緋弾のアリア ―灰色の目の少年―   作:オリーブの枝

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いやぁ、投稿遅れてしまって申し訳ないです。
一応月曜更新を目標にしてはいるのですが。


いらないところはどんどん削って、早くオリ話を進めたいですね。
今回もそんなところがありますが、オリ話的にはまだまだ核心には至ってません。

今回の話で、そっちにも興味を持っていただけたらと思います。


こんなことをだらだら書いていても仕方ないので、


本編、どぞ。


5. La Decisione

 

 

 

 

 

温室からの帰り道。

辺りはすでに赤く染まっていて、沈みかけた太陽が俺たちにそろそろ帰る時間だと告げているようだった。

 

 

 

「あ、そうだ、忘れてた。」

「どうしたんだ?」

 

朔夜は俺の質問に答えず、おもむろに制服のポケットから犬笛を取り出す。

 

「犬!」

 

そう叫ぶと、大きく息を吸い込んだ朔夜はその犬笛を思いっきり吹いた。

 

 

 

当然だが、人間の俺たちには犬笛の音はほとんど聞こえない。

 

 

 

遠くの方から走ってくる人影が見える。

 

朔夜はそちらに振り向いて、手を上げる。

 

「おーい、こっちこっち。」

 

 

 

どうやら朔夜が犬笛を吹いたのはこのためだったらしい。

 

「誰だ?知り合いか?」

 

「うん、ボクの戦妹(アミカ)。」

「お前、戦妹(アミカ)なんていたのか?」

「あぁ、昔の知り合いが武偵校に入るって聞いてね。」

 

 

戦妹(アミカ)というのは、武偵高の先輩と後輩が二人組を作る制度で、これは先輩に技術やらを教えてもらえる後輩だけでなく、先輩側にも後輩を小間使い(パシリ)にできたりと双方にそれなりのメリットがある。戦姉妹(アミカ)をなかなか組めない生徒に教務部が斡旋したりする制度もあり、武偵校のほとんどの生徒は戦姉妹(アミカ)――男同士の場合は戦兄弟(アミコ)とも言うが、男女間で結ぶこともでき、アミカの方が通りはいい――を組んでいる。

もちろん朔夜に戦妹(アミカ)がいてもおかしくはないのだが、そんな話を一度もしたことがなかったからな。

 

 

「朔夜姉さま!!」

「やあ、イヌ。」

 

朔夜に犬――あだ名だろうが――と呼ばれた女子生徒は、その名通り尻尾があったらぶんぶん振っていそうなほど嬉しそうに朔夜のもとに駆け寄る。

彼女は女子にしては身長が高く、長い黒髪を後ろで束ねてポニーテールにしている。

 

 

 

「ご機嫌麗しう、ですわ。この方はどちらなのですか?まさか………お姉さまの恋人!?」

「そうそう、そうなんだ」

「キャッ!ついにお姉さまにも……」

 

 

こいつもか!

 

というか、昔の知り合いというのなら朔夜が男だと知っていそうなもんだがなんでこいつは朔夜のことをお姉さまと呼んでいるのだろう。

 

 

「違う!普通に友達だ。」

「もう。つれないなあ……。彼は、遠山キンジ。ボクのルームメイト。キンジ、この子はボクの戦妹(アミカ)で、蝶番 犬美(ちょうつがい いぬみ)。わんこって呼んであげてね。」

「すごい名前だな……。」

 

美しい蝶の間に番犬って、なかなかシュールだな。

 

 

 

「初めまして、犬美です。朔弥お姉さまがいつもお世話になってますわ。で、姉さま。どのようなご用件で?」

「ああ、昨日頼んでおいた調べ物は終わったかなと思ってね。っていうか、さすがに分かってて言ってるだろう?」

「様式美ってやつですわ。もちろん完璧に調べあがっておりますわ!……と、言いたいところですが、(ネーロ)の足取りは未だはっきりとは掴めず。いつもの怪電波は発信されていますが、ここ武偵校を中心に半径三十キロの広範囲に広がっており、正確には。しかし、武偵校を中心に活動しているのは明らか。生徒の中に紛れ込んでいるのかもしれませんわ。十分ご注意くださいませ。」

 

なるほど、戦妹(アミカ)の蝶番に(ネーロ)について調べさせていたのか。

ということは、こいつも朔夜の過去を知っているという認識でいいのか?

 

 

「ありがとう。武偵校の生徒で僕たち以外にカードをおくられた人がいないかも調べておいてくれ。」

「それに関しては現在調査中ですわ。それと、(ネーロ)のものと別に特徴的な電波が観測されたこともあり、そちらも調査中ですわ。」

「ありがとう。また何かあったら、連絡してくれ。」

「分かりましたわ。調査料は膝枕でイタダキますから。」

「はいはい……。」

 

「それでは、ごきげんよう!」

 

膝枕という言葉に顔をにやけさせた蝶番は、こちらの方、正確には朔夜の方をちらちら振り返りながら走って去って行った。騒がしい奴だ。

 

 

 

 

「なんなんだ、あいつ。」

「ボクの……幼馴染?みたいな感じ。小さいころからよく遊んでてね。ああ見えて広域の情報収集能力は結構高いんだよ。彼女は武偵犬を何匹も飼っていてね。探すよりも犬笛で彼女の犬経由で呼んだ方が早いんだ。」

「どっちかっていうと蝶番がお前の武偵犬って感じだったけどな。」

 

 

持つべきものは使える後輩だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもう!開かないじゃない!」

 

俺たちが家に着いたのと朔夜のセキュリティに匙を投げたアリアが俺たちの玄関ドアを蹴飛ばすのはほぼ同時だった。

 

「おい、お前なんでここにいるんだよ。っていうか、人んちのドア蹴ってんじゃねえよ。」

「レディーを玄関で待ちぼうけさせておいてひどい言いぐさね。」

「人んちのドアこじ開けようとして失敗したからって蹴るような奴はレディーとは呼ばんぞ、でぼちん」

 

さすがの朔夜もあきれ顔だ。

せめて穏便に訪ねてこい。いや、来るな。

 

 

 

「でぼちんってどういう意味よ。」

「額のでかい女のことだ。」

 

 

鍵を開ける俺の後ろからの言葉にぶっきらぼうに答える。

 

 

「あたしのこのおでこの魅力が分からないなんて!アンタいよいよ本格的に人類失格ね」

 

 

可愛いとは思うが。喋らなければな!!

 

 

 

「魅力があろうがなかろうがでぼちんはでぼちんだろ。」

「このおでこはあたしのチャームポイントなのよ。イタリアでは女の子向けのヘアカタログにも載ったことだってあるんだから。」

 

だめだ。話を聞いちゃいない。

俺の横をすり抜けたアリアは部屋の主よりも早く部屋に入り鼻歌を歌いながら速攻でくつろぎ始める。

 

 

「事実か?」

「残念かもしれないけど事実。」

 

「なるほど。さすが貴族様は身だしなみにも気を使っていらっしゃるわけだ。」

「あたしのこと調べたわね?」

 

なんでうれしそうなんだよ。

 

 

「ああ。本当に今まで一度も犯罪者を逃したことがないんだってな。」

「へえ、そこまで調べたんだ。ようやく武偵らしくなって来たじゃない。でも、こないだ一人逃がしたわ。生まれてはじめてね!」

 

なぜかアリアは俺を睨みながら言ってくる。

 

 

「そうなの?ボクもそんな話聞いたことないけど。」

「あら、朔夜も見てたじゃない。アンタのことよ、遠山キンジ。」

 

 

 

「は、はあぁぁ!?なんで俺がカウントされてんだよ!俺は犯罪者じゃないぞ!」

「あたしに強猥したじゃない!あんな真似しといてしらばっくれるつもり!?」

「だからあれは不可抗力だったんだって言ってるだろ!それにそこまでのことはしてねえよ!」

 

「まあまあ二人とも……」

 

「アンタたちならあたしのドレイになれるかもしれないの!強襲科に戻って、あたしから逃げたあの実力をもう一度出してみなさい!」

「あれは……あの時は、たまたま運が良かっただけなんだ!俺はEランクのたいしたことない武偵なんだよ。お前の求めるような力は持ってない。出て行ってくれ。」

「嘘よ!アンタの入学試験の時の成績、Sランクだった!」

 

――う。そこまで調べられていたのか。武偵は情報戦。そこを握られてしまうと反論がしづらくなってしまう。

 

「つまりあれは偶然なんかじゃなかったってことよ!あたしの直感に狂いはない!」

「と、とにかく……い、今は(・ ・・)ムリなんだ!出ていけ!」

 

 

 

 

「キンジ!」

 

 

 

 

 

今は(・・)?ってことは何か条件があるのね?言って見なさいよ。あたしが協力してあげる(・・・・・・・)から。」

 

 

 

 

そう言われて、俺はかあああああっと、赤くなってしまう。協力してあげるって、それはつまり、俺を『性的に興奮させる』ってことだ。

アリアは知らないから気軽に言ったんだろうが、俺にとっては爆弾発言だぞ、それ。

 

 

 

「……はぁ。アリア、そう言うことは気軽に言わない方がいい。もしもそれが君が命の危機に陥ることだったり、ほかの人が犠牲になることだったらどうするつもりなんだい?」

「ってことは、アンタも知ってるのね!教えなさいよ!」

「これは彼にとって相当デリケートな問題なんだ。君みたいな部外者が、気軽に首を突っ込んでいい問題じゃない。」

「そんなの知らないわ!あたしにはドレイが必要なのよ!あたしには、時間が………時間がないの…………。」

 

 

すでに泣きそうなアリア。朔夜も、自分が泣かしたようで落ち着かないのか、困惑顔だ。

さすがに女子に泣かれてそれを無視できるほどの屑ではない。

 

 

 

 

あんな忌まわしいモードにはなりたくない……。絶対になりたくないが……。

 

 

 

 

 

俺は仕方なく、最大限の譲歩をすることにした。

 

「……一回だ。」

「へ?」

 

「強襲科に戻ってやるよ。ただし、お前と組んでやるのは一回だけだ。戻ってから最初に起きた事件を、一件だけ、お前と一緒に解決してやる。一件だけ、それが条件だ。だから転科じゃない。自由履修として、強襲科の授業をとる。それでもいいだろ。」

 

 

アリアはようやく泣き止み、こっちを向いて、何やら考え始めた。

 

 

 

 

 

アリアは何のためだか知らないが、ドレイ――自分の手駒を欲しがっている。そしてヒステリアモードの俺に出会い、取り逃がしたことで、目をつけたのだ。

 

 

「でもキンジ、ほんとにいいのかい?わかってると思うけど、これは一種の賭けだよ。」

「ああ。要は、俺が本当に何にもできないただのEランク武偵だってことがわかればいいんだ。」

 

 

アリアは考えがまとまった様子で、しっかり俺と目を合わせていう。

 

「分かったわ。この部屋から出て行ってあげる。あたしにも時間はないし、その一件でアンタの実力を見極めるわ。」

 

「迷い猫探しとか、どんなに小さな事件でも、一件だからな。」

「銀行強盗とか、どんなに大きな事件でも、一件よ。」

「分かった。」

 

「ただし、手抜いたりしたら風穴だから。」

 

「ああ、約束する。全力でやってやるよ。」

通常モードの全力で、な。

 

 

 

 

「あーあ。これだからキンジは。何もないといいけど……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、俺は強襲科で散々罵倒(かんげい)されながら強襲科の授業を終えた。強襲科では「死ね」と言われて「お前が死ね」と言うのは親愛表現である。

入学試験の時の俺を知っているこいつらは、みんながみんなにこにこしながら俺に「死ね」「死ね」と言ってくる。

ずーっとついてくるアリアを巻こうと暇つぶしにストレス発散も兼ねてゲーセンにでも行こうとするが、結局アリアはゲーセンまで着いてきてしまった。

曰く、ゲームセンターというところには行ったことがない、らしい。

 

店内を覗くと、ガンシューティングで高得点をたたきだす朔夜の姿があった。

丁度終わったとこらしく、こっちに気付いてやってくる。今日はこの時間なのに一度帰ったのか、私服のパンツルックだ。こいつがこういう格好をすると、男子ではなくボーイッシュな女子っぽく見えるのは七不思議に数えてもいいと思う。

 

 

 

「お、珍しいね、アリアがゲーセンなんて。」

「アンタこそ、何やってんのよ。っていうか武偵なんだからあんなのできて当然でしょう?」

「そう思うだろ?ところがあのコントローラー、調整がうまくいってなくて照準がずれてるんだ。とてもじゃないけど満点は出せないよ。」

 

 

「ふーん。ねえ、これなあに?」

 

 

アリアが指さしたのはUFOキャッチャーだ。

 

「UFOキャッチ?なんか子供っぽい名前。ま、どうせアンタが行くような店のゲームなんだから、くだらないに決まってるけど。」

「はいはい。」

 

それは俺というより店長とかメーカーに失礼だと思うが。

 

適当に受け流し、ほかのゲームを見て回ろうとするが、

 

「……ぅあー…………」

 

アリアがUFOキャッチャーにべったり顔を近づけて離れようとしない。

 

ガラスケースの中には小さなライオンだかヒョウだかわからない動物のぬいぐるみがうじゃうじゃあり、絵面だけみるとまさに小学生にしか見えない。

お巡りさんが来たら俺が補導されちゃうんじゃないだろうか。朔夜もいるし。

 

 

 

 

「どうした。そんなに珍しいか。」

「……。」

「どうしたの?もしかして、気に入った?」

「……かわいー…………」

 

 

 

 

がくっ。

 

 

 

 

たしかにぬいぐるみは可愛いが、『双剣双銃(カドラ)のアリア』様とのあまりのギャップに、俺たちは脱力しかける。

 

 

 

「や、やってみたらいいんじゃないかな」

「やりかたわかんないもん。」

 

 

まるで中身まで幼児退行してしまったかのようにアリアが言う。

 

 

「こんなの幼稚園生でもできるぞ。」

「すぐにできる?」

 

「ああ。じゃあやり方教えてやろうか?」

 

 

そういうとアリアはこちらを向いてこくこくこくと何度も首を縦に振る。朔夜も、「実はボクもやったことないんだよねー」などといって、アリアに教えるのを興味深そうに見ている。

 

 

アリアはトランプ柄のがまぐちから100円玉を取り出し、入れる。

教えるといっても大したことはない、ただ順番にボタンを押して位置を合わせろというだけだ。

だがそんな適当な説明も、アリアは一言一句漏らさぬようにきく。

なんて言うか、ペースが崩れるな、今日のアリアは。

 

 

 

 

 

――うぃーん……

 

 

――ぽと。

 

 

 

初めてだから仕方ないが、狙いが悪くクレーンはぬいぐるみの前足を少し持ち上げただけで落としてしまう。

 

「い、今のは練習よ!おかげでやり方が理解できたわっ。」

「そりゃあいっぺんやればバカでもわかるだろうな。」

 

アリアはもう一枚百円玉を取り出すと、ばし、ばし!とボタンを押していく。だが取れない。ぽと。

 

見ていただけの朔夜もやりたくなったらしい。

 

「ボクにもやらせて!」

「い、一回だけよ!」

 

 

二回分見ていたからだろうか、胴体を掴みうまくいくかと思ったのだが、これも道半ばで落ちてしまう。

 

 

「やっぱり駄目じゃない、こうやるのよ、こう。」

 

得意げなアリアだが、お前、一回も成功してないからな。

案の定、ほら、また失敗した。

 

「ちなみに500円入れるとおまけでプラス一回、合計6回分できる。」

「うるさい!次こそ取れる!コツがわかった!」

 

 

 

ぽと。失敗。

 

 

 

「むー!」

 

 

 

ぽと。失敗。

 

 

 

「ほら、この辺をこうしたらいいんじゃない?」

「うるさい!わかってるわよ!」

 

 

 

ぽと。失敗。

 

 

 

ぽと。失敗。

 

 

 

「ねー。ボクにもいい加減やらせてよー。」

「次よ!次で取るわ!」

 

 

そんな風に宣言するアリアだが、

 

 

 

ぽと。

 

また失敗だ。

 

 

 

「うぎーーーー!!」

 

 

 

「おいおい、壊れるなよアリア!」

「もう、どうなってんの!?次こそとれるわ、絶対よ!」

 

 

ダメだこいつ。千円札を崩してきやがった。

見た目通り、中身も小学生みたいな奴め。

将来ギャンブルにでもはまったら大変だな。

 

 

 

 

アリアのもとから数名の英世が去っていき、さすがにみていられなくなった俺は

 

 

「どけ。俺がやってやる。」

「これで失敗したら、ぷぷ。笑いものだね。」

 

全然やらせてもらえなかった朔夜が少し不機嫌そうに煽ってくるが、無視する。

涙目になってボタンから手を放すのを拒否するアリアを押しのけ、アリアたちが狙っていた目立っているど真ん中にあるやつではなく、穴の近くにある他のに隠れているやつに狙いを定める。

ケースの中のぬいぐるみはどれも同じだし、文句は言われないだろう。こういうやつの方が狙い目なんだ。

 

 

俺が百円を入れ、一つ目のボタンを押し、クレーンを動かす。

 

 

「ねえちょっと、真ん中からずれてるわよ。もしかして、失敗したの?」

「これでいいんだよ。」

 

 

自分のことを棚に上げて言ってくるアリア。

しかし二つ目のボタンを押し終えて、クレーンが腕を閉じるとき、その顔は驚愕にあふれていた。

 

 

がしっ。

 

 

クレーンの腕はぬいぐるみの胴を掬うように捉えていた。

さらに俺にも驚きだったが、尻尾にはもう一つのぬいぐるみのタグが引っかかってついてくる。

 

 

 

 

「お?」

「ねえキンジ、二つ釣れてるわよ!ほら!」

 

言われなくても見えてる。

しかし……

 

 

「重さで落ちちゃったりしないかなぁ?」

 

 

そう。重いということはそれだけクレーンが切り返した時の衝撃も大きいということだ。

まさかもう一匹引っかかってついてくるなんて思ってなかったから、その辺が計算に入ってなかった。

 

 

 

がん。

 

 

 

 

一度目の切り返し、セーフ。

揺れるだけだ。

 

 

 

 

 

二度目の切り返し。

ここを過ぎれば大丈夫なのだが、どうか。

 

 

 

 

がん。

 

 

 

 

アリアの息をのむ声が聞こえる。

朔夜もなんだかんだ言って緊張したようにじぃっとみている。

 

 

 

 

一瞬クレーンのつかみが緩む。

 

 

 

しかし、落ちない。

 

 

 

動き出すクレーン。

 

この不安定な状態でも、穴までたどり着けるだろうか。

 

 

 

 

三人が三人とも、この時ばかりは言葉もなく、ぬいぐるみを目で追い続ける。

 

 

 

 

 

 

 

――ぎぎぎぎぃ、ぽと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちの祈りが届いたのだろうか、二匹のぬいぐるみは、無事に取り出し口にたどり着いた。

 

 

 

 

 

「やったわ!」

「よっしゃ!」

「おお!」

 

 

 

三人で跳び上がって喜びあい、俺は無意識のうちに二人とハイタッチ。

 

 

 

 

「「あ。」」

 

 

 

 

 

アリアと目が合ってしまう。

反射的に、俺たちは目を背ける。

 

「全く、二人ともこれだから……。」

 

呆れ顔の朔夜。

 

 

 

 

ああ、なんでアリアなんかと息が合っちまったんだろう。

 

「ま、まぁ、バカキンジにしては上出来ね。」

 

どちらかというと自分に言い聞かせるように言ったアリアは気を取り直し、取り出し口に飛びつく。

 

 

 

「かぁわぁいぃぃ!」

 

一つとって見せてもらうが、この不思議なぬいぐるみの名前はレオポン、というらしい。タグに書いてあった。

 

 

はしゃぐアリアの姿は、いつもと違って、普通の女の子に見えた。

まるで何かが本当の彼女を歪めて変えてしまっているような――。

 

ふと、思い出す。

俺は否定したが、強襲科でアリアに「ここでのキンジの方が生き生きとしてる。まるでいつものキンジは自分にうそをついているようだ」と言われた。

本人は否定するかも知れないが、朔夜も時々、寂しそうな顔をする。

お兄さんのことがあるのは聞いたが、今もそう、友達とはしゃいでいるときが、一番頻繁にこんな表情をする。お兄さんのこと以外にも、何かあるのだろうか。俺に何か隠しているのだろうか。朔夜が寂しそうな表情をするとき、時々彼の瞳が灰色に光るのは、俺の見間違いなのだろうか。

 

 

「キンジ!」

 

アリアの言葉で、俺はハッとなって思考の海から戻ってくる。

 

「一匹あげる。アンタの手柄なんだから、ご褒美よ。」

 

目を細めて笑うアリアに、俺は少し驚く。

くそ、こいつこんな顔もできたのか。

 

チクショウ、可愛い。

 

 

「お、おう。」

「あー、ずるい!ボクのは!?」

「アンタは何もやってないでしょ!」

「やらせてくれなかったの間違いでしょっ。もう、いいよ!自分でたくさんとるからね!一つくれって言ってもあげないから!」

 

 

なんだろう。

 

 

見た目は可愛いアリアと、見た目は女子の朔夜がこうやってはしゃいでいると、微笑ましい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レオポンをあらためてよく見ると、携帯ストラップになっているようだった。

せっかくもらったものだ。ちょうど携帯には何もつけてなかったし、付けてみるか。

 

ストラップを携帯につけようとするが、なかなか難しい。

というか、携帯のストラップ用の穴は、なぜこんなにも使いづらいのだろう。

 

 

 

 

 

俺がレオポンと格闘していると、アリアがこっちに来て俺の肩をとんとん叩いてきた。

 

「ねえ、ちょっと。」

「なんだ。」

「あれ。みて」

 

 

 

 

アリアが指差す先には、レオポンがいたのとはまた別の台、それも丸くデフォルメされたでかい小動物のクッションが並ぶところだった。

朔夜がとんでもなく下手なのかと思い見に行く。

ちょうど朔夜は百円玉を入れたところだ。

 

 

 

うぃーん。

 

 

 

朔夜がクレーンを進めたのは、二つのぬいぐるみのど真ん中。

 

「おいおい、いくら下手でもそれはないだろ。」

「違うのよ、見てて。」

 

クレーンが下がっていく。

よく見ると、二つのクッションのタグは、クレーン側を向いている。まさか。

 

その予感は的中した。

クレーンの腕は吸い込まれるように二つのクッションのタグの輪っかに突き刺さり、軽々とクッションを取り出し口に落とす。

 

俺は衝撃で顎が外れそうだった。

 

 

「びっくりでしょう?最初は全然下手だったのよ。でも十回目くらいから、どんどんコツをつかんだみたいで、今じゃ条件によってはあんなこともできるようになったのよ。」

「ウソだろ……コツったって千円くらいでできるもんじゃないだろ。しかもあんなに大きいの……。」

「そう、で、戦利品があれよ」

 

 

 

アリアの指先をたどると、サンタクロースが持ってそうなほど、でかい袋。

大小さまざまなぬいぐるみが、その中には収まっている。

 

何か入れ替え用の商品を店員が置き忘れて行ったのかと思ったが、まさかあれがすべて朔夜のものとは……。

 

 

 

「あ、キンジ、アリア!こんなにとれちゃった!」

「こんなにどうするんだよ。」

「ベッドに飾るの。みんな可愛いでしょ!」

 

 

「アンタ、すごいわね……。」

「昔から要領を掴むのは得意なんだぁ。それにしても、アリアがひとを褒めるなんてめずらしいね。」

 

「そ、そうね。じゃあ、あたしはそろそろ帰るわね……。」

 

 

上の空のアリアは、そのまま俺たちに軽く手を振ると去って行ってしまった。

 

 

「じゃあねー。……アリア、どうしたのかな?」

「確実にお前のせいだと思うが。」

「え、ボク?何もしてないのに。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあいいけどよ。それよりその荷物、どうやって持って帰るつもりなんだ?」

「あ。」

 

「その比較的小さい方の袋は持ってやる。男なら、少なくともそのでかいほうは責任もって持って帰れ。」

「はーい。なんだかんだ言って、やっぱりキンジは優しいよね。このツンデレさんめ!」

 

「訳の分からんこと言ってるとこっちも手伝わねーぞ。」

「あぁ!ごめんごめん」

 

 

 

 

まったく、手のかかる親友だことで。

 

 

 

 

 

 





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