無限の空を翔ける者と、夜闇を渡る魔法使い   作:Xi_GR648

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原作開始前 IS適性検査と紅い月(下)

 月衣の中からガンナーズブルームを取り出し、衣服は戦闘用の防具とそのまま入れ替える。

 防具は服にマント付き肩当て(ミスリルというファンタジー素材製)と金属製のブレストプレート、紅のベレー帽(魔力が込められた特注品)、伊達眼鏡(Evil-EYEという液晶モニター)だ。服はファー・ジ・アースの守護者であるアンゼロット直属の特殊部隊通称「ロンギヌス」の戦闘用制服を模しているパチモノ、とはいえ元々は呪錬制服と呼ばれるウィザード垂涎の一級品なので防御力は高い。

 

 このターミナルビル、本来は屋外の階段を使えば地上にあるバスターミナルから直接屋上展望台以外の各階に行けるのだが、その階段部分に透明な壁があるようで行く手を阻まれている。おそらくルーラーは1階正面入り口からしか内部に入られないように設定しているのだろう。

 

 ガンナーズブルームを油断なく構え、1階玄関より中に入る。エントランスロビーに入ってすぐの所に特殊警棒を持った警備員が3人。

 

 言うまでのないことだが、ここは紅い月が昇る月匣の中。ウィザード以外の人間は完全に無力化し目の前で起きたことを認識すらできない状態になっているはずだ。ならば俺という侵入者に反応を示し、こちらに向かって来ようとしている彼らは何なのだろうか。

 答えは簡単、エミュレイターに取り憑かれた人間だ。オカルト的に言えば霊に乗っ取られているとかそんな感じの。

 

 複数相手であれば纏めて倒すのがセオリーという訳で、接近される前に先手を取って警備員の3人全員に向かって狙い澄ました魔力弾の一撃を叩き込むと、あっさり崩れ落ちた。一応殺さない程度の手心は加えているが相手は敵だ、戦闘不能になるまでは油断はしない。

 

「ここはあっさり片付いたか」

 

 いつでも攻撃を再開できるよう残心し、敵が動かないと確信してから一息つく。

 月匣内部でのエミュレイター相手の戦闘は常に緊張を強いられる。外であれば物理攻撃は戦車の主砲だろうが貨物トラックの轢殺アタックだろうが核爆発だろうが、エミュレイターやウィザードの攻撃でない限りは月衣の力で無効化できるが、ココではそうは行かない。攻撃を喰らえば痛いし怪我もするし、場合によっては前世での様々な経験同様にあっさり死ぬ。どれだけ経験を積んでも、どれだけチートな能力や装備があっても、だ。慢心ダメ絶対。

 

 気を引き締め直し、ガンナーズブルームに搭乗する。このまま空中を飛んでいれば地雷や落とし穴といった床に仕掛けられた罠の大半にはかからずに済むだろう。

 

 正面にあるエレベーターとエスカレーターを見て、どちらに行くべきか考える。ここのルーラー(月匣を構築した奴)が待ち受けるとすれば、セオリー通りなら4階のホールだろうが必ずしもそうとは限らない。そもそもエレベーターが使えるとも限らない。なので素直にエスカレーターの方から2階へ上がる。

 

 2階のホールはがらんとした無人だった。このフロアには入国管理窓口があるのだが特に人や人以外の気配は感じられない。

 ふよふよと宙に浮きながら移動しているが、窓の外から紅い月が見えるだけだ。やはり異状は感じられない。売店の棚に何故かMPポーションが置いてあっていた程度だ。罠がないか調べてみたが、特に仕掛けられていなかったので回収、そのまま月衣の中にしまう。

 

 2階の探索を終え、屋内の階段から3階へ上がる。なお3階は屋外展望デッキになっているが、別の世界線では日曜朝の特撮番組の撮影に使われていた所だ。

 外に出たが、何も変わったところはないし相変わらず人っ子一人いない。海のすぐ傍だけあって潮風が心地よい程度である。中ボスもいなさそうだし、屋外の階段はやっぱり使えなかったので来た通路を戻り中へ。

 

「これはエレベーターで4階に行かなきゃダメか……はぁ」

 

 2階からもエレベーターには乗れるので昇降ボタンを押し、待つことしばし。チャイムの音と同時に扉が開いた。流石にガンナーズブルームに乗ったままではエレベーターは利用できないので、罠の気配がないことを確認してから地面に降り中に入る。開閉ボタンを押した後、4階へ。

 

 4階へ着いたのでエレベーターから降り、地に足をつけガンナーズブルームを構え、イベントホールへの入り口を見据える。入口のドアは閉じられていて中は一見できない。ドアに近付いてみたが開く気配がないことから、自動で開くものではないようだ。

 手早く罠の有無を調査する。どうやら鍵が掛かっているみたいだが、他には罠はないみたいだ。

 そしてこういう時の為に覚えたキャントリップ、所謂生活魔術がある。その中にはワンアクションで鍵を解除するものもあるのだ。早速発動させると、見事に鍵は解除された。

 

 鍵を解除した後、ドアを開けてホールの中に入る。

 

「あれは……?」

 

 ホールの中央には周辺にある何かの計測機器に繋がれた低めの台座が有る。台座の上には鎧のような何かが置いてあり、その傍らにはスーツを着た女性が1人と、1階のエントランスにいたのと同じ警備員が2人。そしてホールの壁際にはプラーナを消滅寸前程度まで吸収され虚脱状態のイノセントと思しき男性達数人が纏められている。どうやら、スーツの女が今回のルーラーみたいだ。

 ガンナーズブルームを隙なく構え、銃口を女性に向ける。

 

「適性検査受けに来たんですけど、受付はまだ大丈夫ですかね?」

「ええ大丈夫ですよ。でも意外ね、まだ適性試験を受けていなかった男がいたなんて」

「今この瞬間にも男の子がどこかで生まれてるんだ、適性があるかわかっていない男なんてどこかにいるさ」

「そうね、思い込みは良くなかったわ。もっとも、残念ながら今まで検査を受けた男の中にこれを使える人はいなかったけど」

「で、自分が2人目じゃないかと思ってここに来た人間をそのまま月匣に取り込んでいたわけか」

「ええそうよ。だって自分からノコノコ捕らわれに来るんだもの、その方が効率良いじゃない。」

 

 女がニィ、と嗤う。

 

「所詮男なんて私達女の餌程度にしか役に立てないんだもの、私の餌になれるだけ光栄に思うことね」

「そうか、そいつは光栄だな。だが俺は真っ平御免だ、失せろ下衆」

「男風情が良く言うわね、これ以上減らず口をきけないようにしてあげるわ!」

 

 女が台座上の鎧っぽい代物に触れると一瞬でIS、それも確か日本国産の打鉄というタイプの奴が展開・装着された。その手にはIS用のアサルトライフル。それが容赦なくこちらに向けられ弾丸が発射される。

 頭、胸、腹と的確に人体急所を狙ってきているが、その分弾道は読みやすい。体捌きによる最小限の回避行動で迫り来る敵の弾丸を躱す。

 お返しということで、銃身部に収納されていたコッキングレバーを引き出しスライドさせ、魔力水晶弾と呼ばれる特殊なエネルギーカートリッジを装填。更に銃身を横薙ぎに動かしつつ、警備員と打鉄に向かってほぼ同時に連続射撃。連射された魔力弾が警備員2人を吹き飛ばして戦闘不能に追い込む。打鉄の方は装甲のお陰か操縦者の腕か、はたまた着弾位置がたまたま頑丈なところだったのか、大したダメージは受けていないみたいだ。

 

「ふん、ISのシールドバリアの前にはあらゆる攻撃は効かないのよ……消し飛べ!」

 

 更にライフルによる射撃が来るが、当たらなければどうということはない。但し当たったら死ぬし、死にたくないので頑張る。横っ飛びで回避を試みるがそれだけでは間に合いそうもないので、ガンナーズブルームで応射。飛来する弾丸を叩き落とす。

 弾丸を全て凌ぎきった後、再びコッキングして魔力水晶弾を装填。素早く打鉄に狙いを付け直して反撃。

 

「っ!?」

 

 放たれた弾丸は見事に女の鳩尾付近に直撃。着弾の衝撃で打鉄が解除され床に投げ出された女は息が詰まったのか腹を押さえて悶絶している。

 

「シ、シールドエネルギーの残量が一瞬で……貴様、一体何をした!?」

「さぁ? 俺男だから無敵のISの事なんてわかんねーし」

 

 そう言って嘲笑いながらコッキング1回、マガジンにある最後の魔力水晶弾を装填する。実はこっちの攻撃が通る理屈の仮説はあるのだが、わざわざ教えてやる義理はない。

 

「ま、大人しく消し飛べエミュレイター」

 

 相手の顔面に狙いを定め、ガンナーズブルームのバースト機能を起動させてから引き金を引く。相手はつたない体捌きで回避を試みるが、放たれた3発の魔力弾はそのまま相手を追尾する。

 

「な!? 偏向射撃とでもいうの!?」

 

 魔力弾は3発とも驚愕に染まった顔を左右と下側から見事に打ち抜く。喰らった女は見事に宙を飛びホールの奥の方に頭から墜落した。所謂「車田落ち」という奴だ。

 動かない女性を一瞥し、戦闘終了と見て伊達眼鏡代わりのEvil-EYEを除いた武器防具を月衣に収納し、人里を彷徨く際の普通の服装になる。

 エミュレイターを排除したことで紅い月ももう消えているだろうし、これにて一件落着だ。月匣が解除されたことで戦闘があったなんて事実は(車田落ちした女とその傍らのISを除き)一切残されていない。

 

「しっかし、真正面からパワードスーツ相手はサイズ差もあって心理的にしんどいなぁ。」

 

 エミュレイターへ対抗するために箒の開発も日進月歩、今では鎧や盾といった防具型の箒もある。また、大分古い型式だがちょうどこのISみたいな(とは言え露出部はなく頭の天辺から爪先までしっかりと全身を防御してくれる)兵器型と呼ばれるタイプの箒も俺の月衣の中にはあるので、久しぶりに使っても良いのかもしれない。あるいはオクタヘドロン経由で売り払えば良い臨時収入なるであろうこの打鉄をそのまま貰い受けて、自分用の兵器箒として使うのもありか。

 そんな事をつらつらと考えていると、開いたドアの向こう側から足音が聞こえる。それを無視してISを回収するために近づこうと一歩踏み出したら後ろから声をかけられた。

 

「おい、そこのお前。何をしている?」

 

 ちら、と見るとスーツ姿の女性がいつの間にかいた。割と若いがツリ目気味で凛とした雰囲気の美人だ。誰かは知らないが、おそらく検査の関係者だろう。さて何と言い訳すれば穏便に事が済むか。

 

「関係者の方ですか? 俺も検査を受けに来たのですが、会場内に入ったらどういう訳かこの有様だったのでどうしようかと途方に暮れていたところなんですよ」

 

 女性の方を向きながら言い、通報しようにも他に人がいなかったですしね、と肩を竦めて更に付け加える。実際そうだったのだから嘘は決して言っていない。

 

「ほう、入り口からここまで監視カメラに一切映る事なく辿り着き、しかも写った時はお前以外の全員が倒れている上に設置されていたISが元あった場所から動いているとは、不思議な事もあるものだな」

 

 ……やっべぇ、この人出来るわ。そう思って内心冷や汗をかきつつ、言葉をつなげる。

 

「へぇ、不思議なものですね。そんなに都合よく監視カメラが故障していたなんて。噂はホントだったんですかね?」

「……どういう意味だ、それは?」

「大したことじゃない。適性検査を受けに行った男は、漏れ無く女尊男卑主義者の手によって物理的に『いなかったことにされる』って話ですよ。ちょうどそこに倒れている人達みたいにね」

 

 大方、検査を受けに来た人間をISの強奪を企んだテロリストか何かに仕立てあげて合法的に始末するつもりなんでしょう、女性権利主義者ってまるで第2次大戦中の某国みたいですよねー、と侮蔑を込めて俺が更に続けると、俺を見る目つきが険しくなる女性。暗に「お前、俺を殺しに来たんだろう? ネタは挙がってるんだよ」と侮辱されれば無理もなかろう。

 事実は先ほど紅い月の向こう側にナイナイしたし、過去にエミュレイターの月匣に取り込まれた被害者達は文字通り「消滅」しているのだが、それは明後日の方向にぶん投げておく。ここで明かしても誰も幸せにならない事実だ。

 

「生憎だが、私は男性IS適合者の「身辺警護」の為にIS学園から派遣された者だ。その私がこの場にいる以上、お前の言うような事態はありえん」

「それは失礼。……で、俺はどうすれば良いんですかね? この状況じゃ検査なんて出来ないみたいだし帰って良いですか?」

「そこで待っていろ」

「了解」

 

 両手を挙げ敵意がないことを示しつつ尋ねたらそんな風に指示を受けた。スマホを取り出しどこかと連絡を取る女性を見つつ手持ち無沙汰に立っていると、気絶していた人間が目を覚ます……車田落ちした打鉄の操縦者以外は。

 そうこうしている内に救護関係者と思しき人達が来て、俺以外は全員連れて行かれた。原因不明とはいえ衰弱して倒れていたのだ、この後健康診断か何かを受ける事になるのだろう。

 なお、車田落ちした女性は俺の攻撃により顔面が不自由になっている上に意識が回復しないので、担架に乗せられて運ばれていった。手持ちのポーション使えば一瞬で治っただろうがそうするだけの時間的猶予はなかったし、そもそもこっちの命を狙ってきた女尊男卑主義者にそこまでしてやる義理はない。

 

 後から分かったことだが、エミュレイターに憑かれたこの女性は女性権利主義団体の中でも過激派に分類される集団に所属しており、男性IS適合者を発見次第速やかに「排除」する任務を負っていたという。エミュレイターに憑かれていた時の記憶はないものの、余罪も色々あるということでめでたく逮捕となったそうだ。

 

 

 必要最小限の人を残してあらかた人が出払い、ガランとしたホール。

 俺と先ほどのスーツの女性の他に、スーツ姿の男性が1人と数人の女性がいる。おそらくこの人達が本来の検査担当官なのだろう。

 打鉄はケーブルで計測機器に接続された台座の上に再度設置され、それぞれの機器の前には検査係が配置されている。

 

「本来はこういったトラブルがあった以上検査を中止するべきだろうけど、今日が検査の最終日だしおそらく君が日本では最後の受検者でね」

 

 パイプ椅子に座り机に向かって書きモノをしている俺に対し、仕立の良い高級スーツ姿が様になる長身で眼鏡を掛け笑顔を浮かべたイケメンの男性が軽い口調で言う。おそらく検査のためにどこかの官公庁、例えば防衛省か警察庁辺りから派遣された人なのだろう。

 

「そう言えば俺、身分証とか無いんですけど良いんですかね?」

「今の時代、悲しいことに身元を証明できる物を持っていない男の人も多いんだよ」

「そうですか」

 

 全国一斉検査を行った当時受検可能だった人は全て検査が終了している。

 ただ、実施当時何らかの事情で受検できなかった人間、例えばその当時海外出張だった人、怪我や病気で入院し身動きが取れなかった人、事故等で行方不明となったり自分から行方をくらませた結果失踪宣告を受けた人や生誕時に届け出すらされなかった捨て子などを漏らさずカバーする為に検査を行っているらしい。但し対象者が極めて少ないと思われるので、告知は官報や都道府県の公報、新聞の記事の片隅にある小さな広告レベル程度で済ませ、検査会場も市街地から隔離されている上に周辺が物々しかったのはある意味当然だったわけだ。

 なお、今日で検査が最後なのは、男性IS適合者は年齢や学歴にもよるがIS学園に強制的に在籍させられる事になっているからなのと、単純に今日が年度末だからだそうだ。

 

 とりあえず記入できる所は全て記入する。名前欄は偽名でも良かったのだが、折角だから今まで名乗る必要性が殆どなかった今生の名前を名乗る事にし、年齢と生年月日も正確なものを記入しておいた。ただ、「わからないところは空欄で構いません」と言われているので、住所欄がひらがな書きなのはご愛嬌。

 

「更識君、ですか……では、そこにあるISに触れて下さい」

 

 スーツの兄ちゃん(おじさんと言うには少々若く見えた)は俺の名前を見て何やら言いたげな表情を一瞬した後、そう告げた。

 このまま装着して脱出すれば問題ないな、と内心思いつつ指示された通りISに触れる。

 瞬間、全身が特撮番組の変身シーンのように一瞬光に包まれた。

 

「き、起動した……だと?」

「まさか、本当にいたなんて」

「判定結果が出ました……え、適性B+、ですって!?」

 

 そのまま打鉄を身に纏い、周囲を確認すると1人を除きその場にいた全員が大騒ぎしている。

 が、そんな事は俺には関係ない。悪いがこのISはこれから売り払う予定なんでな……このまま帰らせてもらおう。

 そう思っていざ飛び立とうとしたら、警告音が耳に入った。

 

 視界の片隅に展開されているAR画面を確認すると、エネルギー残量がほぼゼロだった。先の戦闘の影響で、起動と適性試験のために必要な最小限しかエネルギーが残っていなかったのか、ファック。

 大人しく着地し、膝をついて降りやすい姿勢にしてから打鉄を解除する。

 

「更識だったな、お前の身柄は今この瞬間からIS学園の保護下に入ってもらう。これは日本政府の決定で強制であり、お前に拒否権はない」

 

 ケータイでどこかと連絡するなどして騒いでいる検査官たちを尻目に、警護担当者の例の女性がこちらに近付きそう宣言しする。

 

「さいですか」

 

 近づかれた分、こっちはさり気なく間合いを取る。

 

「意外に落ち着いているな、他の検査会場の様子からお前くらいの年代の奴らはもっとはしゃぐと思っていたが」

 

 更に一歩踏み込んでくる。

 

「今の俺が思っているのは、ひたすら面倒くさいことになったなぁ、って事だけですよ……で、俺はいつになったら帰れるんですかね?」

 

 それに合わせて一歩後退する。

 

「今は無理だな、これからこのまま私と一緒にIS学園に向かう手はずになっている」

「なるほど、そして道中で「騙して悪いがここで死ね」となるわけですか」

「だからなぜそうなる」

 

 俺の言い草に対し、不快感を露わにする女性。

 

「火のない所に煙は立ちませんし、死人に口なしとも言いますよ?」

 

 だがそんなの関係ねぇと言わんばかりに俺は言う。

 噂の真相を知ってはいるが、ここはその噂を大いに利用させてもらおう。

 

「確かに海外では男性操縦者を研究所に送り遺伝子レベルまで解析しようという動きがありましたが、人道的な観点から少なくとも日本は行わない事にしていますよ」

 

 さり気なくこちらの退路を塞ぐ形で後ろに回っていたスーツの男性が口添えをする。

 

「逆にこのまま君を帰せば、海外政府機関をはじめとする様々な人間が接触を図ります。俺の言っている意味が分かりますね?」

「え、この検査結果ってもう他国まで知れ渡っているんですか」

 

 連絡早すぎだろ、と思った俺に女性が言う。

 

「ここには彼のような日本政府の者や私のようなIS学園関係者だけでなく、国連から派遣された者もいる。情報の拡散は時間の問題だな。逆にIS学園であれば警備体制も万全だ、少なくとも身辺の安全は保証される」

「うわー八方塞がりかー……今更学校で勉強なんかしたくないのに」

 

 さらば、大自然の中で天然温泉入り放題のお気楽な生活。これからはコンクリートジャングルでの無機質な生活の始まりだ。

 

「己の状況を理解した所で、よければ早速移動するぞ。……では羽柴さん、彼と私はこれで」

「わかりました、織斑先生。後のことはこちらで処置をします。学園長によろしくお伝え下さい」

「こちらこそ。では行くぞ、更識」

 

 男性と会釈を交わした後、俺にそう言って歩き出す女性。もはやこちらに拒否権はないので、脳内でドナドナを再生しつつ後を追って歩く。

 まあ、建物を出るまでの辛抱だ。屋外に出たらガンナーズブルームでさっさと逃げ出s……

 

「言っておくが、逃げようなどと思うなよ? その瞬間、お前の生命の保障はなくなるぞ」

 

 溜息をつく。どうやら逃がす気はないらしい。

 

「逃げ場がないくらい分かってますよ……ええと、すみませんが名前を聞いてもよろしいですか?」

「そういえば名乗っていなかったな」

 

 溜息1つついて俺が尋ねると、こっちが彼女の名前を知らない事に今更気がついたらしい。軽く微笑みながら彼女は言った。

 

「織斑千冬、IS学園の教官で来年度は1年1組を担任する予定だ。お前の来校を歓迎しよう」

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