IS《Blind Revenger》―光を奪われた彼は復讐者と成る―【未完】   作:与祢矢 慧

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どうにか大学が決まり、ホッとしている作者です。

そしてなんだかんだで書けた十八話です。
しかし心配なのは、なぜか筆が進む時間帯が決まって深夜一時から三時あたり。
そしてなぜか眠気が全く来ない。
体に悪いのは歴然なんですけど、止まりません。

お気に入り300突破!ありがとうございます!
感想、UAもありがとうございまず。
『ヴァールハイト』さん、評価8ありがとうございます!

おかげ様で前作の話数に追いつきました。

注:前半に少しお汚い表現がありそうです。


十八話 交錯:四

 鳴り止まない歓声。

 

 舞い踊る砂塵。

 

 激しくぶつかり合う闘志。

 

 火薬の炸裂する音、打ちあう度に響く金属音。

 

 ドイツ開催、第二回『モンド・グロッソ』。

 総合部門準決勝のボルテージは最高潮に達していた。

 選手は国の威信と己の誇りを賭けて競い合い、観客はそこの雰囲気に酔いしれる。

 

「……決勝が始まるまでにトイレ終わらせないと!」

 

 そんな中、大歓声を背にする少年──織斑一夏は小走りにトイレに向かっていた。

 海外という慣れない環境の中、自分を落ち着かせるために水をがぶ飲みしていたことと、これまでの試合での興奮は彼の喉を枯らせた。

 結果的に、彼の下半身は強烈な尿意に襲われている。

 

 トイレの場所は、と案内表示を見れば当たり前のごとく、日本語で表記されている。

 このことがどれほどISの影響力を表しているかは、言うまでもなかった。

 あっさりとトイレに着き、入ってみると、やはり試合中ということで一人(・ ・ )しかいなかった。

 日本のものより高め設置されたソレに四苦八苦しながら、ようやくの解放感にほっとする。

 チラリと左を見れば、先客である青年の横顔が見えた。

 自分より少し背が高く、地元でよく見る黒髪。サングラスを着けていて素顔は見えない。

 大人びた雰囲気を帯びているせいか、実年齢が計りにくい。

 日本人かな、と青年に少し親しみを覚えた。

 

 だが、少し視線を下げると、織斑一夏は驚愕に思わず「なっ?!」と声を漏らした。

 正確にはその青年の右腕……があるはずの部分を見た。

 青年の右袖は力なく垂れており、空洞であることは明白だった。

 

「ん?」

 

 さっきの声に気付いたのか、用を済ませた青年は織斑一夏を見た。……ように、彼は感じた。

 しかし青年は何もなかったように洗面台へ移動した。

 

 ここで織斑一夏がある種の罪悪感を感じる所が、悪友たちにお人好しと揶揄われる所以だろう。

 手早く用を済ませ、青年の横に並んだ。

 そしてそちらを見れば、青年は左手のみでゆっくりと洗っていた。

 織斑一夏はさっさと手を洗うと、青年に声をかけた。

 

「……あの」

「……あぁ、何か?」

「いえ、その、右手が……」

 

 そこで青年は彼が言いたいことに気付いたようだった。

 

「あぁ、これ。さっきのは別に気にしてないよ」

「でも、一応謝らせてください。すいません!」

「いいって言ったのに。君みたいな反応はよくあるから」

 

 肩をすくめて話す青年の様子で、織斑一夏は本当だと察した。

 

「ところで、君はいいのか? 今、準決勝の最中だろ?」

「見たいのは決勝ですから、大丈夫です。えっと、あなたは?」

「俺も決勝かな。ジュース飲みすぎたのは失敗だったけど」

「あっ、それは俺もです」

 

 意外なところで共通点を見つけて、二人は小さく笑った。

 

「っと、そろそろ時間ですね」

「そうか。……悪いんだが、案内してくれないか?」

「案内? いいですけど」

「……実は俺」

 

 と区切って青年は左手でサングラスをつまむと、

 

「……目、見えないんだ」

「えっ、そうなんですか?!」

「いやー、ここから戻るのにはちょっとキツくてね」

「そういうことなら任せてください! 場所どこですか?」

 

 やりとりをしながら二人は一旦外へ出て、青年の座席番号を確認するために案内板が最も近い、出入り口ゲートに移動した。

 ここで案内を即座に受け持つあたり、お人好しさがよくわかる。

 

 しかし同時に、織斑一夏の無警戒さがはっきりと表れていた。

 

 よく考えれば、疑問点はいくつも上がるはずだ。

 盲目である青年が、なぜモンド・グロッソを見に来たのか?

 盲目なら、なぜ青年に付き添いがいないのか?

 

 そして、盲目の青年が、どうやってトイレまで来たのか?

 

「……あれ? そういえば、どうやってここまで来たんですか?」

 

 案内板で座席を探しながら、思いついたことをポツリと言った。

 何気ない、ただ単純に思いつきだった。

 

 だが、それが真実を含んでいた。

 

「それは勿論──────」

 

 上目で横の青年を見た、その時。

 案内板に大きい影が映り、

 

「──────連れがいたのさ」

 

 ガシッ! と後ろから羽交い締めされ、何かを嗅がされた。

 

「ッッ!」

 

 必死に振りほどこうともがくが、徐々に体の力が失われていく。

 次第に意識は遠くなっていく。

 

 カラン、という音を皮切りに彼の意識は完全に消えた。

 

 最後に見えたのは、落ちて傷ついた……安物のサングラスだった。

 

 

 

 

「……よし、予定通り港近くの倉庫に連れていくぞ」

 

 青年──トオルは開発室特製のサングラスを装着する。

 ターゲット(織斑一夏)を紐で拘束した仲間に指示を出し、出口の外で待機させていた偽装タクシーに運び込む。

 偽装タクシーの後ろに白のバンが止まると、他の仲間はそれに乗り込む。

 トオルはそのまま偽装タクシーに乗り、目的地へと移動を開始させた。

 

「おいトール、一つ聞いていいか?」

「……砂糖は少なめだぞ、マーク」

「いやそうじゃねーよ!」

 

 ハンドルを操作しているのは先輩であり、かつてともに任務を遂行したマーク。

 一般人に怪しまれないように、彼はそれらしい服装している。……オータムによれば全く似合ってないらしいが。

 勿論、トオルにわかるはずがない。

 

「で、用件は?」

「お前が話題逸らしたんだろうが。……そこのボーイのことだよ」

 

 ボーイ、つまり織斑一夏のこと。

 彼の今の状態は、ちょうど疲れて眠りこけている少年、のように見える。

 その寝顔は年相応の、あどけないもの。

 

「言っちゃぁアレなんだが……簡単すぎじゃないか?」

 

 その言葉に、トオルは内心で全面同意だった。

 

 ターゲットがトイレに来るタイミングを図って一般人を遠ざけ、トオルは障害を持つ観客を装ってトイレに入る。

 あとは入ってきたターゲットに、それとなく中身のない右袖を見せるだけ。

 すでにこの時点で、計画前半の八割が成功していた。

 ある意味予想外で嬉しい誤算だったのは、ターゲットがお人好し過ぎたことだった。

 無警戒にトオルと接触し、あまつさえ案内を即座に承諾した。

 実行者であるトオルが最も訝しんだ。

 

「……各種データと照合の結果、コイツは間違いなくイチカ・オリムラだ」

「いや、そいつはわかってるんだ。けどよ、いくらなんでも護衛がいないってのはおかしいだろ」

 

 マークが言った通り、ターゲットの周囲に護衛と思われる存在はいなかった。

 ならば発信機でもあるのかと探るが、何もない。

 もともとそういう(・ ・ ・ ・ )依頼ではあったが、マークはどこか腑に落ちないものがある。

 

「……なるべく汚点を減らしたいんだろう。護衛がいて誘拐されました、じゃ面子が立たない。ならいっそカメラの監視だけにして、誘拐という不手際を犯人になすりつけて、批判の対象をすり替える」

「『誘拐犯の方が一枚上手でした』ってか?」

「そうだ。そして矛先が戻ってくる前に功績を立てれば、とりあえず面子も信用も保たれる」

「やれやれ、世界最強(ブリュンヒルデ)の弟も楽じゃねーな。大人の思惑に踊らされんのは同じ大人か、俺たちみたいな裏の人間だけでいいのによ」

 

 はぁ、と深くため息をついた彼は遠くを見るような目をしていた。

 当たり前だが、トオルはそれ気づくことなく、どこからともなく日本刀(・ ・ ・ )を取り出した。

 すでに拡張領域(バススロット)から出して装着した右手で柄を、左手で鞘を握る。

 ゆっくりと刀を抜くと、透明感のある浅葱色の刀身が十五センチほど露わになる。

 彼の傷ついた()は確かに、その刀身の奥を見通していた。

 

 ──やるぞ、アサギ。

 

 ──バッチリだよ、トオル。

 

 パチリと鞘に納め、気持ちを切り替える。

 

「……倉庫に着いたぞ。ここからが重要だ、ミスんなよ」

「わかってるさ。マークもしくじるなよ」

 

 拳をぶつけあい、互いにニヤリと笑う。

 織斑一夏を引きずり出し、バンから降りた別の仲間達に預ける。

 手筈通りに、彼らは倉庫内でターゲットを拘束して、適度に痛めつける。

 そしてモンド・グロッソの会場に残っている仲間が、日本チームの控え室に直接警告文を届ける。

 内容は、

『ブリュンヒルデの弟は預かった。五体満足で返して欲しいなら試合を棄権しろ』

 というもの。

 さらにはしっかりとブリュンヒルデ本人に届くように細工もされている。

 

 倉庫の裏手に回り、トオルは合図を待つ。

 

 

 何も知らぬは、本人達。

 

 すべては三流人形劇の筋書き通り。

 

 

「さて、滑稽な人形劇を始めるとするか」

 

 

 

 





いかがでしたか?
ようやく原作との絡みです。……長かったなぁ。
ここからがかなりオリジナル展開の色が強くなると思われます。(今更ですが)

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