シャドウラン4th Japanese Imperial State   作:てるもこ

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説明&修行回


第二話 それから

久しぶりに会う婆ちゃんとランチに出かける?

じゃあ裏を取って、後方支援を用意しねえとな

 

―――あるランナーのつぶやき

 

-1-

 

 わざと短くしていた髪を掻き分けながら、僕は答える。

 

 「男装してる理由?そんなの決まってる。ストリートでいかにも女!って格好しててみなよ、運が良ければ一週間以内に妊娠、運が悪けりゃ一生妊娠しない体にされて、最悪死ぬよ。ランナーならそこら辺判るでしょ?」

 

 ぺったんこの胸を精一杯張って言った。

 

 どこかのギャングかヤクザにみかじめ料を払って、「商売」としてストリートに立つのならともかく、普通に生きるには女の体は向いていない。それに、みかじめ払って商売をしていたとしても、運が悪ければ何かの拍子に死ぬか殺されるのだ。

 

 幼児だった僕を拾ってくれた、姉さんのように。

 

 「いや、必要に迫られてやってるのか、趣味でやってるのか判らなくてな……」

 

 「必要に迫られて、です。……僕はカオル。おじさんは?」

 

 「コニシ、それで通ってる」

 

 黒髪で中肉中背、年齢は三十半ばくらいに見える。灰色のスーツ姿だが、いわゆる「さらりまん」の雰囲気は無く、荒事を行う人間特有の、荒んだ空気もない。特徴が無いのが特徴とまでは言わないが、どこにでも居そうな、なんとなく優しげな感じを受けるおじさんだ。

 

 「じゃあコニシさん……言いづらいんだけど」

 

 「どうした、どこか痛むか?」

 

 「お腹減った」

 

 笑い出すコニシさん。どうやら僕は、彼の意表をつく事に成功したようだ。

 

-2-

 

 『カオルへ。事情があって、私は帰らなくちゃいけません。いつか絶対、日本に戻ってくるので、それまでお元気で。メールか電話くれると嬉しいです』

 

 ミシェルが残した手紙だ。今時古風な、ペンでの直筆手紙。普通はメールなりを使うんじゃないか……と思ったが、よく考えてみれば僕はコムリンクを持っていなかった。

 

 金が無いのは首がないのと同じ、とはよく言ったもんだ。

 

 貰ったサイバーアイ代、ちょっとグレード下げて、その分コムリンクに回そう、そうしよう……

 

 なんて事を考えつつ、ベッドの上で寝る毎日だ。食事は、味は薄いが上等だと判る―――後で聞いたら天然物だったそうだ。このニュートリソイ全盛のご時勢に、なんたる贅沢―――病院食ばかり。

 

 検査につぐ検査の末、ようやく解放されたのは一週間後。

 

 病院備えつけの閲覧専用コムリンクを使い、色々なサイバーウェアのカタログを眺めながら、アレを入れようコレを入れようと考えてる時に、医者とコニシ(呼び捨てにするように言われた)から明日が退院だと告げられたのだ。

 

 「え、退院?サイバーウェアの埋め込み手術とかどうするの?」

 

 サイバーウェアとは、体に異物を埋め込むのと同義だ。当然手術が必要になるし、入れた直後から体の一部として馴染むものではない。(と、カタログに書いてあった)

 

 なので、体が治れば次は代金支払い済みのサイバーアイの埋め込み手術が始まるものとばかり思っていた。

 

 「落ち着け、理由があるんだ。……胡散臭そうな顔するな、ネコババなんかしないって。ガキの病院代から上前ハネるほど、下種じゃねえ」

 

 「その理由は?」

 

 「お前、何歳だ?」

 

 「……たぶん、十五かそこら。捨て子だったから、曖昧だけど」

 

 そんな感じはしてたぜ、と頭を掻きながらコニシが言う。

 

 「今、お前の体にサイバーウェアをインプラントしても、成長と同時に体に合わなくなる公算が高い。比較的安価なウェアならその都度買って手術しなおせばいいが、強化反射神経なんかは、だいぶ厳しいな」

 

 頭の中に思い描いてた、理想のシャドウランナー像がガラガラと音を立てて崩れていく。

 

 「取りあえず、最低限必要なサイバーアイだけ入れて、後は生身。俺のアシスタントをしながら、礼法や勉強からかな……」

 

 「礼儀作法?勉強!?ちょっと、シャドウランナーってそんな事するの!?」

 

 頭が痛くなってきた。自分の興味がある分野ならともかく、今更勉強とは……

 

 「当たり前だ」

 

 コニシが続ける。

 

 「お前が将来、企業から直接依頼を受ける立場になったとしても、その時に『出来て然るべき』礼儀が出来なかったら、それだけで相手の心証悪くして、下手すりゃ使い捨てられるぞ?」

 

 実際、トロールギャングどもに『礼儀がなってねえ!』と殴り殺された奴を知っているだけに、理屈は判るけど……

 

 「あとは車やバイクの運転、日本語と英語の読み書き、必要最低限のストリート以外での常識」

 

 うへえ、詰め込み式のカリキュラムってレベルじゃないよ、コレ。教育の機会が絶無だった僕にとっては、有り難い話であると同時に、面倒くさい事この上ない。

 

 「銃器の整備、爆発物の取り扱い、魔術の基礎知識、世界の情勢エトセトラ」

 

 「ちょっと、そこまでいくともうシャドウランナーじゃなくて、どこかのエリート工作員だよ!僕には無理!」

 

 「大丈夫だ」

 

 コニシが笑う。

 

 「引退した元工作員がみっちり仕込むから大丈夫。……つまり俺が教える」

 

 こうして、僕には悪い事をスパルタで教えてくれる、頼れるクソッタレ教師が出来た。

 

-3-

 

 次の日の早朝、僕は退院した。サイバーウェア埋め込みはせず、僕の体はオール天然モノだ。失った左目は、海賊がつけそうな黒い革のアイパッチで隠している。当然、僕の趣味じゃない。コニシが買ってきてくれたのだ。

 

 「どうだ、格好良いだろ」

 

 「えっ」

 

 僕とコニシの間に、実は修復不能レベルの巨大な溝があるんじゃないかと、嫌な汗をかく。

 

 「まあ、その、なんだ……取りあえず俺の部屋でしばらくは同居だ。独り立ち出来るだけの金を稼げるようになってから引っ越しゃいい。家賃はタダだ」

 

 「返せるようになったら返すよ。借りっ放しは、あまり好みじゃないんだ」

 

 言い換えると、返せないうちは返さないし、ある程度は好意に付け込んでタカるという事だ。

 

 コニシが車をまわすと言うので、病院のロータリーで待つ。ほどなくして、彼はやってきた。

 

 「じゃあ、まずは荷物を置いて、それから仲間と合流だ」

 

 コニシの運転する車はユーロカー・ウェストウィンド3000。ツードアのスポーツタイプで、池袋ではまず見かけない車だ。確か、どノーマルで八万五千新円(ニューエン)、一新円が百円なので、旧時代の貨幣価値に直すと八百五十万円也。今の僕の、小汚いレザージャケットで乗るのが恐れ多い。

 

 病院にいる間に増えた着替え等が大半の荷物を、申し訳程度についてるトランクスペースに放り込み、ナビシートに潜り込む。自分の意思で車に乗るのも、シートベルトを締めるのも、生まれて初めての経験だ。

 

 コニシはドライバーシートでシートベルトすると、ハンドルからコードのようなもの伸ばし、首筋のプラグに差し込んだ。

 

 それをじっと観察する僕に、コニシが気付く。

 

 「なんだ、リガー対応車が珍しいか?」

 

 リガー対応。トリッドで何度か見た事がある。確か、操縦者にインプラントされた「制御リグ」という装置と、車や無人機に搭載された制御装置を無線または有線で接続し、思考するだけで機体を動かす技術だ。両手両足を使うよりも反応速度が上がり、リガー対応の機体は「考える速度で」操縦出来るようになる。

 

 「リガーどころか、ナビシートに乗るのなんて初めてだよ」

 

 車に乗ったのは、さらわれた時のトラックを入れて2回目だ。

 

 「そうか、それじゃサービスしなきゃな」

 

 コニシが目を瞑る。今、彼に見えてるのは眼からの視覚情報ではなく、車に備えつけられたカメラからの映像のはずだ。

 

 エンジンスタート。重苦しい重低音から、次第に高くなっていき、そしてカン高く攻撃的なノイズとなる。

 

 「この車は、モータースポーツのために生まれた車だ。まあ最新のレースマシンと比べると、だいぶ格は落ちるが」

 

 何か嫌な予感がする。

 

 「それでも、人間が速度を求めるとどうなるか、という一例を教えてあげよう」

 

 それからの体験は、僕に安全運転がいかに大切かという事を、トラウマのレベルで刻み込んでくれた。

 

-4-

 

 僕が入院していた新宿の病院から、コニシの自宅がある恵比寿までを、人には言えないタイムで走破するユーロカー・ウェストウィンド3000。

 

 ナビシートで目を回した僕が我に返ったのは、大きなマンションの前だった。ここがコニシの家なんだろうか?マンションのエントランスにはガードマンが立っており、セキュリティも高そうだ。

 

 二十四階にある、3LDKがコニシの家だった。うち一つが僕の部屋になる。以前の暮らしからは考えられないほどの豪勢さだ。しかし、堪能するような時間はなく、荷物を置いたら即出発。コニシのランナーチームの一人と顔合わせをするらしい。

 

 僕が強硬に「安全運転」を主張した結果、時速40km程度で一般道を走るウェストウィンド。また、会話するために、リギングではなく通常運転で走ってもらう事にした。

 

 「顔合わせって言うけどさ」

 

 「難しい事はない。ダベってメシ喰って買い物するだけさ。……俺ァ男だからな、お前の服とか、必要な雑貨とかよく判らん」

 

 「という事は、判る人と合うの?コニシの恋人?」

 

 少し手持ち無沙汰なので、眼帯のゴムをパッチンパッチンやって遊ぶ。

 

 「何してんだ……恋人とかそういう関係じゃない。気の合う仲間ってやつだ。何より、腕が立つ」

 

 べた褒めである。

 

 「同じランナーなんだよね?コニシは元工作員だっけ、その人の得意な分野は?」

 

 「アデプトさ」

 

-5-

 

 アデプト。魔力を持って生まれながら、魔法を使えないか、不完全にしか使えない人の事だ。

 

 だが、アデプトという種類の魔法使いが無力かというと、そんな事は微塵もない。アデプトは、魔法で火の玉を出すかわりに、その魔力で身体を強化するのだ。

 

 世界が魔法に覚醒した際、明らかに「常軌を逸した」身体能力を持つ人が現れ始めたらしい。

 

 曰く、空手チョップで鉄パイプを切断し、キックで乗用車をスクラップにするフィジカルアデプト。曰く、映像スコープ一切なしで、古いスナイパーライフルで3kmの狙撃を成功させるガンスリンガー・アデプト。曰く、弁舌だけを武器に、3年で大統領にのし上がったソーシャル・アデプト。当然、サイバーウェアの助けを借りずに、だ。

 

 それまではフィクションの中にしか存在しなかった、修行と研鑽の果てに一般人の理の外へと踏み出した存在。

 

 旧世紀の、アクション映画から抜け出してきた超人……それがアデプトだ。

 

 まだ見ぬアデプトさんを想像する。僕の貧弱な想像力では、女トロールが空手の正拳でビルの壁に大穴を開けている図しか浮かんでこない。

 

 「何を想像しているかは判らないが、間違ってるのだけは判るな」

 

 「あれ、顔に出てた?」

 

 新宿へと到着する。駅前の地下駐車場へ車を入れ、徒歩に切り替えての移動になる。ネオアルタビジョンの脇を抜け、飲食店ばかりが入ったビルへ。コニシが目指したのは、最上階の中華料理店だった。

 

 店員にエスコートされ、広い個室へと通される。トリッドでしか見た事のない、回転する中華テーブルがある。……実在したのか。

 

 存在を疑っていた(料理が食べきれないほど出てくる、という無駄が理解出来ない)アーティファクトを目の当たりにして、軽く混乱する僕。

 

 席には、上品な笑顔の老婦人がいた。

 

 これまたやはりトリッドでしか見た事のない、白が基調のゆったりしたチャイナドレス、スリットからはカンフーパンツと言うんだろうか、スラックスを履いた足が見えている。

 

 完全に白くなった髪は短く切りそろえられ、少しウェーブがかかっている。上品な笑顔とは裏腹に、活発そうな人だ。

 

 老婦人は椅子から立ち上がり、年齢を微塵も感じさせない足取りで僕の前までやってきた。

 

 「あら、あらあら、まあ!可愛らしいお嬢さん!ねえコニシ、こちらが、お話してくれた方?」

 

 「こんにちは、ミセス・黄。はい、カオルです。カオル、こちらはミセス・黄。この中華料理店のオーナーで、俺のランナー仲間だ」

 

 「初めまして、ミセス・黄。カオルといいます。」

 

 「はい、こんにちは、カオルちゃん。そんなに堅苦しくしなくていいのよ。……コニシ、堅苦しくしなくていい、って言い回しで合ってるわよね?」

 

 「ええ、問題ありませんよ、ミセス」 

 

 なんともまあ、不思議なパワーを感じさせる、お茶目なお婆ちゃんだ。

 

 「さあ、座ってちょうだい!今日は美味しい料理を沢山作ってもらってるから!カオルちゃん、遠慮しないで沢山食べてね」

 

-6-

 

 前菜から始まって、凄まじい量だった。ミセスのうんちくによると、いわゆる一般的な中華のメニューではなく、ヌーベルシノワと呼ばれるフランス料理風の中華料理なんだそうだ。後でコニシから聞いたが、中国の人は相手が食べきれずに残す量を出すのがおもてなしで、客は残さなくちゃいけないらしい。早く言って欲しかったなあ……

 

 食べる最中もこの老婦人は饒舌だった。内容と言えば、服と眼帯を選んだコニシのファッションセンスをこき下ろすものばかりだったが。

 

 「カオルちゃん、この後はお婆ちゃんと買い物にいきましょうね、あなたにピッタリのお洋服とか選んであげるわ」

 

 にこにこと、何が面白いのかは判らないが、ずっと微笑んでいる。

 

 「そのショートの黒髪にも、目を隠すためのアクセサリも、ばっちり合っちゃうやつを選びましょうね」

 

 コニシは、お手柔らかにと苦笑している。

 

 「さて、食後のお茶も堪能したし……ちょっと体操しましょうか、カオルちゃん」

 

 動けない事もない、程度に胃がこなれた僕だが、飲食店と体操という二つの単語がどうも結びつかない。

 

 「運動するんですか?ここで?」

 

 違う、そうじゃない、とコニシが口を挟む

 

 「ミセスは、お前にアデプトの才能がないかどうか、それを確かめたいんだ。大げさに飛んだり跳ねたりするわけじゃない」

 

 「そうよ。私はもうお婆ちゃんですからね、あまり激しい運動は疲れちゃうのよ」

 

 出来ないではなく疲れちゃうと表現するあたり、恐らくその『激しい』に分類される類の運動も出来るんだろう。

 

 ミセス・黄が両手を二度叩くと、食事中に給仕してくれていた店員さんたち(全員チャイナドレス着用)が、テーブル等を個室の端へと移動させる。そして僕は促されるまま、部屋の中央でミセスと相対した。

 

 「まずは肩幅に足を開いて立ってちょうだい。体を楽にして……腕を前に出して」

 

 言われるままにポーズを取っていく。

 

 「指を曲げて…両手で大きなものを掴むイメージで……そう、腕は何かを抱きしめるように曲げて」

 

 何が目的なのかさっぱり判らない。

 

 「腰を少し落として、目を瞑って。さて、ここからが本番よ」

 

 両手をミセスに優しく握られる。

 

 「私の手は意識しないでいいわ。イメージなさい。熱い塊を両手で掴んでいて、それが腕を伝って……あらやだ」

 

 軽く僕の頬を叩き、

 

 「もういいわよ、カオルちゃん。判ったから」

 

 コニシが椅子から腰を浮かせ

 

 「もう!?そんな速く判ったんですか?」

 

 「ええ、この娘、才能ゼロよ」

 

 ……自分が魔法使いになる事を夢見た事はないが、断言されるとヘコむなあ。

 

 「アデプト系に特有の、気の流れがまったく感じられないわ。たぶん魔法の才能も無いんじゃないかしら?どんなに鍛えても、一般人レベル止まりね」

 

 「ええ、それは入院中にグローモス(魔力を感知すると発光する苔)使って確認してあります。また、この年齢からメイジに目覚めるような事も無いでしょう」

 

 なんだこの流れ。コニシがこちらまでやってきて、肩に手を置く。

 

 「というわけでカオル、アデプトとメイジの道は閉ざされた。残るは汗を流すか、マトリリックス(ネットワーク上の仮想空間)を使うか、くらいしか無い」

 

 「体を動かす方が性に合ってるよ。今更、ネットワークの……って、コニシからお勉強させられるんだっけ」

 

 自分が今非常に情けない顔しているのが理解出来る。ストリート・チルドレンとして生きるよりはマシかもしれないが、改めて聞くとだいぶ面倒に感じる。

 

 「基礎知識をさらっと知ってるのと、実用レベルで身につけるのはまた別の話だが……まあいい。これで後顧の憂い無く、サイバーウェアをインプラント出来るな」

 

 「憂い?」

 

 コニシが続ける。

 

 「ああ、魔力は異物を体にインプラントすると、それだけ低下していく。埋め込み過ぎると、完全に魔力を喪失するんだ」

 

 その後を、ミセス・黄が引き継いだ。

 

 「だからね、インプラントなんかをする前に、コニシはカオルちゃんをテストしたのよ」

 

 「なるほど」

 

 「でもね、カオルちゃん。体術は私が教えてあげるから、安心してね。アデプト並みは無理だけど、素手でも素人相手なら完封出来る程度には、色々教えてあげるわ」

 

 なんかランナーとしてくたばる前に、訓練で死にそうだね、僕……

 

-7-

 

 その後、新宿でコニシの顔が軽く引きつるほどの買い物をし、荷物は全て配送して貰った。

 

 僕がヒラヒラした服装を好まず、ファッションの系統で言うと……ロリータパンクとでも言うんだろうか、可愛い目のデザインの中に、鋲だのリベットだのが多めのファッションとなった。

 

 スリムタイプで黒のフェイクレザーパンツと、上半身も同色のフェイクレザージャケット。シャツも黒で、腕だけが黒と赤のボーダーだ。正直目がチカチカするけど、なんとなく気に入った。

 

 このパンツは新作で、フェイクレザーにも関わらず抜群の伸縮性を持っており、同じくアルゴンキンが提供するヒップホルスターと良く合うとブティックの店員が説明してくれた。

 

 荒事が前提なので、防弾防刃性能を重視するとなると、どうしても普通の服ではなく「アーマージャケット」にカテゴリされるものが多くなってしまう。アルゴンキンはそうしたニーズにもよく答えてくれた。当然、その分値段も相応だ。

 

 ニーズに答え過ぎてくれて、黄さんが

 

 「色々あると着回せるから、サイズがあるの全部」

 

 と言い出した時のコニシの顔色は、赤を通り越して青すら超越し、紫色だった。

 

 「いや、その……こういう服は初心者なので、あんまり沢山あっても逆に戸惑っちゃいます」

 

 コニシの気紛れで今の立場にある僕としては、さすがにこれ以上は気が引ける。

 

 改めてお礼を言い、マダムとはブティックで別れた。

 

 購入した衣服と日用雑貨を送ってもらった次は、SINだ。僕は生まれてから一度も持った事がない。これからだいぶ後ろ暗い事に手を染めるわけで、使い捨ても視野に入れた偽造SINが必要になる。

 

 ランナーが使う銃器の大半は許可証が必要か、警察か軍人でない限りは所持が禁じられる重火器だ。禁じられている重火器が必要な場合は、車なんかにこっそり隠し持てばいいだけだが、許可証が必要な銃器はハンドガンやらの小型のもの全般であり、許可証はSINとリンクする。

 

 銃を携帯して行動しなくちゃならない時には、どうしてもSINを持ち歩かなくてはならないわけで、かといって同じ偽造SINを使い続けると足がつきやすくなる。おかげで今日も偽造屋は大繁盛、というわけだ。

 

 「森 薫」名義で偽造SINを作成した。

 

 「ジレット候補の名前がモリとはね、出来すぎかなこりゃ」

 

 コニシが何か呟いているが、何の事やら判らない。

 

 これでコムリンクや、その他身分証と証明書が必要なサービスを受けられるようになった。

 

 次に、当面の間使用する護身用の武器を買う。コニシが贔屓しているガンショップへ。

 

 「ここら辺がいいんじゃないか。コルト・マンハンター」

 

 コニシが店員に言って出してもらったのは、あのチンピラが使っていた銃だった。あの日左目を奪ったクロームの鈍い輝きが、ギラギラと僕を威嚇する。

 

 「ごめん、これはちょっと……」

 

 「じゃあ……」

 

 次にコニシが手に取ったのは、ルガー・スーパーウォーホーク。僕が両手で持ち上げようとしても、手がプルプルするほどのデカくて重い大型リボルバーだ。賭けてもいい、これを今の僕が撃ったら、反動で後ろにひっくり返るだろう。

 

 「僕これ撃てないんじゃないの?練習が出来るかどうかすら怪しいけど」

 

 「大丈夫だ、すぐは無理でも、撃てるように鍛えてやるぞ。あと、リボルバーはまずジャムらない」

 

 「今ってケースレス弾ばっかりなんじゃないの?それに、デザインがちょっと」

 

 「デザインは威力に関係ないんだが……じゃあこれはどうだ」

 

 アレス・プレデターIV。世界を牛耳る十大メガ・コーポのひとつ、アレス社の有名モデルだ。ルガー・スーパーウォーホークなみに大きいが、重量はそれほどでもない。イカつい外見と、それに反して握り易いグリップ。マットブラックで統一された外装は、光を反射せず隠密性も高いだろう。装弾はマガジン式、装弾数は十五発。特筆すべきは、最初からスマートガン・システムが搭載されている所だ。

 

 眼鏡やゴーグル、サイバーアイ等に搭載するスマートリンク・システムとこのシステムは通信を行い、視界内に銃がポイントした所を投影、さらには自分が認識した目標を強調表示したり、対象との距離を視界に投影したり、残弾数や湿度、銃身の加熱度等まで知らせてくれる。これがあると無いでは、射撃の難易度が段違いになる……と店員が熱心に説明してくれた。

 

 「コニシ、これがいい」

 

 「普通過ぎて面白味の無い銃だが、つまりそれだけ定番って事だしな」

 

 シヨルダーホルスターやイヤープロテクター、滑り止め用のグローブ、メンテ用のキット等、さらにナイフ等を買う。

 

 「いやあ、買い込んだな、カオル」

 

 銃とナイフだけですでに千新円を突破してる。生活用品や服、さらには今後かかるであろうサイバーウェア埋め込みの金額は考えたくもない。

 

 「返せるかどうかが不安だよ」

 

 心情を素直伝えると

 

 「前にも言ったが、大丈夫だ。返せるようにしてやる」

 

 一体どんな事をすれば返せるようになるか、まったく想像がつかない。

 

 「ちゃんと生きて返済出来るかなあ、僕」

 

 「明日から、俺の仕事がない時は訓練、俺の仕事がある時はアシスタントか自主訓練だ。気合入れろよ」

 

 「はい……」

 

-8-

 

 訓練、勉強、アシスタント、お使いエトセトラ。時間はあっという間に過ぎていく。短かった僕の髪も、今では肩甲骨のあたりで切り揃えられている。

 

 栄養状態が改善したとはいえ、やせっぽちのチビだった僕は、身長160cmで縦に伸びなくなった。胸だけは立派に育ってしまい、非常に邪魔だが。

 

 身長の伸びも止まり、サイバーウェアのインプラントの検討に入った時、運動に支障が出るので胸も小さめに削ってしまおうと思ったが、他のランナー仲間の男どもが「それを削るなんてとんでもない!」と言い出したので、そのままだ。コニシに至っては、「それ無くすなら、手術代出さないもんね!」とまで言い出した。子供か。

 

 さらにコニシの強硬な主張により、皮下に装甲板を入れて肌の弾性を損なう「皮下装甲」ではなく、バイオウェア―――機械や無機物ではなく、特定の機能を持たせて培養された細胞組織―――「オルソスキン」と呼ばれる、衝撃拡散性の高い組織を皮下に入れる事になった。

 

 その際、サイバーウェアやバイオウェアとのアレルギーテストを行うため、細胞のサンプルを提出したが、どうやら僕の体は「タイプO」と呼ばれる特徴を持っているらしかった。

 

 2032年、オーウェン・ホワイティングという男性から発見された特徴で、このタイプの固有遺伝子発現型を持つ人間は、それがバイオ系のものであれば驚くほど容易く「異物と同化する」そうだ。

 

 つまり、僕の体はバイオウェアに対する親和性が高く、普通に人間からは考えられないほど大量のバイオウェアを受け入れる余地があるらしい。

 

 さらに、僕の細胞組織は他の人間にすら容易く「馴染む」らしく、もしも通りすがりの臓器密売組織が僕を「タイプO」と知ったら、死に物狂いで確保にかかる事請け合いの売れ筋商品でもあり、パンダも目じゃないほどレアだそうで。

 

 で、その特色を生かす為に、サイバーウェアと比べるとびっくりするほど高いバイオウェアをメインにし、僕の体が出来上がった。

 

 サイバーウェアの方が優秀な部位はサイバーウェアだが、インプラントの殆どがバイオウェアで構成されたボディ。値段は考えたくも無い所だが、コニシがコネを持つメガ・コーポに、僕の生体データを定期的に提供する事で割引きする、という契約になったようだ。

 

 ストリート・チルドレン上がりなので「身長体重スリーサイズを知られちゃう!恥ずかしくて死んじゃう!」といった乙女心とは無縁だが、自分由来のデータを元に新しい製品が作られるかと思うと、非常にムズムズする。

 

 ましてや、その製品を埋め込んだ「次世代の女ストリートサムライ」等と名乗る奴に殺されるような事になれば、死んでも死に切れない。

 

 精進あるのみ、かな。

 

 シャドウランナー御用達のクリニックの培養槽から出て一週間。大量の「作られた肉」と少しの「チタンとクローム」はすっかり体に馴染み……「骨密度強化」処置により体重が2倍に増えた事以外は、概ね気にならない。

 

 そして、いよいよ今日は退院の日だ。もはやトレードマークとなったアルゴンキンのアーマー・ジャケットと、レザーパンツ、鉄板入りのコンバットブーツを身につける。

 

 改造前からの乗用しているアメリカンバイク、ハーレー・スコーピオンに跨り、コニシの家へと向かう。久しぶりに飛ばす道は、サイバーアイのおかげで以前よりも細部が鮮明に見えた。

 

 アクセルを開き、制限速度ギリギリまで上げる。すると、サイバーアイにスピード違反のアラートと、近所にパトカーがいる旨のポップアップ警告。今は緊急事態でもなく、また病院から出たその日の内に切符を切られるのも間抜けな話なので、法定速度になるまでアクセルを絞る。

 

 シャドウランナーといえども、世間の表にいる時は法律に縛られ、窮屈なものだ。夜が待ち遠しい。

 

 非常にお行儀よく(メットを被らず、サイバーアイのモードをテストと称して適当に切り替えながら走るのは、果たしてお行儀が良いに分類されるかどうかは、議論の余地があるかもしれない。が、少なくともスピード違反だけはしていない)運転し、何のトラブルもなくマンション前へと到着し、コムリンクからコニシに着いた旨を伝える。

 

 「よし、じゃあ地下のシューティングレンジへ」

 

 「了解」

 

 ガレージにバイクを停め、マンション地下の無駄に広いシューティングレンジへ通じる道を歩く。見慣れたはずのコンクリート打ちっ放しの壁が、妙に寒々しく見えた。

 

 レンジ入り口の扉はロックがかかっており、耳を澄ましても銃撃の音は聞こえない。コニシはまだかなと思いつつ、扉をアンロックして中に入る。

 

 入ってすぐにレンジの照明をオンにしようとして、コムリンクでアクセス―――オンにならない。

 

 施設もセキュリティも充実、伊達に家賃がイイ金額するわけではないこのマンション。かれこれ5年ほど生活したが、公共部分のライトがつかないなんてトラブルは、初めてだ。

 

 「来たな、カオル」

 

 暗い部屋に、コニシの声が響く。軽く音割れしているので、恐らくスピーカーだ。

 

 「レンジの壁は取っ払って、適当に障害物を設置してある。最終試験だ、何使ってもいい、俺に一発入れろ。殺せるなら殺しても構わん」

 

 最終試験て……

 

 「コニシ、トリッドの見過ぎなんじゃない?というか、今日退院したばっかりの人間にやらせる事?」

 

 「いまいち決めさせてくれないよな、カオル……ゴホン、こちらはゴムのナイフと、ペイント弾を使う。安心してかかってこい。俺に一発入れるか、お前がギブアップしたらそこで終了だ」

 

 「嫌だって言ってもやるんでしょ……オーケー、全力で行くから、今のうちにコムリンクに遺言吹き込んでおいてね」

 

 返答は開始の一言のみで、その後に一瞬のノイズだけを残してスピーカーは沈黙。僕は静寂に包まれる。間髪居れずに入り口を半開きに狭め、遮蔽として身を隠し、強化反射神経を起動する。

 

 そして一発、盛大な舌打ち。

 

 別に舌打ちしたい気分だったという理由だけではなく、この「舌打ち」の音をピンとして、壁からの反響音をサイバーイヤーで拾い、僕の聴覚神経束と脳に追加されたバイオウェア「エコーロケーション」が、大まかな地形を描き出す事に成功。

 

 しかし、移動ターゲットは拾えなかった。もともとシューティングレンジなので、壁の内張りは音を吸収する素材を使っていたはず。むしろ地形が判っただけでも運が良かったかもしれない。

 

 エコーロケーションで得た地形情報をサイバーアイの視界にオーバーラップし、サイバーアイを熱映像視野に切り替える。熱源ゼロ。

 

 熱が無いなら次は低光量視野だ。ドアを開きっぱなしにしておけば、シューティングレンジ前の通路から届く光だけでも、ある程度は見える……はずだったが、切り替える直前に銃声が聞こえ、あたりは完全な闇に。コニシが照明を狙撃したんだろう。ペイント弾とはいえ、その程度の破壊力はあるようだ。

 

 視界は完全に奪われた。しかし、僕はコニシとほぼ同じ構成のサイバーアイを入れている。僕は三浜・ツァイス、コニシはレンラク・シグマとメーカーは違うが、性能やオプションはほぼ同じ。相手も見えていないはずだ。

 

 二度目の舌打ち。エコーロケーションの情報に変化はない。

 

 狙撃したという事実から、少なくとも入り口扉の先にある照明を狙撃出来る角度にコニシが居た事は間違いないはずだ。熱映像にも引っかからないのは、熱遮断加工された全身装備をしているか、それとも……熱遮断された障害物に隠れている?

 

 エコーロケーションの像には、ニーリングポジション(膝をついた射撃姿勢)でも楽々隠れられる障害物がいくつか見えている。その中でも角度的に照明を狙える障害物にあたりをつけ、ヒップホルスターのプレデターを抜く。スマートリンクを起動、視界にクロスヘアと残弾数が浮かび上がる。

 

 動かない目標であれば、いくらソナーの情報しかなくとも、命中させる事は容易だ。精密に一発で急所を射抜く必要がある狙撃ミッションとはワケが違う。

 

 半開きの扉を完全に開け放ち、即座にプローンポジションへと移行。狙った障害物へ取りあえず三発ぶち込む。

 

 着弾。だが、その音は「中身がつまった物」だった。

 

 「想像力が足りないな、減点1」

 

 コニシの声と同時に、額に強い衝撃を感じる。

 

 「さあ、試験は始まったばかりだ。頑張れカオル」

 

 撃たれたのか、僕は。

 

 弾が命中した額が、ジンジンと痛む。ぬるりとした液体が、皮膚を滑り落ちる感触。ペイント剤か、それとも血か。オルソスキンと骨密度強化のおかげで、拳銃弾程度なら皮下まで到達しないはずだが、表皮には傷が出来たかもしれない。

 

 確かに僕とコニシでは年季も、潜ってきた修羅場の質も、何もかもが違う事は理解出来る。あっちはベテラン、こちらはニュービーに毛が生えた程度だ。

 

 だからといって、遊ばれっぱなしなのは好みじゃない。例え体中をペイントでベタベタにされても、一矢報いないと気がすまない。

 

 想像力が足りないと、そう指摘された。これは試験だ。つまりコニシお得意の軽口ではなく、アドバイスだろう。

 

 視界の隅では、アドレナリン過剰のアラート。つまり僕は今、そうとう頭に来ているらしい。落ち着かないといけない……コニシに足元を掬われ続ける。

 

 プローンポジションのまま床を横へ転がり、部屋の隅の障害物へと身を隠す。

 

 深呼吸を一つ。自分由来と思われる音全てにフィルタをかけて、サイバーイヤーの感度を最大まで上げる。……コニシの呼吸音すら拾えない。かすかに機械の駆動音がする程度だ。ターゲット・ペーパーを運ぶコンベアの音だろう。

 

 感度を戻し、覚悟を決める。さっき撃った障害物は「中身のつまった」音がしたが、金属音はしなかった。恐らく土嚢か何かだろう。だから、着弾した際の「火花」すら見えなかった。

 

 わずかでも灯りがあれば、見えた一瞬を録画し、身を隠したままその動画をサイバーアイに投影して、検討する事も出来る。そこまでしなくても、あわよくばコニシの姿を捉えられるかもしれない。

 

 障害物からギリギリ目の高さまで顔を出し、サイバーアイの録画システムを起動。部屋の壁へプレデターを一射。マズルフラッシュがあたりを照らし……

 

 「ソナーや熱映像が駄目なら、低光量。光が確保出来ないなら、作ってしまえばいい。その発想はなかなかいいな」

 

 銃声。

 

 「ひゃん!」

 

 し、尻!尻を撃ちやがった!

 

 「可愛い声出すじゃないか。だが、まだ想像力が足りないな。これは試験だが、別に暗視戦闘の試験じゃないんだぞ?さあ続行だ」

 

 言葉が終わると同時に、また僕のヒップにペイント弾が飛んできた。反射的に出そうになった悲鳴を噛み殺す。

 

 着弾の感触は上からだった。プローンポジションの僕の尻を真上から撃てるとなると、これはもう上か斜め上から銃口を向けたからとしか説明がつかない。

 

 頬が熱い。恐らく僕は今「恥辱」って奴を感じているんだろう。視界には先ほどよりも強くアドレナリン濃度のアラートが出ている。

 

 歯を食いしばり、サイバーアイで撮影した動画を再生する。

 

 そこには、一瞬の火花に照らし出される、長い保持アームを備えた、クモのようなマシンが一機。複数の保持アームの先からは、銃口が見えている。それが二機。

 

 ……さっきの駆動音はコレか。熱映像にも引っかからなかった所からすると、恐らく静音断熱加工済みなんだろう。だいぶカネのかかった嫌がらせだ。

 

 そして、動画にはコニシの姿はない。

 

 恐らく、この無人機をどこか別の部屋から操作しているんだろう。見たところ複雑な操作が必要タイプの無人機のようなので、どこからか制御リグでコントロールしているんだろう。

 

 動画をさらに精査すると、無人機の胴体にはパッシブソナーらしき装置が見えている。

 

 僕がドタバタ足掻くのを、高見の見物しながらし、尻に……!

 

 僕は静かに沸騰しながら、予備としてショルダーホルスターに吊っておいた、もう一丁のプレデターを抜き、二挺を構える。

 

 舌打ちのエコーロケーションで敵マシンが移動していない事を確認し、二丁のスマートリンクを同時起動。右手は右にいるマシンの、左手は左にいるマシンのパッシブソナー用マイクを打ち抜く準備をする。

 

 もう一度深呼吸。外せば、また尻だ。大丈夫、3,2,1でいける。絶対いける。

 

 さらに深呼吸。いく。

 

 3で立ち上がり、2で狙いをつける。

 

 僕の背骨の周囲に配置された反射記録器が、銃撃に最適な力の入れ具合、腕の伸ばし具合を導いてくれる。

 

 加圧した神経は、周囲の時間がゆっくり流れていると僕に錯覚を起こさせる。スマートリンク・システムにより視界に浮かぶ照準は、確かに左右の無人機のマイクを同時に捕らえ……

 

 射った。

 

-9-

 

 コニシの部屋へ足を踏み入れると、ちょうど奴が首筋からプラグを引き抜く所だった。

 

 「そうだ、依頼主ですら裏切る事がある昨今、ルールを定めた奴すら疑っ」

 

 ニコニコと笑いながら、右手を伸ばしてきた。試験合格の握手だろうか?

 

 僕もニコニコと笑いながら、右手を伸ばし、手首を外側から掴む。

 

 そのまま右手を引き、左足で大きく踏み込み、震脚。コニシの脇腹に左肘を叩き込む。歳相応の女の子がやったなら、軽く咳き込む程度で終わりだろう。しかし残念な事に僕は普通の女の子ではない。

 

 骨密度強化のおかげで三桁に迫る体重と、筋肉強化と筋肉調律による力と敏捷さを兼ね備えた、ストリート・サムライなのだ。

 

 うずくまり、僕の本気の一撃で悶絶するコニシ。肋骨が折れた手応えはないが、ヒビくらい入っただろう。

 

 「ゲェェェ、待て、試験終わり、合格、合格だって」

 

 「ごめん、サイバーイヤーの調子が悪くて、音がまったく聞こえないんだ」

 

 「くそっ、たかだか尻を撃っただけじゃないか!」

 

 恐らくこの分野でも勝てはしないだろうが、勝てないと判っていても、やらねばならない時が女にはある。

 

 「何を言っているか聞こえないけど、僕に殴られたくて仕方ないのは判った」

 

 僕は改めて、ミセス・黄直伝の構えを取る。コニシもアップライトスタイルに構える。試験の第二ラウンドのゴングだ。

 

 

 

 ……結局、お互いアツくなり過ぎ、二人仲良く病院行きになったのはまた別のお話。

 




次はミシェル回予定
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