緋弾のアリア ―灰色の目の少年―   作:オリーブの枝

7 / 7
今回はいつもより長くなってしまいました!!

それを以て更新が遅れた言い訳とさせていただきたい所存であります。


戦闘シーンって……難しいですよね。

それでは、本編どうぞ。


7. Tu, chi sei?

 

 

 

 

「おい、アリア!大丈夫か!!」

 

俺はバスから落ちそうになるアリアのワイヤーを手繰り寄せ、なんとかアリアをバスの屋根に引き上げる。

 

俺は……俺はいったい何をやっているんだろう。

 

 

 

 

視線の端に、赤いルノーの車体が見える。

やばい、今撃ってこられたらひとたまりもないぞ。

そう思い、おそるおそるルノーを確認するが、撃ってこない。

 

銃座が壊れている。

アリアが先ほどの一瞬のうちに寸分の狂いなくUZIに当て、破壊したのだろう。

 

 

その時――

 

 

 

 

 

 

 

――パァン!

 

 

 

破裂音の残響が、辺りに響き渡る。

 

その音の発生源を探すと、上だ。

 

 

パァン!

 

 

 

レインボーブリッジを走るバスに並走したヘリのハッチが大きく開かれ、そこからレキが膝立ちになってスコープ越しにこっちを見ていた。

障害物の多いビルの隙間を抜け、チャンスが回ってきたようだ。

 

先ほどの銃撃戦の流れ弾が飛んだのか、ヘリの羽の回転数が不安定になっているが、朔夜がそれでも何とかヘリが安定するよう頑張っていること、ルカが狙撃の邪魔にならない程度にレキの支えになっていること、そして何よりレキ自身の腕前で、それに打ち勝っている。

 

 

 

レキにタイヤを撃ち抜かれたルノーはスピンを起こし、バスの後ろの方でガードレールにぶつかり大きな爆発音をたてた。

 

 

 

『私は一発の弾丸』

 

インカムから、レキの声が聞こえる。

 

『銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えない』

 

レキが詠うのは、レキが目標を撃つ時の癖だ。

見れば、バスを狙っている。

 

『ただ、目的に向かって飛ぶだけ』

 

そして、三度のマズルフラッシュ。

レキのSVDの銃口が光り、遅れてバスに衝撃が来る。

 

ガランガランッ

 

大きな音がするので見てみればバスの下から何か部品が落ちていく。

あれは……爆弾か。

 

 

『私は一発の弾丸――』

 

再びレキの声が聞こえ、爆弾が弾き飛ばされて海へと落下していく。

爆発しないように、周辺部品だけを撃って弾いたのか。

相変わらず、すごい腕だ。

 

 

その直後――

 

 

 

――ドオォンッ!!

 

 

海中から水柱が上がり、バスも次第に減速していく。

 

 

終わったんだ。

やっと、終わった。

 

へたり込みバスの屋根に倒れこむ俺の横にはぐったりとして動かないアリアがいた。

俺はそうやって、他の奴らが来るまで雨に打たれていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、アリアを撃った弾丸は殆どかすっただけで、命に別状はないとのことだった。

しかし、その傷跡は……一生、残ってしまうそうだ。

俺の前では気丈に振舞っていたアリアだったが、俺がいないときには手鏡を手にずいぶん気にしているようだった。

そりゃそうだ、あんなに自慢していたくらいだからな。

 

アリアは随分と俺に失望した様子で、俺は後ろめたさもあって何も言うことはできなかった。

しかし、俺が武偵をやめたいと思っている理由を知らないとはいえ、『どうせ大したことじゃない』と言われてかっとなった俺はそのまま病室から出てきてしまった。

 

 

 

 

うちの家系は代々、時代によってその職業は違えど正義の味方として戦ってきた。

俺の物心がつく前に殉職した父さんも武装検事だったし、兄さんだって武偵だった。

だから俺は、自分から、何の迷いもなく武偵校に進学した。

中学では苦しめられたヒステリアモードだって、いずれは兄さんたちのように使いこなすことができるだろうと思っていた。

あのころの俺は、今ほど消極的ではなかった。

 

しかし、去年の冬に起きた、浦賀沖海難事故。

日本船籍のクルージング船・アンベリール号が沈没し、一人の乗客が行方不明となって、そのまま死体すら見つからなかった。

それが、俺の兄――遠山金一だ。いつものように正義を貫いた兄さんは、警察の話によれば乗員乗客を船から非難させることに尽力したそうだ。そしてそのせいで自分は助からなかった。

しかし乗客からの非難を恐れたクルージング・イベント会社、そしてそれに追従するいくらかの乗客は、何をとち狂ったか兄さんを非難し始めた。

 

『船に乗り合わせていながら未然に事故を防げなかった、無能な武偵』

 

それが、人々のために最後まで戦った兄さんに張られたレッテルだった。

 

 

そんな死人に鞭を打つような、恩を仇で返すような行為は、その悪意は遺族の俺にまで向けられた。

 

 

――なぜ人々のために戦った兄さんが死に、それをスケープゴートにするような奴らが生きている?

――なぜ兄さんが非難されなければならなかった?

 

その答えは、まだ出ていない。これからも一生、そんな問いの答えを俺が得ることはないだろう。

だがどうして兄さんが巻き込まれたのかと問われれば、答えは決まっている。

武偵だったからだ。ヒステリアモードがあったからだ。

 

だから俺は、武偵になることをやめた。

俺は早くこんなくそったれな世界から抜け出して、平凡な生活を送ってやる――

――無責任なことを言いたいだけ言って、のうのうと平和に過ごす。そんな平凡な側の人間になる、そう決めたんだ。

 

 

事件の日、朔夜は帰らなかった。最後まで一緒にいたレキが言うには、ヘリを下ろした所で誰かから電話を受けてあわてて去って行ったそうだ。

その様子から言って、(ネーロ)関係で何か進展があったのだろう。

俺も手伝いたいと思っていたが、俺を置いて行ったのはEランク程度じゃ足手まといだからだろう。少し寂しい気もするが、今の俺にはこの部屋で一人という環境があっていると思う。

 

アリアみたいなやつがいればまた八つ当たりしてしまうかもしれない。

朔夜みたいなやつがいれば縋ってしまうかもしれない。

 

俺は一人、雲のない空の中、そこに溶け込むようにうっすらと浮かぶ三日月を見ながらベッドに就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリアが退院する日曜日。

俺はなるべくそのことを考えないように、普段は殆どやらない掃除や洗濯などを一気にやっていた。

しかしその昼過ぎにクリーニング屋を出るとき、私服のアリアがそこを歩いているのを見かけてしまう。

気になった俺は、アリアを尾行する。

途中で気づかれてしまい、一緒に行くことになってしまったがアリアが向かったのはなんと新宿警察署。

そしてそこにいたのは――

 

――『武偵殺し』の容疑者としてとらえられているアリアの母親だった。

 

 

証拠が十分あれば高裁までを迅速に行えるという下級裁隔意制度によりアリアの母、神崎かなえさんが受けた判決は、なんと864年。

二人の会話から察するに、そこには『武偵殺し』以外の容疑が重ねられているようだ。

そしてアリアは、それをすべて冤罪とし、最高裁というタイムリミットまでに覆そうとしているのだ。

 

しかし『H』家にはその能力を引き出す『パートナー』が必要。それをアリアは『ドレイ』と言い換えることで、自分の中でハードルを下げていたのだろう。

 

 

以外と俺たち三人には共通点があるのかもしれない。そう、思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、理子に呼び出された俺は、高級カラオケ店、というように見えるクラブ・エステーラとかいう店に来ていた。

 

いつもなら理子の呼び出しなんか無視するのだが今回は事情が事情だ。

理子は事故直後からバスジャックについての情報を集めていたし、今日アリアが学校を休んでいたのも気になる。

朔夜だってなかなか帰ってこないのはいつものこととはいえ今回はなんか嫌な予感がする。

 

げ、店の前にあるこのショッキングピンクのベスパが理子のだな。

武藤に改造させたもので、つまりは違法改造すれすれだ。

 

それを視界に入れないようにしながら店に入るが、店に入ってすぐのバーラウンジは仕事帰りのOLやら武偵校の女生徒やらでいっぱいだ。

ベスパを見ていた方がましだったな。

 

「キーくぅん!」

 

いつもの改造制服を着た理子がこっちに走ってくる。

 

「もー、なかなか来ないからフられたかと思っちゃったよー。でもちゃんと来てくれて、理子うれしー。」

「別にフるとかフられるとかじゃないだろ」

 

「えー、こっちは理子ルートなんですよー?」

「なんだよそれ、意味わかんねえ」

 

「ふーん、つれないなぁ。じゃ、いこー!」

 

俺に腕をからませてきた理子を見た周りの女子がひそひそ話し始める。

これだから嫌なんだよ。

 

理子に連れられて入ったのは個室だった。しかも二人部屋。

 

「呼び出しちゃったから、今日は理子がぜんぶおごったげる」

 

理子は片方の席に座り、テーブルにあるケーキや紅茶を俺の方にやりながら言った。

 

少し食ってとりあえず満足したのかやっと口を開く理子。

 

「ねぇキー君、アリアとケンカしたでしょ。」

「そんなこと、お前に関係ないだろ」

「大ありだよ!キーくんがアリアと仲良くしてないと理子が楽しくない!」

 

そう言って理子はにぃっと笑う。

 

「キーくん、あーん」

 

モンブランを乗せたフォークを突き出していう理子。

 

「するか」

 

「――『武偵殺し』」

 

 

 

「――!! 何か、わかったのか!」

 

「あーんしてくれたら教えてあげる」

 

 

死ぬほど恥ずかしいが、背に腹は抱えられない。

突き出されたモンブランを食べ、理子に「さあ教えろ」と目で凄む。

 

 

「ふふ、あのね、警視庁の資料にあったんだけどね、過去『武偵殺し』にやられた人って、バイクジャックとカージャックだけじゃないかもしれないんだって。」

「どういうことだ」

「『可能性事件』っていうのがあって、事故ってことになってるけど実際には隠ぺい工作でわからなくなってるだけなんじゃないかってやつがあるんだ」

「そんなのがあるのか」

「それでね、理子見つけちゃったんだ、そうじゃないかなぁって名前」

 

理子はA4くらいの紙を取り出し、開いて俺に見せてくる。

 

そこに書いてあるのは――

 

 

――2008年12月24日、浦賀沖海難事故、死亡、遠山金一武偵(19)

 

 

ねえこれ、キーくんのお兄さんだよね?これ、シージャック(・・・・・・)だったんじゃない?

 

 

 

理子の声が、やけに遠く聞こえる。

抑えていた憎しみが、また燃え上がる。

――『武偵殺し』。

何故だ、なぜ兄さんを狙った、俺を狙っタ。

お前ハ一体何処ノ誰で、何がシたインダ………

 

 

 

 

 

 

「いいわぁ」

 

 

 

聞こえたのは、熱気を帯びた、理子の声。

 

「いい。理子、キンジのそういう眼に、ゾクゾク来ちゃう。」

 

理子の体がだんだんこちらによって来る。

 

「Je t'aime a croquer. 入試の時、理子、キンジのそういう眼に一目ぼれしちゃったんだぁ」

 

「り、理子?」

 

ヒステリアモードだった時の、話だろうか。そのとき、俺が理子のことを赤子の手をひねるようにあしらったことを言っているのだろうか。

 

突然理子がしがみついてきて、俺は長椅子に押し倒される。

 

 

「理子!?」

「キンジって、ほんと鈍感。まるで、わざとそうしているみたい。」

 

 

耳元で、吐息混じりの理子のささやくような声が聞こえる。

 

「ねぇわかってる?これ、イベントシーンなんだよ?」

 

そのまま、理子は耳を噛んでくる。

しかし、それは優しい甘噛み。だんだんと、体の芯に血が集まってくるのを感じる。

 

「ねぇキンジ、ここでのことは誰にもばれないよ?白雪はS研の合宿だし、アリアはもうイギリスに帰っちゃうからね。今夜七時のチャーター便で行くって言ってたから、今頃はもう羽田だよ、きっと。だから……理子とイイコト、しよ?」

 

理子が体を密着させてくるせいで、体の感触をもろに感じてしまう。

くそ、こんなやつ、チビのくせに、童顔のくせに――!!

 

 

 

そして俺はついにヒステリアモードになってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、俺の中で全てが繋がった。

 

 

俺が巻き込まれたチャリジャック。

リコから聞いた以前の事件。

そして――俺の兄さんが巻き込まれた、『可能性事件』。

 

もし俺の考えが正しければ、この線は取り返しのつかないエンディングに繋がっている。

 

ヤバい、今すぐに動かなければ!

 

 

 

「理子、ごめんな」

 

ヒステリアモードの俺が理子の眼の前で指をパチンッ!と鳴らす。

それに驚いた理子が瞬きした瞬間、

 

「お子様は、そろそろお家でおネンネの時間だろう?」

「ひゃあ!」

 

その小さな体を抱え上げ、くるっと位置を入れ替えて理子の方を長椅子に横たわらせる。

そしてヒステリアモードの頭で部屋を飛び出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朔夜!忙しいところ済まないが、今どこにいる?手伝って欲しいことがあるんだ!」

 

本当は朔夜にも迷惑をかけたくないが、今はそんなことを言っている場合じゃない。

黒の行方を追っているであろう朔夜に、ダメ元で電話をかける。

 

すると、繋がった!運が良い。

 

「なんだい?悪いけど、ちょうど今(ネーロ)の尻尾をつかんだところなんだ!こっちが手伝って欲しいくらいだよ!」

「そう……だよな。だが、一応耳に入れておいて欲しい。アリアがイギリスに帰ろうとしているのは知っているか?そのアリアが載っている飛行機が、『武偵殺し』によってハイジャックを受ける可能性がある!」

「何だって!ちょっと待って、それって、ANAの600便、ボーイング737-350のヒースロー空港行きのこと?」

「便名までは分からない。だが、午後7時のロンドン行きのチャーター便だって言ってたんだ」

 

 

「ビンゴだ!くそっ、何でこんな事態に……」

「おい、それってもしかして――」

「――そうだよ!君の考えてる通りさ!アリアと『武偵殺し』、そして『(ネーロ)』が乗ろうとしているのは、すべて同じ便だ!」

 

もっと悪い事態になったぞ……

これから『武偵殺し』と『(ネーロ)』を相手取らなきゃならないと考えると、頭が痛くなってくる。

それに、ヒステリアモードが続くのはせいぜい十数分。

空港に着く頃には俺はただのEランク武偵に戻ってしまっているはずだ。

 

 

「とりあえず足が必要でしょ?ボクがそっちに向かうよ!今どこにいる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は朔夜のバイク、NINJAで空港に向かう。

今回は緊急だったから仕方ないが、二度とこんなことしたくないな。

朔夜も「一応シート付けてあるけど二人乗り向きじゃないからしっかりボクに掴まっててね」と言っていた。

本当にその言葉通りにしておいてよかったが、車の横からどんどん追い抜いていくあの感覚はかなり怖い。

小さな体で良くやるもんだ。

 

 

 

 

空港のチェックインやら出国審査やらを武偵手帳についている徽章で通り抜けた俺たちは、ゲートに飛び込み、ボーディングブリッジを走り抜ける。

ギリギリのところで、閉まろうとしていたハッチから滑り込む。

 

 

「武偵だ!離陸を中止しろ!」

すぐそこにいた小柄なキャビンアテンダントに武偵徽章を見せながら言う。

 

「お、お客様!?し、失礼ですが、どういう――」

「説明している暇はない!とにかく、この飛行機を止めるんだ!」

 

アテンダントはビクビクとしながら二階へと駆けていく。

追いかけたいところだったが、一息ついてしまったせいで膝がガクガク言い出してしまった。これはバイクのせいか。

しかしとりあえずのところ、離陸を止めることはできただろう――

 

 

――ぐらり。

 

 

機体が……揺れた。

離陸しようとしているのか!?

 

 

「あ、あの……ダメでしたぁ。規則で、このフェーズでは管制官からの命令でしか離陸を止めることはできないって機長が……」

 

「くそっ。どうする、キンジ。」

「バッカヤロウ……!」

「えぅ、撃たないでください!っていうかあなたたち、本当に武偵何ですかぁ?『止めろだなんて、何処からも連絡もらってないぞ!』って、怒鳴られちゃいましたよぉ。」

 

――こうなれば、脅してでも止めさせるか?

――いや、機長に信用されてないこの状況では、きっと逆効果だよ。

――くそ。もう後手に回るしかない。覚悟を……決めるか。

 

朔夜と話している間に、飛行機は飛び立とうとしていた。

 

 

 

 

 

 

機体の姿勢が安定してベルト着用サインが消えた。

さっきのアテンダントを落ち着かせてアリアの席、というか個室に、案内してもらう。

朔夜はもう一度機長と話してくると言って先に二階へ上がっていってしまった。

 

この飛行機のキャビン・デッキは、普通の旅客機とは明らかに異なる構造をしている。

一階は広いバーになっていて、二階の中央通路には左右に扉が並んでいる。

 

これは――この前テレビで『空飛ぶリゾート』とか言われてた、全席スイートクラスの超豪華旅客機だ。

一般的な旅客機と違って座席はなく、その代りにそれぞれにベッドやシャワールームを備えたホテルの一室のような12の個室がある。

いわゆる、セレブ御用達の新型機だ。

 

「よお」

「キ、キンジ!?」

「朔夜もいるけどな。しっかし、さすがは貴族様だな。これ、チケット片道20万ぐらいするんだろ?」

「断りもなく部屋に押しかけてくるなんて、失礼よ!」

「お前にそのセリフを聞かせてやりたいよ」

「ぐぬぬ」

 

「……なんでついてきたのよ」

「太陽はなんで昇る?月はなぜ輝く?」

「うるさい!答えないと風穴開けるわよ!」

「太陽が昇っているように見えるのは地球の方が回っているからで、月が輝くのは太陽の放つ光を反射するからだ」

「違う、そっちじゃない!」

 

 

「――武偵憲章二条。依頼人との契約は絶対守れ。」

「……?」

「俺はお前と、最初に起きた事件を一緒に解決する約束をした。そして……この件はまだ解決していない。」

 

「なによ……何もできない役立たずのくせに!帰りなさいよ!アンタのおかげでよーーーくわかったの、あたしはやっぱり『独唱曲(アリア)』!あたしのパートナーになれるヤツなんか、世界中探してもいないのよ!だからあたしは『武偵殺し』だろうがなんだろうが自分一人で戦うって決めたのよ!」

「もっと最初の方に、その言葉を聞きたかったもんだな」

「……ロンドンに着いたら引き返しなさい。エコノミーのチケットくらい、手切れ金代わりに買ってあげるわ。アンタはもう他人!あたしに話しかけないことね!」

 

「元から他人だろ」

「うるさい!喋るの禁止!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強風の中、俺たちが乗る飛行機は東京湾上空まで出てきてしまった。

アリアはむすっとした顔で外の風景、というか雲の流れを目で追って暇をつぶしている。

俺ももう、覚悟を決めた。

毒を食らわば皿まで食らう。

あとは、相手が行動を起こすまで待ちの一手だ。

しかし朔夜の奴、なかなか帰ってこないな。

 

「――お客様に、お詫び申し上げます。当機は台風による乱気流を迂回するため、到着が30分ほど遅れることが予想されます――」

 

うーん、確かに少し揺れてるな……

 

 

――ガガーン!

 

 

比較的近くにある雷雲から、雷鳴が聞こえる。

 

「ひゃうっ!」

「怖いのか?」

「怖くなんてないっ。は、話しかけてこないでって言ったでしょ!」

 

――ガーン!ガガーン!!

 

「ひゃあっ!?」

「雷が苦手ならベットに潜って耳塞いで寝てろよ」

「う、うるさい!次喋ったら風穴!」

 

――ガーーン!ガガガーン!

 

我慢の限界が来たのか、アリアはホントにベッドに潜ってしまった。

 

「キンジ~~!」

「ほら、テレビ点けてやるからそれでも見て気を紛らわせろよ。」

 

機内誌のテレビ・映画の欄を見ると、最近人気の映画はだいたいやっているみたいだ。去年の冬に公開された、怪人二十面相の実写版映画なんかもやっている。

また時代劇なんかもやってるみたいだ。お、これにするか。

 

「これでいいか?」

 

俺がつけたのは、名奉行、遠山の金さんを描いたチャンバラだ。

アクション物の方が雷を忘れられるだろうし、もちろん俺の趣味もある。

遠山の金さんは俺のご先祖様で、露出することに興奮を覚えるちょっとアレな人だったようだ。しかしそれでヒステリアモードを制御していたっていうんだから大したもんだろう。

 

 

「キ、キンジ……」

 

まだ少し怖いのか、俺の制服の裾をぎゅっと握ってくるアリア。

恐怖を和らげるために、 手を添えてやる。

 

「アリア。」

「キンジ……?」

 

そしてアリアが俺の手を握り返そうとした瞬間――

 

 

 

 

 

――パン!パァン!

 

 

これは……雷鳴ではない。

もっと俺たち武偵が聞き慣れた――

 

――銃声――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

慌てて廊下に出ると、機内は大混乱だった。

騒ぐ乗客、アテンダントたち。

 

銃声のした機体前方を見ると、開け放たれたコックピットの扉からさっきのマヌケなアテンダントが機長と副機長をズルズルと引きずりながら出てきた。

 

機長たちは何かされたのか、全く動かない。

 

 

「動くな!!」

 

 

通路の床に二人を投げ捨てたそいつに向かって、銃を構えながら言う。

 

「Attention Please で、やがります」

 

ふざけたように言うアテンダントは、ポケットから何か缶を取り出してこっちに投げてくる。

 

 

 

――シュウウゥゥゥ

 

 

ヤバい、毒ガスか!?

 

「キンジッ!」

「ああ!みんな部屋に戻れ!ドアを閉めろ!」

 

後ろでいまだ混乱する乗客達に言いながら自分も部屋に戻る。

 

 

 

 

 

 

いきなり電気が消え、すぐに非常灯に切り替わる。

機内全体が、暗闇の中薄ぼんやりとした赤い光に包まれる。

視界が取れないほどじゃない。

 

 

 

 

 

 

「――キンジ!大丈夫!?」

 

自分の呼吸、体調を確認する。

心拍も誤差の範囲内だし、麻痺もない。これは一杯食わされたか。

 

「あ、ああ。大丈夫だ。」

 

あれは、どうやら無害なガスだったらしい。

 

「しかし、あのふざけた喋り方……。アリア、あいつが『武偵殺し』だ。やっぱり出やがったか………。」

「――『やっぱり』?あんた、『武偵殺し』が出ることが分かってたの?」

 

「『武偵殺し』はバイクジャック、カージャックそして時間が空いて、俺のチャリジャックを起こした。だが、さっき分かったことだが俺の前にシージャックで――ある武偵を仕留めているんだ。そしてその時、電波を発していなかった。つまり――直接対決だった。お前が知らなかったのも無理はない。」

「続けて」

「しかしバイク・車・船と大きくなっていった乗り物が、俺のチャリジャックで一旦小さくなる。次がバスジャックだ。ここまで言えばわかるな?」

「――!」

「そう、これはハナからメッセージだったんだ。お前は初めからあいつに踊らされていたんだ。奴はかなえさん――お前の母親に罪を着せ、宣戦布告した。そして兄さ……いや、シージャックでやられた武偵を仕留めた同じ3件目で、今お前と直接対決しようとしている。この飛行機――ハイジャックでな。」

 

アリアは悔しさからか歯をくいしばる。

 

ちょうど俺の推理を披露し終わった時……

 

 

ポポーンポポポーン()ポポーン()ポポーンポポーンポーンポポ()……

 

ベルト着用サインが、不規則に点滅し始める。

和文モールスか。

 

 

 

――オイデ オイデ イ ウー ハ テンゴク ダヨ――

――オイデ オイデ ワタシ ハ イッカイ ノ バー ニ イルヨ――

――オイデ オイデ ナカマ ガ マッテル ヨ――

 

 

 

「朔夜か!」

「上等よ。風穴あけてやるわ。」

「俺も行く。今の俺(・・・)じゃあ役に立たないかもしれないが、朔夜を巻き込んだのは俺だ。」

「足、引っ張らないでよね」

 

――ガガーン!

 

「ひゃう!」

「どっちがだよ」

「う、うるさいわね!行くわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下に灯る非常用の誘導灯に導かれ、俺たちは慎重に一階に下りる。

一階は、シャンデリアなどで飾り付けられた豪華なバーになっている。

そのシャンデリアのした――バーのカウンターに、さっきのアテンダントが脚を組んで座っている。

その隣の席には、朔夜が先ほどの機長達のようにピクリとも動かず、カウンターに突っ伏すように座らされていた。

 

俺たちは銃を構えながらその服装を訝しげに見る。

彼女が来ていたのは、フリルだらけの改造された武偵高の制服(理子がさっき台場で着ていたもの)だ――

 

「いやー、今回も見事に引っかかってくれやがりましたねー。」

 

そう言いながらそいつは手を顎の横にかけ、被っていた特殊メイクをベリベリッと剥いだ。

その下にあったのは――

 

――理子の、顔だ。

 

「理子!?」

「Bon sour.」

 

そう言った理子は手に持っていたカクテルをクイッと飲み干すと、こちらにウィンクをしながら朔夜を投げてきた。

 

「朔夜!」

 

ドサッと俺たちの目の前の床に投げられた朔夜に近寄る。

 

「大丈夫か!?」

「う…うぅ…キンジ………耳貸して………」

 

意識が戻った朔夜は俺に何か言うことがあるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キヒッ。お前、本当にチョロいな」

 

 

 

 

 

 

 

身体に走る衝撃。

 

何だ!?

 

今俺は、何をされた?

 

気が動転して、頭が働かない。

 

 

 

 

 

 

「わざわざカードまで残して、ここまで無視されたのは初めてだぜ。朔夜ちゃんがきちんと説明してたのになぁ。キヒッ」

 

朔夜の顔をしたそいつが、立ち上がりながら言う。

 

「なぁ、理子が変装を解いたところなんだから、少しはもしかしたら他に変装したやつがいるかもしれないと思えよ。Eランク武偵ってのはそこまでバカなもんなのか?」

 

「あんたキンジの親友なんじゃないの!?なんでそんなことするのよ!」

 

「あぁン?お前、オルメスの癖にまだ分からねーのか?俺は朔夜じゃねえよ。」

 

 

オルメス――?

それがアリアの――『H』家の名前なのか?

 

 

――しょうがねえな、わかりやすいようにしてやるよ

 

 

 

そう言ったそいつの身体が、ボコボコとまるで機械が皮を被ったように動く。

そしてそれが止まると、そこにいたのは――

 

 

 

 

――俺と同じ顔をした男だった。

 

 

 

 

そいつは、言う。俺と全く同じ声で。

 

 

 

 

 

 

「Ciao, 俺が(ネーロ)だ。どうぞお見知りおきを。ってか?キヒヒッ」

 

 

 

 

 






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