幼い頃の僕は1人で寝る事が出来なかった、1人になると必ず怖い夢を見るからだ・・・。
『うあああああん!うあああああああああああああん!』
でも・・・その後は大好きだった・・・。
『あらあら、如何したのシャルロット?』
『怖い夢を見たの・・・怖いお化けが私を追いかけるの・・・』
『そう・・・怖かったね、でも大丈夫よ、シャルロットが本当に怖いお化けに襲われても、黄金騎士が助けに来てくれるから』
『おおごん・・・きし?お絵本の?』
『うん・・・彼は、黄金騎士はね希望なの』
『き・・ぼう?』
『うん・・・何時かシャルロットの前にも現れるわ・・・シャルロットを守ってくれる黄金騎士・・・希望が』
『・・・うん!』
『よしっ!じゃあ寝ましょうか』
『うん・・・ねえ、お母さん、あのお唄を聞かせて』
『あの唄?シャルロットはあの絵本とこの唄が好きなのね』
『うん!お絵本もお唄も大好き!でも一番大好きなのはお母さん!』
『そう・・・私もシャルロットが一番大好きよ』
『えへへ』
『じゃあ・・・ら~ら~ららら~ら~~~ららら~らら~らららら~♪』
『・・・・・すぅ・・・』
僕はお母さんが歌ってくれる子守唄が大好きだった、どんな怖い夢を見ても、その唄を聞けば安心して、
その唄を聞きながら寝ると必ず悪夢を見なかった。
でも・・・もう聞けない・・・あの唄を聞く事も、お母さんの声も・・・もう・・・聞けない・・・。
――――『笛音』――――
Side・シャル
ふう・・・午前中の授業も全部終わって、昼食を食べようと席を立とうとすると。
バンッ!
教室のドアが勢いよく開かれ、その音に全員がドアの方を向く。
「兄さま!」
そこには今日欠席の筈のラウラが立っていた。
確か医務室の先生から、念の為に今日は安静にする様に言われて、医務室で休んでいる筈なのに・・・。
それに「兄さま」って・・・多分・・・鋼牙の事・・・だよね?
「ラウラ!?如何したの?今日は確か安静にって・・・」
「シャルロットか、食事の時間になったのでな、兄さまと食事をとろうと思って来たのだ」
成程・・・でもいいのかな?
今頃医務室の先生ラウラの事探しているんじゃ・・・。
「ちゃんと許可は取った、それに一度診てもらったが、体調が良いなら午後の授業の見学もできるそうだ」
「そうなんだ・・・」
「・・・ラウラ・・・もう大丈夫なのか?」
「ん・・・織斑一夏・・・」
一夏の様子が少しおかしい・・・その後ろには箒にセシリア、それと昼食を一緒に食べようと来た鈴が居た。
あぁ・・・そうか、VTシステムの所為とは言え、箒がラウラに盾にされた事から少し警戒しているんだ。
それにセシリアと鈴は一夏絡み(当の本人は気付いてない)でラウラと戦闘になって、完膚なきまでにやられて、
IS共々重傷を負った。
他の皆も・・・それまでのラウラの行動や暴走を見て、警戒していると言うよりは、怖がっている感じだ。
あの暴走はVTシステムによる影響だって事は皆も聞かされているけど、それまでの行動がいけなかったか、
距離を置こうとしている。
本当はその事を悔やんで後悔しているのに・・・。
「あぁ・・・そうそう、お前達にも用があったんだ」
「俺達に?」
「一体何の様だ?」
「また一夏さんの侮辱ですか?」
「アンタ!いい加減にしなさいよ!!」
まずいな・・・一夏はそうでもないけど、後ろの3人が険悪は雰囲気だよ・・・。
僕はラウラを庇おうとしたけど・・・それをラウラが止める。
「シャルロットいい・・・こうなったのは私自身の所為だ」
「でも・・・」
「だから私自身がしなければならない」
そう言ってラウラは一夏の前に立った。
「・・・何だよ?」
「・・・ごめんなさい」
「「「「・・・えっ!?」」」」
ラウラは一夏達に頭を下げ、一言・・・本当の気持ちを乗せた「ごめんなさい」の一言を言った。
「私の勝手な嫉妬や慢心でお前達を傷付けてしまって・・・本当にすまない」
ラウラは頭を下げたまま謝り続けた。
「特に・・・篠ノ之箒」
「わっ・・・私か?」
「・・・VTシステムの影響とは言え、私は自身の勝利を・・・力を望むと言う欲望に負け、心を奪われてお前にあのような事を、
お前を盾にする等と言う非道を行ってしまった・・・本当に・・・ごめんなさい」
「いや・・・その・・・」
「箒・・・ラウラは本心から謝っているよ・・・箒は如何するの?」
「・・・その・・・私もすまない、悔やんでいる相手に対してあの様な態度をとってしまって・・・」
「いや、お前がその様な態度をとるのは仕方の無い事だ・・・それだけの事を私はした・・・赦される事ではない」
「では・・・私は赦す・・・ラウラの事を・・・本心から謝ってくれる人を許さないなど、私の意に反するからな」
「俺も」
「私も」
「これからは仲良くしましょ」
「皆・・・ありがとう・・・」
如何にかラウラと箒達の和解はできたみたいで良かった。
「よかったねラウラ」
「ありがとうシャルロット・・・それとすまなかったな織斑一夏・・・その・・・」
「もういいって・・・俺もラウラの様に、千冬姉が誰かの所為で傷付いたりしたら許せないと思うし・・・」
「そうか・・・」
「後俺の事は一夏で良いよ」
「私の事も箒でかまわない」
「友達なんだからそんなかしこまらなくても良いじゃない、私も鈴で良いわ」
「私の事もセシリアとお呼びくださいね、ラウラさん」
「あぁ・・・分かった」
良かった、良かった、ラウラとも友達になったんだもん、一夏達とも仲よくしてもらいたいもん。
これでもうだいじょう・・・・。
「ところで・・・さっき入って来た時に言った、“兄さま”って誰?」
じゃなかった!!
今までの事からしてこの流れは・・・・。
「ん?兄さまとは鋼牙兄さまの事だが・・・それが如何かしたのか?」
「「「「「「「「「「ええ~~~~~~~~~~~~~!?」」」」」」」」」」
やっぱり・・・耳塞いでおいてよかった・・・。
「どどど・・・如何言う事だ!?お前と冴島鋼牙は兄妹だったのか!?」
「いえいえ違いますわよ箒さん!!第一ファミリーネームが違うじゃないですか!!」
「一つ確認するけど・・・生き別れになった兄妹・・・とかじゃないわよね?」
「いや・・・第一私は試験管ベビーだからな、人間の親らしい親はいない」
「ラウラ!!」
「ん?」
「「「「「「「「「「ええ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?」」」」」」」」」」
まさか1分も経たないうちに第二波が・・・耳が・・・。
昨日医務室で僕が男装していた事情を話した時、ラウラの出生について聞かされたから知っていたけど・・・。
「ラウラ・・・それはあまり皆の前で言う事じゃないと思うけど・・・」
「そうなのか?」
「うん・・・みんなビックリしてるよ・・・二重の意味で」
「・・・まあラウラの出生については触れないでおいて・・・」
あの唐変木で鈍感の一夏ですら気遣っているよ・・・。
でも確かにクラスメートが試験管ベビーだなんて聞いたらそりゃあ気を使うよね・・・ラウラには色々教えないといけないかも。
「如何してあの人を兄さまと呼ぶんだ?」
「うむ・・・実はな、私は軍を止める・・・と言うよりは脱退させられてな」
「えっ?如何して?」
「ラウラのISに組み込まれたVTシステムが研究・開発・使用の全てが禁止された禁断のシステムだってのは話したよね?」
「あぁ・・・」
「私はそれを知らなかったとはいえ使ってしまい、それによってIS委員会やドイツ政府に知られ、
捜査が入ってな・・・結果私及び所属していた隊の全隊員が脱退、一部研究チームを解隊、逮捕と言う形になった」
「そんな!ならラウラが責任を負う必要なんて・・・」
「いや・・・理由は如何あれ、数少ないISのコアを壊してしまった責任は負わなければならない、それにこれは私の気持ちの問題だ、
軍人とはそこで培った力で国民を守るのが義務だ・・・それを私は欲望に負け破ってしまった」
「ですが!!」
「私は本当に未熟だ・・・今のまま軍に居ても同じ過ちを繰り替えかねない・・・だから私は外に出る事を決めた」
「如何言う事だ?」
「私は家族と言うものも無く、軍の中の世界しか知らなかった・・・しかし鋼牙兄さまと出会って、
あの人は家族を求めていた私に家族になってくれると言ってくれた、軍の兵器として産み出された私に、
人間として生きる場を与えてくれると言ってくれた・・・だから私はそこで私の進む道を選んで巣立とうと思う、
それが私なりの鋼牙兄さまへの恩返しだ」
「・・・ラウラ・・・」
その時・・・ラウラが一番の大人に見えた。
今の自分をしっかり見つめ、それで進む道を見据え様とする事を決めたラウラが・・・少し・・・悔しいな。
でも・・・心から応援したくなるね。
「そうか・・・なら俺達はもう何も言わない」
「頑張ってくださいねラウラさん」
「困った事が有ったら私も協力するわよ」
「無論私・・・いや私達全員もだ・・・何時でも言ってくれ」
「皆・・・ありがとう・・・私もお前達の力になれる事があるなら協力する」
「その時は宜しくねラウラ」
「うむ・・・あぁ・・・それと」
ラウラは嬉しそうに何か言いたそうにした。
「如何したのラウラ?」
「その・・・昨日鋼牙兄さまに言われたんだが・・・私は鋼牙兄さまの家に・・・」
「?如何したんだ?」
「・・・養子に入る事になったんだ」
「「「「「・・・・・え?」」」」」
「だから・・・冴島家に養子としてはいる事になって、私は本当に鋼牙兄さまの妹となるんだ・・・」
「「「「「なっ!何だってええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」」」」」
「それでだが・・・「ラウラ・B・サエジマ」もしくは「冴島ラウラ」どっちで呼ばれた方が良いと思う?」
まさか敬意や尊敬の意味からじゃなくて、本当に兄妹になる意味で“兄さま”って呼んでたんだ・・・。
「・・・日本に居るなら「冴島ラウラ」が良いんじゃないのか?」
「そう・・・だな・・・」
「そうですわね・・・ねえ?」
「う・・・うん・・・」
皆今日の午前からの、鋼牙の転校と指輪騒動から始まって、今のラウラの冴島家養子入りと、色々あり過ぎてもう処理しきれない様子だ、
かと言う僕も、もう頭の中がオーバーヒートしそう・・・ある意味では騒動の半分の被害は僕にかかっているから・・・。
「そうか・・・ところで兄さまは?」
「鋼牙なら・・・チャイムが鳴った途端出て行ったよ」
「何所に行ったかは誰も知らない」
「そうか・・・」
「だが・・・」
「あれは凄かったですわね・・・」
「何がだ?」
「うん・・・2時間目の授業が終わった後の事なんだけど・・・」
2時間目の授業が終わった後、鋼牙の事を聞きつけて、同学年の他のクラスだけでなく、2年生3年生のクラスからも、
鋼牙を見よう・・・もとい、何らかの関係を持とうと声を掛けようとする生徒達で一杯になった。
僕も男装して転校して来た時同じ事をされたけど・・・あれは凄まじかった。
大勢で一匹の獲物を狩ろうとする狩人の様で・・・。
だけど鋼牙はそんな生徒達に対して・・・。
『通行の邪魔だ・・・退け』
ドスの利いた声と鋭い眼光で集まった殆どの生徒達が怯えて、まるでモーセが海を開くかの如く、生徒の大群が割れた。
その出来た道を鋼牙は堂々と歩いて行った・・・。
「授業中も凄まじいプレッシャーを放ちながら受けるし」
「悪い事ではありませんから何も言えませんが・・・」
「それにさっきの授業でも・・・」
あれも凄かった・・・だって数学の先生に対して・・・。
『そこの数式は間違っている、正しくは・・・』
『それで数学を教えられるのか?』
『マニュアル通りしか教えようとしないからそうなる』
『教える立場の者ならば、もっと深くその科目に対して理解しなくてはならない』
『それに説明を聞いていても無駄が多く、要領を得ていない事も多い』
『教えるなら、勉強しなおしてから教卓に立て』
あの先生・・・立ち直れるかな?
教室から出て行く時泣いていたもの・・・。
「何と言いますか・・・織斑先生が2人いる感じですわ・・・」
「あぁ・・・そうかもしれない」
「・・・如何なの一夏?千冬さんの学生時代そんな事あったとか聞いた?」
「いや・・・只剣道部の顧問の先生に対して・・・「指導の仕方がなってない」とか言って泣かせたって話を束さんから・・・」
「それは私も聞いた事がある・・・可哀想に・・・確かその先生、剣道の経験が無く、監視役として顧問にされたと聞かされたが・・・」
「さすが織斑教官・・・上官に対しても容赦がない」
「そこは・・・色んな意味で見習うとこじゃない気が・・・」
ラウラは目をキラキラさせて、剣道の道着を着て顧問の先生に剣道の事を容赦なく教え込もうとしている様子を想像していた。
「鋼牙って・・・生徒版兼男版織斑先生みたいだよね」
「「「「・・・・・・・・」」」」
「鋼牙兄さまと織斑教官が同じ・・・素敵・・・」
「「「「「「「「「「いやいやいやいやいや・・・あんな凄まじいプレッシャー放つ人は1人で十分」」」」」」」」」」
Side・鋼牙
「ごちそうさま」
俺は今、IS学園の屋上で、学園食堂で買ったパンを食べ終えたが・・・全然足りないな。
しかし午後からはISを使っての実習、下手に食べ過ぎると逆に辛いからな。
どれ程の実習をするのかは分からないが、分からない内はこれ位が妥当だな。
「ふぅ・・・まさかここまで疲れるとは思わなかった」
『仕方ない、お前が行くとこ行くとこ、大騒ぎだったんだからな』
何故か俺が行くとこ行くとこ、生徒達が俺を食い入る様に俺を見て、その後一斉に俺に近付いてきて何か訳の分かない事を言って来る。
あまりにもシツコイので、邪魔だと言ったら退いてはくれたが・・・。
おかげで学園内に陰我の宿るオブジェや陰我の強い場所を探索できなかった。
ホラーの出現を防ぐには、陰我の宿るオブジェをその場で浄化するか、陰我が強い場所を見つけ札を張って時間をかけ浄化する。
それが魔戒騎士の日が昇っている間の仕事だ。
特にこのIS学園は今の時代陰我を集めやすい、下手にこの作業を怠れば陰我集延期となってしまう。
「まったく・・・俺はそんなに珍しいのか?」
『さあな・・・俺は魔導綸だからな、そこん所は分からない、特に年頃のお嬢ちゃん方の考えている事、感じる事なんかがな』
「男等この世界のどこにでもいるのにな・・・」
『この学園には2人だけだがな』
「それでもだ・・・この調子だと昼も探索するのはできなさそうだな」
『なら・・・今の内にやっておくか?』
「・・・そうだな」
俺は制服の内側に手を入れ、魔導筆を取り出した。
制服の内側は何時も来ているコートと同じ物でできていて、別の空間と繋がっている。
魔戒剣も普段はここに入れていて、必要な時に取り出す様にしている。
この魔導筆は筆先を引っ込めると笛となる。
俺は魔導筆を笛にし、吹き込み口を口元へと運び・・・。
~~~♪~~♪~~~~♪
笛の音を奏でた・・・。
Side・シャル
はあ・・・鋼牙が居なくなって、少しは落ち着けるかと思ったけど・・・。
『鋼牙兄さま・・・うぅ・・・』
『わわ!ラウラ!ええぇっと・・・鋼牙とご飯食べられなかったのは残念だけど、僕達と一緒に食べよ?』
『そっそうですわね!大勢で食事した方が楽しいですし!』
『ラウラ!私が作った酢豚あげるから!』
『ラウラ何が良い?俺奢るよ!』
『なら今日は天気が良いし屋上で食べよう!』
『・・・うん・・・』
まさかラウラが鋼牙の事・・・と言うよりは兄に対してかな?実年齢より・・・まあ見た目通りの子供っぽさが出てくるなんて・・・。
ひょっとしてラウラってブラコン?
仮に織斑先生の妹になったとしたらシスコンになるのかな?
まあそれより僕は先に屋上に上がって場所を取らないと。
ラウラ達は学園食堂でご飯を買いに行って、僕が場所取りの為に先に屋上に来た。
鈴だけは手作りのお弁当だけど・・・よっぽど一夏に酢豚が美味しいって褒められたのが嬉しかったんだね、
それから結構お弁当持参で来ることが増えた。
それに伴ってセシリアもお弁当を作って持ってくる事も増えた。
一度だけ口にした事はあるけど・・・正直言ってあの味は表現しきれない・・・。
あぁ・・・思い出しただけでも目眩が・・・。
「はは・・・一度セシリアにはちゃんと料理教えた方が良いかな・・・誰か(主に一夏)が犠牲にならないように、
何よりもセシリアが傷付かない為にも・・・」
ガチャ・・・
そんな事を言いながら僕は屋上への扉を開けた・・・すると。
~~~♪~~♪~~~~♪
「えっ?」
どこか懐かしく、それでいて心が安らいでいく笛の音が聞こえてきた。
「何だろうこのメロディ・・・とっても優しい・・・でも、何処かで聞いた事のあるような・・・」
僕はその笛の音が何所から聞こえるのか探し始めた。
「あそこから聞こえる・・・」
笛の音が貯水タンクの方から聞こえている事に気付いて、僕は掛けられている梯子を上った。
「よい・・・しょ・・・えっ?」
梯子を上り切った僕が見た物は・・・
「・・・・・・」
~~~♪~~♪~~~~♪~♪~~~♪~~♪~~~~♪
穏やかな表情で静かに笛を奏でている鋼牙の姿だった。
鋼牙の整った容姿や中性的な顔、IS学園の白を主とした制服で・・・僕は思わず・・・。
「・・・きれい・・・」
そう呟き・・・暫し鋼牙の笛を奏でる姿を眺めていた・・・。
それからどれ位経ったのか・・・僕は目で・・・耳で・・・安らぎを感じ、長い様で短い時間を只堪能していた。
でも・・・その音色の心地良さに眠気が・・・前にもこんな事が・・・ずっと前にも・・・。
~~♪~~~~♪・・・・
「・・・何か用か?」
「・・・ふえ!?わわっ!!」
「そんな所で寝たら落ちるぞ」
鋼牙は奏で終えたのか、笛を離して僕の方を向きもせずに僕に声を掛けた・・・と言うよりは僕が居た事に気付いていたんだ。
びっくりして落ちかけたよ・・・。
「い・・・何時から気付いたの?」
「お前が屋上に来た時から・・・お前だと分かったのはそこから顔を覗かせていた時からだ」
「ほとんど最初からじゃない・・・声ぐらいかけてくれてもいいと思うけど・・・」
「お前から何も言ってこなかったからな」
「そうだけど・・・」
「ところで・・・何時までそんなとこに居るつもりだ?」
「え?・・・はっ!」
そうだった・・・僕梯子に乗ったままだった。
「うっ・・・うぅん・・・笛・・・上手なんだね」
取り敢えず落ち着こう・・・ラウラ達もまだ来てないみたいだし・・・。
「・・・まあな・・・」
「今の・・・何て曲なの?」
「・・・『英霊たちへの鎮魂歌』だ」
「ちんこんか?それって・・・確かレクイエム・・・だよね?」
「そうだ・・・過去の英霊を称え敬い・・・そして我等を見守りたまえと言う意味の曲だ」
「ふ~~~ん・・・そう言えば鋼牙の笛って、変わった笛だね・・・何ていう笛なの?」
「・・・これは魔導筆と言うものだ」
鋼牙はそう言うと笛の先端から筆先を出した。
「へえ・・・筆が笛になるんだ・・・変わっているね」
「・・・これは俺の母の形見だ」
「えっ!?ごっ・・・ごめん・・・」
形見って事は・・・鋼牙のお母さんも・・・。
それを変わっているとか言っちゃって・・・気を悪くしちゃったかな?
「気にするな・・・それに、母の事はあまり覚えていない」
「・・・如何言う事?」
「俺が物心つく前から重い病に罹って、最初で最後に覚えている母の姿は・・・息を引き取る時の姿だった、
それもおぼろけにだがな・・・」
「そっ・・・そう・・・ごめんね・・・辛い事思い出させて・・・」
鋼牙も僕と同じでお母さんを・・・悪い事をしちゃったな・・・。
それに・・・僕も幼い頃とは言え、お母さんとの思い出は沢山あるけど、鋼牙には・・・その時の姿しか覚えていないなんて・・・。
「お前が気にする事ではない・・・」
「でも・・・」
「いいんだ・・・悔やんでも、悲しんでも死者は甦らない・・・」
「!!そんな言い方!!」
「だが・・・」
「?」
「どんな事があっても母の分まで生きる、それが俺を産んでくれた母への恩返しであり、親孝行だと・・・俺は思う」
鋼牙のその時の顔は・・・何時もの表情だけど、その目には何か・・・僕では分からないけど、
強い何かを宿していた。
だけど・・・それがあの鎧やあの怪物・・・確かホラーって言っていたね、それに関係している事だと言うのは分かった。
「・・・こう「何をしている?」がえ!?」
鋼牙にもう一度あの鎧の事や色々聞こうと声を掛け様としかけた時、横から別の声がした。
「シャルロット・・・場所取りもしないで鋼牙兄さまと何をしている?」
「ラウラ!?」
その声の主は、先程の僕と同じ、梯子に上り顔を半分覗かせている姿のラウラだった。
「ラウラ・・・そこで何をしている?」
「兄さま♡」
ガシッ!
「えっ!?」
ラウラはいきなり鋼牙に抱きついた。
その光景に僕は一瞬フリーズを起こし、その様子を呆然と見ていた。
「兄さま、こんな所で何をしていたんですか?探したんですよ」
「それはすまなかったな・・・静かな場所で昼食をとりたくてな・・・ラウラは今からか?」
「はい・・・兄さまは・・・もう昼食を済ませたのですか?」
「あぁ」
「そうですか・・・」
あっ・・・ラウラが目に見えて残念そうな顔している。
「・・・もう食べ終えたが、お前には話しておかないといけない事があるからな、同席はさせてもらうか」
「本当ですか♡」
「あぁ・・・」
鋼牙もラウラの様子に気付いたのか、昼食に同席する・・・ってその席には僕や一夏達も居るんですけど!!
それにしても・・・鋼牙にあまえるラウラって・・・可愛い!!
Side・ザルバ
いやはや何とも・・・如何表現したらいいのか・・・。
「「「「「・・・・・・・」」」」」
「~~♪~~~♪~~~~♪」
「・・・・・・・・・」
(((((何?この状況?)))))
今の状況だけ説明すると、鋼牙から時計回りにシャルロットの嬢ちゃん、鈴音って嬢ちゃん、一夏の坊主、箒の嬢ちゃん、
セシリアの嬢ちゃんの順に座っている。
何?ラウラは何所だって?
ラウラの嬢ちゃんは・・・鋼牙の胡坐の上でご機嫌に昼食をとってるぜ。
「ラウラ・・・何故そんな所で飯を食べる?」
「迷惑ですか?」
「・・・別に構わない」
おうおう・・・ラウラの嬢ちゃんの表情を表現するとしたら、寂しそうな瞳でこっちを見詰める子ウサギと言ったところか。
そんな瞳で見つめられてか鋼牙も、何と返答したらいいのか分からないと言った表情だ。
取り敢えずはそのままでいいと返答をするが、長い付き合いだがこんな表情の鋼牙は初めて見るな。
しかし・・・今思ったんだが、鋼牙は意外と子供に甘いのか?
おっと・・・見た目は兎も角ラウラの嬢ちゃんは15歳だ、淑女に子供は失礼かな?
だが・・・ご機嫌に飯を食う見た目が子供なラウラを胡坐に乗せ、何時もの仏頂面な鋼牙に、周りには如何した物かと困惑な表情を浮かべる、
4人の美少女に1人のそこそこな美男子・・・何ともまあ・・・。
『こんな状況・・・確か世間では混沌な光景と言われるんだったかな?』
「えっと・・・言葉や意味自体は間違ってないけど・・・それを言うならカオスな光景だと思うよ・・・」
『おっとそうか・・・ありがとうなシャルロットの嬢ちゃん』
「どう・・・いたしまして」
「ザルバ・・・あまり余計な事は言うな」
『まあ良いじゃないか、皆・・・おっと、1人だけその場にいなかったのが居たな』
「ゆっ・・・ゆゆゆ指輪が喋った!?」
鈴音って中国娘は隣のクラスだから俺の事は知らなかったな。
『ニーハオ鈴音の嬢ちゃん、俺の名はザルバ、鋼牙のISのAIとでも思ってくれ』
「はあ・・・ご丁寧にどうも・・・」
「あっ・・・あの・・・冴島さん・・・」
「鋼牙でいい、織斑一夏」
「えっ?」
「歳は上でも、今は同じ学年で学ぶ者同士、そこまで畏まる必要はない」
「じゃあ、俺の事も一夏でいいよ・・・皆もそれでいいんじゃないか?」
「私は・・・好きに呼べばいい」
「私はセシリアとお呼びくださいまし」
「私も鈴で良いわ」
「鈴・・・か」
「?如何したのよ鋼牙」
『いやはや・・・鋼牙、俺達の周りには“りん”と呼ばれる奴が多いな』
「あぁ・・・」
「?如何言う事?」
『まず、こいつの幼馴染の妹が鈴って名でな』
「そうなの?」
『そして鋼牙の母親の名も凛って言うんだ』
「へ~~~鋼牙のお母さんってどんな人?私に似て美人?それとも鋼牙に似てる感じ?」
「ちょっ!鈴!!」
「兄さま、私も知りたいです!兄さまの母上なら私の母上でもありますから!」
「ラウラも!!」
「・・・・・・」
あぁ・・・これは俺の所為だな・・・鋼牙の表情がいつもに増して無愛想だ・・・。
「・・・覚えていない・・・」
って!律儀に答えなくていいぞ鋼牙!!
隠しているつもりだろうが、さっきのシャルロットの嬢ちゃんとの会話の時だって本当は辛かった筈だからな。
「「えっ?」」
「俺が幼い頃、病で亡くなった」
「ご・・・ごめんなさい・・・」
「兄さま・・・その・・・ごめんなさい・・・」
ここは素直に謝る・・・すまない2人とも。
「いや・・・ラウラは遅かれ早かれ知る事だ、気にする必要はない」
「ですが!」
「そうだラウラ、三日後の授業が全て終わった後、正確には休日は用事で家に戻る、その時ラウラ、お前も来い」
「えっ?」
「家の者にお前を紹介する・・・多分お前の居た隊の部下達も居る筈だ」
「クラリッサ達がですか!?」
「あぁ、隊が解隊された後、IS学園を通し俺の所に連絡してきてな・・・お前の事を心配していたぞ」
「クラリッサ・・・」
「そこで彼女達を雇う事にした・・・何処までもお前に付いて行くそうだ」
「兄さま・・・ありがとうございます」
ラウラの嬢ちゃん・・・いや、もう鋼牙の家族なんだから他人じゃないな、ラウラの奴本当に嬉しそうだな。
「それと・・・お前はISを失って、もう軍人ではない、お前が望むなら普通の学校に通わせる事もできるが」
「いえ・・・例え専用機を失ったとしても、一度足を踏み入れた以上、極めたいと思っています。
ですから私はIS学園に通い続けます」
「そうか」
「それに・・・」
「ん?」
「ここには鋼牙兄さまに・・・シャルロットが・・・友達がいます」
「・・・分かった・・・お前達・・・これから、ラウラを・・・妹をよろしくたのむ」
「うん」
鋼牙の頼みに全員が頷いた。
良かったなラウラ。
「なあ・・・1ついいか?」
「何だ一夏?」
「いや・・・昨日の怪物についてなんだけど・・・」
そう言えばあの場に居て、一夏の坊主と箒の嬢ちゃんの2人はホラーについて知らせてなかったな。
「怪物って・・・何?」
「あの後・・・鋼牙さんがラウラさんのISを破壊してからの様子が映らなくなりまして、その後の事は何も知りませんの」
「そうか・・・あの後、鋼牙がラウラのISを破壊した後、そこから悪魔を思わせる怪物が出てきて、
その後私達はすぐその場を離れてしまったから、その後の事は知らない」
「・・・兄さま、如何しますか?」
『話しておいた方が良いんじゃないか?もう1人知りたがっている嬢ちゃんが隣に居る事だしな』
「・・・・・」
シャルロットの嬢ちゃんは、じっと鋼牙の方を見ている。
彼女もホラーについて知りたいようだな・・・いや、彼女が一番知りたいのは鋼牙の事かな?
「・・・奴等はホラー・・・太古より存在する魔獣・ホラー」
「ま・・・じゅう?」
「ホラー?」
「それ以外は話せない」
「如何して!?」
「ラウラとシャルロットは立場上知る必要があったからある程度までは説明しているが、お前達は知る必要が無い」
「如何してだ?」
「その方がお前達の為だ・・・それとシャルロット」
「なっ・・・何?」
「お前もあまり余計な事を言うな・・・こいつ等を・・・そして自身も不幸にしたくなかったらな」
「うっ・・・」
確かにな・・・こいつ等は光の差し込む世界で生きて来た、今更闇が蔓延るこちら側の世界を知っても、
こいつ等に待ち受けているのは恐怖と絶望だけだ。
しかしな鋼牙・・・その世界で戦い、生きているお前に幸せってもんは訪れるのか?
先程のお前の言葉・・・凛の・・・母の分まで生きる事が唯一の親孝行だと・・・だが、凛はそれだけを望んではいないぞ鋼牙。
「俺はこれで失礼する」
「兄さま・・・」
「ラウラ・・・こればかりはどうしようもない」
「・・・分かっています・・・」
「・・・すまないな」
それだけ言い残し、鋼牙は屋上から出て行った。
Side・ラウラ
昨日鋼牙兄さまから聞かされたホラーの存在、そしてそれ等を人知れず狩る者達の存在。
鋼牙兄さまはその1つ、魔戒騎士に属している、そしてこの学園に来た本当の理由も聞いている。
陰我集延期と言う、ホラーにとって快適な世界になるのを防ぐためだと・・・。
古から人間を喰らう為にこの世界に出現するホラー・・・その性質や特性から、普通の人間では歯が立たない、
例え現世界最強の兵器・・・ISを纏ったとしても。
それを聞いてしまっては、もう普通の生活を送る事はできなるかもしれない・・・だから鋼牙兄さまは、
一夏達には詳しく話そうとしなかったのだと思う。
私の場合は例外だ・・・私は・・・ホラーに“利用”された側だからな。
鋼牙兄さまは最初、ホラーに関する記憶だけを消してくれるとも言ってくれた、しかし私はそれを望まなかった。
鋼牙兄さまの力になりたいと・・・そしてこの学園をホラーの巣窟になどしたくないと思ったからだ。
「ラウラ・・・鋼牙は何でそのホラーについて話してくれないんだ?」
「そうよ、あんな言われ方したら逆に知りたくなるじゃない」
「ラウラさん・・・良ければ話してくださらないかしら?」
一夏達はホラーの恐怖を知らない。
私はホラーと直接戦ったわけではないが、その恐ろしさはあの時・・・あのウェガルと言うホラーと目が合った時に感じた。
とても自分では如何にもならない力の差・・・そしてその禍々しいまでのオーラ・・・その全てが私の全身を覆い、
抱くのは恐怖以外の感情が無くなるのだ。
「すまない・・・私の口からは・・・ただ一つ言える事は・・・あれは悪魔等かわいく見える存在だと言える事だ」
「悪魔より?」
「言えないのはそれなりの理由がある・・・私の場合はその・・・特殊だったと言う事だ」
「何よそれ?」
「言っただろ?“理由”があると」
まさかこの学園が奴等の巣になりかけている等言えないからな・・・。
それにそれを目論もうとしている存在が居るかもしれないなど・・・。
陰我集延期に必要な物・・・それは陰我や邪気だけではない・・・人間の恐怖や憎しみと言った負の感情等も必要なのだと、
鋼牙兄さまは言っていた。
この類の話は噂として広まれば、その真否に関わらず知らぬ内に恐怖を生む・・・だから鋼牙兄さまは、
一夏達にホラーの事を話そうとはしなかったのだ。
「じゃあ・・・ラウラ、鋼牙が纏ったあのよ「シャルロット!」えっ?」
「すまないが、お前がそれを知るのは・・・今ではない」
「・・・如何言う事?」
「鋼牙兄さまが昨日言った事を覚えているか?」
『自分を偽って傀儡の様に生きている人間』・・・鋼牙兄さまはシャルロットの事をそう言った。
シャルロットの過去はある程度本人から聞いている。
決して幸福とは言えない過去、私とは別の意味で人形の様に生きて来た10年。
今はある程度自分を取り戻そうとし、シャルルからシャルロットと名乗り、皆の前に出てきた。
だが・・・私にはまだシャルロットが、まだ自分を何処か偽っている様に感じる。
「・・・うん」
「私も・・・まだお前が何処か自分を偽っているように思える・・・」
「えっ?」
「きっとお前が本当の自分に戻った時、鋼牙兄さまは話してくれるさ」
「・・・・・・・」
「ねえラウラ・・・シャルロットが自分を偽っているってどういう事?」
「男装してきた経緯については、一夏からある程度は聞かされたが・・・」
「それは私も分からない・・・だが・・・」
鋼牙兄さまは何か知っている、それでいて何かを隠している・・・シャルロットについての何かを・・・。
そう思えて仕方がない・・・。
「鋼牙兄さまがお前に全てを話してくれるのは・・・お前自身のこれからに掛かっていると思う・・・」
「僕の・・・これから?」
「うん・・・」
「でも・・・如何したら・・・」
「それは・・・自分で見つけるしかない、私がそうした様に」
「ラウラ・・・うん・・・わかったよ」
「そうか・・・私もお前と鋼牙兄さまが結婚できる様に応援するぞ」
ドガラシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
「・・・・如何した?」
「如何したんだよ皆?」
私の発言の後、一夏を除く全員が派手にコケた。
「あっ・・・あのさラウラ・・・如何して僕と鋼牙が結婚するなんて話に・・・」
「おかしな事を聞く・・・鋼牙兄さまから指輪を貰ったのだろ?一夏達から聞いたぞ」
「一夏!!」
「いや俺達は只指輪を渡していたって教えただけで・・・」
「すまない・・・ラウラに今日鋼牙が何をしていたのか聞かれてつい・・・」
「ですが決してお2人が結婚するなどとは言っておりませんわ!!」
「何を言っている?男性が女性に指輪をプレゼントするのは、男性側に結婚する意志があるとクラリッサから・・・あれ?」
となれば鋼牙兄さまの方がシャルロットと結婚する意志があると言う事で・・・シャルロットには・・・その気は無いのか?
「シャルロット!!鋼牙兄さまの何がいけないのだ!?」
「いやっ!ラウラ!僕まだ15だよ!!結婚なんてしようとも思わないよ!!」
「だが確かフランスの女性は15で結婚できると聞くが?」
「だからって結婚しようとは思えないよ!!それに鋼牙だって17だし!!」
「日本では男性は18で、女性は16で許されるらしいから、1年程待てば問題は無い筈だ」
「それでも・・・会って立った2日の人とは結婚しようとは思わないよ」
「では・・・何故鋼牙兄さまの事を知ろうとするんだ?」
「えっ?」
「私は結婚するにあたって知っておくべき事として聞こうとしていると思っていたのだが・・・」
「そっ・・・それは・・・」
「そう言えばそうよね・・・シャルロット、あなた何だかんだ言って鋼牙の事気になるんじゃないの?」
「そんなんじゃ・・・ただ・・・」
シャルロットは何処か悲しい表情となり俯いた。
「鋼牙があの時纏ったIS・・・そしてホラーが、僕が大好きだった絵本のキャラに似ていて・・・」
「絵本?」
「うん・・・死んだお母さんが描いた・・・大好きな絵本」
「「「「あっ・・・・」」」」
「その・・・すまない、辛い事を思い出させてしまって・・・」
「うぅん・・・いいんだよラウラ」
「その絵本って、なんてタイトルなんだ?」
「絵本のタイトルは、「黒い炎と黄金の風」って言うんだ」
黒い炎と黄金の風・・・聞いた事が無いな。
軍でも文字を覚えさせる為に、最初の頃は絵本を何冊かは読まされた記憶があるが、そのタイトルの絵本は聞いた事も無かった。
「黒い炎と黄金の風・・・聞いた事が有りませんわ・・・」
「私も」
「俺もだ」
「私も・・・フランスだけで出版された絵本なのか?」
「う~~~ん、それがよく分からないんだ、幼かった事もあるけど、お母さん自身そんなに有名な画家って訳じゃなくて、
見た感じ殆ど趣味みたいな感じだったし、時々有名な画家のアシスタントとしてや、幼稚園や保育園等の施設に、
頼まれたら壁に絵を描く程度だったみたいだけど・・・その絵本も、如何して描いたのか、出版されているのかどうかもよく分からなくて」
「そうか・・・一度読んでみたいな、その絵本を・・・」
「でも・・・その絵本少しおかしいんだ」
「何がだ?」
「その・・・僕の記憶に間違いが無かったら、その絵本最後のページが白紙なんだ」
「えっ?一番重要なラストが白紙?」
「それはおかしいですわね・・・印刷ミスでは?」
「だったら作者のお母さんが、補修か何かしている筈でしょ?」
「そうだよな・・・シャルロット、何か聞いてないのか?」
「う~~~ん・・・よく分からない、お母さんも普通にそのまま読んでくれたし・・・」
「そうか・・・でも、そんなに似ているのか?その絵本のキャラと鋼牙兄さまのISが」
「うん・・・主人公の黄金の騎士の格好と、鋼牙のISは似ている箇所が多々あって・・・特に頭部ユニットと、バックル部分のマークが」
ふむ・・・朧気だが鋼牙兄さまがIS・・・もといFSを纏った姿を見ているが、確か魔戒騎士は鎧を召喚して戦うと、
鋼牙兄さまから聞いたが・・・もしかしたらその絵本に出てくる黄金の騎士とは・・・。
「そう言えば・・・」
「如何したのだ?」
「うん・・・お母さん、その絵本の騎士の事を、「黄金騎士」って呼んでたんだ」
「黄金騎士?それはまたそのまんまな名前ね」
「それとこうも言っていた、「黄金騎士は希望」・・・だって」
希望か・・・そう言えば、あの時・・・。
私がVTシステムに取り込まれ、私の邪心が生んだ影に心の内を見透かされ苦しんでいた時、黄金の光が私を包み、
光の向こうから鋼牙兄さまの声がして、私を救ってくれた。
あの闇を祓さんとばかりに眩く輝く黄金の光は・・・まさに私にとって希望の光だった。
そしてその後見た金色のFSを纏う鋼牙兄さまの姿は・・・まさしく黄金の騎士・・・。
「何となくだが、その言葉の意味が分かる・・・」
「ラウラ?」
「私を救ってくれた鋼牙兄さまの姿はまさしく黄金騎士、私に希望を与えてくれた騎士だ」
「ラウラ・・・」
「・・・ひょっとしたらその絵本の黄金騎士は、鋼牙兄さまなのかもしれないな」
「鋼牙が?」
「そう思えるから・・・鋼牙兄さまの事を知ろうとしてるんじゃないのか?」
「・・・・・」
キーーーンコーーーン、カーーーンコーーーン・・・・
むっ・・・しまった・・・予鈴が鳴ってしまったか。
確か次はISの実習・・・鋼牙兄さまの勇士が見られるかもしれない。
「私は次の授業は見学だ、シャルロットもそうだろう?」
「えっ?うん・・・右腕がこれじゃあ・・・」
「その・・・すまなかったな」
その右腕の怪我は私が負わせてしまった・・・。
「いいよラウラ・・・気にしなくて」
「だが・・・」
「いいんだよ、謝ってくれたんだからそれで十分・・・見学する人もISスーツに着替えないといけないから一緒に行こ」
「・・・うん」
「一夏も早く行きなさいよ、あんた着替えるの遅いんだから」
「おう、じゃあお先に」
「私達も行こうか」
「そうですわね」
「私も行くわ、私のクラスも一緒にやるから、千冬さんの出席簿アタックだけは避けたいし」
「行こうラウラ」
「あぁ・・・」
私達は次の授業の為、屋上から出て行くのだった。
Side・三人称
鋼牙達の午後からの授業は、2組と混合してのISの実習。
皆がそれぞれのISスーツに着替え、グラウンドで整列する中、一際目立つ人物がいた。
「・・・・・・・・」
『何だかお前だけ異様に目立っているな鋼牙』
鋼牙が着ているのは普段着ている長袖の上下黒い服である。
ISは肌表面の微弱な電位差を探知し、装着者の動きをダイレクトにISに伝え動いている。
その為ISスーツ耐久力は勿論、肌表面の微弱な電気を伝えやすい素材で出来ているが、それでも幾分かは妨げられる為、
ISが肌に直接触れる部分を設ける為に必然的に腕や足を露出した、体のラインがハッキリ分かる様な薄い作りになっていて、
見方によっては水着と取れるような見立てになっている。
同じ男の一夏とて腹部を出し、腕全体に膝下を露出したISスーツを着ている。
それ故に水着の様に思えるISスーツを着た美少女達の中で、露出が殆ど無い服を着ている鋼牙は異様なほど目立つのだった。
「冴島・・・それは昨日も着ているのを見たが、普段着ではないのか?」
「ご心配なく織斑先生、この服は今あるISスーツより伝達率の向上を目的とした、我が社の試作品なので、
その性能を確かめる意味もあり、普段着ているのも不快感等の調査を兼ねての事です」
「・・・そうかなら良い」
(嘘だがな・・・確かに伝達率は他の会社のISスーツよりは上だが、デザインは単にこれが魔戒騎士としての俺の制服だからだ)
だがもう1つ・・・鋼牙が目立つ要因はそれだけではなかった。
「だが・・・その手に持っている物は何だ?」
「・・・・・・・」
『やっぱりそれを持ってくるのは拙かったんじゃないのか?』
鋼牙が手にしている物、それは赤味を帯びた鞘に収めた魔戒剣であった。
普段は何時も着ているロングコート、学園に投稿している時は制服の内側に入れているが、実習中は着ている訳にはいかず、ずっと手に持つ形になる。
「・・・気にしないでください」
「しかしだな・・・授業に関係ない物を持ち込むのは・・・」
「これは俺のISを起動させる為に重要な物です」
「何?」
(おいおい・・・それも嘘で通すのかよ)
「見てもお分かりの様に、俺のISは少し特別で、万が一の時の為にこうして喋る以外の機能をロックしているのです」
(そんな物俺には無いぞ、まあ太牙を展開させるには俺の意志が必要だがな)
「では・・・それがその剣がロックを解除する為のカギだと?」
「はい」
(うわ~~~何の動揺も迷いも無く言い切りやがったぜ)
「しか「そう言う事なので、この剣を持つ事を許してください」・・・しかしだ「お願いします」・・・・分かった許可しよう」
((((((((((織斑先生(千冬姉(さん))に押し勝った!?))))))))))
『まったく・・・意地を通すのも楽じゃないな』
「黙っていろ」
「では冴島、まずはお前の技能を見せてもらう、お前達も見ている様に」
「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」
「冴島ISを展開しろ」
「分かりました」
鋼牙は一歩前に出て、魔戒剣を抜きザルバに噛ませる。
『ほんひょひゃきょんにゃきょとひひゃきゅてもひひんひゃぎゃな(本当ならこんな事しなくても良いんだがな)』
「仕方あるまい・・・ああでも言わなければ納得してくれん」
シャ・・・・・・・ンッ・・・・・・・
そう言って鋼牙は魔戒剣を滑らせ、辺りに凛とした音を響かせた。
それと同時にザルバが輝きだし、瞬時に鋼牙は太牙を纏ったのだった。
「ふむ・・・展開時間は申し分ないな」
「ありがとうございます」
「しかし・・・昨日も見たが、随分と派手なISだな」
「この太牙の輝きは、俺の誇りです」
「?まあいい・・・よし、では次は飛べ・・・そして空位50mで停止してみろ」
「分かりました・・・」
バシュン!!
「なっ!?」
「「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」」
そして鋼牙は“跳んだ”・・・“飛んだ”のではなく、PICの力でもなく、脚力のみで地を蹴って高く跳び上がったのだ。
そして目標である50m付近まで上がるとPICを発動させて空中停止させた。
「冴島!!誰が地を蹴って跳び上がれと言った!!」
「・・・跳べと言ったのは織斑先生ですが?」
「字違いだ!!飛行して飛べと言ったのだ!!」
「ならそう言えばいいものを・・・分かりましたやり直します」
「もういい・・・今からターゲットを出す、それを順番に素早く通過してタイムを測る」
「分かりました」
すると鋼牙の前方に幾つもの数字が付いたリング状のターゲットが出現した。
「よし・・・始め!!」
『飛ばすぜ鋼牙!!』
「・・・・・」
ガシュン!!
ドシュンッ!!
「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
太牙のウイングユニットを展開し、目にも止まらぬ速さで飛行し、最初のターゲットを通過。
続けて第2第3のターゲットを通過すると、渦を描く様に並んだターゲットを無駄なく通過。
すると新たに幾つかターゲットが追加された。
その後も宙返りやジグザグ飛行等の軌道を画きターゲットを次々と通過し、ラスト100個目のターゲットを通過した所で終了した。
「・・・・56秒43・・・まさかここまで扱えるとは・・・」
「織斑先生!これって冴島さんのISが高性能だと言う事ですか?」
生徒の1人が鋼牙の叩き出したタイムが、ISの性能によるものかと聞いて来た。
「違うな・・・確かに冴島のIS・・・太牙は見る限り高性能だ・・・だが、それを扱えるあいつ自身もかなりの腕だ」
「如何言う事ですの?」
「オルコット・・・仮にお前ならどう飛行する?」
「それは・・・例えハイパーセンサーがあるとは言え、自分が認知できる速度で飛行しながら・・・必要な所で減速し、
最短ルートを計算しながら飛びますが・・・」
「では・・・さっきの冴島の飛行スピードと同じ速さで飛ぶとしたら、お前なら最後まで飛びきれるか?」
「そっ!そんなのは無理ですわ!!幾らなんでもあのスピードで次のターゲットを見定めるなんて、
何よりもあんなスピードを維持しながらでは体が悲鳴を上げてしまいますわ!!」
「そう・・・いくらISに守られているとしても、体に掛かる衝撃やGによる負担は消しきれない・・・あのスピードだ、
体にはかなりの負担がかかっている筈だが、あいつはその中で正確に飛んで見せた」
「それにちゃんと次にどう飛ぶのかも見定め、それでいて無駄な動きが無い・・・想像はしていたけど、
鋼牙ってやっぱりかなりの腕前よね」
「それはそうだ・・・直接戦った私だから分かるが、鋼牙兄さまはあれを纏わずにして私に圧倒したのだ、
私でなくともISを纏った者を生身で圧倒するなど、あの人以外・・・いや、それが可能に思えて仕方ない人がもう1人いた・・・」
「確かに・・・ねぇ・・・」
「何だ冴島妹に冴島嫁?」
「いえ!!何もありません!!」
「同じく!!と言うか織斑先生!!僕まだ結婚していませんし、結婚する気なんてありませんから!!」
「そうか・・・それはすまないな」
(絶対ワザとだ・・・)
因みに千冬はラウラが冴島家に養子入りする事をラウラから聞いたので知っていた。
「冴島!そこから急降下して急停止、この地点で止まれ、目標は地表10cm以内!」
「分かりました」
『鋼牙、誤って地面に激突するなよ』
「安心しろ・・・そうなっても傷が付くのはお前だ」
『おいおい・・・』
「冗談だ・・・行くぞ」
ドシュン!!
鋼牙は千冬が指定した地点に向かって急降下を始めた。
バシュンッ!!
そして目標地点、地表10㎝の所で急停止した。
「ふむ・・・合格だ・・・下がっていいぞ、次の指示があるまでそのまま待機していろ」
「分かりました」
鋼牙は太牙を纏ったまま、邪魔にならぬようにと皆から少し離れた場所へ移動した。
そこにシャル、ラウラ、一夏の3人がやって来た。
「鋼牙兄さま素晴らしい飛行でした!」
「いや・・・旋回する時、若干違和感があった、ウイングの角度調整を誤ったか・・・あれがなければあとコンマ何秒かは短縮できた」
「あのタイムで満足できてないの?それにそう言った調整ってISが自己判断でやるんじゃ?」
「満足するかしないかの話ではない、自分の技量の未熟さの問題だ」
『確かに普通なら俺がその調整をやるんだが、鋼牙はあえてそれをしていない』
「如何して?」
「複数の事を思考実行する事で、脳を鍛えているんだ」
「鍛えているって・・・」
「必要な事は何でもする、それが俺のモットーだ」
「でも凄いよ・・・俺なんてあの急降下の時地面にクレータ作っちゃったし・・・」
「ふむ・・・なれない間は自分が恐怖を感じた時に停止する様にし、急停止の感覚を覚えた方が良い」
「そうなのか?」
「お前は頭より体で覚えた方が早そうだからな」
「何だか馬鹿にされた気分だ・・・」
「よし!次は山田先生と代表で誰かに模擬戦をしてもらう!」
千冬の声と同時に、上空に一つの影が出現し・・・もとい落下しようとしていた。
「ふええええええええええええ!!どいてくださ~~~~~~~~~い!!」
ラファールを纏った真耶がバランスを崩し、鋼牙達の居る所へと猛スピードで落下して来た。
「山田先生!?」
「またなの!?」
「一体何回落ちれば!?」
「ちっ!」
ガシッ!!
「「えっ?」」
バッ!!
鋼牙はシャルとラウラを脇に抱え、その場から離れた。
「えっ!?ちょ!!俺は!?」
だが・・・一夏のみ取り残され、それに対して鋼牙に抗議をし・・・。
「俺の腕は二本だけだ、自分で何とかしろ」
「ちょっと!!」
あっさりと見捨てられたのであった。
「ひゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
「うおわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
ドガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
真耶はそのまま一夏が居た地点に落下し、土煙を上げて暫しの静寂がその場を支配した。
「大丈夫か?」
「ありがとう鋼牙兄さま」
「うっ・・・うん・・ありがとう・・・ところで一夏は?」
「大丈夫だろう、直撃の瞬間にISを展開していた、あの程度の衝撃なら大した怪我はしてないだろう」
「そう・・・ん?何か前にもこんな事があった様な・・・」
「そう言えば・・・あの時も確か山田先生が墜落して一夏に激突して・・・」
「「あっ・・・」」
シャルとラウラが何かを思い出したのか、声を揃えて呟く。
「痛てて・・・鋼牙め・・・と言うか前にもこんな事があった様な・・・」
ムニュ・・・
「ひゃふっ!!」
「・・・・そう言えばその時もこんな感触を・・・と言う事は・・・」
「ひゃうううぅ・・・おっ・・・織斑君・・・その・・・困ります・・・」
「やっぱりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
今現在一夏は、真耶が墜落した時に出来た大穴の中で、真耶を押し倒している形でその胸を掴んでいる、
その真耶も、羞恥心から顔を赤らめかせ、心底困った表情をしているので、はたから見れば言い逃れの出来ない状況の中で冷や汗を流していた。
(やべえ・・・何であの時鋼牙に抗議なんてして逃げなかったんだ?前と同じ轍を踏むなんて・・・あぁでも相変わらずでけぇな、
千冬姉以上・・・いや!!そうじゃなくて早く退かな・・・)
ビシュン!!
「のあっ!?」
「ひゃうっ!?」
今の状況をどうにかしようかと混乱気味の一夏の頬をかすめるか否かの所を、一筋のレーザーが通過した。
「ほ~ほほほほ・・・・外してしまいましたわね」
「せっ・・・セシリアさん?」
レーザーが飛んできた方を見ると、いつの間にかブルー・ティアーズを纏い、笑顔であるが何処か黒いオーラを纏い、
光が宿っていない瞳で一夏を見据えるスターライトmkⅢを構えるセシリアが立っていた。
「一夏あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「いっ!?鈴!?」
続けざまに今度は怒り心頭と言った鈴が、甲龍(シェンロン)を纏い、双天牙月を連結させて投げ飛ばそうとしていた。
「待て待て待て!!前にもあったけど山田先生もいるんだぞ!!」
「うるさあああああああああああああああああああああああいっ!!何時まで乗っかってんのよ!!」
前にもこれと似た事があった・・・と言うよりはそのまんまなのだが、その時は普段の様子からでは思いも付かない、
真耶のおかげで大事には至らなかった・・・が、今回はその最後の部分が違った。
ぐいっ・・・
「えっ!?」
ブウンッ!!
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
「えっ!?」
ドシャアアアアアアアアアアアアンッ!!
「・・・・・・・」
「鋼牙!?」
鋼牙は鈴を強引に引っ張り、そのままセシリアの隣に堕ちる様に投げ飛ばした。
そして次に鋼牙はすぐさまセシリアの方に移動、彼女の前に立った。
「なっ!?」
「・・・・・・・」
ガシンッ!!
「ええっ!?」
ガスンッ!!
「ブフッ!?」
どしゃああああああああああああああ・・・・・
鋼牙は無言のままセシリアが持っていたスターライトmkⅢを払い除け、続いて彼女の頬に平手打ちをした。
ISを纏っていたので派手な音はしたものの、シールドバリアに守られている為大したダメージは無いだろうが、
その衝撃でセシリアは激しく転倒した。
「なっ・・・何するのよ!!」
「そうですわ!!いきなり女性の頬を叩くなんて如何言うおつもりですの!!」
鋼牙の行動に、先程まで一夏に向けていた以上の怒りを鋼牙の方へと向け、セシリアと鈴は鋼牙に向かって吠えた。
他の生徒達も、鋼牙の行動に反感を持ったか、怒気を含んだ眼差しで鋼牙を睨むのだった。
しかし鋼牙はそんな視線などお構いなしで何時もの様子で口を開く。
「それは此方の台詞だ・・・お前達は今何をしたのか分かっているのか?」
「そっ・・・それは一夏さんがその・・・山田先生にセクハラを・・・」
「そうよ!!そんなの同じ女として許せないじゃない!!」
((本当は違うけど・・・))
「確かに今一夏がやった事は女性からしたら許せない行為かも知れない・・・だが、だからと言って無抵抗な相手に対して、
今のお前達の行動は遣り過ぎだ、お前達は自分達が扱っているそれがなんなのか理解しているのか?」
「それって・・・ISじゃない!」
「そんな事、分かり切っている事ですわ!」
鋼牙の質問に対して、鈴とセシリアは「自分が扱っているのはIS」だと答えた・・・しかし鋼牙はその答えに対し・・・。
「違う」
「「えっ!?」」
きっぱりと違うと答えた。
「確かにお前達の扱っている物はISだ・・・しかし、その意味を理解していない」
すると鋼牙は太牙を解除し、魔戒剣を抜いた。
「俺やお前達・・・そしてここに居る者全てが扱うのは・・・これだ」
鋼牙は左腕の方を腕まくりし、魔戒剣の刃の部分を肌の露出した腕の付け・・・。
ザシュッ!
「「なっ!?」」
「「「「「「「「「「えっ・・・・」」」」」」」」」」
「冴島!!」
「鋼牙兄さま!!」
「鋼牙!?」
肉を切る音が辺りに響いた・・・鋼牙は自らの腕を斬りつけたのだ。
鋼牙の自ら切った腕からは、紅い血が滴り落ち、鋼牙の足元を少しずつ紅く染めた。
しかし鋼牙は傷を押さえようとはせず、静かに鈴とセシリアに見える様にと前に突き出した。
「お前達が扱っているのはこれと同じだ・・・誰かを傷付け、命を奪いかねない力・・・兵器だ!」
鋼牙の声がグラウンドにだけではなく、その場にいた生徒達全員の心に響く。
「それをお前達は無抵抗な相手に使った・・・明確な怒気を抱いてな」
「そっ・・・それは・・・」
「言い訳など意味が無い、どんな理由があるにせよ、お前達はそれをした・・・国より認められ、
その力を授かりし者としての立場を持ちながらな」
「うっ・・・」
「セシリア・オルコット、凰鈴音・・・お前達は各国の代表候補生だ、お前達の行動1つで国にどれだけの被害を与えかねない」
「「・・・・・・・・」」
「それを理解していないのなら・・・お前達にISを持つ資格は無い!!」
「「っ!!」」
鋼牙の言葉に鈴とセシリアは何も言い返せなかった。
鋼牙の言葉を聞くまで、ISが人の命を奪う事の出来る兵器である事を忘れていたからだ。
ISには絶対防御やシールドバリア等の機能があり、それによって操縦者の命は大幅に守られてはいるが、
それも“絶対”ではない・・・兵器を扱って戦う限り・・・。
「冴島・・・お前の言いたい事は分かった・・・しかし、これは私達教師の仕事だ、お前がそこまでする事は無い」
「織斑先生・・・以前もこの様な事があったと聞きましたが?」
「あぁ・・・その時も注意はしたのにな・・・まったく頭に血が上りやすい馬鹿共ばかりで困る」
「今後こんな事が無い様に・・・お願いします・・・何よりも彼女達の為にも」
「「あっ・・・」」
「あぁ・・・それより腕は大丈夫か?」
「この程度なら問題ありません・・・ご心配をお掛けしました」
「早く医務室に行って治して来い、そして問題が無かったらそのまま授業にもどれ」
「はい」
鋼牙は腕を押さえ医務室へと向かおうとその場を離れようとする。
「鋼牙兄さま!!」
「ラウラ・・・」
そんな鋼牙のもとに、ラウラが慌ててやって走って来た。
「鋼牙兄さま!腕は大丈夫なのですか?」
「大丈夫だ・・・皮膚を少し切っただけだ」
「よかった・・・ですが・・・」
「ん?」
「何故あのような事を?」
「あの2人・・・いや、此処に居る者全てにとって必要な事だったからだ」
「それは先程のきょ・・・織斑先生との会話でお分かりですが・・・何も自分の腕を傷付けるなんて」
『ラウラ、それが鋼牙って人間なんだ』
「ザルバ?」
『本当に大切な事、必要な事、やるべき事、守るべき事はどんな事をしてでもする・・・それがお前の兄、冴島鋼牙だ』
「・・・・・」
『だがな鋼牙・・・1つだけ俺様も感心できない事がある』
ザルバの口調が、何時になく真剣な物となった。
「・・・分かっている」
鋼牙も静かにだが答える。
『なら良いが・・・その剣はお前自身を傷付ける為に“あいつ”から受け継いだんじゃないぞ』
「・・・・・・」
「鋼牙兄さま?」
その時の鋼牙の表情は、悲しみを宿している様にラウラは思えた。
「冴島鋼牙さん!!」
自分の名を呼ぶ声に鋼牙は静かに振り向く。
その視線の先にはセシリアと鈴が立っていた。
「何だ?」
「先程の事で・・・確かに私達のした事は、代表候補生以前にISを扱う者として軽率で、愚かな事でした」
「それに気付かせてくれた事について・・・アンタには感謝している・・・でもね!」
「私達にも代表候補生として選ばれた誇りがありますの」
「だから・・・アンタに決闘を申し込むわ!!」
鈴の決闘と言う言葉に全員がざわめく。
「鈴!!セシリア!!お前達何を!?」
「確かに無礼である事は承知ですわ・・・」
「それでも遣らないと気が済まない事もあるのよ!」
(いや・・・気持ちは分からんでもないが・・・無謀じゃないだろうか?)
鋼牙と一戦交えたラウラだからこそ分かる。
例えこのセシリアと鈴が2人掛りでも鋼牙には勝てないと。
「・・・いいだろう、その決闘受けよう」
「鋼牙兄さま!?」
『如何言うつもりだ?』
ラウラとザルバは、この決闘が意味あるものとは思えなかった。
この決闘に勝とうが負けようが鋼牙にとって何のメリットもデメリットも無い、向こうからの一方的な決闘。
無駄な決闘。
普段の鋼牙ならこの様な無駄な決闘はさけようとするが、その決闘あえて受けたのだった。
「ただし条件がある」
「何よ?」
鋼牙は決闘を受けるにあたってある条件を出した、それは・・・。
「一夏も加えろ」
「俺?」
鋼牙の示した条件を聞いて殆どの者が納得した、2対2のフェアな条件で戦う為に一夏を加えたのだと・・・誰もが思った。
「まあ・・・一夏さんが良ければ・・・」
「だとさ・・・如何する織斑?私は経験の少ない未熟者が少しは成長できればと思えるので別に構わんのだが」
「う~~~~ん・・・分かった俺もやるよ、もっと経験を積まなくちゃいけないからな」
「よし!2対2でフェアになるわね・・・」
「違う」
「「「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」」」
「如何言う事ですの?」
「一夏を加えるのは俺じゃない、お前達の方に、つまり3対1で戦う・・・これが条件だ」
「「なっ!?」」
「へっ!?」
「「「「「「「「「「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」」」」」」」」」」
何と鋼牙が出した条件とは一夏を鈴とセシリアの方に加え、3対1で戦うと言う条件であった。
「それに交代性ではなく、3人纏めてかかって来い」
「「「いっ!?」」」
「「「「「「「「「「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」」」」」」」」」」
鋼牙の条件はフェアやハンディ等、自分が優位に立つ為の物ではなく、不利になる為の様な条件に、
その場にいた全員が驚愕する。
「ふっ・・・ふざけないでよ!!アンタ私達をなめているの!?」
「そうですわ!!確かにアナタの腕前は認めますわ・・・ですがそれでも3対1で戦うなんて・・・私達を侮辱するにも程が有りますわ!!」
しかしその条件に自分達が弱者と思われている様に感じ、鈴とセシリアは怒りを露わにした。
「別にお前達をなめている訳でも、侮辱するつもりも無い、必要性があるからこの条件にしたまでだ」
「何なのよその必要性ってのは!?」
「それは戦いの中で、自分達で見つけ出せ・・・俺は医務室へ行く」
それだけ言い残し鋼牙はグラウンドから出て行ったのだった。
「くっ・・・鈴さん!一夏さん!この決闘必ず勝ちますわよ!!」
「えぇっ!!私達の力を見せてやりましょう!!」
「・・・・・・まあ・・・・頑張ってみるよ・・・」
「「「一夏(さん)!!」」」
鈴とセシリア2人の迫力と怒気にあてられ、控えめな発言をした一夏に鈴とセシリア、それと何故か箒も加わり一夏を責め立てた。
「一夏さんは悔しくありませんの!?」
「アイツ私達を3人で一人前みたいな事言ったのよ!!」
「それでも男か!?あんな事を言われといて殴り掛かろうと言う気すら起きないとは情けないぞ!!」
「いやいや・・・実際俺より鋼牙の方がISの扱いが上手いし・・・てか何で箒まで加わってんだよ!?」
「男がそんな事で如何する!!」
「俺の質問無視!?」
如何やら箒も、鋼牙が一夏は弱いと思っていると感じたのであろう。
だが一夏の肯定するような発言に激しく喝を入れようとした。
「勝て!!必ず勝て!!勝ってアイツにお前の強さを見せてやれ!!」
「アイツの鼻っ柱折ってやる!!」
「私達の実力見せてやりましょう!!」
「おっ・・・おぉ・・・・」
「「「声が小さい(ですわ)!!」」」
「はっハイ!!」
「・・・如何なるんだろう?」
「さあ・・・だが・・・」
「何?」
「ワンサイドゲームにならなければ良いが・・・鋼牙兄さまによる・・・」
「・・・あれを見るとそれも可能な気がして仕方ないよ・・・」
「不憫だな・・・」
「うん・・・」
「「「絶対に勝つぞ!!エイ、エイ、オーーーーーーーーーーーーー!!」」」
「おっ・・おーー・・・」
はたして・・・この戦いは“戦い”になるのだろうか?
「あの・・・助けてくださ~~~~~い・・・お尻が挟まって抜け出せませ~~~~~ん」
「「「「「「あっ・・・忘れてた・・・」」」」」」
「ふえ~~~~~~ん・・・・」
・・・哀れ。
牙狼~INFINITE SENKI~
次回予告
自分より強い相手との戦いは得るものが多い、
自分の未熟差、足りないものを知り、
より自身を高みへと上がる為の糧となる、
そして相手を倒した時・・・。
次回『乱入』
おいおい・・・若い戦士達の成長の邪魔をするのは何処のどいつだ?