「暇だ」
前にもこんな展開があった気はするが今はいいだろう。
俺達は今普久間島リゾートにて、バカンスを楽しんでいる、ように見している。
だが実際は殺せんせーを殺す為の仕掛けやら準備やらを着実と進めている訳なのだが、俺はそれに参加していない。
別にはぶられたんじゃないよ? うん、きっとそう。
とまあそういう事で俺は何かすることもなくこうして先程サービスとして頂いたトロピカルジュースを飲みながら海を眺めている訳だ。
「今日は平和だなあ」
そもそもここに来る理由は勉強の為なんだけどな、皆んな勉強するどころか今日暗殺成功しなくともバカンスするつもりだ。
勉強しましょうみなさん、来年には受験が控えてます。
「律さんや」
『はい、何でしょう?』
俺の呼び掛けに答えてケータイの姿を現したモバイル律は水着姿である。
うん、竹林辺りが喜びそうだ。
「今回の暗殺計画の成功率は高い方?」
『まだわかりません』
「うーん……」
『どうかしましたか?』
「いや、何もないんだ」
何でか知らないが妙に胸騒ぎがする。
その嫌な感が、夢の真相が、ここに来ないように、なんて思いを込める今日この頃。
『
「!?」
脳に直接響くような妖艶な声は聞き覚えがあって、俺は腰に手を当ててしまった。
あるはずも無いのに、何で……
夜が来た。
ディナーが終わり、とうとう殺せんせー暗殺が開始される間もない時間。
俺は殺せんせーの色んな事を流している小屋と陸をつなぐ橋の前あたりで座り込んでいる。
そろそろ映像も終わり、暗殺が始まる。殺れるにしろ殺れないにしろ、この結果はこれからの彼等の行動を大きく左右する物になることだろう。
空は今日も三日月、本当ならば黄金に輝く丸い月が綺麗に夜空を照らしていたことだろう。
『また見たい? 満月が』
「……神在月」
「ふふふ、やっと呼んでくれた」
今度は直に、耳元でその妖艶な声が俺に呟きかける
白い生地でできたシンプルなワンピースを身に纏い、その黒い髪は暗闇よりも黒く、片方の目は月の様に輝き、片方の目は血の様に赤く染まっている。
「待っているわマスター、私は貴方の刃だから」
少女の声が告げた言葉がどういう意味を指すか、容易に想像できる。
この後か、少なくともこの普久間島にいる内に、もう一度確実に会う、そしてその時俺は戦うことになるだろう。
月を眺めている内に遠いところから何かが壊れた音が聞こえた。
もう始まったのか、そう思いながら目を真っ直ぐ前に向けると小屋の壁が破壊されていた。
小屋だった場所には触手を失った殺せんせーと7人の生徒。
そこにフライボードで作り上げる水圧の結界が張られ、中で敢えて当たらない弾幕の嵐による逃げ道の消失。
最後、山に置いたダミーにより居場所を眩ませていた速水、千葉による狙撃。
絶好のチャンス、水が彼等の存在をかき消している今、殺せんせーは彼等二人を捉えられていない。
勝負は決した。
あれから数十分後。
みんなが絶賛休憩中だった。
結果は見事失敗、殺せんせーの奥の手「完全防御形態」とやらを発動させ、何もかもを弾き返し、見事殺せんせーは生き残った。
殺せんせーは皆んなの事を褒めてはいたが、何よりも彼等の心に残ったのは渾身の刃が届かなかったショックだけ。
それにしても数人ほど様子がおかしい。
顔が妙に赤いし汗を掻いている。さっきの作戦はそんな激しい運動はしていないはずなのに……嫌な予感がする
「ごめん神崎さん」
彼女に先に謝って俺は額に手を当てた。
熱い、確実に高熱だ。何で今更熱なんて。
「神崎さん、立てる?」
聞けば彼女は弱々しく頷いて立ち上がろうとした。
けれどそれは失敗して、足元から崩れ彼女は倒れた。
それに続く様に、次々と倒れていくクラスメート、中に症状が酷い人間もいる。
こんなの、明らかに不自然だ。
「くそっ!」
完全防御形態である殺せんせーを机に叩きつける烏間先生はとても焦っている。
まさかこれは、誰かの狙い? 俺たちだけに向けられた悪意だという事か?
くそっ! 数人だけにかかったとするならばこれはウィルス、何かに盛られたものを体内に入れたせいで起こった熱という事か!
「殺せんせー、先に行っていて下さい、俺は用があります」
どうせ要求は殺せんせー、先の電話での内容なんて知ったことではないが、あの先生のことだから必ず倒しに行くことだろう。
その辺の情報は後で律にもらうとして、俺はまず得ないといけない情報がある。
休憩所を出てすぐの曲がり角を曲がったあたりでケータイを取り出した。
電話帳を確認し、ある名前をタップ、ワンコールで出た人物に、俺は問いかけた。
「先生、聞きたいことがあります」