IS《Blind Revenger》―光を奪われた彼は復讐者と成る―【未完】   作:与祢矢 慧

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とりあえず、一月以上もほったらかしですみませんでした。m(__)m
知ってる方もいらっしゃると思いますが、実は八月八日に十五話を更新しました。
が、即消しました。
理由は「これはダメだ」と思ったからです。以上。

UA、お気に入り、ありがとうございます。
受験勉強と戦いながらも、地道に更新していきたいです。




十五話 交錯:一

 

 そこは暗い部屋。

 窓はなく、陽の光は差さない。光源と言えるものは、天井に埋め込まれているLED電球のみ。

 その円錐形の光の下に、一人の男がいた。

 年を経た証拠となる白髪をオールバックで固め、同じ色の髭もそこそこにたくわえている。だがその顔立ちや、細身ながらもしっかりした肉体は若々しく見える。

 少しくたびれた白衣を身に纏った彼は、一台のパソコンの画面を食い入るように見ていた。

 画面に映るのは黒い正八面体、そしてそれを中心にして幾つかのグラフが周りにある。

 さらには、人型をした何かの設計図までもある。

 クイッと、眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。

 

「……これは…………まさか……!」

 

 口から漏れた声は震えている。

 ────ダンッ!

 ────ガタン。

 殴るようにデスクに手を置き、急によく立ち上がった。その勢いで椅子が倒れた。

 そしてまた、キーボードをこれでもかと言わんばかりに速く叩く。最後にエンターキーを格好よく叩き、挿してあったUSBメモリを引き抜いた。

 素早くパソコンをスリープモードすると同時に、彼は駆け出した。

 行く先は、もちろん彼の上司(ボス)の部屋だ。

 

 

 いつものようにスコールはデスクワークをしていた。

 彼女が率いる派閥の生活、訓練、拠点の役割を果たすこの基地は、表向きはアメリカ籍IS会社となっている。

 そのため、亡国機業としての働きだけでなく、会社としての役目もある。

 ISを扱う以上、まともな成果を出し続けなければ国との繋がりを絶たれてしまう。しかし、彼女は生真面目に成果を渡したりはしない。常に他社の状況を見極め、その時に応じた報告をする。

 もちろんその報告も最新技術と銘打った、数年前の開発部の成果、それも数箇所を空白にしたものではあるが。

 その仕事も区切りがつき、固まった体をほぐすために伸びをする。

 

「んーー、はぁ。……まぁ、こんなものでしょ。あの腐ったクズ共にくれてやる情報なんてどこにもないわ」

 

 そう言いながらも、書類をまとめる彼女の表情はにこやかだ。……ただし、眼は笑っていない。

 書類をファイルに収め、さて休憩を入れようかと立ち上がった。

 その矢先。

 ──ドタドタッ、ズダーン!

 ドアの向こうから、一瞬肩がすくむような大きな音が響いた。

 恐る恐るドアを少しだけ開き、その隙間から外を窺う。

 そこにいたのは……。

 

「……新しい健康法でもしてるの、開発室長?」

 

 目を回しながら、見事に体の上下が逆になった白衣の男、開発室長が転んでいた。

 やれやれと思いつつ、ドアを開いて足元に落ちていた眼鏡を拾う。レンズを見ればすぐに伊達だと分かった。

 少しの間それを眺めていると、呻きながらも彼はのっそりと起き上がった。

 

「……いっつぅ、まさか急に足が絡まるとは。(わたくし)としたことが。……ハッ、眼鏡は?!」

「はい、ここよ。気をつけなさいよ、貴方ももう若くはないんだから」

「おおっ、これはボス。ありがとうございます。……ってそうじゃない! ボスに報告が!」

 

 ガバッと立ち上がり、凄まじい形相でスコールに詰め寄る。

 若干どころかかなり引きながらも、彼女は部屋に招き入れた。

 

「で、報告って?」

 

 その言葉を待っていたとばかりに口を開こうとして、閉ざした。一転、神妙な顔つきになると彼は小声で尋ねた。

 

「ボス、ここに盗聴器などはありませんな? 盗み聞きしている者もいませんな?」

 

 その様子から極秘情報であることを察する。すぐさま部屋のスキャナーを作動させ、反応がないことを示した。

 彼は頷くと、白衣のポケットから一個のUSBメモリを取り出した。

 受け取り、パソコンに接続しようとするとまたストップがかかった。

 

「ボス、『外』のではなく、『内』の物でお願いします」

「……分かったわ」

 

 さっきまで使っていたそれを横にずらし、隣にあったパソコンを接続する。

 カチカチッとマウスを操作し、データファイルを開く。

 そして、その内容に息を呑んだ。

 

「……っ! これって……まさか」

「そのまさか、です。……かの天災はとんでもない置き土産をしていった、ということです」

 

 室長が付け足した言葉には、忌々しさと歓喜が混じっている。

 ディスプレイに映る数々のグラフ、設計図を睨みつけ、スコールは小さな声で言った。

 

「……これを見た者は?」

「私とボスだけです」

「……本人には?」

「まだ、何も」

 

 淡々としたやり取りに、スコールは「そう」とつぶやいて、腕を組んだ。そのまま目を閉じ、思考の海に沈んだ。

 室長はソファに移動し、静かに腰を下ろした。少しばかり待つことになるだろう、と彼は休むことにした。目を閉じ、浅い眠りに入る。ここに持ってきたデータは、彼が五日間徹夜した成果だ。

 精神はともかく、肉体的に疲労が限界まで蓄積していた室長はすぐに爆睡してしまった。

 

 室長が叩き起こされるのは、およそ一時間後のことである。

 

 

 タァンッ、タァンッ、タァンッ……。

 一定の間隔でトリガーを引き、破裂音が響く。

 慣れた反動が肩に伝わるが、かすかに感じる違和感が拭えない。

 目が見えなくても、脳に送られる『情報』が的の中央、その少し外側を撃ち抜いたことを教えてくれる。マガジンは空になったが、一発だけ銃に残っている。

 俺は息を深く吐いて、少し緊張を緩めた。

 中央に当たらないのは、全く集中できていないから。

 原因はわかっている。あの、篠ノ之束が言ったことだ。

 

『知ってるもなにも、私のインフィニット・ストラトスを最初に認めてくれたのが、彼だよ』

 

 正直、意味がわからない。

 義父とISになんの関係があったのか。

 義父は、自身が認めたものに殺されたと言うのか。

 篠ノ之束は俺に何をさせようとしているのか。

 行き場のない苛立ちが募るばかり。鬱陶しいと自分でわかっていながらも、抑えることができない。

 バッと下げていた右腕を上げ、片手で銃を構える。『情報』も読み流し、残っていた最後の一発をテキトーに撃ち放った。

 義手の腕は完全に反動を抑えこみ、弾丸は的の中央に命中した。

 今度こそ緊張を緩め、銃を台の上に置いた。

 

「お疲れさん」

 

 労いと一緒に背後からコップを差し出したのは、ずっと見ていたマークだ。

 「サンキュー」と言ってコップを受け取る。

 一緒に訓練することはしょっちゅうあり、俺達の間にはいつの間にか敬語が抜け、対等に話すようになっていた。

 

盲目(そ れ)でよく当てるもんだ。これが異能ってやつか?」

「……まぁな。今までの訓練の成果ってのもあるけど、それが大きい。………………ところでこのアイスティー、砂糖をいくら入れた?」

「角砂糖を二十個ほど、ってガボァッ!」

 

 砂糖の溶け残りが山になったカップの中身をマークの口に突っ込んだ。

 甘すぎるのは嫌いだ、って言っただろうが。

 心の中で愚痴りながら、自分で用意したボトルウォーターで喉を潤す。

 

「ゲホッ、ゴホッ……。ったく、たかが砂糖入れただけでひどいやつだぜ」

「自業自得という言葉と一緒に、今度は全身にかけてやろうか?」

 

 割と本気が混ぜた言葉に、マークは「そいつはごめんだ」とふざけ気味に返してくる。

 フンと鼻を鳴らし、もう一度ボトルウォーターを飲んだ。しっかりと冷やされた水が体に染み渡っていく。

 水の感覚を堪能していると、訓練場の奥のスペースから連続した銃声が鳴り響いた。

 「兄さんと一緒に訓練したい!」とねだってきたマドカだ。

 どうやら使っている銃はSMG(サブマシンガン)のようだ。最初は小型のピストルを使わせていたのだが、いつの間にか変えている。

 『情報』によれば、どの的も中央を撃ち抜いていることが解る。しかも、その全部が様々なスピードで動いている的だ。

 彼女の腕前と『異能』に感心していると、隣のマークがピュウと口笛を吹いた。

 

「やるじゃねぇか、あの嬢ちゃん。反動(リコイル)もうまく逃してブレていない、いい腕だ」

「これじゃ少なくとも、銃に関してはすぐに俺より強くなりそうだ」

 

 苦笑しながら言ったことだが、俺はマドカの才能に驚き、認めている。

 その凄さを『目の当たり』にはできないが、理解はできる。

 マドカの『異能』は射撃に向いているかはわからない。偶然か、天性の射撃の才能を持っていたようだ。

 再び連射音が響き、次々に的の中心を撃ち抜いていく。

 

「こりゃ俺も負けてらんな、先輩として」

 

 そう意気込んでマークは銃を取り、訓練スペースに向かう。

 水を呑み干し、俺も訓練を再開しようと銃を手に取ろうとした。その時に、背後から近づく存在に気づいた。

 振り向かずに、声をかけた。

 

「珍しいですね、スコールさん。こんな時間にここへ来るなんて」

「まぁね。ちょっとしたどころじゃない用事よ」

 

 その声は特に驚くことなく、スラスラと返事をしてきた。

 驚かそうと思ったわけではないが、少し肩透かしを食らった気分になる。だが、重要な用事と聞いてすぐに振り向いた。

 すると彼女は俺に背を向け、歩き出す。

 

「場所を変えましょ。これから話すのは機密事項だから」

「……了解」

 

 反対する理由もなく、機密と言われれば従わざるをえない。

 マークに一声かけ、マドカのことを頼み、俺はスコールさんについて行く。

 しかし、ただついて行く事が数分。彼女が足を止める気配はない。

 スコールさんは全く喋らず、俺も口を開かない。

 柔らかい靴底が床を踏む音と、時たま俺が右手を握る際に鳴る、カシャッという機械音だけが耳に入る。

 無言が続く中、どこに行くつもりなんだろうか? と俺は疑問に思った。

 此処のマップ頭の中で思い描き、彼女の行く先と照らし合わせる。

 そして、とある場所が該当した。

 

「……開発室?」

 

 俺の疑問にスコールさんは答えない。

 導かれるまま中へと進んで行く。

 歩いている間も絶えず『情報』は頭に流れ込み、第三開発室の前を通り過ぎた、と知った。

 開発部は全部で十室からなる。数字が小さくなるほど重要性、機密性が大きくなる。つまり、建物のより奥に配置される。

 行き着いた先はやはり、第一開発室。俺がいま使っている義手も、ここで造られた。

 中に入ると、開発室長が待っていた。

 

「どうも、トール君。ここで少し待っていてくれ」

 

 椅子を勧められたので、とりあえず座ると彼は奥に入ってしまった。何かを取りに行くのだろう。

 ちょっと離れた椅子にスコールさんは座ると、静かに話しかけてきた。

 

「……用事の前に、聞きたいことがあるわ」

「……なんですか?」

 

 さっきからスコールさんの雰囲気がいつもと違っている、気がする。

 機密事項というからには重要なんだろう、それが関係しているのか、『聞きたいこと』も重たいものに聞こえる。

 俺の返答から数秒経って、彼女の声がゆっくり聞こえた。

 

「……トール。貴方はまだ復讐を、本心から望んでる?」

 

 ギシッ、と右腕が鳴った。

 聞いた瞬間、覚えのない映像が脳裏を走った。

 

「あァ? 何言ってんだ」

 

 声に含まれた苛立ち。

 周りの物が小刻みに震え、部屋の中の空気が軋む。

 そのどちらも、俺が発しているものだと気付くのに、時間はいらなかった。

 だが、返される声はいたって冷静だ。

 

「そのままの意味よ。まだ復讐の意思があるのかって聞いてる。最近の様子を見てる限り、あなたは現状に満足してるようだけど?」

「そんなわけあるかッ!」

 

 ガタンッ、と椅子が倒れる。

 思わず立ち上がって怒鳴ってしまった。

 しかし彼女は淡々と続ける。

 

亡国機業(ここ)には信頼できる仲間がいて、血は繋がってないけど妹がいる。一般人とはかけ離れた生き方だけど、絆も充実もある」

「……」

「心のどこかで思ってるんじゃない? 復讐は、もういいかなって」

「……黙れよ、スコール(・ ・ ・ ・ )

 

 スコールの話を聞いているうちに、だんだんと右腕の付け根が熱を帯びる。炎に焼かれるような痛みに、耐えるよように義手を握りしめる。

 今までにない感情が、体の奥底から漏れ出すのを感じ取った。

 

「俺はな、いつか必ず奴らに、最も酷く、苦しく、辛く、悲惨な最期を与えてやるんだよ。……たとえ残りの手足を潰されてもな」

 

 静かな口調に込めた、憎悪という激情。

 ここまで感情が荒ぶったのは……二度目だった。一度目は、あの事件の後に、スコールに拾われ決意した時。

 

「フフッ、懐かしいわね。その殺気」

 

 どうやらスコールも同じことを考えていたようだ。

 おもむろに彼女はパンパンと手を二回叩くと、奥から室長が戻ってきた。

 

「室長、トールのさっきの言葉、聞いた? これで無駄にならずに済みそうね」

「まったくですよ」

 

 そう言って彼が持ってきたのは箱だ。すぐに俺は『情報』でその中身を知った。

 以前に篠ノ之束から渡された、正八面体。そして、USBメモリだ。

 

「……これに貴方を呼んだ理由の全てが入ってるわ」

 

 そう言って俺は手渡されたメモリを右手で受け取る。すでに傷跡に熱はない。

 持った感じはただのメモリだ。だが中身はそうじゃないだろう。

 

「知るか、知らずにいるか。知って後悔するかもしれない。知らない方が幸せかもしれない。……さぁ、貴方はどうする?」

 

 スコールは今まで以上に真剣な声で俺に問いかける。

  この中にどんなデータがあるのか、皆目見当がつかない。それでも、好奇心以上に俺の異能が『知りたがっている』。

 『知る』ことで、俺はさらに強くなれる。そう訴えてきている。

 気づけば、ニヤリと笑っていた。

 

「同じ場所に留まり続けるなんて、愚の骨頂だ」

 

 メモリを室長に投げ渡し、パソコンに繋がっているケーブルを一本取る。彼がパソコンにメモリを挿したことを確認して、ケーブルを義手に接続する。

 何があるのか。そう期待して待っていた途端。

 

 俺は情報の海に呑み込まれた。

 




ここから一気に原作まで進めたい。
オリジナル話ばっかで申し訳ないです。
ちなみに驚くべきことに、ISの二次創作なのにこれまでまともにISが出てきてないという由々しき事態が。

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