悪ィようにはしねぇさ。……知ってるかい?」

 

大言壮語は吐かず、ただ頭を撫でてなだめた。

静かにふと窓の外を見れば、綺麗な月明かりが見えてふと優しくルパンは笑って言った。

その問いかけに涙で濡れた龍田はルパンを見上げる。

 

ルパンはそっと龍田から離れると、ベッドの上で立ち上がり、オーバーに手を広げた。

ルパンの背後には月明かりが煌々と照っていた。

その逆光の中でルパンはまるで舞台俳優のように、または道化師のように言う。

 

「金庫に閉じ込められた宝石たちを盗み出し、無理矢理兵器として使われようとしている女の子は自由の海に放してあげる。

コレ、みーんな泥棒の仕事なんです。」

「……バカ、よ…そんなわけ、ない。」

 

龍田にかける言葉に涙がまた一滴頬を伝う。

そんな泥棒なんて聞いたことがない、と龍田が口にすれば、ルパンはやはりオーバーアクションに嘆く。

 

「あぁ、なんてことだ…!その女の子は悪い軍人の力は信じるのに、泥棒の言葉を信じようとはしなかった…!

少女が信じるなら、泥棒は空を飛ぶことだって、海の水を飲み干すことだって出来るのに!!」

 

大げさすぎるほどの嘆きの後に、ルパンは右拳を強く握りしめて力みながらゆっくり龍田に差し出す。

 

「ンムムムッ………ッ!」

 

その拳から小さな、小さな薔薇の花がポンッと出て龍田に差し出される。

 

「今は、これが精いっぱい。」

 

そして、花と茎の間から万国旗が出て、ルパンがスルスルっと広げていく。

 

「プッ……なぁに、それ…クサいし、ただの手品じゃない。」

「そうさ、今はただの手品。手品も規模がデカくなりゃ、魔法なのさ。

なぁに、泥棒を信じなさいって。」

 

大きく口を横に広げてルパンが無邪気に笑う。

 

「あらら~…そんな恰好じゃなきゃ、カッコよかったんだろうなぁ~?」

「ありゃ?……これじゃカッコつかねぇなぁ?デヒャヒャヒャ!!」

 

薔薇を持った手とは反対の手で涙を拭いながら、龍田がルパンの肌着にトランクス姿を指摘すれば、ルパンもおかしくてたまらないとばかりに笑う。

 

「いいわ~今は信用してあげるし、手伝ってあげるわ~。ただ、裏切ったら…」

「皆まで言うない。その辺は自分たちの目で判断してくれ。」

 

少し深呼吸して落ち着いたのか、立ち上がってニコリと笑って言う。

ルパンもたったこれだけの出来事で心から信頼される、などとはわかってるのか、ベッドに寝転ぶと新たに火をつけてバイバイとばかりに手を振った。

 

その回答に満足したのか、龍田はルパンの部屋を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「というわけで~私も出撃要員から一歩退いて、執務室詰めと遠征専門でやっていくんでよろしくね~?」

「…そりゃまぁ、龍田ちゃんみたいに頭の切れる子が補佐してくれりゃありがたいけどよぉ…。」

 

朝一番で執務室に来た龍田は他の艦娘及びルパンにそう宣言した。

これって監視なのかねーとも思いながらも、その提案を受け入れることにはした。

 

実際ルパンによる様々な布石の折衝は厄介な案件も多く、艦娘に向き不向きはある。

これからの龍田の成長次第ではあるが、任せれそうなメンバーが固定できそうなことは歓迎したい。

これからは一層難航しそうな折衝は増える一方だし、浦賀に丸投げし過ぎるのも問題だ。

さらには、全部ルパンが折衝してたらさすがのルパンも時間が足りなすぎる。

 

「あらら~?昨夜、私にあんなことまでしておいて、知らんぷりは酷いんじゃない~?」

「ちょちょちょちょっと、龍田ちゃぁんっ!?」

 

龍田の爆弾発言にこの日の執務室詰めの艦娘とルパンが大きく反応する。

特に、ワレアオバが。

 

ぐったりと執務机に倒れ伏して、ルパンが龍田を見上げる。

 

「うふふふ~じゃ、よろしくね~?あ、私用の机も準備してくれたら嬉しいなぁ~?」

「も、好きにして…。」

 

 

こうして龍田の執務室詰め専属化が決まったのだった。

とはいえ、必要があれば遠征にも行くし、ストレス発散に近海程度なら出撃もするという龍田の気分次第、という自由な身分ではあったが。

 

 

 

 

 

 

「あん?龍田、こんなの持ってなかったよな?」

 

遠征が終わって龍田より先に天龍型の部屋に戻った際に、不意に龍田の机の上に質素な花瓶にさされた一輪の薔薇が目についた。

しかし、よく見てみれば普通の花や造花ではないのか、表面を何かでコーティングされている。

何気なく手を伸ばした瞬間。

 

「…酒保でもこんなの見た事…ヒッ!?」

「天龍ちゃーん?いくら天龍ちゃんでも私物は触っちゃ、ダメよー?」

 

いつの間にか帰ってきた龍田が天龍の背中に長刀を突き付けていた。

 

「こ、こういう趣味もいいんじゃねぇか?花は、ほら、心を穏やかにしてくれるらしい、ぜ?」

 

そっと、ひきつった笑みを浮かべながらだが、天龍は薔薇に手を引っ込めると背中に感じていた長刀の感触が離れた。

 

「そうね~ただ、他の花は当分いいわね~?」

「そ、そっか…大事にしなきゃな。」

「そのために妖精さんにコーティングしてもらったんだけどねー。」

 

天龍が花瓶から離れたのを確認したのか、すっと天龍から龍田は離れた。

そのまま鼻歌交じりで龍田の制服を脱いで、私服へと着替えに行ったようだ。

 

天龍には龍田がこの変哲もない、コーティングされた薔薇に何故固執したのかわからず、ただ首を傾げた。

それと同時に、コレに極力触れないように、傷つけないように気をつけることにしたのだった。




あ…ありのまま、今起こったことを離すぜ!

いきなりルパン達を全員が信用するとは思っておらず、誰が一番反発しそうかなーと思った結果、龍田がヒロインになっていた。
何を言っているかわからねーと思うが(ry

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