「え?!」
雫は口を開けたまま立ち尽くしていた。七里は頭をガードレールにぶつけ、ゴリッっという嫌な音が響く。
「救急車!!」
「早く誰か!!」
通行人たちが叫びながら救急車を呼んでいた。
「なんで?… 七里…」
七里の回りには血だまりが出来ており、知識がない雫にも助かる可能性が少ないのはわかった。
その日、雫は学校を休んだ。
そして夜になる。雫はどうしてもあの黒い霧に会いたかった。聞きたかった。なぜ貴方は七里を殺したのか。雫ゆっくりと目を閉じた。
どれくらい時間が過ぎたかわからない。雫はまた金縛りに襲われ目が覚めた。この前と同じように目の前に黒い霧がいる。雫は前もってつけていた針で指を突いた。動かない手を無理やり動かしたせいなのか、かなりふかくまで刺さったようだ。痛みを我慢しながら指を動かしてみた。雫の予想どうり、金縛りが解けていた。
黒い霧が少しずつ近づいてくる。雫はタイミングを見計らって、黒い霧に飛びかかった。
「!!っ」
雫は黒い霧をつかんだまま床に倒れた。その体は少し暖かかった。
「あっ 貴方のせ――」
「ゴメン…」
雫の言葉を遮る形で、黒い霧が言った。雫は黒い霧が泣いているとわかった。涙や泣き声があるわけではないが、なぜか泣いていると思った。自分のなかの怒りや憎しみが抜けていくのを雫はゆっくりと感じた。それと同時に黒い霧と七里への罪悪感がこみ上げてくる。
「アナタヲマモリタカッタ……。シナセタクナカッタ……。デモ、トモダチヲマモレナカッタ。ゴメン……」
「……貴方のせいじゃないよ。貴方は私を守ってくれた。感謝してる。」
雫は黒い霧を放してソファーに座った。ふと気づいたように指を見る。針は人差し指の先に刺さっていた。
「……悪いのは私。七里は私と絡んだから死んだんだ。全部私が悪いんだ。」
針を抜きながら言う。抜いた場所から少し血が出る。深く刺さったからなのか、血が止まらない。
ガタガタ
黒い霧は雫の横にあるタンスを開けた。中からばんそうこうをだす。
「――?」
何かを言いながらばんそうこうを雫に差し出す。何を言ってるのかは聞こえなかったが、雫は「ありがと。貴方優しいんだね」と言った。
「アナタハシンデハイケナイ。コッチニキテハイケナイ。」
そう言って黒い霧は消えた。それと同時に朝日がカーテン越しに雫の部屋に射し込む。
「……学校の準備でもするかな。」
じゃあ、プリン。逝ってきま~す。
しばらくして雫は目覚めた。体を起こすと、そこは知らない部屋の知らないベッドの上だった。雫は自分の記憶を確かめる。たしか学校に行くために家を出たような気がするのだが、はっきりしない。なぜか全てが夢のようにぼんやりしている。
「気分はどう? 吐き気とかない?」
突然声をかけられたので雫はビクッと震え、恐る恐る声がした方に振り返った。そこには少女が立っていた。背中の辺りまで伸ばした金髪が、ふわりと揺れている。
「大丈夫です。」
すると少女はニッコリとして「よかった~」と言った。
「僕の名前はリズ。リズ・ソルティリア。」
「リズ… リズちゃんはここに一人で暮らしているの?」
雫の質問にリズは
「そうだよ? まず始めにさ。君は僕のことを女の子だと思っているでしょ?」
雫はきょとんとした。リズの見た目はどうみても女の子だ。声も高いし背も高くない。雫と同じくらいだ。
「やっぱりね~。 僕は男だよ? まぁ 毎回見間違われるから、慣れてるよ」
「本当に男の子?! 嘘でしょ?」
雫が声を出して驚いたのて、リズはタンスの中から黒い紐を取り出してきた。
「こうしたら少しは男に見える?」
と言いながら、長い髪を首の後ろで結ぶ。
「……まったく変わりません。やっぱり女の子に見える。」
これが雫の正直な感想だ。リズはガッカリしながら「だよね~」と肩を落とす。そんなリズを見ながら雫は急に真面目な顔になって
「リズちゃん。ここはどこ? 私は学校に行こうとしていたはずだけど」と言った。するとリズも真面目な顔になった。
「雫ちゃん。今から言うことは全て本当のことだからね。本当に聞きたいの?」
リズからの質問に雫は少しの間答えれなかった。怖かったからだ。こんな場所にいる以上、自分の身になにかが起こったことは確実だ。聞いてしまったらもう戻れない気もした。
「やめとく? そっちの方がいいと僕は思うな。」リズが言う。雫は下を見たまま動かない。
時間がたった。それは数分とも数時間かもわからない時間だった。
「…私さ…怖いよ。 この前も変なことがあったし…。 全て繋がっている気がして…」
雫が顔をあげる。その顔には不安の色はなかった。
「でも、知らなきゃダメなんだ。これからのためにも、これまでのためにも。だから教えて? 私に何が起こったのか!!」
それを聞いたリズは一瞬だけニッコリとしてから「それを雫ちゃんが望むなら、僕は教えなきゃイケナイね。」と真面目な顔になる。
「ここは現実と仮想の間の世界。人間が天国と呼ぶ世界。雫ちゃんは……現実の世界で……」
「死んだんだよ」