IS《Blind Revenger》―光を奪われた彼は復讐者と成る―【未完】   作:与祢矢 慧

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お気に入り、UA、評価ありがとうございます。
予想以上に増えて驚きました。

できれば感想が欲しいですが。


七話 覚えの無い再会:一

 

義手を付けてから数週間経ち、トオルはようやく慣れてきた。細かい動きや力仕事など、以前では無理だった仕事を率先して行うにもなった。

そして一週間ほど前から、彼は本格的ではないが戦闘訓練も受けるようになっていた。

 

「ハァ、ハァ…………ふぅ。よし、次で最後にするか」

「フゥハァ……は、い。わかり、ました」

 

訓練場の中央にいるのは二人。

汗をかき、息を乱しているものの余裕が見られるオータム。

対して見るからに疲労しているのはトオルだ。汗がポタポタと滴り落ち、呼吸も落ち着かない。

それでもグッと空気を飲み込んで、自分を奮い立たせる。

義手である右手の甲を相手に向けて、左手は腰に添えるように構える。それを見たオータムは同じ構えを取る。

二人の間の距離はおおよそ四メートル。互いに摺り足で距離を縮める。

トオルは乱れる呼吸を抑え、集中力を高める。

距離が二メートルまで狭まった。一瞬だけ、二人の思惑が交錯する。

 

(…………やってみるか)

 

思いついた策を頭の中で軽くシュミレートする。「いけるな」と確信し、聴覚に意識を向け、足音からオータムの位置を割り出す。

ズズッと彼女が一歩、摺り足を進めた時、トオルは深く踏み込んだ。

彼の耳が相手の息遣いの音を捉えた。

ここだ! と右手を握った。カシャンッと金属音が響く。

同時にオータムの右手が義手を押さえるようにずれる。思考を伴わない、反射行動だ。

目の前で風をきる音が聞こえ、トオルは策の成功を認識した。

左手を握りしめ、オータムのガラ空きの右半身に正拳突きを放つ。

 

「うお、あぶねッ!」

 

オータムは右腕の下から左手を通して、なんとかそれを防ぐ。

畳み掛けるように、トオルは右足で蹴り上げた。オータムは右手でとっさにガードする。

(よし!)

 

トオルは勝利を確信した。

相手は両腕をクロスさせて防御している。その交わっている部分を、右腕で掴んで床に押さえ込む。

勢いよく腕が下され、オータムの姿勢ががくっと崩れる。

そして、トオルの手刀が静かにオータムの首元に添えられた。

 

「……俺の勝ち、ですね」

「……見事にやられたよ」

 

その言葉を聞くと、トオルは全身の力を抜いて寝そべった。 オータムは立ち上がって大きく伸びをする。

すると二人同時に腹の虫が鳴った。

 

「……ふふっ」

「はは、いやー腹減りましたね」

「時間が時間だしな。さっさとシャワー浴びて飯食おうぜ」

「了解です。じゃ、またあとで」

 

のそりと起き上がってシャワー室に向かおうと歩き出す。彼女も同様にしようとする前に、彼の名を呼んだ。

 

「そうそう、トール」

「なんですか?」

 

振り向いてそちらに向いた。

 

「……強くなったな」

「っ! はい、ありがとうございます!」

「『あっち』の訓練も順調なんだろ?」

「ええ、ウルフさん(閲覧室長)の感覚訓練のおかげで、ここまでできるようになりましたから」

 

それでは、と告げて彼は小走りで去っていく。右掌を開閉するその背中を見届けて彼女もシャワー室へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、実際どんなことやってるんだ?」

 

朝食のサラダを頬張りながら質問する姿はお世辞にもお淑やかとは言えないが、そのことは彼女自身が知っている。

 

「……感覚訓練のことですか?」

 

スプーン丁寧にスープを飲み、パンを手に取る。その何気ない所作は『普通の人』に見えるが、彼は盲目だ。さらには右腕が義手となっている。だがここ数週間でその才覚を発揮し始めていた彼にとって普通のことになっていた。

がぶっとパンをかじり、咀嚼して飲み込む。

 

「そうですね……、例えばこのテーブル上に何枚の皿があるか。オータムさんが何を口にしているか。この食堂に今何人いるのか、などを知る訓練です」

「簡単そうに言ってるけど、物凄く難しいからな、それ」

 

知ってますよ、と言って再びパンをかじる。

オータムはその動作を止め、目の前の風景を少しの間眺めることにした。

探ることなくフォークを手に取ってベーコンを食べる。コップを持って少し振り、水がないとわかると人に当たることなく給水器まで歩いて、戻ってくる。

とても目が見えないとは思えない。

席に着くとトオルは深く息を吐いた。

 

「それに、かなりの集中力がいるから、ずっと使えるわけでもないんです」

 

食事を再開する。オータムもそれに倣った。

カチャカチャと食器のぶつかる音に混じって義手の機械音が聞こえる。

朝の食事時間もピークにさしかかり、起床してきた人や訓練あがりの者も増えてきた。

混雑しだす前に、二人は自室へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

義手にコードをつなぎ、簡単な診断を行い、自分でも説明書を読み込みながら整備する。

最低限のことはできるようにある程度の指導は受けていた。

一通り終えると、トオルは感触を確かめるように、、ゆっくりと掌を動かす。

これは彼の癖になっていた。

 

「……これで、俺も守れる」

 

誰に告げるものではなく、無意識に口が動いていた。頭に浮かぶのは、オレンジ色の髪をした姉のような存在。だがいつの間にか、それ以外の想いを抱きつつある。

安全とは言い切れない環境で生きる以上、それは隣り合わせだ。

 

彼はもう、喪いたくない。

そしていつの日か、復讐を。

 

「……よし! 頑張るか」

 

気合いを入れ直し、訓練場に向かおうとした時、部屋にコール音が鳴り響いた。

 

「はい、トオルです」

『招集よ。いまから十分後に司令室に来なさい』

 

相手はスコール。だがその声にはいつものふざけた雰囲気は含まれてなかった。

 

『あなたにとって初任務よ』

 

待ち望んでいた言葉に、彼の心は震えた。

思わず右手で小さくガッツポーズをする。ガシンッと義手から力強い音が響いた。

 

さぁ、まずは第一歩だ。

 

 

 

 

 




どうでしょうか。
続きもできるだけ早く投稿します。

感想、アドバイス、指摘、誤字等あればお願いします。
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