大泥棒一味が鎮守府に着任しました。   作:隠岐彼方

8 / 35
風邪だと思っていた、父親がインフルで、うつされた件。




7.ルパン鎮守府は演習をするようです。

某日早朝。

 

『横須賀鎮守府』、の中にあるとある鎮守府の長門は溜息を漏らした。

早朝だけにその息は白い煙と化して、澄んだ空気に消えた。

 

 

 

『横須賀鎮守府』の中に複数の提督がいて、複数の鎮守府がある。

 

わかりづらいかもしれないが、例えるならば警察をイメージしてもらえればわかる。

大雑把に言えば『~~鎮守府』とは『~~県警』と思えばわかりやすい。

とはいえ、県をまたぐだけの規模を有しているが。

 

『横須賀鎮守府』とは、あくまでも神奈川を中心とした海軍の海軍の施設や艦娘などの総称である。

とはいえ、大まかな縛りであり、『横須賀鎮守府』所属だが、浜松はおろか名古屋近辺にある鎮守府もある。

 

 

 

前夜、年始早々に長門は自分の所属する鎮守府の提督に指示されたことが、新興の鎮守府への演習出向が命じられた。

 

「…しかし、提督。新興というならこのような陣営では少々、いや、かなり過剰戦力ではないか?」

 

命じられたメンバーは長門・陸奥・綾波・足柄・加賀・雲龍といった、平均レベル90超えの一軍メンバーである。

長門は武人であり、演習という訓練でも手を抜くのは嫌う。

 

が、訓練である以上、一方的な叩きのめすようなことは好きになれない。

それ故の抗弁だったが、それが気に食わないのか、提督は眉を不愉快そうに寄せた。

 

「構わん、資材はあちら持ちらしいしな。大本営からのお気に入りらしい、その増長慢を叩き潰して来い。」

 

その口調や言葉から悟った内容は、単なる『嫉妬』かと悟った。

 

 

長門の提督は元、海上自衛隊の叩き上げの提督だった。

そして、深海棲艦との第一次大決戦で近代兵器の塊である船に乗り、大壊滅の憂き目を見た。

 

それでもなお、日本の海の平和を守らんと軍人をつづけたのは立派だ。

しかし、その恐怖や憎悪を艦娘にまでぶつけるのは勘弁してほしい、というのが長門の真情だ。

 

だが、根っ子は悪人ではないのか、世に聞くブラック鎮守府ほどではない。

ただ兵器として使い捨てにすることを厭わない。

また、艦娘に自由を与えまいとほぼ軟禁生活なのもいただけない。

 

 

あと一つの提督の難点を挙げるならば。

出世意欲に富んでいるのが難点である。

 

提督個人で成果を挙げれるようなものではない。

あくまで提督の成果は艦娘に因るものである。

 

艦娘を嫌悪・恐怖し、しかし、出世欲を満たすために艦娘を酷使する。

 

 

俗にいう『提督ラブ勢』の筆頭と言われる金剛すら、提督と話そうとすらしない雰囲気に長門の鎮守府はなっていた。

 

 

そして、今回の演習メンバーはその新興鎮守府の頭を抑えつけたいという意図なのだろう。

 

「了解した。」

 

「手など抜くな、完膚なきまで叩き潰せ。」

 

敬礼とともに長門の口から出た言葉に満足そうに頷くと提督は手元の書類に目を落とした。

 

部屋を出て、これから演習に選ばれた残りの5人にそのことを告げねばならんと廊下を歩きながら考えれば、溜息を止めることはできなかった。

 

(過去の名将、名提督と比べれば、なんと矮小なことか。)

 

長門はこの鎮守府の中心である。

口にしたくともできないことがあるのだ。

 

 

 

「行きましょ、長門。」

 

「あぁ、陸奥。…いい二度寝ができそうだ。」

 

昨夜のことを思い出している間に、演習のメンバーが出揃った。

鎮守府の前には演習の時に遠征するためのバスが待機していた。

 

バスとは名ばかりの、護送車というべき装備だったが。

 

長門の目には、幾度となく乗ったこのバスが、新年早々というのに暗い雰囲気をまとって見える自分の鎮守府と重なって見えた。

そんな妄想を頭を小さく横に振ってから乗り込むのだった。

 

 

 

鎮守府を出て一時間もした頃、護送車は止まった。

とはいえ、座席からは外も何も見えないためどこをどう走ったのかもわからないが。

 

6人で口を開いても盛り上がる話題もないため、ただ寡黙に全員が支給品のレーションを朝食代わりに口に運んだだけの退屈な旅だった。

提督の部下らしい、運転手は何も話しかけず、車を止めてからただドアを開ける。

そして、事務的な挨拶をした後に演習をして、この車に戻る。

 

はずだった。

 

「あっけまして、おめでと~~!!」

 

タラップを降りようとしたら、その先には猿顔の、紋付き袴を着た男が陽気な声を上げていた。

その手にはクラッカーがいくつも持たれており、同時にパンッ!パンッ!!と軽快な音を鳴らしていた。

 

「ぅぁ!?…あ、あけましておめでとうございます。」

 

長門にはそう答えるのが精一杯だった。

 

「まぁまぁ、よく遠いところから来てくれたねぇ。さささ、そーんな立っててもどうしようもねぇから、こっちこっち!!」

 

ひょろりとした痩身の男に手を引かれてわけもわからないままに車から引きずり降ろされたのだった。

 

 

 

 

「ちゅーわけでー。これから皆さんにゃ、ウチの艦娘たちと演習してもらうんだけっどもさ。

朝早いし、腹も減ってるだろうし?あったかいものでも食って、それからお願いしたいわけなんだわ!

演習にかかる資材はコッチ持ち、で話通ってるから気にせずジャ~ンジャン食っちゃってちょ~だい!」

 

長門が連れていかれた先は、鎮守府の庭だった。

そこには長机とテント、そして鍋が並んでいた。

 

「まぁまぁ、気にすんなよ。役得と思えばいいんだ、新年早々ツイてる、ってな。」

 

「い、いや、我々はこのようなものをいただくわけには…」

 

近くにいたスーツ姿の髭面の男がニヤリと笑いながら言うが、長門をはじめ加賀も陸奥も皆混乱していた。

長門の鎮守府ではこのような温かい食事など提供された事はない。

いつも冷たく、臭く、ドロドロしたレーションだけだ。

 

近くにいた、恐らく他の鎮守府からの演習用に出向した艦娘たちもどうしていいのかと周囲を見渡すばかりである。

いくら全員の前にいる紋付き袴の提督がいい、と言われても判断に困ってしまう。

 

「お会いできて、光栄です!これはルパン提督の趣味と言うか…やり方なので、気にしないで召し上がって下さい。」

 

味噌の香りのする丼ほどの椀と、おにぎりが数個乗った皿をいくつも乗せた大きな盆に盆を持った朝潮と霰が長門に挨拶をすると長机に乗せた。

目の前の椀には味噌汁の中に豚肉らしき肉と、何かのつみれ、野菜がいくつも浮いている。

 

「…い、いいのですか?」

 

「はい!私たちも普段からいただいてますし、協力してます!」

 

朝潮の盆から霰がせっせと長机に並べる間に朝潮は喜色満面といった顔つきで言う。

恐らく提督の嫌がらせなのか、今日の長門たちのメンバーは資材量もだが大食漢が多い。

加賀も着任当初はあまりの少ないレーションに泣かされたクチだった故の質問だったが、大丈夫だと言い切られて恐る恐る箸をとる。

 

「その、協力、というのは?」

 

「鳳翔さんのお手伝いで…おにぎりを握ったり、近海で…魚も獲りました。」

 

霰が独特のつまり気味に言うが、その顔には自慢げな色が光る。

長門の鎮守府の霰には見られない顔だった。

 

「おにぎりのおかわりはこちらですよー!!」

 

「豚汁はこっちっぽーい!!」

 

先ほどのルパン提督とやらのいた背後にあった大鍋の方で夕立が、その隣のテントで鳳翔が大きな声を響かせる。

 

その声に押されたのか、他の長机にいる艦娘たちも出された食事に手を付け始めたのだった。

 

 

 

 

正規空母、長門型が満腹になるまで何回も豚汁もおにぎりもおかわりをしても怒るどころか、目の前のルパン提督は「いい食いっぷりだ!」と笑って新しい椀を差し出してくれた。

さらに温かいお茶などとともに菓子も差し入れてくれて、食休みがてらこの鎮守府の様々な艦娘と交流する時間をもたせてもらったのだった。

 

あのマズいレーションを食わずに来ればよかったと僚艦たちと悔いたほど、最高の時間だった。

 

勿論、他の演習用の出向した艦娘たちも一緒の待遇を受けていて、中には感極まって泣く艦娘もいたほどだった。

 

「おう、お疲れさん。あんがとな、色々勉強になったと思うわ。」

 

演習を終えて、海から上がればルパン提督が出迎えてくれた。

 

「いや、礼を言うのはこちらの方だ。正直、鎮守府に帰りたくなくなってしまったぞ。」

 

「ふーん、他の艦娘たちも言ってたけど、そんなもんなのかねぇ?」

 

「内情はいろいろだとは思うが…似たり寄ったりだとは思うぞ。」

 

これまでに会ったことのある違う鎮守府や、大規模作戦中に遭遇した艦娘を思い出せばそれほど間違った話ではないと思う。

ルパン提督はなるほどね、としみじみと頷いてから首を傾げる。

 

「そういえばだな。ウチの艦隊を見てどう思う?

それなりの腹案はあるんだけっどもさ、やっぱりベテランの意見って聞きたいわけよ。」

 

首を傾げつつも煙草に火をつけるルパン提督の質問に長門は顎に手を当てて少し考え込む。

ベテランと煽てられたから、ではないが、本心から助言を求めているのは口調が軽くてもわかった。

ならば長門もそれ相応の意見を返さねばなるまいと考える。

 

「そうだな…重巡以下はそれなりにいるようだが、戦艦・正規空母の数が足りない。

規模からして大本営からそこまでキツい要求を求められることはないだろうが、大規模作戦の際には様々な方面へ艦隊を行かせる必要がある。

手札の数は多いに越したことはない。」

 

「…僭越ですが、あとは装備でしょう。

見たところ、そちらの赤城さんの艦載機は52型と見ました。

烈風とまではいかなくとも、紫電改・彗星一二型甲・流星改は欲しいところです。

いくら艦載機が乗せれても、性能が悪ければ落とされてお終いですから。」

 

長門の意見に付け加えられた加賀の言葉にも納得したのか素直に受け入れて頷く。

 

「な~るへそ。つまりはあらゆる準備が足りない、ってわけかー。」

 

まいったねと苦笑しながらルパンは頭をボリボリと掻く。

その様子にふと、気になって加賀が問う。

 

「…貴方は、何故私たちの言葉を聞こうとするのかしら?」

 

言葉通りの意味のみではない、長門にはそう感じ取れた。

その気持ちは長門にもよくわかった。

 

「ん~?そりゃ大本営とかにもデータはあるんだけっどもさ、現地の空気とか、その場にいないとわかんねぇことも沢山あるだろ?

この世の中の提督の何人がその空気を知ってるんだ?」

 

口を少しとがらせるようにして、輪っかの煙を虚空に吐きながらちらりと横目でこちらを伺いながら言う。

あまりの言葉に長門の口から言葉は出ない。

 

「提督さん、あまりそういう発言は控えた方が、いいわよ。受け取りようによっては…ね?」

 

足柄が少し訝し気になりながらも助言をする。

それを聞いたルパンはそりゃそうだとばかりに軽く肩を竦めて頷くにとどめた。

 

「そう……だな。…あとは心構え、かな。」

 

「ん?心構え??」

 

「そうだ、今はまだ南西諸島の攻略前と聞いたが…特に『2-4』と呼ばれる『沖ノ島海域』は海流が酷く入り組んでいる。

羅針盤妖精がロスのないルートを選ぶが、あくまでも『ロスと危険性の少ない』ルートを選ぶに過ぎない。」

 

「ああ、たまにボスと呼ばれる、その海域の中心部隊のいる方向に行けるかは不明、らしいな。」

 

これから話すことはあくまで噂や怪談に近い話だ、と付け加えて長門が口を開く。

 

「我々艦娘も羅針盤妖精に従ったらボスに遭遇できないルートを辿ることもわかっているが、逆らってはいけない。

これは定かではないがな、ルートに逆らった場合はとんでもない数の深海棲艦に囲まれ、妖精達がその鎮守府に一気に反乱を起こすらしい。

そして、深海棲艦がその鎮守府に一斉に襲いかかる、という噂を聞いた。」

 

「…おっかない話だねぇ…。」

 

長門の言葉に頬を引きつらせる。

 

「もちろん物証はないが、ある日忽然と消失した鎮守府があることは確かだ。」

 

「鎮守府が?提督が、じゃなくて?」

 

ルパンの確認するような言葉に長門たちは頷く。

 

「ああ、建物から艦娘まで、一切合切消えた。

偶然だがな、演習で向かった先の鎮守府が消え失せていたことがあった。

軍属の運転手が鎮守府の場所を間違えるとも思えない…。

…どういう理由で消え失せたのかはわからないが、そういう事じゃないかという噂だ。」

 

「…なるほどね、あくまで『ルール』の中でやれ、ってことか。」

 

少しだけ考え込んだルパンの言葉は長門の言葉を受けたものだった。

そのままルパンはポケットの中から取り出した携帯灰皿に煙草を揉み消す。

 

「あくまでも推測しかできませんが、そういう事でしょう。

編成などでルートを固定もできますが、それは一部の海域です。

…ボスにたどり着けないことを我々の責任と言われても、どうしようもありません。」

 

「了解、それを踏まえた覚悟、心構えってことね。」

 

「うむ。……叶うならば、貴方のような提督の下で働きたかった。」

 

付け足した加賀の言葉に苦笑して軽い言葉で返されても、それを聞き流したわけではないことは雰囲気から全員に伝わった。

そして、本心からの言葉を告げて長門はルパンに敬礼する。

 

「よせやい、俺ァそんなお偉い『軍人様』ってガラじゃねぇんだよ。

テキトーにやってるだけだぜぇ?」

 

「ふ、『悪い意味の適当』じゃないことぐらいここの艦娘の顔を見ればわかるさ。」

 

謙遜なのか、本気なのかわからないニィとした笑いを見て苦笑しながらも長門は首を横に振る。

 

長門が数時間にも満たない時間で見た、ルパン鎮守府の艦娘達は皆一様に明るい雰囲気であり、士気も高かった。

決して長門の鎮守府では見られない雰囲気だったからこその言葉だった。

 

「ヘッ、ありがとよ。…ついでってわけじゃないが、もう一演習お願いしてもいいか?」

 

「ム…それは申し訳ないが、各鎮守府との演習は一戦のみと大本営からのお達しがあるものでな。それには逆らえないのだ。」

 

長門は申し訳ないと少し眉尻を下げて首を横に振る。

 

「うんにゃ、ウチの鎮守府、とじゃねぇんだな、コレが。」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…長門……いくら演習弾とはいえ、いいのかしら?」

 

「私には判断は出来ないが…これだけの厚意だ。我儘の一つくらい聞かねばなるまい。」

 

ルパンから提案されたのは『一隻のボート』との演習だった。

海上に立って、演習の開始線の位置で待機すれば俗にいうパワーボートが一隻やってくる。

 

それなりに装甲などは厚そうだが…。

 

『んじゃー演習始め~!!』

 

無線からルパンの軽快な声が響く。

 

「仕方あるまい、至近弾などで航行不能にしてしまおう。加賀、雲龍、頼む。」

 

「「了解。艦載機、発艦始め。」」

 

流れるような動作で雲龍が式神を艦載機へと変じ、加賀が弓を介して放つ。

そして、空を艦爆・艦攻が埋める。

 

『よーっしゃー!!次元ちゃん出番だぜー!!』

 

挑むだけあって、パワーボートは凄まじい速度で走り、艦爆の方へ向かっていく。

すると、信じられないものを見た。

 

「なっ!?拳銃で狙撃ッ!?」

 

加賀の驚愕の声とほぼ同時に空に爆発が広がる。

 

「ど、どういうことだ!?」

 

「あ…空を飛ぶ、艦爆の爆弾を狙撃されましたっ!」

 

「化け物かっ!?…全て落とされたわけじゃないだろう!残りの航空機で沈めろっ!」

 

拳銃とは思えない速度でパワーボートの助手席の男が銃を撃てば、それに応じて空に火の花が咲く。

しかも編隊で他の航空機が巻き添えを食う嫌らしい位置の航空機のみを狙っていた。

 

加賀・雲龍の航空隊もベテランであり、完全に爆発に巻き込まれるような編成ではない。

しかし、爆撃のために編成が乱れた一瞬を狙ったり、後続の航空機の視界を遮ったり、破片で落とすような最悪の狙撃しかしない。

 

しかしそれでも残った航空機が急降下をして、攻撃を仕掛けようとした瞬間。

 

『おっしゃぁ!!飛ばすぜぇぇぇ~!!』

 

『うむ、任せよ。…喝ッ!!』

 

ルパンの声とともにパワーボートが急加速。

恐らくニトロか何かを仕込んでいたらしく、若干ウィリー気味になりながら波を切る。

 

それと同時に座席から立ち上がったいかにも侍という風体の男が舳先に立つとともに。

銀の線が数条走った。

 

「あら…あらあら…航空機を…斬った?」

 

陸奥が呆然と呟き、ひきつった笑みを浮かべる。

むしろ、それは艦隊の全員が同じ想いだった。

 

「なんてデタラメ!!!」

 

足柄がいち早く気を取り直したのか、慌てて20.3cm(2号)連装砲を斉射する。

が。

 

「うにゃっ!?うにゃあああああああっ!?」

 

ボートが急ターンをかけると同時に助手席のガンマンがロケットランチャーを取り出して撃てば、砲身が爆発する。

中身は演習弾だからただの煙と煤がまき散らされただけだが、審判の妖精が足柄が大破したとの判定が下される。

 

「どういうことだ!?」

 

『あのロケットランチャーは特殊燃料を重点したもんでよ、っとぉ!!破片の代わりに特殊燃料を燃やしながら撒き散らすんだよ!

だから、砲塔に上手いタイミングでブチ込めばっ、中の火薬に爆発炎上ってなぁ!!

もいっちょいくぜぇ!!』

 

無線先のガンマンがわざわざ解説してくれる。

これでは下手に主砲を撃つこともままならない。

 

「くっ!!あんな速い船、狙えっこないわ!!」

 

高速性能で有名な島風ですら、最高速度が40.9kt(ノット)、つまり約75km/h。

現代のパワーボートは時速200km/h越えはざら。

直線速度で言えば、420km/hをも出した船もある。

 

それにルパンの魔改造が入っているのである。

幾分かは装甲を強化したため、速度が犠牲にはなっているが島風すら置いてけぼりにしていく速度は余裕である。

 

陸奥の言葉も泣き言、などとは決して言えない速度なのだ。

 

「来るぞっ!!」

 

ビィィィィィィンッ!!と凄まじい船のエンジン音とともに、真っすぐ突っ込んでくる。

舳先には、先ほどの侍。

 

「撃てっ!撃てぇぇぇっ!!」

 

もう長門には冷静に判断する余裕などなかった。

ただ目の前の三人の乗ったパワーボートに照準もそこそこにただ撃つしかなかった。

 

とはいえ、ほんの少しの淡い期待はあった。

いくら速くとも真っすぐ突っ込んでくるなら、当たるんじゃないか。

 

が。

 

『キィェェェェェエィッ!!』

 

舳先の侍の一閃で砲弾が切り裂かれ、海に落ちるのを見て6人の心境は一つになった。

 

 

「「「「「「\(^o^)/」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…いや、そんなに落ち込まなくてもいいんじゃねぇか?」

 

「………ふ、ふふ……いや、大丈夫…大丈夫だとも…。」

 

ちなみに流石に艤装は斬れないのか、それとも斬らなかっただけかはわからないがパワーボートはただ艦隊のど真ん中を突き抜けただけだった。

が、すれ違いざまにルパンが海に放り投げた掌サイズのアヒルの玩具が大爆発。

 

煤だらけにされて、演習は終了となった。

 

そこには『orz』といった姿勢でうなだれる6人。

 

その様子にルパン鎮守府の艦娘達がうんうんと共感の頷きを返すのみだった。

 

 

 

 

「本当に、色々と世話になったな。うん、本当に。」

 

風呂を借りて綺麗になった長門が護送車の前でルパンと握手をする。

その手に力が異様に入っているのは気のせいではない。

 

「あいでででででっ!!いや、どこまでできるかな、ってノリでやったらああなっちゃっただけでだなぁ。」

 

「どんなノリだ、全く…。」

 

ルパンの言い訳に眉をしかめる。

確かにそこまで突拍子の無いアイディアではない。

 

現にパワーボートの実物は世界中にあるのだから。

ただ、あくまでも卓越した操船技術、そして機銃や絨毯爆撃をどうするかという問題はある。

あと、艦娘にはついていけない速度という点も難点ではあるが。

 

やっと長門から解放された真っ赤に腫れた手を振って冷やすルパンが恨みがましく、長門を睨む。

 

「俺たちだからこそ、できる手ってわけでいいじゃねぇか。」

 

「…易々やられては、我々の立つ瀬がありません。」

 

加賀がジト目でルパンを睨みながら言うが、決して悪意があるわけではない。

 

「あれで何をしようとするつもりなのかは知らないがな…あの速度があれば、深海棲艦も艦娘もそうそう追いつけないだろうな。」

 

「へぇ~んじゃ、漁をやるにもちょうどよさそうだな~。」

 

軽く睨み付けながらかまをかけるが、ルパンはしれっとした顔で肩を竦める。

本当かどうかは判断できないため、小さく息を吐いてそれ以上の追及は止めておいた。

 

「正式な演習じゃないしな、この事は黙っておこう。こいつの礼ではないが。」

 

長門が足元を見降ろすと、カップラーメンの詰まった業務用の段ボールが積まれていた。

他の鎮守府からの艦娘も『自分たちだけいいものを食べて申し訳ない』と言う者がいたため、ルパンが用意したのだ。

こっそり艤装のスロットに詰めるなりして、隠して持ち込んで処理しろということだった。

 

「ま、空になった容器は紙パックだから工廠なりでこっそり焼けば何とかなるだろ。」

 

「ああ、仇で返すような真似はせん。」

 

その言葉にふっと笑ってまた煙草を咥えた。

 

「そんな大層なもんじゃねぇよ。ガキの駄賃で買える程度のモンさ。」

 

「その程度のモノも買えないのが我々だ。…また、ここに来れるといいな。」

 

ルパンの謙遜なのか、本心なのかわからない言葉に苦笑する。

 

「…さて、もう時間だ。次の鎮守府にいかねばならない。」

 

「ああ、元気でな。」

 

「そちらこそ。武運長久を祈る。」

 

ふと運転手が軽くこちらを睨むが、運転手は何も言えない。

上官にあたるルパンが許している以上、下士官にあたる運転手はそれに非を唱えられない。

しかし、時間が押しているのはわかっているためそのまま敬礼をして車に乗り込んで別れた。

 

その車の中ではどうやってあの鎮守府へ亡命するか、などと言った冗談で軽く盛り上がり、いい気分の一日となった。




というわけで、ルパン鎮守府には所属しないものの、長門さんとの邂逅でした。

今回は他の鎮守府との対比、というところに焦点を当てています。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。