5人のシンデレラ達の話   作:krowknown

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第八話 帰り道

 

 

 

 学校が休みで、気分転換にあの公園に来ていたと言ってたが、歩いて20分ようやくまゆの家に到着したらしい。

 なんで今日に限って遠い公園を選んだのかと聞いたら、「たまたまですよ? だから今日あなたと出会えたのは運命だったんです」と真顔で言われる。

 決して長い時間ではなかったが、まゆは編み物や料理が得意なことや最近の学校であったことなどを聞き、俺のことも前まで北海道に住んでいたことを話したりした。

 まゆが指をさす向こうには、お世辞にも綺麗とは言えない築数十年は経ったアパートがあった。

 俺の勝手なイメージで、まゆはどこかの家の箱入り娘だと思っていたので、家を見て表情には無論ださないが少し驚いてしまった。

 

「今日は送っていただいてありがとうございました」

 

 外に設置されている二階へ上がる階段の前につくと、こちらを向きお辞儀をするまゆ。

 呑み会に行けなかったのは少々残念だが、十分に有意義な時間を過ごさせてもらったので俺からもお礼を述べる。

 

「こっちこそありがとね。まゆみたいな可愛いこと話せておじさんも感無量だよ。機会があったら手料理の方も食べれるように、いつでもお腹空かせとくよ」

「うふふ♪ 褒めても何も出ませんよぉ。じゃあ今度の土日のどちらか会いませんか? 頑張って美味しい料理作りますよ」

 

 まゆが可愛いというのは本当だが、お料理のことは流れで出しただけなのだが予想以上に食いついてくる。

 俺から振った話題なので断る言葉も見つからず、一応手帳を確認させてもらうが、どちらもフリーだ。

 空いているが、やはりまだ学生の彼女と休日に二人で会うのは世間体的にもよろしくないので、仕事があることにして断ろうと顔をあげるとまゆが目の前からいなくなっていた。

 一瞬頭の上に?(はてな)が浮かぶ。

 

「今度の土日空いてますね」

 

 右の耳元にまゆの息がかかる。

 年甲斐もなく「うおっ!?」と声を出し一歩下がり身を引いてしまう。

 俺が手帳で予定を確認している時に、彼女も横に移動して手帳を覗いていたのだ。

 別にそこまで集中していたわけではないので、彼女が動けば気づくと思うのだが気づけなかった。

 もしかしてまゆは忍者の生まれ変わりではないのかと、馬鹿みたいな疑問が湧くがすぐに頭の外へと追いやる。

 

「いやさ、空いてるっちゃあいて「空いてるんですよね?」・・・・・・はい」

 

 半ば強制的に俺を頷かせるまゆ。この時俺は、将来嫁の尻に敷かされるタイプだなと悟ったのだ。

 

「じゃあ日曜日に会いましょうか優也さん」

「わかった、日曜日ね。まゆはどこか行きたいところとかあるのかな?」

「特にありませよ。二人で過ごせるだけで、まゆは十分ですから」

 

 この子はごく自然と、男の子のハートをくすぐるセリフを吐いてくる。

 油断するとそれはもうあっさりと墜ちてしまいそうだ。

 彼女にはそういう力があると思う。

 

「じゃあ、詳しい時間はあとで連絡してくれたら合わせるからさ。まゆは携帯持ってる?」

「持ってないんですよね。でも、優也さんのだけでも教えてほしいです。ダメですか?」

 

 少し気の利かない質問をしてしまった。

 高校にあがり携帯を買ってもらった杏がいたので、杏が持っているなら女子高生はみんな携帯を持っているものだと思っていた。

 自分の番号を、教えるのに心配はないかと言われれば少しはあるが、目のあえにいる彼女がどうかするとは思えないので、手帳の一ページに携帯番号を記入して切り取って渡す。

 まゆは、「ありがとうございます」とお礼を言って、その書かれた数字を心に刻むかのように熱心に眺める。

 そして満足したのか、その紙を四つ折りにして胸の前で、両手で大事そうに包み込み再度俺にお礼を言う。

 携帯番号一つでここまで喜んでくれるとは思わなかった。

 

「基本は出れるようにするから、もし用事が入っちゃったりしたら連絡してね」

「わかりました。あ、あの・・・・・・用事がなくても・・・・・・電話してもいいですか?」

「もちろん。でも、ほどほどにだよ」

「はい! ・・・・・・うふふ♪」

 

 「じゃあもう遅い時間だから」と最後に言って、まゆと別れる。

 まゆは俺が角を曲がるまでずっと小さく手を振ってくれていた。

 

 まゆと別れて帰路についている俺は、まだ呑み会やっているのかな? やら、帰ったらまず風呂に入ってからDVDでも見ようかと考えながら歩いていた。

 同じ社会で今日も一日揉まれた人々とすれ違っていると、ポケットに入っている携帯が震える。

 さすがに今から急な案件で仕事に駆り出されることだけは、ご遠慮願いたい。少し緊張しながら着信相手を見ると『双葉杏』と表示されていた。

 

『もしもし』

『おっ、でた。元気ー?』

『元気って言うより、3日前も電話してきただろ』

『えへへ、そうだったね』

 

 この少し間延びしたような杏ちゃんの声が俺は好きだった。

 なぜか聞いていると、気持ちが楽になる。

 前回電話してから日にちはあまり経っていないが、俺自身なんだかんだ言ってこうやって元気にしていることを確認できるのはありがたかった。まぁ大抵は俺が電話するまでもなく、今日のように突然杏ちゃんが連絡を来るのだが。

 それから、今日起きた出来事などを楽しそうに話してくれた。

 高校ではゲーム同好会に入って、そこでエースとして活躍している話や、その頭のキレと知識量からクイズ同好会にも勧誘されているらしい。

 家に到着したところで、ようやく杏ちゃんの話が終わる。

 そこからは、これまたいつも通りの仕事は最近どうなのか、私生活はしっかりしているのかと質問してくる。でも仕事は別として、私生活では杏ちゃんのようなだらけた生活は送っていないので大きなお世話である。

 

『まぁ仕事はぼちぼちかな。今日もまたしぼられたんだけどね。あっでも、今日はなんかすごいことがあったんだよ』

『もっと落ち着いて話してよー。聞くのだって疲れるんだからねー』

 

 そっちから聞いてきたくせに、少し勢いづくとすぐこの塩対応だ。まぁなんだかんだ言って聞いてくれるんだが。

 

『なんか可愛い女の子に惚れられたみたいなんだ』

『・・・・・・』

『あれ? 杏ちゃん、もしもーし!』

 

 今日、報告すべき話題のナンバー1はやはりまゆとの出会いだろう。

 どこの下手なドラマですか? と言いたくなるような出会いをした一日だ。笑いのネタにするわけじゃないが、近しい人と話すにはもってこいの話だろう。

 なにせ杏ちゃんは、自分の事を棚にポイポイ上げ、俺の事をチェリーボーイと鼻で笑っていたのだから。

 前の世界では卒業していたが、この世界ではまだなので、チェリーボーイか否かの話の時に正直に答えてしまったのが運の尽きだ。

 その日から杏ちゃんがたまに、俺にくれる飴がすべてさくらんぼ飴になったのだ。

 簡単に言ってしまえば、少し俺は己惚れているのだ。

 しかし、電話は切れていないと思うのだが、肝心の杏ちゃんからの返事がない。

 

『・・・・・・おっと、杏としたことが油断してた。これは警察に連絡するしかないね。杏は悲しいよ、カッコよくて優しいお兄ちゃんが牢屋に入っちゃうなんて・・・・・・シクシク』

『いや、ちょい! せいせい。早まっちゃダメだって。大丈夫。やましいことは一切ないからさ』

『ダウトだね。今度そっちに行ったら全部吐いてもらうからね。あとアメもしっかり準備しておいてね!』

 

 そのセリフと同時にブチッと通話が切れる。

 杏ちゃんも追求したい気持ちはあったのだろうが、電話越しじゃ埒が明かないと思い、今日のところは引いてくれたのだろう。

 予想以上に、効果のあったまゆと会った話に、内心ほくそ笑む。北海道にいる彼女はたいそう悔しがっているだろう。仲の良い兄妹のような関係の俺達は、こんな地味な所でも戦いをしているのだ。

 その渦中のまゆと、日曜日に出かけるんだよなと思いながらその日は結局、静かに寝たのだった。

 

 

 

 

 土曜日の昼下がり、一人の少女はとある一室へと足を運ぶ。

 

「お母さん。まゆに好きな人ができました」

「とても優しい人なんですよ。一目惚れだったんです」

 

 彼女はとても幸せそうに、まるでその事が今目の前で起こっているのではないかというほど詳細に、あのひと時を語っていく。

 

「きっと赤い糸で結ばれてたんですよね」

「まゆもウエディングドレスを着てみたいです。・・・・・・でもまゆは悪い子だから、あの人に――優也さんに好きになってもらえるか不安です」

「今度お母さんに紹介しますね?」

 

 彼女の独白は今日も続けられる。

 たとえ答えてもらえなくても、返事がなくても。

 

 

 




こんにちは。
今日は短いのを二話、投稿します!

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