シャドウラン4th Japanese Imperial State   作:てるもこ

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ミシェル回。今回R-15です。タグにガールズラブ追加


第三話 ミシェルと魔法

魔法とは何か?良い質問だ。

私もそれが知りたい。

 

―――チャールズ大学にて、グレートドラゴンのシュワルツコフ

 

-1-

 

 今思い返せば、私ことミシェル・デラージュが魔法に目覚めたのは、強いストレスが理由だと見て間違いない。

 

 当時、ミツハマの社員だった母が死に、父もミツハマを辞して、実家のあるティル・ナ・ノーグへ帰る事になった。まだ十代になりたてだった私は、母の死と住み慣れた日本を離れる事に非常に強いストレスを感じていた。

 

 泣き暮らす私を元気付けようと、日本を離れる前に、新宿で私のお気に入りのケーキショップに行き、最後のお茶をしようと父が言った。仕事や葬儀等の手続きでずっと構って貰えなかった私は、久しぶりの出来事に心が躍る。

 

 そして二人で新宿の雑踏を歩いている時、人ごみで父とはぐれてしまった。地形情報とナビゲーションソフトの移動指示を眼鏡に投影し、父の位置シグナルを探そうとした時、コムリンクが停止した。

 

 突然の事に慌てふためく私。再起動しようとしても何故か電源すら入らず、殆ど泣く寸前だった。

 

 困り果てていた私に声をかけてきた人がいた。三十代だろうか、笑顔が優しそうなおじさんだった。

 

 父の所へ連れていってくれるという、普段なら疑ってかかるべきセリフに釣られてしまった私は、導かれるままに路地裏へと入り、そこで気絶させられた。

 

 目を覚ますと、そこは薄暗い車の中。酷い悪臭と、自分と同じか少し上くらいの年齢の子供達と一緒に、閉じ込められてた。

 

 それから紆余曲折を経てなんとか脱出したが、途中で追いつかれてしまう。親しくなったカオルが囮になり、私が助けを呼びにいく最中、それは起こった。

 

 カオルから教えられた通りの道を辿り、全力で走る。疲労で上がっていく顎を押さえつけるように前を睨み、彼の無事を祈りながら。

 

 視界の隅に、ちらちらと白いものが映る。犬のような動物で、体の色は真っ白だ。これに似たような動物をVR動物園で見たような気がする。

 

 走りながら、その動物は「けん!」と一声鳴いた。まるでこちらの目的を知っているかのように、私を追い抜いて目的の方向へと走る。

 

 「けん!」

 

 姿は犬に似ているが、声の高さは猫に似ていた。一番近い動物はキツネだと思うが、白い狐なんて居るんだろうか。居たとしても、何故このバーレンに?

 

 導かれるまま、私は走る。カオルが教えてくれた方向からは少し離れるが、あの白い狐についていけばなんとかなる。そんな確信が私を支配していた。

 

 「けん!」

 

 白い狐の進む先には、見た事のない男性がいた。スーツ姿で私が誘拐された時の人を思い出すが、明らかに別人だ。

 

 「けん!」

 

 狐はその人に向かってダイブして……胸元に溶けていくように消えた。

 

 「お願い、助けて!」

 

 「勿論だとも。君はミシェルちゃんだね?」

 

 「ミシェル!」

 

 遠くから駆け寄る父の姿もあった。

 

 さあ、これで私は助かった。次はカオルの番だ。

 

-2-

 

 広く、テーブルやソファが据えつけられた病室で、父と私はソファに座っていた。反対側には、父の知り合いらしき、私を助けてくれた男性がいる。

 

 カオルを見つけた時、彼は重傷を負い、虫の息だった。父の計らいでお医者様に見てもらう事になり、手術の結果どうやら一命は取り留めたようだ。

 

 カオルが意識を取り戻すのを待つ間、父ともう一人の男性に、いかにカオルが助けてくれたか、勇敢だったかを力説した。二人のカオルに対する態度が、よそよそしく感じたからだ。

 

 「……というわけで、私はカオルがいなかったらどうなってたか」

 

 「判った、別にあの子を嫌っているわけじゃないよ、そんなに心配するな、ミシェル」 

 

 父は頭を撫でてくれる。父のとなりにいたおじさんがコムリンクでどこかと連絡を取り

 

 「裏が取れました。本当に、一切合切どこの組織とも関係ない、ただの通りすがりのストリートチルドレンです。調査を依頼されていた件とは全く関係ないと断言出来ます」

 

 「そうですか、それは良かった……口座に依頼料を振り込んでおきます。さらに、追加の依頼も」

 

 「承りましょう」

 

 大人同士のやり取りの意味を考えようとした時、カオルの声が聞こえた。

 

 「助かった、のか……」

 

 「カオル!」

 

 駆け寄ろうとするが、すでにカオルはまた目を閉じていた。

 

 「申し訳ない、コニシさん。我々はそろそろ日本を発たないと」

 

 「そうですな……では、引き続き調査をお願いします」

 

 「ええ、勿論」

 

 「せめてカオルがちゃんと目を覚ますまで……私、ちゃんとお礼言えてない」

 

 父は私をじっと見る。その目は、いつもの父の目とは違い、明るさや活力といったものが一切感じられなかった。あったのは、ただ深い悲しみだけだった。

 

 「急がないと、私もお前も危ないんだよ、ミシェル。判っておくれ」

 

 「じゃあ、せめて連絡先を」

 

 「ああ、そうしなさい……コニシさん、後は宜しく」

 

 「お任せ下さい」

 

 コムリンクからキーボードを壁に投影、伝言をタイプしてプリントアウト。それをカオルの枕元に置き

 

 「ありがとう」

 

 と、彼の額にキスをした。

 

-3-

 

 突然不機嫌になった父に連れられ、超音速機でティル・ナ・ノーグへ。私が生まれる前はアイルランド共和国と呼ばれる国だったそうだが、今ではエルフの貴族が経済的な実権を握る、エルフ国家となっている。出生率もエルフが一番高く、ヒューマン種の両親からも高い確率でエルフが生まれてくるそうだ。

 

 超音速機の中で寝ていると、何か湿った感触を頬に感じ、目が覚めた。……あの白い狐だ。

 

 「お前、どこから来たの?」

 

 「けん」

 

 温かく柔らかい感触に誘われ、狐を抱き締める。隣の席の父も気付いたらしく

 

 「ミシェル、これは……飛行機に持ち込めるはずは……まてよ、いつから?」

 

 「カオルに逃げろって送り出された時、バーレンを走ってたのが初めて。会うのはこれで二回目」

 

 「そうか……お前も魔術の才があるのか。血かな」

 

 「え?」

 

 「私も魔法使いなんだよ。母さんは違うがね」

 

 ぺろぺろと頬を舐められる感触。確かに湿りを感じるが、何故か肌は濡れない。

 

 撫でても毛は抜けず、私があんまり吠えると他の人に迷惑かなと思えば、声一つ上げない。

 

 「感覚で判る。この子は動物ではないよ。お前を助けてくれる精霊だ。どの魔法様式なのかはまだ判らないがね」

 

 「お前、精霊なの?」

 

 問いかけ、頭を撫でた。気持ち良さそうに目を細める狐は、まるで普通の動物のように見える。

 

 「さて、忙しくなるよ、ミシェル。これから魔法がカリキュラムにある学校へ入って、魔法を勉強して……」

 

 魔法。まだ実感はわかないが、少なくともこの子狐と一緒にいられるのは、悪くない。

 

 「これから宜しくね、お前……名前を考えてあげなくちゃね」

 

 頭を撫で続ける。いつしか白い狐は、その場の空気に同化するかのように消えた。

 

-4-

 

 父の言ったとおり、目が回るほどの忙しさになった。たまの息抜きは、カオルとのメールやビデオレターのやり取りだけだ。直接通話は、9時間という時差の壁が立ちふさがり、そう多くは出来なかった。

 

 それはともかくとして、父が私の魔法が何に由来するのか調べた所、ティル・ナ・ノーグでは非常に珍しいものだった。

 

 神道様式。八百万の神と共に在り、穢れを祓い禊ぎ、精神と肉体と世界を調和させる様式。

 

 あの白い狐は精霊で、神道様式では「宇迦之御魂神(ウカノミタマノカミ)」と呼ばれる種類のものらしい。神道では精霊は神様の一柱であり、なんでもウカノミタマノカミは食べ物の神様で、別名を稲荷というそうだ。名前が長いので、私はウカと呼んでいる。

 

 父は困った顔で

 

 「日本で覚醒したから、そんな気もしていたが……面倒な事になったな」

 

 世界で一般的な魔法は宗教や神話と関係しているものが多い。有名な所では、魔法を論理で解明しようとするヘルメス様式、アメリカ先住民族に代表される、論理よりも感覚を重視するシャーマン様式。他には仏教様式、黒魔術に混沌魔術、イスラム、ヒンドゥー、カバラにドルイド、北欧様式……細かい教義の違いを上げれば、その数は百を優に超えるだろう。

 

 私が覚醒した神道様式とは、日本帝国の勢力が強い地域で見られる魔法様式だ。特に帝国の本土では国教とされ、日本を本拠地にする全てのメガコーポの会議室や重役室には、神棚が飾られているらしい。

 

 逆に言うと日本帝国の勢力外ではあまり広まっておらず、本格的に神道を学ぶとすれば、日本の魔法学科がある東京大学、京都大学、伊勢の皇學館の三つか、ミツハマやレンラク、シアワセの企業内学校しかない。

 

 そして、父はミツハマをやめたばかりで、レンラクにコネ等はない。となれば、これはもう独学で学ぶしかない。

 

 幸い、父が混沌魔術(色々な様式から良い所取りで、入り混じった魔法が特徴)を使うので、神道様式の魔法も知識がゼロではなかった。が、やはり独学だけでは行き詰る。

 

 ある程度スタイルが確立しているのなら、後は魔法を学ぶためにマトリクスで魔法式を買うなりなんなりで魔法の「種類」は増やせるが、本人の魔力の底上げや、様式に対する理解等を深めるには、やはりその様式の専門教育を受けなければならない。

 

 そのツテを探しつつ、父は私に初等教育をし―――結局見つからず、年月は流れてUniversity College Dublin 略称UCDへ聴講生という形で通うようになった。

 

 今時、通信ではなく実際に通う大学があるのかとびっくりもしたが、確かに魔法を実践するのであれば、対面式でやった方が何かと参考になる。

 

 はずだったのだが。

 

-5-

 

 大学に通い始めて三ヶ月。私はもうすっかり疲れ果ててしまった。このご時勢、大抵の魔法使いは青田買いでメガコーポの企業学校にいくか、その様式で有名な大学等に行くものだ。UCDはドルイド様式に秀でているが、一流中の一流というわけではなく、また神道となるとまるっきり専門外だった。

 

 それでも教授が語る魔力概論や、アストラル空間理論、アルカナ理論等は勉強にはなった。

 

 講義が終わり、私が席を立つと

 

 「ミシェル!まだ魔法が使えるフリしてんのかよ!」

 

 罵声を浴びせてくる、高尚過ぎて涙が出る類の人に絡まれた。

 

 声の主はデレク・ブラック。UCDケルト魔法学科の学生で、自称「一番イケてる男」だそうだ。くすんだふわふわカールの金髪に、ソバカスだらけの顔。これで下卑た笑い顔さえなければ、ベビーフェイスで通ったかもしれない。

 

 彼らとは違い、私はケルト様式を見よう見真似で実践しても、魔法を発動出来ない。教授に魔法の実践テストを免除され、授業中にも魔法を使わなければ、そう見られても仕方ないかもしれないが、彼らは聴講生という私の立場を理解しているんだろうか。

 

 「ここに魔法使いの男を引っ掛けにきてるんだろ!」

 

 魔法を使う事は出来るかもしれないが、知性のかけらも感じさせないこの台詞。彼は非覚醒者(マンデイン)を一段低くみているようだ。

 

 いつもは無視して立ち去る所だが、あまり舐められるっぱなしでも、今後問題が出るかもしれない。

 

 「ごめんなさい、もし本当に私が男漁りに着てたとしても、貴方は趣味じゃないわ」

 

 ギャラリーは大爆笑。教授までクスクス笑っている。

 

 「この、下手に出てれば調子に乗りやがって!」

 

 アレで下手なら、この人が高圧的に出たら一体どうなるんだろうかと思いつつ、私はそのまま講義室を出た。

 

 次の日、教授に資料整理の手伝いを命じられ、構内が暗くなるまで居残った帰り道。

 

 ふと背後に何かの気配を感じた時、私は廊下に倒れ伏した。

 

-6-

 

 まず最初に感じたのは、熱だった。体中の血流が沸騰したようで、特に顔と下半身に熱が集中している。

 

 一瞬で酷い量の汗をかき、立ち上がろうにも体に力が入らない。

 

 目の前にはチカチカと星がまたたき、うつぶせの状態の状態から立ち上がろうと、手を前に出す。手のひらを地面につけた瞬間

 

 「ひ!」

 

 今までの人生で感じたことのない激感が、私の脳髄を焼いた。痛みや苦しみではない。これに類似した、遥かに弱い刺激を感じた事はある。寂しい時や辛いとき、カオルのビデオレターを読んだ後、ベッドでこっそりと―――のアレだ。

 

 「なんらこれ……」

 

 あまりの快感に、呂律すら怪しい。それどころか、呼吸するだけでじんじんと甘い波動が体に広がる。

 

 「ミシェル!これが魔法さ!」

 

 デレクの声。これは彼の魔法かと思うと、快感はただおぞましいものにしか思えなくなる。

 

 脱出しようと、芋虫のようにのたくる私の背中に、何か重いものが乗った。恐らくはデレクの足だろう。

 

 その衝撃で私は体を震わせ、自制が効かなくなる寸前まで追い詰められる。心臓は今まで経験した事のない速さで脈打ち、今すぐにでも家に帰ってカオルの声を聞きながら、朝まで貪りたい。

 

 「そっけないフリしてないで、正直になれよ。俺の女になれば、毎日この<快楽の宴>の呪文をかけてやってもいいぜ」

 

 酷い勘違いだ。私には海の向こうに王子様がいるというのに。

 

 「ウカ!」

 

 地面についた手や、踏まれた背中からすらも、暴力的な快感が押し寄せてくる。好きな相手とならともかく、こんな奴にこんな気分を強制されるなんて、最悪の屈辱だ。

 

 宇迦之御魂神を喚び、助力を請う。神道の理に従い、ウカは風の側面を顕現させる。

 

「掛けまくも畏き 伊邪那岐大神 筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に 禊ぎ祓へ給ひし時に 生り坐せる祓戸の大神等 諸々の禍事・罪・穢 有らむをば 祓へ給ひ清め給へと 白すことを聞こし召せと 恐み恐みも白す」

 

 快感に喘ぎながら、祓詞(はらいことば)を紡ぐ。デレクの魔法を穢れとして祓い、ウカと私を清める願いを込めた言葉だ。

 

 汗と、それ以外の正体が何か考えたくない体液に濡れたスカートやブラウスの不快感が弱まり、あたり一面に「清浄な気」が満ちていくのが判る。

 

 体が徐々に楽になっていく。脳のピンクがかったもやが晴れていく感覚。

 

 ウカはあたりを包み込むように、体を空気に溶けさせ、その存在を広げていく。

 

 生まれたての小動物のように震えながら、体をうつぶせから仰向けに転がり、視界にデレクを捉える。

 

 彼は希薄になったウカに包み込まつつあり、混乱しているようだった。

 

 胸元に手をやり、ネックレスがわりの勾玉を掴む。ただのアクセサリではなく、これは私の魔法を増強する翡翠の玉だ。

 

 デリクはもう完全にウカに包まれたようだ。今や透明な障壁となったウカに閉じ込められ、その壁を狂ったように叩いている。

 

 翡翠の勾玉を握る手からは、言いようも無い高揚感が私に伝わってくる。魔力が高ぶり、私の周りの見えぬ神も喜んでいるんだろう。

 

 視界の中心にデレクを捉え直し、祓詞をもう一度唱える。

 

 「祓へ給ひ清め給へと」

 

 デリクの邪気を祓い、清め給え……だが、どうやって?

 

 決まっている。彼が快楽の魔法を使って私の意志を奪おうとするなら、こちらは苦痛の魔法でもって彼の意思を塗りつぶしてやればいい。幸いな事に、私はその魔法を知っている。痴漢対策の<苦痛>の魔法が役に立つ時が来た。

 

 「白すことを聞こし召せと」

 

 自分の持てる全ての力を混めて、<苦痛>の呪文を発動させる。精神の力だけではなく、己の肉体からもマナを取り出し、それを神道の神々に捧げ、彼の邪悪な意思を<苦痛>でもって清めるのだ。

 

 魔力の過剰行使による酷い眩暈をこらえる。過ぎた魔力が体を傷つけ、胃から血塊が上がってきた。口の端からこぼれる血を気にもせず、最後の言葉を唱える。

 

 「恐み恐みも白す!」

 

 発動のキーワードを唱えると、神道の神々は私の願いを聞き届けてくれた。デレクの顔が苦痛に歪む。目を零れ落ちんばかり見開き、絶叫。

 

 煩いので静寂の魔法をかけ、その両方の維持をウカに任せる。

 

 ……強姦魔の精神は清め終わった。次は私が汚した床を清めなければならない。なんで私が、と暗い気分になりつつ、学内の掃除用ドローンをコムリンクでコールした。

 

-7-

 

 あれから三日経った。

 

 この一件、ただの性犯罪者を警察に突き出して終わりという形にはならなかった。なんとデリクはレンラクの中級幹部の次男だったそうだ。

 

 私渾身の<苦痛>はよほど堪えたらしく、彼は学校をやめ、魔力すら上手く扱えなくなり、心療内科に入院となったらしい。

 

 非常に強い家族主義を取り、人生の全てをレンラク社内で完結させる事を美徳とするレンラク社員としては、企業学校に入れず外部の大学に通う彼は落ちこぼれだったのかもしれないが、それでも面子というものがあるんだろう。

 

 そのレンラクの中級幹部が学校と父に「過剰防衛」とクレームを入れたらしく、何の後ろ盾もない私はあっさりと聴講生の身分を剥奪された。

 

 その後、他の聴講の申し込みを行っても、返信がないか断られるかの二択になってしまった。

 

 父と私が困り果て、自宅のリビングで対策を練っている時、意外な所から救いの神はやってきた。

 

 話し合い中、コムリンクの着信に出た父が顔を強張らせ、私と父とで電話に出るように促す。

 

 コムリンクとリビングの3DTVを同期させる。浮かびあがってきた像は、私も何度か会った事がある、父のミツハマ時代の上司だ。

 

 「やあ、こんにちは、ミシェルちゃん。覚えてるかな」

 

 「はい、ご無沙汰しています、コンドウさん」

 

 「レンラクのクソガキにちょっかいを出され、勇敢にもそれを返り討ちにした、将来有望な魔法使いがいるという話を聞いてね。気になって調べてみたら、デラージュの所のお嬢さんだというじゃないか。それで気になって連絡してみたんだが」

 

 「いえ、やり過ぎてしまいました。お恥ずかしい限りです」

 

 「ええ、まだこの子は力のコントロールが甘くて」

 

 父がだいぶ緊張しているのが判る。

 

 「確認するが、ミシェルちゃんの様式は?」

 

 「神道です」

 

 何を白々しい。三日前のティル・ナ・ノーグの出来事を日本から把握出来る諜報能力を持っていて、様式を調べ落とすなんて考えられない。

 

 「そちらじゃ、魔法を学ぶのにも何かと不便だろう……どうだい、ミツハマに来ないかい?仕事の手伝いをしてくれれば、学費はタダ、給料も出そう」

 

 微笑むコンドウ氏。

 

 「待って下さい、この子にメガコーポで、命を懸けて仕事をさせるんですか!?」

 

 命?命がかかる仕事?メガコーポで命が懸かるなんて、それじゃまるで

 

 「ランナーじゃあるまいし、前途有望な子を死地に追いやるような真似はせんよ」

 

 そう、シャドウランナーみたい。

 

 「しかし」

 

 「仕事の内容は、日本のミツハマで嘱託魔法使いとして活動する事。そのときになってみないとどの程度の危険度になるかは判らんが、嘱託に忠誠や命を賭した献身は求めんよ」

 

 人懐こい微笑みを崩さぬまま、コンドウ氏が身を前に乗り出させる。

 

 「企業学校のヴァーチャルクラスへの無試験編入、学費なし、施設使い放題。仕事のない月でも固定給を出そう。……もし良好な結果を出せたら、将来ウチで採用してもいい」

 

 「やります!」

 

 父は猛反対したが、数日に渡る話し合いの末、私は職業と学ぶ術を手に入れ、日本へと舞い戻った。

 

 

 

 

 

 

 




次回、二人で初めてのお仕事編
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