I S×GARO   作:navaho

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第拾話「個展」

 

 

デュノア社

フランスのIS関連では有名な企業ではあるが、最近の第三世代の開発に遅れが生じており、政府からの資金援助が危ぶまれ経営危機に陥っていた。

そのとある一室で一人の少女がベッドに腰をかけ、俯いていた。

少女は目の前にある自身の全てとも言える”モノ”を未練がましく見ていた。

それは、絵を描くための道具と真っ白なキャンパスであった。

ここ数日、いや一年以上も彼女は大好きな絵を描く事ができなかったのだ。

「……嫌だよ。どうして絵を捨てなくちゃだめなんだよ……」

そんな少女の部屋に一人の男が扉の前に立つ。

「なんだ、まだ”そんなモノ”に縋っていたのか。いい加減、そんな女々しいモノなど捨ててしまえ。お前は”男”なんだからな」

”男”と言われ、少女は胸のうちに酷い怒りを感じた。だけど、逆らうことができない。

「今日の夜に日本へ行け、そこで”織斑一夏”の専用機のデータを持ってくるんだ。それがお前の役割だ」

男は机にチケットを置き、少女の顔を見ずにそのまま部屋を出て行ってしまった……

 

 

 

 

 

 

 

「”男”にこんな”趣味”はいらないよね……できれば、”専用機”をここに置いていきたかった………」

数時間後、少女はごみ置き場に大切にしていた”モノ”を置いていった…

そして、自身の胸に掛かる専用機の待機状態を忌々しく思った……

 

 

 

 

 

 

一夏が勝った。国家代表に……まさか此処までとは思えなかった。

「これで一夏が実質的な学園最強か………」

どうやれば、あんな風に強くなれるのだ?私は一夏を支えられる事ができるのか?

よくて引き分け、負けてもいい線までは行くのではという予想は立てていたのだが……

一夏の戦いを見ていて、改めて私は”弱い”と認識させられてしまう。

このままでは一夏を支えることなどできない。だからこそ強くならなければならないのに……

以前よりも”心”を強く持とうとしているのだが、自分自身の”弱さ”に揺らぐ心が許せそうに無い。

せめて、一夏と同じ”専用機”があれば……そうすれば同じ土俵に立てるかもしれない。

セシリアは専用機を持ち、鈴は私と同じ一夏の幼馴染ではあるが、鈴は”専用機”は持っていない。

訓練機を使えばいいのだが、訓練機を借りるには時間が掛かるし、一年生ではほとんど使える機会が無い。

一夏の隣に立てるようになるには…”力”が必要だ。一夏が抱えている”闇”を知るためにも………

 

 

 

 

 

 

 

 

「となると、織斑君が次期生徒会長ってことですか?」

IS学園の生徒会長の条件は”学園最強”であること。つまり、更識楯無を倒したことで一夏が”学園最強”になった。その条件を満たしているのだ。

「そうなるだろう。だが、一夏はそのようなモノには興味は示さない」

「えぇっ!?!またですか?この間のクラス代表もそうですけれど、織斑君って、どういう目的で”強くなろう”としているんですか?」

一夏の行動について真耶は疑問符を浮かべた。千冬は少しだけ苦々しく口元をゆがめた。

「一夏がが目指している”強さ”は、一夏自身、絶対に”得る”ことはできないらしい」

千冬の脳裏に、”心滅”を起こした一夏を助け出した”男”、冴島鋼牙の姿が浮かんだ。

自分が助けられなかった一夏を救った人物。剣では、並ぶものいないと思っていた自分に匹敵するかあるいはそれ以上の剣を振るう人物。

あの後、言葉を交わすことは無かった。一夏に鋼牙という人物を聞けば聞くほど苛立ちを感じた。

魔戒騎士の最高位 ”ガロ”の称号を受け継ぐ者。何より一夏が目標であり、一夏にとって頼もしい”先輩魔戒騎士”

「もしかして、織斑先生を目標にしているんですか?今は無理かもしれませんが…このまま訓練を続ければ……」

「違う、私ではない。一夏が目標としているのは……あの男 ”冴島 鋼牙”だ」

千冬にとって鋼牙は妬ましい存在である。自分が決して得ることのできない”モノ”を持っているが故に………

「誰ですか?冴島 鋼牙って?もしかして、織斑先生の……『違うっ!!!』

真耶がからかう様に言うが、千冬は普段は見せない怒気の色を浮かべて彼女の言葉を遮った。

これには、箒、セシリアも驚いた。鈴は、あまり驚いていない。

「一夏の目標はやっぱり鋼牙さんね。零さんもそうだけど、やっぱり最高位”ガロ”の男は違うわよね」

鈴も鋼牙には一度だけ会ったことがある。あの時は、ただ”強い男”という認識だったが、師の烈花、閑岱では”邪美”から話を聞き、その認識を改めた。

この世を闇に染めんとする強大なホラーと戦いそれらを打ち倒した”偉大な騎士”なのだ。盟友である ”白夜騎士 山刀 翼”もまた鋼牙の事を”ガロ”の称号に相応しい男と語っている。

鋼牙が倒してきたホラー達は、”全てのホラーの始祖 メシア”、”白夜の魔獣 レギュレイス”、”最凶と名高い七体の使徒ホラー”と言った、今の一夏では手に負えない猛者ばかりなのだ。

その背中を追いかけている一夏もいつかは、鋼牙と肩を並べる日が来るのだろうか?既に称号を持ち、”守りし者”としての務めを果たしている一夏ならきっと、その高みにいけるかもしれない。

そういう自分は、法師としては半人前だ。一夏の負担にならないように鍛錬も行っているのだが、まだまだ道のりは遠い。

今の自分のできる事をやっていくしかない。これはシグトから教わったことだ。シグトは烈花と比べれば戦闘能力は低いが彼は自分にできることを行い様々な面で烈花や魔戒騎士の戦いを支えている。

魔戒法師は一部の例外を除けばホラーに対しての戦闘は魔戒騎士と比べれば低いのだが、だからと言って魔戒騎士よりも格下というわけではない。

元々ホラーと最初に戦ったのは魔戒法師で、神出鬼没なホラーに対抗すべく強靭な肉体と精神力を併せ持った魔戒騎士が誕生したのだ。

(アタシも頑張らないとね。いつまでも”半人前”じゃ……一夏を支えることなんてできないから)

 

 

 

 

 

 

 

「一夏さんが目標としている”鋼牙”。どういう”男”なのでしょうか?」

この”女尊男卑”の時代では、”男”の評価は低い。ISを唯一使える一夏は、今の”男”達の中では例外なのだが………

セシリアは一夏の事がもっと知りたいと思うも、中々一夏への深い一歩を踏み出せないでいた。

楯無と戦った後に一夏に彼女の情報を言おうとしたのだが、結局は断られてしまった。

どんな相手に対しても正々堂々と構えている一夏には、好印象を抱くセシリアだが一夏にもっと近づきたいという想いだけが先走っていた。

未だに日常という”踏み切り”を越えるという事をセシリアはできないでいた………

 

 

 

 

 

 

 

 

試合が終わり、一夏は楯無の案内で生徒会室に来ていた。

「”番犬所”からの要請はちゃんと受けるわ。だけど、ホラーの恐ろしさなんだけど、実際の所……本当なの?」

デスクに肘を当てて一夏と向き合う楯無。

「実際に見なければ恐ろしさは理解できないのは仕方が無い。奴らは”人を喰らう”そこだけは、理解して欲しい」

「人を喰らうって……憑依するだけじゃないの?」

「憑依してから人を喰らう。憑依されたら、”斬る”以外に方法は無い」

一夏の話に楯無は、話のおぞましさに嫌悪感を感じた。ホラーは人間に憑依し、人間を喰らう。

憑依された人間の意志はどうなるのか?

「更識のお嬢ちゃん。ジュースは作れても、それを元に戻すことはできない。そういうことだ」

ヴリルが分かりやすく説明する。要するにホラーに憑依されたら、”斬る”以外に対処ができないのだ。一体化したホラーと人間を分離させることは不可能だ。

「…………そういうことなの。つまり、学園の生徒が憑依されたら……あなたは……」

「そうならないように願うまでだ。ここは陰我がかなり多い。だから夜間の外出はなるだけ控えた方がいい」

一夏は、鈴と共に結界を貼ったことと陰我のオブジェになりそうなものを封印していることも楯無に説明をする。

一通り説明の説明を終え、一夏は生徒会室を後にしようとするが

「待って、織斑君」

楯無の呼びかけに一夏が止まる。

「あなた……生徒会長になる気はない?」

「……悪いが、私はそういう柄ではない」

振り返ることなく一夏は生徒会室を後にした。

 

 

 

 

 

 

楯無

織斑君は、魔戒騎士としての務め以外に興味は無いのかしら?

IS学園に居るのだから、せっかく学園最強の私を倒せるほどの”強さ”があるのなら、もう少し”IS学園の生徒”らしくできないのかしら?

自分がこの世界の異物のように振る舞い、本当の意味で誰にも気を許しては居ない。

セシリア・オルコットは織斑君を慕っている。織斑君は日常では気を許しているのだけれど、本当の意味では誰にも心を許していない。

ホラーという魔獣を相手にしているのなら、巻き込まないためにそうするのは、当然かもしれない。

更識家も暗部に関わっているのだけれど、闇の世界には関わることを恐れている。

織斑一夏に関わるという事は、”闇の世界”に関わるということ……そうなったら、日常には二度と戻ることはできない。

私は”普通の少女”で居たかったんだけれど、この件で、それを諦めなければならないかもしれない………

願わくば、この学園に”ホラー”が現れないことを…………

 

 

 

 

 

 

 

生徒会室を後にした一夏を待っていたかのように更識 簪が立っていた。

「織斑君。お姉ちゃんとどういう話をしていたの?」

「前にも言った私の”魔戒騎士”としての活動の協力についてだ」

一夏はの言葉に簪は

「そう。アレは此処に現れるの?」

簪は不安な表情を浮かべて一夏に尋ねた。彼女は本性を現したホラーの姿は確認はしていないが、その恐ろしさだけは、僅かではあるが理解していた。

本音は間近でその”悪意”に触れたので感じた恐怖は簪の比ではなかった。

「それは分からない。だけど、少なくとも何人かは”悪夢”を見るかもしれない」

実際、一夏はこの学園の全ての生徒を護れるとは考えてはいない。ホラーの神出鬼没さとその強大な戦闘能力を侮ることなどできないからだ。

当然のことながら、何人かの犠牲は覚悟をしなければならないだろう。例え、犠牲となった親しい者に恨まれたとしても……

楯無は学園でホラーによる犠牲者が出ることを許せないでいるために厳しい話をすることはできない。

予防策こそはしているが、どこまで予防できるかは、分からないのが現状である。

「織斑君は、どうして”魔戒騎士”になったの?”普通の人”として生きようとは思わなかったの?」

「………それが私の”運命”だからだ。ホラーを狩る事が……」

それ以外に理由はないと一夏は簪に背を向けて離れていく。その背中は、近くに見えるのだけれど何処か遠い場所を歩いているように見えた。

簪は知らないが、それは姉の千冬が見る一夏の背である。彼女は自分の手から”家族”が離れるのを酷く恐れている。

だからこそ”日常”で生きて欲しいと願った。”普通の年相応の織斑一夏”であることを……

”普通の少女”であることを願い、今もそう願う千冬とは違い、”魔戒騎士”として”闇の世界”に生きると決めた一夏。

”何処の優秀な姉も悩んでいることは同じ”

数日前に一夏と交わした言葉。自分よりも遥かに優秀な姉 更識 楯無。

周りの期待に応える為に、”普通の少女”であることを許されなかった。更識家当主として、相応しい器量を身につけるために……

自分は姉の”優秀な部分”だけを見ていて、姉自身を見ていなかったのかもしれない。

そう思うと自分が酷く嫌な人間に思える。

”魔戒騎士”と”ホラー”との戦いに姉が関わろうとしている。自分も再び関わってしまうだろう………

そう思うと、何かをしなければならないと考えてしまう。だからこそ私は、姉と向き合わなければならない。

生徒会室に入った簪は酷く悩んでいる楯無を見た。普段は飄々としていて掴みどころが無いのに……

「あら、簪ちゃん。どうしたの?」

直ぐに表情をいつもの飄々としたモノに戻す姉に簪は少しだけ口元をゆがめた。もしかしたら、姉は自分を巻き込みたくないと思っているのか?

それとも、足手まといと見ているのだろうか?姉の本心は姉にしか分からない。だけどこれだけは言っておきたい。

「………お姉ちゃん、私じゃ頼りにならないかもしれないけど……愚痴ぐらいなら聞くから……」

簪は少し遠慮しがちな表情で楯無に声を掛けた後、生徒会室を後にした。

「簪ちゃん。前は私のことを避けていたのに……どういう心境の変化なのかしら?」

もしかしたら、織斑一夏が関わっていたのかもしれないと思う楯無だった…………

冷酷な殺し屋とも思えたけれど、織斑一夏は意外とお節介焼きなのかとも思った……

 

 

 

 

 

 

 

 

都心のとあるトンネルで……

「こ、こんな事をしていいと思っているのっ!?!男の癖にっ!!?!」

女は酷く怯えていた。何故なら取るに足らないと思っていた存在が恐ろしく感じたからだ。

「ふざけんなっ!!!お前が偉いわけじゃないだろ!!!」

鈍い音と共に女の視界は赤く染まっていた。路地裏の隙間から見える都市の光がぼやけて見える。

体中に痛みが走り、口の中には鉄の味しかしない。

男は女に手は出してはならない。なぜなら女は男が守らなければならないと誰かが言った。

しかし、この時代、女尊男卑の時代にそれを謳う男性は居ない。何故なら、世の男は女を守ろうと思わなくなってしまったからだ……

ISの力は絶大であるが、全ての女性がそれを使えるわけではない。当然、適性が無く動かせない女性も居るのだ。

それを勘違いしたのか、使えもしない力をあるかのように尊大に振舞う”傲慢な女”が力の無い男に横暴を振舞うようになった。

ほとんどがいいなりになるしかないのだが、時々であるがこのように”男”から逆襲を受けてしまうこともある。

実際、女よりも男の方が体力的に優れており、腕力もあるのだ。

トンネルの灯りにより、男が振るう拳によって殴られる女の影が映し出され、アスファルトに赤い血が広がり始める……

数分後、力なく倒れこんだ女は、もはや虫の息で危険な状態であった。男達は、その様子を嘲笑う。”大したことない”と……

「なっ……なんで、ワタシがこんなめに……男にやられるなんて………」

自業自得ではあるのだが、女はそれを認めていない。その歪んだ自尊心に惹かれるように”闇”が迫った………

”ハハハハハハ、奴隷である男に無様な目に合わされて悔しいか?”

「だ、誰?……なんで、嗤うの」

突然、聞こえてきた声に女は怒りよりも恐怖した。この声は耳ではなく、直接、頭に響くのだ。

”知りたいか?最近は女に復讐がしたい男に憑依する奴が多いんだが、お前のように男に復讐したい女に憑依するほうがずっと良さそうだ”

女を”悪魔”が覗き込んだ。”悪魔”の体が霧状になり、女の口、鼻、目から”身体”に入り込んだ。

声にならない悲鳴と共に女は”悪魔”と一体になった………

瀕死の重傷だった女は何事も無かったかのように起き上がった………

「おっ、おいっ!?!」

「あの傷で立ち上がれるわけが……」

立ち上がった女の服が変化する。黒い霧が両腕を覆い身体のラインをハッキリと見せるボディースーツへと…

”ニヤリ”と笑うと女は、すぐ傍に居た男の顔面目掛けて鋭い蹴りを放つ。その蹴りの威力は凄まじく、男の首の骨を一発で折り昏倒させる。

驚く男達をよそに女は、素早く動き、拳を振るい、時には蹴りを放ち、一撃で男達の”命”をいとも簡単に奪う。

「うっうわあああっ!!!!!」

あまりの光景に腰を抜かしつつもこの場から急いで逃げるために近くに止めてある車に乗り込み、急発進させる。

車で逃亡しようとする男に女は、人間では考えられない脚力で車のボンネットに飛び乗り、装甲をぶち破り、エンジンを鷲掴みしたのだ。

コントロールを失った車はそのままトンネルの壁に激突し、爆発炎上するのだった。

炎の中から傷ひとつ付いていない女が何事も無かったように現れ……

「うふふふふ……いい気分」

怪しい笑みを浮かべ、女は夜の闇へと消えていった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楯無との戦いから数日後の日曜日、一夏は郊外にある館を目指していた。

広大な敷地にあるその館は年代を感じさせる建物であり、庭には色取り取りの花が植えられていた。

そんな屋敷の庭で一人、花達の世話をしている初老の執事が目に入った。

彼の名は、ゴンザ。この館の主に仕える執事である。

ふと視線を感じたゴンザは、その視線の主が一夏であることを確認するや否や

「これは、これは、一夏様っ!!!」

庭を覗いている一夏をゴンザが見つけ駆け寄る。

「お久しぶりです。ゴンザさん」

顔なじみの執事のいつもの様子に一夏も思わず笑みを浮かべた。

「相変わらず元気だな。ゴンザ」

ヴリルも挨拶を交わす。

「こちらこそ、お久しぶりです。本日は如何な御用時で?」

「はい今日、カオルさんは、こっちに来ていますか?」

「カオル様でしたら、本日から”個展”を開かれていまして、そちらの方にいらっしゃいます」

「そうですか、この前の”絵”を見に来たんですが、居ないのなら……」

一夏はIS学園に入学する前に自身がモデルとなったカオルの絵が気になっていたのだ。

ヴリルもまた相棒の絵がどんなものであるか、興味津々である。

「あの絵でしたら、”個展”の方にありますよ。開かれている場所でしたらお伝えします」

「行ってみます。鋼牙さんもそっちに……」

「はい。鋼牙様は後でじっくりご覧になられるそうです。本日は、月に一度のお休みになられています」

「そうですか、ザルバに”命”を……」

魔戒騎士は、ひと月に一日、契約した魔導具に命を与える。その間はたとえホラーが現れても起きる事は無い。

一夏もひと月に一日、契約している魔導具”ヴリル”に命を与えている。

「一夏様。よろしければ、お茶でもどうですか?あと、カオル様から一夏様にとお渡しするものがあります」

「私にカオルさんが?」

不思議に思ったのか一夏は首をかしげた。

「そちらは、紅茶でも飲みながらお見せしましょう。さぁ、どうぞ屋敷へ」

ゴンザに伴われて一夏は屋敷の中へ入ったとき、玄関に”鉢”に植えられている”コチョウラン”の花を見つけた。

「ゴンザさん。この子を大切にしてくれているんですね」

「はい、一夏様が私どもに託された”花”です。カオル様も絶賛されていらっしゃいました。鋼牙様も、一夏様の育てた花をもっと見たいとおっしゃられておられました」

一夏がある伝手で手に入れた”種”を育てた”コチョウラン”は孔雀の尾羽のような形の白い花を咲かせる。

数ある蘭の花の中でもかなり派手である。ちなみに一夏が気に入っているのは、”彗星蘭”である。寮の部屋に一夏が持ってきている。

”彗星蘭”は日光を好まないため、カーテン越しの半日陰で育てている。気を利かせた千冬が日向に置こうとしたのを一夏がやめさせたのは、ここでは割愛しておく。

「ありがとうございます」

「いえいえ、さあ、どうぞこちらでございます」

ゴンザに伴われて一夏は応接の間へと移動する。待っている中、一夏は屋敷に居るある人物?に会うために少しだけ席を外した。

 

 

 

 

 

 

 

ゴンザが紅茶の用意をしている間、一夏は屋敷のある部屋に足を踏み入れた。

部屋のソファーに一人に男が腰をかけ眠っている。男の名は冴島鋼牙。

魔戒騎士の最高位である”ガロ”の称号を持つ男である。

鋼牙の左の中指に髑髏の形をした指輪 魔導輪 ”ザルバ”が嵌められている。

普段は眠っていても気配をさえあれば直ぐに起きる鋼牙であるが、本日はひと月に一日の契約した魔導具に命を与える日なのだ。

この時は仮死状態にあるために一夏が来ても目覚めることが無い。一夏の目的は鋼牙もそうだが、彼の指に嵌っている”ザルバ”である。

「久しぶり。ザルバ」

一夏に反応するようにザルバはヴリルと似た声質で

「よう、一夏、久しぶりだな。それとヴリヴリも」

「誰がヴリヴリだっ!?!この野郎っ!!!」

似た声が互いに罵り始めた。ザルバとヴリルの声は非常に似通っている。さらに口調も……

似たもの同士故か会えば必ずこのように喧嘩を始めてしまうのだ。

「うるさいぞヴリル。鋼牙さんの前だぞ」

「ああ、分かっている…こいつが…」

「大丈夫だ一夏。鋼牙は今日一日は起きないぜ」

ヴリルをフォローしているのか、はたまた余裕を見せたいのかザルバはしてやったという顔である。

「分かっているよ。こっちに顔を出したから、ザルバにも会っておきたくて……」

「嬉しいこといってくれるじゃねえか。お前も色々と大変みたいだが、まあ無理せずに頑張れよ。あと、左手首のそれは”IS”って奴か?」

「ああ、私の専用機の”蒼牙”だ」

「お前も難儀だな。そいつのおかげで”魔戒騎士”は商売繁盛だ。おまえらはISをどう思っているんだ?」

ザルバの問いに一夏は

「IS自身は道を間違えているだけだ。本来は宇宙へ行くために生まれたから…存在が悪いわけじゃない」

「ああ、こいつはたいしたもんだぞ。知ってるか?こいつには俺達みたいに”意思”があるんだぜ」

一夏は、確かにISによる”女尊男卑”が今の世に多くの陰我を生み出しているのをその身で理解している。

悪いのは、おそらくはISの道を歪ませてしまった”人の陰我”であろう。陰我がさらなる陰我を呼んでしまったのだ。

「”意思”?そいつのは、人間が作り出した単なる”プログラム”って奴じゃないのか?」

ザルバは意外と博識である。ホラー関連の知識はもとより古今東西の様々な事情に通じている。

「そいつは違うぜ。ISの意思はプログラムじゃなくて一つの人格らしい。言葉を交わせないから操縦した時間だけ互いに理解しあう。そういう感覚だ」

ヴリルがISについてザルバに答える。

「人格?だとしたら、大したもんだな。まさかと思うが前の篠乃之博士ならともかく、お前がISに関わったのは……まさかな」

ザルバは、飛躍した予想を立ててしまった。

「ありえない話じゃないよ。ISが私を呼んだんじゃないかって、束さんも推測をしている」

「あそこにISおいた馬鹿は誰だよって思ったが、そうとしか思えない何かがあったのかもな」

一夏とヴリルの言葉にザルバは少し考え込み

「ISの意思か?開発者ですら分からない部分。そいつは、ISが喋らない限りはわからんな……」

一夏がIS学園に行った事は、鋼牙も何か因縁めいたものがあるのではとザルバに話していた。

実際ISが道を間違えたのは最初にISを武器として使った千冬が原因であり、その彼女が武器を取った理由が”一夏の存在”であった。

そういう因縁があって一夏はISに関わってしまったのではと………

「まぁ、何にせよ。今はお前のやれることをやっとけ。そろそろゴンザが準備ができたみたいだ。早く行って来い。鋼牙には俺から言っておくぜ」

ザルバは器用にウインクをし、一夏達を見送るのだった……

「ISが悪いわけじゃないか……そういえば、”母”を想うあまり道を間違えた”騎士”も居たか……懐かしい奴を思い出しちまったぜ」

ほとんどの騎士達はISの存在を疎ましく思っているが、一夏はそうは思っていない。むしろ今の現状を悲しんでいるそんな感じがするとザルバは思った………

 

 

 

 

 

 

都内のとあるギャラリー

少女いや、少年の格好をした彼女の名は、シャルル・デュノア。シャルルは立ち寄ったギャラリーで開かれている個展にある一枚の絵を眺めていた。

タイトル”BLUE KNIGHT”

それは、男とも女とにも見える細身の騎士と蒼い狼が丘の上にさく一輪の花と共に夜明けを迎えているというもの……

「君、この絵が気になっているの?」

シャルルに話しかけたのは、素朴な感じではあるが人を安心させる笑みを浮かべた女性であった。

女性の名は、御月カオル。この”個展”を開いている”画家”である。

「はい、何だか凄く気になるんです。他の絵も好きなんですけれど、この絵は凄く気になります」

「この絵には、実を言うと物語があるの」

「えぇ?どんな物語ですか?」

カオルは得意げに笑みを浮かべて、話し始める。

「この子は、道に迷った人を本来の道へ導く役目を負っているの。道に迷った人を助けていくそういう物語なの」

「道に迷った人をですか?」

「えぇ、他にもあの”騎士”達もそういう役目を負っているわ」

カオルは、デフォルメに描かれている”黄金の騎士”の絵達に視線を向けた。その絵は、木に良く似た竜が持つ赤い実を両手で受け取ろうとしているモノ……

「あの絵は、不治の病に陥った人を助けようと唯一治せる実を手に入れようとしているところよ」

改めて個展を見れば、絵本のような可愛い絵もあれば、風景画と様々なジャンルの絵が掛けられている。

特に騎士をモチーフにした絵は、シャルルにある”想い”を抱かせていた。”自分にもこんな絵が書ければ”と…

だけど、自分は故郷を出たときに絵筆を捨てたのだ。この手は、握りたくも無い”IS”を操縦するためにある。

未練がましく個展で絵を眺めている自分が少しだけ厚かましくさえ思う。

「もしかして、君。何か、悩んでる?」

「いえ、僕にもあなたのような絵が描ければと思ったんです。だけど…僕にはこんな”才能”は…」

ISを操縦するために、男であるために絵は捨てなければならない。それはシャルルの言い訳だった。

「ううん、芸術に才能は無いよ。私だって、才能はそんなにあるほうじゃない。やりたいと思う情熱をどれだけ持てるかだよ」

かつて父である由児の才能に嫉妬していた”ある画家”に言った言葉である。

「それに絵を描くのに男も女も関係は無いよ」

カオルの言葉にシャルルは、驚いたように目を見開いた。

「ねぇ、よければ君の絵を描いて見せてくれないかな?」

カオルの誘いにシャルルは頷いた。突然のことではあるが大好きな絵が描ける事にシャルルは心から歓喜していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴンザの淹れた紅茶を楽しみながら、一夏はゴンザに自身の近況を語る。スタンドに一枚の絵があり、布が掛けられている。これがカオルから一夏に渡すものである。

「そうですか、千冬様に関しては、まだ悩まれておりますか」

「はい。姉さんを心配させているのは分かっています。だけど……」

「”魔戒騎士”としての務めをやめることはできませんか。私は一夏様がそうしたいのなら、そうすべきだと思います」

ゴンザは空になった一夏のカップに紅茶を注ぎ、

「やりたいと思うことは、当人が決めることです。それを他の者が決める、それはあまりにもおこがましいと思います。鋼牙様も”魔戒騎士”になる以外の道もありましたが”魔戒騎士”になられました」

かつて父 大河を失った後の鋼牙をずっと見守ってきたゴンザは、彼にとってもう一人の”父”とも言うべき存在である。

何処にでもいる普通の子供であった鋼牙は、”魔戒騎士”になるために日々、努力と鍛錬を積んできたのだ。

「千冬様は、一夏様をあまりに愛しすぎているのでしょう。愛することは確かに大切ですが、過ぎてしまえば愛する者を傷つけてしまいます」

ゴンザの言葉に一夏は、左手首にある”蒼牙”を託してくれた束とその妹である箒のことが浮かんだ。

そして、白騎士を駆った姉の千冬。

「一夏様。色々と大変ですが、今はあなたの出来る事をやっていってはどうでしょうか?いつかは千冬様もわかってくれますよ」

笑みを浮かべるゴンザに一夏は、

「そうですか…あの姉さんが私を認めてくれるのでしょうか」

「そうですとも、一夏様の姉でございますから。必ずいつかは分かりあえますとも…」

実例を知っているのかゴンザの言葉に妙な説得力を感じる一夏だった。

(……お父さんって、こんな感じなのかな?)

幼い頃から一夏は、両親、父と母というモノを知らずに育ってきた。故に年上の”ゴンザ”に自身が想っていた”父親”の像を思わず感じてしまったのだ。

余談ではあるが、一夏はよく自宅に顔を出す”涼邑零”には”兄”という印象を持っている。ちなみに彼の魔導具であるシルヴァには”母親”のように感じることがあるらしい。

「ゴンザさんが言いますと。凄く説得力がありますよね」

「おそれいります。そろそろ、こちらの方もお見せしなくてはなりませんね」

席を立ったゴンザはスタンドに掛けられていた絵を覆っていた布を取り払う。

そこに描かれた居たのは、自分と姉である千冬であった。腕輪だった頃のヴリルもいる。タイトルは”FAMILY”

椅子に座り、”彗星蘭”の鉢を抱えている自分とその肩に手を添えて正面を向いて千冬は微笑んでいる。”彗星蘭”の花言葉は、”特別な人”である。

 

 

見る人が見れば、千冬の姿に違和感を覚えるかもしれない。千冬のイメージは、不敗乙女”ブリュンヒルデ”という地上最強の生物という女としては、あまりに物騒すぎるモノ……

家族である一夏は、微笑んでいる千冬に対して違和感をあまり抱いてはいない。

「カオル様がおっしゃるに、この絵は一夏様とそのご家族を描かれたことです」

「………これを私に?」

「はい。これは一夏様とそのご家族にとの事です」

姉と自分は、時々二人で写真を撮る。姉曰く”自分の隣に誰が居たのかを忘れるな”。

本当に貰ってよいものかと思う。だけど、

「一夏様。ぜひ、この絵をお受け取りください」

戸惑う一夏だが、自分のいや、家族のために用意された絵を断ることはあまりに気が引けた。

「分かりました。この絵を受け取ります」

気がつけば、いつの間にか日が暮れていた。寮には門限があるので早く戻らなければならない。

席を立ち、戻ろうとした時テーブルの上に”番犬所”からの指令書が置かれていた。

ここに住まう主の鋼牙は、元老院所属の騎士。これは自分への指令だ。

「やれやれ一夏。帰るのは後になりそうだな」

相棒の言葉に少しだけ苦笑し一夏は、指令書を炙る。

”他者の力に溺れし女。力を得、害をなさんとする。これを早急に葬れ”

「……またかよ。ISはさほど悪くは無いんだが、それを悪くしているのは明らかに”人間の陰我”だな……」

「……………」

何も言わずに一夏は、屋敷を後にしようとする。

「一夏様。絵はお預かりいたします。いってらっしゃいませ」

ゴンザの言葉に一夏は、少しだけ驚いた。まさか、”いってらっしゃい”と言われることなど今までほとんど無かったからだ。

直ぐに気を引き締めた後にゴンザと正面で向き合い

「行って来ます。必ず戻りますので、それまでよろしくお願いします」

一礼をして一夏は屋敷を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

その日の個展の日程が終わろうとしている頃、シャルルはカオルと過ごした時間を思い返していた。

 

 

 

 

シャルル

楽しかったな。カオルさん、僕の絵を褒めてくれた。あのままずっと絵を描いていたかったよ……

でも来週からは、もう絵筆を取る事はかなわない。IS学園へ行き、織斑一夏のデータとその専用機の情報をあの人に渡さなくちゃいけないから……

幼い頃から絵が好きで、ずっと描いていた。母さんも僕が画家になるんじゃないかと思ってくれていた。

何年も前に母さんが亡くなって、あの人が僕を引き取った。僕を”子供”としてではなく、ISの適正が高かったというだけだった……

来る日も来る日もISのことばかりで絵を描くことはできなかった。あの人は、”絵”なんて、”才能”のある奴がするものだと言って、僕の絵をくだらないと言っている……

カオルさんは、芸術に才能は関係ないと言ってくれた。あの人は、本当に絵に情熱を捧げているんだ。だからこそ、言えるんだなって思う。

でも僕は……絵を描くことができなくなる。カオルさんが描いた”BLUE KNIGHT”みたいに僕を助けてくれないかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁっ!?!」

人気の無い路地裏で男が血塗れになっていた。ボディースーツを着た女が徹底的に痛めつけていたのだ。

その様子を傍からもう一人の女が嘲笑うように見ている。

「男の癖に、私達”女”に逆らうなんて、何を考えているのよっ!!!」

先ほど男から逆襲を受けようとしたときに、ボディースーツの女が割って入ったのだ。

この光景に自分達女は偉いと彼女は思った。

「あなたこそ、何を言っているの?これは”私”の力であって、あなたの力じゃないわ」

ボディースーツの女は虫の息の男を背に、主義者の女に歩み寄る。

「何って、千冬様と篠乃之博士がISを作ってくれたからこそ、私達女性が優秀だってことが証明されたからじゃないの」

「それは、織斑千冬と篠乃之博士の成果であって、あなたが優秀だとは言ってないわ。だけど…あの二人には感謝しているわ」

”にぃ”と悪意の篭った笑みを浮かべたと同時に女の目に”魔界文字”が浮かび上がった。

「私達のとって素晴らしい世界を生み出してくれたのだから!!!!!」

女の胸元がはだけ、本来そこにある”モノ”はなく、そこに”奇妙な生き物”が存在していた。その生き物は、主義者の女目掛けて飛び出した。

「きゃああああああああああああああああっ!!!!あぁぁぁぁ………」

生き物は女の頭にしがみ付き、まるで掃除機で吸い込むかのように主義者の女を喰らったのだ。

餌を喰らった後、生き物が女の胸元に戻った後はだけた服を元通りに直しその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

一夏

「一夏、ホラーの気配だ。カオルが開いている個展の直ぐ近くだぞ」

「まさか……ホラーの近くに」

カオルはかつてホラーの血に染まり、そのせいでホラーに関わりやすくなっていた。

今はホラーの返り血も浄化されているのだが、時々ホラーに遭遇してしまう。以前も鋼牙が元老院に所属した後に再会したときもホラーの結界に迷い込んでいた。

ザルバ曰く”つくづくホラーと縁のある女だな”。まったくもって嫌な縁である。

「………ありえない話じゃない。まぁ、これも縁だな」

一夏は、急いで現場に赴くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオルは、今日”個展”に来ていた少年 シャルル・デュノアが少し気になっていた。

「あの子、もしかして一夏君と同じ”中性”なのかな?でも一夏君と感じが違ってたし……」

考えることはあまり得意ではないが、気になってしまうのは仕方が無い。

一夏と比べるとあの少年は、女としか思えない。一夏も女性的なのだが、時折男性的な面も見せるので”性別”が分かりにくいのだ。

シャルルは、男性的な面がハッキリ言って感じられなかった。

「う~~~ん。悩むな~~、でもあの子の絵は良かったな」

カオルはシャルルの絵は、中々のものであると評価していた。このまま絵を描き続ければ熱心なファンができるかもしれない。

そんな事を考えていたとき、一人の女が自分の前に立ちはだかったのだ。

「絵ですって?女が強いこの時代にあなたは、何を考えているの?」

「えっ?まさか……」

カオルはその女の雰囲気に覚えがあった。この雰囲気は、鋼牙と出会って間もない頃に何度も遭遇した”ホラー”に……

「もうっ!!最近の女は、どうして、みんなこうなのっ!!!」

思わずカオルは”女尊男卑”について文句を言いたかった。おかげで最近は男性の画家が”個展”を開くにも苦労しており、その作品に酷いことをする者までもがいる。

芸術に男女であることに関係ないとおもうカオルからしてみれば、最近の主義者の女は”最悪”である。

急いで逃げようにも、鋼牙は今夜は動くことができない。それに此処は”西の管轄”にあり、”涼邑零”も居ない。さて、どうしたものかと思うが……

「女が強いのは認めるよ。だけど、お前の”力”は、”強さ”なんかじゃない」

カオルにとって久しぶりに聞く声がした。二人の間に割り込むように一夏が現れたのだ。

「一夏君っ!!」

蒼いコートを靡かせながらカオルの前に立つ一夏だった。

「カオルさん、急いで離れて…今は、そういうときじゃない」

「分かった。私は鋼牙の所に行くから、後で寄ってね」

そう言ってカオルはその場から離れるのだった。

「………鋼牙さんの代わりは、私には荷が重過ぎるかな」

今は動けない彼に代わって彼が愛情を向ける唯一の女性 カオルを守るべく一夏は魔戒弓を構えるのだった。

「あなた…織斑千冬?」

姉に瓜二つの容姿を指摘された一夏だが

「悪いが人違いだ。私は姉さんではないよ」

「あら?もしかして、あなたが織斑千冬の弟の……まさか魔戒騎士だなんて」

女は徒手空拳の構えを取る。

「一夏、あいつは、”ブルダス”一筋縄じゃいかん。”二匹目”に注意しろ」

ヴリルの言葉を怪訝に思いながらも一夏は、先制攻撃と言わんばかりにホラー ブルダスに切りかかった。

ブルダスは魔戒弓の刃を手刀で防ぎ、強力な蹴りを一夏の右側面目掛けて放つが、一夏は右腕で防御をし身体を屈ませ足払いをするようにブルダスの両足を払う。

両足を払われたブルダスは、バランスを崩しながらも左手をアスファルトについて、一夏に飛び掛るが、側面に避けられ、がら空きになった背中に強力な肘打ちを浴びせ、腹に蹴りを一夏は放った。

アスファルトに皹を走らせるほどの衝撃が響く。うつぶせになったブルダスの首を刎ねるべく一夏が魔戒弓を構えたとき、背後から何かが迫るのを感じ、上空へ飛び上がり迫ってきた”何か”の後ろに回った。

”何か”は、素体ホラーをそのまま小さくしたような生き物だった。

「ヴリル。アレが……」

「ああ、アレが二匹目だ。ブルダスは、群体のホラーだ。群体といっても二匹だけだがな……」

二匹目のブルダスと一匹目が並んだと同時にその本性が露になる。

その姿は異様にまでに大きな腕を構え、助骨のあたりには人間の腕がある。

顔は頭部と胸部にそれぞれ一つずつ、髑髏の顔が存在していた。

「こいつは……」

何処と無くホラーの姿がISに見えるのは、気のせいだろうか。

「まったく世の女はISを改悪しすぎだ」

ヴリルの言うとおりだった。目の前の”ISもどき”のホラーは見ていて、不快感が沸いてくる。

目を鋭くして一夏は、魔戒弓を構えて”鎧”を召還する。

ソウルメタル独特の金属音と共に鎧を纏う。”蒼天騎士 ジン”

大きく変化した魔戒弓を構えた。ブルダスは、巨大な爪を掲げ一夏に切りかかる。大きく肥大化した腕による力は凄まじいが、真っ向から受けるつもりが無い一夏はそのまま懐に入り込み

”ダンっ!!!ダンッ!!!!ダンッ!!!!”

鈍い音と共に拳が胸部の顔を潰し、さらにそのまま掴みあげ後方へと投げ飛ばしたのだ。

頭から突っ込んだダブルスは、すぐに起き上がるものの追撃の手を緩めない一夏により矢を両足に受け、動きが鈍くなってしまう。

「くっ!?!お、男の癖にっ!?!」

憑依した人間の感情が強いのか、ホラーらしからぬ言葉をブルダスは吐く。

「言っておくが私は、どちらでもない。それに、”IS”をこれ以上悪く貶めるのは我慢できない」

両腕を魔戒弓で切り飛ばしたと同時に正面からの一閃で一夏はホラーを両断し、消滅させた………

「さてと、一夏。絵を取りに戻るか」

無言のまま一夏は、その場を後にし、カオルが行っているであろう屋敷へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後カオルと合流した一夏は屋敷へ向かう道中、ゴンザのように話をしていた。

「一夏君も大変なんだね。やっぱり男の子一人は辛いの?」

「いえ、私も一応は”女”でもあるので、そこまでは……ただ、男よりも視線を感じてしまいます」

「そうかもね~~、一夏君は、女の私から見ても凄く綺麗だもの」

からかう様な笑みは、何処と無く自分の心を見透かされているように思う一夏だった。

「カオルさん。私が男でもあること、分かってますよね?」

「一夏君もさっき、自分で”女”でもあるって言ってたじゃない。綺麗は褒め言葉なんだけど……」

カオルは、今一どう評価すればいいのか分からない一夏に少しだけ困惑した。

「はい…私も自分がどういう感じに振舞えばいいのか、今でも分からなくなります。男らしく、かといって女らしく振舞うと、自分が自分じゃないみたいで少し気持ちが悪くなります」

男女どちらでもない”心”を持つが故に一夏は悩んでいる。このあたりは年相応である。

「まぁ、私じゃ難しいことは分からないけど、一夏君は一夏君のできることをやっていけばいいんじゃないの」

人を安心させる笑みを浮かべ、カオルは一夏を見る。

「私もね”できること”をやっていくよ。”私の絵が誰かの力になる”って、鋼牙も言ってくれたしね」

「あの絵は…」

「一夏君に渡すあの絵は、もしかしたら一人で抱え込みすぎてないかなって思って、描いたの。千冬さんは一夏君にとって”特別”な人でしょう」

カオルは千冬とは面識が無いが、彼女の魔戒騎士嫌いは知っている。だからこそ、二人を描いた絵を一夏に送ったのだ。

「はい。以前の私ならそうだったかもしれませんけど、今は、頼りになる先輩も居ますから……」

一夏は、カオルの心遣いに感謝しつつ笑みを浮かべた。その笑みは、あの絵に描かれていた”姉”と同じものであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏が貰ってきた絵を千冬は何度も眺めていた。特に自分などは、惚れ惚れするぐらい穏やかな表情ではないかと……

絵の中の一夏は照れくさそうに、はにかみながら花を抱えている。

「この絵は素晴らしい。家宝にしたいぐらいだ。だが、一つだけ不満がある。何故この不埒モノも居るんだ!!!!」

千冬の不満は、一夏が腕に付けているヴリルの存在だった。これでさらに頻繁に織斑家に顔を出す”軽い男”がいたら……

「別に良いじゃねえかよ。俺の存在ぐらい……」

「たった二人の家族だぞ!!!それを寄生虫のようなお前を何故、加えなければならんのだっ!!!」

「身も心も綺麗な俺を寄生虫呼ばわりとは失礼だな。姐さんだって、人のこと言えねえだろ。一夏が居ないと身の回りの事が壊滅的だって言うのに……」

「なんだとっ!?!」

「だから、いつまでたっても嫁の貰い手がねえんだよ。悔しかったら部屋の掃除を完璧にこなしてみろ」

ヴリルも少しムカついているのか、普段よりも口調が辛辣である。

「そういう貴様もできないではないかっ!!」

「ハハハハっ、俺は良いんだよ。姐さんと同じ”人間”じゃないからな」

そういわれると反論ができない。千冬が生まれる昔から人間を知っているヴリルからみれば彼女もまた”小娘”である。

そもそも手足の無い魔導具に家事を望むことなど無理なのだから………

 

 

 

 

 

 

その頃の一夏は、一人バスルームで入浴していた。

湯の蒸気で頬が赤くなっている。なにやら姉と相棒が言い争っているのが聞こえる。

「姉さんとヴリルって意外と仲は悪くないかもしれない」

千冬が聞いたら全力で否定する発言をする一夏であった……

「カオルさんの絵……見たいな……」

一夏の脳裏に自身がモデルとなった”BLUE KNIGHT”というタイトルの絵が気になっていた…………

”個展”は閉まっていたが、いつかは見に行くと約束をしている……

 

 

 

 

自身の目標とする”ガロ”の称号を持つ黄金騎士 冴島 鋼牙。

彼は護りし者として、護りたい者の姿をいつでも心に浮かべることができる。

”愛情”を持った魔戒騎士は、誰よりも強くなれる……

 

 

 

そういう自分はどうなのだろうか?自分にも愛情というものは存在しているが、鋼牙がカオルに向けるような”愛情”ではない……

今の自分は、魔戒騎士としての務めを果たしているに過ぎない。本当の意味で”護りし者”になれるのだろうか?

それは、一夏の”心”次第である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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