魔法少女リリカルなのは~天を穿つ深緑の狙撃手~   作:グリューン

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この話の時系列はミッドチルダが1月頃で、地球が6月頃になります。

正直、サイトで感想が来なかったので不評なのかなと不安に思っています。

なので出来れば感想をいただければと思います。批評でも構いません。


番外編 高町家への挨拶

 

ニールside

 

―JS事件が終わり新年を迎えた頃、俺はなのはと話して高町家を訪問することにした。

 

理由は勿論、なのはとの結婚を認めてもらうことだ。

 

決めたら、すぐに休暇届けを出してヴィヴィオを連れて地球へ転送してもらった。

 

転送場所は、地球・日本の海鳴市、なのはの友達の月村すずか宅の庭だ。

 

「半年ぶり、なのはちゃん。」

 

「すずかちゃん!」

 

着いた途端、笑顔でなのはに向かって走ってきた青い髪の女性、すずか。

 

残念ながらもう一人の友達のアリサ・バニングスは外せない用事で渋々出迎えを断ったそうだ。

 

その彼女を快く迎えるなのはも笑顔で、俺も一緒に笑顔になる。

 

「元気で何よりね。」

 

「うん、いつもと変わらず元気いっぱいだよ。」

 

「うんうん。それで、隣にいる男の人がなのはちゃんの彼氏?」

 

すずかが俺に目を向けてなのはに尋ねる。尋ねられたなのはは顔が赤く、照れている。……全く、可愛い奴だ。

 

実は、六課が発足して一月経った頃に一度フォワード陣となのはとフェイトが任務で来ていた。残念ながら俺はその時、留守番だった。

 

「……うん、紹介するね。私の、こ、婚約者の、ニール、だよ。」

 

うわ、彼氏と聞いてきたのに婚約者と言い切った!

 

こりゃ、男としてビシッと紹介しねえとな。

 

「初めまして、俺がなのはの婚約者のニール・ディランディだ、よろしくな。」

 

「あ、はい、月村すずかです。よろしくお願いします。」

 

俺が差し出した手を両手で握手するすずか。勿論、事前にいつも付けてる皮手袋は取っている。

 

「なのはからは小さい頃から家族ぐるみで仲良くしているって聞いてる。家の雰囲気からしても、穏やかで非常に良い。」

 

お金持ちとも聞いていたが、大抵お金持ちにある嫌味なイメージは全く感じない。

 

「……ふふふ、素敵な人を見つけたのね、なのはちゃん。ほら、顔が茹で蛸みたいに真っ赤。」

 

「も、もうすずかちゃんたら……。」

 

すずかに言われて耳まで真っ赤になるなのは。

 

とズボンの裾が引っ張られる感触に気付いて下を見ると、ヴィヴィオが足元で不機嫌に俺の顔を見上げていた。

 

「う~、忘れるなんて酷いよパパァ。」

 

「ああっ、ごめんなヴィヴィオ。ほら、自己紹介だ。」

 

「ヴィヴィオ・ディランディ・高町です。」

 

律儀にお辞儀をするヴィヴィオが可愛らしくて頭を撫でる。

 

「すっかり覚えたな、偉いぞヴィヴィオ。」

 

「えへへ。」

 

撫でられて気持ち良さそうなヴィヴィオに俺もなのはもすずかも癒される。

 

「ふふっ、よろしくねヴィヴィオ。」

 

ヴィヴィオの目線に合わせて座り込んで手を差し出すすずか。そんな彼女の物腰が柔和なのが気に入ったヴィヴィオは、なのはがしたように手一杯に握手する。

 

「早速だけど、今から家に行くね。お茶は帰る時にでも。」

 

本当なら月村家で少しのんびりしてから行きたかったのだが、そうはいかない。

 

「うん、分かってるよ。でも、お姉ちゃんから聞いたけど、士郎さんが結構ピリピリしているらしいよ。恭也さんが気圧されてるぐらいだって。」

 

そう、なのはから俺のことを聞かされたなのはの父親の高町士郎さんの表情が笑顔から能面で読みづらい表情になったそうだ。

 

なのはをして怖いと言っていたし、腹くくって行かないとな。

 

「厳しくても認めてもらう為に来たんだからな。それに、厳しいぐらいが越え甲斐があるってものさ。」

 

「何か凄く頼りになりそうな人だね。じゃあ、行ってらっしゃい。」

 

「うん、また後でね。ほら、ヴィヴィオ。」

 

「うん、またね。」

 

 

 

俺はこの時思ってなかった、士郎さんがあんな方法で試してくるなんて……。

 

 

 

.

 

すずか宅を後にした俺たちは、徒歩でなのはの実家、高町家が営業している喫茶店兼洋菓子店・翠屋に到着した。

 

「ここがママのおうち?」

 

興味深々なヴィヴィオは翠屋の店舗を見上げている。

 

「そうだよ。ここがなのはママが生まれ育った場所だよ。」

 

俺も歩きながら見ていたが、海が見えて潮風も気持ち良く、住宅地が並んでいても狭苦しさを感じない場所で住みやすいと思った。

 

けど、今回はなのはとの結婚の許しをもらいに来たのだ。流石に観光気分でいる訳にはいかない。

 

「よし、入るぞ。」

 

なのはの顔を見ると、笑顔から若干緊張した面持ちで頷く。

 

自動ドアが開き、おしゃれな内装や鮮やかな彩りのケーキが並ぶ棚に賑やかな話し声、そしてクリームの甘い香りが五感に飛び込んできた。

 

「いらっしゃいませ~、ってなのはじゃない!」

 

最初に出迎えたのは、なのはの姉の美由希さんだった。彼女は、ケーキの棚に1ホールのショートケーキを置くところだった。

 

「お姉ちゃん、傾いてるよ。」

 

「えっ、とっとっ!」

 

前に向かって傾くケーキを直す美由希さん。そして、無事に棚に置く。

 

「ふう、危ない危ない。ありがとうなのは。」

 

「どういたしまして。」

 

「あら、お帰りなさいなのは。隣にいるのが、ヴィヴィオちゃんとニールさんね。」

 

美由希さんがなのはにお礼を言っている間に、奥からなのはの母親の桃子さんが出てきた。

 

「初めまして、ヴィヴィオ・ディランディ・高町です。なのはママのママ……さん?」

 

「どうも初めまして。ニール・ディランディです。なのはとは、良いお付き合いをさせていただいてます。」

 

「うふふ。初めまして、なのはのママの高町桃子よ。桃子さんって呼んでね。ニールさんもよろしくね。」

 

ヴィヴィオの目線に合わせてしゃがむ桃子さん。流石になのはの母親だけあって、子どもの事を解っている。

 

俺に対しても笑顔で受け入れてくれた。

 

「あっと、紹介が遅れてすいません。なのはの姉の高町美由希です。よろしくねヴィヴィオちゃん、ニールさん。」

 

慌てながらも忘れずに挨拶をする美由希さん。

 

「本当なら恭介も紹介したいんだけど、出掛けているから後ね。」

 

「あれ、お父さんはどうしたの?」

 

「それが、いつも通りお店で働いていたんだけど、なのはたちがもうすぐ来るって聞いたら、道場に来るようにって言って道場へ向かっちゃったのよ。今日はバイトの子は夕方にしか来ないのに。」

 

右手を頬に当て、呆れたような困ったような表情で答える桃子さん。

 

多分、というかやっぱり俺を試す気でいるんだろうな。

 

当然か。俺だってヴィヴィオを嫁に出すってなったら、相手の男を試すだろうし。

 

 

 

.

 

桃子さんから士郎さんが道場にいると聞いて、やって来た。

 

道場は翠屋の裏側

 

なのはは、心配なようで美由希さんをヴィヴィオに預けて一緒に付いて来ている。

 

「こんにちはー!」

 

道場の戸を開けて中に入る。

 

実は、ここで「たのもー!」と言っても良かったのだが、ふざけている場合じゃなさそうなので無しにした。

 

「待っていたよ、ニール君。」

 

正面から声を掛けられ、ふと道場の奥を見ると……上が白、下が黒の、剣道で使われる道着を着たなのはの親父さん、高町士郎さんが正座をしながら俺を見ていた。

 

「!?」

 

一瞬、その目から強烈な殺気が向けられて思わず右手にケルディムのビームピストルⅡを出してしまった。

 

「何しているのニール!?」

 

なのはが慌てて俺の右手を押えて来たことで冷静になる。

 

「あ、わ、悪い……。」

 

だが、士郎さんは全然動いていない。そして、気のせいだったかのように殺気は消えている。

 

信じられねえ、俺に殺気だけでここまで警戒させるなんて。鳥肌立ったままで収まらねえ……!

 

どうやら、これから起こることは本気で掛からないといけないようだな。

 

「どうしたんだい?さあ、靴を脱いで上がるんだ。」

 

士郎さんは俺がアイルランド出身だと知っている。わざわざ靴を脱ぐように促しているのはそのためだ。

 

だが、さっきの殺気もあって気遣っているというより、早く問いただしたくて仕方ないという感じが強い気がしてならない。

 

未だ理解しきれず不安定に能力が発動する俺のイノベイターとしての能力だが、少しだけ士郎さんの心境を理解した。

 

士郎さんは、親として俺にどうしてもなのはのことを問いただしたいようだ。

 

「……はい、失礼します。」

 

大人しく靴を脱ぎ、士郎さんの前まで来て胡坐をかく。

 

なのはも俺の横に来て正座をする。

 

明らかに緊張しているな。当然か、なのはもあの殺気には気付いているだろうからな。

 

「……さて、と。」

 

目を瞑る士郎さんだが、目を開けた瞬間、再び、いや、さっき以上の殺気を以て俺を見つめる。

 

「ニール君、君に聞きたいことがある。君は、自らの罪を抱えた上で、いかになのはと共に生きていくつもりだい?」

 

それは、ここに来て誰も問わなかった、しかし、いつか誰かに問われてもおかしくなかったことだった。

 

 

.

 

自らの罪を抱えた上で、いかになのはと共に生きていくか、それは俺自身サーシェスを捕まえて復讐に決着を付けた後も考え続けたことだ。

 

「君がいたソレスタルビーイングは紛争根絶を掲げる私設武装組織、世間から言えばテロリスト……犯罪者だったことになる。それに、君は復讐する相手を見つけて先走り、君自身こっちに来る時も死にそうだったそうだね。」

 

突き付けられるのは、家族を奪われたという怒りと憎しみに囚われ、復讐に走る中で出会った組織。いくらそこにいた人間が世界を変えたいと思い戦い続けていたとしても、民間人に被害が出来るだけ向かないようにしたとしても、結局社会から外れて平和を脅かす犯罪者でしかない。

 

「お父さん、それは……。」

 

「なのはは黙っているんだ!!」

 

「でも………。」

 

士郎さんの有無を言わせない迫力に、そういうことに慣れたはずのなのはも二の句を出せずにいる。

 

「なのは、これは俺が答えなきゃならないことだ。だから、頼む、俺を信じてくれ。」

 

だから、俺は大丈夫と安心させる為になのはに信じるように声を掛ける。

 

「ニール……うん、信じるよ。」

 

なのはは納得して、士郎さんに顔を向ける。

 

「………ニール君、私は、君を信じることが出来ない。今まで見てきた人たちの中で復讐に囚われた結果、罪の意識に耐えられず自殺したり、殺すことに魅入られて他人を殺し続けたり、罪を償うために牢獄に入ったりと良い結果など見たことない。君のように相手に致命傷を負わされて死んだというのも良くある話だ。」

 

そう、士郎さんの言う通り、復讐にロクな結果はない。

 

「つまり、私が心配しているのは、復讐に決着を着けたという君が、なのはやヴィヴィオちゃんを、これから生まれるかもしれない子どもを傷付けないという保障があるのかどうかだ。」

 

士郎さんは、復讐がどうこうというよりも俺に親として、一家を預かる大黒柱としてやっていけるかどうかを試しているように聞こえる。言ったことも本音に違いないが、本当の思惑はきっとそうなのだろう。

 

「確かに、俺はテロで家族を亡くしてからずっと、復讐のことを忘れずに生きてきました。たとえ嫌でも、世界を変えると思い続けていようとも、その心は変わりませんでした。でも、俺はなのはたちと出会い、復讐に決着を着けて分かったんです。殺し続けるのは当然駄目ですが、死んで償うのも逃げるようで違います。本来なら牢獄に入って償うのが良いかもしれませんが、今の俺には幸せになって欲しいという遺言(願い)があります。だから、その遺言の為に、人を殺しません。なのはを、ヴィヴィオを生きて守り続けます。手の届く範囲で家族を、皆を助けていきます。それにもう、復讐心に縛られるつもりはありません。家族の為に、復讐に決着が着く前に、復讐心は捨てました。」

 

俺の答えを聞いた士郎さんはため息を吐いて、俺を睨み付ける。

 

「言葉だけなら、語ることも出来るだろう。だから、少し相手をしてもらおうか。」

 

そう言って立ち上がった士郎さんは、壁に立て掛けてあった木刀を二本取る。そのうち一本を柄をこっちに向けて差し出す。

 

「分かりました。」

 

本で読んだことがある、刀剣を交えて相手の真意を確かめると。

 

けど、それは一流の使い手で初めて成されるのであって、得意でもない俺がやること自体烏滸がましい気がする。

 

それでも、士郎さんを納得させる為にはやるしかねえ!

 

「大丈夫、ニール?お父さんはよくは知らないけど、お兄ちゃんやお姉さんを鍛えていたみたいから強いと思うよ?」

 

柄を掴んで木刀を受け取る俺に、負けるかもしれないと不安そうに見つめるなのは。

 

「それでもやるさ。ここで逃げたら何のために今まで頑張ってきたのか分からなくなるからな。さあ、下がってくれ。」

 

なのはに離れるように促すと、大人しく玄関近くまで下がって正座した。

 

「準備はいいようだね。剣道じゃないから型とかは気にしなくて良いよ。ただし、殺す気で来なさい。」

 

立ち上がる俺に前に木刀を構えながら言う士郎さん。

 

つまり、そのぐらい本気で来ないと認めないということか。

 

「……分かりました、殺す気で行きます!」

 

士郎さんに、なのはとの結婚を認めさせてやる!

 

 

 

.

 

 

「行くぜ、おおりゃっ!」

 

木刀を両手に持って全力で上段から振り下ろす。

 

雰囲気から士郎さんが俺より近接戦に強いのはもう明らかだ。小手先の戦い方なんて通用するとは思えない。だから、まずは敢えて真正面から振ることにした。

 

「ふむ。」

 

当然、士郎さんは読むまでもないと言わんばかりに右手に持った木刀を横に向けながら余裕で防ぐ。

 

「くっ、全力で振ったのに簡単に防がれるなんてな。」

 

更に押そうと踏み込んでも押すどころかビクともしない。俺だってイノベイターになってフィジカル面も上がっても鍛えて続けている。なのに、ビクともしないなんてどんなパワーしてんだ!?

 

「ふふっ、良い踏み込みだ。だが、その程度では僕には届かないっ!!」

 

拮抗する中で、俺の木刀を押す力を利用して右側へと逸らされる。

 

「しまっ、がはっ!?」

 

士郎さんは逸らしたところで、左肘辺りに下げて溜めを作り、一瞬にして俺のお腹の辺りに木刀を薙ぐ。

 

後ろに下がる間もなくモロに受けてしまった俺は床に倒れ込む。

 

「ニール君、君もまた戦場にいたのだから解るだろうが、この時点で君は一回死んでいる。」

 

「そのくらい解っています、よっ!」

 

右手で倒れても離さなかった木刀を士郎さんの左太腿に向けて突く。

 

「むっ!」

 

だが士郎さんはすかさず木刀を割り込ませてまた攻撃を逸らされる。更にそのまま振り上げてくる。

 

「それくらいっ!」

 

それを想定していた俺は、すぐに木刀を戻す。

 

「ほう、これを防ぐか。」

 

防がれたのを見た士郎さんは下がる。

 

「……士郎さん、本気でやってますか?」

 

尻餅を着いた状態から立ち上がり、得物を両手に構える。

 

そう、なのはから聞いた限りでは、本来は片方逆手持ちの二刀流。それもスピードが人間離れしているそうだ。士郎さんが過去に大怪我をしているのは聞いていたが、少し当たってみて解った。

 

もし本来の戦い方で来たら、手数で押されて負ける。それも、確実に。

 

「ああ、本気じゃない。だが、ここからは……」

 

答えながら木刀を持ち替える士郎さん。

 

「本気だ。」

 

 

 

.

 

一瞬、士郎さんが消える。

 

「!?どこへ……!」

 

右を見る、いない。

 

後ろじゃないなら……!

 

「遅い!」

 

左に木刀を持っていくも、既に遅く、左肩で木刀を挟んで受けてしまう。

 

「ぐああっ!」

 

何て力だ、木刀挟んだのに脱臼するかと思ったぞ!

 

「立ち回りが甘いぞ、それが戦場を知る人間の動きかあ!!」

 

何とか両手で構え直すも、足を止めて次々と両手で木刀を叩きつける士郎さんに防戦一方となってしまう。

 

「くっ、ぬううううううう!」

 

それでも負けたくない一心でカウンターを狙う機会を待つ。

 

「その程度で、なのはとヴィヴィオを守れるものかああああああああ!!」

 

右側に構え、胴狙いの横凪ぎを行う士郎さん。だが、少し大振り。

 

 

 

ここだ!

 

下にしゃがみ、横からの攻撃を避け、逆に同じように右から横に凪ぐ。

 

「何、ぐうっ!」

 

俺の攻撃は士郎さんの右脇腹に命中、士郎さんはその場でしゃがむ。

 

「お父さん!」

 

慌て駆け込むなのはに士郎さんは手で制する。

 

「はあ、はあ、ふうっ、見事だニール君、いつつっ。」

 

「大丈夫、お父さん?」

 

「ああ、大丈夫だよ。ニール君の攻撃は峰打ちだったから骨は折れてないよ。」

 

そう、あの瞬間、当たると確信した時、刀身を反対にして峰打ちにしたのだ。

 

これからお義父さんになる人に怪我をさせたくなかったから。とはいえ、イノベイターになる前の俺じゃそんな余裕なかっただろう。

 

「士郎さん、俺は、なのはたちと幸せになる事も、幸せにする事も諦めずに生き続けます。たとえ何があろうともこの命が続く限り守り続けます。だから、なのはとの結婚を認めてください!!」

 

俺は、精一杯の気持ちとして立ったまま頭を下げる。

 

「私からもお願い、お父さん!」

 

なのはも俺の隣に来て頭を下げる。

 

「……ニール君、僕は君と刀を交えて分かった。憎しみを感じず、しかし勝負を諦めない強さを感じた。諦める人は途中で刀を下げてしまう、憎しみを込めた人は、相手の急所を狙う。木刀だって当たり所次第で重症にもなるし、死んだりもする。」

 

この一言で、士郎さんが体を張って本気で試していたのがよく解った。

 

全く、なのはは桃子さんに似たんだと思ったけど、士郎さんにも似たんだな。

 

「だから、ニール君、娘を、なのはをよろしく頼む。」

 

士郎さんが頭を下げる。

 

「「ありがとう、ございます!」」

 

お礼を言う俺となのはの目に、一筋の涙が頬を伝った。

 

 

 

 

.

 

なのはside

 

お父さんに勝って私との結婚を認めさせたニール。

 

でも流石に魔法なしで受けていたから二人ともしばらく立てず休んでいた。

 

「しかし、なのはから聞いていたけど、君は本当に凄いね。衰えたとはいえ僕のスピードに付いて来てたし。」

 

そう、お父さんは私が小さかったの時に大怪我を負って入院していた。その時はお母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんも皆喫茶店の切り盛りで忙しくて、私の相手をしてくれることがほとんどなくて……寂しかった。

 

「あれで衰えたって……これ以上は対応できませんよ。」

 

その経験が多分、色んな人と話し合うことへと繋がっていったんだと今では思う。

 

「ははは、でも君は狙撃の方が得意だった訳だしハンデはお互い様さ。」

 

「そう、ですね。さてと、なのは、そろそろ戻るぞ。」

 

とはいえ、ニールとはまさか結婚するまでになるなんて思わなかったけどね。

 

「ん?お~い、なのは~?」

 

いやもう、今の私って結構幸せ!

 

「ったく、ほいっ!」

 

「ひゃああっ!」

 

パンッという音がしてびっくりして右横に倒れ込んでしまった。

 

左耳を抑えて音がした左方向を見ると、ニールが手を合わせているのが見えた。

 

「何ボーっとしてんだ。ヴィヴィオと桃子さんが待ってんじゃねえのか?」

 

そっか、手を叩いて意識を戻してくれたんだ。

 

「ごめん、お父さんが結婚を認めてくれて気が抜けちゃったみたい。」

 

本当は、お父さんの言葉で今までを思い返すのに夢中になっただけだけど恥ずかしいから内緒にする。

 

「まあ、しょうがねえか。行くぞ、なのは。」

 

「うん、ニール。」

 

そうして、私たちは道場を後にした。

 

 

 

そして、その後……

 

「貴方、ちょっと、お話しましょうか。」

 

ニールの手が少し腫れていたのを見たお母さんが、笑顔でお父さんを連れて店内から引っ込んで……

 

「ぎゃああああああああああああああ!!」

 

お父さんに説教(物理)をしました。

 

「マ、ママァ、恐いよお。」

 

ヴィヴィオが私に引っ付いて離れません。

 

「うわあ、流石なのはの母さんだ。なのはより勝てる気がしねえ。」

 

[士郎さんを引きずって奥へ引っ込む時の雰囲気は有無を言わせない迫力を感じました。]

 

ニールも隣で顔を引き攣らせている。

 

「うう、確かに私もお母さんには勝てる気がしないよ。でも、一言余計だよ。」

 

「ありゃ、藪蛇だったか。」

 

後でニールにはおしおきするから覚悟してね!

 

 

 

.

 

 

夕方から夕闇となった頃、私たちは夕飯の仕度を終えて椅子に座って、もうすぐ来る恭也お兄ちゃんと忍さんを待ってました。

 

「はあはあ、ただいま母さん。」

 

「はあはあ、遅れてすいません。ヴィヴィオちゃんもごめんね?」

 

汗を掻いて荒い息を落ち着けながらダイニングに入ってくる二人。結構急いだのがよく分かる。

 

「ううん、大丈夫だよ。」

 

事前に私たちが帰って来るのをお母さんから伝えていたけど、ちょっと空港のトラブルで出立が遅れてしまったそうで、二人を待とうという両親の一言で夕食は一時間先送りになりました。

 

「初めまして、なのはの兄の高町恭也です。あの時はあまり挨拶する時間が無かったから、今回はちゃんと挨拶出来て嬉しいです。」

 

手を出す恭也お兄ちゃん。

 

「初めまして、ニール・ディランディです。なのはからは俺と歳が違わないと聞いてます。だから、お互い敬語じゃなくて普通に話しましょう。」

 

その手を取り自己紹介と仲良くしようと促すニール。

 

「……そうだな。これからは義兄弟となる訳だから変に遠慮することもない。」

 

でも、無事に揃って良かった。ニールのことはお兄ちゃんたちにもちゃんと紹介したかったから。

 

「初めましてニールさん。私は月村忍、月村すずかの姉です。でも私とも同世代だから敬語は必要ないわよね?」

 

「なら遠慮なくそうさせてもらおう。二人とも、よろしく頼む。」

 

良かった、二人とは仲良くなれたみたい。

 

ふと隣を見たらヴィヴィオがお腹が空いたのか、お腹を手で抑えている。

 

「ママ、お腹空いた~。」

 

「ヴィヴィオ、まずは自己紹介。そしたら食べよう?ニール、ヴィヴィオをお兄ちゃんたちに紹介しても良い?」

 

「ああ、ヴィヴィオも早く食べたいだろうしな。ヴィヴィオ、挨拶するんだ。」

 

「は~い。ヴィヴィオ・D・高町です。よろしくお願……はうっ!」

 

丁寧にお辞儀をするヴィヴィオだけどお辞儀が深すぎたせいでテーブルに額をぶつけてしまう。

 

「あらあら、大丈夫ヴィヴィオ?」

 

「うう~、大丈夫。」

 

気遣う忍さんにヴィヴィオは額を摩りながら答える。涙目なので、不覚にも可愛いと思ってしまった。

 

「ははっ、小さい時になのはもやったなあ。お客さんに挨拶する時に頭をテーブルにぶつけて。」

 

あの時は小学校入りたてで、お父さんが復活してお店の客足が落ち着いた頃にお昼を店内で食べていたらお客様が来てた。何となくお辞儀したらお昼ご飯のナポリタンに顔を突っ込む格好になっちゃって恥ずかしい思いをしたのだ。

 

そのせいでしばらくナポリタンが食べられなかった。

 

「も~、お兄ちゃ~ん!」

 

残念なことに、お父さんが口を滑らせたせいでお兄ちゃんもお姉ちゃんにも知れ渡っている。

 

「ははははは。なのはがたまにドジなのは今に始まったことじゃない訳か。」

 

「ママ、ドジなの?」

 

うう、ニールはともかくヴィヴィオにまで言われるなんて。

 

「う~も~、さっさと食べようよ!冷めちゃうよ!?」

 

「ふふふ、そうだな。じゃあ、僕たちの新しい家族が二人も増えた。色々と複雑な事情もあるけど、僕たちは二人とも家族として受け入れる。僕たちはこれからは、家族だ!」

 

お父さんはまるで自分で言い聞かせるようにニールとヴィヴィオを受け入れるように告げる。お父さんの複雑な心情を理解してちょっと涙が出そうになる。

 

「新しく家族が増えたことを祝して乾杯!!」

 

「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」

 

 

 

ありがとう、お父さん。

 

 

fin.




サイトのアンケートでコメントをいただけるのはありがたいのですが、今書いているものが評価もされないというのは寂しいものだと最近気付きました。

まあ、ズボラにやってしまった結果なので自業自得ですが、地味に堪えて来てます。

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