IS《Blind Revenger》―光を奪われた彼は復讐者と成る―【未完】 作:与祢矢 慧
文字数は少なめですが、早めに更新していきたいです。
ありきたりの日常を送れることを幸せだと感じれる人間はどれほどいるのだろうか。
いや、何もない生活を日常としている人間はどれほどなのか。
世界には様々な人間がいる。
戦争で故郷や肉親を失った人。病気で幼くしてその命を失う人。残飯を漁り、泥水を啜ってでも生きようとする人。
彼らは皆一様に、望んでそうなったはずがない。
苦しみ、哀しみ、憎しみ。これらを心の中で燻らせ、爆発させたいと望んでいる。
一人の少女《天災》の我が儘に巻き込まれ、両親と未来を奪われた少年も……例外ではない。
「ここは……どこだ? ……どうして
目覚めた少年は呟いた。
彼はいま、医療用ポッドの中にいる。それは清潔で明るい部屋の中央に設置され、大量のコードが周囲の機器に伸びている。
ピ……ピ……ピ、と耳に入ってくる規則正しい音は、自身の心拍だとすぐにわかった。
しかし、それらすべてを少年は見ることができない。視界は暗闇に染まったままだ。
(……何が、どうなってるんだ)
両手を動かし、彼を覆うナニかを触ろうとして……左手しか反応がなかった。いやそれ以上に右腕の感覚が完全に消えていた。
まさか、と少年は思った。
悪い予感を思い浮かべながら、恐る恐る左手で右腕があるべき所を触れた。
「……ウソ、だろ」
そこに腕はなく、平らになっていた。皮膚とは違う、柔らかな感触が現実を物語っていた。
何度触ってもその感触は変わらない。むしろより事実を直視させられた。
くそ、と悪態をつき傷口を強くつかむが、疲れて数秒で離してしまう。
手で顔を、両目を触った。そこの感触も皮膚と違っていた。
「……どうして……ッ!」
ガンッ、とポッドを殴りつける。鈍い痛みが走るが、再び殴りつける。
三度目をしようとした時、外からスライド音が響き、遅れて硬質な足音が聞こえた。
ハイヒールの音か、と彼の母親が偶に履いていたことを思い出し、見当をつける。
足音は徐々に近づいて、少し遠いところで止まった。
「具合はどうかしら?」
彼は声から年上の女性だと判断した。
眼を失ったせいなのか、聴力は敏感になっている。
「……サイアクだよ」
自分でも驚くほど、声に苛立ちが混じっていた。
女性は僅かだが、驚愕した。
(こんな子供が、ここまで濃い殺意を……。無意識でしょうけど、これは有望株ね)
ポッドの中で横たわっている少年はどう見ても十歳以下だ。しかし彼の言葉には、熟練した兵士が持つ殺意に近いそれが載せられていた。
彼女は手元の機械を触り、ポッドを開いた。
大仰な見た目に反して静かに開いたポッドに近づき、少年を覗きこむ。
「へぇ……」
感嘆の声が漏れた。
彼の容姿は幼いながらにも鋭さを匂わせている。さらに額から頬にかけての両目を塞ぐ斜めの傷が、それを助長している。
少年の右頬に手を伸ばして、自分の方へ顔を向ける。少年はかすかに呻いた。
「貴方、名前はなんていうの?」
彼女は知らず知らずに、少年に興味を持ち始めていた。
初めは『戦力になるか』を確かめるだけのはずが、いつの間にかそれ以上を期待し始めている。
少年は上体を起こして答えた。
「………………
「トール……いい名前」
彼の名前から彼女はとある神を連想した。
彼は右腕を失ったというのに、悲観することなく、むしろ憎悪を滾らせている。
少年がどこまで強くなるのか。どこまで成長するのか。
いやそれ以上に、彼女は根拠の無い確信を得ていた。
「貴方はいずれ、世界を揺るがす人物になる」
少年を抱きしめ、耳元でささやく。
「私はスコール・ミューゼル。貴女を導いてあげる。……だから貴方が望むものを教えて」
「……俺の光を奪った奴を、殺してやる」
少年の失った腕と目を撫でながら、妖艶に微笑んだ。
「歓迎するわ。……ようこそ
堕ちた少年の時間が……加速し始める。
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