5人のシンデレラ達の話   作:krowknown

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第三話 買い物—前—

 

 

 双葉家にお世話になってから、1ヵ月が過ぎた。

 新しい学校生活は、意外と順調であった。一つあげるとすれば勉強についていけてないのだ。なので、この1ヵ月は、もう忘却の彼方にいってしまった記憶を呼び起こし、再勉強に時間を費やしていた。

 その結果、全部を完璧に復習は出来ていないが、各教科ごとに今やっている単元などは後ほどみんなと変わらないぐらいにはなっている。

 その勉強の対価として、未だに杏ちゃんと初日に交わした約束の、アメ玉一袋を買いに行けずにいたのだ。

 そして冬休みに入って3日目の今日、杏ちゃんの我慢という名の堤防は決壊したのだ。まだ日が昇りかけている頃に、俺の部屋のドアを勢いよく開け不機嫌さを隠す素振りもなく、片手に握っていた人形で俺の顔を思いっきり殴りつけてきた。

 

「いいかげんにしろ~~!! 杏は今、本気で怒ってるんだぞぉー」

 

 何も防寒対策をしていない部屋は、凍てつくような寒さで、寝起きで温かい布団に入っている俺からすれば凶器そのものだ。

「どうどうどう」と、片手で杏ちゃんを慰める。

 

「杏は馬じゃないぞぉー。い・い・か・らアメ買ってきてよ!」

 

 約束を疎かにしてしまった俺自身にも非はあるが、この時間帯にアメ一つを買いに外に出るような自殺行為を、俺はできそうにない。しかしそんなことを言ったところで、今の杏ちゃんには通じないだろう。

 

「わかったから、今日の昼にスーパーで買ってくるから! 2袋! 2袋で手をうってくれ」

「むむっ・・・・・・3袋! それなら手をうってあげてもいいよ」

 

 こいつ、ここぞとばかりにたかる気だな。ゲームをして一夜漬けしていたのかクマが目立つその顔は、最近よく俺にするようになった、ドヤ顔をしている。

 

「はやく頷かないと・・・・・・この布団、剥がすぞぉ」

 

 杏ちゃんの思い通りになるのは、癪だが・・・・・・本当に癪なのだが今布団を剥がされたら、俺は死んでしまう。無理やり悔し涙を飲み込み、指を4本立て杏ちゃんの顔の前に持っていく。

 

「4袋買うから、杏ちゃんも俺と一緒に買い物に付き合ってもらう。拒否権は無い」

「なんで、杏が買い物に付き合わなきゃいけないんだよー。嫌だぞぉ横暴だ!」

「俺一人が寒い思いをするのはおかしい。もし頷かないなら、アメの話も無しってことで」

「くっ、くそぉ~嵌めたな。・・・・・・わかった。杏もついてくよ」

 

 苦し紛れに出した提案だが、心底悔しそうな表情をしながら了承してくれた。

 一昨日ぐらいに、杏ちゃんのゲームに偶々付き合わされた時に、1ヵ月前は大量にあったアメ玉が残り少なかったことを思いだした。

 何というアメへの執念だろうか。

 試合に勝って勝負に負けたとはこのことか、杏ちゃんはトボトボと部屋から出ていった。その背中に11時に出発するぞと言っておいたが、それに返事をする余力はもうなかったようだ。

 偶然が重なり、杏ちゃんを外に連れ出せることになった事実に若干の達成感を感じながら、俺は二度寝をすることにした。

 

 改めて10時にセットされたアラームで起き、ゆっくりと出かける準備を済ませておく。10時50分には、もう準備は完了しているが、あの朝の襲撃以来、杏ちゃんの姿を俺は拝んでいない。

 先ほどから10分おきに、杏ちゃんに準備しているかを扉越しに聞いているが、「してるよ~」と呑気な声しか返ってきていない。

 起きてはいるので、そこは杏ちゃんを信じて自分の準備に徹していたが、約束の時間の5分前にしても未だ部屋から出てこないので、これから強制突入だ。

 扉の前に行くと、先ほどは聞こえてこなかったピコピコとゲームの音が部屋の外まで聞こえていた。

 落ち着け。怒りに身を任せてはいけない。深呼吸だ深呼吸。

 家政婦さながらの軽やかなノックをすると、部屋の中があわただしくなる。ドタドタと音がして、静かになる。

 

「入るぞー」

 

 俺の許可を求める声にも返事は無いので、今の状況においては開けていいと自分で判断した。

 ゆっくりとドアノブを回し、扉を開くと先ほどまで間延びした返事をしていた本人は、ベッドの中にいて寝たふりをしていた。

 よほど慌てたのか、ゲームの電源はつきっぱなしでコントローラーは無造作に放り出されている。

 

「杏は体調が悪いから、アメよろしくねー」

 

 こちらを見て、本当に体調が悪そうな表情をして申し訳なさそうに言ってくる。

 

『双葉(ふたば) 杏(あんず)15歳 

 139cm 30㎏ B型

‹性格› 

 頑張り屋 あきらめ癖 めんどくさがりや 優しい 正直者

‹精神›

 興味 10 喜び 14 怒り 6 悲しみ 30 愛情 0  

最近の一言

「杏の演技に騙されてしまえー」』

 

 ここで最近の一言が役に立つのか。パラメーターでは元気はよく分からないが、一言には性根の腐ったセリフが書かれている。

 まあこれを見ずとも、先ほどまでゲームをするほどには元気なのだが。

 

「そういう嘘は通じないぞ。それに杏ちゃんが来ないと、アメは買わない約束だしな」

「本当に杏は体調が悪いんだぞ~~!」

「あーあ。5袋買ってあげようと思ってたのにな」

 

 5袋という言葉を聞いて杏の表情にピシッとヒビが入る。あと少しか? てかやっぱり動く原動力はアメなんだな。

 

「おっと、ゲームの電源がついてるぞ? 消しとこうかな」

「触っちゃだめだよ!」

 

 思いのほか早く釣ることができた。この反応からして、途中で切るとセーブが飛んでしまうのかな? 思わぬ武器を拾い、内心ほくそ笑む。

 ベッドの上で上半身だけ起こした杏ちゃんじゃ、ビクビクした顔をしながら俺とゲーム機を交互に見やる。俺が本気で電源を落とそうとしているのか、腹の内を探っているのだろう。

 今この時点でイニシアチブは俺のもとなった。

 

「杏ちゃん、このゲーム機を助けたいなら俺の質問に答えるんだ。体調が悪いって言うのは本当?」

「くそぉ~なんて卑怯な・・・・・・ぅ・・・・・・そぉ」

「なんだって?」

「・・・・・・うそです」

 

 ようやく認めたか。このめんどくさがり屋の女王をやっとのことで倒すことができた。その流れのまま、確約を得て5分で準備を済ませてくれるらしい。

 そんなに時間もかからないみたいなので、部屋の前で待っていると「・・・・・・準備できたよ」と元気のない声が聞こえる。外に出るのが心底嫌みたいだ。

 部屋のドアが開き、出てきた杏ちゃんは化粧っ気はもちろんなく、ただ防寒を追求したかのようなその格好は、俺でも14歳の年頃の女の子がしていい格好ではないということは分かる。

 

「じゃあいこっか」

「・・・・・・うん」

 

 服の事をツッコんでしまったら、さすがにもう外出をしてくれなくなると思いスルーをすることにした。陽子さんに出かけることを告げて、家を出る。

 今日は歩いて10分ほどにある、ショッピングセンターに行くことにした。

 着くまでは「もう疲れたー」「さむいよーしんじゃうー」と後ろからの愚痴が終わることは無かったが、それもショッピングセンター内にある、アメが豊富なコーナーに着くまでだった。

 あんまり自分でアメを買いに来ることはなかったのか、買う品物を決めている杏ちゃんの目はキラキラしている。

 杏ちゃんはあれにしようか、これにしようかと忙しなく売り場を動いている。選ぶのに時間がかかると予想して、店の目の前にあるベンチに腰を下ろし携帯をいじる。

 10分ほどして買うものが決まったらしく、杏ちゃんが俺を呼びに来たが、なんか態度がしおらしい。嫌な予感を持ちつつも着いていくと、お城のケースの中にカラフルなアメが入っている商品があった。

 無言でそれを指さすということは、これに決めたのだろう。

 我が道を行く杏ちゃんでも、こういうケースに惹かれてしまうものなのかと、微笑ましく思っていると下についてある値札に目がいく。

 えっ・・・・・・13000円? おいおいおーい。待ってくれ。

 さっきまでの杏ちゃんのしおらしい態度は、この値段が原因か。いくら俺でもさすがにこの値段のを買ってとは確かに言いづらい。

 アメも高級そうだし、城の装飾も素晴らしい、中身もたくさんはいっているし、クリスマス仕様だ。だけど! 13000円はないだろ。

 心配そうに見つめる杏ちゃんを横目に、裏ポケット取り出した財布を開く。15000円はある。買えなくはない・・・・・・だがしかし、それでいいのか俺よ。

 

「やっぱりいいよ。冗談だよ冗談。杏は食いしん坊だからあっちのいっぱい入ってるやつの方が欲しいな」

 

 案外人の感情を機敏に察することができる杏ちゃんだ。俺の反応を見て察したのだろう。どこか達観したかのような、諦めの早いその態度に、若干悲しくなってしまう。

 

『双葉(ふたば) 杏(あんず)14歳

 139cm 30㎏ B型

‹性格› 

 頑張り屋 あきらめ癖 めんどくさがりや 優しい 正直者

‹感情›

 興味 6 喜び 5 怒り 0 悲しみ 40 愛情 0 

‹最近の一言›

「どうせ無理なんだから、諦めよう・・・・・・」』

 

 その一言に内心、苛立ってしまう。

 なんですぐ諦めようとするのだろうか。欲しいなら欲しいともっと言えばいいのに。下手な嘘ついて杏ちゃん自身の本心を隠すのなんて見たくはない。

 

「あのさ杏ちゃん! もっとさ、我がままになっていいんだぞ?」

「——えっ?」

 

 ポロッと口から出た言葉だった。

 杏ちゃんは今の言葉に驚いているのか、聞き取れなかったのかは判断できないが、こちらを振り向いたまま表情を固めている。

 

「そのすぐに諦める癖やめようぜ。自分の欲しいものがあったらわがまま言ってでも、何でも手に入れちゃえよ! そのためなら俺はこんなお城の一つや二つ買ってやるって」

 

 まだ出会って1ヵ月の奴が何を知ったようなことを言っているんだろうか。そんな考えが頭の中を過ぎってしまう。

 何も杏ちゃんの過去を知らない俺が、前の世界で生きるしかばねとなっていたこの俺が、なにを偉そうに説教しているのだろうか。

 唖然としている杏ちゃんの瞳を俺は見ることができなかった。

 今彼女がどう思っているのかを、自分の好奇心だけで見てはいけない気がしたから。

 俺は杏ちゃんの頭を右手で軽く撫で、「ここでちょっと待ってろ」といってから城のケースをを両手で持ちあげレジに向かった。

 まさかこの高い城を買うお客さんがいるとは思っていなかったのか、店員さんもびっくりした顔を一瞬する。そこはプロなのか、すぐに笑顔で接客をしてくれる。無料でクリスマスラッピングをしてくれるというので、それも頼むことにした。

 包装された商品を見て、俺自身もクリスマス気分に浸ってしまい、なんだかテンションが上がる。

 先ほど別れたところにいると、杏ちゃんは大人しく待っていてくれた。

 

「少し重いから、家まで俺が持っとくよ」

 

 そう言って歩き出そうとするが、俺の服の袖が掴まれる。買ったばかりの品を危うく落としそうになり、冷や汗をかいたがなんとか無事だった。

 この場で俺の袖を掴んのだ犯人は見ないでも分かる。

「どうしたの?」

「杏が持つよ・・・・・・それ」

「でも想像以上に、重いよ?」

「・・・・・・これも杏のわがままだよ」

 

 このやり取りの中でそのセリフはいろんな意味で反則だった。今までにない杏ちゃんの態度に、不覚にもドキッとしてしまったことは墓場まで持っていこう。

 杏ちゃんは渡したプレゼントを、大事そうに抱えながらヨロヨロと歩き出した。その後ろを、いつでも支えられるように俺も帰路を行くのだった。

 

 家までもう半分というところで、通りのコンビニから声をかけられる。もちろん俺にではなく杏ちゃんにだ。その声を聞いて杏ちゃんは、肩をビクッと跳ねあがらせていた。

 陽子さんの話を思い出し、嫌な予感がしてくる。

 

「双葉さんこんにちわー! 最近学校に来ないと思ったら男の人と付き合ってたんだー。さすがモテる子は違うね」

「いいなー学校ズル休みして、遊んで暮らしてて。これから私、塾だから変わってほしいぐらいー」

 

 最初から容赦なしだな。隣に男がいるというのに関係なしとばかりに、回りくどく攻めてくる。言い返してやれ杏ちゃん。

 心の中で迎撃許可を出すが、当の本人は家での勢いはなく、ただ頬を引き攣らせて乾いた笑みを浮かべるばかりである。

 

「てか、プレゼント買ってもらってるの? マジで何様? うけるんですけど」

「顔だけ良ければそんなことまでしてもらえて、良い身分だよねー。てか私服ダサくね。何その組み合わせ」

 

 こいつらは態度からして、いじめをした主犯格なんだろう。

 あまりの言葉の攻撃に、俺は怒鳴ろうとするが寸でのところでそれを飲み込む。顔は同じ方向を向いているので後ろにいる俺は見えないが、体が震えている。その震えは間違いなく寒さからではないだろう。

 ここでこの礼儀知らずの、女の子たちに怒っても良いが優先順位を間違えてはいけない。

 

「それぐらいでやめてくれないか?」

 

 いきなり杏ちゃんと女の子二人の間に、割って入った俺にあからさまに機嫌を悪くした声で「あんた誰だよ?」と言ってくる。

 明確な敵意を向けられて、少しひるむが勇気を振り絞ってもう一歩前に出る。

 

「俺は杏ちゃんの友達だ。友達の悪口を黙って聞いてられるほど、俺はできた人間じゃないんでね」

「あんたもどうせ、この女に騙されてんだよ。私の学校ではビッチで有名だよその子!」

「そんなの嘘に決まってるだろ? もうちょっとマシな嘘をつけよ」

「本当だって。なんなら学校に来てみればいいんだよ。みんな知ってるんだからさ」

 

 大声でそう言っているが、そもそもの論点が違う。

 俺にとってはそんな噂はどうでもいいのだ。俺はただ後ろで震えている女の子を守りたいだけだ。

 

「あのな、もしお前の学校の先生も含めた全員が、杏ちゃんの事をビッチだとか悪い噂をしててもな、俺にとっては杏ちゃん一人の声の重みとは比べものにならないんだよ。だからさ――とっとと失せろよ」

「はっ? 意味わかんないし。勝手にすれば」

「いこー何かしらけたわ」

 

 最後まで癪に障るセリフを吐きながら、帰っていった。

 残された俺たち二人は何とも言えない空気になってしまう。

 

「失礼な奴らだな・・・・・・帰るか、杏ちゃん」

 

 二人が消えて言った方向を見ながら、そう呟き、家に向かってまた二人で歩き出した。杏ちゃんの外出は、最後の最後で、最悪なものとなってしまった。

 今は、外に安易に連れ出してしまった、自分を叱ってやりたかった。そんな自己嫌悪に陥っている俺は気づきもしなかった。新しく杏ちゃんのステータスの欄に、称号が付けられていることを・・・・・・。

 

『双葉(ふたば) 杏(あんず)14歳 new! ‹一人目のシンデレラ›

 139cm 30㎏ B型

‹性格› 

 頑張り屋 あきらめ癖 めんどくさがりや 優しい 正直者

‹感情›

 興味 20 喜び 40 怒り 5 悲しみ 25 愛情 15 

‹最近の一言›

「・・・・・・ありがと」』

 

 

 

 




こんばんは。
お気に入りにしてくださった皆様ありがとうございます。
また、足をお運び頂いた方もありがとうございます。

最近は冷え込みますので、厚着で寝ましょうか!
感想などお待ちしております。krowknownでした。
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