IS《Blind Revenger》―光を奪われた彼は復讐者と成る―【未完】   作:与祢矢 慧

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学校が始まりやがったので、更新がさらに遅くなるかもしれません
でも頑張ります!
お気に入り、UAありがとうございます!

今回だけちょこっと長くなってしまいました

題名を少し変えました
日本語入れたほうがいいのかなぁ、という試験的なものです


四話

 

 

「貴方が亡国機業(ここ)に入って、もう五年ほど経ったのね」

 

 スコールからの呼び出し受けた少年(トオル)は朝食を済ませ、彼女の部屋に赴いていた。

 この個室は一定以上の権限を持つ幹部のみに与えられる物で、かなりの広さと頑丈さを誇る。そのスペースをスコールは惜しげも無く、しかしきっちりと整えて使っている。

 彼はそれを見ることはできないが。

 

「……それで、呼び出した用件とは?」

 

 部屋に入るなり彼女が発した第一声がさっきのものだったので、少年はいささか肩透かしを食らってしまった。

 彼の言葉を聞いたスコールは不満げになる。

 

「もう、急かす男は嫌われるわよ。もっと余裕を持ちなさい。……とくに、貴方はね」

「……肝に銘じます」

 

 苦笑いしながら答える少年を見て、彼女も穏やかな雰囲気になる。

 さて、とスコールは姿勢を正すと、一枚の報告書を持ち上げた。

 

「開発部からの報告よ。とりあえず、完成(・ ・)したらしいわ」

「……本当ですか?」

 

 テーブル1つを挟んだ向こう側のソファに座った状態から、少年は少し身を乗り出した。彼の言葉には喜びと少しの驚きが含まれていた。

 そんなどこか幼い様子を見せる少年を見て、スコールは微笑する。

 

「ええ、ひとまず戦闘訓練ができる程度のものは。だけど貴方はこれから成長するし、頻繁に変えることになるでしょうね」

「その点は理解してます。で、今から行くんですか?」

「だーかーら、もっと余裕を持ちなさい。どうせ今行っても散らかってるわ。二時間後にまた呼ぶから、それまでくつろいでなさい」

 

 終いには立ち上がって今にも奥の開発室へ行こうとする少年を制止し、一度部屋の外に丁寧に追いだした。

 

 ドアを閉めると、深い溜息をつくき、乱暴に音をたてて高級感あふれるソファにダイブする。

 整えた美しい金髪が乱れることも構わず、寝返りをうって天井を遠い目で見つめる。

 

「やっぱり、あの子はどこかで生き急いでいる。でも、私じゃどうすることもできない。……オータムが彼に教えてくれるといいけど……」

 

 スコールには、少年の声に復讐心が混じっていることが解っていた。

 彼女も彼の心情を理解できないわけではない。しかし、彼は復讐に身を燃やすにはまだ若すぎる。そう考えていた。

 幸いにも少年にはオータムという存在がいる。ただ、そのオータムが彼にとっての『鍵』となれるか。それがスコールの数ある懸念の一つだった。

 

「……まぁ、とりあえず今は目下の面倒事を片付けるとしましょう」

 

 起き上がりながら呟いて、カップに残っていた一級品の紅茶を一気飲みする。

 オフィスチェアに座って、パソコンを立ち上げた。

 

「今日から忙しくなる」

 

 自分にそう言い聞かせ、早速溜まっているメールを開いていく。

 作業を行う彼女の顔は少しだけ、ほころんでいた。

 

 

「……そういえばトールがかけてたサングラス、いつもと違って似合ってたわね。……一体誰が?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――カシュンッ。

 

 自動ドアが開き、少年が中から出てきた。

「さてと、どうするか」

 

 二時間という至極微妙な時間を言い渡された彼は迷った。

 食堂へ行ってお茶を飲むにはいささか長い。訓練を受けるにはやはり短い。

 

(……誰か、話し相手とかいないかなぁ。オータムさんは……訓練だろうな。あの人すごい強いらしいし)

 

 睡眠や入浴といった自室で過ごすとき以外は、基本的に彼の傍にはオータムがいる。それでも訓練や作戦行動時は別々となる。彼が望めばオータムは喜んで傍にいるだろうが……。

 

 とりあえずどこかに行こう、と判断した少年は記憶を辿って壁に設置された案内板に触れる。 

 案内板が起動すると、彼の体内にあるナノマシンと耳の後ろにある補助器を伝って、施設の構造が彼の頭に浮かび上がる。そのナノマシンと補助器は件の『開発部』が作り上げた、五感を強化するもので、さらに補助器には、対応する機器との間ならばあらゆる情報を受け渡しできる機能がある。

 そうして思い当たったのは……

 

(……資料閲覧室。暇つぶしには丁度いいな)

 

 場所は今の道を真っすぐ行き、2つ目の角で左折したところ。

 くるりと体の向きを変え、左手に持った杖で床に設置された点字ブロックを辿っていく。実のところ、彼は既に施設内の配置をすべて記憶しているが、お節介なオータムがうるさいのでしかたなくこうしている。

 

 ついでにこの点字ブロックは彼が亡国機業(ファントム・タスク)に加入した直後に、スコールが取り付けさせたものである。

 

 訓練中だからか、彼は誰ともすれ違うことなく資料閲覧室へとたどり着いた。

 左手首につけている腕時計をドア横の認証機にかざし、ドアが開く音を聞いて中に入った。

 

「失礼します」

 

 一応言った言葉に反応する人物はいなかった。

 そのことをさして気にせず、彼は奥に進んでいく。その途中でめぼしい本を取る。題名は彼の補助器が教えてくれた。杖と二冊持ったところで手持ちがいっぱいになってしまうことが、数多くある片腕の欠点の一つだ。

 

 資料閲覧室はすでに彼の領域(テリトリー)とも言える場所だ。隻腕である少年はまだ本格的な訓練ができないため、必然と空き時間がある。その時間を彼は簡単なトレーニングと情報収集にあてがった。 

 彼は手慣れた様子でそれ(・ ・)の扉を開き、中に入る。狭い金属質な小部屋の中央に鎮座する台に本を乗せた。同時に彼の耳に機械音声が流れてくる。

 盲目でもある彼が書籍で情報を集めることができた理由。それがこの部屋だ。

 資料閲覧室にある全ての書籍等には特別な装置が組み込まれている。それをこの部屋の台に乗せると読み込み(ローディング)が行われ、補助器を経由して彼の脳に情報として入っていく。

 一冊目を『読み終える』と、二冊目を置く。いずれもインフィニット・ストラトス関連の本だ。

 

 

 少年が両親と右腕、そして両眼を失ったあの日から世界は激変した。

 あの日、二千発以上のミサイルが日本に降り注ぎ、そしてそれをI(インフィニット・)S(ストラトス)と呼ばれるパワードスーツを纏ったたった一人の操縦者が『公式記録』では『全て』破壊した事件が起こった。それは後に、そのパワードスーツの姿を現し『白騎士事件』と呼ばれることになった。

 ISの発明者、『天才』科学者、篠ノ之束。

 『白騎士事件』は彼女がISの価値を世界に示すためのマッチポンプ(自作自演)だった、とスコールから彼は聞いた。

 篠ノ之束がISを発表した当初は『女子の戯れ』と評され、ある一人を除いて誰もそれに興味を持たなかったという。これにムカついてやったのが白騎士事件。

 その話を少年がスコールから聞いた時、その短絡的思考に怒りを通り越し、呆れてものも言えなかったのは余談である。

 

 ともかく、少年は来るべき日の為に、己の中に知識を貯め、技術を習い、経験を積もうとしている。その決意をスコールやオータム、さらにはスコール傘下の亡国機業(ファントム・タスク)構成員は認め、可能な限りのバックアップをしている。

 

「……はぁ」

 

 辞書並みの厚さがある本二冊を頭に入れれば流石に彼も疲れる。

 眉間をほぐしていると、ドアがノックされた。

 

「……どうぞ」

 

 不審に思いつつも許可を出す。オートロックが解除され、ドアノブが回った。

 

「やぁ、お疲れ様。いつも頑張るね」

 

 声を聞いて、少年は気をゆるめた。

 入ってきたのはここ、資料閲覧室の室長だった。

 

 この人物はデスクワークを得意とし、作戦行動時には参謀や諜報活動の任を受ける。そこそこの長身で筋肉もしっかりとつき、なおかつ整った容姿で組織内の人気――主に女性からの――は高い。

 少年は声から人柄を判断するしかないが、穏やかで几帳面な性格であることを知って人気の理由に納得している。

 

「いたんですか、室長。てっきり本に埋もれているものだと……」

「さっきまで諜報部に顔出してたんだよ。僕がいくら本の虫でも、没頭しすぎて役目を蔑ろにするのは良くないのさ。はいこれ、紅茶だよ。トール君はいつも砂糖だけだったよね」

 

 少年の左手をとって、丁寧にカップをもたせた。

 ありがとうございます、と礼を言って口をつける。実は少年は幼いころ飲み慣れていた日本茶が好みだが、あまり手には入らないので紅茶を飲むようになった。

 紅茶をちびちびと味わう少年を見て、室長はクスリと微笑った。

 

「……なにか?」

「いやいや、大事に飲むなぁ、て思っただけさ」

 

 そう言うと、少年は苦笑いしながらカップを置いた。

 

「俺には眼がありません。だから、情報を得るには残された感覚を最大限に用いる必要がある。紅茶一杯にしても、香り、味、温度など様々です。……ただ、俺は色を知れません」

 

 落胆でもなく、後悔でもないが、似たような表情で話す少年を見て、室長は顔を僅かに歪めた。

 隠しきれない憎しみが、声にあった。

 

 亡国機業(ファントム・タスク)はテロ組織として名が知られている。そこに所属する人間は、そこに至るまでの経緯が必ずある。それは様々だが、最も多いのはやはり『復讐』だ。

 かつて、その『復讐』に囚われていた内の一人が、この室長。

 今でこそ自他とも認める本の虫だが、数年前までは『緋色の凶狼』と呼ばれた過去を持つ。

 だからこそ彼は知っている。復讐心を宿すリスクを。

 辞めろ、と言うつもりは彼にはない。彼自身、復讐を遂げ、こうして今の地位を持っている。

 だが彼の眼には、復讐を誓う少年の姿が若すぎると映った。そしてもう一つの懸念があった。

 

 台の上に置かれた本の表紙を見れば、『IS技術書』という簡素な題名がある。

 情報収集、といったところか。室長もその手の資料にはかなり目を通している。

 ゆえに知っている。ISというモノが、いかにふざけたシロモノなのかを。

 

 戦闘機より自在に空を駆る。

 ハイパーセンサーによってコンピュータより早く思考と判断ができ、実行へ移せる。

 武器を量子化させ保存できる特殊なデータ領域があり、操縦者の意志によって自在に呼び出せる。

 シールドエネルギーによるバリアや『絶対防御』によって、操縦者の安全は確保されている。

 さらに、女性しか操れない。

 

 つまり男である少年は、生身でISに立ち向かわなければならない。

 ISについて知れば知るほど、生身の人間との歴然とした差は明確になる。

 

(……トール君。君は絶望しないのか?)

 

 若すぎる少年には重すぎる決意。

 立ちはだかる壁は果てしなく高い。

 

 一つしかない拳を握りしめている少年を、室長は複雑な気持ちで見つめていた。

 

 途端、ブブブと少年の腕時計が振動した。

 釣られて彼も腕時計を見れば、針は十一時を指していた。

 

「……すいません、これからスコールさんの所へ行くので」

「いや、こちらこそ邪魔して悪かったね。本は僕が戻しておくよ」

「お言葉に甘えて。それでは」

 

 残った紅茶を飲み干して、少年は部屋のシステムを終了させた。

 ドアを開いて外に出る彼に続いて、室長も本を持って出た。

 本を元の位置に戻して資料閲覧室の出口を見ると、少年が出ようとしているところだった。

 

「トール君!」

 

 思わず彼は呼んでしまった。

 こちらを向いて首を傾げている少年を見て少しだけ戸惑った。

 

「……その、なんだ。僕も……『経験者』だ。用がある時はいつでも呼んでくれ」

 

 その発言に少年は少し呆けたが、すぐに微笑を浮かべた。

 

「ありがとうございます。その時は遠慮なく頼ります」

 

 そう言って彼は外へ歩いて行った。

 

 その後しばらく、室長は自分の手のひらを見つめ続けていた。

 自分の、血が染み付いた手が、こんな風に役に立つとは……。

 そんな思いを奥にしまい、彼は資料閲覧室を施錠し『無人』というプレートをドアにかける。

 行き先は訓練場。

 

「なまった腕を戻さないとね」

 

 口元に浮かんだ、小さな()の笑みに気づかないまま、彼はそこを後にした。

 

 

 

 

 

 

 彼の中の眠りから醒め始めた凶狼(・ ・)は、少年に潜むポテンシャルを嗅ぎとっていた。

 

 





室長さんは今後、たまに出すつもりです
あとサブストーリー的なもので、彼が亡国機業に入った経緯も書くつもりです
感想、アドバイス、批判、指摘等お願いします。
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