I S×GARO   作:navaho

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てなわけで、更新です。今回は少しだけ加筆しています・・・・・・


第拾弍話「想い 其の一」

IS学園 

鈴は放課後、箒に剣道場まで着て欲しいと言われ剣道場の前に一人来ていた。

放課後なためか学園全体が夕暮れに包まれており学園全体が”赤い”……

「こういう時は、こういえばいいのかな。たのも~~っ!!!!」

まるで何処かの道場破りのように鈴は道場の扉を開けた。

「待っていたぞ、凰鈴音」

道場には竹刀を持ち、防具に身を包んだ箒が立っていた。

「……待っていたって……これって……どういうこと?」

この場には鈴と箒しか居ないのだが、思わず誰かに尋ねたくなった鈴であった。

対する箒は、鈴を睨むように視線を向けている。

「………で、篠ノ之さん。アタシに何のよう?道場なんかに連れ込んで?」

分かりきっているかもしれないが、鈴は箒に聞かずに入られなかった。

「簡単な用事だ。私と勝負をして欲しい」

「えっ?何でまた……」

「今日の授業で、お前がかなり強いと分かったからだ。お前も剣を取るのだろう?だったら……勝負をして欲しいのだ」

箒はもう一本の竹刀を鈴に手渡そうとするが……

「悪いけど、アタシは一夏みたいに”剣”は扱えないの。勝負ならこっちで受けても構わないわ」

鈴は自身の”拳”を箒に向かって掲げた。

「なっ…剣ではないのか。それは失礼した」

同じ竹刀同士ならと思ったのだが、鈴は

「篠ノ之 さんに怪我させたくないから、そうしてくれるとありがたいわ」

「何だと……随分と自信過剰だな」

鈴の余計ともいえる一言に箒は、竹刀を構える。そこまで言うのなら見せてみろと言わんばかりである。

箒の言葉に対して鈴は、師である烈花との”過酷な修行”のやり取りがあった。

生意気だった自身を矯正する為に何度もホラーをも圧倒する拳を振るってきた師。

道場では実戦さながらの厳しい鍛錬に何度”死”を見たことか……

ホラーとの戦いでは、足手まといこそにはならなかったが肉体的にも精神的にもボロボロになりかけたことも……

「そういうあんたこそ、一夏に近づきたいから、一番近いアタシが気になるっての?ファースト……」

余裕の笑みを浮かべ鈴は拳を構える。その構えは師である烈花と同様の構えである。

「ああ、気になる。お前は知っているのだろ?一夏が抱えている”闇”を」

「………知ってどうするの?そこから”一夏”を救い出す?そんな馬鹿な事を考えているなら、アタシ、怒るわよ?」

鈴の目に僅かながら怒気の色が浮かぶ。

「だったら、何なのだ?あの千冬さんですら恐れる”闇”とは」

「知らなくて良いわ。知らないほうが幸せよ……アレを知ったら最期、二度と”日常”には戻れないわ………」

鈴は少し自嘲気味に言った。関わらなくていい”闇”に関わってしまった自分。ハッキリ言えば”大馬鹿者”だ。

「ならば……力づくでも聞き出してみせるぞ」

箒は僅かながら鈴に対して嫉妬の念を抱いた。自分の知らない”一夏”を知っている鈴に対して、

「竹刀持ってるからって、アタシが不利という訳じゃないわ。やめない?怪我させたくないし………」

その言葉に切れたのか箒は一直線に鈴に向かって竹刀を振り下ろした。

鈴は箒の竹刀を手の甲で受けそのまま切り返し、正拳突きで防具に衝撃を与える。

「うあっ?!」

衝撃を喰らい箒は、後方へと吹っ飛びそのまま受身を取れずに後頭部を強打してしまった。

「あちゃ~~っ、気絶しちゃったか……」

「鈴、って箒!?!」

鈴を探していた一夏は、道場で気を失っている箒を見てすぐに駆け寄った。

「あ、あの……い、一夏。これは………」

「分かっているよ。おおよそ、箒が鈴に勝負を挑んできて、返り討ちにあったのであってるよね」

一夏は、箒とはそれなりに付き合いが長いので、どうしてこのような状況になったのかを察していた。

幼少期の頃、一夏が千冬に連れられて篠乃之道場にやって来た時も試合を挑まれ、勝ってしまった為に何度も挑まれるようになってしまった。

思い出すと懐かしくなったのか一夏はゆっくりと箒の傍に座り、その頭に優しく触れた。

(………多分、私のせいなのだろうな)

一夏は箒が何故、このような事を起こしたのかを察していた。

 

 

 

 

 

 

しばらくして目覚めた箒は自身がとても心地よいモノに触れているのを感じた。

(な、なんだ。この柔らかい感触は……随分と心地が良いな。まるで、母さんみたいな……)

物心ついたころから両親は、姉に掛かりきりだったために箒は母親に中々甘えられなかった。

いつか夢見ていたは母の温もりと思うと心地が良い。このままこうしていたいと思いながらも目を開けると……

「って、一夏っ!!?!!」

「あっ……箒。気がついた?」

自分を見るのは、千冬に瓜二つの貌の一夏である。近くで見ると一夏の方が優しげな感じである。

箒は自分の頭が乗っているのが一夏の膝の上であることに気がつくと顔を真っ赤にして飛びのいた。

「!?!っ、なんで、男のお前が”膝枕”なんだっ!?!普通、逆だろっ!!?!」

「?、私はただ、この方がいいと思って・・・・・・」

箒は自分が一夏に”膝枕”をしたいと思うのだが、一夏にそういう機会はまず訪れないかもしれないと内心思った。

一夏は何故、怒られるのか良くわからないといった感じであった。箒は一夏の妙に”女らしい”行動に内心溜息をついた。

見た目が完全に”女”故に違和感が無いのが性質の悪いところである。

「……まあ、お前のその行動は今に始まったことじゃないな…………」

「私の何に呆れているかは分からないけど、箒はどうして鈴に試合を?」

一夏の言葉に箒は、少し表情を歪めてしまった。一夏に怒られているような感じがしたからだ。

「別に叱りたいわけじゃないよ。箒の竹刀を振り回したがる性格はよく知っているからね」

「な、何だっ!?お前は、私を”暴力女”だといいたいのかっ!?!!」

顔を真っ赤にして一夏に抗議をする箒だった。

「そういうわけじゃないよ。小さい頃に、私と会ったときに箒は何をしてきた?」

「ぅぐぅ、た、確かにあの頃の私は…だが、子供の頃の話だろっ!!私も成長しているんだぞ!!!!」

箒の脳裏に師である父が連れてきた千冬とその弟の一夏と初めて出会ったときの姿が浮かんだ。

千冬が手を引いていたのは、そこで摘んで来た花を抱えた一夏の姿があった。今の一夏は千冬同様の黒髪であったが幼少の頃は”亜麻色”だった。

箒は同年代の自分よりも可愛い女と思っていたが、男だと知った時は軟弱な根性を直してやると竹刀を振るったが、負けてしまったのだ。

それ以来、何度も挑戦をしてくるようになっていった。

「……今もあまり変わりないように思うけど」

「う、五月蝿いっ、お前だって、いつまで経っても男らしくなってないじゃないか」

”むしろ綺麗になっているじゃないか”と言いたかったが、ここは我慢する箒であった。

「私もその辺の所は気にしているよ」

一夏は、自身の男女どちらでもない”中性”に対して少しだけ苦笑する。

「なんだ…だったら筋トレでもして、その華奢な身体を何とかしろ」

「一応は鍛えているけど……私の身体は筋肉とかが付きにくいんだ」

一夏の言葉は言い訳ではない事は箒も良くわかっていた。ここ数日の間に稽古相手を頼んでいるが、その強さの追いつこうと鍛錬を積んでいるのだが一向に追いつくことができないのだ。

竹刀もそうだが、時々弓道部に現れて弓の鍛錬もしている。弓の方もかなりの腕前なのは箒も噂で知っている。

「まったく、お前という奴はと言いたいが……お前は何故、強くなりたいのだ?一夏………」

箒が問い詰めるように一夏に問う。”闇”についても聞きたかったが、聞くことはできなかった。

「それは、私が今の私で居るためだよ、箒」

「今のお前?それは、どういう……「一夏っ、話してるところ悪いけど……」

鈴が済まなさそうに箒に視線を向けて、一夏に”赤い封筒”を手渡した。番犬所からの指令である。

「箒、用事ができたから。話はまた今度でも良いかな?」

「あぁ………」

二人が背を向けて道場を後にする。箒はその後姿を黙って見送るしかできなかった…………

 

 

 

 

 

 

今の自分であるため?子供の頃のお前は、千冬さんがしているからという事で剣道をしている感じだったが、どういうことだ?

鈴の実力は、はっきりいって十代の学生が持つものではない。ISが出てきてから強い女が多く出てきたが、鈴はその類とは違う印象を感じる。

前に千冬さんが言った今の一夏は昔の一夏とは違うというのは………一体?

一夏が抱えている”闇”とは、一体?いつかは暴かねばと思っているが、鈴に及ばぬ私では、一夏の横に立てるとは思えん……支えることもできない…………

いや聞く資格さえも無いだろう………凰に及ばぬ私では、”闇”を知ったところで何ができるというのだ?

どうすればいいのだ?全国大会で優勝しても、これでは………

 

 

 

 

 

篠ノ之 箒は、自身の”力不足”故に強くなりたいと願った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏と鈴は、人気のない所で指令書を確認する。

”ホラーの名は、インセクタス”

「インセクタスか…こいつは、またヤンチャなのがきたな」

「インセクタス?どういうホラーだ」

「ああ、こいつは複数で活動するホラーでな。陰我の集中しやすい場所に現れて、そこから仲間を呼び出すんだ。仲間と言っても自分よりも弱い下級ホラーだがな」

「まるで”デスホール”みたいだね」

一夏は、鋼牙から聞いたあるホラーを思い出した。ホラーの生態は多岐に渡り、様々な形態のモノが存在している。

デスホールは、陰我のあるオブジェを通じて魔界に居るホラーに人間を食らわす。ザルバ曰く”面倒見の良いホラー”らしい。

「となると……この世の中だと………」

「ああ、この間の”レギオン”みたいに、こっちへ来る可能性もある。もうすぐ夜が近い…」

二人は急いでIS学園を後にするように”ホラー狩り”へと赴くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

「あら、織斑君と凰さん。もうすぐ門限の時間に近いわよ」

「………………………」

校門の近くに来た時、更識楯無と布仏虚の二人と遭遇してしまった。

「帰りは少し遅くなります。仕事にこれから行かなければなりませんから………」

一夏の格好は戦装束であり、鈴も同様である。二人の格好を見る限り、”ホラー狩り”に行くのだろう。

「そういうことなの。仕事熱心ね」

楯無は実際にホラーをこの目で見てみたいという興味を抱いたが、実家からも絶対に関わるなと口が酸っぱくなるほど言われているので、ここはグッと堪えた。

虚は目の前に居る二人に対して、いつもの如く親の仇を見るような視線を向ける。

「まったく商売繁盛しすぎだぜ。このご時勢はよ」

胸に居るヴリルが自嘲気味に言葉を返す。一夏は笑うに笑えないのか微妙な表情である。

「ヴリル、無駄話をする暇はない」

そう言って一夏は楯無と虚の二人とすれ違うようにIS学園の校門を出るのだった。

一夏の背中に見えたのは、”天秤”を模した紋章であった。

 

 

 

 

 

 

我慢がならない。血に塗れた性質の悪い殺し屋がこの学園を闊歩していることが……

あいつらは私の親友を容赦なく殺した。あの子はただ、悩んでいて、偶々不幸に巡り合っただけで……

今夜もあいつらは、私達から掛け替えのない絆を奪う。

だからこそ、私は”魔戒騎士”が許せない……いや、許してはならない………

何故、あいつらが罰を受けずにノウノウと生きていることが理不尽だ………

 

 

 

 

 

 

一夏達は、町から少し離れた廃墟を目指していた

「あそこか?ヴリル」

「ああ、あそこは昔、戦があった場所だ。大昔の怨念が今も染み付いてやがる」

表情一つ変えずに一夏は胸に納まっているヴリルの案内に従い、”ホラー”が居ると思われる古いテーマパークの成れの果てである廃墟の前に立った。

鈴は少し気分が悪いのか、顔を顰めている。

「鈴、大丈夫?」

「うん、大丈夫よ。ここ、かなり気持ち悪い場所ね…」

魔戒法師である鈴は、廃墟全体から立ち込めている邪気を感じていたのだ。

「ここは、若い魔戒法師には少しきついかもしれんな」

ヴリルが鈴に対してフォローを入れる。

「それって、アタシが未熟者だって言いたいわけ?」

「そうは言わんぜ。まあ、慣れろや。これからは、もっと恐ろしい”場所”に踏み込む事だってありえるぞ」

負けず嫌いの鈴はヴリルに反論しようとしたが、彼の言葉にぐうの音も出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃墟に踏み込んだ一夏達は中心にあるテントまで足を進める。

「近くに来るとさらに凄い」

恐ろしく強い邪気が蔓延していたのだ。鈴は、邪気に対してさらに身を強張らせた。

一夏にはテントを支える巨大な鉄骨がまるで巨大な生き物の骨格に見えた。

かつてはサーカスのような催しが行われていたのか、その名残が残っている。売店、客席、舞台と………猛獣を囲う檻までも………

「ああ、これじゃまるでホラーの腹の中だ」

「嫌な事言わないでよ、馬鹿。ホラーのお腹の中なんて、冗談でも嫌よ!!!」

ヴリルの言葉に鈴が嫌悪感を露にして叫ぶ。

「…ヴリル。もう少し言葉を選んでくれ」

「あぁ……まだ鈴にはこの冗談はきつかったな」

「………ッ!!」

一夏は、不用意な言葉を言うなとヴリルに注意する。鈴は一夏が自分を気遣ってくれる事に嬉しさを思う反面、まだまだ及ばない自身の”実力”に悔しさを覚えた。

(……これじゃ、篠乃之さんに大きな口なんて叩けないわね。アタシもアタシでこんなんだしね)

「鈴、気をつけて……ホラーがすぐ近くに居るよ」

一夏の言葉で鈴は、すぐに気を引き締める。戦いの際に余計な感情を持ち込んでは、想い人の足手まといになってしまう。今は、自身の都合よりも”想い人”の為に戦わなくてはならないのだから………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レディース、アンドッ、ジェントルマンっ!!!!ようこそ、魔戒騎士様ご一行っ!!!!!!!」

突如舞台にスポットライトが当てられ、シルクハットを被った紫色の派手なスーツを纏った男が居た。

顔はメイクをしているのか真っ白で、その貌は嫌らしい笑みを称えていた。第一印象は”ピエロ”である。

気にすることなく一夏は観客席を越えて舞台に立ち、ホラーと対峙する。

「……ふざけた奴だ」

「まぁ、そういうな。あいつは、あんな感じだ」

一夏の言葉に一応のフォロー?を入れるヴリルである。

「はははは~~~、聞いているぞ。最近は魔戒騎士も魔戒法師も随分と大変だと」

笑いながら一夏達の周りを歩きながらホラー”インセクタス”は、語りだす。

「いやはや、私は運がいい。あの織斑千冬の家族である織斑一夏に出会うことになるとは……」

”姉”の名前を出したインセクタスに対して、一夏の表情が僅かながら怒気を帯びる。

「私は、本当に感謝している。ここは、あの人の為だ。君が私を見逃してくれるなら、IS学園を襲撃するのは辞めておこう」

「……ふざけるな。私の使命はホラーを狩ることだ。当然、お前も斬らなければならない」

一夏は、魔戒弓を構える。インセクタスは、肩をすくめて

「やれやれ、我々ホラーは、君のお姉さんには感謝しているのだよ。だからこそ、今までIS学園に現れるのは自重していたのだが……」

「嘘付けっ、”レギオン”は、IS学園を餌場にしようとしていたぞ」

ヴリルの言葉に一夏と鈴が頷く。

「あぁ~~~~、”あいつ”ね。”あいつ”は、我々の中でも最悪だな。決めたルールを護ることはない」

「………だからと言って、お前たちの言う事を信用すると思うか?」

ホラーの戯言を聞き入れるつもりが無いのか、一夏は視線を鋭くして”インセクタス”を見据える。

「やれやれ……これからも君のお姉さんには感謝していくつもりだが、君はここで”死”んでもらおうっ!!!」

両腕を大きく掲げたと同時にテントの至る所から邪気が蔓延し、繭に絡まれた人間達が釣り下がっている。

「気をつけろっ!!ここは奴らの巣だっ!!!」

上を見上げる二人が見たのは、蜘蛛の糸のような繭に絡まった人達である。

「インセクタスは、人間の心臓に陰我を吹き込み、仲間を呼ぶ……来るぞっ!!!」

ヴリルの言葉と共に頭上から大量の血吹雪が上がり胸部を貫き無数の”昆虫タイプ”のホラーが現れた。

その間にインセクタスは、頭上の鉄骨に跳び上がった。

寄り代となった人の顔をそれぞれが持ち、半人半虫のキメラ達が一斉に頭上から降り立つ。キメラ達は醜悪に表情を歪ませ、爪を二人に振るう。

一夏は魔戒弓でこれを迎撃し、鈴は大筆を構えて”法術”で対抗する。正面に赤い文字を描き、衝撃波を放つ。

「な、何なのよっ!!?!こいつら、今まで見た中で一番の気色悪さじゃないのっ!?!」

天井の至る所に影が蠢く。一夏たちの元へ迫るホラーの群である。

「こいつらを生み出している奴を斬る。鈴、無茶はしないでっ」

「分かっているわよ、あんたも無茶するんじゃないわよ」

拳を使っての戦闘が基本の鈴であるが、この数をこなすだけの技量はさすがに無かった。故に鈴は持ってきたトランクに蹴りを入れた。

「出番よっ!!!ヴォルトっ!!!!!」

トランクが変形しダチョウ程の大きさの二脚の竜?号竜へと変形する。

ヴォルトは鈴を護るべく近くに迫ったホラーをその強力な脚力で蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたホラーは壁に叩きつけられた。

「……かなり強い号竜だね」

「ああ、巨大ホラー並みにでかい奴も居るって聞いたことがあるが、実際のところはどうなんだろうな?」

一夏とヴリルは鈴が操る号竜の戦いに感嘆の声を漏らした。

片手に大筆を構え、号竜ヴォルトの縄を取って彼女はホラーを一掃すべく”魔導火”を号竜に吐かせた。

「やるな、鈴。号竜をあそこまで扱うとは……」

このヴォルトは号竜の扱いに長けている鈴の為に製作者自らが特別に用意した代物である。

通常の号竜よりも大きく攻撃力を重視しており、その気性も通常の号竜よりもかなり荒い。だが鈴の号竜を扱う技量の高さ故に扱えるのだ。

製作者曰く”このヴォルトは、僕の最高傑作の一つです”と……

故に製作者から弟子入りを進められたが生憎、師匠が既に就いていたのでその勧めは無視された。

(そういう一夏は、この数相手に息一つ切らしていないじゃない。さすがね………)

対する一夏は四方八方から襲い掛かってくるホラーを相手に善戦をしていた。魔戒弓の刃で切り裂き、拳を当てホラーの群を圧倒する。

「一夏、インセクタスはあそこだ」

ヴリルの言葉に従うように一夏は真上の鉄塔目掛けて飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏と鈴の戦いを見ていたインセクタスは、一夏が自分の前に現れたのを見て笑った。

「知っているか?人間は一押しすれば、皆”闇”に堕ちる。それは、お前たち”魔戒騎士”も例外ではない」

「……………」

一夏の脳裏に自身が陥った”心滅”を浮かべた。姉に自身の闇の姿を知られ、この世界をホラーの多発する世の中に変えた”原因”が自身であったことに”心”を乱したこと………

「”暗黒魔戒騎士”なる存在も居たな。あれこそがお前たち”魔戒騎士”のあるべき姿ではないのか?」

やたら自身の知識をひけらかしたいのかよく喋るホラーだと一夏は思った。

「確かに私たちの使う”魔界”の力は人に仇を為す恐ろしい力だ。だからこそ、私達は”力に溺れてはならない”」

”魔戒騎士は力に溺れてはならない”。これは、騎士達が教わる言葉である。

そして、”暗黒の力に堕ちた騎士は斬らなければならない”。人を傷つけ、仇を為す騎士は騎士ではない。

「やれやれ、姉と違いかなり頭が固いようだな。それに”古い習慣”に縛られすぎだ。少しは君のお姉さんを尊敬したらどうなのかね?」

「……経験の浅い者が、”先輩”達が学び伝えてきたモノを否定できるモノか。確かに姉の事は尊敬している。だが、全てを肯定しているわけではない」

一夏の言葉に対して、インセクタスは

「まったく…魔戒騎士は本当に”馬鹿”がつくほど頑固な生き物だ。もう少し、頭を柔らかくするんだな」

白い手袋を嵌めた人差し指を一夏に向け、

「ばぁんっ!!!!」

人差し指から衝撃波が放たれ、一夏目掛けて突っ込んでくる。衝撃波は一夏に回避され、当たることなく近くの鉄骨に穴を空けた。

「ばぁんっ!!!ばぁんっ!!!ばぁぁあんっ!!!!」

インセクタスは指鉄砲で一夏を攻撃する。ジョークではない本物の攻撃が一夏を襲う。

「……随分とふざけた攻撃だ」

一夏は近くの鉄骨に飛び乗るように飛翔し、攻撃のための矢を放った。放たれた矢はインセクタスが被っている帽子に当てられる。

「わぁおっ!?!流石にやるなぁ!!」

インセクタスは、スーツの内側からそれぞれ五本のナイフを取り出し、一夏に向かって投げつける。投げつけられたナイフを魔戒弓の刃で払い落とす。

払われる間にインセクタスは一夏に近づき、ナイフで切りつける。インセクタスの手首を一夏はカウンターで蹴り、ナイフを落とさせ、その間に強烈な肘打ちを額に当てた。

「ぐぅっ!?!」

真下の舞台に落ちたと同時に、鈴と戦っていた仲間である低級ホラーが気遣うようにインセクタスの周りに集まり始めた。

音を立てることなく舞台に下りる一夏。

「一夏っ!!」

鈴が号竜ヴォルトの背に跨り、一夏の元へ寄る。

「ハハハハハハッ…………、流石に強いな。その若さで大したものだ……」

「…………ここまで戦えるように成れたのは、私を支え、鍛えてくれた”人たち”のおかげだ。決して、私一人で得たモノではない」

一夏は、魔戒弓を構えインセクタスに歩み寄る。仲間のホラーたちは、インセクタスを護るように身構える。

「だったら、俺も”仲間”と共にお前を叩き潰してくれるわっ!!!!」

インセクタスは、その本性を”開放”する。その姿は、笑うピエロを模した仮面の様な部位を持つ昆虫であった。一言で言うなら”カミキリムシ”である。

仮面の真下には、鋭い鎌を思わせる牙が存在していた。六本の腕には矛、剣、鎌を思わせる形をそれぞれがしている。

仲間のホラー達も一斉に吼え始める。頭であるインセクタスと共に戦うと言っているようである。

「頭数ばかり揃えやがって……一夏っ!!!」

「………分かっている。こいつらの相手、一分もあれば十分だ」

一夏は、魔戒弓を頭上に掲げて円を描くと同時に蒼く輝く鎧を召還する。

鎧を召還し、魔戒弓もまた強固なモノへと変化していく。

「鈴、下がって……」

鈴を下がらせ、一夏は一気にホラーの群目掛けて切り込む。飛び掛ってくる低級ホラーを全て切り伏せ、標的である”インセクタス”に向かう。

インセクタスも六本の腕を器用に使い、一夏を斬り刻まんと切りかかる。

鎧による拳で弾き、魔戒弓の刃で切り返し、”インセクタス”の腕を両断する。腕を両断されたインセクタスは、背中の羽を使いテントを突き破り空へ舞い上がった。

それを追撃するために同じく一夏も飛翔する。インセクタスよりも高い位置に飛翔し、

「ハアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!」

落下しながらも矢を放ち、勢いに乗ってインセクタスに切りかかった。インセクタスも五本の腕を駆使して応戦する。

五本の内の三本の腕を両断し、牙のある口元に強烈な蹴りを一夏は浴びせた。蹴りによりインセクタスは、後方に見える観覧車に突っ込んでしまった。

起き上がろうとするインセクタスが顔を上げた時、魔導火を帯びた大量の矢が自分目掛けて向かってくる様であった。

顔面に、胴体に、腹部に、両肩に、腕に、両足にと矢が突き刺さり、魔導火の炎が容赦なくインセクタスを燃やし、そして……

「GYAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!!!!!」

炎に身が焼かれる痛みを感じつつ、インセクタスは消滅した………

 

 

 

 

 

 

 

アスファルトの上に着地したと同時に一夏は鎧を解除した。

「ふぅ~~~、随分と矢を使ったな」

ヴリルは、矢筒にほとんどの矢が残っていないことに対してそんな感想を抱いた。

「……番犬所に一度、戻らなくてはならない」

「ああ、番犬所が奮発してくれるとはいえ、あの矢も一応は”ソウルメタル”だからな……無駄遣いは控えようぜ」

「……………」

一夏は無言でヴリルの言葉を聞き、こちらに向かってくる鈴に合流すべく足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

西の番犬所

”一夏。ホラーの討伐、ご苦労様です”

神官は一夏からの報告を聞き、労いの言葉を掛ける。現在、一夏は鈴と別れ一人番犬所に訪れていた。

”これは、あなたの新しい矢です”

一夏は新たに矢を受け取り、矢筒に詰めた後、魔戒弓の刃の邪気を浄化するために狼を模したオブジェの口に魔戒弓を入れる。

「っ!?!!!」

普段なら浄化されたと同時に魔戒弓を引き抜くのだが、自身の意識が吸い込まれるのを一夏は感じた。

その光景に神官は……

”既に100体を越えましたか………この試練、乗り越えられますか?蒼天騎士 ジン。織斑一夏よ”

 

 

 

 

 

 

 

 

気がついたとき、一夏は白一色の世界に居た…………

「織斑一夏、良く来たな」

「ここは……」

白一色の世界に一夏は警戒する。

「真魔界に続く内なる魔界だ」

「お前は今”師”、そしてお前が目標とする騎士達と同じ道を歩もうとしている」

聞きなれた音が白一色の世界に木霊する。それは鎧を纏った自分のモノと同じ………

「お前は………」

現れたのは蒼天騎士 ジン。自身の鎧を纏った存在だった。

「俺は、お前の内なる影だ。そして、お前の最も恐れる存在だ」

自分とは違う”男の声”で目の前の蒼天騎士は語る。

「お前の封印したホラーは既に百体を越えた。その証としてお前に”蒼天”を召還する試練を与える」

「………蒼天?」

「魔界より生まれし力。その力が欲しくば、俺を倒すことだ」

「それが、お前に課せられた試練だ」

一夏は、この試練が何であるかを理解した。これは”魔導馬”を得るための試練である。

100体のホラーを封印した”魔戒騎士”に与えられる試練である。その内容までは詳しくは知らないが、

「………私には、まだ早すぎる」

今、魔戒騎士で”魔導馬”を召還できるのは、鋼牙、零、翼の三人である。更には灼熱騎士なるものもできるらしい……

魔戒騎士として、称号を持ってはいるが若輩者に過ぎない自分がこの”試練”を受けるのは、不相応だと……一夏は思う。だが、

「何を言っている。お前は自分の立場が分かっていないのか?」

蒼天騎士は刃を容赦なく一夏に振るう。とっさに防ぐがその威力はあまりに強すぎ、吹き飛んでしまった。

「この世界における”陰我”の中心に居るのは、間違いなくお前だ」

蒼天騎士が言わんとしている事は、千冬が引き起こした”白騎士事件”の事だ。

「………分かっている。だけど、そうだからと言って私は………」

「口では何とでも言える。それを証明するなら、私を倒し、試練を乗り越えてみせろ」

一夏は、魔戒弓を構えて蒼天騎士と対峙する。先手必勝と言わんばかりに一夏は、蒼天騎士に切り込む。

「フン、まだまだ甘い」

魔戒弓の刃を手で受け止め、がら空きになった一夏の腹部に強烈な拳を蒼天騎士は当てる。

「っ!?!!」

まるで歯が立たない。自分の攻撃が全て分かっているとしか思えない程、攻撃の手際が良すぎる。

「……確かにお前は、今までのどの魔戒騎士よりも若く、強い。だが、この先の試練は、それだけでは乗り越えられん」

蒼天騎士の言葉に一夏は、

「この先にある試練?」

「そうだ、お前という存在が織斑千冬に越えてはならない一線を踏み越えさせたのだ。この先の陰我の中心は、お前だ。織斑一夏」

その言葉に一夏は、自身の唇を噛み締めた。

 

 

 

 

 

 

一夏

分かっている。私がこの世界をホラーにとって都合の良い世界に変えてしまった”原因”であることなど………

だからこそ、強くなりたかった。魔戒騎士として、護りし者として……

幼い頃の私は男でもあり女でもある、どちらでもないこの身体と心故に自分のあり方に酷く不安定だった。

だけど、私は私だ。それ以上でもそれ以下でもない。だからこそ、私は、今の私であるために……剣を取る……

 

 

 

 

 

 

一夏は何度も蒼天騎士に向かっていく。

時には刃を交え、ある時は、矢を放たれたりと…………繰り返した。

 

 

 

 

 

 

”一夏、ホラー ”ハンプティ”がゲートから出現しました。これを直ちに殲滅しなさい”

(……ハンプティ。以前、鋼牙さんが倒した奴だ。また、現れたのか?)

神官からの声に応じ、一夏は直ぐに現場へ向かおうとする。

「そうだ。今は魔戒騎士としての使命を果たせ。俺は、いつでもここでお前を待つ」

蒼天騎士の言葉を背に一夏は、心魔界から現世へと向かうのだった。

「ったく、試験ぐらい、じっくり受けさせろっての」

ヴリルの文句が聞こえるが、いつもの如く無言で居る一夏だった。

 

 

 

 

 

 

 

一夏はホラー ハンプティの出現した現場に赴いていた。

出現したとされる場所は、都市の中心部の開発区である。

「……ここか?ヴリル、ホラーは何処に……」

噂をすれば陰である。一夏の背後に巨大な影が現れる。

「一夏っ、噂をすればだっ!!!」

鋏に似た巨大な爪が一夏に向かって振るわれる。振るわれた攻撃を回避し、一夏はホラーに視線を向けた。

「GUUUUUUUUUUU」

そこにいたのは、巨大な二本足でたったホラーだった。卵を思わせる殻を持ち、その顔は骸骨を思わせる。

魔戒弓を構えて一夏は、ホラー ハンプティに向かって飛翔し、切りかかる。

一夏の攻撃をハンプティは両腕で受け止め、勢いよく両腕を広げることで一夏を吹き飛ばす。

吹き飛ばされた一夏はコンクリートの壁に背中から当たってしまう。

「っ!?!」

その瞬間、わき腹に鋭い痛みを感じる。コンクリートの壁から僅かに出ていた鉄の骨組みが脇腹に刺さってしまったのだ。

「一夏っ!!!気をつけろ!!!!」

ハンプティは身体を変形させ、卵のような形態になり勢いよく一夏に向かっていく。

向かってくるハンプティーを前方に転がるような形で一夏は回避する。先ほどまで一夏が居た場所は大きく崩れる。

(………まずい。急所に入ったかもしれない)

蒼いコートの下から血が多く流れるのを感じる。

瓦礫を吹き飛ばすようにハンプティは、咆哮を上げて再び戦闘形態へとなる。

「あいつの殻は、かなり硬い」

「……分かっている。心を乱しては、アイツには勝てない」

かつて鋼牙も”試練”の際にハンプティと戦った事があった。牙狼剣も通じなかった。剣だけの問題ではなく鋼牙自身の心を乱してしまった事が大きな要因であった。

一夏は鎧を召還すべく、魔戒弓を頭上に構える。蒼く輝く鎧を召還し、纏い、一夏は飛翔する。

「はあああああっ!!!!!」

咆哮を上げ、強化された魔戒弓の刃でハンプティに切りかかる。ハンプティは魔戒弓の攻撃を腕で弾き、もう片方の腕で一夏の腹目掛けて爪を突き立てる。

突き立てられた爪の真上に手を当て、滑り込むような形でハンプティの腕の内に入り込み、強固な殻で覆われていない頭部に強烈な一線を浴びせる。

頭部に強力な一撃を浴びたハンプティは身を震わすように怯んだ。それを見逃すわけには行かないと一夏は、さらに脇を下から上に上げるように切り上げて、左腕を切断する。

切断された腕をかばう為に一夏を引き離そうと、ハンプティが片方の腕で迎撃を行うものの、腹目掛けて強力な蹴りを食らわせ、ハンプティを転倒させる。

転倒したハンプティに対して、一夏は馬乗りし容赦なくその四肢を切り離す。さらに右胸にある眼球に似た器官が心臓のように脈打つ。

眼球を飛ばして一夏を攻撃するが一夏は怯むことなく、攻撃を受けても平然としそのまま右胸に魔戒弓の刃を突き立てたのだった。

刃を突き立てられ、そのままハンプティは消滅した。鎧を解除したと同時に一夏の額から一滴の血が流れる。

「一夏、ホラーを倒したのは良いが、この勝ち方は褒められないぜ」

「………ああ、分かっているよ。ヴリル」

心を乱さないように心がけたが、自分は内にいたあの”蒼天騎士”に乱されていた。

自分の事を形振り構わずにホラーを倒した自分のやり方に一夏は自身に対して怒りを覚えた………

「しかしまあ、ここまでやれたのは、お前が”女”だからかな?」

「……どうでもいいことだ。そんなこと……」

一夏は魔導火を使い、自身の治療に専念するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園

 

 

学園全体が迫るクラス対抗戦に向かって、クラス代表達はそれぞれの訓練に勢を出していた。

一組の代表であるセシリアもまた、自身の専用機である”ブルー・ティアーズ”を纏って、アリーナの上空を舞っていた。

 

 

 

ブルー・ティアーズによる操作性をよりスムーズに行うが、ブルー・ティアーズを操作している間は他の動作が疎かになってしまう。

この隙を何とか無くしたいが、そうも行かないことにセシリアは憤慨する。

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリア

またですわ……これでは、まるで成長ができていませんわ。

一夏さんとの訓練で”接近戦用の武器”の必要性を本国に打診したのですが、頭の固い本国は、インターセプター以外の武装をブルー・ティアーズに取り付けることは考えていません。

やはりブルー・ティアーズで戦う以外にないのでしょうか。

元々この機体は”ブルー・ティアーズ”の運用を前提としていますから、第三世代とはいえ、基本的な性能は第二世代に近い。

他のクラス代表の方々のISの情報を伺いますが、国家代表である二組と四組の方が要注意ですわ。

中国の代表の方と四組の代表の方のISは、質実剛健で基本に忠実なモノと……この中では、ワタクシのブルー・ティアーズが一番、遅れを取っているかも知れません。

一組の代表として頑張らなければならないのですが、このままでは良い結果が残せませんわ。

初戦の相手 更識 簪はあの生徒会長の妹。油断はできませんわ。少しでも勝利できるように訓練を繰り返さなければ………

「セシリア。今日の訓練に混ぜてもらえる?」

そう思っていたとき、一夏さんが専用機 蒼牙を纏って私に話しかけてきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園がクラス対抗戦に盛り上がっている中、シャルル デュノアはIS関係で盛り上がっている生徒達を少し冷めた目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルル デュノア

何で僕はここに居るんだろうか?あの人の命令でここに居るけど、僕は、ここの生徒の話に付いていけない。

言われるがままに”IS学園”に来ている。

小さい頃は、大好きな事がいつでもできるって信じていた。だけど、大きくなるに連れてそれが間違いだったって事に気がついた。

母さんが亡くなって、ほとんど接触すら無かったあの人に”大好きなこと”を否定されて、”やりたくもない事”を強いられている。

そういえば、一夏は何をやっているんだろうか?

放課後はいつも訓練をやっているって言うけど、よくやるよと思うよ。そんなに”IS”が好きなのかな?男の癖に……

僕は嫌だな。ハッキリ言ってISは……こんなモノがあるから僕は、絵を自由の描けなくなったんだから………

一応”専用機”は持っているんだけれど、ハッキリって必要な時以外は使いたくない。

できれば、あの人の元を離れて、何処かで画家に弟子入りをしたい。もし、弟子入りするならカオルさんのところが良い。

談話室に居るのも何だか気が滅入ると思っていたら……

「アンタ?随分と浮かない顔をしているわね?どうしたの?」

いつも一夏の傍に居る凰鈴音さんが僕の顔を覗き込んでいた………

「……いや、別になんとも無いよ」

特に仲が言い訳ではないから、差し触りのない返事をしたんだけれど……

「アンタ、自分がここに居るべきじゃないとか、考えてない?」

僕の思っていることを見透かしたように鈴は話しかけてきた。

「実を言うとアタシもここの空気にちょっと慣れなくて……やっぱ、肩身が狭かったりする?」

「うん……ちょっと視線があって、なんともいえないかな」

それは僕が二番目の男だからだよね。だけど、本当は違うんだ。皆に嘘を……僕自身に嘘を付いているんだから……

「そうよね。ここはISを学ぶための場所だから、必要に駆られてこっちに来ているアタシは、ちょっと浮いてるかなって…」

「凰さんも誰かに、強制されたの?」

もしかして、凰さんも”あの人”みたいな奴にISに無理やり関わらせられているのだろうか?

「強制というよりも派遣かな。アタシの所属している所で、一夏のって……」

いきなり自分の口を自分で凰さんは塞ぎだした。何か言っちゃまずい事だったのだろうか?

「ねえ、やっぱり誰かに強制されて「あぁ~~~っ!!!!!湿っぽい話は無しよっ!!無しっ!!!!」

無理やり誤魔化し始めた。それ以上の事を聞かれたくないらしい……

「そう言えば、あんた、絵が好きなのよね?」

「うん、描くのも見るのも好きだけど……どうして、その事を?」

「一夏から聞いたの。アイツも何だかんだでアンタの事を気遣っているみたいだしね」

そう言って僕に眩しい笑顔を向けてきた。いいなあ、こういう風に笑えるなんて………

「まあ、アタシは絵心は無いから描けないけど…見るのは好きなのよね。特にあの人、カオルさんの絵は」

「えっ!?!凰さんもカオルさんの知り合いなの!?!」

「一夏絡みだけどね」

そう言って凰さんは、鞄から一冊の本を取り出した。タイトルは”黒い炎と黄金の風”である。

「この絵本は……」

「一夏から、カオルさんのお父さんが描いた絵本を貰ったんだ、見てみる?」

「うんっ!!、見たいよ!!!!!」

「見る前にアタシの事は鈴って言いなさい。アタシもシャルルって言うからね」

「うん、鈴」

僕は、カオルさんのお父さんが描いた黄金の騎士の戦いを時間の許す限り見ていた……

凄いな画家のお父さんだなんて……だからこそ、カオルさんは画家になったんだ。

カオルさんの個展で見た黄金の騎士と同じみたいだけれど、この騎士はもしかしたら、あの個展の”黄金の騎士”のお父さんだったりして……

僕のお父さんとは全然違う……僕も画家の家に生まれたら、大好きな絵に囲まれて生きていけたのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園 第三 アリーナ

地上では、二機の専用機による地上戦が行われていた。

遠距離戦を仕様としているブルー・ティアーズが接近戦を得意とする蒼牙と武器無しの素手で戦っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

セシリア

一夏さんの戦いに関するアイディアには本当に驚かされます。

ISによる徒手空拳による接近戦。パワードスーツであるISは人体の延長線ですから、これはありですが……

「っ!?!!」

一夏さんの拳が胸部装甲に当たります。手加減をしていただいているのは分かりますが、これは衝撃は凄いです。

「セシリアっ」

腰を突いてしまったワタクシに手を伸ばしてくれました。戦いの時はとても激しい方なんですが、普段は物静かで穏やかなんですよね。

教室に飾られました”彗星蘭”は、確かイギリス王室でも飾られている花です。女王陛下も気に入られています。

お花が好きだといわれた時は、意外でした。もしかしたら、剣道とかそういうのを趣味にされているのではと思いましたから、

「大丈夫ですわ。一夏さんは、本当にお強いんですね。いいんですか、ワタクシの為に態々お時間を……」

「構わない。私も誰かと一緒にISを訓練した方がずっと良い。この徒手空拳の戦闘の有用性も確かめられた」

「そうですわね。確かに間合いの広い槍や長剣の懐に入られましたら、切り返しは難しそうですし」

以前の対戦の時も遠距離戦で、一夏さんが接近戦の仕様でしたのを侮ったための負けでした。

遠距離も弓で撃ってきます。ちなみにこっちでも負けていますわ………

「そろそろ、アリーナも閉まる。私は此処で失礼する」

そう言って一夏さんは、蒼牙を解除しました。そういえば、最近一夏さんの姿を……いえ、夜になると寮から姿を消しているようです。

「あの…一夏さん。今晩、一緒に夕飯でもいかがですか?」

「すまないが、今晩は予定がある。だから、夕飯は一緒には取れない」

「そうですか…その、今晩の予定とは何ですの?噂だと夜な夜な何処かに行かれているようですが?」

「………気にすることは無い。私にとって、やらなければならないことだから……セシリアには関係が無い」

”セシリアには関係が無い”そういわれしまいますと、拒絶されたようで嫌な感じになりますわ。

でも一夏さんは多くを語ろうとはしていません。幼馴染の箒さんすらにも隠していることが………

多くを知っているのは凰さん。あの人も夜な夜な何処かに行かれているみたいです……土日は必ず外泊をして、月曜日には少しお疲れで頭を何度も摩っていますが……

「ワタクシに何かできることは、ありますか?できることがありましたら……」

「そうだね、いつものようにしてくれたらそれえ構わないよ」

そういって一夏さんはアリーナを後にしました。結局は、こんな感じでいつも終わってしまいます。

同じ専用気持ちですが距離は大きく、遠い一夏さんとの位置。近い位置に居る篠乃之さん、凰さんがうらやましいですわ。

ワタクシも、もっと近くに……

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても一夏。ISの訓練の後に番犬所へ”試練”を受けに行く。もう少し、身体を労ってもいいんじゃないのか?」

ヴリルが少しは気晴らしでもすればと一夏に語り掛ける。

「ここに居る以上は、どちらも手を抜くわけには行かない。代表のセシリアの補佐をするのが代表補佐である私の役目でもある」

一夏はどちらも手を抜く気は無いようだ。

「まったく、相変わらず生真面目な奴だ。本当に驚かされるぜお前には。お前の”師 闘牙”の通った道をこんなにも早く行くからな」

「ヴリル。師も内なる騎士と闘っていたのか?」

「……答えは俺からは言えない。アレは、お前の内なる何かだ。そいつを掴むのはおまえ自身だぜ、一夏」

内なる何かという言葉に一夏は頷き、部屋に戻り戦用の蒼いコートを纏ってIS学園から西の番犬所へ向かうのだった………

 

 

 

 

 

 

 

心魔界

「はああああっ!!!!!」

一夏は魔戒弓を構え、内なる蒼天騎士に向かっていく。内なる蒼天騎士は黒い弧を描くように魔戒弓を振るい、それを一夏に向かって飛ばす。

飛ばされた斬撃により脚を肩を切りつけられる。

「くっ!?!」

地べたに倒れるも一夏は何度も立ち上がる。自分にある内なる何かを掴むために………

それから何日もこの光景は続いていく………

IS学園と試練、時にはホラー狩りを繰り返しながら…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻るのは明け方に近い時刻。その時に僅かな仮眠を取り、学園でISを学ぶ日々。

「……一夏。少し休んだらどうだ?お前は無理をしすぎている」

制服を着る一夏に千冬は話しかける。その表情は教師としてではなく姉としてのもの……

「分かっているよ。少し身体が重いけど、今は休むわけには行かないんだ」

「何故お前は、そこまで”力”を欲する。私がお前を護る、だから……」

千冬は一夏が魔戒騎士の試練を受けていることを一夏から聞いていた。この試練に一夏が乗り越えれば、”強力な力”を得られると。

「別に”力”が欲しいわけじゃないよ。私が欲しいのは”強さ”だ。今、私が掴まなければならない”内なる何か”を掴まなければ……」

目に力を入れ、一夏はそれが何であるのかを考えていた。試練も大事だが、学園での生活も疎かにすることはできないのだ………

「今のままでも良いのではないのか?お前は十分に強い、それに私が傍に居る限りは……」

「おいおい、いつまでも一夏にべったりするわけには行かないだろ。姐さん」

「黙れ、不埒モノっ!!!私は一夏と話しているんだっ!!!」

口を挟んできたヴリルに対して、千冬は反射的に怒鳴ってしまった。

「姉さん。私はこの道を降りるつもりは無い。だって、私は魔戒騎士として生きることを誓ったから………」

そう言って、一夏は千冬を背に部屋を後にする。その背中は、必死になって何かを掴もうと足掻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬

本当に私の弟かというぐらい出来た奴だ。何事にも手を抜かずに頑張っている姿には好感をもてるが、お前はまだ若い。

将来のことはもう少し後でも構わないのではないか……あの頃は、まだ一夏が将来をどう決めるのかはずっと先の未来だと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

私が一夏と初めて出会ったのは、家に寄り付かなかった両親が二人揃って”一夏”を連れてきたことだった。

いつも仕事で何処に居るのか分からない二人で、私はいつも一人で家に居た。

そんな一人ぼっちの私の前に現れたのが一夏だった。二人は一夏をベッドに寝かせると興味が無かったようにそれぞれの部屋に戻ってしまった。

”お前は…私の妹なのか?それとも弟なのか?”

私の問いに対して赤子だった一夏は、あどけない瞳でジッと見ている。私に小さな手を伸ばしてきた。

”あうあう”とたどたどしい言葉を言いながら私に触れようとしてきた。そのとき、私は初めて”一夏”をこの手で抱いたのだ。

確かに感じるこの”命”が私の家族だと思うと、笑みを浮かべずに入られなかった。

一夏は私に応えるように笑い返してくれた。

”よしよし、一夏。お前のお姉ちゃんだぞ。護ってやるからな”

その後で両親から一夏が男女どちらでもないことを知ったが、私には関係が無かった。一人ぼっちの私の前に現れたこの子が護るべき家族であることに変わりは無かったのだから……

 

 

 

 

 

 

 

あれから十五年以上の時が経ち、世の中は”女尊男卑”によりホラーが大量に現れる世界へと変わってしまった。

あの子は危険な夜の戦いに赴き、私の手の届かないところに行こうとしている……

今の”試練”は、本当に一夏にとって必要なのか?”試練”を乗り越えた後、お前は、私を置いていくのか?

今も手が届かないのに、さらに手の届かないところへ……

そう思うと悲しく思えるが、ここで弱気になっても何にもならない。一夏が貰ってきた”あの絵”に視線を向ける。

この絵は私の理想をそのまま形にしている。これを描いてくれた画家にはぜひ、お礼をしたいぐらいだが、一つの不満を言えば、不埒モノも一緒に居ることだ。

会う機会があるのならば、この不埒モノをこの絵から抹消するよう願いたい。

 

 

 

 

 

IS学園に続くハイウェイを一台のバイクが疾走している。

 

黒いロングコートを靡かせ、背中には、”ドリームキャッチャー”が描かれている。

 

右手の甲には、狼を模した被り物をかぶった女性の顔のラインを持ったアクセサリー、いや、魔導具 シルヴァが付けられていた。

 

「零”ゼロ”、一夏に会いに行くの?」

 

「ああ、最近、顔を合わせていないからな。偶には、様子を見に行ってやらないと……」

 

「ふふ、またそんな事言って…本当は、あなたが会いたいからでしょうに」

 

「何言ってんだ。俺は、一夏の腕が鈍らないよう、先輩として”渇”を入れに行くだけだ」

 

いつもの零の天邪鬼な態度にシルヴァは苦笑する。気がつけば、バイクはIS学園に通じるモノレール駅前に到着していた。

 

 

 

 

 

 

 

この日もいつものように、IS学園から西の番犬所へ向かおうとしていた時だった。

IS学園の校門の前に近づいた時、一夏の前に一人の魔戒騎士が待っていた。

「元気そうだな、一夏」

「零さん」

一夏の前に現れたのは、東 所属の 涼邑 零であった。黒いコートを靡かせて、脇には刀と思われる包みを携えていた

「どうして、此処に?」

「お前が”試練”に苦戦しているって事と久々に顔を見たくなってな」

笑みを浮かべて、零は一夏に近くのベンチに誘うのだった……

「そうよ。アナタが変なのに絡まれてないか、私も心配なのよ、一夏」

零の手の甲にある狼の被り物を被った女性の顔をした魔導具 シルヴァが話しかける。

「シルヴァも……久しぶり」

「ええ、一夏もだけど、ヴリルも」

「ああ、久しぶりだな。シルヴァ」

魔導具同士の挨拶も無事に済まされた………

 

 

 

 

 

二人は近況の事といった他愛のない話をした。久々の気心が知れた知り合いと話せて一夏の表情にも笑みがこぼれていた。

そして話題は、一夏が受ける試練になる。待っていたと言わんばかりに零は持ってきた包みにある一振りの剣を取り出した。

促されるままに剣を受け取り、一夏は……

「これは…ただの鉄の剣?」

「ああ、そいつはソウルメタルじゃない。俺が”試練”を受けた時に使った奴だ」

「態々、実家に戻って探してきたのよ」

一夏は困惑したように鉄の剣を手に取り、眺めた。

「これで、零さんは”試練”を……」

「ああ、俺の父さんもな」

零の言葉に一夏は、あの内なる騎士をこの剣で乗り越えることができるのかを考えてしまう。

「あの試練は一言で言うなら理屈じゃないな。だいたい、理屈で片付くことじゃないだろ、俺達の仕事は……」

笑みを浮かべて一夏に言葉を掛ける。

「東の番犬所もお前には注目している。こんなにも早く”試練”を受けることにな…それに……」

「お前は”強い騎士だ”。俺や鋼牙よりもずっと出来が良い。だから絶対に乗り越えられる」

「そうよ、きっちりホラーも倒したしね」

零とシルヴァの言葉に

「アレはあまり褒められる戦い方ではないです。内なる騎士の言葉に苛立って八つ当たりをしたようなものだから……」

「でもそれをちゃんと反省しているから、大丈夫よ。アナタは」

シルヴァが一夏にフォローを入れる。

「はい。それでは、行ってきます」

席を立ち、一夏は零に一礼をして”鉄の剣”を携えてこの場を後にするのだった……

「……ありがとうございます。”銀牙兄さん”」

「今度は、面と向かって言ってやれ」

振り返らずに一夏は零の本名である”銀牙”と言った。

”もしよかったら、ゼロの本当の名前をいつか、言ってあげて。ゼロは、天邪鬼だから素直に喜ばないけど……”

以前に面と向かって名前を呼んだ時、

”何を言っているんだ。そう呼ばれると身体が痒くなる”

ソッポを向いた零は何処と無く照れていた………

 

 

 

一夏を見送った後の零に近づく人影が一つ。

「貴様…どうして此処にいる?不審者として突き出してやるぞ」

零に声を掛けたのは、一夏の姉である”千冬”だった………

その目は、友好的なものとは程遠いものであった……………

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