緋弾のアリア ―灰色の目の少年―   作:オリーブの枝

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やっとここまで書けましたって感じですね。

今回は物語の核となる人物が……!?


それでは、本編どうぞ。


4. Nero

 

 

結局アリアは本当に泊まることとなった。

寝室にある二つの二段ベッドの、俺からなるべく遠いところを陣取ったアリアは俺のことなどお構いなしに爆睡し、あまつさえ「うぅ……も………ももまんピラミッド………」などと寝言を言っている。

 

相当幸せな夢を見ているようで、にやけた口元からはよだれが垂れている。

……。うん。放っておこう。

 

 

 

そうして俺は明日が今日よりも平和でありますようにと叶わぬ願いを胸に眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふあぁあぁ。」

 

今日もいい朝だ。

アリアはまだ寝ているのか、すやすやと寝息が聞こえる。

寝ぼけ眼で就寝前に枕元に置いたはずの携帯で時間を確認しようとするが、無い。

 

 

「確かここに置いたと思ったんだけどなぁ。よっと。」

 

ベッドを出て辺りを見回すと、なんだか違和感を感じる。

 

 

 

「あぁ、あった。」

 

携帯電話は机の上に置いてあった。

しかし、なんだろうか。この違和感の原因は。

 

 

 

リビングに置いてあったはずの通学鞄が寝室に置いてある。

 

ノートパソコンが開いている。

 

壁にかかっている制服の順番が逆になっている。

 

 

 

部屋の中のすべてのものが動かされている。

よく見るとベッドの位置まで微妙にずらされている。

 

 

初めは強盗や空き巣の類かと思ったが、いくら卵といえど武偵が何百人もいるここでそんなことをやらかす奴もいないだろうし、ベッドまで動かす必要性はないはずだ。

愉快犯か、あるいは別の何か――そう、たとえば昨日俺を狙った武偵殺しの模倣犯のような――による宣戦布告か。

 

こうなると自分の家と言えど安心はできない。

 

 

もしかすると犯人がまだいるかもしれない、そんな可能性を念頭に置いて行動しなければならないだろう。

 

 

置く向きが上下逆になっていた銃を手に取り、警戒しながらドアを一気に開ける――

 

 

 

 

 

 

 

 

――「「動くな!」」

 

 

 

 

 

 

そこにいたのはこちらに銃を向け小さな身長で威嚇するように仁王立ちしている朔夜の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

「銃を足元に置いて。両手を上げて後ろを向いて壁に手をついて」

 

 

「朔夜、待て。とにかく話をしよう」

 

「話はあと。今はボクのいうことに従って。さもなければ撃つ。」

 

 

そういっている朔夜の目は笑っていない。本気だ。

きっと俺と似たような理由で警戒しているのだろう。

 

しかし、朔夜の目は俺よりも強い確信を宿しているようだ。

ここは素直に従っておくべきだろう。

 

それにヒステリアモードでもない俺は、ただのEランク武偵。腐ってもAランクの朔夜に正面から勝てるわけがない。

 

 

俺はベレッタをそっと床に置き、手を頭より高い位置で壁につける。

朔夜は依然として愛銃のFN57を俺に向けながら近づいてくる。

 

「このままで、話を聞こう。少しボディーチェックをしながらになるけど、気にしないでね。」

「それはいいが……。特に何か持っていたりもしないぞ。」

 

俺の言葉を聞き流し、朔夜は俺のポケットや服を触って何もないか確認している。

 

「なあ、朝起きたら部屋の中が誰かに侵入されたようになっていたんだがそれと関係あるんだよな?」

「まあ、そうだね。あー、ここに座って。口を開けて」

 

椅子を二つ向かい合わせに置き、朔夜は俺に示した方じゃない方に自ら座る。

 

 

「こんな感じか?」

「そう。うん……うん。オッケー。じゃあ次は手首を出して」

 

どこからか取り出したペンライトで俺の口内を確認する朔夜。

何をされているかわからないのだが、言われたとおりに右手を朔夜に差し出す。

 

「まあ、本当はこんなことをしても意味はないんだけど。とりあえず、君が本当にキンジだという前提で話をするね。」

「俺が俺だという前提……?」

 

「そう。まずこれを見てくれ。」

 

 

朔夜が指し示したのは、クレジットカード大の二枚の黒いカードだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、これがキンジの。こっちがボクの。」

 

朔夜に差し出されたカードを見る。

黒字に白で文字が書いてあるが、英語なのだろうか、とにかく筆記体で読めない。

 

「はぁ……これくらい中学生でも読めると思うんだけど。君の方にはこう書いてある『初めましてキンジ君。君の全てをいただいた。どうか私を楽しませておくれよ。』それでボクのがこう。『久しぶりだね朔夜君。お兄さんは元気にしてるかい?今回は君の全てをいただいた。また会おうではないか。』」

 

 

 

「はぁ。日本語で聞いてもよくわからないんだが、特に『君の全てをいただいた』ってのは何が言いたいんだ?」

「あー、やっぱり日本ってのは世界情勢に疎いのかな?それともキンジだけか。まあいい、キンジ、(ネーロ)って知ってるかい?」

 

 

「なんか聞いたことあるな。世界を飛び回っている大怪盗、変装術の達人。そんなところか?日本での犯行は多くないらしいけど。」

「そう。そして彼、いや本当の顔は誰も見たことがないから彼女かもしれないけど、実在する人物の変装をするときに『君の全てをいただいた』って書いた黒いカードを残すんだ。それが、これだよ。」

 

 

朔夜は机の上に置かれたカードを忌々しげに爪の先で叩きながら言った。

 

 

(ネーロ)の変装は完ぺきだ。顔つきや体型だけでなく、身長・指紋・声紋・癖や、どうやっているのかDNAすらその人と全く一緒なんだ。だからもしかしたら君が、或いは僕が(ネーロ)かも知れない。このカードを贈られた人は一生黒かも知れないという疑惑を向けられながら過ごすしかないんだ。」

「DNAまで……?そんなこと可能なのか?探せばどこか違いがあるんじゃないのか?」

 

「あぁ、みんなそう考えたさ。確かに、(ネーロ)が変装するとき彼――面倒だから男性だってことにしておくけど――は必ずどこか本人とは違うところを作っておく。そう、わざとだ。彼は警官や武偵が正体を見抜けるかゲームをしているんだ。実際、初期の彼の変装は完ぺきだった。完全な本人の模倣、むしろ本物だった。本人に話を聞いたという記者によると、彼は変装するとき心まで偽るために自己暗示をかける。他人を騙すにはまず自分からってわけだ。その自己暗示に囚われてしまわないようにしてるんだとさ。」

「つまりさっきのはその確認ってわけか」

 

「そう。歯型も脈も見たけど、いつものキンジと違うところはなかったよ。まあまだ疑惑が完全に晴れたわけじゃないけどさ、これ以上疑ってもしょうがないからね。」

「しかし、なんでそんなに詳しいんだ?」

 

 

 

そう訊くと、朔夜は一度黙り込んでしまう。

 

 

訊いてはいけない質問だったんだろうか。

 

 

 

「もし言いたくなければ言わなくてもいいからな」

 

「いや、言うよ。このくらい世界規模でみればよくある話だろう。」

 

 

 

 

 

 

 

そういって一度言葉を切り、呼吸を整えて朔夜は語りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言ってなかったかもしれないけど、ボクには兄さんがいるんだ。いや、いたんだ。」

 

 

あれはボクが十三歳くらいの頃だったかな。

 

 

「兄さんはボクの五歳年上だから、その時兄さんは十八。大体今の僕らと同じか、少し上くらいだね。」

 

 

兄さんは普通の高校に通っていた。

 

 

「ある朝、起きてリビングに行ったら泣いている母さんと愕然としたように動かない兄さんがいた。」

 

 

何があったんだろう。それを知るのもとても怖かった。

 

 

「兄さんは上の空なまま僕にこの忌々しいカードを渡してきたんだ。」

 

 

母さんは(ネーロ)にカードを贈られた者の末路を聞いていた。

 

 

「翌日やっと立ち直った兄さんは、きっと大丈夫さと笑顔で学校に向かった。」

 

 

いつでも家族に心配をかけまいとする人だった。

 

 

「夕方、学校から帰ってきた兄さんの目にいつもの笑顔はなかった。」

 

 

クラスメイトは皆兄さんのことを犯罪者を見るような目で見ていたそうだ。

 

 

「日を追うごとに兄さんの笑顔は減っていった。」

 

 

学校にもだんだん行かなくなっていった。

 

 

「ボクも、母さんも、いつもはあんなに厳しい父さんでさえ兄さんに気遣って優しくふるまった。明るくふるまった。」

 

 

だけど兄さんの笑顔は戻らなかった。

 

 

「ある日、兄さんは起きてこなかった。」

 

 

ボクは部屋を見に行った。

 

 

「兄さんはいなかった。書置きだけが残っていた。」

 

 

白紙の、サインだけが書かれた書置きが。

 

 

「だからボクは武偵になろうと決めたんだ。兄さんを探すために。」

 

 

(ネーロ)を捕まえるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前も……兄さんを………。」

 

「長々と話しちゃってごめんね。ボクが武偵校に来たのは、そんな不純な目的さ。それに似たような境遇のキンジに、何かシンパシーを感じていたのかもしれないね。」

 

どこか諦めたような顔で、朔夜は言う。

 

「いや、いいんだ。こっちこそ、ごめんな。」

「でも、結局ボクもこのざまさ………。」

 

 

 

 

 

――うえっ、うえっ。

 

 

 

 

「アンタ、そんな過去があったのね……。よし、私にも協力させなさい!」

 

 

いつの間に起きてたんだ、アリア。

確かにかなりしゃべっていたような気がする。

 

「でも、腹が減っては戦はできぬ、よ。お腹減ったわ!何か食べ物!」

「お前昨日ももまん八個食ったろ」

「ももまんは別腹にきまってるじゃない!」

「お前の胃は二等分されてんのか」

 

「ふふっ。わかったわかった、ちょっと話し込んでて時間無いから簡単になっちゃうけど、今適当に何か作るから待ってて。」

 

 

朔夜はいつからアリアのお母さんになったんだ……。

とにかく、辛気臭い雰囲気をアリアが吹き飛ばしてくれたのでそこだけは感謝だ。

 

 

「ほーらー。早く支度しないと58分のバスに乗れなくなっちゃうよ!ほらできたよ、早く食べて!君たち武偵でしょ!」

「あーわかったよ母さん」

「誰がかあさんだよ!怒るよ!」

「もう怒ってるじゃない。でも確かに、お母さんにしては背が小さいわね」

「アリアに言われたくなーい!ボクの方が大きいんだからね!」

「アンタは男じゃない。」

「ムキーーーー!!」

 

 

「ヤバい、アリア、逃げるぞ!」

「そうね、そうしましょ!」

 

 

 

「こーらー!!あ、待って、ボクまだ支度してない!ちょ、まってってばぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は、本当に遅れそうになった朔夜が身長に見合わないでかいバイクで登校してきてみんなを驚かせたり、アリアが放課後俺の猫探しの依頼に付きまとってきて俺の底辺(Eランク)っぷりをしっかり見て行ったりはしたものの、平凡な一日だったと言っていいだろう。

 

 

 

 

翌日。

俺は女子寮の前の温室にいた。温室――つまりでかいビニールハウスで、花を愛で、蝶と遊ぶような女子がほんのわずかしかいない武偵校では全くと言っていいほど人気のない、つまり秘密の打ち合わせには便利な場所だ。

 

 

「理子。朔夜。」

 

 

「キーくぅーん!」「やぁキンジ」

 

バラ園の奥、女子が作戦会議などをするために置いてあるバラに囲まれたおしゃれな丸テーブルでチェスをしていた理子と朔夜がこちらに振り向く。

 

理子も朔夜もアリア並みに背が低いが一般的には美少女の部類に入る。ん?美少女?うん。

 

くりくりと大きな目にゆるいウェーブのかかったツーサイドアップの理子は制服に白いレースやフリルをつけて改造している。

 

朔夜は今日は制服こそ普通だし理子と一緒にいることも考えたのか黒髪ロングのウィッグをつけてはいるが普段はコスプレしたり奇抜な髪色・髪型のウィッグをつけたりして、クラスメイトが朔夜を判別できる要素はその奇抜なファッションと優しげな眼、どの男子よりも低い身長だけだ。

 

 

 

「相変わらずの改造制服だな、理子。」

「これは武偵校の女子制服・白ロリ風アレンジだよ!キーくん、いい加減ロリータの種類くらいおぼえてよぉ」

「だが断る。いったい何着持ってるんだか……」

 

指折りかぞえはじめた理子は置いておき、朔夜にも声をかける

 

「よ、今日はいつもみたいな奇抜な格好(コスプレ)してないんだな」

「そう思う?」

 

そういって朔夜がくるっと後ろを向くとセーラー服の背中の裾のところがパックリあいていた。

 

「なんでそんな分かりずらい所を……。」

「見えないところに手をかけるのが真のおしゃれ!っていうか、このくらい普通普通」

 

 

楽しそうに言う朔夜にあきらめた俺は持ってきた紙袋に手をかける。

 

 

 

 

「おい、いいかお前ら、ここでのことはアリアには秘密だぞ。」

 

「らじゃ!」「もちろんだよ」

 

 

俺がそれぞれに別の紙袋を差し出すと、理子は俺の手からひったくり、朔夜はうれしそうに両手で受け取った。

 

「うわぁー!『しろくろっ!』と『白詰草物語』と『(マイ)ゴス』だよぉーー!!」

 

俺が理子に持ってきたのはR-15指定、つまり15歳以上でないと購入できないいわゆるギャルゲーだ。

 

服装や趣味からわかると思うが、理子はオタクだ。

しかし世間一般に言うオタクと違うところは、ギャルゲー、しかも自分と同じようなヒラヒラでフワフワの服を着たヒロインが出てくるものに強い関心を示すところだ。

もちろん理子も15歳以上なので、これらのゲームを買うことはできる。しかし先日、理子はゲームショップも兼ねている学園等のビデオ屋でR-15のゲームを売ってもらえなかったと文句を言っていた。バイトのお姉さんが理子の身長を見て中学生と判断したらしい。そこで代わりに俺が買ってきてやったというわけだ。こんなものを買うのは死ぬほど恥ずかしかったし店員のお姉さんにはあらぬ誤解を受けてしまったに違いないが、これもアリア対策のためだ。

 

アリアがなぜ、俺をドレイ(・・・)にしたがるのか?それがアイツを追い払うために解明しなければならない第一の謎なのだ。

それをあいつ自身が教えてくれない以上、こちらから能動的かつ多角的に調べ、推測して対処するしかない。

武偵同士の戦いは、まず情報戦からと相場が決まっているのだ。

 

因みに朔夜に渡したのは駅前の人気のパン屋で売っている30個限定のプリン。実はこちらの方が大変だった。

 

 

「あー……。これと、これはいらない。理子、こういうの嫌い。」

 

あれ。理子が好きそうなパッケージを選んで買ってきたはずなんだが。

ふくれっ面になった理子が突き返してきたのは『(マイ)ゴス』の2と3、続編だ。

 

「なんでだよ。これ、ほかと同じような奴だろ。」

「違う。『2』とか『3』なんて、蔑称。個々の作品に対する侮辱。嫌な呼び方。」

「まあ……とにかく、じゃあその続編以外のゲームをくれてやる。そのかわり、こないだ依頼した通り、アリアについて調査したことをきっちり話せよ?」

 

「――あい!」

理子はまごう事なきバカで、今もいまいちわけのわからない敬礼をしているが、バカはバカなりに長所を持っている。ネット中毒・ノゾキ・盗撮・ハッキングなど、まことに武偵向きの趣味を持った理子は、情報収集が並はずれて上手いのだ。言わば現代の情報怪盗だ。

もちろん、情報科に所属してAランクを持っている朔夜も理子と肩を並べるほど、いやそれ以上にうまいのだが、その精度の高さにより、特に個人情報についてはとても高い。仕事モードに入った朔夜は以外にも頑固で譲ってくれないのだ。貧乏学生の俺にとって、朔夜の情報は高すぎる。ある程度の精度と安さを兼ね備えた理子は、今の俺にとって都合がよかった。

 

「早くしてくれ。アリアにはトイレに行くって言って窓から抜け出してきたんだ。アリアにばれて捕捉されるのは時間の問題なんだからな。」

「ねーねー、キーくんはアリアの尻に敷かれてるの?カノジョなんだからプロフィールくらい自分で聞けばいいのに」

「カノジョじゃねえよ」

「えー?二人は完全にデキてるって噂だよ?キンジがアリアと手つないで寮から出てきたっていうんで、アリアとさーやのそれぞれのファンクラブの男子が『キンジ殺す!』って大騒ぎになってるんだもん。がおー。」

「なんで朔夜まで」

「『なんで朔夜ちゃんと住んでるのにほかの女に手を出してるんだー』って」

「そもそも朔夜は女じゃねえし」

 

 

そんな朔夜は今俺の隣で幸せそうに俺が買ってきたプリンを食べている。

好きなものを食べるときに周りの音が聞こえなくなるタイプらしい。

 

 

 

手をつないで……ってのは昨日の朝、怒った朔夜をからかってた時のことか。

 

「ねーねー、どこまでしたの?」

「なにを」

「えっちぃこと」

「するか」

「さーやとは?」

「こいつは男だ」

「こんなに可愛い子が女の子のはずがない」

「何言ってんだお前」

 

こいつはいつもそっち方向に話を飛躍させる。

 

 

 

 

「それより、本題だ。アリアの情報……そうだな、まずは強襲科での評価を教えろ。」

「はぁい。んと、まずランクだけど、Sだったね。2年生でSランクって、片手で数えるほどしかないんだよ」

 

あの身のこなしから、それは想像できていた。

 

「理子よりちっこいのに、徒手格闘もうまくてね、流派は、ボクシングから関節技まで何でもありの……えーと、ばりぃつどぅ?」

「バーリ・トゥードな」

「そうそう、それ。イギリスでは縮めてバリツって呼ぶんだって。」

「それに拳銃とナイフの扱いは、もう天才の領域。どっちも二刀流なの。両利きなんだよあの子」

「それは知ってる」

「じゃあ、二つ名も知ってる?」

 

 

豊富な実績を誇る有能な武偵には、二つ名がつく。

アリアは弱冠16歳にして、二つ名を持っているというのか。

 

 

知らない、と顔を向けると、理子はニヤリと笑い、

 

 

 

「「双剣双銃(カドラ)のアリア」」

 

プリンをやっと食べ終わった朔夜が理子に声をかぶせてきた。

 

「ヨーロッパでは有名だったよ。ボクがここの前に通ってたローマ武偵校でも校長が全体集会で『このような実績を残せば、あなたがたぐらいの年でも二つ名を付けられるほどの武偵になれるのです』ってさ。ローマでは会ったことないけどね。ほら、ボクCVR(ロメオ)だったし。アリアは14歳で武偵活動を始めてから、一回も犯罪者を逃がしたことがないんだってさー。」

 

「逃がしたことが――ない?」

 

 

俺の質問に、今度は理子が答える。

 

 

「狙った相手を全員捕まえてるんだよ。99回連続、それもたった一度の強襲でね」

「なんだ、それ……。」

 

 

 

犯罪者の逮捕などという仕事が武偵に任される場合、たいていは警察の手に負えない凶悪犯罪者だ。

ふつう、武偵はそれをしつこく強襲してやっと逮捕するものだ。それを99回連続で一発逮捕する奴に俺は追われているのか……。

 

 

そんなことを考えていると気が滅入ってくるので話題を変える。

 

 

 

「ほかには。例えば……体質とか」

「うーんと、アリアってお父さんがイギリス人とのハーフなんだよ」

「ってことはあいつクウォーターなのか」

「そ。で、イギリスの方の家がミドルネームになってる『H』家なんだよね。すっごく高名な一族らしいよ。おばあちゃんはDame(デイム)の称号を持っているんだって。」

「デイム?」

「イギリスの王家が与える称号の一つだよ。叙勲された男性はSir(サー)、女性はDame(デイム)なんだ」

「ってことはあいつ貴族じゃねーか」

 

 

お前らは俺に質問されるたびに交代する約束でもしてるのか。

そのまま朔夜が続ける。

 

「そう、でも彼女は『H』家の人とはうまくいってないんだって。だから家の名前を言いたがらないんだ。」

「まあ理子は知っちゃってるけどねー。あの一族は、ちょっとねー」

「おしえろよ。ゲームやっただろ」

「理子は親の七光りとかそういうの大っ嫌いなの。まあ、イギリスのサイトでもググればアタリくらいはつくんじゃない?」

「俺、英語苦手なんだよ」

「さーやに頼めば?」

「イヤ!ボクだって忙しいんだよ。こうしているときが一番の安らぎ。」

 

「だぁってさぁ!、キーくぅん!がんばれぇ!」

 

 

と、俺の背中をたたこうとしたらしい理子の手が空振り、俺の手首をぶっ叩いた。

 

 

 

――がっちゃ

 

「うりゅ!?」

 

 

 

その勢いで、俺の腕時計が外れて足元に落ちた。

拾ってよく見ると、バンドの留め具が壊れてしまっている。

 

 

 

「ごめーん!修理して返すね!」

「別に安物だからいいよ。二千円もしなかったし。」

「イヤ、クライアントの持ち物を壊したなんて、理子の信頼に関わっちゃうから!」

 

 

そういって理子は俺から時計を奪うと、セーラー服の襟首から、胸の間に入れてしまった。

 

うおっ。

 

 

 

「キーくん?ほかには?」

「い、いや、いい。」

 

理子の前でヒステリアモードになりたくはないし、このままだと胸元を見てしまったのを感づかれそうだ。

こういう時はさっさと逃げるに限る。

 

 

「じゃあ、行こうかキンジ。」

「あ、ああ。」

「あ、じゃーねさーや、キーくーん!」

 

 

「じゃあな」

「またねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何色だったの?」

「金。ああいうのもあるんだな……。」

 

 

 

 

 

 

 

 




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