きっと今日は厄日なのだ。朝目覚ましは鳴らないし、目玉焼きは焦がす。朝の星座占いも最下位だし、それを見ていたせいで電車も一本逃した。仕事でも細々としたミスが絶えない。
P「はぁあ~」
静香「どうしたんです?プロデューサー」
P「いやぁ、今日は俺厄日なんだわ、たぶん」
静香「はあ」
未来「ねえねえ、どうしたの?」
翼「プロデューサー元気ないじゃん」
静香「今日厄日なんですって」
未来「厄日?」
翼「?ふーん」
静香「まあ無理なさらないでくださいね」
P「ああ」
そうだな、こんな日は早く寝るに限る。きっと帰って寝ればまた明日はきっと素晴らしい日に違いない。そう思って仕事を早々と切り上げて帰ろうとした、まさにその時だった。事務所のドアの前に"何か"が立っていた。今来たのか、それとももっと前からいたのかはわからない。視線を向けるまで気配を感じなかったのだ。その何かは男に近い容姿を持っていた。頭には羊の角を更にねじったような角が生えていたし、手首や足首は毛で覆われ、身につけている衣服もどこか原始的で、必要最低限だった。コスプレにしては違和感がなさすぎる。そう、違和感がない、という違和感が今まさにこの状況を説明するのに適したものだった。どちら様でしょうか、そう問おうとした言葉は声にならなかった。体が本能的に恐怖を示している。
そしてそのことに気づいているのかいないのか、その"何か"はにやりと口元を割くかのように笑い、手を上げて。
振り下ろした。
その瞬間視界が闇に飲み込まれ、周りから嵐のように風が吹き荒れる。感じるのは肌を切り裂くような風の応酬と耳に響くごうごうという音のみ。やっぱり今日は厄日だった。朝目覚ましは鳴らないし、目玉焼きは焦がす。その時点で気づくべきだったのだ。でなければこんな不幸には見舞われまい。何が起きたのかを考える余裕もなく、意識もまた闇へ落ちていった。
夢を見ていた。世界を救う夢。子供の頃から何度も見てきた、俺の理想の形。俺は何か偉大なことを成し遂げて、人類に貢献するのだ。周りからは歓声が沸き、その中を悠々と歩いているのである。もっともこれは夢だ。そのことに気づいたのも随分前の話。大人になる上で気付かなくてはならないのだ。人1人にそんな大それたことはできない。そんなことができるのは天才と呼ばれる別の人種だけなのだ。今の俺はそんなこと百も承知である。なのに夢を見る。俺はやはりまだ諦めていないのだろうか。夢の中の歓声は止まない。俺はその中心にいながら、どこか遠くでそれを聞いているような感覚に陥る。胸に穴が空いたような気分だ。すると、隣に少女がならび、こう言うのである。
「…ゅー…、お…て」
ん?
「プロデューサー、起きて!!」
「はぅあっ…!」
そうか、目覚めたのか。
P「…知らない天井だ」
静香「そんなこと言ってる場合じゃありません!」
P「どうした、そんなに慌てて、少し落ち着いたらどうだ?」
翼「プロデューサーは落ち着きすぎじゃないかな」
P「はあ、そんなものか?」
周りを見てみる。まず石造りの壁が目に入った。大小様々ではあるが、綺麗に長方形に削られた石が、セメントのようなもので間をついで重なっている。色はモノトーンで統一されている、全体としてひんやりとした印象を受ける。けど、そこまで寒さを感じないのは、壁に大きく空いた窓のおかげだろう。といっても例えばガラスが嵌めてあったりするようなしっかりしたものではない。ただ、四角く開けた穴からは、太陽の日差しと穏やかな風を運んでいた。そして、俺はなぜかベッドの上に寝ていた。もちろんこんな見知らぬ場所で眠りに落ちた記憶がない。
深呼吸をする。
…さて。
P「お、おいおいっ!ここここここはどこだよっ!」
静香「慌てるの遅いです!」
翼「落ち着いて!」
P「あ、あぁ、すまん、取り乱した」
「静香や翼も大丈夫か?」
静香「ええ…」
翼「とりあえず身体は…」
P「そうか、よかった」
「って、あれ?未来は?」
静香「それが…見当たらないんです」
P「なんだと…!今すぐ探しに行くぞ」
翼「待ってプロデューサー!どこに探しに行くの!」
P「どこって、そりゃあ…!」
窓の外には余りにも見覚えのない世界、見渡しも良すぎて逆にどこを探すというのか検討もつかなかった。
P「…とりあえずここがどこか、ということだな」
未来の行方は心配だが、今はそれよりも現状確認をせざるを得ないようだ。
翼「そうそう、それで私たち先に目を覚ましたから部屋の外に出てみたの」
静香「何か場所がわかるものがないかなって思いまして」
翼が部屋の窓を指差す。確かに大きい窓なので、余裕で抜けられそうだった。
P「それで、何かあったのか?」
翼「ううん、それが外見渡す限り草か森でさぁ、どうしようもなかった」
P「なんだと?それじゃあ少なくとも東京じゃないのか?いや、確かにおかしいとは思っていたが…」
静香「たぶん日本でもないと思います」
P「どうしてだ?」
静香「だって日本の天気、冬ですもの、それなのにここの天気は少し暑いくらい。こんなのおかしいです」
たしかに、布団を被らずとも寒さはなかったし、服の内側は少し汗ばんでいることに気づく。…もっともこの汗は暑さのせいだけではないと思うが。
P「なるほど、とりあえずこういう時は小鳥さんに連絡を取るに限る、連絡を入れてみよう」
静香「あ、そっか!携帯があるんだったわ」
翼「驚きすぎてすっかり忘れてたね」
すぐさまポケットから携帯を取り出す。
P「…圏外。まあそんな気はしてたさ…」
静香「少なくともここは日本ではないってことですね…」
P「万策つきたな…」
三人が沈黙する。
翼「…そういえば、なんで私たちここに来たんだろう?」
静香「誰かに連れてこられたに違いないわ、一人でここになんか来れないもの」
P「じゃあ誘拐なのか…?それにしては監視が余りにも無さすぎる」
ふとここで目覚める前の記憶が蘇る。羊の角をつけた男。体に生えた体毛。身震いすることも許さないようなオーラ。今思えばあれはまさに…
P「…悪魔の仕業…なのか…?」
静香「悪魔?まあそうでもなきゃ信じられないことですよね」
P「二人は目を覚ます前に、日本にいる時に、悪魔のような男を見なかったか?」
静香「え、見てないですけど」
翼「私も全然、いつの間にかここにいたんだもん」
…二人には見えていなかったというのか…?それなら、あれは俺の幻覚だったのか?いいや、それにしてははっきりしすぎてる。ましてや今現実としてよくわからないことに巻き込まれているのだ。関係あるに違いない…。
考えていると部屋の扉の外側からこんこんと叩く音がした。すると扉が開き、外から年老いた翁が現れた。
「…、……?」
…。
何語だ?三人で顔を見合わせる。するとその翁ははっ、と何かに気づいたような仕草をすると、懐から水晶のようなものを3つ取り出し、差し出してきた。
静香「き、綺麗な水晶ね」
翼「受け取れってことかな…」
P「…悪意をあまり感じない、ここは素直に従っておこう」
それぞれ水晶を受け取る。なんの変哲もないそれだが、触れると、何かが息づいているような不思議な気配がした。
翁「そうじゃそうじゃ、言葉が通じないことにはしょうがなかったな、ほっほっほっ」
一同「…!」
さっきまで何を話しているのかわからなかったが、今ははっきりと聞き取れた。翁がしゃべっているのは日本語ではないというのがはっきりとわかるのだが、意味がなぜだか理解できるのだ。違う言語と理解した上で意味を解している。不思議な感覚だった。
翁「おっと、これは失礼。初めまして、異界の諸君。わしの名はケプラー、しがない占星術師だ。よろしくなぁ」
静香「え、えぇ」
P「あぁ、こちらこそ。ところでここはあんたの家ってことか?」
ケプラー「そうじゃ、何もないところじゃが、ゆっくりしていってくれたまえ」
翼「そ、それよりも、異界の諸君って、もしかして私たちのこと?」
ケプラー「なんじゃ、お主ら自覚がある訳じゃないんじゃったか」
P「自覚も何も、ここがどこなのかすらわからない。見た所おやっさんに悪意があったとも思えない。もし何か事情を知っているのなら教えてくれないか」
ケプラー「無自覚な転送…ふむ、なかなかきな臭いな。よかろう、わしの知ってることは話そう。お茶を入れてくるから、先にリビングに行って待っててくれ」
そう言って俺らをリビングに案内すると、すぐにヤカンらしきものからお茶を器によそって持ってきた。
…話によるとこういうことだった。まず、ここはどこか、ということだったが、ほぼほぼ恐らく地球ではないのだろう。この世界の地図を見せてもらったが、凡そ俺たちが知っているものではなかった。それに、この世界では、地球で魔法と呼ばれるようなもの、すなわち非科学的な現象が平然と起きている。例えば言葉を翻訳してくれた水晶がそれである。確信に至るまでは時間がかかったが、これは事実として認めねばなるまい。ではなぜ、その異世界の中に俺らはいるのか、という問題だが、これについてはケプラーもよくわからないとのことだった。俺たちが異世界から来たというのは、どうやら彼の占星術で見えたことらしい。彼曰く、今日、東の森の一角で俺たちが倒れていることも知っていて、その者たちを助けてやることが、いずれ世界の命運に関わってくるとのことだった。
静香「…」
翼「世界の命運って…そんな…」
馬鹿な、とは言い切れなかったのだろう。実際、目の前には魔法を使って温めたお茶から湯気がゆらゆらとたっている。自分達が世界をどうするかはともかく、全否定できるほどの心の余裕は無かった。
ケプラー「わしもこのような予言は初めてじゃ。正直今でも信じられないくらいじゃが、わしの予言は今まで外したことはない、信じる他ないじゃろう」
ケプラーは一口お茶を含むと厳かにその容器を置いた。
ケプラー「で、じゃ。わしはお主らの手伝いならば厭わずするつもりじゃ。お主らはこの後どうするつもりなのじゃ?」
静香「…」
「私は、家に帰りたいです。きっと両親が心配しています」
翼「私もかな、帰る方法は無いのかな」
ケプラー「帰るじゃと?!それはならん!お主らはこの世界の命運を司る存在なんじゃぞ」
P「言われてもなあ、実感無いどころか、この世界の道理すら全くわから無いんじゃ何もでき無いだろう。助けて貰った恩もあるし、力になってやりたくない訳じゃないがどうしようもない。」
「そもそも、俺たちの手伝いなら厭わずしてくれるんじゃなかったのか?」
ケプラー「ぬっ、確かにその通りじゃが…」
P「…すまない、揚げ足を取るつもりはなかったんだ」
ケプラー「わかっておる。…仕方ない、お主らの帰還への道に、微力ながら力添えさせて頂こう」
P「ありがたい、本当に助かります」
翼「けどさぁ、そう簡単に帰れるものなの?そもそもどうやって来たのかもわからないんだし」
静香「確かに。…ねえケプラーさん、過去に異世界から来た方とか、帰られた方とかいらっしゃらないのかしら」
ケプラー「ふむ、遠国から訪れなさった方なら幾人か知っておるが、異世界からというのは聞き及んだことがないのう」
静香「むむ…」
P「じゃあ、逆にその異世界にどうやって行くのかとかを知っているかもしれない人というのはいないのか?」
ケプラー「いや、いないじゃろう。そもそも異世界からの来訪者というものがいるという事実自体、信じられないものじゃ。…じゃが、もしそのことを置いておいたとしたならば、知っている奴らというのはあそこを置い
てないじゃろう」
翼「誰なの?!」
ケプラー「誰かは知らん。じゃが、アカデメイアにはいるかもしれん」
P「どういうことだ?」
ケプラー「アカデメイアは、学園国家、最高峰の魔法技術の研究を行っているところじゃ。高すぎる技術は又威力も持つもの、その技術が殺傷に用いられたことは歴史上にはあまりないが、その威力を武器に、他国一切の
不干渉を貫いていてのう。独自の自治システムを持つことから、学園国家と呼ばれているのじゃ」
P「…確かに、そこならばもしかしたら何か知っている人がいるかも知れない」
ケプラー「色々な国から、多種多様の人が訪れる。面白い場所だし、きっと行って損はないのう」
静香「学園国家ですか、それは面白そうですね」
翼「けど、その前に未来を見つけなきゃダメでしょ」
静香「そうね…」
P「未来のことなんだが、とりあえずは置いておこうと思うんだ」
静香「…え?」
翼「プロデューサー、どういうこと?」
P「実際今探すにしても、余りにも検討がつかなすぎる。明らかにこの世界の情報が足りないんだ。それなら、先にへ行って、情報を集めてから改めた方がいいかと思ってな」
翼「情報が集まるまでって、それまで未来はどうなっちゃうの?」
静香「けど確かに今の私たちじゃ何もできないわ」
翼「そりゃそうだけど!」
P「もちろん俺だって今すぐ見つけ出したい。ただ、感情に任せてしまっては取り返せるものもなくなってしまう。ここは抑えてくれ」
翼「う、うん、わかった…」
ケプラー「話は決まったかの」
P「あぁ、とりあえずはそのアカデメイアに向かわせてもらうよ」
ケプラー「そうかい、そしたら長旅になる。ここで準備していくといい」
P「いいのか。それなら、ありがたくそうさせてもらおう」
ケプラー「それと、道中は魔物が出る。お主らはここで冒険者登録をしていくといい」
静香「ま、魔物ですって?」
翼「そんな気はしてたんだよねぇ」
P「その冒険者登録っていうのはなんだ?」
ケプラー「そうじゃな、自らの身分を証明するもの、といえばわかるかのう。まあ実際にしてみるのが早い。まずは黒髪の少女、きたまえ」
静香「は、はい」
静香を呼び寄せると、机の脇に寄せてあったリンゴくらいの大きさの水晶球を前に置いた。そして、ケプラーは何かつぶやく。すると水晶が虹色の光を帯びて輝き出した。
静香「うわっ、なになに?」
ケプラー「右手をこの水晶球に、左手でさっきあげた水晶を握って」
静香「は、はい!」
先程より幾分か真剣味の増したケプラーの声に戸惑いつつも、恐る恐るその水晶に触れる。
すると、その虹色の光が伝染するように静香の身体を覆っていく。周りに静かに風の流れを生み始め、それがそっと静香の髪を煽る。まるで妖精のようなその有様に、2人が呆気にとられていると、静かに光がやんだ。
ケプラー「これで完了じゃ。これでその水晶にお主の情報が刻まれた。どれお主、その水晶にこう唱えたまえ。"汝、我の存在を知らしめよ"」
静香「え、ええ。やってみるわ」
"汝、我の存在を知らしめよ"
すると水晶が淡く光を帯び、空中に以下の文字を浮かび上がらせた。
最上 静香
冒険歴 0ヶ月
職業 無職
スキル なし
静香「す、すごい…」
ケプラー「この水晶はこのように今自らのの状態を記録すると同時に、簡単な魔力の供給をしてくれる、冒険者登録をしておけば、この後アカデメイアにいくときに、何かと役に立つじゃろう。ほれ。次はどちらじゃ?」
2人は順に登録を済ませた。
ケプラー「これでよし。それで、道中の魔物対策だが、武器を貸す前にその水晶の天職サーチ機能を使おう。ほれ金髪のお主、今度は"汝、我の辿りし道を示したまえ"ととなえよ」
翼「うん!」
するとまたしても淡く光を帯びて、宙に文字が浮かび上がった。
天職:弓術士
翼「うわっ、なになに?きゅうじゅつ…し…?」
ケプラー「ほう、弓か」
翼「弓?私使ったことないけど…大丈夫かな?」
ケプラー「この天職サーチは、水晶に登録した人のポテンシャルから導いているそうじゃ。ほぼ間違いないじゃろう。まあ他に使いたい武器とかがあれば構わないが、どうする?」
翼「いいよいいよ、楽しそうだし弓練習してみる!」
ケプラー「そうかの。そしたら黒髪のお主もやってみい」
静香「は、はい!」
"汝、我の辿りし道を示したまえ"
天職:大剣術師
ケプラー「おぉ、大剣とな。女子には珍しい」
静香「大剣?重そうですね…」
ケプラー「よし、最後はお主。なんと出るかのう」
P「お、俺か。よし」
どうやら俺は少し緊張しているらしい。子供の頃に抱いてた溌剌とした気持ちが蘇る。大人になるにつれ忘れていったものだけど、このせかいならあるいは、そう思う心が気持ちを逸らせる。同時に、ここで言う天職、というものがこれからの人生に大きな影響を及ぼすような予感が、自分を臆病にさせていた。
静香「どうかしましたか?」
翼「はやくしてよー、楽しみじゃん」
二人の声にはっと驚いて顔を上げる。どうやら少しぼおっとしていたらしい。ここは覚悟を決めねば。
"汝、我の辿りし道を示したまえ"
先程と同じように、水晶が淡く光を帯び始める。その光がつうっと体を這うようにして包み込むと、ぱっと光を放って消え、空中に文字を浮かび上がらせた。
天職:プロデューサー
P「…は?」
静香「うそ」
翼「へぇ」
ケプラー「プロデューサー…?」
一同、その後暫く無言だった。各々が今の状況を整理でき始めた頃、最初に口を開けたのはケプラーだった。
ケプラー「初耳の職業じゃ」
静香「けど、ある意味プロデューサーは既に天職についているということなのかしら」
翼「元いた世界の時はそんな感じなかったけどなぁ、私たち暇だったし」
P「翼…一言多いぞ…」
翼「おっと」
P「はぁ、まあいい。で、俺はいったいどうやって魔物に対抗するんだ?」
ケプラー「いや、もしかしたらお主は非戦系職業なのかもしれぬ」
P「非戦系?戦えないってことか?」
ケプラー「戦えるが、向かない、ということじゃろう。非戦系職業というのは、いわゆる技術的な天職で、職人肌の人に多いんじゃが…結構稀にしか見ないんじゃが、いかんせん、プロデューサーというのはどういう意味
なのか…」
なんなんだ、それは。ということは、俺は戦闘方面では二人に及ばないし、自分の身すらろくに守れないということなのか…
P「はぁ、けど戦えないんじゃとりあえずは二人のサポートに回るしかないのか…二人とも申し分けない。二人を守ってあげるどころか、どうやら足手まといになってしまうらしい」
静香「いえ…向き不向きがあるのでしょうが、さすがに私も大剣をしっかり扱えるかどうか…触ったことすらないのに…」
翼「気にしなくていいってプロデューサー!案外ウソかもしれないよ?これ?やれることをやってくしかないよね!」
P「そうか…そう言って貰えると助かる」
その後、夕飯をご馳走になり、翌日の出発に備え早めに床に着く事となった。
P「…」
寝床で俺は考える。異世界であっても、どうやら俺は夢を叶えられないらしい。それどころか、異世界に来てまでプロデューサーをやる事になるとは。正直、これが天職だと言われたのにはとても堪える。
翼「…プロデューサー、起きてる?」
ふと横から声がかかった。部屋の関係上、俺ら三人は一つの部屋で寝る事になったのだ。ベッドが一つだけあったが、譲り合いの結果、皆んなで川の字を書いて床で寝る事になったのだ。
P「なんだ、起きてたのか」
翼「なんか、眠れなくてさ…」
いつもの元気な様子は見る影もなく、不安そうな声でそう言った。
P「不安か?」
翼「…当たり前だよ。私、戦った事ないし。本当に魔物を倒せるのか…とか。あと…いいや、なんでもない」
P「不安なら全部言ってしまうといい」
翼「…本当に、プロデューサーを守れるか…なんて思ったり…」
P「…」
そうか、俺は自分のことばっかり考えていて、二人の事をしっかり思いやってあげられてなかった。それどころか昼間は二人にプレッシャーをかけてしまっていたらしい。これは、プロデューサーとして全くもって失格である。これでは本当になぜ天職がプロデューサーなのかわからない。
そう思って翼を見る。目元は薄っすらと赤みを帯びていた。奥に寝ている静香も、ふるふると肩を震わせている。どうやらこちらもまだ寝られていないらしい。親の事を考えていたのか、未来のことを想っていたのか、明日の旅のことを考えていたのか。考えてみれば当然である。彼女らはまだ14歳なのだ。
守ってやりたい。
不相応にも、そう思ってしまった。
もし、本当にプロデューサーが俺の天職だとするならば、俺に今何ができるだろうか。彼女らは俺を頼ってくれるだろうか。
P「実はさ、俺、昔柔道やってたんだ。流石に魔物に素手は効かないと思うけど、回避ならばできると思うんだ。だから、俺のことは心配しなくていい」
翼「で、でも」
P「何も無理しなくていいんだ、確かに未来は心配だけど、あの性格だし、もしかしたら俺たちより上手くやっているかもしれない。
翼「…まあ。たしかに」
P「だからさ、俺たちもゆっくり、着実にやっていこう。これでも二人より長く生きているんだ、進む進まないの判断はどうか俺に任せて。だから安心していい」
翼「…そっか、わかった。焦ってもいいことないもんね」
すっと、翼の肩から力が抜けたのがわかった。どうやら安心してくれたらしい。それは奥にいる静香もそうだった。
P「静香も、どうだ?寝れそうか?」
静香「!だ、大丈夫そうです…起きているの知っていたのなら、言ってくれればいいのに。お人が悪い」
つんと言ってくるが、声色が湿っているので、迫力が出ていない。
P「そうか、良かった」
静香「…ありがとうございます、飛ばされた先でプロデューサーさんが一緒で良かったです」
翼「うん、ありがとう、プロデューサー」
P「…やめてくれ」
翼「あれ?プロデューサー照れてる?」
P「…照れてない」
静香「プロデューサーさんでも照れるんですね」
P「…早く寝ろ」
静香・翼「はーい」
それからすぐに彼女らの寝息が聞こえた。今日は色々ありすぎて、きっと疲れていたのだろう。明日からはもっと、新しいことだらけなのだろう。異世界が現実である以上、危険や面倒ごとがわんさかとふりかかるに違いない。ただ、今この瞬間だけは、そのことが楽しみに感じられた。明日の旅路に思いを馳せているうちに、俺も眠りに落ちていった。
初めての投稿です。とりあえずは無難な3人の出演です。この先色々なキャラの登場を考えているのでこうご期待ください。
めざせ、ハーメルンマスター。
玉葱ネコ