「さて、今春ここ横須賀鎮守府に着任された提督こと、上谷馨だ。まだまだ至らない所があるがひとつよろしく」
そういい軽く敬礼する。百名を超える艦娘の中からちらほら敬礼を返すものやぼそりと耳打ちし合う者も居る。
ひとまず受け入れられた、という感じか。
そう思うと自然と溜息、いやこの場合は安堵の溜息だろうか。そんなものが口から出る。
冒頭の吹雪の勝手な妄想の中ではここの説明は全くと言って良い程無かったのでここで説明するとしよう。
本当にお迎えとは何だったのか。加賀さんに怒られたの俺だぞ。幸先悪いわ!!
横須賀鎮守府。
つい最近に改装され本格的に深海棲艦に対抗するために大本営が設置した、いわば拠点といったものだ。
改装されたとはいえ、根本的な設備は何一つ変わってないどいなく、大幅に変わったと言えば部屋の数だろうか。ここに居る艦娘は総勢百名は軽く超えている。その為、それぞれのニーズに合わせた部屋が必要だったのだ。だがしかし、異様に英国風だったり、異様にオシャレだったり、異様に狭く作られたり、異様に娯楽道具が置かれたり、完全にニーズとはかけ離れたものばかりある部屋などが存在するが提督として注意するべきか悩みどころだったりする。
と、話がズレたな。閑話休題というところにしとこう、うん。何の話してたっけ。
鎮守府に欠かさないものと言えばまず工廠が少なからず挙がるだろう。
着工や進水式を行うためには欠かせない設備だし、さらに新たな装備の開発もある。最近では入渠と入浴を履き違えた新米艦娘が真っ裸で工廠に行き、整備班の度肝を抜いた。何て話を聞いたりもする。まあ、何だ。若気の至りってヤツだ。俺もそう咎めはしないだろう。着任早々憲兵さんの世話にはなりたくないしね。
次に挙がるとすればやはり食事処だろう。無論のこと赤城は常連客だ。巷ではフードファイター何て呼ばれているらしい。いっぱい食べる君が好き何てCMでよく言うけどあいつはその範疇を超えている。いや、あれはまだまだ序の口か?底知れないな。まあ俺の財布は既に底が見えているのだが。もうやめて。
しかし食事処と言えばそう悪い事ばかり(主に赤城)ではない。
軽空母のお艦こと鳳翔さんや甘味処の間宮さん、伊良湖が日々頑張ってくれてるお陰でここは指揮が下がらないと聞く。まあ、まだ改装から一週間なのだが。逆に指揮は食事処で持っていると言っても過言ではないだろう。多分だけど。いや、三大欲求の大事なトコロが補えてないなんて聞きたくなかったよ。何で言ったし如月。
と、ここまで淡々と完結に語ってきたが何で俺がこんな事を知っているかというと恐らくこの鎮守府で正常で知識人な加賀さんが教えてくれたり、この挨拶の前に積極的に話しかけてきてくれた無垢な娘が大勢居たからだ。中には異様で異端なれz…淑女オーラを放っている大井とか山城とか比叡とか居たけども。気にしたら負けだよねうん。
「それでは今日から着任された上谷提督に質問はありますか?」
司会進行の霧島が自ら手を挙げながら優しい声色で聞く。
小さな駆逐艦の娘が居るから思いやってのことだろう。いい艦娘だなぁ。
「はいはいっ!!質問良いですかー!!」
「勿論だ!!ついでに自己紹介してくれと助かる、何せ俺はまだ君たち艦娘の…」
「童〇ですかー??」
間髪を入れずに何て弩直球な…ではなく何てハレンチな質問するんだこの娘は!?
俺は横目に質問した艦娘を見る。彼女は肩まで切りそろえた黒髪に電探カチューシャをオシャレにはめ、緑の縁のメガネを…。
「って、霧島かぁーい!!」
「はい!!金剛型高速巡洋戦艦のその四番艦、霧島です!!ついでに言わせてもらえば
「アレっ!?アレって何!?」
「はい、ナニです!!」
「やめて!!」
前言撤回。
この娘全然良い娘じゃないですわ。そんなご満悦な表情で言われても俺は言わないからね。
ていうか霧島は長門と同じ匂いがしますわ。
「失敬な!!私はもっとイカ臭いぞ!!」
「シャラップゥゥッ!!黙らっしゃい!!大事だから二回言っちゃたけどそれ以上の言うのやめて!!それと考えている事読まないで!!」
そこに如月が髪を弄りながら発言する。
「長門さん。貴方は今朝は納豆でしょう?イカじゃなくて豆臭い、でしょう?」
「む。そうだな。豆の方か。失敬、失敬。それじゃあ豆だ」
全然解決していない上に寧ろ意味不明な感じになってらっしゃるよ長門サン。
「Oh!!Shit!!豆デスか!?栗と…」
「はいアウトぉぉー!!」
金剛が要らない補足をしてくる。
折角触れないようにしてたのに。どうしてくれる。電探カチューシャ使ってバイクごっこすんぞ。どうでもいいけど電探カチューシャって電探力と注射に見えるよね。
「或いはぐり〇ぐらですねお姉さま!!」
「伏字の意味無いよねそれ!?その〇独立語だから!!」
榛名の意味不明を通り越してすでにその台詞自体が独立しちゃっている補足にツッコミをいれつつも対応する。対応できてんのかはまだ懸念が残るけどね。
それよりも全く進展しないんですがこの会。霧島、どうしてくれるし。
「提督…」
多少なりと反省の色が霧島の表情に見える。やはり男が居なかったとはいえ異色(一応言っておくがピンクではない)なこの場所ではそういった類の質問をしたいのは分かる。とは思う。
しかしあくまでもここは軍だ。時には戦い、時には情けさえも捨てなければいけない。(既に情けがない質問や発言をされているが目を瞑ろう)
俺はすうーと息を吸い込むと一言だけ告げた。
「俺は…新品だ」
ざわ…ざわ…。
まるでカ〇ジの様な雰囲気に耐え切れず、俺は視線を逸らす。
しかし血気盛ん(他意はない)な艦娘は今の俺の発言を聞き逃す事も空耳だとすることもなく騒ぎ始めた。
歓喜の声をあげるもの、慈悲の声をあげるもの、様々だ。ていうか誰ひとりとこの状況に対する疑問は生まれないんですかね…。
「静かにっ!!」
突如、加賀さんが声を張り上げた。
鶴の一声により静寂が訪れたこの広場にただひとり、加賀さんの声だけが木霊した。
「貴方達、いい加減にしなさい。確かに私たちはそういう性的な事柄に興味がある年頃です。更には同じ年頃の女性とは違う環境で生きてきたので一層強まってしまうのは仕方がない事です。しかし、ここは横須賀鎮守府です。これから毎日仲間が出撃し時にはここにいる誰かが傷付いたり、誰かが死んだりします。そういう辛い思いをこれから沢山します。それなのに今の貴方達は浮かれている。そんな心持ちで出撃でもするならば待っているのは死のみです」
加賀さんは息継ぎもしているか分からないぐらい早口で、でも流暢に話すと一旦区切った。
恐らく艦娘達に心の余裕をもたせたのだろう。
加賀さんは再び口を開いた。
「ここにいる誰もがまだ深海棲艦が鎮座する海には出たことありません。皆が助け合わなければいけないのですよ」
群衆の中からすすり泣く声や嗚咽を漏らすものが出始めた。
やはり、艦娘になったとはいえその本業は深海棲艦と戦う為だ。加賀さんの言ったとおり毎日出撃したり、考えたく無いが轟沈―すなわち死ぬことだってある。その不安と俺が着任するまでに既に心の中で葛藤していたのだ。それに対し俺は何てデリカシーの無いことを言ってしまったんだろうか…。少し自責の念が湧く。
「いいですか?これからはここに居る上谷提督が童〇でもちゃんと接さなければいけませんよ」
うん、いいこと言ってくれたけどしっかしdisるところはブレナイデスネ加賀サン。
「それと上谷提督、一つ良いでしゅ…良いですか?」
噛んだけど微動だにしない加賀さんすげー。
俺も見習わないとなぁ。うん。てか赤面してるよ。可愛いなぁーもう!!
「私は生娘です」
はい、シリアスどこいったー!!
加賀さぁぁーん!!帰ってきて!!あの頃(つい数分前の)の加賀さぁぁーん!!
「うぅ…加賀さんが恥を捨てて大胆発言するって聞いてたけどこんなに直球だなんて…」
ちょっと待て。今までの演説は前フリですか?それと今さっき泣いてた理由ってそれかよ!?野〇村議員ばりの泣き芸だよソレ!!
加賀さんがより一層赤面する。そんなに恥ずかしいなら言わなきゃ良かったのに。てか心なしか俺まで赤面してきた気がする。
「アタイったら天才ね!!」
「加賀さぁぁーん!!」
壊れた。この鎮守府一の正常で知識人な加賀さんが壊れた。どこぞの⑨みたいな発言までしちゃったし。
あれですか?ス〇ルカードとか使っちゃう感じですか?ぶっちゃけると俺の心情はパーフェクトフリーズしちゃってます。私的にはおて〇ば恋娘を聞く度にバーカ、バーカと聞こえるのは俺だけじゃないはず。
果たしてこの三次会みたいなノリはいつまで続くのだろうか、そんな危惧をしているとこの会には顔を見せてなかった明石が叫びながら広場に入ってきた。
「たたた大変ですぅー!!工廠で…工廠が…」
「落ち着いてください明石。まるで敵キャラに最初に気付くモブみたいに狼狽しないでください」
「嫌にピンポイントな例えだな」
大淀のそんな例えにも動揺せず俺は明石の肩を抱く。明石の頬にはお似合いの黒い煤が着いており右手にはスパナを持っている。いかにも工作艦な風貌に少し微笑してしまう。
明石は大丈夫そうで助かったなぁ。これで明石もアレだったら正直俺はこの鎮守府からさながらヒロインの様に走り去ってしまうだろう。
「こ、工廠にガン〇ムが!!OO当たりの機体です!!」
さよなら!!俺の鎮守府生活!!さよなら!!提督ライフ!!俺は後先顧みず走り出した…とはいかずに冷静に、冷淡に、明石に詳細を聞いた。だいたい予想つくけど!!
「わ、私が何時もの様に工廠で猫と戦いながらペンギンとフワフワを開発してたら突然に目の前に美少女が現れたんです!!親分!!空から女の子が!!じゃないですけど提督!!交渉から美少女が!!」
開発失敗は明石の故意なのかは今は置いといて(すっごく重要だけど)その美少女は艦娘、じゃないのか。
艦娘じゃなかったら多分シナプスから落ちてきたエンジェ〇イドだろう。イカ〇スだったら歓迎だぞ。
明石は怪訝な顔をして頷いた。
恐らくは明石も良くは分からないのだろう。それにしても工作艦であろう明石が分からない艦娘か。そいつは果たして我が鎮守府に幸か不幸か、どちらを運んできたのだろうか。少し意味ありげに言っていたけど本心ではこれ以上厄介事は増えないで欲しいなぁー。
俺は未だにざわついている広場を後にした。
しかし俺はこの時点からあの陰謀に巻き込まれていたのだった。どうなる、俺!!
「吹雪。変な後付けしないで」
「あ、ごめんなさい」