三話程投稿します。それでは、では!!!
「今日から、お前の名は”楯無”」
「えぇ、私は●●だよ。そんな名前じゃないよ!!!」
「いや、これから更識の当主を貴女は受け継ぎます。故にこれからは、そう名乗ってください」
その日、少女は”自分の本当の名前”を失い、”更識楯無”となった。
それからの日々は、家に居る誰もが彼女の事を”更識楯無”と呼ぶ。一つ離れた妹ですら、彼女の名を呼ぶことがない。
少女は、自分の”名”を取り戻したいと願った。友人達も自身の”本当の名前”を知らない。
裏の一族である更識家の代々の当主は更識楯無と名乗る。これは、裏の世界で生きていくための名である。
幸いにも彼女は、様々な面で”才能”に恵まれていた。
文武両道、さらにはISの操縦から設計まで、寄せられる期待以上の成果を上げた。
その過程で彼女は、様々なものを諦めなければならなかった。年相応に遊ぶこと、世間一般的な恋愛など、
普通なら得られるはずのモノを自身の生まれゆえに・・・・・・
そして、現在、彼女は、更識家の当主、IS学園の生徒会長、ロシアの国家代表として振舞っている。
更識家のモノは、裏の世界には関わっても、より深い”闇の世界”には手を出すな代々より言われている。
”魔戒騎士に勝つのは、至難の業である”
”代々の当主の挑戦に全て勝利をした”
もし、魔戒騎士に自分が勝てるのならば、更識楯無ではなく、”本当の自分自身”を見てくれるのではないかと……
彼女は、年相応の少女であることを心から願っていた………
IS学園 生徒会室
「お嬢様、悪い癖が出ていますっ!!!言っておきますが、魔戒騎士に面白半分で近づくのは止めてくださいっ!!!!」
「虚。あなたも言うわね…カルシウム取ってるの?」
「ふざけないでくださいっ!!!!私でなくとも忠告ぐらいは進言させていただきます。これは、あの”番犬所”からの要請です」
「そう…でも、私と一夏君とどっちが強いと思う?」
「話を聞いていましたか?そうですね、ISの操縦を見る限り国家代表候補生では、相手にするには”覚悟”と”経験”が違いすぎます。国家代表でも難しいところでしょう。言うまでも無く、ホラーという魔獣は、私達の人智を遥かに超えています」
虚の言葉に楯無は、今一ピンとこないのか扇子を顎にあて、
「ホラーね。そんなに厄介なものかしら?」
「そうです、あれはISですら滅ぼすことが叶わない存在。ですから、面白半分に魔戒騎士の仕事、行動には干渉しないでください」
「でもね~~、そんな事、言われてもピンとこないわ。まるで想像の産物じゃないの」
「………実際にアレを目にすれば、お考えも変わると思いますが、遭遇することは、”死”を意味しますから、お辞めになったほうがよろしいかと……」
「虚、あなたは、見たことがあるの?ホラーを」
「………はい。幸運にも”魔戒騎士”に助けていただきました…」
虚は、忌々しそうに頬を歪めた。まるでそれは、理不尽な事に耐えているように見える。
「助けてもらったのなら、どうして一夏君達にきつく当たるの?」
「そうですね。私の親友をホラーごと殺したのですから…感謝などできようがありません」
虚の脳裏に忌々しい記憶が浮かぶ。ホラーに憑依された親友を死神を思わせる鎌で両断した赤い騎士の姿を……
”どうして、殺したのっ!!!助けられたかもしれないのにっ!!!!”
普段の冷静さをかなぐり捨てて、鎧を解除した狐目の男に虚は詰め寄る。
”無理だよ。ホラーに憑依されていた時からその子の魂は死んでいたんだ”
男が付けている目玉を模したイヤリングが少年のような声で、虚に語る。
”そんなのっ!!!あなた達の勝手な理屈じゃないですかっ!!!”
”勝手な理屈を言っているのは、お前だ。悪いが俺達”魔戒騎士”はホラーを狩るのが使命だ。悪い夢を見たと思って諦めろ”
狐目の男こと”五道 アキラ”はそのまま背を向けて虚から去っていった。
「そんなことがあったの?あなた……」
楯無は、悲しそうな目で虚を見る。
「はい。だから、私は魔戒騎士、法師がこの学園にホラーを招く可能性が怖いんです。その時に、もし……本音が……」
大切な者が”闇の世界”に巻き込まれて、命を落としてしまうのではないかという不安に駆られるのだ。
「……護りし者と言うわりには、やっていることは恨みを買うことをしているのね」
楯無は、飄々とした笑みを押さえ真剣な眼で”番犬所からの要請”を考えるのだった。
更識家は、日本の暗部に関わってきた影の一族であるが、闇の底である”番犬所”には繋がりこそは持っても、できる限り関わるなと言われている。
だからこそ、知りたいのだ。家の者達が、代々の当主が恐れていた闇の世界を……
好奇心が強いのは良く分かっている。魔戒騎士がどれほどのものなのかを確かめたい。歴代の当主は口を揃えて、魔戒騎士に勝つのは至難の業であると言う……
特に魔戒騎士の最高位である”ガロ”には、絶対に勝てないと……
「………それに一夏君って、ちょっとずるいわよね。女にしか扱えない”IS”と男しか扱えない”ソウルメタル”の両方が使えるなんて……」
一夏が男女両方の性質を持っているからこそ、使えるのだが……
楯無は一夏が二つの強大な力を使えることに少しだけ嫉妬の念を覚えた。何よりも……
(あなたは、自分が関わっている世界が怖くないの?”自分”を失くしてしまうかもしれないのに……)
一年一組 教室
「一夏さん、聞きましたわっ!!!ロシアの国家代表と試合をされますとっ!!」
セシリアは早朝、一夏の元へ詰め寄った。他の生徒達も騒ぎ出していた。
「何だとっ!!一夏、どういうことだっ!!!」
箒もまた騒ぎ出す。一夏は落ち着いた様子で
「ああ、ここの生徒会長の更識楯無さんから挑戦を受けた」
一夏の言葉にさらに周りが騒ぎ出した。
「うそっ!!!あの学園最強の会長がっ!!!!」
「でも、凄く盛り上がりそうだよね!!!早く、皆に教えてあげようよっ!!!」
IS学園の生徒会長になるには、一つの資格が存在する。それは”学園最強”でなければならないと言う事。
彼女は学園で唯一の国家代表であり、自由国籍を有してロシアの代表であるという。
「一夏さん、代表候補生と国家代表ではあまりにも差が付きすぎていますわ。挑戦をお受けしてよかったのですか?」
セシリアは、イギリスでの訓練時代に現在の国家代表と模擬戦を行ったことがあるのだが、その実力の差はあまりにもかけ離れていた。
大人と子供以上の差が存在しているのだ。更識楯無は、この学園では他の誰よりも遥かな高みに居る。
「確かに今思えば、受けたのは軽率だったかもしれないが……向こうは、私の気持ちを無視してでもそう仕向ける気だったのだろう」
「それは、どういう…『会長っ!!!!』
セシリアの言葉を遮る様に教室の入り口から声が聞こえてきた。
教室の入り口には、生徒会長の更識楯無と会計の布仏虚が立っていた。虚は一夏に対して、厳しい目を向けている。
「ごきげんよう、織斑一夏君、一年一組の皆さん。今日もいい天気ね」
楯無は”本日快晴”と書かれた扇子を広げて教室の前の教卓に進む。
「今日は、訳があって此処にお邪魔させた貰ったわ。一週間後の第一アリーナで私と織斑一夏君の試合をするから、よろしくね」
笑顔で宣言する楯無に対して、セシリアは一夏の言葉の意味を理解した。同じく鈴も
(……こいつ、あの場で断っても、絶対に断れないようにするつもりだったのね。更識って、どういう家なの?今度、烈花さんに聞いてみよ)
更識が影の一族であることは鈴も知識としては知っていたが、どういう一族かまでは知らなかった。今度の休みに師匠に聞いてみようと思うのだった。
「ちょっと、生徒会長、お待ちになってください。貴方は、一夏さんの気持ちを無視して、一夏さんを見世物にしようというのですか」
セシリアは、楯無に対して厳しい目を向ける。
「あら、貴女も”躾ける”とか言って、織斑君と試合をしたそうじゃないの」
楯無は扇子を顎にやって、飄々とした態度で言う。
「えぇ、確かにワタクシは、自身の”驕り”で一夏さんに決闘を申しました。ですが、一夏さんは己のためだけに……いえ、、自分の”力”を証明するためだけに戦うような方ではありませんわ!!!」
セシリアの言葉に一瞬だけ楯無の表情が曇った。虚ですら気がつかなかったが、一夏と鈴は気がついた。
「ふふふふふ、面白いことを言うのね。貴女……」
「ワタクシは、事実を申しただけです、生徒会長。仮に断っても、そうせざる得ない状況に追い込もうとするのは許せません」
毅然とした態度でセシリアは楯無に言葉を返す。そして……
「一夏さんの手を煩わせる訳には行きませんわ。ですから、このセシリア・オルコットがお相手を致しますわ!!!!」
誰も予想が付かないこの展開に誰もが驚く。
「セシリア。これは、私が受けた”挑戦”だ。だから、私が受ける」
「一夏さん!!!貴方が手を煩わせることなんて!!!!!」
「煩わせるもない。私は、彼女の”陰我”をここで見過ごせるわけには行かないからだ」
再び、”陰我”と言う聞きなれない言葉を一夏は呟く。
「”陰我”?何かしら、その意味は?」
「この世界の森羅万象に宿る”闇”の部分。人間の邪な欲望、愚かな願い……いや、誰もが持っている”心の陰”だ」
一夏の言葉に楯無は思い当たる節があるのか僅かだが口元を歪めた。
「私は”師”より、それを断てと教えられた。だから、この挑戦を断る事はできなくなった」
「かなりの自信ね。少し、自信が過剰じゃないかしら?私のように、よく分からない人間の世話を焼くなんて……」
「自信過剰なんてものじゃないわよ。一夏が戦うのは、それが使命だからよ…たとえ、相手が見ず知らずの他人でも守れる者なら守るわ。それが自身の都合だけを見るものでもね・・・・・・」
鈴が一夏の隣に立つように続く。二人の言葉に楯無の隣に立つ虚はさらに目を険しくする。
「そうなの?じゃあ一週間後の試合、楽しみにしているわ」
楯無は、虚を連れて教室を後にするのだった………
「守るなんてよく言えるわね。いえ、あなたたちのようなただの”殺し屋”が言っていい言葉じゃない」
虚は、憎憎しげに呟いた……
脳裏に浮かぶのは、死神を思わせる鎌を持った紅い魔戒騎士の姿…………
本音
おりむー。お嬢様と試合をするんだ。でも、何故戦うの?
よく分からない会話。昨日見たあの怖いおじさん。怖い目をしておりむーに当たるお姉ちゃん。
”陰我”って…心の陰って、あの完璧なお嬢様にもそれがあるの?
それを断ち切る。前のせっしーの時もそう言ってた。だから、今のせっしーは………
だったら、かんちゃんも、せっしーみたいに……
箒
一夏が前に言っていた”陰我”という言葉。あれは、そういう意味だったのか。
確かに私にも”心の陰”というモノが存在する。だけど、それは武道の鍛錬で克服することではないか?
国家代表と戦う理由が相手の”陰我”を断ち切るため。凰が言う”使命”……
一夏の師とは、どういう人物だったのだ?かつて、存在していた武芸者にも見える一夏だが……
やはり、私が知っている”一夏”とは違うのか?抱えている闇とは何なんだ?
すぐ傍に居る幼馴染と私は、住む世界が違うとでも言うのか?
いや、私と一夏の立っている場所が違うだけだ。私が一夏を支えられるぐらいに強くなればいいだけだ。
だから、一夏。お前の抱えている”闇”を暴かせてもらうぞ!!!!
放課後、一夏は自室に戻っており、そこで千冬と向き合うように話をしていた。
「……なるほど、更識がか……あいつめ、余計な事をしてくれる」
千冬は、額に人差し指を付いて溜息を吐いた。この学園で唯一の国家代表の更識楯無とは面識があるのだが、あの厄介な性格だけは何とかならないだろうかと思っていた。
「はい。私に勝負を挑んできたのなら、それ相応に対応はします」
一夏は、楯無との戦いは”協力者”として技量を確かめたいという考えではなく、彼女の好奇心から来ているものだと察していた。
「お前なら例え相手が国家代表であっても負けることはないだろうが。気をつけろ、あいつは”裏の事情”に通じている。油断はするなよ」
姉として千冬は一夏に注意を促した。この弟は千冬としては認めたくはないが、あのホラーと戦うために戦闘の技量と冷静さは、ずば抜けている。
予想の斜めを行くホラーを相手にする故に戦闘での油断はまず、ありえない。
「……IS側では私にあまり小言は言わないんだね。姉さんは……」
「一夏、口に気をつけろ。まったく……お前は一応ここの生徒だからな。ISでのやり取りは許容している」
「そう言ってるけど、姐さんは一夏がISに関わる事は許さなかっただろ?何だか、いまさらって感じがするんだが……」
ヴリルが千冬の発言に異を唱えた。
「不届きモノか……いや、今は不埒モノだな。一夏の胸に居座るとは……」
千冬は、一夏の胸の位置に居るヴリルに対し青筋を浮かべた。
「なんだ?その不埒モノっていうのは」
「当然だ。一夏の胸に納まろうとする”煩悩魔導具”など、その呼び名で十分だ」
「……姉さん。私の何処を見ているの?」
一夏は、千冬の視線から自身の胸を両手で隠した。その光景に千冬は
「ま、待て。一夏、私が見ているのは、その不埒モノだ。決して、お前の胸を見ているわけではないっ!!!!」
「そうだぞ、姐さん。だいたい、一夏の”もの”は俺を挟むほど大きくはない」
ヴリルの言葉に一夏の目から感情が消えた。
「………ヴリル。別に私は気にしてはいないけど、お前に言われると少し腹が立つのは何故だ?」
一夏は感情のない目でヴリルを手に取り、いつの間にか持っていた”魔導筆”でその口元をなぞる。
「おいっ!!一夏っ!!!俺が悪かったっ!!!許してくれっ!!!!」
ヴリルの声は無常にも聞き入れられなかった。紅く光ったと同時にヴリルの口は閉ざされてしまった。
口を閉ざされたヴリルは、そのまま箱の中に入れられてしまう。
「一夏、アレをこのまま何処かにやれないか?」
「……だめだよ姉さん。私はヴリルの相棒だから少し反省してもらうのも相棒としての勤めだから……」
”クスクス”と笑っているが、少し怖いのは千冬の気のせいだと思いたい。
(………一夏。お前は、どっぷり闇に浸かっているのだな)
昔は、あんなに可愛かったのにと過去を懐かしむ千冬であった。
「それと姉さん。更識楯無だけど……あの先輩は、何故”本当の名”を名乗っていないの?」
「なにっ?どういうことだ。”更識楯無”は、あいつの本名ではないのか?」
「前に番犬所から、こっちで活動する協力者が”更識”だって聞いたんだ。”更識楯無”は、裏の名で表で名乗る名じゃないんだって……」
一夏の言葉に、また厄介なことになったと千冬は思った。
「まったく、お前はどうして私の目の届かないところで、厄介ごとばかりに巻き込まれるのだ。あと、あの"軽い男”にも時々会っているようだな」
千冬の脳裏に何故か一夏と一緒に自宅に居た”軽い男”こと、涼邑 零の姿があった。
”お邪魔してます。一夏のお姉さん”
その横でお茶の用意をしている一夏。この光景にムカついたのは、何故だろうか?千冬には黙っていたが、腕輪だったヴリルを首飾りに変更したのは零である。
「不届きモノを不埒モノに変えたのは、どうせあの男の仕業だろう。あの男は、何故、私の家に我が物顔で居座るのだ!!!!図々しいにも程があるわっ!!!!」
当たっているのは凄いと一夏は、思った。それから三時間後にヴリルは開放されるのだった。
「一夏の”女の部分”は、怒らせるとめちゃくちゃ怖いんだよな」
それから二日後、一夏は第三アリーナで蒼牙を展開していた。
「おい、一夏。お前はISをここまで動かせるんなら、後は”騎士”としての鍛錬を積んだほうがいいんじゃないのか?」
「束さんも言っていたけど、ISのコアには独自の意思があり、使用者に合わせて最適化し、進化をしていく。だから、少しでも動かさないと……」
ヴリルの問いに一夏は、ISの訓練の必要性を説く。IS学園に居る以上は、これを行わなければならない。
「なるほどな……更識楯無は国家代表だったな。確かに今は、ISを動かせるだけ動かした方がいいか……しかし、本当に対したもんだな。まさか意思の在るモノを生み出せるようになるとは……」
感慨深げにヴリルに呟いた。
「だが、話ができないのは残念だ」
「魔導具とISの会話か。どんな話をするつもりだ?ヴリル」
「ISは、男か女のどっちなんだ?女しか乗れないから、女なのか?」
ヴリルの疑問は一夏にも分からなかった。なぜ、ISが女にしか動かせないのかは、開発者である篠乃之 束にも良く分かっていないからだ。
ちなみに魔導具達の意思は、男のものもあれば女のものもある。
一夏は、もしかしたら自分と同じ中性かとも思ったが確かな答えではないので胸のうちにそっと留めた。
ここで誰かがコアのネットワークに呼びかけてきた。ISのコアは、相互通信ネットワークが内蔵されている。
これは広大な宇宙空間でのお互いの位置を確認することと連絡を取り合うためのものである。プライベートとオープンが存在する。
「誰かな?」
<織斑君。今、少しだけ話してもいいかな?>
呼びかけてきたのは、更識楯無の妹、更識簪であった。
一夏は簪と本音の二人でアリーナの客席に座っていた。
二人は、一夏のスタイルを見て溜息を付いてしまった。女である自分達以上のプロポーションに自信を失ってしまう。
「ねえ、おりむー。どうして、そんなにスタイルが良いの?男の子なのに……」
「………お姉ちゃんよりも凄いかも」
本音は羨ましがり、簪は自身の姉に勝っている一夏のスタイルとこれで胸が大きければ、”無双”ではないかと思うのだった。
「……あまり見ないでほしい。見られるのは、恥ずかしいから……」
一夏は予め用意しておいたジャージを羽織る。その様子に二人は、本当に一夏は”男”なのかと疑問符を浮かべてしまう。
本来なら女子が恥らうべきだが最近はISの登場のため恥らう女子が少なくなっており肌の露出する機会が多い。
「まさか、私にそんな事を言いにきたのか?」
「違うよ。前のこともだけど……かんちゃんのお姉さんがおりむーの協力者ってどういう事なの?」
本音の言葉に続くように簪が視線を一夏に向ける。簪も更識家が普通の一族ではないことを知っている。だが、具体的にどういう事を行っているかまでは把握していなかった。
一夏は、どう答ええるべきかと悩んでしまった。理由は言うまでもなく、”闇の世界”に彼女達を巻き込んでしまうことに戸惑ってしまったのだ。
一夏の悩みを吹っ飛ばす言葉が響いた。
「な~に、一夏の”魔戒騎士”としての活動の協力者だ。それが、お前の姉さんってことだ」
ヴリルがISスーツ越しに喋ったのだ。その声に本音と簪は驚いたように辺りをうかがう。
「ヴリル……私がいいと判断するまでは、喋るなと言ったのに……」
「生真面目な奴だな。硬いこと言うな、あの姉ちゃんの身内だ。関係の無い話じゃない。それに……」
ヴリルは、少し言葉を切り……
「姉弟同士の隠し事は、もう懲りてるだろ?一夏」
一夏
言われてみればそうだった。かつて姉さんは私をISに関わらせたくないのか、どういう仕事をしているのか教えてくれなかった。
今思えば、ISに関わる影の部分に私を関わらせたくなかったのだろう。
そういう私も”魔戒騎士”であることを隠していた。姉さんがどんな思いで私を守ろうとしていたかを知ろうとしないで………
私を愛するあまりに世界そのものを変え、守ろうとしてくれたことを……
私が”魔戒騎士”であることを知ったとき、姉さんは酷く取り乱し、自分の及ばない世界を知ってしまった。
色々とあったけど、私と姉さんは今も家族で居る。少しばかりのすれ違いはあるけれど、前よりも”家族”でいる。
察すれば布仏さんと更識さんの姉さん達は、闇の世界に関わろうとしている。そんな世界に関わるのならば、二人も無関係ではいられないだろう。
ヴリルの言うように、私は話さなければならないのだろう。それから、どう選ぶかは……二人次第だ。
簪
信じられない話だった。数日前に私たちを襲ったのは、魔界から現れる怪物”ホラー”であり、織斑君はそれを狩る”魔戒騎士”であるという。
作り話にしては細部までしっかりしている。それに今、織斑君の胸に掛かっているアクセサリー、いや、”魔導具”の存在が何よりの証拠だ。
さらに数日前、ISの武装すら破壊する様を私はこの身で味わった。アレは、ISで倒すことは不可能だ。
これだけを聞くと魔戒騎士はヒーローとも思える。
「ホラーは人や物に憑依して活動する。人が憑依されたら”死”を意味する」
私が憧れるヒーローは決して人を助けることを諦めない。だけど、魔戒騎士は私が憧れるヒーローではなく、多くの人を守るためにホラーを狩る”守りし者”。
「助けられたら、それはいいことだと思う。ホラーに憑依されたら未来永劫、魂は苦しめられる。ホラーを倒さない限り……だから、狩る」
私たちの世界にも”安楽死”というものがある。苦しみ続ける人を助けるための救済というけど、命を絶つことが助けることとは思えない。ましてや、ホラーに憑依されただけで…その人の命を絶つなんて……
「分からないなら構わない。だけど、私やその協力要請を受けている君のお姉さんに関わる限りは、ホラーとは無関係ではいられない」
織斑君は、私達が関わらなければいいという話ではないといっているようだ。
「姉さんは自分の関わっている”事”に関わらせたくはなかったんだけど、こうして”事”に私は関わってしまった」
言うまでも無くISに織斑先生は織斑君を関わらせたくなかった。だけど、織斑君は関わってしまった。
私も姉が”裏の事情”を抱えているのなら、そうした事態に関わってしまうのだろうか?
更識家はそういう家だとは知ってはいるけど、そうした事にはまだ私は関わっていない。でも、いつかは無関係ではいられなくなる………
織斑君の言葉を私は考えなければならないと思う。
「おりむー。お嬢様に”陰我”があるって言ってたけど、そっちはどうなの?」
本音が私も聞きなれない”陰我”という言葉の意味を織斑君に聞いている。
「そっちの方だけど、私の姉さんと同じで何処の家の”優秀な姉”も悩んでいることは同じらしい。あっちは、少し私を舐めすぎだ」
何処の家の優秀な姉の悩み。それは一体なんだろう?その後の織斑君の話に私は、自分の視野が酷く狭く、また自身の事しか考えていなかったことを改めらされた…………
一夏は本音と簪と別れた後自室へ戻っていた。ドアノブに手を掛けようとした時、扉の向こうに気配を感じた。
「…………」
「一夏、誰か居るぞ。姐さんじゃねえ」
今日、千冬はIS委員会が主催する会議に出ており帰って来るのは明日のはずだ。
言われなくても分かっているのか一夏は目を細めて扉を開けた。
「おかえりなさい。お風呂にする?ご飯にする?それとも……わ・た・し♪」
部屋の中には、所謂”裸エプロン”と言う格好の更識 楯無が笑顔で立っていた。
茶目っ気たっぷりの子供のような笑みで一夏を見るが、一夏は表情一つ変えずに……
「お引き取りください。私に貴方のような人は知り合いには居ません」
そう言って、部屋から出るように促す。
「フフン♪いいじゃないの。私達、一応は”同性”だし…貴方のとは、どっちが大きいかな?」
楯無は豊満な胸を一夏に見せ付けるように前に進む。やはり一夏は、まったく動じていない。普通の男なら、この状況にアタフタするのだが……
「私は、”どちら”でもない」
「女の子でもあるのは、事実じゃない」
猫なで声で楯無は、一夏の腕に自身の身体を絡める。
(織斑君って、男でも女でもあるのよね。恋愛は、どっちが好きかな?)
「おいおい、随分と積極的だな。更識楯無」
ヴリルが楯無に対して、挑発的に声を掛ける。
「……………」
一夏は無言のままである。いつもより目が険しいのは気のせいではない。
「やだ♪そんな目で睨まないの」
「この目は元々だ。私に貴方の行為は、無意味だ。話したいことがあるのなら、はっきり言って欲しい」
一夏は楯無の腕をいつの間にか解き、彼女と正面で向かい合う。
自分に気づかれずに腕を解かれたことに驚いたのか、楯無は雰囲気を変えた。先ほどの雰囲気とは違い、僅かな冷たさを秘めていた。
「そうね……少しぐらい楽しんでもいいんじゃないの?」
楯無はエプロンを解き、自身の裸体を一夏の前に晒した。やはり、一夏は動じない。むしろ、”何故、裸になる”という疑問すら出ている。
一夏の前に、”女の色香”が通じないことに楯無は、内心、舌を打ちながらベッドに腰をかける。
「正直に言ってもいいかしら?」
楯無は、少し間を置き
「貴方の所属する”番犬所”からの要請を受けるまで、”魔戒騎士”なんて単なる”噂”でしかないんじゃないかって思っていたわ。それに、”ホラー”に関しては、未だに信じられないわ」
「それは当然だ。私達”魔戒騎士”は、闇に紛れ、一般人が認知しない世界で剣を振るっている。信じられないのは無理もない」
本来なら決して知る必要の……いや、知ることが許されない世界なのだ。目の前に居る一夏は、そういう闇の世界の人間だ。
「だから、”闇の世界”を知りたいのか?それにホラーが信じられないのは無理もないが、興味本位で会おうとするなよ。下手したら、取り付かれるぞ」
ヴリルが楯無に釘を差しておく。理由は言うまでもなく、楯無が興味本位でホラーに近づかないようにである。
「取り付かれたら、私をホラー共々殺すのかしら?あなたは……」
「私もそういう事態には、ならないでほしいと思う。ホラーを狩るのが、私の使命だからだ」
裏の世界を知る人間として楯無は、目の前の一夏と対峙する。一夏の目に迷いはなかった。相手が親しいものでもホラーに憑依されたら、容赦なく葬るであろう。
「それが、守りし者なの?それじゃあ、まるでホラーを狩るだけの”殺し屋”じゃない」
冷たい視線を一夏に向ける楯無だったが相手がこのような恨み言には慣れっこなので、彼女の望む反応は得られなかった。
楯無は無言のまま着替えた後、部屋から出て行った。
「四日後の試合……楽しみにしているわ」
楯無
あれが、”魔戒騎士”。はっきり言って、”殺し屋”にしか見えない。
伊達に更識家の当主を務めているわけではないので、裏の世界の人間とは何度か対峙したことはある。
だが、あのような人間は初めてだ。一つ年下であそこまで己の信念に邁進する存在は………
むしろ、人としての感情があるのかどうか疑ってしまう。情がないから、容赦なくホラーごと人を殺せるのかもしれない………
ホラーというモノがよく分からないが、人間が憑依されたら”死”と同じであるという。
ホラーに憑依されたから、人間ごとホラーを狩る。いや、殺す。生徒会長としては、仮にIS学園の生徒がそうなることは許せない。
家のものからは、”番犬所”からの要請は受けろという。だけど、あの織斑一夏を中心に引っ掻き回されるのは、私としては少し許せない。
ホラーは魔戒騎士か、魔戒法師かのどちらかでしか対応ができないためだ。
織斑一夏の戦闘能力は、はっきり言って私よりも上だ。対暗部用の心得のある私だが、相手は”人智を超えた魔獣”に対する戦闘の心得を持っている。
妹の簪をホラーから助けてくれたのは感謝してもいいかもしれない。ただ、ホラーの恐ろしさが分からない私には、どう感謝していいのか……
だけど、学園最強の名に懸けても”更識楯無”は、織斑一夏に負けてはならない。
代々の当主が”勝てない”と称する”魔戒騎士”をこの手で倒し、証明してみよう。これが、”私”だということを………
そうすれば、私は…また”本当の名”を名乗れるかもしれない………
寮の部屋に戻ろうとする私を待ち構えるように、セシリア・オルコットが自室の前に立っていた。
「ちょっと、よろしくて…更識生徒会長」
「何かしら?セシリアさん」
二人は、夜のアリーナで互いにISを展開して向き合っていた。既にアリーナは閉館の時間であるのだが生徒会長の権限を使い、この場に居るのだ。
セシリアの専用機 ブルー・ティアーズと楯無の専用機はミステリアス・レディ。
ミステリアス・レディはブルー・ティアーズと違い、全体的に装甲が薄く、まるで水の鎧を纏っているように見える。
掴みどころの無い性格の彼女をそのまま反映しているようである。
「更識生徒会長。ワタクシは、あなたのその悪趣味な性格を正して見せますわっ!!!!」
「あらあら……私は、人に言われるほど性格は悪くはないわよ」
「一夏さんの気持ちを察せずにを困らせている貴方が言っても説得力はありませんわっ!!!」
「今年の一年生は、色々と面白いわね」
挑発的な笑みを浮かべ、楯無は自らのISの武装を展開させる。武装白兵戦用のランスである。
対するセシリアは、ライフルを構えると同時にBTを展開させる。
「第三世代専用の武装ね。あなた……そんなに器用だったかしら?」
「そうですわね。前のワタクシならそうでしょう!!!!」
ライフルからビームが撃たれる。撃ったと同時に思考をBTに切り替えて、楯無の左右と背後からピットによる攻撃が展開される。
「ふ~~ん。攻撃の切り替えを速くして、BTの操作の誤差を無くしたの?まるで、織斑君の戦い方ね。でも、甘いわよ」
水色のヴェールが楯無を包み込み、防御する。その防御の膜は非常に弾力性に富んでおり、セシリアからの攻撃を全てカットした後、急速に離脱し、ランスに備わっているガトリングでセシリアの防御シールドを削る。
「っ!?!!なんて、正確な……これが国家代表の…候補生とは違いますわ!!?!」
肩に腹に衝撃を受けながらもセシリアは戦意を失うことは無かった。かつての訓練時代、国家代表のあまりの強さに戦意を失ってしまった。
今も同じく現役の国家代表と戦っている。今のセシリアが楯無と戦う理由は……
(少しでも……生徒会長のISの情報が引き出せれば……)
セシリアは一夏が戦うのならば勝利をして欲しいと思い、自らが噛ませ犬として、情報を楯無から得ようと考えたのだ。
セシリアが一夏に勝利を願うのは、彼女にとって一夏が”騎士”であるからだ……
数日前、凰鈴音との話を終えてセシリアは第三アリーナで一夏とISを展開させて訓練を行っていた。
模擬戦を行っているが、一夏はやはり強かった。攻撃を交わし、その上で的確な反撃をしてくるのだ。
弓で打ち、剣で切り裂く。一通りの訓練を終えた後二人は、
「やはり、お強いですわ。どうすれば一夏さんのように強くなれるのでしょうか?」
「セシリア。私を買いかぶりすぎだ。私などよりも強い”男”はいくらでも居る」
「えぇ、一夏さんよりも強い方がいるのですか!?!」
セシリアの言葉に一夏は、
「うん、特に”あの人”には絶対に追いつくことができない。それに今の私があるのも、あの人、鋼牙さんのおかげだ」
一夏の脳裏に魔戒騎士の最高位 黄金騎士 牙狼、冴島 鋼牙の姿があった。一年前、孤独な戦いをしていた自分と共に戦ってくれた”仲間”でもある偉大なる”先輩魔戒騎士”。
様々な強敵ホラーと戦い、恐るべき七体の使徒ホラーを殲滅し今や、元老院所属の魔戒騎士だ。
「鋼牙さんは今も”強く”なり続けている。私以上に……だけど、いつかは……あの人と肩を並べるようになりたい」
その時の一夏は、何処か遠くを見ているようにセシリアは見えた。セシリアは知らないが、一夏の心には”黄金騎士”の雄姿が今も存在しているのだ。
(思えば、ワタクシは一夏さんの事を何も知りませんのね。貴方が何を目標にし、何になりたいのかを……あなたの強さは、あなただけのモノではないんですのね)
一夏の”強さ”の秘密が少しだけ見えたセシリアだった。もっと知りたくなった……
一夏には一夏が過ごした時間がある。それは、一夏だけが知ることでありセシリアが知ることができない物語。
楯無は強烈な突きを連続でセシリアに放つ。放たれたセシリアは、ライフルを楯に防御し、BTを動かそうとするが、食らい付いてきた楯無の攻撃に思考が乱されてしまう。
「遠距離戦仕様のブルー・ティアーズもこうされると何もできないわね」
さらにガトリングがセシリアを襲う。突きとガトリングによる銃撃による攻撃により、ブルー・ティアーズのシールドエネルギーがさらに減っていく。
セシリア
実力は、圧倒的に開いていますが、貴方には一矢を報いて見せますわ!!!!!
一夏さんもご自身が”理想”とする”強さ”を目指しております。ですから、ワタクシも……
いつか、ワタクシが自分が理想とする”強さ”を得られるまでは………一夏さんを支えられるようになるまでは………
鈴さんも、油断はしないでくださいよ。ワタクシも一夏さんに想いを告げて見せます。ですが、この想いは今は、留めておきます。
一夏さんに今、告白しても迷惑がられるでしょうね。だから凰鈴音さんも保留にしているのでしょうね。
一夏さんの事をだれよりも考えて、一夏さんが一夏さんで居られるように……
だけど、ワタクシは一夏さんには勝って欲しい。生徒会長にあなたが何を見たかは知りませんが、勝ってそれを断つことが、この方にとっても良いことなのでしょう。
ですから、必ず勝って下さい!!!!!!!!
ワタクシは一か八かの接近戦を仕掛けるべく、ショートブレードを水色の装甲に突き立てました………
勝者 更識 楯無
アリーナの地表で息をついているセシリアに楯無は問いかけた。
「ねえ、どうして私に挑戦をしたの?」
「………あなたのその悪趣味な性格を正そうと思っただけですわ」
「嘘ね。貴女は、国家代表の強さを知っているわ。分かっているのに戦いを挑むのは自信過剰にも程があるわね」
話すことが無いのか楯無はそのまま背を向け、入り口で待っていた虚と共にアリーナを後にした。
「………織斑一夏のためかしらね」
織斑一夏と更識楯無との試合の前日、鈴は一泊二日の外泊の許可を取り師匠である烈花の下を尋ねていた。
「IS学園は寮制と聞いていたが、かなり融通が利くのだな」
さっそく尋ねてきてくれた弟子に近況を聞きながら、今、鈴が巻き込まれている事態を話す。
「そうなのよ、アタシも修行中の身だから、こうして烈花さんの所に来られるのはありがたいから良いけど…」
「確かにな。お前の修行を疎かにしてしまうのはだめだ。一週間に一度は、俺の所に顔を出してもらうぞ。鈴」
烈花が不敵な笑みを弟子の鈴に向ける。この笑みに鈴は、表情を引きつらせた。
「何故、表情を強張らせている。まだ鍛え足りんようだな。よし、これから武道場へ行くぞ」
「えぇっ!!!今からですかっ!?!」
「その後に更識について教えてやる。さあ、来い」
今日は穏やかに師匠の知恵を借りに来たのだが、ここでまさか、修行に入るとは思わなかったのだった。
鈴は烈花に表立って反逆することができないので、彼女はそのまま引きずられるように武道場へと引きずり込まれたのだった………
鈴は一泊二日の外泊許可は貰っているので、学園に戻らなくても良かった。
武道場で烈花と鈴は並んで、構えを取り守りと攻めの型の演舞に入る。
拳を突き出し、蹴りを繰り出す。掌底を放つと同時に法力が赤い螺旋を描く。
肘打ち、身体を大きくそらせたと同時に飛翔し、着地する。これらの動作を烈花と鈴は繰り返し行う。
一通りの型を終えて、互いに礼を取り、稽古に入った。互いの拳と蹴りを交え、競り合う。
「はあっ!!!」
「やあっ!!!」
互いに声を上げ、二人は大きく飛翔し互いに拳と蹴りを時には、法力を交えた螺旋が飛び交う。
(…鈴。まだまだ守りが甘い)
烈花は、弟子の様子に自身を少しだけ重ねた。自分もどちらかといえば守りよりも攻める方に転じやすい。
自分のそういうところには、あまり似て欲しくないと思うのだが、鈴が攻めに転じやすいところは、明らかに自分の影響であると考えていた。
掌底を鈴のわき腹に当てる。当てられた鈴は大きく身体を仰け反らせ、そのまま武道場の床に頭を打って気絶してしまった。
「鈴。まだまだ甘い!!!!」
「……あれ、アタシ。何やってたの?」
それから数分後、鈴は頭が痛いのを感じながら、意識を覚醒させた。
「愚か者が。俺の一撃を受けて頭を打ち気絶したのだ。守りの型を疎かにしたためだ」
すぐ傍に烈花が腰に手をやって自分を見下ろしていたのだ。
「まったくお前は、相変わらず攻撃に徹すると守りが疎かになる。もう少し、守りを固めろ。敵を倒すのも大事だが、それ以上にお前はお前自身を守らねばならん」
「はい。でも…どうしても”強く”なりたいんです。一夏を、一夏みたいな”守りし者”に!!!」
鈴は力を求めている。それは自分のためではなく、一人の”想い人”のためであろう……
「織斑一夏は、既に称号を持った魔戒騎士だ。織斑一夏は、今や時代の中心に近い場所に居る。鈴、お前は、まだそこには居ない」
烈花の言葉に鈴は、自分の力はまだ”想い人”の支えには至らないことを改めて自覚し俯いてしまった。
「焦るな鈴。お前は、必ず”強い”魔戒法師になる。その時多くの人々を救い、織斑一夏の力になる。お前の時代は、まだ先だ。今は、それに備えるんだ」
烈花は鈴の隣に座り、新たに作った笛を奏で始めた。俯いていた鈴も続くように笛を奏でる。武道場を”英霊達への鎮魂”が響き渡った………
稽古を終えた鈴と烈花は、向き合い話し合っていた。
「更識楯無だが、これは本名ではない。代々の当主に告げられる名前だ。おそらくは、本名は別にある」
烈花は自身が知っている”裏の世界”の事情を鈴に伝える。彼女は魔戒法師の修行の傍ら、そういった”一族”の事も知識として習得していた。
かつての師”アカザ”の伝手もシグト共に引き告いでおり、烈花の顔はそれなりに広い。
最も烈花が有名なのは”女でありながら魔戒騎士顔負けの戦闘能力”、”ホラーすら怯む程の暴れっぷり”である。
年配の魔戒法師からは女のくせに出しゃばり過ぎと言われているが、某騎士は”守りし者に、男も女も関係ない”と反論している。
「ホラーが憑依することは自分ではない自分に脅かされることだ。楯無自身も、本名ではないこの名に何かしらの”感情”を抱いているのだろうな。ある意味、ホラーに憑依されるのと同じことかもしれん」
烈花は、鈴に楯無が一夏に魔戒騎士に勝負を挑んだのは、そういう思惑もあってではないのかと言う事を伝えた。
「それって、何だか複雑……」
「そうだな。俺としては、更識家の当主にそんな”小娘”を据えるから、こういう事になったのだと思う」
「何だか嫌ね。そういう家に生まれなくてよかったわ、アタシ」
「そうだな。俺は女に生まれたことを恨んだ事もあったが、今は自分に満足している」
「アタシは、今の自分にはまだまだ不満を持ってるけど、いつかは誇れる自分になるわ。そういえば、シグトは何処に行ったの?見ないんだけど……」
「ああ、あいつなら新しい”号竜”の受け取りで離れている。今夜は帰らん。それとシグトを呼び捨てにするな。馬鹿者がっ!!!」
鈴の頭に特大の拳骨が当たったのは言うまでもない。凰鈴音が一人前の”魔戒法師”になる日は、まだまだ遠い…………
試合当日
第一アリーナは、これまでにない観客で満席だった。今日の対戦カードは、更識楯無VS織斑一夏の注目の一戦であったからだ。
ビットでは千冬、真耶、箒、セシリア、鈴の三人が居た。
「織斑先生。織斑君は、大丈夫でしょうか?相手は国家代表ですよ」
「何を言っている、山田君。私の弟だぞ、更識如きに遅れは取らんさ」
普段は生徒を贔屓にしないのだが、珍しく一夏を推している千冬であった。
「あれっ?珍しいですね、普段はあまりそういう事は言わないのに」
真耶の言葉に千冬は
「なに……弟に勝手な因縁をつけてきた小娘に負けるはずがない。それにあいつは、楯無の”陰我”を既に見ているようだからな」
箒、セシリア、鈴の三人はビットから飛び出し、第一アリーナ上空で対峙する一夏と楯無が映るモニターに視線を向けていた。
第一アリーナ上空
「織斑君、どうかしら?第一アリーナは、気にいてくれたかしら?」
楯無は笑みを浮かべて一夏に尋ねる。一夏は狼を模したバイザーをつけているため表情は伺えない。
「別に何が変わるわけでもない。こういう見世物になるのは、これっきりにして欲しい」
「あらあら、言うわね。ISはスポーツなのよ。観客を魅せて、楽しませるのも私たちの役目よ」
水のヴェールが揺らめく様は、彼女の掴みどころの無い性格を現しているようだ。
「悪いが、私は人を楽しませる”能”は無い。だから、早めに切り上げさせてもらうぞ」
「ふふふふふふ、言ってくれるわね。さすが魔戒騎士だわ。だけど、その魔戒騎士を倒せば私も拍がつくわ」
そのときの楯無の表情は、まるで獲物を捕らえた肉食獣のようであった。
「やっぱり心に陰があったか……一夏、あの子の陰我、お前が断ち切れ」
「言われるまでもない。楯無さんは、まるで”昔”の姉さんみたいだ。だから、放ってはおけない」
試合開始のブザーがアリーナに響き渡った。
一夏
楯無さんの”心の陰”。それは、年相応の少女であることを望む心。
裏の一族の家に生まれたことで、その影に生きることを教えられ、普通の少女であることを許されなかった。
まるで私を育ててくれた”姉さん”のようだと思う。
学生の頃から、幼い私を育てるために四苦八苦していた姉さんは、社会の理不尽さに耐えるために年相応の”少女”であることを捨てた。
でも本当は、心では”普通の少女である”ことを望んでいた。
幼い頃、姉を駅まで迎えに行ったときに、流行の服をウインドウから見ていた姉さん。
同じ年頃の少女達が遊ぶ光景をうらやましそうに見ていた姉さん。
顔も分からない”両親”に捨てられた姉さんは”普通の少女”であることを諦めなければならなかった。
好きな”異性”だって居たかもしれない。もっと遊びたかったかもしれない。
だからこそ、私にその願いを託すように”普通”であることを望んでいた。だけど、姉さん。本当は姉さんが望むべきだと言いたかった。
今の私は、普通とは言いがたい。魔戒騎士で、一般の人の生活を捨てている。だけど、この事に後悔はしていない。
私は”守りしもの、闇を照らす希望の光であらなければならない”
姉を不安にさせている私は、本当の意味で”強く”はない。だから、姉を安心させたい。だからこそ、”強く”なりたい。
だからこそ、この勝負。負けるわけにはいかない。
試合開始と共に一夏は、雪片を構え瞬時加速を伴って楯無に迫った。ブレードを横なぎに切りつけるが、楯無はランスでそれを防ぐ。
凄まじい衝撃に対して口元を歪め、楯無は
(想像以上に”力”が強いわ)
蒼牙は接近戦を主体としておりそのためパワーとスピードに優れている。何とかこれを弾こうとランスに意識を寄せるが、対する一夏は回し蹴りを加えてきたのだ。
水のヴェールが一夏の蹴りを弾く。その瞬間に一夏は上昇し離れる。
「女の子に蹴りを加えるなんて……やってくれるわね」
「戦いに女も男も関係はない」
一夏の容赦が無い攻撃に楯無は冷や汗をかくが、一夏は涼しい顔である。
男は女を傷つけてはならないとフェミニストは言うだろうが、一夏は女でもあるので女に攻撃をすることに戸惑いは無い。
この光景に冷や汗を流すのは、楯無だけではなかった。
「……おりむー。本当に織斑先生の弟なんだね」
「…………織斑君」
本音と簪は一夏の容赦の無さに頬を引きつらせてしまった。
同じくピットでも……
「一夏……昔のお前は、私に似てもう少し穏やかだっただろう」
何故か嘆く千冬。
「やっぱり、先輩の弟です。織斑君は……」
真耶は代表候補生時代の頃の千冬と一夏の姿を重ねた。
「一夏の奴。かなり荒っぽくないか?」
「一夏さん!!!遠慮は要りませんわ!!!!」
「一夏のISって、あれをそのままコピーしたのかな?」
三者三様の反応だった………
一夏
国家代表なだけに流石に強い。先ほど離脱したときに”人体”でいう急所の”肝臓”のあたりを突こうとしてきた。
咄嗟の反応と判断力は、十分に実戦でやってのけることができる。さすがは、更識家の当主だけはある。
距離を取られた私に、楯無はランスに備え付けられているガトリングを放つ。狙いは正確だ。私を遠ざけようと距離を作っている。
僅かではあるが蒼牙の肩の部分に当たってしまう。いつまでも当たるわけにも行かないので六枚の翼を展開し回避したと同時に瞬時加速を発動させて雪片で切りかかった。。
(これが魔戒騎士の実力。今まで戦ったどの相手よりも強い)
ダメージを受けること覚悟で攻撃を仕掛けてくる。
正面から来た攻撃を水のヴェールで防御をするが、それを押し切るようにしてヴェールを勢いと斬撃で圧してきた。
「くっ!?!やるわねっ!?!でも、簡単には負けられないわ!!!」
ヴェールに指示を出し、より強固なモノに変化させる。
楯無の専用機のほとんどは”ナノマシン”によって構成されていて、私の意志一つでその形状を変化させることができる。
水のヴェールを楯から槍に変化させて、攻撃を加えるが、それを全て刃で薙ぎ払い、拳を叩きつる。
ISの力は、殴るだけでも凄まじいものを誇る。それをまともに受ければ、当然のことながらシールドエネルギーは削られ、ダメージを受ける。
(でも……これぐらいで勝ったとは思わないでねって……思ってないわよね)
楯無は、目の前にいる一夏の周囲に怪しい視線を向ける。
雪片を使い、一夏は楯無に追い討ちをかけようとするが、楯無の専用機が展開する水のヴェールが少し気になっていた。
それと自身の勘が周囲に気をつけろと言っているのだ。先ほど形状を変えたところから、それなりに厄介な能力があると見ていたのだ。
相手は国家代表。自身の姉である千冬もそうであるが、一段の構えではなく二段、三段の構えを備えているであろう。
「織斑君。あなたは強いわ、私よりも……だけど、ISでの勝負なら絶対に負けないわ。何より、これなら絶対にあなたに勝てる」
楯無は自身のISのモニターが表示する蒼牙の周りの湿度が異常に高まっていた。
左の親指を中指で指を”パチン”と鳴らす。
音と共に、蒼牙の周囲に散布されていた水の分子が一斉に水蒸気爆発を起こす。
これが、楯無の得意とする”クリアパッション”。一斉に加熱して水蒸気爆発を起こすものである。
「最後に勝つのは、私よ。これで代々の当主が上げられなかった白星を私が初めて…『悪いが、こっちもやられるわけにはいかないんだ』
爆発の影響で爆煙が立ち込めるが、蒼牙は悠然と立っていた。その全身に炎を纏って……
「危なかったな一夏。まさか、こいつを使う事になるとはな……」
ヴリルが蒼牙のモニターに見える99.9秒からカウントされている表示を見た。
「ああ、蒼牙の”烈火装甲”は、全てを攻撃にまわしている。だから、早く切り上げる」
雪片の刃を向け一気に楯無のミステリアス・レディに向かっていく。
「まさか、”クリアパッション”をあの炎で相殺したの?」
思わぬ切り札に楯無は驚くものの直ぐに、自身の奥の手である”ミストルテインの槍”で迎撃すべく防御用の装甲表面を覆っているナノマシンを一点に集中させ攻性成形を遂げる。
防御用のナノマシンも攻撃に回されるため、自身も大怪我を負いかねない”技”である。
「負けるわけにはいかないわ!!!!私が、私であるためにも!!!!!!」
95.7秒……
炎を纏った蒼牙は雪片を上段に構えて切りかかる。
83秒
ミステリアス・レディ正面に集中される”ミストルテインの槍”
70・60秒
二機のISが近づき、二機のエネルギーがぶつかり合う。
「最後に勝つのは、私よ!!!!織斑君っ!!!!!」
小型気化爆弾四発分の威力が蒼牙を襲う。蒼牙は怯むことなく進み六枚の羽を大きく展開させ、勢いをまして”ミストルテインの槍”の威力を真っ向から受ける。
40秒
「あっちいっ!!!熱いぞ!!!」
生身の人間ならば跡形も無く消滅していたであろう熱量に耐えられるのは、ISの絶対防御のおかげであるが、このまま受け続けるのはさしがに厳しい。
頬に汗を掻くのを感じながら一夏は、集中した”エネルギー”の本流をいなす様に雪片をそのまま振り下ろし、その刃を踏み台にし足蹴りにしてエネルギーの無い楯無の頭上へ跳び上がった。
30秒
「「「「「「ゆ、雪片を踏み台にしたっ!!!!!?!!!」」」」」
これにはアリーナ全体が大きく驚いていた。まさか武器を手放し、それを踏み台にするなど考えられなかったからだ。
特に千冬は、自分ですら思いつかなかった”雪片”の使い方に開いた口がふさがらなかった……
20秒
楯無は目の前の状況に驚くも直ぐに態勢を立て直そうとするが、頭上に居た”烈火装甲”を纏った蒼牙は弓を展開させ、矢を楯無に放った。
「くっ!?!!わ、私は……」
立て続けに放たれる正確無比な矢を防ぐ事ができずにシールド・エネルギーは削られ………0になった。
10・9・8・7・6・5・4・3・2・1・・・TIME OUT
時間が過ぎ、”烈火装甲”が解除された蒼牙のエネルギー量は10を切っていた。
「勝利者 織斑一夏」
「あれ?負けちゃったの?私……」
楯無は、自身の敗北が信じられないのか呆然としていた。”ミストルテインの槍”を正面に捕らえたときに勝利は確信していた。
だが、相手は自分の想像だにしないやり方で打開し、勝利したのだから……
「はははは、これが魔戒騎士。勝てないわけだわ……」
歴代の当主が勝てなかったのも分かる。いかなる困難にも決して怯むことなく突き進んでいく彼らを止める術などないのだから……
奇襲ではなく、真っ向正面から勝利されては悔しさも無い。むしろ清清しささえ感じてしまう。
まるで霧が晴れたかのように楯無の気持ちは晴れやかであった。
「織斑君……あなたに聞きたいことがあるわ。あなたは、望めば”一般人”として生きられたのに、どうして進んで”その道”を選んだの?」
楯無の言葉に一夏は、
「それは、これが私の進むべき道だと分かったからだ」
”強くなれ、一夏。守りし者として。そして、希望の光となるんだ”
「あなたは、自分の未来を闇にゆだねるの?」
「それが私の”運命”だ。それを選び、受け入れたのは私自身の意思。だからこそ、逃げることは考えられない」
「……強いわね。あなたは、私は”更識楯無”であることを受け入れたけれど、何処かで逃げたいと思っていた。あなたは逃げたいだなんて考えないのね」
「逃げてもどうにもならないことを知っているからだ。でも、どんなに辛いことがあっても必ずいつかは終わる」
一夏の言葉に楯無は、魔戒騎士達に面白半分で、いや、自身の我侭で接してしまったことを今更ながら反省の念を抱いたのだった。
「楯無さん。いや、あなたの本当の名前は?」
「ふふふ、今は楯無で良いわ。織斑君、そういえば、あなたは魔戒騎士の称号を持っていたのよね。それを聞いても構わないかしら」
前当主は、魔戒騎士は己の称号を持っているという。一夏もまた持っているのではないかと思ったのだ。
「ああ、私の魔戒騎士としての名は”ジン”。”蒼天騎士”だ」
今は夜があっても必ず、朝が来る。その空には……眩いばかりの蒼い空が広がっている。
私が受け継ぐ名は、蒼天騎士 ジン。ジンは、
旧魔界語に伝わる”バラデューク・バラゴ・ヤリュバ・ガロ”
ヤリュバに由来するヤイバ”刃”を別の読みである”ジン”から来ている。
”全ての騎士は希望の光となる”
ジンは我々の世界で”仁”と書き、それは慈しみ。儒教で人道の根本、最高の徳であるとされる………