千冬
束の父より剣を学んでおり、私は他の誰よりも強かった。
大人の男にだって試合では負けたことが無かった………
この剣の才さえあれば、どんなことだってできると思っていた。
両親が私たちを捨てるまでは・・・・・・
だけど、世の中は”剣”を必要としなかった。如何に”剣”の才能を持とうとも、必要とされなければ何にもならなかった……
あの両親が私と一夏を捨てた後、私たちに対し社会は厳しかった……剣で腕が立っても、それで生活の糧を得られるわけなど無かった……
厳しい世の中の仕打ちに私は何度も涙を濡らした。何故、私がこんなにも辛い目に合わなければならないのかと……
一人ならば、私の心はとっくの昔に崩壊していただろう。私の心を繋ぎとめていてくれたのは、
涙していた私を一夏はギュッと抱きしめてくれた。ただ何も言わずに……
この子の為なら、どんなに辛くても私は耐えられると思っていた……
だが、世の中は私だけに飽き足らず一夏まで傷つけようとしてきた……
”この前、女の子に気持ち悪いって言われちゃった”
”どうしてだろう、好きってのがよくわからない”
”ねえさん、ワタシって気持ち悪いかな?女の子と男の子の好きがよく分からない”
男女どちらでもない一夏は、酷く取り乱していた。一夏は男女どちらからも傷つけられるのではと私は思った……
だからこそ、”最強の力”が欲しいと…
”最強の力”を得られれば、一夏をあらゆる物から護れると思っていた。
この世の中の不条理、理不尽な男女どちらからからも……
現行のあらゆる兵器を凌駕するIS”インフィニット・ストラトス”。私はこれを駆ることで必要とされなかった”剣”を再び必要とさせた。
世界は”IS”を受け入れ、私は”最強の力”を得た。これからは、私にとっても一夏にとっても暮らしやすい世の中になったのだと……確信したはずだった。
第一回のモンド・グロッソでは、国家代表としてISを駆り、私は自他共に”最強”となった……
それは、私の”無知”から来る”慢心”だった……
私は自由に空を飛べることに慢心し気がつかなかった。私の影から巨大な”闇”があふれ出したことに……
その闇が私の大切な”一夏”に手を伸ばしたことにすらも……
毎晩、寮を抜け出し早朝に戻っている一夏の姿は、私など必要としていないように感じる……
”試練”は、一夏にとってこれからの人生において重要なモノになるらしいが、私は今の力でも大丈夫なのではと思っている。
私自身、IS学園の教師としてこの学園の生徒達を一人前にするために指導をしている。
一夏は既に独り立ちをしている魔戒騎士であるが、まだ二十歳にもなっていない。だからこそ、今のままでも十分にやっていけるのではと言っているが私との話を煩わしそうにしている。
”力”になってやりたいと思う。だが、私では一夏と同じ”戦いの場”には立てない。言うまでなく、ホラーと戦う術を持っていないからだ。
ちょうど校門の近くを歩いていた時、私は楽しそうに談笑する一夏の姿を見た……
一夏が笑みを向けているのは、銀牙騎士 絶狼こと 涼邑 零。
私でも中々見ることができない”親愛の笑み”を浮かべている。
………何故だ?一夏……お前の”家族”は私だろう?
どうして、その男にそんな風に笑うのだ?私には、あまり話さないのにどうして……
その男が私と違って”力”を持つからなのか?私は、お前にとって必要が無いのか?
「貴様…どうして此処にいる?不審者として突き出してやるぞ」
私は自分でも分かるくらいに暗い嫉妬という感情に支配されていた………
「あっ、これはこれは、一夏のお姉さん。ご無沙汰です」
わざとらしく頭を垂れて挨拶をする零に僅かながら千冬は青筋を浮かべた。零のエキセントリックな性格は妙に好きになれない千冬であった。
故に一夏が零から悪い影響を受けていないか心配してしまう。
「来たのは後輩の一夏が悩んでいるって聞いたから顔を見に来た」
「そうよ、一夏はこの試練を乗り越えなくちゃこの先にあるヤヴァイ困難も乗り越えられないわ」
シルヴァの言葉に千冬は、
「ならば、その時は私が護れば良いだけのことだ」
零を睨み、自身の決意を語る。だが、その決意は決してかなえられるものではない………
「………まだそんな事を言っているのか?ホラーを倒す力がないのに…鋼牙の奴も一言、言ってくれたらよかったのにな」
呆れたように零は頭を掻く。
「なんだと?私は今まで一夏を護ってきたのだぞ、一夏に降りかかる困難は……」
「一夏に困難を……”陰我”を呼び寄せる原因の一つにあなたも含まれているのを分かっているの?織斑千冬、いえ、”ブリュンヒルデ”」
シルヴァが妙に毒のある言葉を千冬に対して吐く。
「っ!?!なに、私が一夏に陰我をだと…………」
思わぬ言葉、いや、千冬が最も聞きたくなかった言葉である。
「自覚が無いの?あなたと今は此処にはいない篠乃之博士と一緒になって起こした”白騎士事件”があの子の、一夏の運命を捻じ曲げてしまったのよ。あの子は、本来なら戦う事には無縁だったわ」
シルヴァが千冬に対してキツク言う。
「ヴリルは、あなたに対して甘いようだけど。私はあいつほど甘くはないわよ」
「おいおい、シルヴァ。お前もヴリルも”父さん”が作ったのに、どうしてこうも性格が違うんだ?」
シルヴァに対して苦笑を浮かべる零ではあるが、その目は笑っていない。
「それはあの不埒モノが一夏を唆したからだろっ!!!!」
「不埒モノ?もしかして”ヴリル”のこと?確かに切欠はあいつだけど、選んだのは他の誰でもない……一夏本人よ」
シルヴァに続くように零は
「これから一夏に関わるのはホラーだけじゃない。あんたが一夏に見せたくなかったISの闇の部分も関わってくるだろうさ。一度、一夏を危険な目に遭わせたことだってあるだろ」
「確か”第二回モンド・グロッソ”で、あなたは……一夏を危険な目に遭わせたでしょう」
千冬にとって最も思い出したくない記憶の一つである。第一回モンド・グロッソで優勝したことに慢心し、一夏を招待したのは良かったが”謎の組織”に誘拐され危険な目に遭わせてしまった。
無事でよかったが、もし万が一のことがあったらと思うと今でも寒気がする。
「あの後、自分を鍛えなおすとか言って一夏と距離を取ったよな。どうして、修行なり、”戦い”を一夏に教えようとはしなかった?」
「…………それは、私が傍にいるとまた…だから、護れるように強くなりたかったんだ」
妙に歯切れの悪い千冬であった。他にも何か理由があるように思えたが、それが何なのかまでは零も察することは出来なかった。
千冬が一夏に対して隠していることは多く存在している。これは零も知っている。一夏は、いつか話してくれると待っているが………
「そういうことなの……あなたは、一夏が”力”を得ることが危険な目に合うと考えて遠ざけようとしたのね。でも、あんな目に合った時点でそんな甘い考えが通用するのは大きな間違いよ」
間を置きシルヴァは
「あなた、織斑千冬の”家族”である限りは……この世界であの子に平穏が訪れる事はないわ」
シルヴァの言葉に千冬は頭に血が上るのを感じた。怒りすら覚えていたのだ
「だからこそ、だからこそっ!!!”力”を得て、一夏を護ると決めたのだ!!!!」
シルヴァの言葉に対して、まるで聞く耳を持ちたくないようだ。零もシルヴァ同様に呆れていた。
一年前に一夏と出会った時に、篠乃之束とも出会った。彼女はある”騎士”により諭されて、自らの過ちを悔いている。
千冬はホラーとの戦力差は分かっているが、心情は未だに一夏を護れると思っているのだ。
いや、認めたくないのだろう。護るべき家族を護るには自分が力不足である事を………それは、ずっと前に分かりきっていたことであるが………
今は自分以外に”親愛の情”を向けられる”涼邑 零”に対して嫉妬をしていた。自分には無い”力”を”強さ”を持つ者たちに対して………
「………だったら、できるって証拠を見せてみろよ。アンタが一夏を護れるってな」
「ああ、お前を……”魔戒騎士”を倒す事ができれば……」
千冬は自身のISの近接戦闘用のブレードを呼び出し、構えた。本来なら、ISの無許可の展開はご法度であるのだが、彼女なりに相手が相手なので自身が誇る武器を持ち出したのだ。
これに対して零は二振りの剣を千冬に向ける。本来ならば刃を向ける気は無かったのだが、あまりの態度に少し、頭を冷やさせねばと思ったのだった。最も一般人に魔戒騎士が刃を向けるのも掟に背く。
が、過去に礼が数々の掟を破ってきたことは誰もが知ることである。
「でもあなたがソウルメタルを扱えない限りは”ホラー”を”魔戒騎士”を倒すことはできないわ。だって…ソウルメタルは”女”である”ブリュン・ヒルデ”には絶対に扱えないもの」
「黙れっ!!!」
シルヴァに切りかかろうとブレードを振りかぶる。零はシルヴァを護るように剣で防御するが、
「っ!!ほんとに女の力かっ!?!」
女性にしては、遥かに強い”力”に零は驚きの声を上げる。
火花を散らす刃達。千冬は足を更に一歩踏み込んで、強力な横一閃を振るう。
その一閃で零は、剣を一振り落としてしまった。
「フンッ、これが”銀牙騎士”の実力か?」
千冬は足元にある”剣”を手に取ったが、そこから動くことは無かった……
「っ!?!何故だっ?どうして、”ソウルメタル”は、私に応えてくれないっ!!!」
魔戒剣が扱えないことは彼女にもよく分かっていた。”ソウルメタル製の剣”を使うことも出来ないことが………
かつて一夏がホラーと戦っていることを知り、一夏に変わり戦おうともしたが、”魔戒弓”を持つことができなかった。
自身の不始末は自分自身でつけようと考えたが、結局は叶わなかった。
「そいつを扱うことができるのは、俺達”魔戒騎士”だけだ」
零は態勢を立て直し、剣を構えて千冬に向かう。
「っ!?!!」
剣による攻撃ではなく零は蹴りを千冬の持つブレードに浴びせる。
衝撃により千冬は後退してしまう。その間に零は剣を回収し、再び構える。
「やああああああああっ!!!!」
「はああああああああっ!!!!」
千冬は剣を正面に構え、零は魔戒騎士独特の二刀流の構えで互いに駆け、ぶつかり合う。
「あんたの技量は凄いよ。俺や鋼牙よりも……それに一夏よりもずっと”才能”がある。だけど、アンタの”剣”はただの”力任せ”だっ!!!」
二振りの剣で防御を取っていた零であったが、地を蹴り跳躍しすぐに千冬の背後に回ったのだ。
「っ!?!!」
背後に回った零を迎撃すべく刀を横一線に振るうが、片方で受け止められもう片方で弾かれてしまった。
その隙を見逃さずに零は千冬の喉元に刃の切っ先を立てる。
「勝負ありね」
シルヴァの言うように、この勝負 涼邑 零の勝利だった。
”世界最強”の自分が負けた。”家族”を護るために得た”力”が負けた……
男性のみが操ることの出来る”ソウルメタル”に対し、千冬は理不尽を感じた。
何故、男だけが”魔戒騎士”になることが出来るのだと……
どうして、自分は女で”魔戒騎士”の力を得ることができないのかを……
「まぁ、俺達がここで争っても何にもないな」
「……自分から喧嘩を売っておいて、その言い草は無いと思うわよ、ゼロ」
零は剣の切っ先を納める。対する千冬は未だにブレードを握ったままだ。
諦めの悪いものならここで反撃をするのだが、勝敗が決した今、反撃をしても無意味なのを千冬も理解している。
何より彼女の誇りがそれを許さない。
「………お前に……お前に……」
だが、胸に湧き上がる感情が押さえつけられない。自分が護らなければならない”家族”の不憫さを分かっているのか?
「お前に一夏の何が分かるというのだっ!!?!あの子は、あの子はっ!!!!」
「一夏が男女どちらの立場でも子供を作ることができないことだろ?」
自分以外に知ることの無い一夏の秘密を零が知っていることに千冬は驚愕する。
「何故、それを知っている?」
「以前俺に話してくれた」
出会ってから暫くして身の内の話をした。一夏より零に自身の身体について告白したのだ。
姉が自分を護ろうとしてくれる理由は、自分自身の生まれにあることを……
千冬
一夏の身体が男女の両方の機能を始めた時に、私は一夏がどちらに成長するのかを調べるために病院で検査を受けさせた。
中性は、時期によって男性の身体になったり、女性の身体に変化する事もある。故に一夏も男性の身体に変化する可能性があると思ったからだ。
だが、一夏はどちらにも変化することはないと分かった。
結果、あの子は男女どちらの立場でも子供を作ることが出来ない事も……
その時の一夏は、かなり気落ちをしていた。完全な男にも女にもなることができないのだ。
”そうか……私は、”どちら”でもないんだ”
自分の血を分けた”子”を抱くことが出来ない一代で終わってしまうあの子の不憫さを思ってか、私は誰かと付き合うという事を考えなくなってしまった。
そうだ、一夏には私が必要なのだと、だからこそ護らなければならないと……あの子が誰にも傷つけられないために………
ISを動かした時も検査をした時も”結果”は同じで一夏は、”男女”どちらの立場でも”子”を作ることが出来ない……
何より”家族”というものに憧れているあの子はそれをかなえることが出来ないのだ……
過去に一夏が描いた”家族”の肖像は……決してかなえることが出来ない夢………
「……アンタと一夏はたった二人だけの姉弟だもんな。姉が弟を護りたいっていうのは、分からないでもない。だけど、いつまでも”子供”じゃいられない」
零はさらに言葉を続ける。
「俺も妹のように見ていた”女”が居た。いつの間にか、俺は一人の”女”として愛した。子供の頃から一緒だったけど、ずっと”子供”じゃいられなかった」
かつて零が愛した最愛の女性 ”静香”とは、子供の頃からの知り合いであり、兄妹のような関係だった。
「一夏もいつまでも、今のままじゃいられない。だからこそ、あいつは、”試練”を受けなければならない」
「………まるで一夏の家族のように言うのだな」
千冬は俯きながら、零に問う。
「あぁ、一応、あいつの兄貴分だからな」
出会いは他の魔戒騎士に漏れず、衝突から始まった。あの頃の一夏は、過去の自分達と同じく”殺気だった冷酷な戦士”だった。
戦いを通じて共闘し、”仲間”になれた……
その間に、数日だけ零と一夏は同じ屋根の下で暮らした。
「………数日しか居なかったけど、一夏は俺達のシルヴァ”家族”だ」
そう言って零は、コートを翻し千冬に背を向けてその場を後にする…………
「俺は一夏をアンタから奪ってやりたかったよ。でも一夏は、アンタの事を本当に大切に思っている。だからアンタの元に帰ったんだ」
ホラーとの戦いの後、一夏は飛び出した家に戻った。それは、たった一人の姉を一人に出来なかったからだった……
「…………一夏の家族は、姉である私だけで十分だ。兄など……必要はない」
憎まれ口を叩きながら千冬は、既に姿が見えなくなった零を睨みつけていた。
モンド・グロッソでもあそこまで戦える相手は居なかった。黄金騎士と互角の技量を持つ銀牙騎士 絶狼。その実力は凄まじい。
「千冬さんっ!!!!だ、大丈夫ですか!!!!」
そこへ息を切らして箒が千冬に駆け寄ってきた。
「篠乃之か……どうやら無様な所を見せてしまったようだな」
自嘲気味に千冬は、箒に視線を向ける。剣で負けたこと等、片手で数えるまでもなかったのに……
「あの男は、一体何者ですかっ!!?!あなたを倒すなんて普通じゃないっ!!!」
「前にも言っただろう……私を上回る”力”などその辺に五万と転がっているのだ。忌々しいがあの男もその一つだ」
千冬の言葉に箒は信じられないと言わんばかりに零が去った方角に視線を向けるのだが、その姿は夕闇に紛れ消えていた…………
「ゼロ。あの織斑千冬だけど、一夏は苦労しているのね」
「そうだろうな。あんなに手の掛かる姉がいたら、苦労は絶えないだろうな」
手が掛かるといいながら世話を焼く一夏の姿を思うと苦笑せずには居られなかった。
自分が身内なら、かなりの頻度で喧嘩をしているかもしれない……
「そういうゼロも似たようなものかもね」
「そいつは酷いな、シルヴァ」
「だって、ゼロ、あなた一夏に栄養のこと心配されてるじゃない。偏っているんじゃないかって?」
出会ってから一年、零は一夏からよく弁当を貰うのだが、その内容は偏った食生活をしている零を心配してのモノばかりだった……
「あぁ……それは言い返せないな。そういわれると久々に食べたくなったな」
「そうね、今度会う時にお願いしてみましょう」
一年前からの密かな楽しみ。鋼牙もゴンザの手料理を楽しみにしていると言っている。
鋼牙もこういう気持ちだったのではと思い零は、都市の雑踏の中へと歩みを進めていった………
IS学園を遠くから見つめている一人の少女が居た。
「………あそこが私たちの憧れの場所」
彼女は近くの高校の生徒であるが、元々はIS学園を志望していた。だが、彼女はIS学園に入学することは無かった。
理由はISへの適正が無かったからだ。ISは女のみが使えるが、実際のところ女性でも使えるものと使えないものに別れるのだ。
彼女は後者である。
「何でよ……何でっ!?!!私には、ISが動かせないのよっ!!!!!」
苛立ったように近くのものに彼女は八つ当たりをする。物心付いた時から女が中心で回る世界に彼女は居た。
ISが使えないと分かった時、彼女は自身が見下していた”男”と同じ立場にある事を知り、絶望した。
同じ女でもISを動かせないのは、彼女達よりも立場が低いのだから、
嘆いても変わらない。世界の中心に自分が居ないことに彼女は、ただ癇癪を起すしかなかった………
夜の闇が近づこうとする頃……彼女の影に隠れていた”古い人形の頭部”に変化が起こる。汚れてしまった貌より黒い霧が噴出し、影から飛び出したのだ。
「っ!!?!!」
黒い霧は少女に覆いかぶさるように、その身体へと入り込んだ。
IS学園
シャルルと鈴は、絵本”黒い炎と黄金の風”を通じて互いに仲良くなっていた。
今二人は談話室で互いに談笑をしている。
「ふーん、あんたも大変なのね。絵が好きなのに、こっちでISを動かす羽目になるなんて」
「そうなんだよ、あの人は勝手だよ。僕の大好きな絵をくだらない趣味だなんていうんだよ。あの人こそ、くだらないよ」
「あの人って、もしかして政府関係の人?」
「ううん、僕の父さん。いや、ただの遺伝子提供者かな……」
フンと鼻を鳴らして、父とも思えない男について批難するシャルルであったが、鈴が目を細める。
「シャル。アンタからしたら凄く嫌な奴かもしれないけど仮にも”父親”にそんな事を言うのは、良くないわ」
「違うよっ!!!あんな奴の何処がっ!!!!」
声を荒げてシャルルは立ち上がる。それに対して鈴は
「………シャルル、”父親”っていうのは、必ずしも優しくしてくれる=父親って訳じゃないのよ」
「何だよっ!!鈴、僕の事を知らないで説教くさいこと言わないでよっ!!!」
顔を真っ赤にさせて怒るシャルルに対して鈴は、何といったら良いかわからなく……いや、呆れてしまった。
「ったく、言われるまでも無く事情なんて知らないわよ。それは、シャルルも同じじゃないの?」
「もういいっ!!!部屋に戻るっ!!!!」
乱暴に席を離れ、シャルルは談話室から駆け出して行った。その途中ですれ違う生徒にぶつかるものの謝ることなく出て行ってしまった。
鈴
本当に父親が嫌で嫌で仕方が無いのね、シャルル。確かに今の年頃だと娘に嫌われるのよね”父親”って……
世界で二番目の男性の”IS適正者”だけど、本当のところは一夏に近づくためのアレよね……
華奢な男の子は確かに居るけど、アンタはそういう感じじゃない。女でしょ……シャルル……
どうしてアンタが”父親”を毛嫌いするかは分からない。確かに子を子とも思わない親は確かに存在するわ。
でも、アタシはそれは例外だと思いたい。だって、父親はどんな形であれ根本は”子を想っている”と………
鈴は手元にあったペットボトルのお茶を飲み干し、談話室を後にするのだった。
「今晩も一夏は”試練”か。アタシはアタシでやれることをやっておくわ。いつかは、一人前になるからね」
彼女に応えるように制服の裏側で魔界魚がその身を震わせた。まるで”頑張れ、鈴”と言わんばかりに、
心魔界
「ほう、剣を変えたか?」
内なる蒼天騎士は、一夏が手に持っている剣を見てなにやら含むように言う。
一夏は零から渡された”ソウルメタル製ではない剣”を構え、蒼天騎士へと向かっていく。
蒼天騎士は魔戒弓を構えて、飛び掛ってくる一夏の剣を防ぐ。
ここで騎士による拳の攻撃が襲ってくるのだが一夏は体をよじり、左側へと回避する。
一夏
やっぱりこれは、ただの鉄の剣。こんなモノで何故、皆は試練に臨んだのだろうか?
魔戒弓と違うため、扱いに僅かながら違和感を感じる。
「どうした?それでは、今までと何も変わらんぞ」
挑発的な言葉をいつものように言ってくる。
私達、魔戒騎士の証でもあり誇りでもある”ソウルメタル”を使わず、この鉄の剣を用いる意味を考えなくてはならない。
いや、戦闘中に考える暇は無い。現に蒼天騎士は矢を放ってくる。正確無比な矢に対して考え事は出来ない。
部屋に戻ろうと走るシャルルは曲がり角の所である人物とぶつかってしまった。
「うわっ!?!」
「きゃっ!?!」
尻餅を付き、シャルルはぶつかった相手に視線を向ける。
「廊下を走ってはいけませんわって、デュノアさん」
「あっ、ごめん。オルコットさん」
ぶつかった相手はセシリアだった。セシリアは、スカートを払いながら立ち上がる。
「デュノアさん。もう少し、落ち着いてください。殿方はズッシリと構えていただかないと」
ぶつかってきたことに対して特に怒っていないのかセシリアは、未だに尻餅を付くシャルルが起き上がれるように手を差し伸べる。
「……うん。でも、大丈夫だよ。一人で立てるから」
シャルルはセシリアの手を借りずに立ち上がる。恥ずかしいのか顔を少し赤くしソッポを向くシャルルに対しセシリアは少しだけ笑った。
「そうですの。何だか、一夏さんと違ってデュノアさんは何だか微笑ましいですわね」
「何だよっ?僕が一夏よりも子供っぽいっていいたいの?」
唇を尖らせてシャルルはセシリアをジト目で見る。
「いいえ、そういうわけではありませんわ。一夏さんも微笑ましいですわ。あの方は、殿方なのにお花が好きなんです」
「僕も知ってる。更衣室にもプランターを持ち込んで栽培してたよ」
「ワタクシも知っていますわ。この間も”彗星蘭”についてお話も聞きましたわ」
「そうだよね、一夏って、どちらかというと女っぽいよね、見かけもそうだけど…」
カラカラと笑いながらシャルルは言葉を返す。
「そうですわね。ですが、あの方はあの方らしく振舞っているところはとても殿方らしいですわ」
「……自分らしくって、一夏自身も言ってたよ」
”自分らしく”と言う言葉にシャルルの表情が曇る。理由は言うまでもなく今の自分の状態は、”本当の自分”ではないのだ。
それを察したのかセシリアは
「あのデュノアさん。お悩みがありますの?」
「ううん、別にそんなことはないよ。ただ……」
「ただ?」
「ううん……なんでもない。もう用はないでしょ。だったら、僕はもう行くね」
関わられたくないのかシャルルはセシリアから離れようとするが、その手を彼女に取られてしまった。
「デュノアさん。ワタクシと少しだけお話をしませんか?」
IS学園に一つの影が近づく。それは、十代後半の少女であり彼女は人間では考えられない跳躍で学園に侵入しようと壁を乗り越えようとした。
途端に何かに弾かれてしまい地面に伏せてしまった。地面に叩きつけられた少女に小柄な影が近づく。
「なんで、堂々と入ってこようとするのかしら?アンタは……」
影の主は鈴である。学園の制服ではなく法衣を着ていて、大筆を構えていた。
「ちっ……魔戒法師か?お前は……」
少女、いや、ホラーは目に魔戒文字を浮かべたと同時に腰を低くして、いつでも飛びかかれる体勢に入る。
「そうよ、アンタの天敵よ、アタシはっ!!!」
先に鈴が動く、拳に気を送り込みホラーに向かって放つ。
「KIッSYAAAAAAっ!!!!!」
ホラーは舌を長く伸ばし、それをまるで鞭のようにして操り鈴を攻撃する。
先端はまるで矢のように鋭く、返しまで付いている。それを往なし、
「やあああああっ!!!!」
顔面に拳を当てるがホラーは瞬時に体勢を下げて、回避する。回避されたと同時に背後からユーターンしてきた舌が鈴の肩に刺さってしまった。
「っ!?!」
痛みに顔を歪ませるが、これを堪え追い討ちをかけるべく飛び掛ってくるホラーの攻撃を防ぐために魔導筆を構えて防御する。
弾かれたホラーはまるでボールが跳ねるかのように地面を跳ねる。攻撃による熱量のためかホラーが来ていた制服は破け、肌は所々が火傷していた。
「……やるな。ああああああああああっ!!!」
叫びと共にホラーの姿が変化する。巨大な突起物が両肩から突き出し、顔は鰐を思わせるモノへと変化し大きさも大型のトラックとほぼ同等のモノへと変わっていく。
ホラーの名は、ヴァリアル。
「えっ!?!こいつ、大型のホラーだったの」
鈴は号竜”ヴォルト”を展開し、これを迎撃するために魔導筆を取った。
鰐の顔の額に浮かび上がる人面が不気味に笑う。鈴を踏み潰さんとすべく地響きを立てて、突進を開始した。
足場が揺らぐのを感じながらも鈴はヴォルトに跨りこれを回避するのだが、ヴァリアルの突進力は凄まじく結界毎壁を突き破り、学園の中へと進入を果たしてしまった。
「しまったっ!!!」
学園の壁を破壊したと同時に緊急事態を知らせる警報が学園全体に鳴り響く。この様子に鈴は、
「ったく、何でこんな状況に……早く一夏が戻ってこないとアタシだと、荷が重いわ」
連絡手段として鈴は、生徒会長に連絡をするために鳴札を鳴らし、魔導火を飛ばす。
この状況に魔戒法師や魔戒騎士以外が出てくることは、自殺行為に等しいのだから………
一夏は放たれる矢を剣で防ぎながら、内なる蒼天騎士を打倒するために一歩踏み込む。
(まさか……こいつの正体、そしてこの”鉄の剣”を使うことの意味……)
脳裏に先ほどの零の言葉が過ぎる。
”理屈じゃないだろ。俺達の仕事は……”
(こいつの正体が、もしそうだとすると考えるだけ無駄……)
矢を防ぎ、再び蒼天騎士に切りかかるが刃で受け止められ強烈な蹴りが一夏の腹部を襲う。
衝撃を感じながら、後方の見えない壁に叩きつけられ地に伏せる。顔を上げた瞬間、首を切り落とさんとする蒼天騎士の剣が振るわれが、これを身体を反転させ回避する。
「銀牙兄さんの言った意味が分かった。つまり、そういう事か……」
一夏は突きの構えを取り、蒼天騎士に向かって剣を付きたて向かっていく。
「私は、私の直感を信じる!!!!!」
踏み込んだ一夏は蒼天騎士が放つ矢を受けながらも怯むことなく進み、その胸を突き刺した。
セシリアとシャルルは学園の門の前まで来ていた。時間は夜になっており空には大きく反り返った三日月が存在している。
「凰さんと喧嘩をされたのですか?貴方のお父様のことで……」
「うん、僕、頭にきちゃって……そもそもアイツが何で僕を必要としたのかだって……」
話を聞くとシャルルは、父親に対して嫌悪を抱いている。セシリアも情けない男の父親を一時期、軽蔑していた。
だが、それは自身が忘れていたことであり本当の父親は気こそは弱かったが、優しく厳しい母に変わって自分を慰め、励ましてくれていた。
世の中には酷い親は居る。一回、二回程しか会うことができなかったのは、大企業のデュノア社の社長の立場なら忙しさは想像を絶するかも知れない。
「そうですの。デュノアさん、ならば一方的に嫌うのではなく、嫌うだけの理由をもう一度確認してみれば良いのではありませんの?」
「嫌うだけの理由?」
「ええ、何故、貴方に対して厳しく当たるのかをはっきりさせてみれば、違った何かが見られるかも知れませんわ」
シャルルは、あの父親に傲慢で嫌な面以外に何があるのかと思うのだが、一番の理由は大好きなことを”くだらない”と言われたことである。
何故、あの父親が絵は”才能”のある奴だけが描く物というのだろうかと……
「オルコットさん。何だか、僕よりもしっかりしているね」
「いえ、ワタクシもついこの間までは視野が狭くて優しいお父様は勝手に貶めていましたわ。気づかさせてくれた方には、感謝しております」
「気づかさせてくれた人って……」
「はい、一夏さんですわ。あの人はまるで騎士のような方ですわ」
一夏について笑みを浮かべるセシリアにシャルルは、
「オルコットさんって、一夏の事が好き?なの…」
「えぇ、そうですわね。ですが、一夏さんはワタクシ達とは違う場所に居るような感じがしますの」
セシリアが一夏に感じている距離は、近くに居るが、実際は手の届かない遠い場所に居る感覚なのだ。
「そうなんだ…」
何を言って良いのか、シャルルに分からなかった。そこへ、学園全体に警報が鳴り響く。緊急事態が発生したのだ。
「な、なにっ!?!」
「何ですのっ!?!」
二人は動揺するものの直ぐに冷静さになり、急いでこの場から離れようとするのだが……
突如、地響きが前方から響いてくる。それは、二人の前に突如として現れた。
「GUWAAAAAAAAAッ!!!!!!」
現れたのは大型トラックほどの大きさの”怪物”であった。
「なっ!?!なにっ!?!これっ!!!」
異常事態に対して真っ先に動いたのはセシリアだった、直ぐにISを展開させようとするのだが……
「やめなさいっ!!!!そいつを悪戯に傷つけたらだめっ!!!!!」
二人の前に踊りだすようにダチョウ程の大きさの物体に乗った鈴が現れた。
「鈴っ!!?!」
「凰さんっ!!!それは…この状況はどういうことですのっ!!?!」
セシリアの疑問に鈴は
「言っている暇はないわ。こいつの血を浴びたら死ぬってことだけ言っておくわ」
説明しながらも鈴は号竜ヴォルトに魔導火を吐かせ、攻撃する。表面で噴煙をあげるがダメージを全く受けていない。
「GAAAAAAAAAAAッ!!!!!!」
ヴォルトをまるでボールを弾くように吹き飛ばし、その衝撃で鈴はヴォルトから落ち、ヴォルトは数メートル先の壁に叩きつけられてしまった。
「鈴っ!!!」
「凰さんっ!!!!」
鈴の安否を気遣い、駆け寄るが、
「馬鹿っ!!!逃げなさいっ!!!うっ!?!」
落ちてしまったときに足を挫いてしまったために咄嗟に動くことが出来ない。
その様子にホラーは鈴を倒すこともそうだが、二人を見てにやりと笑う。そう、二人はIS学園の生徒。取り付いた陰我が求めていたモノであったからだ……
セシリアはホラーの直ぐ近くに居る鈴を救うべくISを展開させて両者の間に滑り込む。
鈴を抱えて飛び上がろうとしたとき、ホラーが持つ巨大な尾が変化しそこから大量の剣を思わせる槍が放たれた。
「なんですのっ!!?この生物は……そんなっ!?!」
放たれた槍はISに信じられないダメージを与える。一瞬にして防御フィールドを削り、エネルギー残量が後わずかになってしまった。
さらに追い討ちを掛けるかのように尾は、セシリアをISごと巻きつけてしまった。
「きゃあああっ!!!!」
「お、オルコットっ!!!!!このっ!!!!」
鈴は筆に気を込めて尾に対して攻撃を行う。衝撃により、尾からセシリアは開放された。
セシリアを受け止め、鈴は
「急いで逃げるわよっ!!!」
シャルルとセシリアは鈴の肩を取って、背後に存在する”恐るべき存在”からの逃亡を図る。
「会得したな。織斑一夏」
「この剣でなければ、この試練を乗り越えることはできなかった」
「そうだ、お前たち魔戒騎士は”ソウルメタル”を扱う為に相応の修行を積まなければならない。だが、騎士になったとしても学ばなければならないことは多い」
「私達は、知らずに”ソウルメタル”に甘えを持っていたのかもしれない」
一夏は、試練に”ソウルメタル製の武器”を使わないことの意味を理解した。
「お前たち騎士の甘えを、弱さを改めて自覚しなければならない。それを怠れば”力”を得てもさらに強い”力”に叩き飲まされるだけだ」
内なる蒼天騎士の言葉に一夏は頷く。
「お前は自身の弱さに踏み込んできた、内なる影へと。まだまだ荒削りな所はあるが、これは大きな一歩だ、必ずやお前は、この先の試練を乗り越えられるだろう」
「この試練、銀牙兄さんの言葉とこの剣が無ければ……」
「涼邑零、いや、お前の”兄”の助言もあるが、彼との繋がりもまた”力”なのだ。それもまたお前の”強さ”だ」
”一夏。とうとう学園にホラーが現れました。今、凰鈴音が迎撃をしています”
突如、神官の声が心魔界に響く。
「行けっ!!お前の”力”を”助け”を必要としている者の元へ!!!!」
逃げる三人の背後から迫るホラーは、尾から槍を放ち前方を塞ぐ。
「くっ!?!」
「そ、そんなっ!?!」
「なんてこと……」
三人を喰らおうとホラーは、その巨大な口を開け一気に飲み込まんとした時だった。
額の顔の目に矢が突き刺さる。その痛みに頭を大きく仰け反らしてしまう。
血走ったホラーの目が頭上より弓を携えた魔戒騎士の姿を捉えていた。
三人の前に立ったのは、織斑一夏であった。
「「「一夏 (さん)!!!!」」」
振り向かずに一夏は、
「行けっ!!直ぐにこの場から離れて!!!!」
その言葉に頷き三人は一斉に駆け出し、物陰に隠れる。
「GYAAAAAAAAAAAAっ!!!!!!!!!!!!!」
獲物を前にして邪魔されたことに対して、ホラーは怒りの咆哮を上げる。
ホラー前にし一夏は鋭い視線を向け、鎧を召還し、蒼く煌めく鎧を纏う。
鎧を纏った一夏は、ホラーに向かって真正面から突っ込む。
それを体当たりで吹き飛ばしたいのか、ホラーは真っ直ぐに突っ込んでくる。それを一夏は顎の右側から強力な蹴りをあびて、怯ませた。
怯ませた瞬間、一夏は飛翔すると同時に強烈な一閃を振り上げる。振り上げられたホラーは反転しながら地面に叩きつけられる。
飛翔した一夏は学園の屋上に立ち、”扉”を描くように魔戒弓を振るう。光の”扉”が現れたと同時に光が弾け、眩い光と共に”魔導馬 蒼天”がその姿を現した。
薄い三日月をバックに蒼い身体を持ち、鷹を思わせる頭部と鋭い目を持ち、三叉に別れた蹄を持った魔戒獣が此処に立つ。
「あぁっ!!?!」
シャルルは、その姿にカオルの個展にあった”絵”、そして鈴に見せて貰った”絵本”に描かれていたものを重ねた。
「一夏……あんたも……とうとう」
鈴は魔導馬 蒼天に跨る一夏に対して賛辞の言葉を送る。事態についていけないセシリアは、呆然とするしかなかった。
(こ、これは一体…一夏さん、貴方は……)
屋上から飛翔し、蒼天はまるで風のように地を蹴り、そして跳ぶ。正面から強力な体当たりを当て、反転し後ろ足による強力な蹴りがホラーを襲う。
魔導馬の力による蹴りは、騎士の蹴りとは比べ物にならないほどの”力”である。
蹴飛ばされ、仰向けになったホラーの尾を蒼天は加え、遥か上空に放り上げてしまった。
「フッ、こいつは中々凶暴な奴だ。一夏、手綱をしっかり持てよ」
「分かっている。蒼天」
「WOOOOOOOOOッ!!!!!」
主人に応えるように蒼天は雄雄しい咆哮を上げる。魔導馬の手綱を引いたと同時に蹄が力強く地を蹴り、轟音と共に衝撃波が放たれる。
魔戒弓をさらに強力なモノへと変化させる。”魔戒弓 斬馬ノ型 三日月”
二倍ほどの大きさとなった”魔戒弓”を大きく掲げたと同時に自由落下するホラー目掛けて跳び、一刀両断し消滅させた……
地に着地し、魔戒弓を振るったと同時に鎧が解除され、蒼天もその姿を消す。
鎧を解除した一夏に対して、鈴は笑みを浮かべ、シャルルとセシリアの二人は困惑した様子であった………
IS学園
「昨日、学園に何かが進入したんだって……」
「何が起こるかわからないからクラス代表戦は延期だって……」
学園の生徒達は、昨日の緊急事態に対して様々な憶測を立てていた。
生徒達の憶測を聞きながら箒は、
(何なのだ?昨日の騒ぎは……それにオルコットやデュノアがSRから居ない。何があったのだ?)
教卓では真耶が担任が遅れることを伝えている。何故、遅れるのかは理由が分からない。箒は昨日の事態に一夏が関わっているのではないかという突飛な発想に僅かながら苦笑した。
篠ノ之 箒が幼い頃の話になるが、彼女はかつて剣の師、父でもある彼が語っていた
”どうして、父さんは剣の修行をつづけられるのですか?”
”ああ、俺がお前と同じ年頃にある剣士を見た。その剣士は今までに見たこともない化け物を素晴らしい剣技で倒したのだ”
”俺は……アレ以来、あの剣士を越える剣技を見たことがない”
幼い頃ゆえに、箒はこの話を覚えていない……この話を箒と一緒に聞いた者がもう一人存在している。
その人物は今でも、この話を覚えている……
日本ではない遠い異国の地に彼女は居た。古い遺跡に立つ柱に刻まれた模様を眺めている。
質素なシスターの衣装に身を纏った女性の名は、篠ノ之 束。
彼女に一人の男が近づく。その男は、あの黄金騎士 冴島鋼牙のような白いコートを纏っている。
「今日も此処に居たのかい?」
「うん…私にとってこれはとても素晴らしいものだから」
束は男を振り返りながら微笑む。男も笑みを返し彼女の隣に並ぶ。
石柱に刻まれているのは、狼のような猛々しい顔立ち、颯爽と剣を構える黄金の騎士の姿……
「すごいよね。私が生まれるずっと昔から騎士は居て、私たちを護っていたんだね」
「そうだね、僕もこれを見ていると彼らの壮大な歴史が目に浮かぶ」
「あははは、貴方もその歴史の一部でしょ」
束は男に対して笑い掛ける。
「そういってもらえると嬉しいよ。さっき番犬所の方で織斑一夏が”試練”を超えたと」
「いっ君がっ!?!」
嬉しそうに我がことのように喜ぶ束だった。
「すごいよ、じゃあいっ君もこの歴史の一ページになったんだ!!!」
「ああ、彼、いや彼女だったかな」
中性”インターセックス”である一夏をどういう風に呼んでいいのか分からないのか、彼は酷く困惑していた。
「いっ君はいっ君だよっ!!」
そんなやり取りをしている二人を呼ぶ一人の少女が現れる。
「束様っ!!!こちらにって……バラゴ様もっ!?!!」
「あっ、くーちゃん。行こうか、バラゴ」
「ああ、行こうか、束」
足並みを揃えて二人は、遺跡を後にした…………
「ねえ、バラゴ。私ってこんな風に過ごしていてもいいのかな?私のやったことは、本当に取り返しの付かないなのに、こんな風に貴方と……」
「過ちを犯してしまうことは誰にだってある。僕も”今の僕”ではない時に、大変な過ちを犯してしまった。だけど、過ちを悔いて、嘆くだけでは前には進めない」
「かつて、師が言ってくれた、本当に護りたいと思う者の顔が見える者こそが”護りし者”と……今の僕が護りたいのは………」
バラゴは束に視線を向けた。その視線に束は気恥ずかしいのか頬を赤くして俯いてしまった。
その様子にバラゴは笑みを浮かべ、先へと歩みを進めた。
「あ、ちょっと待って!!そこ、束さんに何か言うところだよね!!!!ねえっ!!!!」