IS《Blind Revenger》―光を奪われた彼は復讐者と成る―【未完】   作:与祢矢 慧

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遅くなってすいません。
体調不良で寝ててたのと、前話でお気に入りとUAが一気に増えて舞い上がってました。
お気に入り、UAありがとうございます。


五話 新たなチカラ:一

 

 

 トオルは閲覧室を後にして、寄り道なしにスコールの部屋に向かっていた。

 行きと違い、どこからか話し声が彼の耳に入る。どうやら訓練は休憩に入ったらしい。

 単調な廊下を、点字ブロックをたどりながら歩き、角を曲がろうとして……足を止める。

 

(……聞き覚えのある足音。体重は軽め。風の音は……髪か)

 

 耳だけで分析をすませ、彼は足音を忍ばせて前方を歩く人物に近づく。

 その人物は彼に気づくことなく、悠々と歩を進めている。

 彼とその人の距離がかなり近くなった時……。

 

「……オータムさん」

「キャッッ!」

 

 杖の持ち手で背筋をツゥ、となぞり、耳元でその名をささやく。

 普段聞けない、女性らしい小さな悲鳴を聞いて彼はかすかな満足感を得た。

 一方でいたずらされたオータムは不意打ちによる刺激とらしくない声を発したからか、涙目でトオルを睨みつけた。

 もちろん、そんな珍しい彼女の様子を彼は見ることができない。

 

「……おい、トール?」

「はは、すいません。つい意地悪したくなって」

 

 オータムの割りと本気な声色を聞いて、彼は素直に謝った。

 何事もほどほどに、とはスコールの言葉だ。

 オータムとしてはこうもあっさり謝られると煮え切らないモノがある。ならば仕返しをしようと思いつき、表情は一転してある意味いい笑顔になる。

 

「なら…………えいっ」

「わっ! って、またですか! あと前よりくっついてません?! その、腕の感触が……」

「黙っとけ。……行き先はスコールのとこだろ? 私も行くところだったから、一緒にな」

「……わかりました」

 

 なんだかんだで彼も男である。

 左腕に当たっている感触にドギマギせざるを得ない。

 だがそれはオータムも同じだったりする。

 ここまで過度な接触は初めてで、内心は『やってしまった』感でいっぱいだった。

 トールとしてはどうしようもないので、先を促した。

 

「と、とりあえず行きましょう。時間も迫ってますし……」

「お、おう。そうだな」

 

 お互いに頬をほんのり赤く染めて腕を組み、ぎこちなく歩くトールとオータム。

 周囲にいた仲間はそれを羨望か嫉妬、または温かい目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 いつもなら数分もかからない道を、彼らはその倍の時間をかけてスコールの部屋に着いた。

 二人が入室すると、スコールは開口一番に「ほどほどにしなさいよ」と溜息と共に呟き、椅子から立ち上がる。

 ドアの近くまで行くと、壁の一部を開いて中にある二つのボタンの内、下矢印のボタンを押した。

 

「……スコール、なにして」

「少し揺れるわよ。気をつけなさい」

 

 その行動に疑問を持ったオータムの質問を遮り、スコールは注意を促した。

 すると突然、部屋全体が振動し始めた。

 三人はかすかな浮遊感を感じ取り、どのような状況なのかを理解した。

 

「……これって、降りてますよね(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)?」

「そうよ。開発室は全て地下に設置されて、そこに繋がる道はこの部屋。そして技術員専用の道と緊急脱出ロのみ。多分、次からはそっちの専用通路で行くことになるわ」

「じゃあ、なんでこの部屋を使ってんだよ?」

「……そんなの、決まってるでしょ」

 

 わざとらしく肩をすくめる。

 ここで声まで演技を入れるあたり彼女らしい、とトオルは思った。

 ガシャンと少しの振動音が響き、ドアが開かれた。

 そこには白衣を着たメンバーがずらりと並んでいる。

 彼らに背を向け、さながら後光のようなライトを受けながら言い放った。

 

「何事にも、サプライズは必要でしょ」

 

 トオルは後でオータムからこう聞いた。

 『すげーいい笑顔だった』と。

 

 

 ここのスコール傘下である亡国機業(ファントム・タスク)の開発室は第一から第十まであり、その数字は小さくなるほど組織内での優先度の高さを表している。

 例えば、ISの装備開発。これはISを国家戦力とする社会の流れに従い、主に第三から第一を使う。

 人用の銃火器等の新型や改良は第四から第八。食料や携行品等はそれ以下となっている。

 例外として、逸脱した実力のメンバーの装備は特別製となるため第三が使われる。

 

 スコールに連れられて開発室の廊下を奥に進んでいく。

 トオルの感覚ではすでに三部屋を通りすぎているが、周囲の開発メンバーの足音は止まらない。

 

「……あの、スコールさん」

「どうしたの?」

「どこまで奥に行くんですか? 一番手前が第十っていうのはなんとなく解りましたが」

 

 質問をしているときも彼らは歩みを止めようとしない。

 その足音から焦りという感情は伺えなかった。どちらかと言えば、ワクワク感かもしれない。

 

「その質問にはこの(わたくし)、開発室長がお答えしましょう」

 

 唐突にスコールの横を歩いていた、白衣の男が口を開いた。

 真っ白な髪をオールバックで固め、あごひげをそこそこ蓄えた彼はメカニカルな眼鏡のブリッジを押し上げながら続けた。

 

「まず言っておくことは一つ。トオル君、今回の開発は実に難儀であり、有意義でした」

「……はぁ」

「なにせ注文からしてアレでしたからな。無理難題もいいところです」

「それだけ開発室(ここ)を見込んでのことよ。事実、できたでしょ?」

 

 ここまでの会話を聞き、彼は嫌な汗が背中をつたうのを感じた。

 開発室長とスコールの声に、隠しきれない期待感のようなものが入っていた。

 

(……まさか、碌でもないものが……)

 

 不安がよぎり、そこからの開発室長の話は全くと言っていいほど聞いてなかった。

 オータムが心配して声をかけても、彼は生返事をするだけだった。

 

 そうして辿り着いた目的地。

 降りてきたスコールの部屋(エレベーター)からかなり奥まで来ている。つまり、それほど優先度が高かったということだ。

 だが、トオルにとって重要な事は、部屋の番号ではなく完成品の出来栄えだ。

 その思いを読み取ったのか、開発室長はその部屋の扉を開いた。

 

「では、我ら開発員の技術の結晶をかき集め、さらには第一開発室まで使った至高の逸品。お見せしましょう。……っと失敬でしたかな」

 

 トオルが盲目であることを思い出して詫びるも、少しだけ空気が悪くなる。

 しかし当の本人は気にせず、部屋の中へ進んだ。その反応をどう受け取ったのか、室長は肩をすくめた。オータムからの視線がキツかったこともあるだろう。

 

「……どこにあるんですか?」

「えーと、どうしますか? このまま付けます?」

「そう、ですね。付けてから説明を受けます」

「では中央にベッドがあるので横になってください。その他の準備もすぐ済ませます」

 

 言われたとおり、トオルはオータムの助けを借りてベッドに寝転ぶ。

 慌ただしい足音と車輪の音が彼の耳に入る。

 スコールとオータムは少し離れたところから彼を見守っている。

 

 カートで運ばれてきたアクリルケースには、様々なコードが繋がれている『右腕』があった。

 この『右腕』の見た目は到底人間の腕には見えない。

 全体的に青のカラーリング。ナイフのように尖った指先。いかにも機械的(メカニカル)な見た目はあらゆるギミックを想像させる。

 思わずオータムは唾を呑んだ。

 

「アレが……トールの『義手』、なのか?」

「そうよ。途中経過の画像は見たけど……まさかここまでのモノになるなんて」

 

 二人の開発員が『右腕』を慎重に取り出し、ベッドの横の台に設置する。

 その時にオータムは、トオルが左手を握りしめているのを見つけた。

 彼女はスコールに目で問いかけると、スコールは小さく頷いた。

 

「準備が整いました。接続の際、激痛が発生すると思われますが……耐えてください」

「…………わかり、ました」

「頑張ってください。……では始めま」

「ちょっと待て!」

 

 ベッドを囲む白衣を押しのけ、オータムが割って入る。

 その行動にスコールを除いて全員が目を丸くした。トオルまでもが驚いている。

 

「オータム君、一体なに」

「おい、トール。正直に言え。……怖いだろ」

 

 二度もセリフを遮られ、室長は少し涙目である。

 トオルは彼女の言葉に、さらに驚いた。

 

「……オータムさん? いや、怖いってことは」

「左手、力入れすぎだ」

「ッ! ……敵わないな、貴女には。そう、怖いですよ」

「ったく、ならさっさと言えよ。……言っただろ、『私達は仲間だし、お前はまだまだガキなんだから。いまは甘えとけ』って」

「はは、そういや言われましたね」

 

 トオルは力を抜くと、左手を上げた。

 その手ははっきり解るほど震えている。

 

「……手、握っててください」

 

 オータムは無言でその手を両手で固く包み込む。

 トオルはしっかりと握り返した。

 そしてようやく室長が口を開いた。

 

「えー、空気が柔らかくなったところで、やりましょう」

 

 その一言で白衣をまとう彼らの雰囲気だけが変わる。

 トオルの手が強張るが、オータムが握るとそれも無くなる。

 

「最初は接続部に干渉機を埋め込みます。それから義手の接続、神経の接続に伝達テスト、最後に各種チェックを行います。恐らくですが、かなりの長丁場になります。ですが意識はしっかりと持ってください」

 

 トオルが頷くことを見て、室長はさらに気を引き締める。

 オータムは彼の手を痛くならない程度に強く握る。

 スコールは内心の感情を隠し、冷静な表情で彼らを見つめる。

 

 

「開始します」

 

 

 

 その一言で、長い戦いが始まった。

 

 

 

 




室長二人目。
ややこしくなりそうだから名前考えないと……
この義手ストーリーは長くなりそうなので、一旦切りました。

感想、アドバイス、批判、指摘等お願いします。
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