無限の空を翔ける者と、夜闇を渡る魔法使い 作:Xi_GR648
その冒頭部分の2話目になります。
アンゼロットの話はごく単純なことだった。
今回転生した世界は、前回転生した彼女の守護する主八界のひとつにして第8世界「ファー・ジ・アース」やそれより前に転生した「ブルースフィア」とか「エリンディル」、「ニューロエイジ」とか「宇宙世紀」だの「バイストン・ウェル」などとは全く別の世界線における地球だ。魔法の忘れ去られたこの現代文明社会には当然のように世界結界が構築されており、普通であれば魔法をはじめとする各種特殊能力は使えないという。
以前の人生で所持していたアイテムを引き継いでいるっぽいのは、所謂「世界の意思」という奴らしい。ご都合主義にも程があるが、こっちとしてはありがたいので文句は言わない事にする。
アンゼロットがこっちに連絡をしてきたのは、世界の守護者としての能力から、彼女の管轄外の世界とは言え俺がウィザードとしての能力に覚醒した事を察知したので、俺のいる世界に到達したエミュレイターがいた場合の討伐と万が一の事態(ぶっちゃけ世界滅亡の危機)の際の対処要員として動くように依頼することにしたからだという。
「あれ、この世界の守護者って……」
「禁則事項です」
「えっ」
「禁則事項です」
浮かんだ疑問点をたった一言で封殺されるが、多分コレは深く突っ込んだら存在そのものが消される話だろう。世の中そういう事もある、と思い俺はそれ以上考えるのをやめた。
ただ言えるのは、ファー・ジ・アースのエネミーであるエミュレイターが他所の世界(例えばミッドガルドと呼ばれる世界とか)に攻め込んだ際被害が大惨事になりそうだったが、「下がる男」の異名を持つ某魔剣使いの活躍もあってなんとかなったという前例を活かしたアンゼロットならではの判断という事だ。……この世界、世界結界があるんだからその心配は杞憂なのではないかと思わなくもないのだが。
「その世界結界も絶対ではないのはこちらの世界を見れば分かりましょう。それに情報化社会の進展と共に世界結界の効力が弱まっていくという説もあります。ですから今のうちから備えておくのは悪くないことだと思いませんか?」
「その判断は世界の守護者としては良いでしょうし依頼を引き受けるのも構わないんですが、たった今家なき子になった身の上だし武器や消耗品の補給をはじめとした各種バックアップなしじゃどうにもなりませんぜ? 前世はともかく今の俺はしがない7歳児ですし」
7歳児が瓦礫の下敷きになりながら大人びた口調でスマホを使って話すというのもシュールな話だが、これでも一応現実だ。
それはさておき、通話しながら月衣と呼ばれる物品収納用の特殊結界の中に意識を向けると、格納されているアイテムの一覧が脳内に浮かぶ。相変わらずゲームのステータスシートみたいだ、などと思いつつ中身をざっと確認するとそこには武器防具どころか日用品まで今までの前世で所持していたあらゆる物が収納されていた。
武器に関しては一番最初の転生の時からずっと相棒である切れ味抜群な太刀とか直前の人生で射撃攻撃兼移動手段として入手しゴリゴリにカスタムしまくったガンナーズブルーム(全長約2mの近未来系デザインをしたロングライフル状の射撃武器)とかがあったので問題なかった。防具は……魔力の込められた衣服やら魔法金属製のショルダーアーマーやらBKシリーズと呼ばれていた兵器等直前の前世で使っていたモノが一通りだけでなく、何回か前の転生時の愛機である様々な規格の巨大人型兵器(殆どが宇宙空間戦闘対応で一部は大気圏内での飛行可能、但し大破状態で現状では部品取りにしか使えない)に加えて専用パイロットスーツまであったが、今の身体は7歳児なのでサイズがお察しだ。
そしてそれよりも問題なのは回復薬や弾薬をはじめとする各種消耗品だ。ある程度はストックがあるがこちらでは売っていないファンタジーな代物だし、そんなアイテムを作成する特技を俺は持っていない。
「人員は現状、こちらも手一杯なので動かす事は出来ません。しばらくは1人で頑張ってください」
「オイ」
「ですが、物資に関してはオクタヘドロン経由でどうにかなりますので心配は無用かと」
「あー、あそこのエージェントか何かが実はこっちにもいてそっちとの交易ルートも確保済み、と?」
「その通りです」
オクタヘドロン。
ある世界の物品を別の世界に持込んで販売し、その世界の物品をまた別の世界へ持ちだして販売するという他世界間貿易商人の組織だ。文字通り世界を股にかける彼らは武器や薬品だけでなく生活雑貨類まで幅広く取り扱う。異世界の材質・製法で作られた商品はあちこちで引く手あまたらしい。
ただ、この世界は彼らが主に活動する主八界から離れている都合上、補給物資の輸送は一定周期でしか出来ないとのことだったが、まったく無いよりは遥かにマシである。
「補給の件はそれで良いとして、報酬の件なんですが」
「無償の奉仕って良い響きだと思いませんか?」
「待てやコラ」
アンゼロットに至上の忠誠を捧げるロンギヌスの隊員ならともかく、こっちは異世界に島流し同然のしがないフリーのウィザードだ。固定の収入がないのはまだ仕方がないにしても、異世界でたった一人でエミュレイターに対処させた挙句、月匣内で取得した物品は没収となるとふざけているにも程があるし、せめてこちらが入手したものは最低限こちらのものにしてもらわないと困る。そんな訳でその辺についてはきっちりと交渉させてもらった。電話口から舌打ちの音が聞こえたのは気のせいだろう、多分。
「それでは、貴方の異世界での活躍を期待しておりますわ」
通話の切れた0-Phoneを月衣に収納し、改めて首と目線だけで周囲を見回す。そこには消防車の放水により濡れた二世帯住宅「だったもの」が積み重なり視界を遮っていた。
何もかもが使いものにならない。お気に入りのゲームも面白かった漫画の単行本もなくなってしまったし、テレビも見られない。楽しみにしていた誕生日プレゼントも誕生日ケーキも、祖父母も両親も何もかもが無くなってしまった。
にも関わらず涙も出なかったし何の感慨も湧かなかった。きっと死体を目の当たりにしなかったお陰と、前世の記憶が蘇った影響で急激に精神が大人になった上に、その精神も人の命が軽い世界への度重なる転生の果てにある程度スれているからだろう。
どうしてこうなったのか、誰がこういう事を仕組んだのか。
プレゼントは確かに祖父の名前で発注したものだったが、祖父にこんな心中じみた真似をする動機は思い浮かばない。であれば、流通のどこかの段階で誰かがプレゼントをすり替えたと見るのが妥当だが、記憶が戻る前の自分自身はごく普通の小学生だったはずだし、祖父母の代からヒラの地方公務員一家だった事を鑑みるとどこからの因縁なのか分からない。
ただ1つだけ確実に言えるのは、この世の誰かが俺の家族を殺した、ということである。
「取り敢えず……社会的な身分を考えると動きようもないな」
もし生きているのがバレたら色々と厄介で面倒くさい事になるのは間違いないが、このままここから逃げた所で面倒な事になるは変わらない。今はこの場で待つしか手がない。幸いなことに、月衣のおかげで日本国内であれば寒空の下で一晩過ごしていても風邪を引くことはない。
「明日以降はこっちに来ているエミュレイターを狩るのは当然として……あとは余裕があったら俺に爆弾を送りつけやがった犯人探してみるか。こっちを狙った理由次第では一族郎党全殺しにしてやろう、うん」
そうして、そのまま。
満天の星空の下、前世の記憶が怒涛の勢いで蘇った影響で頭が痛い俺は、かつて家だった瓦礫に埋もれたまま意識を手放すのだった。
オリ主簡易データ(導入時点)
※「ナイトウィザード3rd」及びその追加ルールブック準拠で作成
名前:更識 恵治(さらしき けいじ)
種族:生物学的には人間だと思われる
性別:男
出自:天涯孤独
目的:サバイバル
邂逅:個人/アンゼロット(ビジネス)
邂逅:団体/オクタヘドロン(ビジネス)
第1印象:ミステリアス
性格:自分的には用心深いつもりだが、他人からは傍若無人に思われている
クラス:転生者/侍(他に「大いなる者」「箒機士」「魔銃使い」を経由)
CL:世界の守護者にはなれない程度にチート
属性:冥/火
その他:転生に伴い前世のデータに対しリビルド適用、取得特技や所持アイテムについては省略
筆者はナイトウィザード3rd未プレイ&リプレイ未読なので御了承下さい
月匣について「ウィザードが月匣を構築した場合青い月を伴う」というような感じの説明文をどこかで見掛けた覚えがあるのですが、再度確認しようとしてルルブを当たった所見つからず現在捜索中です。
ご存知の方は該当箇所を教えてくださると助かります。