緋弾のアリア ―灰色の目の少年―   作:オリーブの枝

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6. Il Primo Caso

 

 

 

 

 

 

 

ピピピピピ。

 

携帯のアラームの音で目を覚ます。

 

 

 

 

ふあぁぁ。

いい朝だ。

 

窓の外を見るとお世辞にもいい天気とは言えない今にも雨が降りそうな曇天だが、アリアがいないというだけでとても平和ないい朝に感じる。

携帯のアラームを止めようとしてそのあたりをまさぐると手にもふもふとしたやわらかい感触。レオポンか。

 

適当にだらだらと着替えてリビングに出ると、朔夜がもう軽い朝食を用意してくれていた。

 

「おはよう。今日は手抜きだけど、ベーコンエッグ。トーストも欲しければ食パンがそこにあるから適当にトースターで焼いて食べて。」

「お、おはよう。今日はなんかあるのか?急いでるみたいだけど。」

「うん、まあちょっとね……。キンジももうそんなに時間ないでしょ。ちゃんと遅刻しないように出なよ。」

「はいはい。」

「聞いてる?まあいいや、じゃ、行ってきます。」

「おう」

 

あわただしく出ていく朔夜。今日は金髪のウィッグの二つ結びがぴょこぴょこ揺れている。

昨日丁度理子の修理から帰ってきた腕時計を見るが、言うほど時間がないわけではない。

この分なら余裕で7時58分のバスには間に合うな。

 

 

 

 

――そう、思ったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が大粒の雨に降られながらバス停に着いた頃にはすでに58分のバスは来ていて、雨のせいでいつもはバスに乗らないような生徒まで乗っているためか、生徒たちがバスに押し合いへし合い何とか乗り込もうとしているところだった。

確かに授業が始まる数分前に一般校区に着くこのバスはいつも混み、時には満員で乗れないこともある。雨の日などは特にだ。

しかし、あの時間に出ていればねぼすけな生徒たちがバス停に来るころにはもう並んでいるはずだったのに。

 

「やった!やっと乗れた!おう、キンジ、おはよう!」

入口のタラップギリギリのところで車輛科の武藤がバンザイしている。

奥の方はもうぎちぎちに生徒が詰まっている。

 

「おい、武藤!乗せてくれよ!ちょっと詰めてくれ!」

「おうキンジ、それはムリだ!俺だって押し出されそうになってるんだ!お前、チャリで行けよ!」

 

武藤はその高い身長を活かして入口の上のところに手をかけ踏ん張りながら俺にそういってくる。

 

「俺のチャリはぶっ壊れちまったんだ!これに乗れないと一時間目に遅刻しちまう!」

「なあキンジ、サボる勇気って、知ってるか……?」

 

武藤がそんなセリフを格好つけて言った瞬間、タイミングよくバスのドアが閉まる。

 

 

くそっ、この大雨の中徒歩で武偵校まで……しかも遅刻確定。ついてねーな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武偵校が見えてくる。武偵校まで、道はまっすぐに続いている。そのまっすぐな道を、雨に降られながら、とぼとぼ歩く。

武偵校が建っている人工浮島(メガフロート)は、もともと空港の滑走路のために作られていたものの流用なので、とにかく縦に長い。

奥の方の校舎なんか行きも帰りも大変だ。

 

そんなことを考えながら、ちょうど強襲科の黒い防弾体育館に差し掛かったところで、携帯が鳴った。

 

 

「もしもし。」

『キンジ、今どこ?』

 

 

アリアだ。

携帯の時計を確認すると、8時20分。もう授業は始まっているはずだ。

 

「強襲科のすぐそばだが……。」

『ちょうどよかった。そこでC装備に着替えてすぐに女子寮の屋上に来なさい。今すぐよ!』

 

 

「なんだよ、強襲科の授業は五時間目からだろ。」

 

 

 

 

 

 

『授業じゃないわ、事件よ!早くしなさい!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケプラー製のベスト。強化プラスチックのフェイスガード付きヘルメット。武偵校の校章の入ったインカムに、フィンガーレスグローブ。

それが今俺を包んでいる装備、いわゆるC装備だ。

ホルスターにはベレッタ、弾倉入れ(マガジンポーチ)には四本の予備弾倉。これもしっかりと確認する。

 

C装備というのは武偵がいわゆる『出入り』の際に着込む攻撃的な装備で、SATやSWATのものにも似たこの装備は強襲科がよくかかわる物騒な事件の際に支持されることの多い装備なのだ。

願わくばアリアの言った『事件』というのが小さなものであってほしい。

だが、この装備、電話越しにも感じたアリアの緊迫感から言って、その願いは叶わぬものとなるだろう。

 

女子寮の屋上に上がると、俺と同じくC装備に固めたアリアの姿があった。

アリアは無線機に何か話しているようだが、雨の音で聞こえづらい。

 

ふと視線を足元に向けると、階段のひさしの下に狙撃科(スナイプ)のレキが妹で観測手(スポッター)のルカを抱いて座っていた。

アリアめ、転入生のくせに、いい駒が分かってるな。

 

レキは入試で俺と同じくSランクに格付けされた、狙撃科の天才少女だ。体は細く、身長もアリアより少し高いくらい。狙撃の腕も確かで、狙った獲物は外さない、アリアのように、狙撃成功率100%であると聞いたことがある。

外見もショートカットの美少女、といった感じなのだがこいつには一つだけ欠点がある。それは感情を表に出さず、表情が無表情から全く変わらないことであり、他人と必要最低限の会話しか交わさないことだ。そのせいで彼女につけられたあだ名は『ロボットレキ』。

こいつとは強襲科時代に何度か組んで仕事をしたことがあるが、こいつはいつもヘッドフォンで何かを聞いている。

 

 

 

 

「レキ」

 

微動だにしない彼女に声をかけるが、返事はない。

 

 

「お姉ちゃん」

 

 

今までぼーっと虚空を見ていたルカが気が付き、レキの手をトントンと叩き、ようやく俺の存在に気付いたレキに、こちらを指で示す。

 

レキの妹ルカは双子の姉の方で、妹のリオは今日はいないらしい。と言っても、こいつは何回かレキといるのを見たことはあるが実際にはほとんど初めて会うので、いつも一緒にいるタイプの双子かどうかはよく知らない。

 

ルカもまた姉のように狙撃科で、その腕前はAランクにも達する。

狙撃では姉に及ばないが、肩までの髪をツインテールにしているルカも姉に劣らずの美少女だし、表情の動きは姉とあまり変わらないとしても口数はこっちの方が多く、生活力の無い姉と妹を支えているのがこの子だ。

その支えは戦闘でも適用され、個人の狙撃手としての仕事以外に、レキの観測手を務めることも多々ある、そうだ。これは昔レキから聞いた。

 

 

「お前もアリアに呼ばれたのか」

「はい」

 

 

レキがこちらに首だけ向け、抑揚のない声でうなずきながら答える。

「ていうかお前いつもそのヘッドフォンで何の音楽を聴いてんだ」

「音楽ではありません。風の声です。」

 

そういうとレキは立ち上がり、SVDを肩に背負いなおす。

ルカもタイミングよく立ち上がり、レキの制服のスカートを直している。

 

 

 

 

「時間切れね。」

 

 

通信を終えたらしいアリアがこちらにくるりと向き直り言う。

 

「もう一人くらいSランクが欲しかったところだけど。ほかの事件で出払ってるみたい。まあAランクも二人はいるし何とかなるでしょう。」

「もう一人のAランクって誰だよ。」

 

というかアリアの中では俺のEランクはなかったことになっているらしい。

 

「朔夜よ。すぐに来るわ。朔夜にはあるものを取ってきてもらってるの。実質三人パーティーで追跡するわよ。Aランクの二人はサポート役になるでしょうからね」

「追跡って、何をだ。状況説明くらいきちんとしろ。」

「バスジャックよ。」

「バス?」

「武偵校の通学バス。アンタのところにも7時58分に停留してるはずよ」

 

――武藤が乗ってるやつか!?

 

武藤だけじゃない、あのバスには、いつも以上に多くの生徒が乗っている。何かあれば、ただじゃすまない。

 

「――犯人は、中にいるのか」

「いないでしょうね。その代り、爆弾が仕掛けられているわ。」

 

 

 

 

 

――爆弾。

 

 

 

 

 

その言葉は俺に、数日前俺に降りかかった災難を思い出させる。

それを読んだかのようにアリアが言う。

 

「キンジ。これは『武偵殺し』。アンタの自転車をやった奴と同一犯の仕業よ。」

 

武偵殺しって、この間白雪が言ってた連続殺人鬼じゃないか。

 

「最初の武偵がバイク、次が車。アンタの自転車が来て、今回がバスよ。奴は毎回『減速すると爆発する爆弾』を乗り物に仕掛けて自由を奪い、遠隔操作でコントロールするの。その操作に使う電波に特殊なパターンがあって、アンタを助けた時もそれをキャッチしたのよ。」

「でも『武偵殺し』は逮捕されたはずだろ」

「それは真犯人じゃないわ」

「なんだって?お前いったい何の話をしてるんだ……?」

 

アリアはこちらを睨み言い放つ。

 

「アンタに説明している時間もないし、する必要もない。リーダーはあたしよ、黙ってついてきなさい」

「まて、待てよアリア!」

 

「事件はもうすでに発生しているのよ!今にもバスが爆破されるかもしれない!ミッションは車内にいる全員の救助、それだけ覚えとけばいいの!」

「リーダーをやりたきゃやれ!だがやるならきちんとそれに見合った行動をしろ!きちんと状況を把握させろ!どんな事件にも武偵は命をかけて挑むんだぞ!」

 

「武偵憲章一条!『仲間を信じ、仲間を助けよ』! 被害者は武偵校の生徒、仲間よ!それ以上の説明は必要ない!」

「――――!!」

 

――バルルルルルルル

 

 

言い返そうとするが、雨音に混じって俺たちの上空から聞こえてきた激しい音に俺の声はかき消される。

 

――ヘリだ。

 

 

上を見上げると、車輛科のシングル・ローターヘリが青い回転等をつけて降りてくる。ここに着地しようとしているらしい。

アリアの奴、こんなものまで呼んでおいたのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようお前ら、迎えに来たぜ」

 

俺たちをヘリの中から迎えたのは、髪を後ろでまとめた頭にインカムを付け、サングラスをかけた朔夜だった。

 

俺がとりあえず乗り込もうとすると、アリアが声をかけてきた。

 

「キンジ、これが約束の最初の事件になるのよね」

「飛んだ大事件だ、全くついてないな」

「約束は守りなさいよ?アンタの実力を見るの、楽しみにしてるから。」

「言っておくが俺にはお前が思い込んでるような力はない。Eランクの武偵をこんな難易度の高い事件に連れて行っていいのか。」

「もしもアンタがピンチになるようだったら――その時はあたしがアンタを守ってあげるわ。安心しなさい」

 

「ほらほらお二人さん、早くしねぇと置いてっちまうぜぇ?」

 

 

「「朔夜、キャラ変わりすぎ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朔夜にはある能力がある。

勘違いしないでほしいんだが、超能力ではない。

まあ言うなれば自己暗示の延長だ。

 

朔夜は服装、性格を変えることで、それに合わせた技能を持つことができる。

たとえば今はパイロットっぽい服装に口調で自分をあたかもパイロットであるかのように見せかけ、実際このとき朔夜の操縦技術はAランクレベルまで上がっている。

そのかわりほかの技術はCランク、下手するとDランクくらいまで下がってしまう。

 

そんなデメリットもあるが、事前に大体の状況が分かっていれば朔夜ほど使い勝手のいい武偵はいないといっても過言ではない。

自己暗示に十数分の時間を必要とするが、一人分の料金で数人分の仕事ができるのだから引っ張りだこな理由は明らかだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インカム越しの通信科の情報では、件のバスは男子寮前のバス停を出たのを最後に、ノンストップで走行しているらしい。

その後、車内にいる生徒からハイジャックされたと緊急連絡が入った。

定員オーバーの60人を乗せたバスは学園島を一周した後、橋を渡って台場に入ったらしい。

 

「警視庁と東京武偵局は動いてないのか」

『動いてる。でも相手は走るバスよ。それなりの準備が必要だわ。』

 

ヘリの駆動音で互いの声は聞こえなくなっているので、インカム越しに目の前のアリアと話す。

 

「じゃあ、俺たちが一番乗りってことか。」

『当然よ。やつの電波をつかんで通報が来るよりも先に準備を始めたんだもの。』

 

アリアは愛用の二丁拳銃、銀と黒のコルト・ガバメント・カスタムをチェックしながら言う。

 

『見えました』

 

ずっと窓から外を見ていたレキが、そう俺たちに報告する。

そろって防弾窓に顔を寄せる俺たちだが、この高さ・距離では、車の種類すらわからない。

 

「何も見えねえぞレキ」

『ホテル日航の前を今右折しているバスです。窓から武偵校の制服が見えます。』

『アンタよくわかるわね。視力いくつあるの?』

『左右ともに6.0です』

 

その言葉に思わず顔を見合わせる俺とアリア。

どこのマサイ族だっていうんだよ。

 

 

 

 

『朔夜さん、あのあたりに向かってください』

『あいよー、おまかせぃ』

 

朔夜はレキの指示通りにかなりの速度で降下していく。

ビルの隙間を縫うように飛ばしていく朔夜。

バイクで慣れているからだろうが、俺でも結構怖い。

アリアなんてビクビクしてるぞ。

 

『く、空中からバスの屋根に乗り移るわ。あたしは外側をチェックするから、キンジは車内の状況を確認・連絡して。レキ・ルカ・朔夜はヘリでバスを追跡しながら上空で待機。状況を見て援護よろしく。』

『了解だぜ』

『分かりました』

『はい』

 

「おい、車内って……もしも中に犯人がいたら人質が危ないぞ。」

『「武偵殺し」なら、中には入らないわ』

「そもそも『武偵殺し』じゃなかったらどうするんだよ!」

『その時はアンタが何とかしなさいよ。アンタならできるはずだわ』

 

アリアは強襲用パラシュートを準備しながら言う。

 

世間から非難されることもあるが、確かに武偵は迅速な解決を目的としてその場その場の判断で物事を解決する傾向はある。

が、アリアのはやり過ぎだ。

有無を言わさず一番乗りで現場に乗り込んで、その圧倒的な戦闘力で一気に片を付けてしまおうということらしい。

だがそれをやるには俺の力量を高く見積もりすぎだし、連携も取れていない。

そんなことが咄嗟にできるのはお話の中の存在か、もしくは本当に持っている奴らだけを集めたチームの場合だけだ。

アリアが『|独奏曲≪アリア≫』と呼ばれる所以が、なんとなくわかった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強襲用パラシュートを使って、アリアとバスの屋根の上に降り立つ。

どう見ても法定速度をいくらも超えたスピードを出しているバスに振り落とされないよう、ワイヤーアンカーを打ち込む。

 

鏡で中に犯人がいないか確認し、バスの窓を開けてもらってワイヤーを引っ掛けるようにして中に入る。

元々混乱していた生徒たちが、俺の登場を皮切りにさらに大きな声で話し始める。

 

 

一人ひとり喋ってくれ。こっちは聖徳太子じゃないんだ。

 

 

「キンジ!」

「武藤……二限じゃないが、予告通り会っちまったな」

「ちくしょう、なんで俺はこんなバスに乗っちまったんだ?」

「友達を見捨てるから罰が当たったんだろう」

「ったく……ああキンジ、あの子。」

 

武藤が指差す先には運転席の近くに立つメガネの少女。服装からして、中東部の後輩だろう。

 

「せ、せせ、先輩!助けてくださいぃ」

「どうした、何があった」

「い、いつの間にか私の携帯がすり替わってたんで…す!そ、それがしゃべりだして……」

 

 

 

 

『 速度を 落とすと 爆発 しやがります 』

 

 

 

 

 

あの時と同じ、人工音声が流れる。

それが本当に『武偵殺し』かはわからないが、確かにアリアの言うとおり同一犯の犯行だろう。

 

『キンジ、どう?ちゃんと状況を報告しなさい!』

 

お前が言うか。

 

「お前の言ったとおりだったよ。このバスは遠隔操作されてる。そっちはどうなんだ」

『――爆弾らしきものがあるわ!』

バスの後方を見ると、窓の外にはアリアの足とワイヤーが見える。どうやら逆さづりになっているらしい。

しかしそのあとに続く言葉に、俺はそんな冷静に物を考えることはできなくなっていた。

 

『カジンスキーβ型のプラスチック爆弾、「武偵殺し」の十八番よ!目視で確認しただけでも、炸薬の容積は3500立方センチメートルはあるわ!』

 

 

な、なんだその量は。

バスどころか電車でも吹っ飛ぶ量じゃないか。

 

『潜り込んで解体を試み――きゃあ!』

 

バスに、後ろからの強い衝撃。

 

 

 

 

「大丈夫かアリア!」

 

俺があわてて後ろの窓を見ると、そこには運転席にUZIの銃座だけを乗せた無人の真っ赤なスポーツカー、ルノー・スポール・スパイダー。

アリアからの応答はない。今の追突で、やられたらしい。

 

ルノーが横につけてくる。UZIの銃口がこちらを向いたことで俺は奴が何をしようとしているのかを悟る。

 

 

「みんな伏せろ!」

 

さすが武偵校の生徒というべきか、車内の全員が咄嗟に体制を低くする。

その直後――

 

――バリバリバリバリバリッ

 

 

UZIから放たれた無数の銃弾がバスの窓を粉々に粉砕する。

 

くそ、胸に一発もらった。防弾ベストのおかげでけがはないが、衝撃だけでもかなりのものだ。

 

ぐらっ。

 

バスが揺れる。まるで誰もハンドルを握っていないかのような――

 

 

――!!

 

 

運転席を見ると、運転のために体を下げられなかったのであろう、肩に被弾した運転手が、ハンドルにもたれかかるようにして倒れていた。

車線を大きくはみ出していくバス。

バスを避けた乗用車が、ガードレールに接触し火花を散らす。

大混乱だ。

 

 

 

どうしよう、どうすればいいんだ。このままじゃ、今の俺では、とても――

 

 

――『 有明 コロシアムの 角を 右折 しやがれ です 』

 

 

くそ。こんな爆発物を、都心に運ぶ気なのかよ……

さらにまずいことに、運転手が意識を失ってアクセルを踏む力が弱くなったのか、バスはその速度を落としつつある。

 

「む、武藤!運転を代われ!スピードを落とすな!」

 

防弾ヘルメットを脱ぎ、武藤に投げ渡す。

 

「い、いいけどよ!俺この間改造車がばれてあと一点しか違反できないんだ!」

 

武藤がヘルメットをかぶっている間に、他の生徒と協力して運転手を床に下ろす。

窓に手をかけながら教えてやる。

 

「そもそもこのバスは通行帯違反だ。よかったな武藤、これで晴れて免停だ!」

「くそったれ!轢いてやる!!」

 

武藤の捨て台詞を背に俺は屋根に上って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レインボーブリッジに入っていくバスは、そのスピードのせいで一瞬片輪走行になる。が、武藤が生徒たちを左側に集まらせ、重心を調整したことで事なきを得る。

レインボーブリッジには車が一台もいない。

警視庁が手をまわしたのだろう、道路が封鎖されている。

 

「おいアリア、大丈夫か」

「キンジ!」

「アリア、ヘルメットどうした?」

「さっき、ルノーに追突されたときにぶち割られたのよ!アンタこそどうしたの?」

「運転手が負傷して、今武藤にヘルメットを貸して運転させてるんだ!」

「あぶないわ!どうして無防備に出てきたのよ!そんな初歩的なことも――後ろっ!伏せなさい!」

 

 

 

そういうと、アリアは二丁拳銃を抜き、こちらに突進してくる。

訳が分からず、後ろを振り向くと、

 

今度はバスの前方に構えたルノーがUZIをこちらに向け、撃ってくるところだった。

 

銃弾が、俺の顔をめがけて飛んでくる。

 

死んだ。

 

 

そう思った。

 

 

 

アリアが、ルノーに応射しながらこちらにめがけてタックルしてきた。

 

俺が倒れこんだ瞬間――

 

――バチッ、バチッ!

 

 

二度の被弾音。

 

 

鮮血が舞う。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、痛くない。

 

 

覚悟していた、衝撃も来ない。

 

 

 

ということは……

 

 

 

 

 

「アリア!」

 

 

 

 

 

バスの屋根を、ゴロゴロと転がっていくアリア。

 

 

 

 

 

 

――その時はあたしがアンタを守ってあげるわ――

 

 

 

 

 

 

出発前に交わしたあの言葉が、脳裏に浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

「アリア―――アリアぁぁぁああ!!!」

 

 

 

 

 

 





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