早朝、一夏は教室に自身のお気に入りである”彗星蘭”を持ち込んでいた。
理由は言うまでも無く、”花”がないのは、寂しいからである。
「これ、織斑君が育てたんですか?」
「はい。ある知り合いに”種”を貰って育てたんです」
真耶は感心したように一夏が教室に持ち込んだ”彗星蘭”を眺める。
”彗星蘭”は種類によって、様々な色の花を咲かせる。
ちなみに寮の自室にある”彗星蘭”は淡いピンク色のものであるが、今回教室に持ち込んだのは白い花を咲かせた”彗星蘭”である。
「綺麗ですね。花の世話をしている織斑君って何だか、”女の子”みたいですね」
「そうですか?私は、好きなものに男も女もそんなに関係はないと思うんですが……」
一夏は”中性”であるために、男女の”縋り”と言うものがない。好きなものに性差など関係は無いのではという持論を持っている。
「それもそうですね」
改めて真耶は一夏を見る。
(こうしてみると織斑君って”女の子”にしか見えませんね。もしかして…先輩……織斑君に………)
真耶は、まさかと思うが千冬が一夏に妙な考えを吹き込ませているのではないかと疑ってしまった。
一夏が実は”女”で、千冬に”男”だと教育されて、自分を”男”だと思い込まされているのではと………
真耶は一夏が”中性”であることは知らない。理由は、千冬曰く”山田君は人が良すぎる。うっかりお前の事をばらしかねん”と
「……山田先生。私はこういう見た目ですが、一応は”男”なので……誰かに歪められたという訳ではありません」
「えっ!?!や、やだな~織斑君。私は別に先輩が……」
かなり察しのいい一夏に真耶は、自分の心を見透かされているのではと焦ってしまった。焦っている真耶を横目に一夏は教卓に”彗星蘭”を置くのだった。
「直射日光は、ここなら大丈夫か」
花の環境を配慮する一夏であった………千冬は、花は皆日光が好きだと思っているので、直射日光を嫌う”彗星蘭”を危うく直射日光に晒そうとして一夏に止められてしまった………
(姉弟でも違いますね)
真耶が思っている千冬のイメージは、IS操縦者として”刀”を振るっているイメージである。一夏も同じような感じではあるが、今”花”の世話をしている一夏は、千冬とは正反対な穏やかな感じである。
例えるなら千冬は、あらゆる困難を破壊していく”重戦車”で、一夏は何処かの丘に咲く”花”である。千冬本人が聞いたら怒声が飛びそうであるがそれを口に出さないところが真耶の賢明なところである。
ISでの戦闘中の一夏の容赦の無さは”千冬”を思わせるほどであるが………もしかしたら、千冬よりも容赦が無いかもしれない。
(織斑くんも”男の子”一人だけでしたけど、今日からは・・・・・)
真耶の脳裏に本日、一組に転校してきたフランス出身の少年を浮かべるのだった。
「今日は、なんと転校生を紹介します」
真耶の言葉にクラス全体がざわめき始めた。
「転校生?」
鈴がいち早く真耶の言葉に反応する。この時期に転校生は不自然だと言わんばかりに・・・・・・
(まさか……一夏絡みじゃないわよね)
隣に居る一夏に鈴は視線を寄せる。理由は言うまでも無く一夏に関わろうとしている”陰我”である。
対する一夏は、無言のまま視線に応える。一夏自身も自覚をしているのだ。
世界で唯一の男性の”IS”操縦者である自身の立場を………
関わろうとしている”陰我”もまた………
「では、入ってください。デュノア君」
一組のクラスに長い髪を束ねた”少年”が入ってきた。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。皆さん、よろしくお願いします」
「「「「「キャーーーーッ!!!!!」」」」」
「二人目の男子!」
「ていうか、織斑君って本当に男?」
対するシャルルは困惑した表情でクラスを見渡していた。
「あの~山田先生。僕と同じ境遇の男子は……」
「はい。目の前にいる織斑君がそうです」
真耶の視線に合わせる様に向けると、かの”ブリュンヒルデ”に瓜二つの織斑一夏が居た。
(…………そりゃ、そうよね。一夏の外見は完璧な”女”だし。いや、性別も女でもあるしね)
鈴は、一夏を見てそんなことを思った。同じくして、
(デュノア。無理も無い、一夏は”そういう外見”だ。分からなくても仕方が無い)
ファースト幼馴染である箒は、幼馴染である一夏の”外見”に対して思うのだった。
ついでに声も”女”だ。
「………誰かが私に対して、失礼なことを考えているみたいだけれど……デュノアさん。私が最初の男性の”IS”操縦者の織斑一夏です」
少し不機嫌なのか一夏の目元が鋭くなっている。
「ほ、本当に……」
困惑したシャルルであるが、それ以上に目の前に居る一夏が少し怖い。
「お、織斑君。に、睨まないでください。もう少しにこやかにね…」
「一夏、転校生を威圧するな。まったくお前は目付きばかりが悪くなって……私に似ないで……」
いつもの事ながら千冬が一夏の目付きの悪さを嘆く。毎度の事ながら一夏はかなりうんざりしている。
「織斑先生。ここでは、先生と生徒の関係でしょう。私の目付きに悪さを嘆くよりももっと大事な事を気にしてください」
「なんだとっ!?!最近は口まで……あの不届きモノと”軽い男”の影響か」
時々繰り広げられる姉弟のやりとりにクラス全体が苦笑いを浮かべるしかなかった。
鈴は”千冬さんは、千冬さんね”と真耶は”織斑君は間違いなく先輩の弟さんです”と……
SHRは、織斑姉弟によるやり取りでつぶれてしまったのだった。
「私の身内のせいでSHRがつぶれてしまったが、各人はすぐに着替えて第二グランドに集合。今日は四組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」
箒
次の授業はISの模擬戦闘か……
それにしても一夏以外にも”男”のIS操縦者が現れるとは……
一人居たのだから、二人目が居てもおかしくは無いかもしれないな。
それにしても”男”にしては華奢だな。一夏も一夏だが、ISに適正があるものは皆、男らしさのない外見をしているのか?
”強さ”はどれだけのものがあるのだろうか?
一夏と同じく”武道”を嗜んでいるのだろうか?それともまったくの素人なのか?
次の授業でそれは分かる。いや、今は人のことよりも自分を鍛えねば……
千冬さんが言った”一夏の関わっている闇”。一夏を支えられるようになるためにも私は、鍛錬を多く積まなければならないのだからな………
「おい、一夏。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だからな」
教室を出る際に千冬が一夏に言葉をかける。
「ここでは、織斑ですよ。先生」
公私は分けた方がいいと一夏は言葉を返してシャルルと向き合う。
「君が織斑君だよね?初めまして、僕は………」
「自己紹介は先に聞いたから構わない。今は移動だ先だ。私達が此処にいては彼女達が着替えられない」
説明すると同時に一夏はシャルルを伴って教室を出た。
先ほどのやり取りを鈴は微妙な表情で聞いていた。
(……一夏。あんたは”女”でもあるんだから、いいんだろうけど。男と一緒に着替えるのはまずいわよ)
鈴は中学時代一夏が隠れて一人で着替えていた事を思い出した。
IS”中性”に関する男女の接し方は、女子の方が包容力がある。
男子はどちらかというと、リビドーにより傷つけてしまうこともあるらしい。一夏は公の立場が立場なので”中性”であることは秘密になっている。
「私達男子は開いているアリーナの更衣室で着替えることになっている。実習のたびに移動は大変だけど、早めに慣れて……デュノアさん、私が何かおかしいのか?」
シャルルに説明をする一夏であるが、シャルルは少し妙な顔をしていた。
「えっと……織斑君って、男だよね。どうして、”私”っていうの?」
「別におかしくは無い。社会に出れば、一人称に男女は関係ないだろう」
「だって、男ならさ、”俺”とか…”僕”が……」
”男”に対して何かしらの縋りがあるようだ。
「男なら男らしく、女なら女らしくも構わないが私は自分が自分らしくあればと思う」
”自分が自分らしく”の言葉にシャルルの表情が僅かに曇った。
「………自分らしくって…それって”本気”で言っているの?(僕がどんな思いで此処に来ているのも知らないで)」
その表情を一夏は見逃さなかった。
「あぁーーーーーっ!!!!!転校生発見!!!!!」
「しかも織斑君と一緒だ!!!!!」
ホームルームが終わり噂の転校生を見ようと各クラスの女子達が一組の教室に集まろうとしていた。
「………少し厄介になるな。デュノアさん、走れるか?」
「えっ?急に何を……」
シャルルの言葉を聞く前に一夏は彼の手をとって駆け出したのだ。
「きゃああっ!!!!見て見て!!!二人!!!!手!!!!手繋いでるわっ!!!!」
「黒髪の織斑君も良いけど、金髪もいいっ!!!!」
やたら騒ぎ出した女子達を気にすることなく一夏は、アリーナの更衣室へ向かうのだった。
更衣室に着いたシャルルは少し肩で息をしながら
「もうっ……全力疾走するならちゃんといってよ。いきなり、走り出すなんて…」
「男なら、そんな小さいこと気にするのはどうかと思うよ。デュノアさん」
先ほどの仕返しと言わんばかりに一夏は少しだけ意地の悪い笑みを浮かべた。
その表情にシャルルは頬を膨らまして、睨んだ。
「………早く着替えるぞ、時間がかなり押している」
シャルルの事を気にせずに一夏は更衣室へと歩みを進める。
「……勝手な奴」
頬を膨らましシャルルは更衣室の扉を乱暴に開けるのだった。
「私はこっち側にいるから着替えるまで来ないでくれよ。傷を見られたくないから」
一夏の声を聞き、シャルルも自身のISスーツに着替えるのだった。
何となくシャルルは更衣室の隅にあるプラントを見た。そこには何故か花が植えられている。
「?誰だろう。こんなところに?」
かつて自身が居たあの会社でもこういうものは見たことが無かった。
IS関連は基本”女性”が主体で行うが、このような飾りつけを行う女性は居ない。
不思議に思いながら着替えていると、着替え終わった一夏がシャルルの前に現れる。
「その花の名は、シャガ」
シャガ
日本の山野によく自生し、美しい花が好まれて公園や庭にも植えられている。
緑の中から真っ白な花が浮きあがる様に花咲く姿はとても美しく、どこでも見られることや雑草のようなたくましさを持つ。
「これって、織斑君が育てたの?」
信じられないモノを見るかのように一夏を見るシャルル。
「ああ、この子はかなり逞しくて特に世話をしなくても勝手に成長していく。少し間隔を空けて咲くから見た目が綺麗に見えるかは少し微妙だな」
楽しそうに一夏は花について語る。この様子にシャルルは
「はははは、男で花が好きだなんて……一夏って”おかまちゃん”?」
「……別に変ではないだろう。私は花が好きだからといって、そういうのは偏見ではないのか?」
小馬鹿にするように笑うシャルルに一夏は少し目をきつくした。
「だって男で花が好きなんて……何だか、変だよ」
先ほどと同じように花が好きな男は変だとシャルルが言う。
「私は、男は男らしく女は女らしくというのが、どういうものか今一よく分からない。好きなことに性別など問題ではないだろう」
一夏は苦笑していたシャルルに対して、そう応えた。この答えに対してシャルルは、
「……でもやっぱり、男はなんていうか……もっと男らしく空手とか……剣道とか……」
「今の”女尊男卑”の世の中で”男は”というのは、あまり意味を成さないかもしれない。誰かに言われて”好きなこと”を辞める事は、それぐらいの”価値”しか無かったということだろう」
「っ!!?!!」
それぐらいの”価値”しかない。そう言われた時、シャルルの中で何かが切れた。
「何が分かるんだよっ!!!!何も知らないくせにっ!!!!」
「………それは私からも言わせて貰う。シャルル・デュノア、お前も私のことを分からないくせして、私の”好きなこと”を否定してくれたのだからな」
一夏は更衣室を後にした。後に残ったシャルルは、
「……何だよ…男の癖に”花が好き”だなんて……考えてみれば………」
「おい、一夏。あの転校生。かなり怪しいな、本当に男か?って言いたいが、やっぱ……」
ヴリルが一夏にシャルルについて話しかけてくる。
「……ヴリル。お前もそう思うか?」
「ああ、多分奴は”女”だ。二番目の”男”が聞いて呆れるな」
「目的は……私か」
「なるほどな…ったく、どうしてこうも厄介ごとがお前に降りかかる?」
「それは仕方が無いことだ。今の私は、この世界で唯一の男性のIS操縦者。故に”陰我”を呼び寄せる」
「仕方が無いことだとっ!?!お前はもう少し自分を大切にしたらどうだ!?!確かにお前は魔戒騎士だ。だけど、お前はまだ……」
ヴリルが珍しく声を荒げた。いつもは冗談半分に受け流すのだが、この時ばかりは違っていた。
(ったく、どうしてこうも”此処”は厄介な”陰我”を一夏に齎すんだ。一夏がISを動かしたからか……)
かつては一夏が例え場所を違えても”魔戒騎士としての使命”を果たし、それを貫ければと思っていた。
ヴリルの懸念は”一夏”の存在が”陰我”を齎すこと。あのシャルル・デュノアの件もその一例だろう。
ホラー以外にも厄介な”陰我”が一夏に齎される。それに対して一夏は、自分自身のことではあるが、他人事の用でもある。
「私が年の若い少年少女であるからか?戦いに大人も子供も関係は無いだろう。ましてやホラーを相手にしている私にいう事ではない」
「私よりもお前がここの影響を一番に受けてしまったかもしれないな、ヴリル」
一夏の言葉にヴリルは
「そうかもしれないな。だが、人間が戦うのは最終的には自分自身のためだ。お前はもう少し”我侭”になっても構わないと俺は思うんだがな」
どちらかというと一夏は他人に遠慮しがちである。魔戒騎士になったのは、とある事件がきっかけであるがそれはまたの機会に語られるであろう。
「んで、あの転校生を待つのか?」
更衣室の扉の前で一夏は立ち止まっていた。
「別に仲が悪いわけではないだろう」
「やれやれ、お前も中々のお人よしだぜ」
その頃、真耶はピットで訓練用ISである”ラファール・リヴァイブ”を展開していた。本日の授業である”模擬戦闘”のためである。
真耶
今日は、専用機持ちである織斑君との模擬戦です。
先輩はまだ生徒には伝えてはいないようですけど……肝心なところはあまり話さないんですよね。先輩って………
世界初の男性のIS操縦者。IS初心者にも関わらず、クラス代表決定戦ではセシリアさんに勝利し、さらには生徒会長である更識さんにも………
織斑君がもし”女の子”なら、ISの国家代表にもなれたんじゃないかと思います。だけど、織斑君は”男の子”です。
本来ならISに関わらないはずなのに、関わっています。関わってしまった以上、生徒である彼を一人前にするのが私の仕事ですが……
織斑君を見ていると、既に独り立ちをしているように見えます。先輩は、それを少し寂しそうにしているようですね。
織斑君が入学する前も先輩は、弟の事を気にしていてよく自慢していました。一年前くらいのある日、無断で学園を休んだとき、心配して行って見たら酷く気落ちをしていました。
弟さんと喧嘩をしてしまったという理由以外にも何かがあったようですが、それを話すことはありませんでした。
クラス代表決定戦の時にも”私達の想像を絶するものを相手にしている”と言っていましたが、何だったのでしょうか?それは………
でも今は、授業の事に集中しなければなりません。ここでの私は先生なんですから。
シャルル
ったく、僕の何が分かっているんだよっ!!!大好きな絵を才能が無いからって否定されて、全てを捨ててきた”事”がそれぐらいの価値だって!!!
優しそうに見えてもやっぱり男は、粗暴なの?あいつみたいに………
今だって絵を描きたいさ。だけど、僕は皆に”嘘”をついている。だから、もう後戻りなんてできない………
数日前に会ったカオルさんは、僕の絵をもっと見たいと言ってくれたけど……僕がここ”IS学園”に居る以上は……
気持ちに整理をつけたのかシャルルは、更衣室を出たところで一夏と再び会うのだった。
「………遅かったね。デュノアさん」
「僕を待ってたの?」
「………一応、此処では二人きりの男同士だ。仲違いしても仕方がない」
ジャージを羽織って一夏はシャルルに言葉を返す。
その言葉にシャルルは、一夏は最初から自分に嫌われる事をしようと思ってしているわけではないと悟った。
思えば一夏の気を悪くするように言ったのは自分ではないかと………
「男で花が好きなのは、少し変かもしれない。私の趣味はガーデニングとフラワーアレジメントだ」
一夏の言葉にシャルルは、少しだけ笑みを浮かべ
「考えてみればあまり変じゃないかもしれないね。僕の趣味は……空手……じゃなくて……絵を描くことかな」
「絵を?デュノアさんが……」
一夏はシャルルの”絵を描く”と言うところで、知り合いの画家の姿が浮かんだ。
「変というわけではない。私の知り合いに”画家”が一人居て、彼女の事を思い出したんだ」
黄金騎士が唯一愛情を向ける存在である”カオル”。彼女は、画家として着実にその道を歩いている。
「そうなんだ。その人の名前は、なんていうの?」
「観月 カオルさん。私を戸惑わせる数少ない人だよ」
一夏は少しだけ苦笑しながらカオルとのやり取りを思い出した。
”ねえねえ、一夏君。モデルになってくれない?”
”やっぱり一夏君って綺麗だよね。髪とかどういう手入れしてるの?”
”偶には、私からの差し入れだよ”
手料理をご馳走になったことがあるが、あの後気がついたらゴンザさんに介抱されてた。微妙な顔をした鋼牙さんが印象的だった。
「カオルさん?カオルさんと織斑君って、知り合いなのっ!?!」
「ん?カオルさんとデュノアさんは、顔見知りなの?」
「うん。ここに来る前、”個展”に寄ったときに知り合ったんだ」
意外と世の中は狭いものである。
「そういえば、個展にはまだ顔を出していなかったから、近々行って来ようかな」
一夏は次の休日にカオルの”個展”に足を運ぶことを決めたのだった。
「その時は、僕も行っていいかな?それと僕のことはシャルルで良いよ、織斑君」
「構わない。私のことも一夏でいい」
「うん、よろしく、一夏。それとごめんね。一夏の好きなことを悪く言って」
「いい、気にしていない。既に時間が押している行くぞ、シャルル」
そういって一夏はシャルルに背を向けアリーナへと向かう。シャルルもまた一夏に続くのだった。
アリーナに着いた一夏とシャルルは、四組の簪と一組の箒、鈴、セシリア、本音達と合流し教師達の到着を待っていた。
しばらくして到着した教師は千冬のみであった。補佐である真耶の姿が見えない。
「本日からは格闘および射撃の実戦訓練を行う」
「「「「はい!!」」」」
千冬の声に生徒達がハッキリと応える。IS操縦者の憧れである”ブリュンヒルデ”の言葉だ。気合がはいる。
簪、箒、セシリア、本音達もまた同じである。一方で鈴は、
(実戦訓練っていうけど、実際のところはIS戦の”スポーツ”でしょ。ここの子たちって、その辺のところは分かっているのかしら?)
鈴は、魔戒法師であるが故にこの場に居るものたちと違い、生きるか死ぬかの実戦を経験している。
魔戒法師の烈花より自分達が扱う力の恐ろしさを最初に説かれた。使い方を誤れば魔界の力は人に害をなす恐ろしい力であることを……決して人を傷つけるために使ってはならないことを……
ISも競技大会という形で落ち着いているが、国家の”力”を象徴する兵器だ。間違いなく人に害をなすだけの”力”を持っている。
それを自覚せず、自身の優位性だけを主張するために用いたらと思うと背筋が寒くなる。
ISは絶対シールドがあるので、操縦者の安全は保障される。公平なルールに則った”クリーンな戦争”というが、実際はもっとドロドロしていると思う。
仮に師の烈花がISを操縦する機会を得ても積極的には使わないだろうと鈴は思う。彼女なら、ガチでISと戦えると………思う。
(ていうか、千冬さんと烈花さんどっちが強いのかしら?やっぱり烈花さんかな)
等と考え事をしていたら……
「であるからにして…おい、凰っ!!!聞いているのかっ!!?!」
千冬が講義をしている中、自分の考えに没頭している鈴に対して彼女は出席簿でおもいっきり叩くが…
「ん?あ、千冬さん。すいません、ちょっと考え事をしていました」
何事も無いように鈴は自身の非礼を詫びた。まるでダメージを受けていない。
「そうか、ちゃんと授業には集中しろ。次からはこうはいかんぞ(……おかしいな、いつもよりキツク叩いているはずなんだが……)」
とりあえず近くであくびをかいている女生徒が居たので、叩いてみた。頭を抑えて唸っている。
実を言えば、鈴の師である烈花の拳骨の方がまだ痛いのだ。そんな鈴を信じられないモノを見たかのように箒は目を見開いていた。
「早速だが、模擬戦を行う。織斑、前に出ろ」
一夏が名指しをされて前に出る。
「はい。シャルル、私の上着を預かっててくれ」
一夏は羽織っていたジャージをシャルルに手渡す。手渡されたシャルルは一夏のスタイルを見て……
「な、なんなの?そのスタイル……」
完璧なラインを持ったスタイルにシャルルは唖然としてしまった。シャルル以外にも一組、四組の女子も一夏のスタイルに対して
((((((女の敵め)))))
と共通の意見を持っていた。姉である千冬は
「織斑。私からもう少しだけ離れろ」
自身もスタイルの良さには自信があるのだが、相手が相手なだけに比較をされたくは無いのだ。特に気になっているウエストの部分を見られたくないという”女心”故だ。
「対戦相手は誰ですか?」
千冬の事情など意に介さず一夏は、対戦相手について質問をする。
「ああ、もうすぐ此処に来る」
キィィィィィンッ!!!
空気を切り裂く音がアリーナ上空から聞こえてくる。
「あぁ~~~~~っ、どいてくださぁーーーーーいッ!!!!!」
声のほうを向くと”ラファール・リヴァイブ”を纏った真耶の姿があった。
勢いよく来ているのは良いがアレでは、安全にとまることは難しいだろうと思い、一夏は”蒼牙”を展開させる。
蒼牙を展開したと同時に上空から落下してきた”ラファール・リヴァイブ”の衝撃により砂埃が舞う。
衝撃により何人かの生徒が尻餅を付き、転んだりもしたが怪我人は居なかった。
「山田君、飛び出したのは良いが、後の事をしっかり考えてくれ」
埃を払いながら千冬は真耶に近づく。
「は、はい。すみません、今日の事を思うと、気持ちだけが先走りすぎちゃって……」
「まぁいい。それだから他の生徒達に舐められるんだ」
二人のやり取りに他の生徒達は”山田先生なら仕方ないや”と思っていた。
「さて、今から織斑と山田先生には模擬戦を行ってもらう。山田先生はこんな感じだが元代表候補生だから、強いぞ」
「む、昔のことですよ。候補生止まりでしたし………」
真耶
私は、目標であった先輩 織斑先輩に追いつきたくて必死に必死に頑張ったけれど代表候補生どまりでした。
この努力が無駄ではなかったとは思っていない。
あの頃があるから、今IS学園で教師をやっていられるし、何より私の培ってきたことを教え子に伝えることが楽しい。
目の前には蒼い狼を模したバイザーを付けた織斑君が居る。
織斑君はISに触れて一年も経ってはいないけど、何よりセンスがある。
生まれつきのものもあると思いますが、それ以上に努力をしてきたと思います。
ISの試験会場で訓練機を動かしたときに、試験管を秒殺した映像を見たときには本当に驚きました。
先輩ですら織斑君の実力は認めていて
”剣道の試合なら、私が勝てるが……もし、ルールなしの試合、戦闘ならば私でも敗北してしまうかもしれん”
と以前に洩らしていました。
だからこそ、油断してはいけません。全力でぶつからなければ……
これが教師としての私です。
鈴
先生の雰囲気が変わったわ。臨戦態勢に入ったみたいね。
普段の穏やかな先生とは違うわね。他の生徒達に舐められているけど、本当はかなり強いのよね。
篠乃之さんとオルコットさんは驚いているみたいだけれど、先生の実力を見極められないようならまだまだね。
かというアタシもまだまだだけれど………
一夏、魔戒騎士として、先生に負けちゃだめよ。
一夏に笑みを向ける鈴であったが、その様子を箒は……
箒
驚いた、あの山田先生があんな風になれるなんて……
それに元代表候補生とは……てっきり、普通の教師かと思っていたんだが…
凰の方は山田先生の”実力”を察していたようだ。
凰の実力は、少なくとも今の”私”よりも強いというのか?
一夏
「おいおい、山田先生も随分と張り切っているな」
ヴリルが私に話しかける。分かっている山田先生が強いという事ぐらい……
私自身、ISでの試合は本心で言うとあまり乗り気ではないが、”零さん”の影響を受けてか少しばかり好戦的になっている。
雪片を展開させて私は、その切っ先を山田先生に向ける。
対する先生もショットガンを構えている。
それぞれが輪瀬陰体勢に入ったことを確認して、姉さんが試合開始の合図を告げる。
「では、はじめ!!」
私の戦闘スタイルは、接近戦を主体としている故に真っ先に相手へ近づく。
行動を読んでいるのか、山田先生はショットガンの照準を私に狙いを定め、放つ。
ここでなら横に回避するところだが、私は雪片を横一線に払いショットガンの弾を切り裂いて、山田先生目掛けて”拳”を振るう。
放たれた拳はシールドにより阻まれ僅かだが、手が少しだけしびれた。
その隙を狙い、真耶は二丁の拳銃を呼び出し引き金を引く。
狙いは正確で蒼牙のシールドダメージを削る。背中の六枚の羽を展開させて一夏は”瞬時加速”を行って真耶のほぼ真横に現れ二丁の拳銃を切り裂く。
「っ!?!さすがですねっ!?!織斑君。まだまだですよ!!!」
切り裂かれた拳銃を捨てショットガンを展開させて広範囲の弾幕で一夏を攻撃するのだが、それを読んでいるのか姿勢を低くして弾幕を回避し、雪片で斬り付ける。
切りつけ相手にダメージを与えるがカウンター越しにシールドエネルギーを削られてしまう。
一夏
………私もまだまだだな。山田先生はハッキリ言って強い。ISの操縦なら私よりも遥かに慣れている。
僅かだが私の反応が悪い。理由は言うまでも無く”蒼牙”にまだまだ慣れていないところがあるからだ。
でも、ここで負けるわけにもいかない。私にも意地がある”魔戒騎士”としての……
だから、失礼ですがあの技を使わせてもらいますよ”零さん”
雪片を一旦解除して、”弓”を呼び出す。これに山田先生は長距離用のライフルを構える。私が遠距離での戦いに切り替えると踏んだのだろう。
実を言えば、この”弓”は私の注文でかなり強度を強くしている。それこそ”盾”に使えるぐらいに………
私はこの”弓”を引くために距離をとる事もなく、再び山田先生に向かっていった。これには面を喰らったのか先生も驚いている。
弓を大きく掲げ、弧を描くように振りかざして投げた。
真耶
弓からの正確無比な攻撃は分かっていますが、この近い距離に……
えっ?それって、弓じゃないんですか?なんで”ブーメラン”みたいに飛ばしてくるんですか?
ISの力で飛ばされた”弓”?の威力は遠心力を伴ってか凄まじく受け止めれば間違いなく大きなダメージを被ります。
回避をしようとした時、間近に蒼い狼の貌が近づいていました……
雪片で斬り付けようとした時、
「そこまでだっ!!!!」
ここで千冬の試合終了の合図に一夏と真耶の二人が動きを止める。
真耶の首元に刀が当てられ、一夏の正面にはライフルの銃口が向けられていた。
「凄いですね、織斑君」
「いえ、私なんてまだまだですよ。山田先生」
笑顔で話しかける真耶に対して一夏も少しだけ笑みを浮かべた。
「諸君も分かってくれたと思うが山田先生は強い。お前達よりもな……これからは教員を敬うように」
千冬は真耶の強さを認識させるためにこのような模擬戦を行ったようだ。
生徒達は一夏はもちろんのこと真耶に対しても尊敬の視線を向けていた………
その光景に箒は
何なんだあの一夏の強さは……
セシリア、更識楯無、さらには山田先生ともあそこまで戦うなんて……
ISの性能だけではなく、一夏自身が強いことも分かる。だけどあの強さは”異常”だ。
この間の剣を踏み台にしたり、弓をブーメランのように使うなんて無茶苦茶にも程がある………
いつかは、一夏を支えられるようになりたいと願っているが……このままでは、一夏を支えられるようにはなれない……